2016/07/23 のログ
ご案内:「浜辺」に伊都波 悠薇さんが現れました。
■伊都波 悠薇 > ――夜。
期末テストの返却が終わり、そろそろ歓喜して学生たちは遊びに出るころだろう。
補習がある人もいるだろうが、それでも、休みはうれしいものだ。
だが――ここにいる少女は。違った
無表情。目に光はなく、髪に隠れて、生気を感じない。
涙も、なく。笑みもなく、ただただ、波の音を聞きながら立ち尽くすだけ。
手には、プリントの束があった。
――今にも自殺しそうとも、見える
もっと。なにか、出るものだと思っていた。
だけど、何も出ない。何も。
ただ、家には帰りたくなかった。
ただ、会いたくなかった。
ただ――
もう、ずっと独りで痛かった。居たかった。
――人との縁は薄れ、今ではほとんど希薄。
本当に、連絡をとれているのは指で数える程度だけ。
だれかとは違い――
でもそれが――今の自分にとってはありがたくて――……
さぁっと、風が撫でる。
髪を抑える。前髪を。
スカートはバサバサと揺れるのもかまわず。
ただただ、静寂で。”いたかった”
ご案内:「浜辺」に伊都波 凛霞さんが現れました。
■伊都波 凛霞 > そんな浜辺で佇む少女を少し離れたところから見守る
妹が家に帰ってこなかった
理由は、なんとなく察しがついていて
学園から残留思念を辿りながら、辿り着いた
きっと運動能力テストのあの時と同じ
それか、もじくはそれ以上の
どう、声をかければ良いのか、姉は迷っていた
■伊都波 悠薇 > ただただ、風に揺られて。
抑えた前髪を、整える、整えるととのえる、トトノエルととのえる
――
そのしぐさが、だんだんと。髪をがしがしと乱していることに、悠薇は気付かない。
だんだん荒くなって、激しくなって。爪がめくれそうになって、皮膚が切れてもずっとそうしていそうな、そんな”危機感”がある、その行為。
だんだん、ただ持っていたプリントは、ぎゅうううっと握りつぶされていく。
――表情は、変わらないまま……
■伊都波 凛霞 > 「───」
見ていられなかった
痛ましくて
危うくって
でも
「……はーるか、もう遅いよ。どうしたの?」
ゆっくりと整えて、声をかけた
たくさん感じることも考えることもあったけれど
今はとりあえず、姉として妹の力になりたいという気持ちに従った
■伊都波 悠薇 > ――声がした。
聞きたくなくって、でもちょっとだけ安堵していて。
胸に宿る何かが、ナニかで埋めていく。埋められていく。
だから、大丈夫だと。悠薇の未熟者。
心配などかけるな。いつだって、いつだって先行く姉を立ち止まらせて――
それで、あまつさえ。そんな言葉を投げかけてもらうのか。
だから――笑え、笑え。そして――
「うん、ちょっと。だけ――独りになりたくて」
嘘を、つくな。笑って、笑顔で。嘘をつかず。安心させる。
だって――嘘をついて、笑って。強くあった姉を見ただろう。
それは逆に、心配になったはずだ。
だから――そのまま、伝えて。”ワラッタ”
眼の光が、髪に隠れて。見えないように振り返って。
口元を、緩めて――
「お姉ちゃんこそ、どうしたの? こんな時間に。あ、もしかして、デート?」
いつにもまして、饒舌。
そして――いつもやかましい、ストラップは――だまった、まま
■伊都波 凛霞 > 「………」
向けられた妹の笑顔が、胸に突き刺さるようだった
「……夕飯の時間になっても戻らないから探しにきたんだよ。
病み上がりだし、それに───」
口にするべきかは、悩んだものの
「……また"何もなかった"んでしょ?」
何かあった、ではなく
何もなかったのかと問う
もうわかる
わかってしまう
一度疑念として突き刺さった棘は抜けずに
あらゆる場面でその存在を主張してくるものになっていた
■伊都波 悠薇 >
――何を言ってるのか。
あぁ、そうか。姉は言っていた。
あまりに、衝撃が大きすぎて。自分はそんなことも忘れていた。
未熟者、未熟者――
「……あのね」
ゆっくりと口を、開いていく。
「先輩に、いろいろ。武術のことで手伝ってもらったの」
波は、引いていく。そしてまた、満ちていく。
その音が、やけにうるさく感じるくらい――”静寂”だった。
本当なら――泣き叫んでも、可笑しくないのに。
「お友達にプリント、貸してもらって。入院中の授業内容も、ちゃんと――勉強。一緒に、してもらってね」
流れる風景。もう、それは記憶になんてならないし、思い出にもならない――
だって、何もなかったと、変わりはないと姉は今そう口にした。
その通り、何もなかった。何も”なくした”。自分が、自分自身が。
その意味を、意味と、しなかった。
「――るいさんと、息抜きでお買い物行って――勉強もはかどって、ね?」
でも――
「……うん。なかった、ことにしちゃった。”また”」
あははと、笑う。笑う。
笑ってよと、言うように――
「また、また――あはは……あは……」
声だけが笑って聞こえて。
もう”微笑んで―わらって―”いれていないことに気付いてない。
もう――感情なんてわいて、こない。
わくとすれば
それは
怒りだ
■伊都波 凛霞 > 違う、本当なら何もないわけがない
もうそれは確信に近いものがあった
この子は何かの力に抑えこまれえいる
駆け寄って、有無を言わさずその身体をキツく抱きしめた
「……研究区へ連絡して、異能の精密検査を受けよう?
