2015/12/26 のログ
ヨキ > (自分へ身体を預ける透子を、肩で受け止める。避けようとも身を引こうともせず、慣れた調子で。
 但し――服で覆われた身体は辛うじて体温を保っている程度で、まるで死人のように冷めていた)

「冷え性でね。暖を取るためだけなら、ヨキはお薦めしない。
 それでもくっついてくれるなら、いくらでも歓迎するよ」

(目を細めると、目尻に引いた血のように赤い紅が笑い皺に沿って細くなった。
 耳にした名前を反芻して、牙の並ぶ口で笑う)

「ヒサカタ・トウコ……久方君。ああ、もう忘れんよ。
 ヨキは学園の生徒をみな好いているでなあ、覚えておかねば気が済まんのでな。
 褒めてくれてありがとう。自分の身の回りにあるものは、ヨキも気を使っているつもりだ。

 ……なに、別段歓楽街に出入りしているからといって、それだけで目を付けるような真似はせんよ。
 安心したまえ」

久方 透子 > 「……ホント。冷たい」

言う通り。そこに温もりはなく、外気の冷えのせいもあるし、人から感じる落差というものもある。
素直に驚いて、声を上げる。――その驚きは、彼の姿を目撃したときの其れには及ばないけれど。

「ヨキ先生は、……寒く、ないんです?
 私の体温、少し分けてあげられたらいいのに」

冷えを覚えても、けれど一度寄りかかった姿勢を崩したりはしない。
丈の差がある以上、肩にもたれ掛かる姿勢でも首の角度は深くならずに済むのだから姿勢はそう辛くもないが。

ちらり、と見上げた――その鋭い牙が垣間見えて。
笑みに安堵するどころか、ぞく、と背筋に走る寒さを覚えるのは、後ろめたさ故に。

「教師の鑑、ですね。みんなを愛してる、なんて。
 ……って、怒らないんです?
 実は、……結構、学園では真面目にーで通してるから、ドキドキしてたり、しました。
 今でも、心臓、結構バクバク言ってたり、するんですよ。触ってみます?」

安心しました!といった声の明るさのトーン。
ようやく安堵出来たといったように混ざる100%冗談とわかる言葉の類。
そんなものを織り交ぜて。何処までも、べたべたと、嘘の壁で塗り固め。

ヨキ > 「全然。少しも寒くないよ。
 君の体温を?ふふ、きっと心地いいだろうな。
 だがヨキが貰ってもすぐに冷やしてしまうだけだから、それは君が自分で温めておくといい」

(人波を眺めながら、隣に響くほどの低い声で囁く。
 く、と喉で笑って、声を弾ませる透子を見た)

「ヨキはこの常世島と、常世学園があってのものだからな。
 そこに通う子らを思うのは、当然のことだ。

 ……こう見えてヨキは、心が広いでなあ。
 表の街には街の、ここにはここのルールがある、と考えているから。
 何をしていようが……『大抵は』見過ごすさ」

(触ってみますか、と尋ねられて唇を結び、コートのポケットからすいと左手を抜く。
 その四本指の先を、淀みなく透子の身へ伸ばして――

 ひたり。

 透子の髪とマフラーの間に指を差し入れて、冷ややかな指先がひどく正確に頸動脈の真上に触れた。
 冗談みたいな真顔で居たのが、不意に砕けた笑みになる)

「温かいな」

(まるで見当違いの感想を口にして、くすくす笑った)

久方 透子 > 「こんなにも冷たいのに、寒くないなんて、不思議ですね。
 ……でも、もたれかかるのは、何だか心地よいから、もう少しだけ――。
 大抵……じゃあ、いったい、何なら見過ご…な、い……」

力を緩める。甘えたように聞こえる声を発する。
それこそ、男子を、だましてしまうような。

けれど決して目は閉じない。目線は何処までも彼の姿を、行動を、追いかけるようにまっすぐに。
警戒の色だけは、出来るだけ露わにせぬよう。

「――……、……」

今日の驚きの一番は、その後に上書きされた。
まっすぐ伸びる手が、――冗談のつもりで言った、触っても良い箇所は、心臓のそば、つまりは女性の胸部、であったはずの其処ではなく。
首元へと潜り込むものだから。

