2015/06/15 のログ
ご案内:「常世神社」に吉田兼弘さんが現れました。
吉田兼弘 > ドン、ドン、ドン、ドン――

祭典の開始を告げる号鼓の音が高らかに常世島に響き渡る。
時刻、午前十時。
毎月十五日恒例の「月次祭」が斎行されようとしていた。
常世神社の拝殿や境内には、既に参列者が集まっていた。
参道前で、奉仕員による手水などを受けていた参列者も、太鼓の音を聞けばスッと参道の脇に移動する。

参進が始まるのである。

吉田兼弘 > 斎館から、着装を終え、すがすがしい装束に身を包んだ神職たちが、常世神社へと無かッ行く。
白い浄衣が風に吹かれて音を立てる。笏を右手に持ち、烏帽子をつけ、浅沓を履いた神職たちが一列になり常世神社へと進んでいく。
斎主――祭りを主宰する者のことである――が先頭ではなく、その左前には前導所役という下位の斎員がおり、斎員たちを導くように進んでいく。
斎員の後ろには、玉虫色の装束に身を包んだ伶人――祭典において楽を奏す楽人のことである――たちがついていく。
斎員たちが前を通る時、静かに参列者は頭を下げていく。

吉田兼弘 > 今回の斎主は吉田兼弘という男であった。この学園の教員である。
祭儀員として、毎月の祭りに奉仕している。なお、毎回斎主というわけではない。
祭典ごとに交代していくのである。

月次祭は、古くは朝廷によって行われた祭りである。伊勢の神宮でも行われているが、その規模などは大きく違う。
六月と十二月に行われていた祭りであり、本来はその名の通り月ごとに斎行されていたのではないかとされるが定かではない。
朝廷の祭りは戦乱によって廃絶したものも多いが、その祭祀は地方の神社にも伝播していった。
戦後、そして21世紀の大混乱を経て、今なお各地の神社に月次祭は受け継がれ、厳粛に行われている。
現在では小祭とされ、毎月十五日に行われることが多い。

吉田兼弘 > 足並みをそろえて祭典の奉仕者たちは常世神社へと進む。
斎員たちも手水を済ませ、再び前導所役が斎主の前へと赴き、小揖し、再び案内を始める。
参列者の前を奉仕者たちが通り過ぎ、いよいよ本殿前まで参進する。
前導所役は斎主の胡床――椅子である――の前まで進み、一揖する。斎主を案内したのだ。案内が終われば、前導所役も自らの席へと向かう。
それぞれの斎員は自らの席へと向かい、それぞれ着床する。斎員の後ろ側の席には伶人が着床する。
本殿向かって左側に斎員たちは着床した。右側には学園関係者が座っている。

そして全ての斎員が席に着けば、笙の音が高らかに響き始めた。
斎員の着床に際して演奏される音取。着床音取が演奏される。
笙の次に篳篥が加わり、最後に龍笛が加わり、演奏は終わる。

吉田兼弘 > いよいよ祭典が始まろうとしていた。
参列者の前に立っていた一人の神職――祭典に奉仕している神職とはまた別――が胡床より立ち、マイクの前に立つ。
典儀である。祭典の次第などについて参列者に伝える役割である。
参列者が常に同じ人間とは限らない。異邦人などもいるばあいもある。
そのための配慮であった。

『これより、月次祭を執り行います。祭典に先立ちまして、まず修祓』

典儀の声が境内に響く。

吉田兼弘 > 修祓――簡潔に言えば、お祓いである。とはいえ、悪霊を祓うなど、そう言った類のものではない。
祭典に先立ち、斎員や参列者を祓うのである。そうして日常の穢れなどを祓戸の神に祓っていただき、清浄な状態で祭典に臨むために行うものである。
それが今行われる。

まず、副斎主――斎主の次に高位の奉仕者――が胡床を立ち、正笏の後に威儀を正して本殿の方まで向かっていく。
本殿の前には案――八つ足の木の机――が置かれており、その上には大麻――榊の枝に紙垂を麻で結びつけたもの――が置かれ、その左側には水器に入れられた塩湯があった。水器の前にも小さな榊の葉が置かれている。

