2016/05/15 のログ
ご案内:「奇妙な木造家屋」に耳かき屋、楢狗香さんが現れました。
■耳かき屋、楢狗香 > からん、ころん。
からん、ころん。
本日は客がまだいないので、何をしていたのか裏庭のほうから歩いてくる。
よく見たら彼女には足首が無い。
だが足音だけは妙に耳に響くので、気付かれることはあまり無いだろう。
からん、ころん。
定位置の縁側にあがると、いつもの正座の姿勢に戻った。
ご案内:「奇妙な木造家屋」に柴木 香さんが現れました。
■柴木 香 > 「んー………」
がらんころん、とはっちゃん引きながら帰り道。
いつもなら毎回違う道を通るのだけど、今日は前にも通った道。
配送帰りで空のはずの荷台には、木製の小さなA型看板。
「……今日は空いてる?」
そういえば店なら定休日とか確認してなかったけど。
と、また『みみかき』の看板見上げて。門構えからひょこり、と覗き込んでみた。
■耳かき屋、楢狗香 > 「ひい、ふう…。」
変わった帯にてのひらを当てて、目元を落とし何かを数えるような仕草。
「…看板の材料にはなかなか足りんでありんす。……おや?」
伏せていた顔を上げて、来客に気付く。
緩やかに顔を傾げながら微笑んで、ちょいちょい、と手招き。
■柴木 香 > 「ん、おじゃましますー……?」
何やら数えていたけれど、お邪魔じゃないかな、と少しだけ首を傾げたけれど。
手招きされれば、がらがらと、はっちゃんごと中へと、この間と同じ位置へと留めた。
「あ、今日はお客さんです。うん。あと、えいぎょう?」
聞かれる前に答えておこう、と思う。またお茶だけ、というのもお店に失礼だし。
縁側に寄る前に、荷ほどき。
はっちゃんから降ろしたのは立てても60cmくらいのスタンド看板。黒板タイプで描く内容はその都度変えれる便利な奴。
■耳かき屋、楢狗香 > 「はい、おいでやし。」
門の幅はこの前と同じである。問題なく中へと入ることができる。
まあ、当たり前の話だが。…普通は。
「おや、まあ。かまいやしゃんのに。」
立ち上がって茶の用意でも、という仕草の途中で困ったように笑ってみせる。
もちろん、本気で困った、というわけではないのだろう。
ではそこで少しお待ちなし、と畳のほうを指しながら言って、あらためて茶の用意をしに奥へ引っ込んでいく。
■柴木 香 > 「あ、お土産です?――じゃなかった、さんぷるです。
わふ、しつれいします。」
こく、と頷いて、縁側に看板を立て掛けておく。室内に持ち込むものでもないし。
靴を脱いで上がれば、ちょこんと畳に正座。
「むー……?」
中へと上がってみれば、異邦人街なのに、すごい古民家っぽい。
不思議に思いつつ、ついつい視線はあっちこっちをきょろきょろしてしまう。
■耳かき屋、楢狗香 > そうですね、古びた古民家と言った感じです。
とはいえ、つくりはしっかりしているようで。
斜め上には神棚の跡や、中身の無い額縁が飾ってあったりするかもしれません。
「お土産?あら。…へえ、へえ。こちらの文字の看板とはこういうものでありんすか。」
相手に聞こえることを考えていない、独り言。
お茶を持って戻ってきながら、そんな言葉を呟きました。
本日のお茶は熱くなってきたので、冷えた麦茶のようです。
広めの茶碗に注がれた琥珀色の液体、なかには氷が二欠片浮かんでいて。
「何かおきになりやして?
とりあえず、一杯。お茶でもどうでありんしょう。」
きょろきょろと見回す相手を邪魔せぬよう、問いかけながら静かに茶碗をそっと出し。
■柴木 香 > 「あ、うん、こういうの。表の道に出しておけば、多少は認知度も上がる?とおもう。
時期に応じてかきかえられるからえこ?環境にやさしい?そういう感じ。のやつですっ」
ぼそりと呟かれた独り言に。えっへん。ちょっと自慢そうに胸を張る。
それなりに考えて選んだらしい。サンプルは木製――手作り感があるのは、既製品ではないのだろう。
「……え?あ、と。不思議だなー、って。それだけ」
神棚の跡とか額縁だけ、とか。どこかちぐはぐ?
