2015/08/06 のログ
ご案内:「常世神社」に東雲七生さんが現れました。
東雲七生 > 「あぢぃ~……」

うだる様な暑さの昼下がり。
犬の様に舌を出しながら東雲七生は石段を上っていた。

幾ら小型エンジンに直接手足が付いてる様な運動バカの七生でも、
人類に生まれついてしまった不幸か、暑いもんは暑いのだ。

「アイスキャンディ~……」

生憎そのような物を売ってる声は聞こえてこない。
ただただ蝉の声が何重にも重なって響き、暑さを倍加させてる。

東雲七生 > 額からとめどなく流れる汗を拭いつつ、一段一段足元を確かめながら上っていく。
いつものように4~5段素っ飛ばして駆け上がる余裕は無い。そんな余裕は研究区からここまで歩いてくる間に夏の日差しが体の水分と共に奪っていった。

「あ゛ぇ~~……」

ゾンビさながらの呻き声を上げながら石段を上る。
何故そこまでして神社へと向かっているのか。その理由は至極明白だ。

と く に な い。

気が付いたら研究区から足が向いてた。
それだけである。夏の暑さに思考回路を持ってかれたわけではない。
考えるよりも体が動くのは、この少年の通常装備だ。

東雲七生 > おおよそ“普段夜走ってるルートを体が勝手に歩いてきた”といったところだろう。
これでは痴呆老人が徘徊するのと大差無い。
幸いにも、体力だけは人並外れているので徘徊中にお陀仏にはなりそうもないのが救いか。

「あぢぃよぉ~……」

最後の気力を振り絞って石段を上っていく。
何故上るのか、それは七生本人にも解らない。
たぶん、“そこに石段があるから”だ。

ご案内:「常世神社」に深雪さんが現れました。
深雪 > 貴方が石段を上りきれば、そこには見慣れた鳥居がある。
色を付けられていない深成岩そのものの色で、僅かに苔むした佇まいは非常に幻想的だ。
だが、視線はきっとその鳥居には向かないだろう。

「・・・・・・・・・。」

鳥居に背をもたれるようにして、貴方もよく知っているであろう、女生徒が立っているからだ。

東雲七生 > 「あ゛ あ゛ あ゛ぁぁぁ~……」

最後の一段を上り終え、ひときわ大きな呻き声を上げてその場に倒れ伏した。
その最後の雄叫びは、勝鬨の声にも、犬の遠吠えにも似た、気力の限りを尽くしたものだった。

鳥居の影で冷やされた石の地面が冷たくて心地良い。
倒れる瞬間、誰か居たような気がしたが気のせいだと思いたい。


(……いや、誰か居たな。)

よろよろと頭だけ擡げて、半分閉じかけた目で人影を見遣る。
さながら亀の様な動きだった。

深雪 > 見下ろす視線に込められた感情の、半分は哀れみ。もう半分は哀れみである。
だが、知り合いが石段を上ってきたかと思えば目の前で唸り声をあげながらぶっ倒れるのだから、仕方ない。

「・・・・・・貴方、何してるの?」

冷ややかな視線と、冷ややかな声。
けれどその声には聞き覚えがあるだろうし、貴方を見下ろす黄金色の瞳にも、その銀の髪にも見覚えがあるだろう。

東雲七生 > 「わかんない、何してんでしょう俺……」

間違いなく本心だった。
哀れみを宿した、むしろ哀れみしか宿していない黄金色の瞳を糸の様に細くなった目で見返す。
その冷やかさもいっそ心地良いくらいに今、七生の身体は熱で満ちていた。

「それはそうと、深雪ひさしぶり~。」

半分ゆでたまごと化した脳みそからは四次元殺法めいた能天気さの言葉が弾き出される。
少なくとも、地べたに這い蹲ったまま友人に掛ける言葉ではないだろう。

深雪 > 訓練室でも見たが、自分の感覚に忠実なその姿は可愛らしいといえば可愛らしい。
けれど、今はそれ以上に、可哀想な何かを見ているような気持ちが勝ってしまっていた。
小さく溜息を吐いて、それから、片膝を地面について視線を下げる。

「・・・暑いのは分かるけれど、しっかりなさい。」

そして、這い蹲ったままの貴方に手を伸ばした。
多分耳辺りを狙っている。避けなければつままれて、そのまま引っ張られるかもしれない!

