2016/05/22 のログ
ご案内:「奇妙な木造家屋」に柴木 香さんが現れました。
柴木 香 > 今日ははっちゃんはお休み、お仕事の帰りでもなければ、お仕事で行くわけでもない。
手には和菓子屋の小さな袋。中身は竹筒入りの水羊羹。これがおいしいのである。

「……わふぅ」

味を思い出せばちょっと顔が緩んだりするけどそれはそれ。

お暇してるだろうか。
お仕事ではないのでちょっと控えめに。
ひょこり、と石垣から覗き込んでみる。――なにか音が聞こえた気もするけれどきっときのせい?

耳かき屋、楢狗香 > お客さんが石壁にそって歩けば音はぴたりとやむ。
すでに認められていれば問題はない。

ふと、いま気付いたような風を装って…いや、普通は今気付いたのだろう。どうしてそう考えることがあるだろうか。
湯飲みをそっと置いて、にっこり微笑んで手招きする。

「お待ちしてありんした。」

柴木 香 > 「……わふ?」

犬耳がひょこひょこ動く。
待たれてるとは、思っていなかった。

「あ、今日はお客じゃないです。ただの興味本位です?――お邪魔じゃないです?」

ぷるぷるとつま先立ちで背伸びして覗き込み、石垣越しにこくこくと頷きながら。
今日は――今日も?いつもお客は居ないけれど、大丈夫なのだろうか。

耳かき屋、楢狗香 > 口元を着物で隠し…口を開けたのだろうか、ふふふと笑う。

「かまわにゃでありんすよ。
真面目な話をすれば、耳かきを何度もすると耳の中が刺激で傷つくであらんせ。
どうにかできんこともありやせんが、おすすめはしないでありんす。」

連日通うようなものではない、というのも客が少ない理由だろうか。
立ち上がって一度奥へ引っ込むと、お客さん用の座布団を両手で大事そうにもって戻ってくる。

「このような場所で恐縮でありんしょが。」

目元を伏せ、自身の座っている場所の隣にそっとその座布団を置いた。

柴木 香 > 「あ、大丈夫です?」

覗いていた顔がにゅるっと下がる。
石垣に生えた耳がひょこひょこと動いて――
おっきい門をくぐりながら――あれ、前もこんな大きさ、だったっけ?
まぁいいや。

「う?このような場所?――あ、うん。大丈夫。おもしろいから。
 むしろ僕が恐縮しないといけないと思います。」

ぶんぶんと首を振って否定しつつ、お邪魔します。
なんというか、変わってるので面白いのだ。……何がどう変わってる、とか聞かれると困るけど。

耳かき屋、楢狗香 > ひょこひょこと動く耳。そしてその頭に視線を固定する。
じっとその、屋敷が常に少し暗いため分かりづらい縦長の瞳と、丸い瞳の向く先がお客さんの頭部に固定されている。

「……相変わらず、面白いお方でありんすな。
どうぞお座りなすって。畳のほうがよろしおす?」

縁側で失礼、と言う意味だったのだが、建物のことを言われるとは。
迂遠な言い回しだったかと少し反省も交える。

柴木 香 > 「わふー。あ、縁側で大丈夫です。」

こくこく、と、何やらずっと首を振ってる気もするけど。
ちょこん、と勧められた縁側に座る。
相手の葛藤など知る由もない。

「――面白いです?僕。」

ぴこぴこ耳を動かしながら。
一回目は警戒と緊張で、二回目は寝ちゃって。
ちゃんと見れなかった家の中をきょろきょろと――慣れたからだろうか、好奇心を隠す様子もない。

耳かき屋、楢狗香 > 「では、お茶をいれてくるでありんすね。
遠慮せんでくだしゃんせ。お客さんのために、人に聞いて用意したもんでありんす。」

自身の湯飲みも盆に載せて。
奥へと引っ込みながら…電気ケトルで湯を沸かす音。

問いかけには奥から答える声がする。

「こう何度も来てくれるだけで、面白いでありんす。
…その」
答えになっているようでなっていない。そして言葉は一旦途切れて。こわれたテープのように。
「頭、整えてさしあげやしょうか?」

