2018/11/24 のログ
ご案内:「異邦人街」にツェツィーリヤさんが現れました。
ツェツィーリヤ >   

『ったく……あー…頭いてぇ』

気温も冷え込み、週末ながらあまり人影もない公園のベンチで
とある北国の言葉で愚痴っている女がいた。
右手には煙草、左手に酒瓶を持っているうえ
若干寝ぐせで乱れた長髪と衣服、
二日酔いで気分の悪そうな表情も相まって一見すると
余り近寄りたくない人か家出人かどちらか判断に迷うかもしれない。
完全にノリが浮浪者だがこう見えて普通に一戸建て賃貸を最近借りた身の上だったりもする。
ではなぜこんな寒空の下、薄着で空を見上げ愚痴っているのかというと……

『禁煙物件だなんて聞いてねぇぞ』

どうも最近新築された一戸建て物件だったそうで
小綺麗な建物だったというのは個人的にはグッド。
一応(偽装)身分的には金持ちの道楽娘という事になっているので
それを信用しての値段提示という事もあり、なかなか良い物件だったと思う。
実際ある程度プライバシーを確保できるうえに
庭までついてあの値段は暫く借りっぱなしにしようかと思うくらいだった。
しかし……

『あ―……文字読めるようにしとくんだったなぁくっそ』

契約書の端っこの方に”禁煙”の文字がある事に気が付いて
辞書を片手に読み解いた処、どうも煙草厳禁とのこと。
正直ドアを開けて直ぐに物々しい火災警報器が天井に複数張り付いているのを見た時は……

『嫌な予感したんだよ……』

いっそのこと物件ごと買い取るのも視野に入れてしまおうかと
腹立ちまぎれに考えながら煙草を銜える。
冷たい空気の中、ゆっくりと立ち上っていく紫煙を
ボーっと長め、ふとこの一か月を思い返し、試案に耽る。
入島時の面倒事もあり体調の復調に始まり
証明(物の偽装)やら生活用品をそろえるなりで
気が付けばもうこの島に来て一か月にもなる。
勿論探し物に関しては全く進んでいない。

ツェツィーリヤ >   
『ほんっと……変な島だよなぁ』

何事もなく入島する予定が
へマやらかした馬鹿に巻き込まれ、寒中水泳をして島に辿り付く羽目になり、
上陸したと思えば早々風紀委員に見つかった挙句”眼”の制御に失敗し……
とりあえず転移した場所はスラムと来た。
絶賛体調不良状態で身ぐるみ剥ぎに来た馬鹿どもを相手する羽目になり
ひとまず見られては不味いものだけ隠蔽し
泳いでいた際にいくつか紛失した偽装書類を揃え
入島管理局に出頭後入島手続き。
その後そのまま物件を探した後ぶっ倒れ……

『……なーんでこんな遭難したみたいな生活してんのかね』

頭痛を覚えてベンチの背もたれに体重を預け、空を仰ぐ。

ツェツィーリヤ >   
『しかしまーこれからどーすっかね』

ひとまず住居は確保したとはいえ、やる事は山積みだ。
まずは情報収集のために使えそうなものを探す。
それから追加の服と、出来れば移動用のバイクなんかも欲しい。
加えてこの島の旨い食べ物と酒と煙草を仕入れてついでに賭け事が出来そうな……

『あ、いかん』

つい少しだけ趣味に嗜好が走ってしまった。

ツェツィーリヤ >   
『……いやしかし、精神を落ち着かせるものはだな』

独り誰に言うでもなく弁明しながら酒を口に含む。
真面目な話、酒も食べ物も重要だが煙草に関しては冗談ではない。
そうでなくとも”煙草は嫌い”なのだ。
不味い煙草ともなればテンションもスペックも駄々落ちになりかねない。