東雲七生 > 「くぅ~ん……」

人影が動いたのを見て頭を下ろす。顎を地面に付け、視線だけで見上げた状態で。
……汗と熱気で霞んだ視界に見える足、とさらに何か見えた気がしなくもないが気付く余裕すらない。
口を開ける余裕も無く、物言いたげな高い鼻声が小さく漏れた。
延ばされる手を、ぼーっと見つめて──

「……えちょ、ま、いたい。痛い痛い痛い!」

気が付けば耳を引っ張られていた。
千切られてはたまらない、と無理やり四肢に力を込めて立ち上がる。

深雪 > 勿論、引き千切るほど無理に引っ張るつもりは無い。
貴方の反応には満足したようで、とても楽しそうにくすくす笑いながら、
「・・・あらあら、やればできるじゃない。」
そう言って、静かにその手を離した。お詫びとばかり、ふわりと頬を撫でてから、手を引っ込めて・・・

「マットの次はこんな所で寝るつもりだったの? 踏まれるわよ?」
ぺたんとその場にお尻をついて座り、貴方をじっと見つめている。
暑いことは暑いのだろう、よく見ればこの少女もわずかに汗ばんでいた。

東雲七生 > 「そりゃどうも~……はぁ」

離された耳を軽くさすりながら軽く溜息を漏らす。
しかし深雪の手が頬を撫でれば、慌てた様に目を瞠り。

「いや、今汗かいてるからそんな、手濡れちゃうって!

 寝るつもりなんて無かったんだけどさ、
 石段上ってる間に……いや、ここまで来る間にどんどん力が抜けてってさ。」

気が付いたら、倒れてた。
その場に座った少女を見下ろして、まだどこかぼんやりした表情で答える。

深雪 > 少女は貴方を見上げて、楽しげに笑う。
「ふふふ、別に構わないわ。」
そう言う表情は、嘘を吐いているようには見えない。
貴方がどれほど汗を掻いていても嫌悪感は無いようだ。

「気が付いたら・・・ねぇ。
 暑さにやられたのかしら・・・大丈夫?」
こちらも立ち上がって、おでこに手を伸ばしてみよう。
心配な気持ちが10%で、残りの90%は悪戯心だ。おでこに優しく触れて、熱をはかる。

東雲七生 > 「うぅ~……
 深雪が良いなら、別に良いんだけどさぁ……。」

まだ言いたい事はあったのだが、熱の所為か言葉がまとまらない。
ただ、再びこちらへと手を伸ばすのが見え、慌てて袖口で額を拭った。
少女が触れたおでこはかなり熱を持っているだろう。

「あぁ~……深雪の手ぇ冷たいな。」

そんな状態で、へにゃり、と緩んだ笑みを浮かべる。

深雪 > 律儀に額を拭う様子を見て、僅かに目を細め、微笑む。
その手が触れれば、確かに相当に熱を持っていることが感じられる。
対してこの少女の指は氷枕よりもすこし優しげな冷たさ。

「貴方はだいぶ熱いわね…涼しくしてあげましょうか?」

くすっと笑えば、答えも待たず、貴方の顔に、ふー、と静かに息を吹きかける。
香水の香りか、歯磨き粉か、それともデザートか、僅かに甘い香り。
最初は特に何も込めず、ただ、普通の吐息・・・けれど、汗が冷やされればすこしは涼しく感じるかもしれない。

東雲七生 > へにゃり、とした笑みを浮かべたものの。
少し緊張した面持ちでおでこに触れている手を気にしていたが、
その指の冷たさはやはり心地よく。意識に再び靄がかかって──

「……はぇ?」

間の抜けた返事をした直後。
吐息を掛けられて我に返る。何か強いもので脳天を殴られたような衝撃を受けたような。
それほど甘い香りは予想外の効果を齎した様だった。

深雪 > 貴方の感じる衝撃など知る由もなし。一度息を吸って・・・にこりと笑う。
あくまでもそれは副産物であるし、狙った効果では無い。

「・・・・ふー。」

今度は吐息に、冷気を纏わせた。相変わらずの甘い香りと、それからクーラーのような、冷たさ。
冷たい空気は貴方を包んで、体温を少しずつ、下げていくだろう。
・・・・・・多分きっと、下がる筈だ。普通なら。

