2016/07/05 のログ
ご案内:「奇妙な木造家屋」に耳かき屋、楢狗香さんが現れました。
■耳かき屋、楢狗香 > しとしと しとしと
本日小雨日和につき。
その石壁に囲まれた古民家風の建物は晴れた上空からはよく分からない位置にあって
縁側で異邦の女が静かに雨の音を楽しんでおりました。
「…こういう日は。客足も静かでゆたりとしてありんすね。」
目を閉じて、柱に身をゆだね。
ぴちょん。
ご案内:「奇妙な木造家屋」に寄月 秋輝さんが現れました。
■寄月 秋輝 >
光学迷彩を纏い、空から降りてくる。
ピンポイントで店の正面、着地して姿を現す。
魔力フィールドで雨をしのいできたのか、傘はないが濡れても居ない。
「こんにちは。
約束通り、来店させていただきました」
ぱっと魔力防御を払うようにして雨水を吹き飛ばす。
女性と目を合わせ、ぺこりと礼を一つ。
■耳かき屋、楢狗香 > 「あら。あらあら。」
彼の降り立つ少し前から、ふと空を見上げる。
円を描くように静かに左手を持ち上げ、そっと己の頬に手のひらをあて。少しだけ小首をかしげた。
「これはまた 大胆なお越しにありんせ。
ええ、ええ。その節はどうもお世話に。よぉくにサービスさせていただきとう。」
ちょん、と指先揃え、軽く頭を下げて。
すぐに縁側軒下屋根の下に参るよう促す手つき。
すでに屋根の下?さあ。
■寄月 秋輝 >
「楽しみにしています。
では失礼して」
ひたひたと入ってくる。
少しだけ、珍しそうに中をくるりと見渡す。
さすがにこんな店は経験も無い。
■耳かき屋、楢狗香 > 「少々おまちんなし。いま茶を用意いたしゃあすゆえ。」
床板に手を付いてそっと立ち上がる。いや、手をついたのは柱だろうか。
床板は柱であり柱は屋根であり屋根瓦が扉であり扉は楢狗香に繋がっている。
表と裏側の入り混じった、三次元の領域を冒涜する構造。
そしてそのすべてが其れを あたりまえだろう? と訴えかけてくる。
「濡れ…ては、いないようでありんすね。
畳のほうまで、どうぞ。」
彼女は畳の間を通り過ぎざまに一つ、座布団をそこに用意していく。
そうして調理場へと消えて言った。
すこしすると、水の音が聞こえてくる。
こぽ こぽぽ こぽ。
■寄月 秋輝 >
ほんのわずかに目を細める。
なるほど、これは異常だ。
頭の中の常識すべてが破壊される。
やはり踏み込むべきではなかったかな、と考えるが、後の祭りである。
「はい、お邪魔します」
そこに『当然のように』踏み込み、畳の間へ。
用意された座布団に座り、静かに待つ。
■耳かき屋、楢狗香 > 部屋に入ると障子には窓穴が開いており、その向こうに静かな雨に打たれる庭石の様子がわずかに覗く。
そしてそれらがときどき、不可思議に入れ替わる。風流なものではないでしょうか。
湯の沸く音。からん、からんと氷が陶器に音色を立てて。
しばらくすると氷の入った器と硝子のポットを載せた盆を手に、戻ってくる。
中身は緑色の透き通った煎茶のようだ。
湯を入れてさっと一分ほどたったそれを、茶碗に静かに注いでゆく。
「さ、どうぞ。
それで本日はどういやしやしょう。」
茶菓子のマカロンと共に氷の浮いた茶碗が差し出され。
そして何を望むのかを問いかける。
静かに伏せ気味になっていた目が真っ直ぐに向いた。瞳孔が違う。
■寄月 秋輝 >
ほんの少し安心するような茶の香り。
この安心感は自分がまともである証拠だと信じながら。
いただきます、と茶碗を取り、静かに啜る。
「耳かき、と簡単に聞いてはいましたからね。
とりあえずはそれを……他に何をしてらっしゃるのです?」
茶碗を丁寧に置きながら、耳かき以外のことを聞いてみる。
正直こんな店には慣れていない。
■耳かき屋、楢狗香 > 真っ赤な唇が、くの字に 歪められる。
「―――なんでも。望めば。」
それは笑みだった。たしかに笑みだった。
「…屋号にできうることに限りやせが。