『まずはもう一つベースを確保か。
 この辺りよりは……
 あっち(治安が悪い地域)の方が良さげだな。』

あちらなら煙草厳禁なんていう事もないだろうし
それを準備できる人種は間違いなく”鼠”に詳しいだろう。
弾丸等も一々作るよりは買って加工した方が早い。

ツェツィーリヤ >   
「……!?」

ボーっとしていると手元に熱を感じ
慌てて見下ろすと煙草がフィルタ目前まで燃え尽きている。
どうやらボーっとしている間にだいぶ燃えてしまったようだ。

「……」

これだから煙草は嫌いだと僅かに火傷した指先を眺める。
……ここ数か月銃を撃てていない。
はっきり言ってそれがもうストレスでストレスでしょうがない。
小さくため息をつきながら携帯灰皿を取り出そうとし、コートのポケットに入っていない事に気が付く。
ついでに言うと財布も入っていない。

『……”おばあちゃん。ユーリの日だよ”』

落胆と同時に溜息を吐きだす。
財布はともかく、一緒にしていた家の鍵もないとなると
下手すると家の鍵をかけ忘れている。
そういえばここにいつ来たのかという記憶もない。だいぶやばい。

『あ―……んっとにやってらんねぇなぁ』

ひと先ず目下の優先事項が大きく変動したので
それを処理するために立ち上がろうとして……

『……ぁー』

思いっきりふら付いて地面に座り込む。
なんかすごい地面揺れる。めっちゃ揺れる

『ありゃ?おっかしーなぁ……』

二日酔いの気付けのつもりが思ったより飲んでたらしい。

ご案内:「異邦人街」にデーダインさんが現れました。
デーダイン > 「……そこの麗しき女性よッ!!こんな時間に、こんなところでどうした!
人生に迷いを抱いたかッ?!嫌な事でもあったか!!」

意気揚々たる男の声が、公園に響き渡った。
その声の主を見れば、一般的な常識が欠如していない限り、
恐らく真っ先に抱くべき感想は、一言で言えば、これだろう。

―――不審者。

暗黒のローブに全身を包み、顔には真っ白な仮面、
長いブーツにグローブを装着するその人物は、完全に不審者のソレだ。
変な島だなぁってもっと思うかもしれない。

さて、一方この不審者から見るならば、
貴女はこの時間、あまり人通りもない異邦人外にて、
あまり人が近寄りがたい様相でまるで飲んだくれ、或いは何かから逃避するかの様に見える。

更にはその場で…砂場かアスファルトにでも座り込み、ベンチがあるにもかかわらず、
そのすぐそばでふらついているではないか。

タバコ、酒の香りなどといえば、嫌な事から逃げて、現実逃避しているかに見えても、おかしくはない。はず。

「クックック…何か困っている事があらば、この私に話してみるが良いッッ!!
この偉大なる暗黒教師、デーダインが聞き届けようッッ!!……力になれるかは分からんがな。
困っている生徒の悩みを聞くのも、仕事であるからして。ほれ、とりあえずそこに…座り直せるかね?」

とまぁ、この不審者、この学園の教師であるらしい。
それを信じるも、信じないも貴女次第。
また、どうもこの不審者は彼女が生徒であると思っているらしい。
一応、異邦人街は学園の敷地内故に…。

立ち上がってふらっとした貴女が、さてこれからどうしようと考えているかは知らず、
まずは座らせ話しでもとばかりである。必要であれば手を貸すだろうし、
そもそも余計なお世話と突っぱねても良い。

ツェツィーリヤ >   
突然響く大声に脳髄を殴られたかのようにびくっと肩を震わせる。
驚いたのもあるがこの声二日酔いの頭に響く響く。
誰だよこんな大声で騒いでんの畜生とそちらに目を向けると……

(うわっ……うさんくせぇ)

自分の事は完全に棚に上げて目前の人物に若干引いていた。
白昼堂々……いやもうだいぶ薄暗いが……
それはともかく天下の往来をこんな格好で歩くのは
よっぽどの事情持ちか真正のやばいやつか……
酒に蕩けた思考でそこまで考えて気が付く。
……こいつ話しかけてんの私じゃん。やばい。

「水……。(いえ結構ですどうもお構いなく)」

丁寧に断るつもりが口から零れたのは地獄の底を這うような短い声。
欲求が理性を上回る瞬間ってこういう事を言うんだなぁと
非常にどうでも良い事に感心しながら

(……いやここ異邦人街だっけ)

