2018/10/06 のログ
ツェツィーリア > 『灰皿ねーかな』

ひとまず煙草の灰を捨てたい。
本当を言えば箱ごと捨てたい。
実をいうと煙草は嫌いだ。匂いが付くし。
”契約”でもないのにこんなものを吸うやつの気が知れない。

『しっかしまぁいくらざるでも……
 どうやって私物を回収するかね』

恐らく警邏隊に部屋にあったものは没収されているだろう。
別に回収されて困るものは何も置いてないのでそれは良いものの
受け取りに行くのが手間だ。一応下調べはしているが
出来るだけ警邏関係者と面識は持ちたくない。
……撃ちに来ている関係上。

『なんて言ってもなぁ』

はぃ、タイミングの悪さには定評があります。
足音に僅かに目を向けると腕章に制服を身に着けた小柄な男が一人歩いているのが目に入る。
よりにもよって”子守り”とは運が無いと内心嘆きつつも
とりあえず観光客ですよーと言わんばかりの表情で
実に堂々と歩を進める。

こういう時に一番大事なのは堂々としている事だ。
変に小細工に頼ると余計怪しくなる。

神代理央 > 相手も此方を視界に捉えたのだろう。
足音に気付いたのか、視線が此方に向けられたのを何となく感じる。そして、此方の接近に気付いて尚、逃げも隠れもせずに堂々と歩いて来るその姿に幾分の安堵を覚えた。
味方のカバーも無い状態で、正体不明の敵と戦闘等愚行にも程がある。相手がただの観光客なら、適当に世間話をして終われば良いのだから。

と、希望的観測を抱きながら歩みを進めていく。
距離が縮まって分かったのは、取り敢えず相手が女性だと言うこと。そして、観光客としてはおよそ持ち運ばないであろう漆黒の棺を所持していること。
とはいえ、異邦人から超能力者、魔術師まで跳梁跋扈する此の島で、棺だの十字架だのを持っているくらいでは捕縛する理由としては薄い。そもそも、此方としては正直観光客であってほしいのだ。きっとあの棺も宗教的な理由で持ち歩いている筈だと言い聞かせつつ―

「失礼。此の地区の巡回を担当している風紀委員です。差し支えなければ、学生証かIDを拝見しても?」

そんな訳ないだろうな、と些か諦めながらも、取り敢えず職務に忠実に彼女に声をかける。
背後に異形を従えている事以外は、ごくごくありふれた職務質問。どうか観光客であってくれと祈りながら社交辞令全開の営業スマイルと共に声をかけた。

ツェツィーリア > 「?」

かけられた声に振り返り疑問符を浮かべる。
人のよさそうな、けれど少し困った表情を浮かべて
口にするのは日本語ではなく……

「Извините」
(ごめんなさい)

祖国の言葉。

『日本語はまだ話せないの……』

様々な言語が集まるこの島においても
外国語アレルギーと言うのは存在する。と言うより存在しない地域の方が少ない。
少なくとも変に会話するよりはわからないふりをしておいた方がしっぽを掴まれにくい。
そのまま何処か物憂げな表情で目を伏せて見せる。
もし自身の普段を知る人物が此処にいたなら
のみもの注意報間違いなし。
何処か儚げな印象まで演出してみせる辺り手が込んでいるが
これくらいできないとやっていけない感はある。

神代理央 > ああ、成る程。言葉が通じないときたか。
近づいて彼女を観察してみれば随分と整った顔立ちの女性だ。
困った様な表情も、伏せた物憂げな表情も、さぞや世の男達を虜にする事だろう。

尤も、此方はワーカーホリック気味な社畜風紀委員。
相手が美女だろうが美男子だろうが、ドラゴンだろうが魔王だろうが、かける言葉も行う仕事も変わらない。

「Papers, Please」

淡々と業務的にかけた声と共にかざしたのは、公安委員会のアプリを起動したタブレット端末。
学生証とID、その他入島者や学生が身分証明の為に持つべき書類が一通り画像で表示され『Papers, Please』と注釈で文字が表示されている。

