2016/05/13 のログ
ご案内:「奇妙な木造家屋」に耳かき屋、楢狗香さんが現れました。
■耳かき屋、楢狗香 > 低い石壁に囲われた庭。
地肌がむき出しになったその場所の縁側に、異邦の女が学園の生徒を膝枕している。
そよそよと、穏やかな風が流れてしばしそのまま時を過ごしていたが。
「…もし、おきしゃんせ。そろそろお時間でありんす。」
そっとその耳元に囁いて、生徒を起こす。
目を覚ました生徒は目覚めると笑ってその場を立ち去った。
そしてまた、彼女は一人縁側で穏やかな風に揺られている。
■耳かき屋、楢狗香 > やがてそばの木箱を手繰り寄せ、ゆったりとした動作で煙管のようなものを取り出す。
その先端には煙草や香草を入れる筒ではなく、鈴と石を組み合わせたようなものが付いているようだ。
吸い口をその唇につけると、ゆっくりと息を吸う。
やがてその彼女の頬は赤らみ、目元がとろんと蕩けて垂れた。
長い、長い一息を終えて。
ふうとため息を吐く。
「…ああ。おしごとのあとの一服は美味しいでありんすね。」
■耳かき屋、楢狗香 > 二度その行為を繰り返すと、
ちりんと火を消すような仕草で先端の鈴を一つ鳴らして、取り出した木箱に煙管を仕舞う。
木箱のなかには他にも様々な――おそらく仕事道具なのだろうか、が入っていて、その底は見えなかった。
しー、と何故か口に指先を当てて、そっと箱のふたを閉じる。
そしてまた、縁側で目を瞑ってのんびりと、穏やかな風に身をゆだねた。
■耳かき屋、楢狗香 > どれくらい時間がたっただろうか。
ずっと座っているのにも飽きたのか、徐に立ち上がりからん、ころんと足音を立てながら低い石壁に近づいていく。
壁は隠れることもできれば、ちょっと背を伸ばして中を覗くこともできる…そんな高さだ。
何故か彼女はその意思壁…おっと、ではなく石壁を愛おしそうに撫でている。
「…うん、うん。ええ…いつもどおりにやりしゃんせ。」
誰に話しかけているか分からない独り言を呟くと、手を壁に触れたままそばにある木を見上げて、微笑んだ。
ご案内:「奇妙な木造家屋」に柴木 香さんが現れました。
■耳かき屋、楢狗香 > 「さあて…。」
石壁に触れていた手を離し、壁に沿って入り口まで歩いていく。
路上から見える場所に達筆のひらがなで描かれたと読める――日本語話者であればだが――『みみかき』の置き看板が置いてあり。
客がいないか、その看板の置いてある外の路上にひょいと顔を出した。
■柴木 香 > がらこんがらこんはっちゃん引いて、配送帰り。
落第街で炊き出しとか稀有な事する人も居るものだとか思いつつ。
帰り道は、なるべく新しい道を通る。
そっちの方が発見もある。新しい配送ルートの開拓にもなる。
地図に載ってても使えない道、というのも案外多い。
「――む、む?」
歓楽街は食べ歩きには困らないので好きだけど。――こんな落ち着いた家あったっけ?
軒先の看板には「みみかき」。みみかき?
