2016/11/21 のログ
耳かき屋、楢狗香 > 店主の少女はテントの入り口を確かめているところ。
少女か女性かは、普段とは違い学生服を着用しているため少女、という認識が一歩勝るものだと思われる。
普段を知っていれば印象の違いに違和感を覚えるのは、当然のことだ。

「おや。」

店主は入口の垂れぬのを片手で捲りかけた、わずかに身をかがめた姿勢で振り返る。

「いつもの。
商売どないでありんしょうか。祭りの期間、と聞いておりやせ。」


どこか若々しく、にこり、とほほ笑んで。
周囲に、たぶんあるだろうほかの出店の様子に睫を向けた。

柴木 香 > 「……ん、まいどー。」

一瞬口ごもったのは、普段との雰囲気の乖離の所為か。
そういえば、入学手続きの手伝いも――付いて行っただけとはいえしたし。
学生服であること自体にはなんの問題も不思議もないといえばないのだけれど。

はっちゃんはテントの脇に。
通行の邪魔になると何処かに持っていかれるかもしれない。この時期は特にそういうのうるさいし。

「あ、うーん。ぼちぼち、です?
 さすがに人も多いですし、仕事もいつもよりは多いです。」

いつもが少なすぎるという話もありますけど。と付け加えたりなどしつつ。
改めて、店主の姿を見てみる。上から下まで――普段が普段だからか、どうも見慣れない。気がする。

耳かき屋、楢狗香 >  
それほど過密に設置されているわけでもないテントの脇に、大八車を置く程度のスペースはきっとある。
制服に向けられる視線に気づいたのか、瞼を伏せて店主は自身のもとに視線をやり。


「…どこかおかしやす?」

ぱたぱたと。
下半身を多めに乱れを気にしている。

「ぼちぼちでありんすか。それはなにより。
忙しくなけば、仮屋にゃあせが茶の一杯でも、どうでありんしょ。」

入口をめくった姿勢のまま、中の様子を伺わせる。
わずかに薄暗く、奥の様子ははっきりと見通せないようだ。
それもまた、落ち着きと雰囲気なのだろうと思えた。

柴木 香 > 「うん?――あ、うん。見慣れないです?」

気づかれた処で何かあるわけでなし。不思議だなー、くらいの感じではある。
この島、筋骨隆々の漢女先生とかいるから今更なんだけど。
程度の問題だけど、下半分を気にするのは、何かあるのだろうか。

「うん、折角なのでいただきますです。
 ……あ。設営中、ということはまだおみせはやってないです?」

ともあれ、お茶と言われれば、ぴこん、と耳がたつ。毎回出てくるお茶菓子はおいしいし。
積極的に探していたわけでもないけど、見かけたらしてもらおうと思ってたわけでもあるし。

渡りに船?というやつである。

奥が見通せないのは、設営中だからだろうか。
あんまり気にせずに誘われればひょこひょこ中へ。お邪魔します、の一言は忘れない。

耳かき屋、楢狗香 >  ・・・・
        「ああ、めくれやしないかと。」
                               皮が。目が。瞳が。その奥が。

下半身を気にする様子に気づかれたと気づいて、店主が答えた。
スカートの長さは平均的だ。ただし、いつもの着物姿からすれば短いのだろう。
太腿は…太腿は?


「いえ、問題ないでありんすよ。
一号客がいつものお客さんというのも、具合がいい。
いつもどおりとはいきやせんから、よろしければ感想は気兼ねなくおっしゃってくだしや。」

柴木くんの後に続いて、店主が入る。
中はやはり、テントだからか狭い。狭いはず。

仮設営の木の床があり、その上にさらに畳を敷いてある。
そばに木組みの箱が一つ。

柴木 香 > 「……うん。あ。
 この時期風も強いし。うん。」

めくれるんだろうなー、色々。とすとんと納得。ああいうひらひらしたモノは確かに大変かもしれない。
生憎と、めくれた先に興味があるような欲は持ち合わせていなかったけれど。

「あ、ならよかったです?
 はーい、じゃあ、気が付いたことは遠慮なく。です。……おー。」

入ってみれば、ぐるりと見渡す。中はテントとは思えない広さ。
きちんと整理されているお陰だろうか。仮の割に、壁以外はきっちり日本家屋っぽい。
雰囲気重視は結構大事だと思うのです。