副斎主が神前に立ち、一礼し、三浦進む。そして深揖――深い揖である。45度ほど――を行う。
その後深々と二拝――90度の礼――を行い、笏を懐にしまう。
そして、懐から七折半に折られた大奉書を取り出し、それを広げて目通りに捧げ持った。
『祓主が祓詞を奏上いたします。奏上の間は御低頭ください』

典儀の声が響けば、参列者は頭を下げていく。

吉田兼弘 > 掛けまくも畏き伊耶那岐大神

筑紫の日向の橘の小戸の阿波岐原に

禊ぎ祓へ給ひし時に生りませる祓戸大神たち

諸々の禍事、罪、穢有らむをば

祓ひ給ひ清め給へと白すことを聞こしめせと

恐み恐みも白す

吉田兼弘 > 副斎主――修祓においては祓主という――による祓詞の奏上が終わる。
祓詞の内容としては、『古事記』において、イザナキノミコトが黄泉から帰還した際に、筑紫の日向の橘の小戸の阿波岐原にて禊をした。
その時に成った神々は祓の神とされ、その神に罪穢を祓うことを願い申し上げるものである。
祓主は祝詞を懐中し、再拝二拍手一拝を行い、神前より去る。
祓主が胡床に座らんとするとき、その隣の祭員一――大麻所役という――が立ちあがり、一礼して神前へと出る。
そして大麻所役が神前で一例するのと同時に次の祭員の祭員二――塩湯所役という――が立ちあがり一礼し、神前へと向かう。

大麻所役は大麻を案から取り、神前から下がる。まず斎主を左、右、左と大麻を振って祓う。
次に祭員も同様である。そして最後に参列者の前まで歩み、左右左と祓う。
それに続くように塩湯所役も神前の水器と榊の葉を取り、大麻所役と同じ順番で、榊の葉で中の塩湯を祓う対象に左右左と軽く撒いていく。

こうして修祓は終わる。大麻所役と塩湯所役は神前の案に祓具を戻すと自らの本座に復す。

裏方の奉仕者がその案と、下に敷かれていた薦を素早く徹する。

吉田兼弘 > 『次に、斎主一拝。斎主に合わされましてご一礼ください』

典儀が次の次第を説明する。
斎主一拝。斎主が神前に一礼する行事である。
斎主である兼弘が立ちあがり、一礼し、神前へと歩み出て行く。
それに合わせて祭員、伶人、参列者は立ち上がる。
そして斎主は笏を目通りに掲げ、深々と一拝する。
それに合わせて所員、参列者も一拝する。

一拝を終えると、斎主は本座に復す。

吉田兼弘 > 『次に、献饌。ご神前にお食事を奉ります』

典儀いうと、伶人たちが準備を始める。
献饌は奏楽を伴うのである。まず、龍笛の音頭――ソロパートのことである――が始まる。
次に笙が先行して入り、最後に篳篥がそこに加わる。
曲目は平調の「越殿楽」である。越天楽という表記もある。
三管が合わさる場所。付所である。そのとき、一斉に斎主を除く祭員が立ち上がり、一揖する。
献饌が始まったのだ。
副斎主は陪膳となり、祭員一は膳部となる。陪膳は神前に置かれた神饌案の前に候し、膳部は本殿左側の神饌所へと入り、神饌所の中に並べられた五台の三方の前で候する。
その間をつなぐように祭員――神饌献徹においては手長と呼ばれる――が並び、それぞれ候していく。

吉田兼弘 > 神饌所の中で、まず膳部が動き始める。
神饌の前に立ち、一礼して三方を取り、それを目通りに捧げ持つ。
神饌の種類や数などは神社や祭りによって違うが、小祭の場合は五台であることが多い。
一台目は米、二台目は酒と塩と水、三台目は乾物、四台目は野菜、五台目は果物――常世神社の祭りではこうだった。
とはいえ、斎主などによっても違うだろう。兼弘が斎主の場合はこうである、という話だった。
それぞれがまず膳部から末の手長に渡され、次々と手長によって伝供されていき、最終的に陪膳へと手渡される。この繰り返しにより、神饌が神前に奉られていくのだ。
奏楽の中、厳粛に、神へと食事が奉られていく。

吉田兼弘 > そして、最後に五台目の果物が供え終えられた。
学生代表が持ってきた献酒も備え終り、献饌は終了した。
全ての祭員は最初の位置に戻り、一揖し、末の手長から順番に神前から離れ、本座に復していく。
最後に陪膳も神前から離れ、それと共に奏楽は止手――曲を終了させるためのフレーズ――に入る。
平調の止手が響き、最後に笙の響きを残して、祭員の全ては胡床に着いた。