立ち止まってかくん、と首を傾げる。
■柴木 香 > 「…わふ。」
止まった拍子に、目が合った。
「……えーと。えーと?」
どうしよう。冷やかしです。
■耳かき屋、楢狗香 > おっと、お客が来たようだ。
しばらく来ないようなら少々出かけようかと思っていたが。
目があえばにっこりと微笑んで、爪の整った白い指先で軽く手招きしてみせる。
「…おいでやんせ。
ちょうどお時間ありやして、お客でなくてもお茶くらい…いかかでありんすか?」
赤い赤い舌先が、ちろりと下唇を舐めた。
■柴木 香 > 「……えーと、えーと。」
手招きする様子に、困る。
この辺りは治安はやっぱりよくはない。から通り過ぎたくはあるけれど。
仕事――は今終わったし。
この後予定が――あるわけでもないし。
帰ってなにか――することも特にないし。
要するに断る理由が思いつかない。
「お金はないです。――えーと、お邪魔します?」
最初に言っておかないといけない気がした。
それはともかくとして、はっちゃんを脇に寄せて、留めて。
■耳かき屋、楢狗香 > 「大丈夫。問題はございやせん。
丁度お手透きでありやしたから、出かけるかどうかと言ったところでありやした。」
とおりがかった相手を中へと招き入れる。
壁の入り口は大八車が通っても支障は無く――その前からこの幅だったかは、ちょっと分からないが――とめるならば中の庭に、と勧めて来るだろう。
お湯を沸かすのは文明の利器、ポットだった。
中の湯を確かめると、スイッチを入れる。
「少々お待ちなんし。そのあたりにお座りいただけるとよろしいと存知やす。」
縁側か、畳か。どちらでもいいと手のひらをそちらに向けて。
■柴木 香 > 「あ、えーと、それなら……うん。」
こくこくと頷いて。断る機を完全に逸している。――動揺はしたけれど、みた感じ怖い人ではなさそう。
がらこんがらこん、とはっちゃんと門を通って、中庭に留めさせてもらう。
空のはっちゃん盗む奇特な人もいないと思うけど、これなら盗まれる心配もないし、あんしん。
「ん……お邪魔します……?」
なんだか困ったことになったなぁ、とは思ったりもするけれど、まぁ、なるようになるかなぁ、などと。のんびり。
中に入ってみれば、やっぱりどこか変わった家だと思う。――どこがおかしいのかわからないけど。
勧められれば縁側に、ちょこんと座った。
■耳かき屋、楢狗香 > 「はい、ようこそおいでやす。ゆっくりしていったなんし。」
一度奥へ引っ込むと茶の用意をして戻ってきた。盆の上に茶碗が二つ、茶葉入れが一つ、そして穴が六つに口がふたつある…
おっと、しゅんしゅんしゅん、と電気ケトルから湯気が立つ。
とぽぽぽ、と軽い音をたてて、薄い赤色の茶が出される。
どうやら緑茶ではなく、紅茶のようだった。
「どうぞ。
なに、御気に病むことはございなせん。
少々お話も聞きたいと思いやしたゆえに…ほら、普通のひとはあまりこの場所をとおりませんやろ。」
相手のもとに茶碗を出して。茶菓子もそっと添えてある。
たいしたことの無い、ありきたりな最中のパッケージに見えた。
「だから遠慮せんどいて、さあ。」
■柴木 香 > 「あ、うん。あまりおかまいなく……?」
上がり込んでいておいてお構いなく、というのもおかしい。
でも他になんて言えばいいのだろう。むぅ。
そうしていると主は奥へ引っ込んでしまった。暫くは庭をぽけーっと眺める。
日本家屋、によくついてる庭園?みたいな。でもなにか違うような。
疑問が回答を結ぶ前に――主が戻ってきた。
「ん、んー?話、と言われても。あんまりおもしろい話はしらない。うん。
えっと。」
確かにこの辺りはあまり人が来ないのだろうなぁ、とぼんやり。なら、言っていることにも嘘はないのだろうか。
出されたのは見た感じ普通。何もおかしくない、様に見えて。
なら断るのは――余計に失礼な気がする。うん。
「……うん、いただきます。」
茶碗を一つ、手に取った。注がれた液体は綺麗な赤色。
紅茶?はあんまり飲んだことないけど、とまずは一口、すすってみる。
■耳かき屋、楢狗香 > 紅茶は何の変哲も無い、もちろん砂糖や香料も入っていないシンプルなダージリンのようだった。
最中にも特に何か変なものが入っていたりはしない。
二杯入れたため、彼女自身も自らの入れた茶を啜る。
透き通った湯がその口元を濡らして、茶碗を置いた後で唇を変形させながらそっと指先で拭った。
「いえ、それほどたいしたことでもありやせん。面白い話は暇つぶしにはありがたいでありんすが。
お話というより、相談ごとでありやしょうか。客がね、なかなか来ぃせんのでありんす。」
悩んでいるのです、と言った様子で、そっと熱を感じさせるような吐息をふう、と漏らした。
■柴木 香 > 「はふー……」
一口すすって――溜息一つ。
お仕事上がりに、熱いお茶はおいしかった。耳尻尾がぴこん、と飛び出る。
「面白い話でなくてもいいの?……わふ?お客さん……」
あ、仲間だ、と内心思ったりもする。
お客さんいないとお仕事にならないよね、とうんうん頷いてみたり。――と。
「……そういうのって、専門の人に相談するべきだと思う?