いやしのひととき、非日常の空間を楽しんでいただければ、ある程度の要望はお聞きしていんす。
そしてもちろん、その分の特別料金も。」
補足を付け加え。
そしてそばの箱を手繰り寄せ、そのなかから道具や小瓶を取り出してゆく。
湯もタオルもすでに用意されているようだ。調理場に行った時にだろうか。
「では、とりあえずみみかき…で、よろしありんす?」
彼女は正座を座りなおして。
白い繊手が ぽん ぽん とその膝を手で叩く。誘うように。
■寄月 秋輝 >
あ、これは下手な頼みをするとヤバいな、と直感で感じた。
本当にかなう分、何をどれだけ持っていかれるかわからない。
「……手持ちが多いわけではないので、まずは耳かきだけで。
それ以上のことにどれだけ料金が必要か分かれば、また別でお願いしましょう」
そこに近寄り、膝の上に頭を置く。
同時に異能を切り、視界外の色を判別できなくする。
直視したら死ぬ気がする。
■耳かき屋、楢狗香 > 「はい。」
諾、の返事を返して乗せられた頭を軽く手で抑える。
柔らかく、それでいて軽く耳の後ろのツボを揉むような手つき。少し気持ちよさを感じてリラックスできるだろうか。
もう片手は首から肩に添えられていて、その場所をほぐすように。緊張もほぐれるといいのだが。
「まず耳を一度みせてもらうでありんすね。どれどれ…?」
彼の…お客さんの耳の様子を確かめる。
普通の耳だろうか。変わったところはないか。特徴などあれば…それらを見透かすようにじっと覗き込む。
いまのところ、異常は おそらくない。
■寄月 秋輝 > 「ふー……」
耳のマッサージ。頭が軽くなるようだ。
耳と肩のマッサージのおかげで、ずいぶんと体が楽になる。
こんなのも悪くはない、と心の中。
さて、異邦人ではあるが、こちらの世界の人間の耳と変わらない。
おそらく耳かき屋の見てきたものと変わらず、また仕事の内容も変わらないだろう。
随分と落ち着いた様子で、目を閉じている。
■耳かき屋、楢狗香 > 様子を確かめると、蒸しタオルを手にとる。
程よい熱さに整えたそれで、彼の耳を丁寧に包み込むようにかぶせ、拭いていく。
こちらもツボを心得た動き。
こうすることで毛は柔らかくなるし、リラックスして耳の穴も処置しやすくなるのだろう。
両手の指先で耳介を丁寧に、丁寧に揉んでいく。
少しだけ小雨のせいか涼しい温度の屋敷に、タオルの熱がさわやかだ。
「綺麗にしておいででありんすね。
なかはそれほど手間かかりやせんでしょうから、外側に少し念入りに。」
一通り揉むと、きゅっと押さえる様にしてその熱をしみこませる。
■寄月 秋輝 >
「えぇ、まぁ……耳をタオルで拭う程度ですが。
月に一度くらいは、自分で耳掃除もしていますしね」
慣れない耳への刺激に時折体を固くさせながらも、ひとまずは落ち着いている。
耳への温かさ、女性の体温。
リラックスは出来ているが、それでも慣れないものは慣れない。
ほんの少しだけ、眉根に皺が寄っている。
■耳かき屋、楢狗香 > 膝の感触は程よく柔らかく。上にはみみかきの邪魔と着物ゆえだろう、押さえつけられた胸元があって。
帯?それほど分厚くは無いようだが、どこか奇妙な感覚を覚える。そこから視線を感じるかのような。
「耳の手入れは大事にありんす。
…髪結いはどの程度に?」
しばらくそうやって耳に熱を込めたのち。
拭き取るようにしてタオルを離す。外気の涼しさがいっそう感じられるだろう。
髪結い…床屋か美容院か。髪をきる頻度を尋ねながら彼女は鋏を手に取っていた。
しゃきん。
■寄月 秋輝 > 「髪結い……えぇと、切る頻度ですか。
二月に一度ほど……そのはさみは?」
さっぱりした耳に、届いてくる鉄の音。
髪にそれほどこだわりがあるわけではないが、あまり切られるのも気分がよくない。
片目だけぱちっと開け、はさみを見てみる。
■耳かき屋、楢狗香 > 「耳周りを少々整えと思いやし。
やめておくでありんすか?」