入る前はずいぶん暗い、と思ったけれど。入ってしまえば別にそんなことはない。

耳かき屋、楢狗香 > 灯火のようなオレンジ色の明りがあたりを蒼く照らしている。

靴を脱いで一段、木の床。ぎしりと音を立てる。
もう一段。畳の床がその感触と香りを立たせる。

「靴は脱いで…いつものように。
いろいろと用意はできやせ、なのでさっそくこちらに。」

先に畳に上がって、しずりと星座でいつものようにそこに座り、ひざ上をぽんと叩く。
組木箱からいつもの道具を取り出して、数は少ないが。
耳かき、おしぼり、白布、糸、綿棒。


「お試し…ということで、お代も手順も簡単になってありんす。」

畳をもう一段上がって、あの膝に頭を載せよう。

柴木 香 > 「はーい。」

いそいそと靴を脱いで、上がる。
普段の縁側とは違って、ランプの明滅というのは趣が違って面白い気がする。
ランプの色と明りの色があってないあたり、幻想的。……幻想的?

きしりと軽い音を立てる床を踏み越えて。
すん、と鼻を鳴らす。うん、きちんと香りのする畳は良いものだと思うわけです。

「ん、えと。よろしくお願いします?」

寝転がってぽふん、と膝の上に頭をのせる。いつもと同じ、縁側を見るような方向が先。
いつももすごいお手頃価格だと思うのだけど、あそこからさらにお値打ち価格とか大丈夫なのだろうか。

耳かき屋、楢狗香 > 「ではまず耳を解していきやしょ。」

軽く肩に手を添えて、耳の位置を調整する。
鋏や剃刀は出していないので、毛先は整えないようだ。
だから耳の穴を見やすいように、頭の向きを軽く誘導していた。

耳に指先が軽く触れたのち、少しだけ熱いおしぼりが耳を包み込む。
汚れを落とし、血行を良くしてじんわりと、解すように。
普段より少しだけ温度が高いような気がする。体質次第で少し汗ばむだろうか。

その分、手順が早く終わるのかもしれない。
いつもよりほんの少し短く、耳介を拭うようにしておしぼりが外される。

「…熱くはありゃせんでしょうか。
お試しにありんすから、さっそく耳かきに移りやせ。」

いつもの大中小の耳かきの一番大きなものを手に、覗き込むようにそっとささやく。
代り映えのない、普通の竹の見慣れた耳かきだ。くるりと、指先で回された。

柴木 香 > 「はーい。」

誘導された、と気づくわけもなく。頷く代わりに、声を上げる。
おしぼりが触れる感触にぴく、ぴく、と小さく耳が動く。
熱い、というほどではなく。代わりにすこし、こそばゆい。

「――うん?熱くはないです。だいじょーぶ。」

少しばかり、毛がしっとりとはするだろうか。
耳の上の様子は相変わらず見えないが、数回目ともなれば信用したもの。
準備も終わって、みみかきかな、とぼんやり、思う。

耳かき屋、楢狗香 > 「よかありんしょ。では。」

だいじょーぶ、という答えを聞いて、耳かきを差し出す。
さりっ。

耳かきが耳のふちにそっと触れる。
手順は省略しているが、こればかりは肝なのでいつもどおりに。

かりかり、さりさり、と。

ふちをなぞり、耳介を外側の溝から内側の溝へ。
毛が生えているところは毛並みに逆らわないよう、時折指先で毛の向きを整えながら。
ゆっくりと、耳の穴に近づいていく。耳のツボを刺激していく感触が、心地よい。

「もし…、痛いときはいってくだんし。」


そんな声をかけながら。
耳の表側を半ばより少しまで済ませたところで、親指が耳の裏側を撫でて、その指跡をなぞるように耳の裏、付け根のあたりを耳かきが動く。

時々おしぼりで拭って、しっとりとした毛先を掻き分けるように。
優しく、柔らかく。
中程度のサイズにいつの間にか持ち替えて、過度に刺激して炎症にならないようにゆったりと耳の付け根の上側をくりくりと。