声がどこかに遠く、近く響いた。

何も乗っていない神棚などは、そのまま。
額縁が飾ってあった場所――記憶してしまっているのなら、だが――には萎れかけの花が飾ってある花瓶が、かかっていた。

柴木 香 > 「わふー……あ、えと。――ありがとうございます。」

ぺこん、と勢いよく頭を下げれば、括った髪が跳ねた。

「そういうもの?――みみかきやさん、ってえーと、常連客、多そうに思ってた、です?」

初めてくる、よりもまたくる、の方が多い、と思ったのは。
してもらったみみかきが寝ちゃうくらい気持ちよかった、というのもあるけれど。
でも今の言い方だとあんまり繰り返し来る人は少ないみたい。
不思議な言い回しにかくり、と首をひねり――

「――――あたま?みみじゃなくて、えーと、髪の毛?でもなくて?」

近くで聞こえた――気がした声に振り返ってみても、誰もいない。
縁側から室内を見回してみても、奥に引っ込んだおねーさんがいるはずもなく。

「あれ?……■■■■■さんがいない。」

見回す視線が枯れかけた花瓶に気付いた。あそこに居た人――は何処に行ったのだろう。

耳かき屋、楢狗香 > どちらにしようか迷ったが、味見が澄んだのは今のところこちらだけ。
玄米茶を急須に量りいれ、湯を注ぐ。

「それほど繁盛してもなし。
屋号としてはただ用無くいらしても気にせんでありんすが…そうもいかぬが人の号、といったところかと存じんしょう。」

一人でやっているからと言うことも忘れない。
そしてお茶ものみに来ない、と言う意味に取れるかもしれないが…
その逆で、お茶を目当てに来てお茶だけが目的ではなくなる、ということもあり。

木箱をそっと手繰り寄せて、中身を確かめる。
今日取り出すのは散髪道具のようだった。

「耳の外の毛を先日、整えやしたでしょう?
耳と、髪、全体を揃えておいたほうがよきかと考えたでありんすが。」

髪の毛を、ということのようだ。

何かがいない、と言う言葉には微笑んだまま、首を傾げただけで。
お茶が、入った。

柴木 香 > ■■■■■さんは何処に移動したのだろう、と視線は部屋をくるくる回る――
とはいえ、部屋一つ見回すくらいならさほど時間もかからず、みつからなければそれまで。

「なるほどー……お店だから、あんまりお邪魔するのも、とか思ったりはするです?
 ――いや、お邪魔してるんですけど。」

視線を戻せば、お茶を入れてるおねーさん。
素直に、あんまり常連客もついてないのか、と納得する――。
耳かきしてもらいに来るなら、やっぱりお客さんは居るはずだし……。

「ぅ?散髪もしてるの?」

先日と似た――同じ?道具箱から出てくる道具を見ながら。
耳かき以外もやってる、とは思ってなくて、ほへー、と。

「え、と。うん。――おことばにあまえていい?なら。お願いしますっ。」

言われてみれば、耳だけ整えて、他はそのまま――というのは気持ち悪いのかもしれない。
ならおねーさんはそういうの気にしそうだし。

耳かき屋、楢狗香 > 「―――なにか、御気になりやした?」

お茶の茶碗を差し出しながら、きょろきょろする様子にそう尋ねる。

「どちらかといえばひとも寄り付かぬよりは、こうして来て頂いたほうがうれしいでありんすよ。
はい、では僭越ながら御髪(おぐし)いじらせていただきやしょう。」

柴木くんの首に背中から回すようにふわっとタオルをかける。
白い指先が彼の鎖骨の周りをなぞる様に触れ、背中から手の感触だけで確かめるように彼の服の襟のジッパーを少し下ろした。
そうして折った襟のスキマにタオルをねじ込んで。

柴木 香 > 「わふ?……あ、ありがとうございます。
 ……えっとね。この間あそこにあった、人の絵がない、って。気になってたのに。」

差し出されたお茶を受け取って一口。やっぱりおいしい。そうしながら飾られた花瓶の辺りを指さす。
この間来た時には確かにあった――と思うけど。あれ?そもそも絵は飾ってあっただろうか。

「ん、お願いします……
 あ、えっと。じっとしてるだけでいい?」

しゅるり、と髪を束ねていた紐を解けば、肩口より少し長い、くらいの髪が広がる。中性的な顔立ちも相まって、こうなると性別が分りづらい。
手慣れた様子で準備していくおねーさんに。一応確認。
みみかきと同じで――ちょっとおちつかない。尻尾ぱたぱたとせわしなく振ったりする、ぴこぴこと耳動かしたり――