しゃきん。
と大きな音は立つものの、先端で少し整えるだけの道具のようで。
否といえば引っ込めるのだろう。開かれた彼の片目を胸丘の向こうから覗き込むようにして、返事を待っている。
■寄月 秋輝 >
「出来れば髪には触れない方向でお願いします。
邪魔なら他の手段で留める程度に……」
大きな胸に視界が阻まれる。
が、なんとか目線は届いたようだ。
柔らかい胸がなんとも魅力的だと思う。
■耳かき屋、楢狗香 > 「いえ。毛を剃るついでにありんすゆえ。
無くばなくともかまいやせん。」
鋏を布の上に置く。剃刀に一度触れて、小瓶を手にとる。
中身を少しだけ指先に出して。
「…少し、ひやっとしやんせ。」
伸ばすように耳に塗る。耳介のふちをなぞるように、下から上へ。
薄く塗られた香油の跡を追うように、剃刀が表面を滑っていく。
すっ、すっ。
触れる感触も剃刀の鋭さも、それぞれ違うくすぐったさがあるだろう。
耳のふちから裏側、耳の付け根。そして耳介の入り組んだなかを器用に、剃刀の先端が静かに嘗め尽くしていく。
■寄月 秋輝 >
「ありがとうございます」
再び目を閉じる。
初めて感じる、耳に塗られる香油の感覚。
さらに耳の周り、耳の中の毛を処理される感覚。
「……本業の耳かきって、こんなことまでするんですね」
感心した様子で呟く。
ぞわぞわする、不思議な快感。
悪くない気分だ。
■耳かき屋、楢狗香 > 「匙で掻いて終わりでも気持ちよくはなりやせが。
やはり耳としてさっぱりとしてもらいたくもありんすから。それにこういう場所にも垢は溜まりゃあせ。
特に毛は耳垢の絡まりやすいものにありんす。」
剃刀を器用にふるって耳の穴の周りまで迫る。
しょり、と小刻みに動かして作業を終えると、剃刀を置きながらもう片手で軽く寄月くんの頭を押さえるように力をこめた。
「次は耳の穴に剃刀をいれやせ。
くれぐれも、じっとしていておくんなまし。」
顔を近づけ、覗き込むような気配。集中するのだろうか。少し後頭部に、何かの柔らかさが押し当てられる気がする。
■寄月 秋輝 >
「な、なるほど……気にしたこともありませんでした」
妙に感心した様子。
新しいことを知るのは、こういった妙なタイミングが多い。
頭を抑えられて、少しだけ身をよじるが。
「カミソリ……わかりました」
じっとしていろ、と言われて大人しくなる。
後頭部の柔らかさに、少しだけ嬉しくもなりながら。
■耳かき屋、楢狗香 > 「半分はこういう商売柄の矜持でもありんすが。」
膝、乳、手の三点保持。
獲物の固定は完璧です。
刃の細い細い剃刀――穴刀を手にとる。
みみかきのようにそれを慎重に耳の穴に挿しいれて、小刻みに皮膚表面を剃っていく。
わずかに動かして、離し。
わずかに動かして、離す。
もし、もしも見れればだが。
その穴刀の刃は冒涜的で奇妙な動きをしていたかもしれない。だがそこは光届かぬ耳の穴。誰も見ることはおそらく無い。
くねくね くねくね
そうして、耳の穴中の毛を整えて。
「もういいでありんすよ。
でも剃った毛を取り除くので少々お待ちんなし。」
と声をかけ。
小箱から謎の管をするすると伸ばす。先端には銀色の細長い棒のような。なんだろう?なんだろうね、にいちゃん。
■寄月 秋輝 >
「ん……ん……」
わずかに顔をしかめる。
耳の毛の処理、今まで触れたことのない場所への刺激はどうも不快感に近い何かを感じる。
それも、なんとなく生物的な動きのような……
だが動くなと言われたことは守り、一切動かない。
「う……はい……」
耳の毛の処理? と小さく疑問に考える。
まぁでもそれも仕事なのだろう、と考えて大人しくしている。
目を閉じているから、何も見えない。
ある意味それが幸いというべきだろうか。
■耳かき屋、楢狗香 > 取り出した管は吸引管。
耳鼻科などで使う小型の掃除機のようなものだ。
「少し音しやしゃんせ。」
耳の穴に差し込むと風の音が響く。