吉田兼弘 > 『次に祝詞奏上』

次第は次に移る。次は祝詞奏上である。
神に神饌を奉った後に、神への願い事などを斎主が申し上げるのだ。
下位の祭員、祝詞後取(しどり)が席を立ち、拝殿後部に置かれた案の上に置かれた祝詞を取り、斎主のところまで歩いていく。
恭しく斎主に祝詞を差し出せば、兼弘はそれを受けとり、笏に添える。
祝詞後取は一礼し、斎主のもとを去る。斎主が一揖し、神前へと歩み始める。

『ご起立ください』

それに合わせて祭員、伶人、参列者が共に立ち上がる。
斎主は神前へと歩み出て、一揖。三歩小さく進み、深く揖をする。
その後笏を目通りに掲げ、二拝を行い、笏とを懐中し祝詞を広げていく。

『奏上の間は御低頭ください」

全ての所員、参列者が祓詞奏上と同じように頭を下げる。

吉田兼弘 > 「常世浪寄せ来る此の島に坐す、掛けまくも畏き常世神社の大前に斎主吉田の兼弘、恐み恐みも白さく……」

兼弘は祝詞を読み上げていく。古代の宣命と同じ書体で書かれた宣命書きの祝詞を。
それは全て漢字で書かれている。送り仮名は万葉仮名だ。
まず初めにこの神社の神に丁重に祭りを行うことを申し上げ、次に神に奉献した神饌について述べていく。
そして、この島と世界の平穏、隆昌を神に申し上げていく。

「子孫の八十続き五十橿八桑枝の如く立ち栄へしめ給へと、恐み恐みも白す――」

吉田兼弘 > 神へと奏上を終えた斎主は、祝詞を折りたたみ、笏を出してそれに祝詞を添える。
その後、祓詞奏上と同じように二拝二拍手一拝を行う。
深揖を行い、これにて祝詞奏上の行事は終了である。
斎主は三歩下がり一揖の後、神前から静かに去っていく。それに合わせて祝詞後取である祭員が立ち上がる。
斎主が席に戻るころ、祝詞後取は斎主の前まで進み出て、斎主から祝詞を受けとり、拝殿後部の案へと祝詞を戻す。
斎主は一揖し、再び胡床に着床した。役目を終えた祝詞後取も同じである。
そして、次第は次に移る。

吉田兼弘 > 『次に、斎主玉串を奉りて拝礼』

典儀の声が響きけば、下位の一人の祭員が立ち上がり、祝詞などが置かれていた拝殿後部の案の前まで向かう。
そこにはいくつかの玉串――榊の枝に紙垂を麻で結び付けたもの。大麻の小さいものと考えればよい――が置かれていた。
その一つを取ると、それを持ったまま斎主の元へと向かう。
斎主である兼広は立ち上がり、笏を懐中する。自身の前まで来た玉串後取から、玉串を受け取ると、神前へと向かう。
それに合わせて祭員も立ち上がり、神前に体を向ける。
神前、正中に至り、玉串を持ったまま一揖。三歩進み、深揖。
神前には既に裏方の奉仕者により玉串を奉奠するための案が置かれている。
そして、玉串を時計回りに回し、神前に根元を向けて斎主は奉る。
懐中していた笏を取り出すと、二拝二拍手一拝を行う。祭員も斎主に合わせてそれを行う。
玉串の起源などについては色々な説がある。記紀神話の天岩戸の神話にまで遡る説もある。
現在では、玉串は神に奉るものである。戦前などは色々な祭祀制度の変更があったものの、今はこれに統一されているようだ。無論、神社によっては古来のやり方に習っているものもある。

斎主は玉串を奉り、拝礼が終われば本座へと帰っていく。

吉田兼弘 > 『それでは、参列者の方々に玉串を奉り拝礼をしていただきます。
 まず、常世学園理事会の……』

玉串後取が再び玉串を持ち、拝礼する参列者へと渡していく。
そうして、学園の役員などを含めた参列者が玉串を奉って拝礼していく。
それぞれの願い、学園の隆昌、世界の平和――それらを祈っていくのである。
最後に学生代表の玉串拝礼となる。