「本当に日本語が解らないなら申し訳無いが、仕事なんでな。これでも通じないなら、言葉の通じる公安がいる事務所まで連れて行くしかないんだが」

と、独り言の様に日本語で呟いてみる。
本当に彼女が言葉が分からないのなら聞き流すだろうし、分からないフリなら此の独り言に何らかのアクションを起こしてくれるだろう。
はてさて、眼前の美女はどう動いてくれるのか、と少し愉しげな表情で首を傾げてみせた。

ツェツィーリア > こういう振る舞いにはコツがある。
女優と一緒だ。すなわち、設定を遵守し思い込むこと。

『…? У меня нет, между прочим』
 (そんなもの持っていないわ)

そして現在の設定は災難に遭遇した世間知らずの外国人観光客その一。
正直に言えば別に嘘ではないし。
上手くいけば船に残してきた身分証などとも情報の合致が取れるだろう。
彼方も船から”はじき出されて”落ちた客の情報は持っている事だろうし。
捕まりそうになった密入国犯の攻撃による”不幸な事故”の結果で。

(生憎こちとらその程度想定済みで準備してきてんだよ少年)

実はばっちり理解できているのだがどこ吹く風。
そもそも例の馬鹿が暴れなければ正規ルートで入り込めていたわけで。
かましと分かっている餌に食いつくほど脆い準備はしてきていない。
平然と何もわからない顔をしてみせる。

神代理央 > 起動していてアプリが、彼女の言葉を翻訳して此方に伝える。
書類を持っていないと告げる言葉は兎も角、その声紋は確かに正規の手順で入島しようとしていた乗客リストに合致する。

「…あー……Прошу вас об амнистии. Извините, если вы мне помогли.」
(すまない。不快な思いをさせたなら、謝罪しよう)

取り敢えず、此方が最低限行うべき職務において、彼女は白なのだ。ならば、特段これ以上の仕事は公安にぶん投げて良いだろう。
彼女を保護し、公安に引き渡せば任務完了。IDの再発行だの、改めて身元の確認を行うだのといった面倒な仕事は、本来その業務を請け負うべき連中にやらせれば良い。

「Извините, но я хочу защитить вас. Вы будете следовать за мной?」
(身分証明書が無いなら君を保護したい。すまないが、ついてきてもらえないだろうか?)

因みに、ロシア語なんて話せる訳がない。
聞きかじりと独学で得た知識に、端末に表示される迷子を保護する時のマニュアルを眺めながらの残念なコミュニケーションだ。
正直通じているか自信は無いが、取り敢えずついてきて欲しいと手招きする事で意思疎通を図ってみたが。

ツェツィーリア > 「Не переживайте(気にしないで)」

別に彼らは仕事をしに来ただけだ。
その仕事は与えられた手順をこなすことであって
成果を出すことではない。
げに素晴らしき治安維持(お役所仕事)

「Извините, как лучше пройти в。」
 (どう行けばいいのかおしえてもらえる?)

向かう意志だけは示しておく。
どうせ遅かれ早かれ行かなきゃいけない事は確かなわけで。
聞いておけば町に通じる方向の指針にもなるわけだし損はない。

(しかし風紀委員とやらは真面目に子供が主体らしいな)

内心ため息。
ある意味期待通りでもあるが期待外れでもある。
是非はともかく、治安維持を子供に頼るというのは
あまり良い傾向とは言えないと正直思う。
それに……

(探してる相手もどの程度かねぇ)

子供が全てそうという訳ではないが、
往々にして戦闘経験が乏しい物がほとんどなわけで。

(こりゃはずれを引いたか)

少しだけ遠い目をして試案に耽る。

神代理央 > 「Если вы идете на север на этом пляже, вы попадете в жилой район. Затем найдите полицейский ящик и вызовите」
(この浜辺を北に向かえば住宅街だ。そこで交番を探して、声をかけると良い)

元々、この浜辺は比較的住宅街に近い。
きちんと道を探さずとも、北に進めば民家が見えてくる程で、治安も悪くない。
後は、公安に連絡を入れて近くまで来て貰えば良いか、と考えていたが―

「…Что случилось? Разве это не плохо?」
(具合でも悪いのか?)