耳かき屋、楢狗香 > 「おや、まあ。でも―――」

瞼を細めて。

「必ずしも同じものが同じところにある必要はないでありんしょう?
ほら、そこに。」

指差したその先には、なぜか障子に突き刺さったようになっている額縁が。
この言葉で納得できるだろうか。納得してしまえば。何か大事なものを失ってしまうような気もするだろう。


「まずは後ろからととのえやす。
動かぬようなときはいいなすんで、冷めぬうちにお茶をどうぞ。」

落ち着かせるような穏やかな声が後ろ上あたりから緩やかに響いて。
風の気配で作業しているのが分かる。

後頭部の髪の襟足をつまんで、長さを確かめて。
櫛を通して、しょきん、しょきん。しょきん、しょきん。

慎重に、リズミカルに鋏が閉じられていく。

柴木 香 > 「あ、模様替え――です?」

かくん、と首を傾げ、指の先を視線で追えば――

「わふ?……わふ、あった。
 えーと、■■■■■さんって結局なにしたひとです?」

刺さってるけど、気にしてるのはそこじゃなくて。
描いてある人が気になってるだけだったりする。蓼食う虫も好き好き、絵を刺す人もいるのか―、くらいな。

「はーい、わかったー……」

動いても問題なさそうなら尻尾ぱたぱた。小さくこく、こくと頷いて。
しゃきん、しゃきん、と小気味よく響く鋏の音が小気味よい。

耳かき屋、楢狗香 > 今の固定された姿勢の状態だと、その様子はよく見えないだろうが。
障子紙を貫いているのではなく、そこにあるのが当たり前のような。

「…さあ。
屋号は無知無学にありてあまり詳しくはありゃあせん。
申し訳なく思うでありんしょが…。」

やや、何処かしゅんとした様子。
本来ならば。本来ならば気の効いた。応えを返していたところなのだろうが。

それにあわせて一度手も止まるものの、たいした時間ではなく。
うなじに時折指先が触れられながら、後ろ髪を下から上へ、ゆっくりと鋏が挙がっていく。
しゃきん、しゃきん しゃきん、と昇る音。

少しだけのびた耳の毛も鋏の先端が触れるか触れないか、と言う感触がくすぐったいかもしれない。
ちょき、ちょき。
細やかな鋏使いで、先のほうだけ使いながら耳の毛と髪の境目を整えられていく。

柴木 香 > 当然なら当然で当然なので、――当然がゲシュタルト崩壊してきた気がするし、気にしない。
よく見えないし。終わったら近くで見てみよう、そうしよう。

「わふ、おねーさんもご存じないなら仕方ないのです。
 ……今度調べとこう、うん。」

気にはなっているけれど、理由があるわけでもない。なんとなく、なんとなく。
なので、手が止まるほどに落ち込んだ気配にはちょっと驚いてフォローをいれてみたり――。
最後は独り言気味に。調べるなら百科事典かなぁ、と首を傾げた。

ぴくぴくと耳を震わせる。
耳を触られるのはくすぐったいけれど、根元は特に、そう。
事前に言われてなければ飛び上がるし、気に入らない相手に触らせるものではないから、普段は隠してたりする――

耳かき屋、楢狗香 > ちょき。
一太刀入れて鋏を離し、櫛を入れて整える。
髪と毛の流れに沿って。耳の境目から耳の先端へ。もしくは後ろ髪の襟足へ。
すっと櫛を通して、抜く。もういちどすっと櫛を…どこか櫛の歯が蠢いているように、隣から見ていたら思ったかもしれない。