あんまりじろじろ見てしまうのもいけないし、視線を戻して。
「あ、いただきます……あ、あの、今日はおきゃくです。うん。」
でも、お茶はありがたく頂く。こく、と飲んでみれば、冷たいものが喉を通り過ぎて――
■耳かき屋、楢狗香 > 「こう用意してもらえるとは、感謝の極みにありんす。
このお礼は別に考えねばいけんでありんすね。」
礼をのべ…それだけでは気がすまない、と言った様子ではあるが。
とりあえずひとまず客と言うことで、そのことはそばにおいておくようである。
茶は何の変哲も無い麦茶のようだ。
変なものが入っていたり、妙な効果が出たり――そんなことはまったくない。
「…一服してお客さんが落ち着きやしたら、言ってくだし。」
周りを見る会話もそういう、落ち着きのための手順なのだろう。
客から目を離して彼女は古びた木箱をそばに置き、中から道具を白布の上に並べていく。
大小の耳かき、棒耳かき、禍々しい小瓶、いくつかの剃刀、香油、麺棒、綿棒、ほかにも次々と。
そばには湯桶、タオルにさらしと言った道具まで。
■柴木 香 > 「あ、これはさんぷるなので適当に使ってみてもらえれば、です?
気にいったら追加の発注はうけつけますですっ」
こくこく。とりあえずは気に入ってもらえたようでよかった。
頷きながらこく、とお茶を飲み干して――
「……?みみかき、もいろいろ使う?」
ぴこん、と犬の耳が飛び出た。
みみかき、といえば大量にまとめて売っている使い捨て綿棒くらいの認識。
瓶やらなにやら――こんなにもいろいろ道具を使うんだ、と。興味津々の様子。
「あ、えーと、いつでも大丈夫です。うん。」
背筋がぴん、と伸びる。
よくわかならいけどすごい、本格的な様子になんか構えなきゃいけない気がした。
■耳かき屋、楢狗香 > 「ええ、いろんな耳のお客さんがいらしやすから。」
しゃん、と剃刀を軽く研ぐ。
こんなふうにそれぞれの道具の状態を見ながら、尋ねてくる相手にかんたんに応えていた。
「ではこちらに頭を。
どちらからでもかまいやせんけど、少し片膝よりがよいかと思うでありんす。」
背筋を整えて座りなおすと、
にこりと微笑みぽんぽん、と彼女自身の膝を軽く叩いてみせる。
お客さんの耳の位置を考えると片方の膝に頭を乗せる程度がちょうどいいということなのだろう。
頭の向きとどちらの膝に座るかが問題である。
■柴木 香 > 「あ、僕みたいな人、他にもいるんだ……」
いろんな人、と言われたらなんとなく想像できた。剃刀は毛づくろい用?
「わふ……むー……えーと……?」
ぽんぽん、と叩く膝にかくん、と。
暫く悩んだ様子でかく、かくと首を傾げて――
部屋が見えるように、外向きに寝転がって、頭を膝へと乗せる。
縁側見える方が退屈しなさそうだし、狭いの苦手だし、という、そんな理由。
「……こう、でだいじょうぶ?」
獣――犬の耳がぴこぴこと所在なさげに動いている。
落ち着かないのは、落ち着かないのだ。
■耳かき屋、楢狗香 > 「こんな場所でありんすから。」
と言うか彼女自身も普通の耳ではなかったり。
異邦人街に隣接すると言う立地上、普通の耳のほうが少ないのかもしれない。
「はい、もちろん。
気になるところとか、痛かったりしたら遠慮なくお言いなしってくだしやす。
そうしてもらえたほうがこちらも楽でありんすから。」
そっと向こうをみる柴木くんの顔を横から覗き込むように、顔を寄せる。
問いかけに対する相手の反応を確かめているのだろう。
■柴木 香 > 「わふー……なるほどー…」
普通の、と言われると自分でもあんまり想像つかなかったりするけれど。
ならさん含めて、あの人間っぽい耳以外の方が多いんだろうなぁ、と。
「ん、えーと、だいじょうぶ。
痛かったら、ちゃんというし。」
こくこく頷く――代わりに、ぴこん、と耳が動く。
覗き込まれればそわ、と視線を逸らしてしまうのは緊張のゆえです。
お願いしたこととはいえ、初めてのこと。信用はしていても、緊張はどうしてもしてしまうわけで。
■耳かき屋、楢狗香 > 「では失礼しやす。」