よくよく考えるとそんなのがうろついていても
全く違和感のない区画だった此処と思い返す。
しかもこいつ教師らしい。この島やべーな。
いつの間にか此方の世界の常識なるものに染まって来たなぁとわずかに黄昏つつ
襲い来る吐き気に口元を抑え、差し出される手を制止しつつ
ベンチ座り直そうとして再び崩れ落ちる。
哀しきかな、お酒は大好きなのにグラス一杯で酔うこの体質。

デーダイン > 「キ・サ・マ、今ものすっごく失礼な事考えてただろう。
だがそれは正しいッ!人は見かけによらないと言うが、人を見かけで判断しない者は愚か者だッッ!!
ハッハッハ…!」

高笑いである。やばいやつの度合いは多分上がりっぱなしだろうし、
益々この島が意味わからんと思われたってしょうがない。
さて、初めてあった者には概ねこんな扱いであるから、程々にカマを掛けながらも随分とにぎやかに笑いを飛ばす不審者。

不審者。

不審者に話しかけられた貴女は極無難に対応を試みようとするも、
内なる欲求に抗えずにこの不審者に水を要求してしまう。

「うむ、水だな。クックック…。初めに訪れた者が私で良かったなぁ!!
もしも本当に本当の不審者が現れておれば、今頃何を飲まされていたか分からんぞ!
この辺は危ない奴らの住まいも近いので…気をつけろよッッ!!」

まるで死に淵を彷徨うかの低い声が聞こえれば、またにぎやかによく喋る。
お断りされればそれまで、さぁ水水と公園を見回す不審者の真っ白仮面。
表情こそ映らない物のとても変質的で滑稽だ。
…ふしんしゃのじかくはあるっぽい。

「―――あっ。

タダの水道水か100円する自販機のミネラルウォーターか好きなのを、選んでねっ!」

ぴたっと足を止めて振り向いた仮面。
やけにコミカルかつスピーディにかくんとそっちを向いて尋ねる。

「クックック…!まぁ冗談だ、少し待っていろ…

ほら、水くらいくれてやろう。ありがたーく受け取れッッ!!」

程なく自販機でも最も安い100円のアレを買ってきたデーダインは水が入ったボトルを手袋で握り、ひょいっと差し出そうか。
随分仰々しい仕草である。

ツェツィーリヤ >   
「……すみません」

とんとんっとこめかみを突いて翻訳術式が動いているのを確認した後
言葉少なく礼を言うと今度こそベンチに座り直す。
これで鎌でも担いでれば夜道で出会えばお子様号泣待ったなしの見た目の割に
意外とフランクだなこいつと思いつつ、
同時にテンションたけぇなおぃ、と内心ツッコミを入れるのも忘れない。
なんだろう。なんというべきか、まるで自棄になっている不審者の勢い。
とりあえずここは大人しく気を使われておこう。頭痛いし。

『なんだありゃ……』

デーダイン、先生だったか。
何だか物騒な事を言いながら自販機に向かって100円の水を買っている後姿を眺める。
さっき自分でそう名乗ったのを思い返すと
見た目と声量はともかく案外親しみの持てる良い不審者なのかもしれない。
まぁこの島で教師と名乗るのは中々ハードルが高いだろうし、
自分で自分を不審者という不審者はそれで面白いと思う。
そんなのが平気で歩いてるこの島のやばさは鰻登りだが。主に教育面で。

「ありがとう」

目の前で買ってその場で渡すというあたり手慣れているというか
自分でも不審者の自覚はあるんだなぁと失礼ながら思いつつ
受け取った水のペットボトルを一気に傾ける。
喉を潤す水が、零れて喉を伝う冷たい感覚が随分気持ちが良く
幾分か意識が明瞭になるような心地すらする。