吉田兼弘 > 玉串後取が学生代表に玉串を手渡す。
それを受け取った学生代表は一礼し、神前へと向かう。
玉串を神前に置かれた案に奉奠し、二拝二拍手一礼を行う。
それに合わせて学生の参列者も拝礼を行っていった。
学生代表が席に戻れば、いよいよ祭りも終わりに差し掛かる。

吉田兼弘 > 『次に、撤饌。ご神前のお食事をお下げいたします』

そう典儀が言えば、再び伶人による奏楽が始まる。
食事を徹する際も奏楽があるのだ。
曲目は平調「五常楽急」である。五常楽とは平調の楽曲であり、舞も現在に残されている。
五常とは、人間の守るべき五つの徳目――仁義礼智信のことであり、それを五音に配したことからつけられた曲名であるという。唐の太宗皇帝の作と伝える。
最初に龍笛の音頭のソロパートがあり、次に笙、最後に篳篥が加わり、三管が揃う。
付所である。それに合わせるように斎主を除く祭員が立ち上がり、足並みをそろえて神前へと向かっていく。

吉田兼弘 > 献饌とは今度は逆である。神前に奉られた供物を神饌所まで下げるのだ。
全ての祭員が伝供道に候すれば、まず動き出すのは陪膳である。
神饌案の中央におかれた三方を陪膳が取る。米の乗った三方だ。
それをまず最初に下げ――次に酒、乾物、野菜、果物と、神饌所へと撤していく。
その間も、雅楽の音色が高らかに響いていく。

全ての三方が撤し終れば、再び祭員は伝供道に戻り、小揖して下位から順番に本座に復していく。
陪膳が本座に復すころ、献饌と同じように伶人は止手のフレーズを吹きならし、演奏を終える。
次の行事で、祭祀の本儀は終わりだ。

吉田兼弘 > 『祭典終了にあたり、斎主一拝。皆さま、斎主に合わされましてご一礼ください』

典儀の声が響けば、斎主である兼弘は立ち上がり、神前へと進む。
それに合わせて祭員、伶人、参列者も立ち上がり、神前を向く。
斎主が深々と一礼するのに合わせ、所員全てが一礼していく。
これにて祭りを終わることを神に奉告するのだ。

その後、斎主は本座へと復す。これにて祭りの本儀は全て終わりだ。

『これにて――年度――月の月次祭を終了とします。直会は各自退室の際に御受けください』

吉田兼弘 > 祭典は終了した。一番下位の祭員が立ち上がり小揖したのちに、斎主の前まで向かう。斎主は立ち上がり、前導に合わせて参道を進み始める。他の祭員や伶人も次々と立ち上がり、参道を歩きはじめる。

鳥居前では巫女が多くの土器(かわらけ)と神前に捧げられた酒の入った瓶子を持って待っていた。
直会の酒を受けるのだ。
一度拍手して土器を兼弘は受け取ると、注がれた神酒を、神前に向いて飲む。
そして土器を巫女に渡し、前導に導かれるままに去っていく。
全ての足並みは揃い、人々にすがすがしい印象を与えるだろう。

祭員が去った後、参列者も各自神酒を受けていく。
直会とは、祭りの忌を解くものとも言われ、神人共食のためとも言われる。
本来はこの後会席を設けて、神前に上がった食べ物を皆で分けて食するのが本式である。

この後、祭員などを含めた教職員による直会が行われる。
これでまた、祭りは無事に斎行された。

「……次は六月晦大祓か」

全てを追えて斎院に戻った兼弘はそう呟いた。次の行事は六月晦日にある大祓だ。
今日は月次祭だ。学園内にある神社でも祭りが行われ、出店などが出ているだろう。
このような平和を保つために、このような祭祀が行われているのだ。

例え世界が変容しても、それは変わらない――

兼弘はそう信じたかった。

ご案内:「常世神社」から吉田兼弘さんが去りました。
ご案内:「常世神社」にローザヴィ・クロン・天塚さんが現れました。
ローザヴィ・クロン・天塚 > 神社の中に珍しく人がいっぱいいる。
なんだろうと見に行ってみると祭りはもう終わったあとのようで。