ぴこん、と動いた耳の先端をつまんで、中の様子を確かめる。
まめで綺麗好きだろうか、それともずぼらだろうか。
もし不潔にして炎症を起こしていたりしたら耳かきはできない。そのときは相当痒いと思うが。
前置きとして、もちろん現実的な演出ではありませんと置いておき。
先ほどの禍々しい小瓶の中身を手にとって軽く耳につけ、その上からぬるめのおしぼりでそっと押し当てるように包む。
しばらくそうしてから軽く入り口の汚れをとると、おしぼりを返してつぼを押すように耳介をマッサージし始めた。
内側から外側へ。
耳の形に添うように、擦ってしまわないよう気をつけながらゆっくりと。
■柴木 香 > 不潔、とは言わないけれど、あまり手入れもしていない、出来ていない様子。
生えている位置が位置だけに、自分で手入れというのはしづらい。
「えーと、お願いします……」
緊張にかちかちになりながら、身構えて――。
痛くない。というか。するり、と汚れが取れて綺麗になっていく感覚。
素直な心地よさに目を細めて――。
「――v」
時折、耳がぴく、と跳ねて。
暫くもすれば、ジャージの裾から出た尻尾がぱたぱたと、揺れてしまって。
■耳かき屋、楢狗香 > 相手の反応を見て、ナラカグァの口元が歪む。
それは微笑みか、それとも。
「…これから剃刀をつかいやすゆえ、動かないようにお願いするでありんす。」
そうマッサージを終えた耳元…小瓶の液体で毛の根元が柔らかくなったその場所にそっと囁く。
目元には刃物を見なくても済むよう、そっと白い布をかけて。
「落ち着くよう布をかけておきやす。
嫌ならひとこと言ってもらえればいつでも外しやしょう。」
指先に香油を少しだけ垂らしてすっ、と耳に延ばし。
獣耳のためあまり刈り過ぎない様、場所を選びながら気をつけて剃刀を当てていく。
香油の、不思議と落ち着く…でも、花ではない、匂いがあたりに仄かに漂った。
■柴木 香 > 「んー……v」
歪んだ口元には気付くことなく、尻尾がぱたり、ぱたりと。
「ん?ぅん、大丈夫。気を付ける――」
ぴくぴくと小さく跳ねていた耳を止めるように。
視界が白い布で覆われても別段気にしない――それくらいには寛いで。
すん、と鼻を鳴らす。犬の嗅覚は、匂いに敏感。
微かに漂う匂いは――なんだろう?嗅いだことがないような、あんまり、よく分らない。
■耳かき屋、楢狗香 > すい、すい…すとん。
すっ…ざりっ、ざりっ。
毛の薄いところを大き目の剃刀で整えると、置いて次の剃刀に持ちかえる。
長い毛を器用に整えて、見目の良いようにトリミングして耳の形を整えた。
一度櫛を通して、具合を確かめる。
指先で生え際から撫でるようにしながら…先端をつまんで、ぴんと立つように整えた。
「では次ぎは穴刀…細い細い、耳の穴用の剃刀を使うでありんす。
絶対に、動かぬよう…。」
軽く、そして有無を言わせぬような様子でぐっと頭を押す。
細長い日本刀のような形状の剃刀を手にとって、逆の手で頭を固定していた。
だが、その後ろで背から蟷螂の腕が生え。
ぎちり、ぎちりと微かな音を立てながら耳の穴へと差し込まれる。
動きは繊細で、正確。刃先は鋭く、切れ味が良い。
正確かつ素早く作業を済ませ、すぐにその腕は引っ込んで痕跡も残さなかった。
■柴木 香 > ぴん、とたてられた耳は綺麗に整って。
整える前とは見違えるように
「ぅ?――えと、わかった……?」
ぐぃ、と頭が押し付けられて、固定される。
穴刀、と言われてもぴんと来ないけれど、動くと危ないのだろうなぁ、くらいの認識で答える、と。
「ん――ぅ―――」
しゃり、と耳の穴を細いものが撫でたような感触。
気持ち悪くはないが、耳の穴に差し込まれるのはちょっと違和感があったりもする。
何か擦れるような音が聞こえたような気もするけれど、道具の音なのだろう、多分。
■耳かき屋、楢狗香 > 「もう大丈夫でありんすよ。
刈った毛をブラシと綿棒で掃除しやしょう。」
そっと手の力をぬいて、ぽん、と軽く合図をするように触れさせる。
特に何も言わなければ相手の目元の布はそのままだ。