「……失礼。デーダイン先生、でしたか。
 後ほどこれの代金はお支払いさせていただきますので」

なんにせよ助かったのは事実。
改めて全身不審者スタイルのこの人物を見上げる。

デーダイン > 「……ほう、何だ礼儀正しいではないか。
いやぁ、初対面であれば、概ね…鉄拳制裁の流れが結構あるものでな。」

今までと言えば、
問答無用で切りかかられたり、すごいパワーで殴られたり、光の力で退治されかけたり、
挙句の果てにハンマーでペッチャンコにされかけたり。
などなど。
少なくともこうして学外であって、真っ当に対応されるわ、
割と普通に謝られたり接されたりされるのは結構、新鮮なのだ。

とりわけ、眼帯をしていて、なんかヤバそうな腕を持っている彼女から、
デーダインは彼女もそういう対応をしてくるのではないかと内心お察し状態であった。
故に、意外さに意外さが上乗せされ、
なんかちょっと大人しく、おどろいているっぽい。
もっとも仮面の中の表情は見えはしないけれど。声はとっても驚いて静か。

さて、背中を眺めれば分かるだろうがこの男、赤いマントをヒラヒラさせている。
黒ローブに不審者感、アップ!するかもしれない。

「ハッハッハ、気にするでない。何、代金のかわりに…
貴様がどうしてこんなところであんなことになっていたのか、改めて聞かせて貰えぬだろうか。
私も一教師であるが、たまたまここをうろついた折り、貴様のあの様な姿を見かけたのでな。

―――ほら、初対面の方がかえって話しやすくもあろう?」

ふむ、と飲み物を飲みほした彼女がそれを飲み下した後に、ゆっくりと話を続けていく。

「ああ、そうだ。私のことはダイン先生、若しくはダイン様と呼ぶが良いッッ!!
学校では魔法の教師をしているので、縁があれば会う事もあるだろうな!!」

スタイルこそ不審者だけれど、コヤツ、教師である事には間違いはない。
呼び名を提案すれども、ダイン様と呼んでくれる生徒はあまりにも、少ない。とっても少ない。

ツェツィーリヤ >   
「”井戸に唾を吐くな。いずれ自分が飲む日が来る”と育てられたもので。
 親切にしていただけたのですから、尚更、でしょうか。
 ……それが普通だと思っていたのですがそうでもないのですねこの島」

流石学生メインの島……尖ってらっしゃる。
傭兵業は客商売。初対面に鉄拳制裁とか流石にバーサーカーでも普通やんねぇぞ……。
ある意味今日一番この島やべぇなと思った瞬間。
何だかんだ治安が悪いのも影響しているかもしれない。

「……そちらも苦労されているようで」

若干同類を見るような暖かい視線を向けた後、
僅かに横にずれ、ベンチに座れるように間を開ける。
そこに驚くとなると今まで結構いきなり喧嘩売られてきたんだろうなぁと思うと
少々他人事と思えないという点もある。
最も自分の場合はかなりそれを楽しんでもいるのだが。

「あ、それくらいの声で話して頂けると助かります。
 大きな声は頭に響くので……」

そう思うと赤いマントもそんなに気にならない。
嘘。ちょっと気になるというか何故赤!と突っ込みたいのは山々だがそこは大人としてぐっとこらえる。
良い歳をした大人がベンチで酔いつぶれるなというのは言いっこなしという事で。

「ぷっ……たた……
 わかりました。ダイン様ですね」

顔色が悪いながらも冗談めいた口調に軽く噴き出すと
それが響いた頭を抑えつつ笑みを浮かべて対応する。

「代金代わり……ですか。
 とは言え対して面白い話もできるとは思えないのですが
 それでお時間を取らせるというのも……」

ベンチに身を任せつつ空を見上げる。
どうもこの島下手なB級映画より厄介なことが当たり前に連日起きている様子。
そんな中でこの寒空の下、話せることがあったかなぁ…と内心首をひねりながら
瞬き始めた一番星を見上げる。
……これは雪が降りそうだな。

デーダイン > 「自分の行いは自分に返ってくる、という意味だな!
存外どこの世界にも、その様な言葉はあるらしい。

そうだなぁ…この島での普通って、むしろ普通じゃない事だからな!!」

普通って、なんだろうって。そういう事を考えることが多くなる。
戦いとか、そういうのが当たり前のこの島だから、口より先に手が出る人だって多いだろうし、
少なくとも元居た世界とは明らかに違う。それは誰だって多分そう。
誰にとっても普通でないのがこことも言える。