思案に耽る彼女に怪訝そうな表情と共に声をかける。
その思考の中身は露知らず、慣れぬ異国の地で気分でも害したのかと彼女に近付くが―

ツェツィーリア > 「Ладно. Не волнуйся.」
(大丈夫。心配ないから)

試案に耽っていたからか相手の存在を忘れていて
一瞬腰の銃に手を伸ばしかけるも瞬時に気が付き無理やりその動きを抑え込む。
ただ身を固くした程度に見えればよいがと思いつつ、何か感づかれた可能性も頭の隅に入れておく。
一応騙りの場合も考慮はしておくべきではある……が、この対応なら恐らく裏は特にないと考えた方がよさそうだ。

「Вы очень хорошо говорите по-русски.」
(ロシア語がお上手なのね)

何処か戸惑ったような表情を浮かべながらも相手の瞳をじっと見つめて。

神代理央 > 「Это хорошо. Не подталкивайте себя слишком」
(それなら良いが。余り無理はせぬようにな)

問題ない、と告げた彼女に了解したとばかりに頷く。
しかし、彼女が一瞬見せた動き。腰に伸ばしかけた手の動きには、僅かに目を細めて疑念の色を宿すだろう。
それは、己も良くする動作。即ち、腰に挿した銃を咄嗟に取ろうとする動きに酷似していたのだから。

「Он сам говорит о прослушивании, но в основном благодаря машине. Я не серьезно」
(聞きかじりの独学と、機械に頼っているからな。私自身は大して話す事は出来んよ)

僅かに肩を竦めて、此方を見つめる碧眼を見つめ返す。
戸惑った様な表情を浮かべる彼女に対して、此方はその様子を観察する様に感情の読めない表情を浮かべているだろう。

「Кстати, это довольно большой багаж. Не могли бы вы мне помочь?」
(ところで、随分大きな荷物だな。良ければ、運ぶのを手伝うが)

そして、僅かな疑惑を抱いたが故に、彼女が持つ黒い棺に視線を移し、ゆっくりと腕を伸ばした―

ツェツィーリア > 旅人である以上多少のこころえはあっても可笑しくないのでこの程度なら許容範囲と割り切る。
気にしすぎる方がかえって疑念を招く。

「Оставь меня в покое.」
 (お気になさらず)

…が伸ばされた手から遠ざかる様に体ごと引き硬い拒絶の言葉を吐く。
少々きつい言葉になるがそれだけ触られたくないものだと伝わるかもしれない。

「Извините……Я не специально.」
(ごめんなさい、そんなつもりではなかったのだけれど)

そして自分の剣幕に気が付いたように語気を緩める。
意識して演技はしているが実際これはとても大切なもの……
触られて困るという以上にかけがえのないものと言う点でも触られたくないものだ。
それにうかつに手を伸ばされるだけでも眉が寄る。
自分でも他の事は許せてもこれに関しては駄目なのだから仕方がない。

神代理央 > 思いの外強い拒絶を示されたことに、少し驚いた様な表情を浮かべた後、素直に手を引き戻す。

「Я сожалею, что сделал вас безоговорочным」
(いや、此方こそ無遠慮な真似をして悪かったな)

謝罪の言葉を告げる彼女に、気にするなと言わんばかりに首を振る。
荷物検査は厳重にするように公安に伝えておくべきか、と頭の片隅に留めつつ、今は手出しするべきでは無いかと引き下がった。

「Это важное свойство. Однако в общественной безопасности, пожалуйста, объясните содержание правильно」
(大事な物なのは分かったが、公安ではちゃんと中身の説明はしておくように。どのみち、簡易な所持品検査はされるだろうしな)

とはいえ、大事な物を漁られるのも可哀想か、と一応忠告はしておく。
案外、見目麗しい彼女相手では、公安の連中も大した検査はしないかもしれないが。
……やはり、きちんと検査する様に進言しておくべきかと、少し考え込む様な素振りで視線を彷徨わせる。

ツェツィーリア > 「Я буду помнить」
(覚えておきますね)

これ以上の会話はリスクの方が大きい。
町の方角も聞いたことだしそろそろこの場を離れるべきだろう。
持ち物検査をされても大丈夫なように中身を整理する必要がある。
何よりも無駄に有名になってしまった自分の通り名と繋がらないように細心の注意を払わなければならない。
その為には幾分か準備の時間が必要だ。
……やるべきことは多い。いつまでも受難の観光客の顔はしていられない。

「Приятно было познакомиться.」
(さようなら。出会えてよかったです)