つまり、何をしているかはみえないということで。
毛の細いブラシを手にとるがその指先から先端に向かって触手がのびて、乾いた触手ブラシと化す。
見た目は…うん。まあそれぞれが個々に触覚を持って動くのならば、これほど気持ちよく綺麗に毛を取り除けるものもないのだろう。
ゆっくりと、ブラシを毛の濃い耳介の外側から毛の流れに沿ってかけていく。
終われば次ぎは内側。耳の穴から外側に向かうように、丁寧にゆっくりと。
毛の残りを綺麗に排除してくれる。
耳の穴のなかは軽く粘着性のあるクリーナーを綿棒に塗って、ぴとぴとぺたぺた…と細かい毛や大きな汚れをくっつけていく。
これが終わればあとはいよいよ耳かきだ。
■柴木 香 > 「ん、もう大丈夫?わふ……v」
じっとしているのは、苦手な方。
再びぴくぴくと小さく耳を刎ねさせて。残った毛がちくちくしてちょっと、痒い。
布は必要なら取ってもらえるだろう、くらいで特に気にもしていない。
そわそわとしたブラシが耳の外を、中を撫で上げて。うん、気持ちいい。
ぱた、ぱた、と尻尾が揺れる――落ち着いた時間。
見なければ、気付かなければ平和なもの。
「――むー?……そういえば、お客、あまりきてないの?」
この間は、お客さん来ないって嘆いてたけど。
――なんでこれでお客来ないんだろう、とかちょっと思うくらいには心地いい。
退屈に負けて、ちょっと、気になったことを聞いてみる。
■耳かき屋、楢狗香 > 用意が終われば、大き目の耳かきを手にとって。
「…ええ。ご存知の方は何度も足を運んでくれるんでありんすが。
まだこちらに来たばかりと言うのもありやしょうか。」
そう会話に答えながら、耳介…何度も使っているが、耳の外の部分…の内側に沿って軽く耳かきをなぞらせる。
時折動きを止めて、くっ、と押すようにしながら。
記憶がよければ最初のマッサージで揉んでもらったツボの流れに沿っていることに気付けるだろう。
すでにコレまでの作業で大まかな汚れは取り除かれており、
入り組んだところに残った汚れを軽く掻き出しながらマッサージの仕上げのようになっていた。
耳の穴の入り口まで全体をしっかりとほぐし終えると、穴の中を狙うため
中程度の太さの耳かきに持ちかえる。
「ではこれから耳の穴の中を見るでありんす。
再度いいやすけど、痛かったらきちんといってくだし。」
そう注意をひとこと…今は動いても大丈夫なので唇を綺麗になった耳の端にふにゅり、とつけるようにして、吐息と共に囁いた。
■柴木 香 > 「えーと……?
つまり、にんちど?が足りてない?」
来たばかり、という言葉に少し考えて、なにやら使い慣れてない言葉で。
どれだけいいものでも、ちゃんと宣伝はしないとだめなんだなぁ、と納得した様子。
押されるたびにぴく、ぴく、ときれいに整えられた耳を震わせ。
「ひゃふぅ――!?」
驚いたように、びくぅ、と強張らせた。
見えてないところで、不意打ちみたいに掛かる吐息には、ちょっとどころではなくビックリした。
「ぁ、うん、えと、今のところいたくない、大丈夫。」
動いてもよさそうなので、小さく頷きながら。
驚きでぱたぱたと、耳がせわしなく動く。
■耳かき屋、楢狗香 > 「認知度…ああ、認知度。ええ、そういうことでありんしょう。」
こちらは二度、言葉を繰り返すが
漢字に変換できなかったというより、概念を今読みこんだ、見たいな反応を返す。
「ふふ、では。」
良い反応に軽く笑うと、もう片方の手で動く耳を優しく掴みその指先で耳の穴付近の毛を掻き分けて。
明らかになった耳の穴、その入り口から少しずつ奥へ丁寧に耳かきを差し込んでいく。
こりこり、さりさりといくらか取って、おしぼりにふき取る。
くりくり、かりかりとふたたび取って、おしぼりにふき取る。
子守唄のようにも感じてしまうだろう規則的な動きで、耳垢が奥へと入り込まないよう軽いタッチで丁寧に動作を繰り返していった。
■柴木 香 > 「うん、にんちど。……うん――?」
少しの違和感。
知っている、とはなにかちがったような――?