「…も?なんだ、貴様もなのか…?」

お互い、苦労しているのかもしれない…見た目で。
なんだか哀れまれるような目付きをされると、ささっとデーダインは横際にちょっと間を開けてベンチに、
失礼しようっ!と意気揚々と話しかけてこしかけようか。

「む。…そうか。分かった。それではちょっと音量を下げる。」

まるでボリュームを下げるみたいなノリで少し大人しくなるデーダイン。
少なくとも近所迷惑にはならないレベルまで静まり返りつつ。

「え?……う、うむ。ダイン様だッッ!!!」

様付けが嬉しかったのでまた音量が上がった。お調子者だ。

「悩める生徒と言うのは、だれしもそう言うモノだとも。特に面白い話ではない―――と!
その様な生徒は概ね二通りで、本当に面白い話ではないと思っているか、
或いは他人にはすぐに理解を得られない深刻な問題を抱えているか。

貴様は…前者の様に見えるが、この暗黒神たる私の予想は、当たっているかな?」

ふっふんと知識をひけらかすダメ教師。
仮面の向こうの顔は見えないけど、調子に乗ってそう。

「では、代わりに私の面白くない悩みの話でもするか。」

なにがどう、代わりなのだろうか…。

「最近どうも、向こうで妙な騒ぎが起こっている様でな。
おかしな薬やおかしなゾンビ…生徒達には危険が付きまとう事ばかり。
こうしたものの被害が減ればいいのだがなぁ…。だが、生徒達の気持ちは分からんでもないのだ。
この様な学園では力や戦いを求めたくなると言うモノだからな。」

現在デーダインは、そんな話をちらほらと聞いては悩む日を送っている。彼女が空を見上げる間、
デーダインの仮面は少し俯き気味。

ツェツィーリヤ >   
「野辺の獣も金属で武装するような場所で育ったので」

自分の見た目が女らしいという事も自覚はしている。
この島の水準はかなり高いがそれでもその中でも見劣りしない自信もある。
……しかし傭兵業だとそれは舐められる材料にしかならない。
結果代金を踏み倒そうとする馬鹿や
最初からマウントを取って有利に物事を進めようとする馬鹿は絶えないもので……
ついでに物理的に乗ろうとしてくる馬鹿も多い。一番質が悪い。

「お気遣い感謝します。ダイン様。
 ええ、実際ありふれた問題ですので」

正直な所その何方にも該当するというのが正しいが、
それよりは島の住人の声を聴いておきたいという欲求の方が強い。
今リアルタイムに起きている問題というのは把握しておくに越したことはない。

「それは……
 教師としては随分頭を悩ませているでしょうね。心中お察しします。」

一応例のゾンビ騒ぎや薬物関連の話は耳には入っている。
こう見えてこの不審者、まじめに教師をやっているのだろう。
であればこそ、子供達を確りと導いてやれない事に
歯がゆさを感じているのかもしれない。
そんな感想を持ちつつ少し俯きがちな顔を横目で眺める。

デーダイン > 「ほう、随分と物騒な場所だな、それは。
……ここも似たような物かね。」

リザードマンに、スケルトンナイト、ライオンだって剣や盾を持つ、
獣人のありふれた世界。
デーダインは……なんとなく、眼帯をしている理由が分かった気がした。
デーダインが最初に声を掛けた通り、見れば麗しい女性と言うには間違いないのだから。

「そうか。……まぁだが、抱えきれなくなったら職員室にでも来るが良い。
なに、ここの教師は変な奴が多いが、意外と頼りになるぞ。…まぁ、本当に変な奴が多いがな。」

すっかり生徒と相対しているのだと思いこみ続けながら、話を広げていく。
その問題には、やはり気付かぬままだろう。

「ああ、そうなんだ。だが、私とて、それを黙って見ているのも良くないと思って、
何か手がうてん物かと考えてな。ゾンビ対策の授業でもすれば良いかと思ったりするんだが。
やつらは特性こそ厄介だが、倒し方はゾンビと変わらんらしいのでな。
薬の方は全く…妙案が思いつかんな。
あれは力を得られるものだから、取引も争いも起きるし…
誰しも、そういうのに魅せられてしまうものだろうから…。」