すっと入り口に差し込んで。すぐに取り出した。元から綺麗だったので、多少味気の無い方法でもさほど変わらないのだろう。
管の先が何に繋がっているかまではわからないが。
すぐにその作業は終わり、管も箱のなかに片付けられる。
そして本命の竹の匙を手に取って。
「では竹匙をつかっていくでありんす。」
もう乳は後頭部から離れていた。
耳介の外側の溝をゆっくりと、大き目の匙のへらがなぞる。
さりさり くっ さり さりさり くっくっ
ときおり、ツボを刺激するように軽く押されながら。
あくまで触れるだけのような軽い刺激が毛の剃られた少し敏感な皮膚に当てられていく。
■寄月 秋輝 >
「うぇ……はい……」
正直、秋輝ちゃんはそういうのが苦手である。
鼻の奥の吸引とかも苦手だった。
ちょっとだけ嫌そうな顔をしつつも、なんとか乗り切った。
「……お願いします……」
耳の溝を撫でられ、ぞぞっと全身の毛が逆立つ。
体の反射はなかなか抑えられないものだ。
時々体を小さく震わせながらも、じっと耐えている。
■耳かき屋、楢狗香 > 彼女はそんな苦手そうな反応を見てくすりと微笑んでいたかもしれない。
もしくはそれは邪悪な笑みだったのかもしれないが。心中察するにはあまりにも異形すぎた。
耳の上から下になぞっていって、耳たぶにたどり着く。
この場所は垢はさほど溜まりはしないだろうが、つぼの集中する場所だ。
特に顔のツボはこのあたりになる。
そのあたりを匙の曲がった部分で念入りに、顔の筋肉がほぐれるよう押していく。
くすぐったさよりマッサージによるリラックスを優先させているようだ。
「まだ外側にすぎやせんが、どうでありんしょう。」
もう片方の指先で耳たぶを押さえて、くっ くっ と押していく。
目元の疲れ、口元の緊張などを少しずつ、凝り解すように。
■寄月 秋輝 >
マッサージが主体になって、なんとなく気が楽になってくる。
むずむずする感覚を抑え、大きく息を吐く。
リラックスしろ、と言われているような気がした。
「……はい、気分がいいです」
目を閉じたまま呟く。
偽りない感想である。
体の力を抜き、少しだけ頭をずらして、膝の上に頭を乗せ直した。
■耳かき屋、楢狗香 > 再び耳のみぞをなぞる動きに戻る。
先ほどまで押していた耳たぶには柔らかく、もう片方の手の指先で擦るように触れて。
その感触は細く、小さく、すべすべとしていた。
さりさり さりさり
こんどはさらに薄く、柔らかいなぞり方。
慣れないのかと少し触れ方を変えたようで。
「さきほどはああも言い申しんたが。
気持ちよくなってもらうのもやはりみみかきの本分にありんす。
…でありしゆえ、そう言ってもらえれば冥利に尽きると言うもの。」
少し嬉しそうに。
やがて溝を辿っていって、奥まった耳の穴の入り口へとたどり着く。
さりかり かりさり。
入り口の縁を円を描くように、匙が踊りわずかな欠片をすくい清めて。
穴の中へ突入まではせず一度竹匙のみみかきを拭って布の上に置いた。
■寄月 秋輝 >
「ん……」
ぞく、と震えるが、なんとか抑え込む。
多少は慣れてきたか、それもじきに収まってきた。
「……人に耳かきをしてもらったことが無いもので……
ほかに表現できない、というのもありますけれどね」
苦笑しながら、耳かきをじっと受け入れる。
耳の中まで匙が入ってこないことに、少し怪訝そうに。
首を動かすことで、尋ねてみた。
■耳かき屋、楢狗香 > みみかきやは最初に使った竹匙より一回り小さい、中程度の大きさの竹のみみかきを手に取っていた。
「人型でしてもらった経験がない、というのはこちらのお方だと珍しいでありんすね。
もしや異邦の民でありんしょうか。」
日本だとまあ、みみかきというのは他人がすることのできる道具だ。
外国でも子供相手に綿棒でというのはあるだろう。まあ外国のことまで含めてこちら、とは言っていないようだったが。