うん、少なくとも通りすがりのお客未満に相談しても、なんにもならない?」
かくーん、と首を再びかしげる。
なんかそういう経営、とかそういう専門家に聞くべき話であって、通りがかってぽへっと看板見てた子供に聞く話ではないと思う。
――多分正論の気がする。お姉さんが困ってるのは仕草からもなんとなくわかるけど。
■耳かき屋、楢狗香 > 「専門というと、経営こんさるたんと、というやつでありやしょうか。
といっても稼ぎに苦労している、というわけでもありやせん。」
困ったように微笑んで、首を振る。
「屋号としては客がもう少しだけ増えてくれれば、とだけ。」
ちらり、と相手の耳尻尾に熱っぽい目線をやり。
「宣伝してもらってもええですし、新たなお客になってもらえたらそれはもううれしいことでありんすが。
見たところ配送を生業としてありやしょうか。」
すぐに目線を外して、大八車のほうを見た。
■柴木 香 > 「うん、そういうの。――ほへー……」
お客居なくても儲かるのか、すごいなー、耳かき。ちょっとうらやましい。
「お客増やすなら……うーん?うん、宣伝、とか。
もうちょっと人の多い通りに看板出してみるとか?
お金はないです。お荷物お届けしてるけど、お客さんは僕がほしいです……?」
頷きつつ。そういえば甘味屋さんはよく路上に看板出してるな、などと思い出しつつ。
視線にかくり、と首を傾げて――向かってる先に気付いて、頭を押さえた。耳が出ている。
視線に籠る熱には気づかないあたり、お子様です。
「わふ、えーと……めずらしい?みみ?」
なおそう、と思っても、みられていると上手くいかない。
諦めた。耳がぴこぴこしている。
■耳かき屋、楢狗香 > 「いえ、珍しい、とは思いやせんが。
職業柄でありんしょうか。整えてみたい、とは思いやす。」
口の端を吊り上げて笑みの形に。
少し離れた畳の上に正座して座っているため襲われるなどと言った気配や心配はないが。
「看板…看板。いいとは思うでありんすが、あの看板も作るのに少々骨が折れたでありんす。
もう一つ、となると手間が。」
首筋に手を当てて、悩む様子。
はあ、などとため息が出ている。と思えば、姿勢を正して。
「茶代としてはこんなところでありやしょうか。
お荷物お届けのお仕事をしているとのこと、いずれ何かお頼み申し上げるかもしれやせん。
ぜひまた、お茶か本業にてお越しを願っておりやす。」
蜜指ついて、丁寧なお辞儀。
茶がそろそろ冷めたか無くなったか。そう言う頃合で、彼女のルールなのだろうか。
■柴木 香 > 「ほえー……うん、でもお金ないです。ごめんなさい。」
お仕事ならお金はきちんと払う、経済の鉄則。で、お金はないのでごめんなさい、するしかない。
そもそも襲われるという心配は、あんまりしていない。逃げればいいし。
「わふ、そこまで手が込んだものでなくて、えーと……」
身振り手振り。確かに表の看板は高そうだったけど。
道端に置くものだからもっとこう。簡易な奴でいいのに、と思うわけで。
と、気が付けば。結構な時間が立っていたようで。
こくこくと飲んでいたお茶は空っぽ。茶菓子も気が付けば綺麗に頂いてしまっていた。
「あ、えーと。こちらこそ、たいしたおはなし、もできませんで。