まずは体を流して休養できる場所を見つけよう。
未だ雫の滴る髪を流し、踵を返そうとして
……視界がぐるりと揺れ、天地が回った。
咄嗟に膝をついて吐き気と頭痛をこらえる。
思った以上に体力を消耗していたことと
何よりもそれに気がついていなかったことに内心臍を噛んだ。
これが戦場ならほぼ確実に死んでいる。

(らしゃぁないな……全く)

張り付いた服も、ジーンズも、髪の毛もすべてが気持ちが悪い。
世界が回る。地面が揺れているのか自分が揺れているのかもわからない。

泳ぐ中で緩んだのだろう。俯くと同時に眼帯がはらりと落ち、
それを追うように黒い雫がぽたりぽたりと砂浜を染める。

(……やっべぇなこれ)

契約は果たしていたつもりだったが負荷の方が大きかったらしい。
異形の腕で瞳を抑えるも指の合間から真っ黒な液体めいたものが零れ落ちていく。

(これはプラン変更か。ああもう全く)

「Вот тебе, бабушка, и Юрьев день.」
 (なんてこった)

おもわず苦鳴とともに悪態が零れた。

神代理央 > 「До свидания. До того дня, когда мы снова встретимся」
(それじゃあ。道に迷わない様に気をつけて)

やるべき職務は果たした。後は公安に任せて引き上げるばかり。
――と、踵を返した矢先。背後で、何かが大地にぶつかる音がした。

「……ああもう。具合が悪いなら早く言え!」

一々ロシア語に直す余裕も無い。急いで彼女に駆け寄り、膝をつく彼女に合わせる様に此方も地面に膝をつく。

「大丈夫…では無さそうだな。異能者か魔術師かは知らんが、具合が悪いのなら無理をするな。……と言っても通じぬか」

ヒトならざる腕で抑えた顔を抑えながら、黒い液体の様なものを零す彼女。回復魔法でも習っておくべきだったかと臍を噛む。

「Вы в порядке? Я могу что-нибудь сделать?」
(大丈夫か?何か俺に出来る事はあるか?)

こういう場合は救急車で良いのだろうかと思案しつつ、彼女の左肩を軽く叩いて声をかける。

ツェツィーリア > 一瞬目の前の人物を屠る事を考える。
目撃情報をなくしてしまえばある程度の時間を稼げる。
金銭面は何とでもなるが形式上自分は”指定対象”になる。
自由に動ける時間が短くなることを考えればいっそ……

(いや、リスクの方が大きい)

仕留めるのにかかる時間と、その場合の警戒度上昇を思えば
どちらにしろ大した違いはないと判断。
そもそもこの殺意は”自身の物ではない”
であれば不調な状況で遭遇戦を行う意味はない。
塗りつぶされそうな思考を無理やり引き戻す。
このままでは衝動に飲まれる危険性がある。
今やるべきことは……一刻も早い離脱と沈静化。

「Не трогай меня! 」
(触れるな)

武器を抜きそうになる殺意の渦と衝動を噛み殺し
代わりに懐から刻印の入った宝石を取り出すと地面に叩き付ける。
使用したのは携帯式の転移術式の展開装備の一種。
非常に高価なうえに砂浜なので砕けずに痕跡を残すことになる上に
島の地理を理解していない為ある程度運任せの移転になる。
……それでもこのまま留まるよりはましだ。

「……Извините」
 (……すまない)

巻きあがる閃光と魔術式の合間に呟いたのは誰に対してだったか。
黒い雫を落としていた片目はその閃光の渦の中でもなお昏く……
それもまた光の渦が消え去ると同時にその宿主とともに海岸から消え去った。

神代理央 > 一瞬の閃光の後、保護すべき対象は消え去っていた。
後に残ったのは、彼女が大地に叩き付けた宝石。それを手に取り、掌で転がしながら僅かに溜息を吐き出した。

「……やれやれ。また仕事が増えそうだな」

彼女が消え去った理由は不明だが。どちらにせよその行方は追わねばならないだろう。保護か、或いは捕縛か。出来れば穏便に済ませたいものだが。
入港する船舶の調査依頼と、彼女についての報告を行うべく端末を起動しながら、足早に此の場を後にした。

ご案内:「浜辺」から神代理央さんが去りました。
ご案内:「浜辺」からツェツィーリアさんが去りました。