後ろに目があるわけではない身ではわからない。

「そうでありんすか。しかしこう無学ではお客さんとの会話に支障がでやす。
気の効いたことひとつもいえやせん。…ああ、少し愚痴のように、お忘れなしって。」

会話が続かなくなってしまうことを懸念したように。
とりあえず言葉にだけだしてながら、作業を続ける。

大きく切るわけではない。
後ろの髪は大体整え終えると、前へと膝立ちで縁側の板を擦りながらその身を移動させる。

「前髪を整えなすんで、お茶はひとまずおきしゃんせ。
目にはおきをつけを。」

正面に胸元が。
すっすっと、前髪に櫛を通す。

銀色の鋏が目の前に掲げられて、珍しく彼女は真剣な顔をして見せていた。

柴木 香 > 「んー……v」

尻尾ふりふり、整っていけばなんともいえない清々しさ。
後ろで起きているかもしれないなにかには気付くわけもなく。

「むがく。ならさんむがく、はないと思うけど。――うーん、勉強する?学校行く?
 せっかくおっきい学校あるし……勉強しなくても、本読むだけでもいい、と思うし。
 ……ん、忘れとくー。」

こくこく、頷く。たぶん僕よりはよっぽどモノを知ってるし――。
そうは思うのだけど、忘れておく、といえばそれ以上触れる気もなし。

「わふ?――うん、動かないようにする。」

頷きかけたけど、真剣な顔にぴた、と止まった。
揺れる尻尾も同じように。
間近で向かい合ってみると、おねーさんって色だけじゃなくて、変わった瞳してるなぁ、と少し気になったり。

耳かき屋、楢狗香 > 「そういえば、学園のある島だったでありんすね。
そう…生徒。少し考えておきやしょう。いいことをお聞きしたでありんす。」

ありがとうと礼を述べるのも忘れない。

ふっとその表情が微笑みに変わって、五指の指先がもみ上げをなぞって頬をくすぐった。

「縦に入れていきやしょう。
長さはあまり短くないほうがいいでありんすか?」

その言葉通りに、縦に鋏をゆっくりと髪の束に入れて しゃきん。
微かな髪の欠片が床に落ちていく。
ほんの少しだけ、乱れた髪を切りそろえていって。

「……いいこでありんすね。」

きちんと言われたとおりに止まった様子に、そっと囁く。
そうしてしゃきん、と整え終えた。

柴木 香 > 「うん、学校あるし。お店の合間にでも行くといい?と思う。
 あんまり切羽詰まって出席―、とか言われないし、お店しながらでもたぶん行けるです。」

少しだけ尻尾がぴくり、と。振りそうになったようで。
慌てて止めた。動いちゃいけない――。

「ん、短くない方がいい……目にかからないくらい、でいいです。」

答えを返しつつ――しゃく、しゃくと入っていく鋏をぽけっと見てみる。
お仕事道具だけあってちゃんと手入れされててすごいなぁ、とか、綺麗な指だなぁ、とかぽけーっと取り留めなく――

「わふ。もう子供じゃないですから。――あ、終わりです?終わりです?」

少しだけ、胸を張るそぶり。
鋏を置いたのを見れば、そわそわと。なにやら許可を待つ犬のような様子で聞いてみる。

耳かき屋、楢狗香 > 我慢している様子につい、口元に手をやってくすりと微笑む。

「尻尾までは止めなくてもようごじゃんせ。
それに…面白かったから黙っておりやしたけど、さきほどから凄く当たってたでありんす。」

後ろ髪を整える時にぽふ、ぽふと当たっていたらしい。
締めに櫛で全体の髪の毛を払い落とし、正面から彼の胸元に手をつっこんでするりとタオルを引き抜く。
軽く拭うようにそのあたりについた髪の毛を払って。

「はい、終わり。
どうぞ動いて…ああ、お茶は髪の毛がはいってしまったでありんすね。」

すっ、と茶を下げて道具を片付ける。
その間暇だろう、と姿見…身長の半分程度のものだが、それをそっと彼の前に差し出した。

柴木 香 > 「あ、尻尾はいい?――わふ……」

少し、顔が赤くなった。
じっとしてたつもりなのにぽふぽふあたっていたとか、恥ずかしい。
今度こそは―、とじっとしつつ――やっぱり尻尾はぱたぱた動くのだが。

「わふ、大丈夫です?はふー……」

じっとしてるのはやっぱり苦手。
了承が出れば、耳はぴこぴこ動くし、ぶるぶると首を左右に振って――
下げられるお茶に、もったいない事したな。と。
せっかく用意してもらったものをダメにするのは、うん、悪いと思う。

「うー……ちゃんと避けとけばよかった、ごめんなさい。」

なので、道具と一緒に片づけてくれるおねーさんにぺこり。
お茶の代わりに差し出された姿見には、おねーさん散髪屋さんも出来そう、とか思っちゃうくらいにはすっきりした姿が映る。