うん、お仕事の依頼なら――あ、そうだ。これお渡ししておきます。うん。ご依頼の際はいつでもどーぞ。
……また、お茶飲みに来てもいいです?」
明らかに言い慣れていない様子の言葉に続けて、思い出したように――ジャージのポケットからアルミの名刺入れを取り出した。
一枚、名刺を差し出す――『第六運送部 部長 柴木 香』となんとも飾り気のない文字で。
横には、電話番号と、メールアドレスも併記してある。
■耳かき屋、楢狗香 > 「ではいずれ、お金の溜まった時に。
ですがそれほどお高くもありやせん。みみかきだけなら。」
千円ちょっと…時間やオプションで変わるとは言うが、基本はそんなものだという。
安い、といえば異様に安いのだろう。立地的には妥当かもしれないが。
看板に惑う様子には、不思議そうに小首を傾げてみせる。
お互いに伝わらなかったようだし、彼女にとって看板といえばあれなのだろう。
「ええ、喜んでお待ちしていんす。喜んで。」
差し出された名刺を両手でしずしずと受け取りながら、微笑んで是の返答をかえす。
受け取った名刺は大事そうにそばの引き出しに仕舞っていた。
■柴木 香 > 「むぅー……」
説明が通じなかったのは、営業力不足かもしれない。
ちゃんとべんきょうしないと。…今度来るときは看板のサンプル持ってこよう。
反省。
「ん、お邪魔しました。うん、えーっと、そのくらいなら、うん。」
こくこく。聞いてみたらお高くなかった。そのくらいなら手元に残るお金から――だしても大丈夫な金額。
名刺をきちんと渡してから、縁側から立ち上がる。
「じゃあ、次は――あ。お姉さんのお名前、聞いてもいーです?」
大八車――はっちゃんを引き上げつつ。思い出して耳がぴこんと立った。
まだお名前聞いてない。
■耳かき屋、楢狗香 > ちらし程度のものなら彼女も想像してはいるのかもしれないし、
そういうことにはまったく疎いのかもしれない。
肯定的な様子におや、といった表情をひとときだけみせて、
すぐに目を伏せて見送るように頭を垂れる。
名を問われたので再び顔を上げることにはなるが――
「……楢狗香(narakga)、と申しやす。」
と答えて、見送った。
■柴木 香 > 「な――ら――?えーと。ならさん。うん、覚えた。」
こくこく。発音はむずかしかったので、かろうじてききとれたところで呼ぶことにする。
こくこくと頷けば――
「では、お邪魔しました――」
がらこんがらこん、とはっちゃん引いて、尻尾ふりふり、帰路につく――。
ご案内:「奇妙な木造家屋」から柴木 香さんが去りました。
■耳かき屋、楢狗香 > 来客を見送り、その姿が遠ざかると腰を上げて畳から立ち上がり、
再びからん、ころんと縁側に出た。
少年の来訪で一度は取りやめた外出に向かおうというのか、
『みみかき』の看板を一度門の中に入れて、Closedの札を上にかける。
もうしばらく、再度の来客は無いだろう。
路に人影がないことを確かめると、落第街のほうに面した石壁のある庭へ回り込み、
その姿は建物に阻まれて見えなくなった。
つぶやきだけがどこかから穏やかな風に流されて、はっきりと聞こえてくる。
「…今日は小銭ばかりでありんすね。」
ちゃりん。
ご案内:「奇妙な木造家屋」から耳かき屋、楢狗香さんが去りました。