東雲七生 > 「………!? っ、……!?」

当惑、困惑、混乱。
何が起きたのかさえ理解する前に再びの吐息。
その匂いと、冷たさに目を丸くしながら目の前の少女を見つめる。

「え、あ、その、……今、何を……!?」

下がる体温。ゆっくりと正常に戻っていく思考回路。
しかし思考回路はすぐに熱を帯びる。目の前に口を窄めた少女の、顔。

深雪 > 少女は明らかに“分かって”やっている。
その証拠に、貴方の表情をじっと見つめて、その変化に笑みを見せた。

「・・・どう?少しは涼しくなったかしら?」

説明することなく、少女は貴方にそうとだけ問いかける。
もし、貴方が答えなければ、もしくは答えに時間がかかれば、
今度はさっきよりも“冷たい”吐息で貴方を包む。
それからくすくすと楽しげに笑って、困惑する貴方を優しく撫でた。

東雲七生 > 身体は涼しくなったが、顔だけが熱い。
耳まで真っ赤になったまま、わなわなと唇だけが動いていたが、

「そ、そ、そりゃ涼しく、な、な……な…っ!」

言葉にならないのを懸命に紡ごうとしている間に、三度目。
怒涛の連撃に緩みかけた緊張がまた一気に戻る。撫でられてる事すら意識の外の様だ。
七生の思考はただただ、今何をされたか、に集約されている。

深雪 > からかって遊んでいるのは間違いない。
けれど、嘗ての自分なら、人間を相手にして絶対にこんなことはしなかったはずだ。
「・・・・・・・・・。」
けれど、こうして居るのは楽しいと、確かに感じていた。

「そう・・・・・・良かったわ。」
貴方の困惑と思考を知ってか、知らずか。
いや、確実に知った上で、少女はそうとだけ言って、微笑んだ。
・・・・・・意地悪な笑みではあったが、とても自然に。

東雲七生 > 「……お、お ま え な ぁ~!!」

ようやくまともな思考回路が戻ってきて、“からかわれた”ことを自覚する。

(異性に免疫の無い幼気な少年をこんな風にからかうなんて許せない!)

やっぱりまだ少し歯車が取れているのかもしれない。
しかし普段からあんまりまともに動いていない思考回路など七生が気に留める筈も無く。

「良かねーよ!?
 あんな風にからかうなんて、お前下手すりゃ責任…問……だい。」

一気に捲し立てようと口を開いたが。
目の前でいやに楽しそうに笑うものだから、
毒気を抜かれて、呆けた顔で立ち竦んだ。

深雪 > 隠そうともしていないのだから、貴方が気付くのも無理はない。
そして感情を顕わにするその様子を見て、また、楽しげに笑った。
「…あら、からかったなんて酷いわ。涼しくしてあげただけよ。」
くすくすと、意地悪な笑みを浮かべて・・・また、静かに息を吸いこむ。
それから、今度は、ふっ、と一瞬息を吐いて、貴方の前髪を揺らした。

「・・・・・・でも、貴方が嫌だっていうなら。これで最後にするわね。」
残念そうな顔や、試すような素振りは見せず、ただ、楽しかった。とばかり、また、自然な笑みを浮かべる。

…時折、そんな自分が信じられない。けれど確かに楽しい。けれど昔とは違う。
楽しさのあまりに、一瞬、壊したらもっと楽しいのかな。なんて、嘗てと同じ思考が過ぎった。

東雲七生 > 「ぅ、うぅ……!」

確かに涼しくなったので、彼女の言葉に嘘は無い。
それは分かる、分かってるが。
嘘じゃないからこそ赦しちゃいけないことだってあるだろう。
七生は、きっ、と少女を睨んで……

「ひぁっ」

前髪を揺らす吐息に、情けない声を上げつつ目を瞑った。
そして再び目を開けると恨めしそうな顔をする。

「ぃ、……べ、別に嫌だとは言ってないだろ!
 ただ、こんなこと軽々しくしてると、面倒な事になるぞって言ってるだけ!」

少女の胸中など知らず。
ぷく、と赤くなった頬を膨らませてそっぽを向く。