このままじゃ、このままじゃ悠薇───」
きっと、戻れないくらいにまで壊れてしまう
───何かしらの異能が持ち主にとってマイナスとなることは珍しくない
この島ではそういった異能者のためへの研究も行われているはずだ
そうとさえ分かれば。抑制薬なんかも、あるかもしれない
■伊都波 悠薇 > やめてほしい。
やめて、やめて――
どうして、どうして――どうしてどうしてどうしてどうして……
「……―――――」
自分は、こんなに未熟なんだ。
プリントはぐしゃぐしゃで。
もっと、頑張れるはずだと。
もっと、いけると。
もっと、もっともっと。
ずっと、ずっとずっと――
なのに。
ずっと、自分の未熟は。姉を傷つける。
ずっと、姉を止まらせる。
ずっと――
抱きしめられて、きつくきつく、力を籠められれば、
ふと、力が抜ける。
手からこぼれて――プリントを風がさらっていく。
かかれていたのは――
0
そう、0。無、無し。零、ゼロゼロゼロ――
すべて――
姉は――
「……検査」
もう、縋るものが、それしかない。
だが、これで何もなければ――もう……逃げ場はなく。
「……ぅん」
退路のない、選択。
選択のように見える、強制。
悠薇は、それにうなずくしかない。
なぜなら、もう――自分は、何もできない。できないできない――
そして、これからも……?
■伊都波 凛霞 > 残酷なことを言ったのかもしれない
結果として異能も何も見つからなければそれは、妹への最後の刃となってしまう
それでも確信めいたものはあるのだ
父は母達の、これまでの妹の、そして───
学園に赴いた時の異能の特定検査よりも更に時間をかけて
もっと深い深い部分までを調べ上げれば、きっと何かが見つかる
それが異能でも
───呪いでも
「…父様達が心配してるよ。今日は帰ろう?」
強く抱きしめていた腕の力を緩めて、優しく、ゆるやかにその背を撫でる、頭を撫でる
■伊都波 悠薇 >
帰る。その言葉にびくっとする。
かえって、いいのだろうかと。思う。
姉のやさしさが、痛い。いたいいたいいたい――
もう、痛い……
「……―――」
言葉には答えなかった。
髪はくしゃくしゃで、少し。皮膚も荒れていて――
「――……」
ただただ、撫でられ続けていた
■伊都波 凛霞 > 頭を撫でつけながら、そっとその髪を整えてやる
ぽん、ぽん、と子供をあやすように背中を軽く叩いて
「こんなことしかできないお姉ちゃんでごめんね」
我が妹のことですら何かに頼るしかできることがない
そんな自分を歯痒くは思うものの
それでも、側にいようという思いを伝えたかった
どれくらいそうしていたか、ゆっくりとその身を離して、両手を妹の肩へと添える
「……少しは、落ち着いた…?」
■伊都波 悠薇 >
いつかと、逆。
それでバランスをとるように、そうなるのが自然というように。
頭の中で、天秤が――
「……そんなこと、ないよ」
謝らないでほしい、謝らないで。
お願いだから――
そんな風に……
「……ぅん」
表情はうつむいたまま、見えないが。
でも、こくりとうなずいた
■伊都波 凛霞 > 「ん」
小さく微笑んで、一歩下がり
足元と、少し離れたところに散らばった妹の答案用紙を拾い集めてゆく
0、0、0……
いくらなんでも、こんなことがある筈がない
自然とその目は答案用紙に書き込まれた答えへと向かう
のぞき見するつもりがあったわけではないものの、それは更に疑念を加速させるものだった
「(…こんなの、絶対おかしい……)」
計算問題、式の段階では完璧に近い
なのに、書かれた答えはまるでその式から導き出されるはずのないような───
「…父様達にもお願いして、夏休みに入ったらすぐに検査受けさせてもらおうね」
■伊都波 悠薇 > 静かにうなずいて。そして――
「……私、一人で行くから……」
――お姉ちゃんは、家にいてね?
それだけ、お願いして。ゆっくりと、歩きはじめ。
ちから、なく――
■伊都波 凛霞 > 「…そっか」
どの道、異能は極めてプライベートなもの
それが原因で家庭が崩壊する、なんて話も聞いたことがあり、
研究区も、姉とはいて一緒に検査の場なんかには入れてくれないだろう
入り口くらいまでなら、とは思っていたが
覇気なく歩く妹の背中を見ながら
願わくば、妹を蝕むモノの正体が見つかることを
願わくば、それが戦い勝利できるものであることを
ただひたすら願い、帰路を歩くのだった
■伊都波 悠薇 > ――どの姉の想いも、違う。
これは、罰だ。自分への――
そして、褒美だ。自分への――
もう、いっそのこと独りのほうが強いのだから。
それは分かり切っているから――だから……
――……もう、いたいのは……
夜。
歩く、二人。少しの距離を開けながら。
その距離は――誰が思うよりも、妹には――果てしない、距離に見えて――
家までの道のりは果てしなく、脚は重たくて……
そして――
妹は。悠薇は――
夏休みに入って、研究区に足を踏み入れて。
1週間――家に帰ってこなかった。
ご案内:「浜辺」から伊都波 悠薇さんが去りました。
ご案内:「浜辺」から伊都波 凛霞さんが去りました。