そして表の溝側に戻って再び、耳の穴の入り口に近づいていく。

「ああ、ずいぶんと。
外側はさほどでもなくありんすが。」

久々だからだろうか。
穴の奥を覗き込んで、そんな言葉を店主は発した。

柴木 香 > 「……ん。」

さり、さり、と耳の中を触れられるのは、やはりというか、こそばゆい。
時折なでつける毛先は柔らかく。耳どころか、小さく身体を震わせつつ――

「ん、だいじょーぶー……」

あげた声は若干眠そう。
痛ければ寝るどころではなく、リラックスの証だろうか。
縁側で丸くなれば寝るのが犬というもの――。

「んー……自分ではやれないし……?」

ちょっと驚かれるくらいなので、相当なのかな、とぼんやり思う。

自分でするには少々無理のある配置である所為もあり、手入れはあまりできていないし。
普段は精々が外側を拭うくらい、中までは手が回らないのが常々、というところ。
だからみみかきやさんをそれとなく探していたりしたわけで――。

「うん、ごっそりとー、おねがいしますー……」

なら、きっちりと取ってもらったほうがいいだろう、

耳かき屋、楢狗香 > 「お疲れにありんしょうか。
先ほどの様子だといつもよりはお忙しぃようで。ゆたりと、眠りなんせ…。」

とん、とんと耳かきを持たぬほう、耳をつまんでいるほうの手の指がゆっくりとリズムを刻む。
眠気を誘うような。そういえば、テントの中もどこか薄暗く、ちょうどいい塩梅だ。
頬ぬ当たる膝と胸がいつもより薄い布越しで、温かい。

耳かきは中くらいのものは新調に、耳の穴の入り口を
さりさり、かり、かり。
と少しずつ、少しずつ奥に進んでいる。

やはりこのあたりは手を抜く様子はなく。
しばしばおしぼりで匙の先を拭いながら、こなしていく。

「ひとりで、というと綿棒や風呂で洗う、という人もいらしありんすが。
確かに位置から、あまり耳かきでというには向いてないかもしやんせ。」

ごそり、と採れたのか。
慎重に匙を抜きとって、ふき取る様子が感じられた。

柴木 香 > 「うー……あんまり疲れてない……?」

言いつつも、うとうと。
いつも起きておこうと思うのだが、最後には寝てしまうので――今度こそは、と思ったりする。
――寝入ったとしても、終われば起こしてもらえるのだけれど。
それはもったいない気がしてしまって。

けれども心地よさにはなかなか勝てない――

「んー……。
 ずっと前に試したら、痛かったし……うん、向いてない……。」

一人で、鏡を見ながら、頭の上で精密な動作をする、というのは難しい。
まぁ、なにより。今もぴくぴく小さく動くほど敏感な耳です。動いてしまって自分ではなかなか。

なにやら塊が取れたのだろうか、ちょっとすっきりした気がする――。

耳かき屋、楢狗香 > 「みみかきやとしては商売繁盛でありんすが。
ひとつあどばいすさせていただくんなら、勝手に外に出てくるので耳の入り口周りだけでも濡れ布で拭うだけで違うかと。」

店主の苦笑した様子が感じられる。
小さい耳かきに持ち替えたようだが、あまり今日は奥までは進まないようで。
先ほどと同じようなリズムで、少しだけ奥に進んでいって、少しだけ奥まったところの耳垢を

かりかり、かり、こり

とじっくりと攻める。
これが最後にするようで。じわじわと、剥がしていって。

かさり。

「とはいえ、たまにはこういう大物もできやし、誰かに時折頼む、というのもお勧めでありんしょうか。
さ、仕上げに参りやす。」

取れた大きな塊をそっと拭いさって耳かきを置く。
綿棒に持ち替えて、さりさり、さりさり。
優しくなでるように仕上げを整えて、一本、二本。

三本目は少しだけ、どこかひんやりと濡れていたような感触を感じて。
くるりと塗り付けるように人回し。
仕上げの仕上げに ふっ、とぷっくりした唇から息を耳の中に吹きかけた。

「片耳、終わりんなし。
逆側にいきやすゆえ、位置を変えて…もしまだ起きていれば感想、どうでありんしょうか。」

肩をぽんぽん、と片側の終わりの合図。
もし、目線を上げれば店主はゆるりとほほ笑んでいた。

柴木 香 > 「うん、それくらいはこまめ?にするようにする……」

一瞬頷きそうになったが、みみかき中は危ない。
――それだけ眠い、といったところだろう。

「んー、その時はみみかきやさんで。
 うん、安全だし、確実だしー……うん、お願いしますー……」

頼める相手、というのはそれほど多くなかったりするし。
エニィさんとか部員に頼んだらひどいことになりそうだし。主に物理的な意味で。

仕上げ、と聞こえればちょっと身構えて――最後に、吹きかけられた息に、びくぅ、と。

「――ぁ、うん。
 あ、えーと。寝てても、起きてから感想きちんと、うん……」

終わればもぞもぞと向きを変える。起き上がるのも億劫なのか、その場で寝返りを打つような。
綺麗になった側を下に、まだの方が上に――眼前に見えるのは学生服だけだろうか。
感想言も寝てしまったら元も子もないのだけれど。――頑張って起きてよう。