「ん、ぅ――v」
とはいえ、こり、こりと耳を掻かれる心地よさにあんまり追及する気にもなれない。
ぱーたぱーた、とまるで合わせるように規則的に尻尾を揺らし。
耳かきを、綺麗になっていく感覚を、心地よく堪能してる様子。
■耳かき屋、楢狗香 > 耳かきの音色と、途中で使われた香油の残り香が畳と木の香りに混じって、穏やかな時間が過ぎていく。
やがて耳かきは細いものに取り替えられ―――
時間が飛んで。
気が付けば顔を相手の腹側に向けてあなたは寝入ってしまっていたのかもしれない。
もしくは、寝入っていなかったのに時間の記憶が曖昧になっている。
どこかで、何かのテロップが聞こえたような気がする。いや、きっと気のせいだろう…意味が分からないし。
Sanity…?
ほんの少しだけ、建物の構造に違和感を感じなくなっているかもしれない。
「…さ、そろそろ起きしゃんせ。」
あなたを抱きかかえるかのような姿勢で、ぽんぽん、と後頭部を撫でられた。
■柴木 香 > 「――ン………わふ……?」
頭を撫でる手に、目をぱちくり。
気が付いたら終わってた。なんだか残念な気がする……?
あれ、いつ終わったんだろう?
何か言われたような、聞いたような気もするけれど。
気持ちよかった記憶だけはあるのに、他の記憶がすごく、あやふや。
「あ、おはようございます……?」
しきりに首を傾げつつ、むくりと起きる。
耳がぴこぴこ、なんだかいつもよりよく聞こえる気がするのは気の所為じゃないかもしれない。
うん、最初に居た部屋。何も変わってない。
■耳かき屋、楢狗香 > 「どうでありんすか。
お か し な ところがあれば、おっしゃってくだし。」
すでに道具は片付けられていて、おしぼりや冷めたお湯が残っているばかり。
柴木くんが起きたときに落ちた、目元にかけられていた白布を手に取りながら微笑んでどうかと問いかけた。
「また…続きが欲しいと言う時は、いつでもきてくれていいでありんすよ。
ああ、お代は今回はあの看板と交換と言うことで、サービスしておきやした。」
そう…続き、のところでなぜか柴木くんから視線を外し、顔を斜め上…どこか、どこだろう。へ向けて。
再び看板のほうへめぐらせてから顔の向きを客に向けて戻す。
「少々お待ちんなし。もう一度お茶をいれやしょう。」
湯桶を抱え、再び奥へ。
■柴木 香 > 「――うん?うん。大丈夫。」
寧ろ調子がいい――気がする。
くるくると首を回して、耳を動かして。うん、問題なさそう。
「あ、うん――また来てもいいなら。くる。けど。
いいの?――ちゃんとお代は貰わないとお店として成り立たない?大丈夫?」
看板もタダ、というわけではないけれど、それはそれ。
えいぎょう用に持ち込んだだけで、お代の代わり――というつもりはなくて。
視線がつい、とそれたのにつられて見てみるけれど。なにもない?