耳かき屋、楢狗香 > かちゃかちゃと食器を弄る音と、水の流れる音が聞こえてくる。
その奥から再び声だけが通るように。

「いえ、どうせ冷めて埃もはいるでありんしょ。
…具合はどうでありんすか。
そうそう、掃除した耳の具合も…調子や異常とかなければ。」

謝罪には苦笑したような気配が伝わってくる。
そうして会話しながら再び入れなおしたお茶を二人分盆に揃えて戻ってきて。

「先日こういうものを買ったんでありんすが…。」

茶菓子にシガール…葉巻のような形をしたクッキーが用意されていた。

柴木 香 > 「うー……。ぅ、その通りなんですけど。」

そうは言ってもらっても、もったいないことした、と反省してしゅんとしてしまう。

「――あ、具合の方は大丈夫、です。です。理髪店もやれそうです。
 耳?……も。異常とかはないです。よく聞こえるようになったかも、くらいです。うん。」

ばっちりです、完璧です。と。髪を再び後ろで束ねなおしながら。
耳の方、と聞かれても、特に異常とかあった気はしないし。――よく聞こえすぎるくらいかもしれない、けど。

「わふ?――あ、さくさくしてておいしいやつだー……商店街です?」

出されたお菓子にはぴくん、と反応する。
実益で―――半分以上は趣味で。甘味マップ作るくらいには目が、ない。

耳かき屋、楢狗香 > 「ああ、ご存知で?」

そのとおりに、学生通りのあたりで購入したもの。
バターの香りが鼻をくすぐる。

「そうならよきにありんす。
手慰み程度にすぎんしゃんせ、理髪店とまでは言い過ぎでありんすよ。」

そうして次なる客が来るまで会話をしばらく、楽しむ。

なお、その会話の後ろで額のあった場所に会ったカビンではあるが。
五指の見慣れぬ花が飾ってあったままであるものの、どこか元気を取り戻したように見えた。

花弁が五つ、ではなく指が五つ。
花は花。
半ばで折れ曲がり、だらりとしただらしない様子を見せていた。

柴木 香 > 「うん。ちょっとお値段張るけどおいしいの。」

学生的に言えば、店のちゃんとしたお菓子はどれも値段が張る印象なのだ。
尾行をくすぐる香りに、両手で持ってさくさくと。

「うーん、みみかきだけじゃなくて、やればいいと思うです?耳かきだけ、よりは人もきやすくなるです。
 ――多分ですけど。」

そんなことはないけどなぁ、と思う。
おねーさんならどっちもやってセットで――とかなら絶対お客さんも来るのに。
と。

「あ――ちょっと元気になった?指しおれてない。」

ふと、視線を逸らした先の花瓶は――なにやら少し背筋が伸びたような。
なんでかはわからないけど。元気になるのは良いことだよね、と。
――綺麗な気はするけど、しおれてるとちょっともったいない、残念。

耳かき屋、楢狗香 > 「お気に召したならよかったでありんす。
ううん、さすがに耳かきの他に手を広げるにはまだまだ手が足りやせん。」

もう少しまともな手の2,3本…と、呟いて。
ぴくりとカビンの花が微かに動く。風だろうか。

「――ええ、元気なようでよごじゃんした。」

その様子に微笑んで相槌を。
茶菓子とお茶が空になるまで、穏やかな時間を風が通り抜けていった。

水羊羹があったきも、どこかしなくもない。

ご案内:「奇妙な木造家屋」から耳かき屋、楢狗香さんが去りました。
柴木 香 > 「むむぅ、難しいです?――ならそのうち、です。
 みみかきだけでもおきゃくさんは呼べる、はずです。うん。」

儲かれば人を雇う余裕も出るし、そうなれば――あれ、そうなるとおねーさんが髪切るんじゃなくなるし。
ならやらなくてもいい気もするけど。まぁいいか。
気にいってるのでこくこく頷きつつ――

「やっぱり元気な方がいいです。……もうちょっと?」

しゃきっと背筋が通ればきれいな気がするなぁ、とぼんやり眺める。
もぐ、もぐと――シガール?水羊羹?をぱくつきつつ。

時間が過ぎていく――

ご案内:「奇妙な木造家屋」から柴木 香さんが去りました。