耳かき屋、楢狗香 > 先ほどと同じような手順で――
熱いおしぼりがもう片方の耳を包み込む。ぐりぐりと、もみほぐすように軽く拭われて。

「…ええ、お任せんなし。
そうそうこまめに、お忘れになさらんよう。」

しっとりとさせた毛並みを整えるとみみかきの匙を進めていく。
作業をこなしながら、声をかけて。

甘い、甘い    い、 声が耳元に。
体温が…たぶん。柴木くんを包み込む。ふわりとするような…ねっとりとした

「寝て ても いいでありんすよ。」

染み入る。

柴木 香 > 「んー、忘れないようにするー……ぅ……」

くにくに、こりこり。
ほぐされて、融けていくような心地よさ。
包み込まれていくのは――何を想起させるだろうか。
心地よさが、瞼を重くする。起きてないと、感想言えないけれど。

「ぅー……うん……」

ぼんやりとした中で、寝ててもいい、という。
なら、寝てもいいのだろうし――。

「――………」

ほどなくして――微かな、寝息が響く。

耳かき屋、楢狗香 > じっくり手早く耳が手入れされていく。
少し寒くなった中、じんわりと血行もよくなっていくだろうか。

「あとでまた、ゆるりと。
おはなししやしゃんせ。いまはひととき。」

目をつむっているのか、開けているのか。
薄暗い中ではもうどちらか夢うつつ。一筋の光だけが見えて、つむっているとも、わからない。

耳には静かな、ささやく吐息が感覚を覆いつくす。
包み込み、蕩けさせるように。


「…ああ、仮屋でなければ。ざぁんねん。」

艶やかに、唇をゆがませた。
何かが変わったのだろうか。触覚もよくわからない。

テントの中が、蒼く、照らされている。

柴木 香 > 「……ぅ――……」

聞こえているのか、いないのか、答えるような、わずかな声。

ふわりとした思考の――視界の中で。
目を閉じていたような気もする、開けていたような気がする。
そもそも見ているのか、触れているのか。聞こえているのか、触れられているのか。

緩やかな思考の中で――

「……ぅ……?」

何が残念なのか。
首を傾げようとした――気がする。
それすらもあいまい。世界が、蒼い――

耳かき屋、楢狗香 > とろけて。
さほど時間は立たず。

「…さん、お客さん。
具合はいかがでありんしょう。」

膝枕のまま、覗き込むようにして店主が様子を伺っている。
耳と頭がすごくすっきりしている。

毛足が、こんな毛色だっただろうか。
貴方はまだボンヤリとしていると思う。タブンネ。

「さ、終わりくらいには茶を用意してありゃせ。
すすりながら、お話聞かせてくだしゃんせ。」

保温水筒からこぽこぽと、湯呑に温かなお茶が注がれる。
身を起こせば受け取れる位置に差し出されて。

しばし、この後も次の客がテントの垂れぬのをめくるまで――来るかは、わからないが。
ゆっくりとした時間を過ごすことになるだろう。

柴木 香 > 「――ふぁ、あ――……あ、おはようございます……」

声をかけられてぴくり、と。ほどなくして大きな欠伸を一つ。
目をこすりつつ起き上がる――すっきりとはしているのだけれど。
はて、何か見たような、聞こえたような……?

起き上がれば、畳の上に正座。
ぴこぴこと耳が動く――うん、よく聞こえるし、いい感じ。

「ぅ?……あ、うん。だいじょーぶ、忘れてないです。
 はーい。」

そうして――こぽこぽと注がれるお茶の香りに、思考もしゃっきり。
忘れてはいないのです。ちょっと気持ちよかったのでどこかに行っていただけです。

次のお客が来るまでは、しばらく時間もあるだろうし、その間は居座る構え。
ぱたぱたと揺れる尾に一房ずつ、黒と茶が混じっているが気のせいだろう、多分。

ご案内:「異邦人街、異形な出店【常世祭期間中】」から耳かき屋、楢狗香さんが去りました。
ご案内:「異邦人街、異形な出店【常世祭期間中】」から柴木 香さんが去りました。