「あ、えっと、ありがとう」
再び、ちょこんと正座。もう一度部屋を見回す。
うーん――あれ?来たとき何考えてたんだっけ、この部屋の、なにか。
■耳かき屋、楢狗香 > 「一人、サービスしたくらいで潰れるほど困窮しておったら、大変でありんすよ。」
けらけらとお客さんの心配を笑い飛ばす。
その程度ではまだまだ、いや、実際のところ経営がどうなっているのかはわからないが。
真っ当な考えではそんな収入より客足が順調にならなければ意味は無いのだろう。
そうして、再び最初に来たときと同じ紅茶を淹れて戻ってくる。
茶菓子は今日は羊羹のようだ。
「さ、どうぞ。」
茶碗と茶菓子が正座したお客さんの前に並べられて。
気が付くと額縁のなかには何か、それなりに有名そうな人物の肖像画がはまっていた。
誰だか思い出せないが…誰だっただろう。あのこちらを見ている人物の肖像は。
■柴木 香 > 「むぅ……そういうもの?」
そこまで言われて笑い飛ばされてしまえば、そういうものなのかなぁ、と思ってしまう。
ならそれ以上いうのもなんだかなぁ、なので。
「わふ。……今日のもおいしそう……ん、ぅ?」
視線は紅茶と、御茶請けに。この間、出してもらったのも、美味しかった。
なんだかんだで、これが目当てになってる気がしなくもない。
と、感じた視線に上を向く。
額縁だけの肖像画――目が合った。誰かいる。誰だろう。有名人?
■耳かき屋、楢狗香 > 「そうでありんすね。
これがもし借り家であったりすると大変なんでありんしょうが。物価が学生向けで助かっているでありんす。」
土地と建物は自前なので、苦労することはない。
文字通り、自前である。なんのことだろう。
紅茶と茶菓子は相変わらず、何の変哲も無く。
ただシンプルに美味しいだけであった。
「…?何か。」
額縁をもう一度直視するかどうかは、あなたの自由である。
■柴木 香 > 「あ、確かに安い……家賃掛からないのは大きい?うん。」
出納帳はしっかりとつけているのである。
これから倉庫とか借りると火の車になる、と思っているだけに、その差はよくわかる――
「ん?えと、あの人、誰だったっけ、って。」
もぐもぐ。羊羹頬張りながら、示すのは額縁。
額縁だけで不思議に思っていたのも忘れて。
そもそも絵が動くわけもないし、じぃ、と肖像画を見て思い出そうとは、してみる。
■耳かき屋、楢狗香 > 「ああ、あれは■ ■ ■ ■ ■ ――」
聞き取れない言葉で、何か名前を言う。
それを理解できてもいいし、理解を拒んでもいい。
知ってしまえば、当たり前のようにそう思うだろう。
「――物好きでありんすね。」
くすり、と笑った。
いつのまにかまた、少し時間がたってしまっていたようだ。
帰らなくていいのだろうか。
ずいぶんと時間がたったようだが。
茶碗はいつの間にか空になって、彼女はそれを片付けようとするところだった。
「…お代わりはどうでありんす?」
■柴木 香 > 「わふ?■ ■ ■ ■ ■?……聞いたことない。」
むぅ、と悩んだ。
聞いたことないけど見たことあるような。
そもそも発音できていないのだが、そこも気になっていない。
「ぅ?――そう?気になるだけ、うん。」
気が付けばお茶も空。
そんなに悩んでいたつもりもないけれど、何かおかしい。
「あ、おかわりは大丈夫、です。
うん、そろそろ帰る。」
渡すものも渡したし、あんまり長く居座るのも商売のお邪魔になってしまう。
なので、固辞しながら、立ち上がる。
それにしても、■ ■ ■ ■ ■ってなにした人だろう?
■耳かき屋、楢狗香 > 大丈夫、まだ大丈夫。
あなたはこちら側へは来ていない。
「おや。ではまたのお越しを楽しみにしているでありんす。」
彼女は茶碗を載せた盆をそこにおいて、
からん、ころん、と見送りにでてきてくれる。
耳かきはそう頻繁にするものでもないだろう。
でも彼女はまた来てくれるように、声をかけて見送った。その姿はやがて、遠ざかる―――。
ご案内:「奇妙な木造家屋」から耳かき屋、楢狗香さんが去りました。
■柴木 香 > よいしょっと、縁側に降りる。靴を履いて。
はっちゃん構える。うん、いつも通り。
「ん、それじゃあまたくる。――よいしょっと」
別に邪魔に思われてないならまた来てもいいかな、と思いながら。
がらこんがらこんはっちゃん引いて、門を抜ける。
あとはいつも通りの日常。
ちょっと耳の聞こえがよくなった、のは別の話かもしれない。
ご案内:「奇妙な木造家屋」から柴木 香さんが去りました。