ふぅむと唸る様な声色と共に、現状の島の問題を語らっていくデーダインは長い息を吐いくような風をみせながら、ゆっくりと顔をあげる。

「貴様は、どうだ?…そんなものに、魅せられたりはしていないか?」

ツェツィーリヤ >  
「似たようなものかもしれませんね。
 いざ抱え込めないと判断すれば頼らせていただくかもしれません。
 少なくとも独りではないという事は理解しているつもりです」

その為にこの島は学園という形をとっているのかもしれない。
時に家族にすら拒絶されるであろう者達が集うこの島では
教師と生徒という他人より近く、けれど家族より遠い……そんな関係が
辛うじて世界と自分を繋ぐ紐として機能している側面もあるのだろう。
……もっともそういった側面は往々にして見逃されるものなのだけれど。
学生側からは特に。

「正直に言うと目の前に力、というものが転がっていれば拾うとは思います。
 ……それが魅力的であることは確かです」

私にもその気持ちは理解できますからねと言いつつ手に持っていた吸い殻をくるくると指の先で遊ばせ、
磁力の狂った羅針盤のようにくるくると回り続けるそれをじっと見つめた後
此方を見つめる白い仮面をじっと見返す。

「けれど、それが自身の全てと等価であるというなら
 引き換える価値は無いと、誰かが教えてくれるなら
 ……もしかすると立ち止まれる子もいるかもしれませんね」

自分が言えたものではないが、意味も分からず力を振り回す子供を見ると
……止めてやるのが大人の役割なのかもしれないとも思うのだから。

デーダイン > 「ああ、それなら結構だ。貴様の様なものは、きっと…放っておいても大丈夫だろうな。」

きっぱりと、理解しているつもりですだなんて言ってのけるなら、デーダインの仮面は上下に動き、頷く。
学校と言うモノは、異能学園都市に関わらず…教師はいつでも歓迎だが、
生徒から訪れると言う事はほぼない。でも、この学園は時に、そう言う事が多くみられる事だってあろうか。
教師の多くは、生徒の為にと行動するのは、大体は同じ。

「なるほどな。」

吸殻を弄ぶ様に仮面は見向きもしないで。話しに聞き入っている風なデーダイン。

「なるほど、なるほど。……貴様の言う事は、もっともだ。
力の強さは、何も人の価値全てを決めるわけではない。
自分のすべてをなげうってでも、得るべきものでもない。
そうだ…だが、それを判別する冷静さを失った者、焦った者が…そう言うモノに釣られてしまうのだろう。」

深く頷く、白い不審仮面。
誰しも、力には魅せられるものだろうから。それは、魅力的であると認める貴女も、
この不審者だって同じ。それが道端に転がっているなら、十中八九は手に入れる。

「故に…我々はそう言った生徒達の良き理解者となり、そして、
彼等の価値を見出して手助けしてやる事が必要なのだろうな…。

……難しい問題だな。私は一方で魔法と言う力を与え、得る事を推奨していると言うのに。
他方では、それ以外の価値も…か…。そうか……」

スタート時点から大分大人しくなったデーダイン。
なにやら数十秒ほど黙り込んだ。

「……ああ、ありがとう。参考に、なった。
ほら!やはり、悩みと言うのは誰かに話して共有すると言うのが良い物だよ!
こうすれば、スッキリしよう?」

そして大人しさがなくなれば、ぱーっと晴れやかな笑みすら浮かべそうな、
しかし無表情白仮面が貴女の方を向いて、お礼を告げるだろう。

ツェツィーリヤ >   
「寂しいものですね。
 手を差し伸べても気が付いてもらえないというのは」

全ての教師がそうだとは言わない。
この島ともなれば今まで見えていた指針が全て疑わしく感じられてしまうだろう。
それ程この島には多様性という爆音が鳴り響いている。
そんな中、鮮明になる指針に縋る気持ちもわからないでもない。
……実際やべー奴は死ぬほどいるみたいだし。色んな意味で。