首が少し動く様子に、ああ、と気付いたように、そして微笑んでから目の前に竹匙を差し出してくる。
目を開いてみるかどうかは、当人次第にはなるが。
「あまり大きいものを使うと押し込んでしまいやす。
奥に向かうほど、徐々に細く。そうしたほうが効率がいいでありんすから。」
ツボを押すのに細くては痛過ぎるし。
穴に入れるのに大きくては扱いにくいのだろう。
その中程度の大きさの竹匙を見せ付けてから。
耳の穴の浅い部分に差し込んでいく。少しずつ、少しずつ奥へ。撫でるように。
さりさり かりさり。
■寄月 秋輝 >
「あ、あぁ、いえ……他人に、という意味です。すみません。
異邦人ではあるんですが、元居たのもここと似たような世界でしたから……」
日本に近い世界の生まれだっただけに、ここにはなじんでいるのだが。
少しだけ目を開けると、竹匙が映った。
「なるほど……
自分ではそんな気遣いもしたことがありませんでした……」
再び目を閉じる。
耳奥を掃除される感覚にうっとりとしている。
■耳かき屋、楢狗香 > 誤解だったようだが、推測自体はあやまちでもなかったようで。
あら、とすぼめた唇から吐息が漏れる。
「そうでありんしたか。
いえ、このあたりの異邦の方だと耳掃除自体したことがない、というのも珍しくないでありんすゆえ。
店でというとなかなかこちらでも経験するものは確かに。」
匙をもう一度、一番小さな竹匙に交換する。
垢が多ければ小刻みに拭き取る必要があるが、こちらは奥まで届いても問題はない。
再び覗き込むように、すこし前傾になって。最も気持ちのよいあたりを柔らかく刺激していく。
こりこり。 こりこり。
垢自体はみみかきといってもさほど気にするほど無く。
ときおり匙全体を抜き出して拭いながら、リズミカルに耳の中を掃除していく。
こりこり。しとしと。こりこり。しとしと。
今ちょうど、障子の窓が組み変わりその外の庭を特徴的な髪型をした、頭のやたら前に長い何かが通り過ぎて言った。
小雨はまだ降り続いている。
■寄月 秋輝 >
「……自分ですることは多いんですけど、ね……」
口をうにうにと動かし、その快感に耐えている。
くすぐったさもあるような刺激が絶えず飛んでくる。
ん、と目をうっすら開ける。
異形の何かが通る。
(……ぬらりひょんか何か?)
至って落ち着いたものだ。余裕がある。
そんなものにも動じず、幸せそうにしている。
■耳かき屋、楢狗香 > そろそろ馴染んでくれてせんせいうれしいです。
みみかきで一番気持ちのいい時間ではあったが、そんな時間もやりすぎては耳の中の皮膚を荒らしてしまう。
あっという間に過ぎ去ってしまい。くるりと竹匙を返して白い綿毛の梵天のほうが突っ込まれる。
くるくる すぽっ くるくる しゅぽっ
ねじ込んでは引き抜き、ねじ込んでは引き抜く。
二度そうやってから顔を近づけて耳の穴のなかに残った塵が無いか確かめるようにじっ、と視線を向けて。
そしてふっ、と穴のなかに吐息を吹き込んだ。
動かぬよう片手でさりげなく頭部を押さえながら、もう一度梵天をくるくるとねじ込んで引き抜く。
あとは耳介を閉じてとんとんと叩き、耳の穴にそっと指先を添えてなぞって見せるだけ。
少し香油の残った指先が仕上げとばかりに触れられれば、それを区切りとしてみみかきをされていた感覚が落ち着くのだろう。
ふしぎな、何処か懐かしい香りが漂う。
「似た世界であればそうでありんしょう。
耳掻きの死骸のないと言うか、たしかに綺麗になしっておられようでもありんす。
頻度も妥当なところに。」
こくりと頷いてそう答える。
そしてこれで片方の耳が終わりになって。
「では向きをかえていただけやしょうか?」
とんとん、と肩を叩きながらそう問いかけた。どう変えるのかは彼しだいにはなるのだろうが。
しとしと しとしと かたん ことん
また障子が組み変わる。
窓の穴のなかに黒い穴が二つ見えた。 みられてる。
■寄月 秋輝 >