「きょうはかみさまにあえるひだったのかしら?」
「まだいる?もうおうちに入っちゃった?」

それでもまだ何かあるかなと、道行く人の間をさかのぼる。

http://guest-land.sakura.ne.jp/cgi-bin/uploda/src/aca238.jpg

ご案内:「常世神社」に秋尾 鬨堂さんが現れました。
ローザヴィ・クロン・天塚 > 眉間にしわを作ってふくれっつら。

「かみさまはいないみたい。かみさまのつかいみたいな人はいっぱいたけど」
「ちっ…でおくれたのよ。このあいださんざんわたしを無視した顔をおがんでやろうとおもったのに」

秋尾 鬨堂 > 常世神社。
湾岸線からほど近いとは言え、峠の中にあるその境内までは流石に道路は通じていない。
石段を降りた位置まで。鳥居の上からなら見えるだろうか?そこまでだ。

しかし神社から人が散り始めた、ということは下りの道が詰まり始めたということ。
「しまった、そういう日だったかナ」
と、峠の上り線を若干後悔しながら流していたところ。

しょうがない、この上は神社で参拝がてら休憩でも、と思いたち―
異様なマシンが、石段下に停車する。

ローザヴィ・クロン・天塚 > 境内はまだ賑やか。賑やかだからこそなんとなく居場所がない。
お参りするつもりだったけど、足早に鳥居のところまで戻ってきてしまった。
石段をぴょんぴょんとびはねながら降りていくと、下には見慣れない形の車。
玩具やさんで見るみたいな、道で見るのと違うやつ。

めずらしげにカーディガンの袖でふさふさ触れる。

「かみさまが乗る車かな?」
「…もしかしてこれでおうちにかえってるから夜はお堂の中にいないのかしら…」

秋尾 鬨堂 > ドアがばたむと開く。
降りてきたのは、褐色の男だ。
オレンジのジャケットに紫のシャツ。

クルマのボンネットの上を転げるようにスイと滑り、運転席側から反対側へ。
余りにも不必要かつ大胆、何らかのパフォーマンスを疑う動き。
だが―日常動作!

「…悪魔呼ばわりされてはいるけどネ」
「神様を載せたことは、多分…無いかな」
どうやら、あなたの声は聞こえていたようだ。

「こんにちは、敬虔な女の子。クルマは…好きかい?」

ローザヴィ・クロン・天塚 > 「ひゃっ?!」

出てきた!!かみさまか!!
……これは神様っぽい動きなのだろうか。
思っていたのと違うなぁ…着物きてないんだ…などと内心さまざまなことを考えつつも顔はぽかんとしている。
派手である。とても派手である。
そしてなんだか変だ。へんなひとだ。

「……きれいなものは好きだよ。鉄の塊だけど、これはとてもうつくしいとおもうわ」

緊張気味に答える。けれど本心。
小さな模型でしか見たことのないような車は、ぴかぴかでとてもきれいに見えた。

「悪魔なのにおまいりに来たの?なかにはいってくるしくなったりしない?」
「奥は賑やかでたおれたらたいへんなの。ついていってあげましょうか」

ひとりで奥までいきづらくて、ちょうどよかったともいえず、あくまで付き添いを主張する。

秋尾 鬨堂 > ボンネットに片肘をついたまま。
物憂げに、応える。

「ありがとう。キミはクルマではなく、こいつを好いてくれたということだネ」
エンジンが止まっていても。ボディに差す光は、うねるように妖艶にきらめく。
「こいつの名前はNS-L…百年も前のスポーツカー。僕はエルと呼んでいる」

そこで、やっと車体から離れる。
「悪魔はこいつさ。僕は悪魔に魅入られた男――」
「だけど、確かに神域に入ったら…奴に嫉妬されるかもしれないな」

「でもキミがついていてくれるなら安心だ」
さあ行こう、と少し脅かすような言葉。

ローザヴィ・クロン・天塚 > 「車のほうが悪魔なの?天使のような名前なのに」
「天使の名前って、最後にエルってつくものばかりだから…」

長い袖で車のボンネットを撫でて

「だ、だいじょうぶよ、お参りはあいさつみたいなものだっておとなのひとがいっていたわ」
「すぐかえってくるし、心配しないで待ってるといいのよ。いいこだから、ね?」

はらはらしながら、子供に言い含めるようにエルに話しかける。

「…こ、これでだいじょうぶよ!私が案内してここまでまたつれてきてあげるし」

車と同じ、浮世離れした青年の前を先導するように石段を走る。

「こっち!」

ローザヴィ・クロン・天塚 > http://guest-land.sakura.ne.jp/cgi-bin/uploda/src/aca239.jpg
秋尾 鬨堂 > あなたの言葉をひとしきり、黙って(そりゃあ、クルマが喋るはずはないのだが)聞くと。
ぎらりと陽光が、ボディを経由して眼に直接反射する。
まあいい、いってくればいいと吐き捨てるように。