「結局、孤独なのでしょうね。
 力しか測るものが見えてこない世界は。
 それは本人が気が付くしかない事でもありますし
 外野がとやかく言ってもその時は耳に入らないものだとも思います」

子供のころに勉強しろという親の気持ちがわからないように。と
僅かに苦笑しつつ回る吸い殻をぎゅっと握りこむ。
指針を失った子供というのはとかく突っ走る傾向がある。
自分もそうであったように。

「……とは言えそうやって考えてくださる教師がいれば、
 何人かにはきっと伝わると思いますよ」

こんな事を口にしたところでだれ一人の助けになるわけでもない。
あくまで理想論者の独り言に過ぎない。
それは判っているものの、こうして誰かのために迷っている誰かに
心無い言葉を投げるほど子供ではないつもりだ。

「我ながら少し偉そうな発言でしたね。
 とは言え気分が少しでも晴れたならば幸いです」

そう口にすると手に持っていた水を僅かに飲んでみせ、僅かに微笑む。

デーダイン > 「……だろうな。生徒って言うのは、そういうもんだ。
それが若い者の良い所でもあり、悪いところでもあると私は思う。
だが…ある意味、そうしているのも若いうちにしかできんこと、よな…」

少し切なそうな声色で、デーダインの話が響いた。
その、前も後ろも見ないで、ただひたすらしたいことへと突っ走る。
それは、良い事でも、悪い事でもある。
だが、デーダインはそれが、すこしの悪い事を孕んでいると知りながらも、
全体で見れば、良い事ではないかとも思う。
けれど、絶対的に良いわけではないし、影の部分は絶対に消えない。
故に、歯痒い。どうしようもないと、分かっていても。

「クックック…。そうだな、そうであっても、バカバカしいと切り捨てるより、
考えるだけでも意味がある。そう思えただけでも、価値があるさ。」

ふう、と一息。マントをはためかせ立ち上がる不審者。

「随分、話し込んでしまったな?…いや、最初は貴様の悩みを聞くはずが、私の悩みを話してしまって申し訳ない。
なに、貴様も随分マシな顔をするようになった。もう一人でもよかろう。
重ねて言うが、近辺は物騒だ。故にくれぐれも気をつけて用事を済ませ、帰路につくと良い。
―――それでは…縁があったら、また会おうッ!!」

彼女の微笑みを見たのだろうか、
最初はふらついていたけれど、今ではしっかり話せて、くらっとした様子もない。
そういい残すと、デーダインは仰々しくマントをはためかせ、その場から手品のように消え失せる。
去り際だって、不審者みたいに、影も形も残さずに。

ご案内:「異邦人街」からデーダインさんが去りました。
ツェツィーリヤ >   
「……」

呟く様な、切なげな声色に僅かに苦笑で答える。
きっとこの馬鹿げた見た目以上にこの不審者は色々と戸惑い悩んでいるのだろう。
その姿もまた、生徒にとっては大きな意味があるのではないかと思う。
それに自身にも心当たりがありすぎて、なんといえば良かったのか判断しかねたのもある。
何より、これに関しては答えも意見もきっと求められてはいない。

「人の悩みを聞くのは嫌いではないので。
 ではまたご縁がありましたら」

手品のように消え失せる姿を見送っても最早動じる事もない。
この島はそういう場所なのだと改めて実感できたような気がするから。
それにいつのまにか頭痛もだいぶましになった。
これなら歩いて帰れそうだ。妙な所で良い酔い醒ましになった。
客対応モードで喋るのは疲れるが嫌いではない。

『……変だけど良い教師だったな』

そう呟くと立ち上がり、空を見上げる。
空に昇っていく白い呼気は直ぐに宙へと消えていく。
それを見送ると冷たい空気の中ゆっくりと歩き始めた。

ご案内:「異邦人街」からツェツィーリヤさんが去りました。