もふもふ。耳の中を綿毛が行ったり来たり。
それはそれで気持ちがいい。
が、耳の中に吐息を吹き込まれると、さすがにぴくっと動く。
んー、とまた目を閉じた。
片耳が終わり、向きを変えるとなると。
「……はい……」
迷わず、女性の腹側に顔を向けた。
最後に一瞬見えた障子の向こう側が何だったかまではわからない。
■耳かき屋、楢狗香 > 彼女の腹部の帯は石壁のような、奇妙な模様をしていて。
入り口から入っていればそれが建物を取り巻く石壁に似ていることに気付くかもしれない。いまのところ、それにとくに欠けはない。
開きそうな、予感がする。直視してしまえばだが。
「…くれぐれも、悪戯でつつきやせんよう。」
女性の腹部、そして胸と膝に包まれるのを迷わぬその態度にくすりと少々悪戯っぽく、注意ごとが呟かれる。
腹部に顔を向けたなら彼女の表情は普通は胸に阻まれておそらく分からないだろうが。
まあ、どこか悪戯っぽく微笑んでいて。
その指先がもう片方の耳介の端をつまむ。先ほどと同じ手順で、蒸しタオルを…お湯に浸しなおして軽く絞ってから。
少しだけ違ったところがあるとするなら。
じっくりとしたマッサージは多少リラックスしたため少しだけ省略気味に。
そして穴のなかの奥まったくぼみにちょっとした塊があったかも、くらいだろうか。
それもまた、小刻み絶妙な力加減で八方から攻められてたやすく ぱりっ と剝がれて、拭き布におさまったのではあるが。
仕上げの指が今度も引き抜かれて。
「さて、終わりにありんすが…。」
どうなったのだろう。もしや寝てしまっていてもかまいはしない。
畳の部屋の十字格子の障子は破れてはおらず、その向こうの庭ではもう雨は止んでいた。
それほど時間はたったのだろう。
■寄月 秋輝 >
「……触れませんよ、さすがに……」
ぽつりと答え、目を再び閉じる。
これも運命だろうか、何故か全体的に『失敗』していない気がする。
静かにじーっと、逆の耳の掃除を受け入れ。
終わり、の声が聞こえる。
「ん、あぁ……はい。
ありがとうございました」
膝から頭を離す。
リラックスしきったものの、しばらく同じ体勢だったためか、肩が痛む。
ぐるぐると肩を回しながら、異能を再びオンにする。
雲の向こう側にある日の位置のズレを認識した。
「……結構ゆっくりしてしまいましたね。
すみません、お代は?」
■耳かき屋、楢狗香 > 「1000… 1000円になりやせ。」
すこし考え込むように立てた指先を顎に当て、見えぬ露に滑るようにそれが動いていき…千円と、価格を語る。
時間はさほどたってもいないのかもしれない。日の位置はずれているのだが。
見えているのは本当に太陽か?
歩いて出るか、トンで出るかが分岐路になるような気がする。
庭の様子もぬかるんではいない。縁石は少しだけ湿っている。雨上がりの匂い。足跡も無い綺麗な庭。
彼女は急ぎでないなら、仕上がりの茶でもどうか、と問いかける声が聞こえる。
受けてもさほど手間はかからないし、断ることもできるのだろう。
そして ああ、といい忘れたかのことがあるように立ち上がる無い足を止め。
「また… またぜひ、おいでやし。
望むことが何か、きいていないでありんすし。」
真っ赤な口元を笑みの形に歪め、目元もしっかり微笑んで二つの瞳孔が貴方を見つめていた。
■寄月 秋輝 >
「千円ですね」
財布を開き、そのお札を渡す。
彼はまた空を駆けて去るだろう。
だがそこに畏れも無ければ、迷いも無い。
茶は残念ですが、と丁重に断る。
「……そうですね。
魅力的な女性ですから、一夜の戯れを、とも思いますが?
……いえ、聞き流してくださいね」
くす、と小さく笑う。
先ほどよりは警戒心の薄い、優しい笑みを以て答えた。
ぺこりと最後に礼をし、表へ出ると空へと浮き、消えていくだろう。
ご案内:「奇妙な木造家屋」から耳かき屋、楢狗香さんが去りました。
ご案内:「奇妙な木造家屋」から寄月 秋輝さんが去りました。