「……誰に嫉妬、してるのかナ」
楽しそうに呟くと。
彼女に連れられ、歩き出す。

「元は天使のたぐいの悪魔、なのかもね」
石段を登る。鳥居からふと後ろを見下ろす。

陽の落ちかけた景色。海を望み、森は近く。
道が続く。
続き、続く道は、島に広がり―

まだ、夜ではない。
あの先はまだ夜ではない。

気持ちを切り替え、境内へ向き直る。

ローザヴィ・クロン・天塚 > 青年が景色を眺めていたとき、自分は車を見ていた。
きらきら美しく見えた車から反射する光が、刺すように眩しい。
あわてて袖で瞳を覆う。おこっているのだろうか。
悪魔は嫉妬深いとも聞く。
恐ろしい考えに頭を振った。

「悪魔の一番えらいひとは、元は天使だったっていうわね」
「あの子も、人に嫉妬して悪魔にされてしまったのかしら……」

恐ろしい考えに頭を振った。

「こ、こわいはなしはだめ!こんな一瞬でやきもちなんて焼かないもの きっと」

気を取り直し、
鳥居をくぐり人の合間を縫っては振り返り、手招き。
さっき感じていた居場所のなさ…疎外感のようなものはもうなかった。
一人ではないだけでずいぶん世界の見え方が変わるものだ。
なんとなく、顔がほころんでしまう。

「ついた!さっきよりはすいててよかった」
賽銭箱に身を乗り出して鈴を鳴らす。
お金はないので、景気よく鈴を鳴らす。

秋尾 鬨堂 > 「そうしよう。何、美しいだけのクルマを、恐れる必要なんてないヨ 冗談、冗談」
ぶんぶんと嫌な考えを振り払うあなたを安心させるように。

境内は確かに賑やかで。
ちょっとした出店の誘惑を振り切り、本尊の前まで行けば。
盛大に打ち鳴らされる鈴。

「……お金、無いのかい」
五円玉を投げ入れつつ。
さすがに不憫な顔をして、もうひとつの五円玉を差し出す

ローザヴィ・クロン・天塚 > 「う、うん……おうちのためのおかねしかなくて」
「……もらっていいの?」

しばらく五円玉と青年の顔を見比べて、おずおずと手を伸ばす。

「…えへへ。あなたいいひとね。こわいひとかとおもってたけど…」
「これならかみさまも私のお願いかなえてくれるかも!」

さっきの安心させるような言葉も思い出して、うれしそうに笑う。
賽銭箱にぎこちなく放り込んだ。
ここでお参りすることは何度かあったけど、お金を入れたのは初めて。
がらんがらんと鈴を鳴らして、手をたたいて目を閉じる。
……ちゃんとした作法なんて知らないので、見よう見まね。

「なむなむ……おかねにこまらなくなりますように…おおきくなってしまのそとにでれますように…おなかすいた…あまいものたべたい…わたがしおいしそうだった…」

ぶつぶつ。お願いというよりは思い浮かんだことをそのまま口にしている。

「あっ!あとかみさまにあってみたいのであえますように!!」
「でてこいよなのー!!」

若干罰当たりになりそうなことも。

秋尾 鬨堂 > 「やめておいたほうがいい」
「神様はもったいぶって登場するものだから」
もうちょっといいタイミングをお膳立てしてやらないと、不貞腐れるヨとアドバイス。

「…」この言外の圧力。
明らかに漏れている思考。
冗談であれば良かったのだろうが、あまりにも真に迫っている。
こんな状況で、しれっと無視できる者はそれこそ悪魔だろうな、と己の人間性を確認する。大丈夫。

「ちゃんと、袖をまくって食べるんだヨ。砂糖がひっつくから」
帰り道、キャラ物(刑事x探偵だ)の袋に入ったわたがしが舞い降りた。