一気に鳥肌が立ったのは、その指先の冷たさの為だけではない。
身体をめぐる血も冷めて、全身が冷たくなっていくのは、錯覚でもなく。

彼の触れる、そこから感じる脈動は。
確かに緊張に、恐怖に、はやく打って、響くことだろう。

完全に竦んで、固まって、――驚きで見開かれたままの瞳が潤む一瞬と。

「……っ、つ、冷たいですよぉ、ヨキ先生…っ!」

その涙を。
冷たさのせいにしようと。か弱く鳴いて、みせた。

ヨキ > 「ああ、君の身体は軽いからな。いくらでも支えていられる。
 ……何なら見過ごさないかって?

 この裏通りのルールを――表の街へ持ち込むことさ」

(透子の首筋に触れていた顔が、一瞬凄絶な笑みを浮かべる。
 ネオンを背にした陰の落ちる顔が、引き裂いたように大きな口が、にたりと不敵に。
 まるでとっておきの秘密を恋人へ囁くみたいに、甘く優しい声を紡ぐ)

「常世島には、さまざまな営みがある。
 それらがその街の中だけで収まり、他の人びとの暮らしを侵すことさえなければ――
 ヨキは誰が何をしていても構わないと思っている」

(早鐘を打つ心臓の拍動を読み取った指先が、事もなげに透子から離れる。
 そのリズムを手中に収めるようにひとたび拳を緩く握って、ポケットの中へ戻す)

「――失敬。
 冬には引き立つだろう?」

(瞳を潤ませる涙の膜を透かし見るように、金色の目を薄らと細める。
 逆光の暗がりに沈む顔の中で、微笑む双眸だけが蝋燭のように揺れて光っていた)

久方 透子 > 怖い。
低く甘い囁きも、目の前で見える大きな牙も、その笑顔も、金の揺らめきさえも怖い。
演技はそう下手ではない少女ではあるだろうが、それでも誤魔化しがきかない感情の限度もある。
その指先には、少女の震えが感じ取れたはずだ。その手が、離れて、ポケットに収まって、それからしばらく後も、震えは止まらない。

何かを聞こうと口を開いて、
……開いた口は何も言えず、はくはく、と空虚に白い息を零すだけで。

「は、はは。……あはは。
 そうですね。誰かの迷惑になる事は、しちゃいけないと思います。
 ええ。……本当。教師の鑑、ですよ。ヨキ先生」

やがて。
出てきた言葉は、いつもの優等生としてのセリフ。
けれど、引きつり笑い混じりに、目じりの涙を、拭う素振りを隠そうともしないで、未だに高鳴り続ける鼓動を押さえつけるように、自らの手で、左胸に触れ。

寄りかかる、その姿勢から、近づいた時と同じ、ゆっくりとした動きで距離を取った。
今度は、唇の引きつりもなしに、笑う事も出来るはずだ。

「ヨキ先生は――、……きっと、…
 幸せなんですね。素敵です。羨ましいです。
 ……そんなに、誰かの事を、思いやれるような人に、なってみたいです」

ヨキ > (透子の震えを、まるで気付かなかったような顔をして、往来へ目を戻す。
 明るみに晒した横顔は、ふたたび人好きのする教師の微笑み)

「そうだ。自分でできる限りの暮らしをすること――それだけでいい。
 それが秩序というものだ」

(肩口から透子が離れて、その身体は大樹のように微動だにしなかった。
 透子の言葉に、そっと目を伏せる)

「……勿論。ヨキは幸せだ。
 幸せになろうとしてきたからな。
 この姿勢が、無神経のように呼ばれることも少なくはなかったが。

 …………。
 さあ。そうなりたいと真に考えるならば、なれるのではないか。今すぐにでも。
 それが書かされた感想文や、ト書きの類でさえないのならな」

(ヒールの踵が、アスファルトをこつりと鳴らす。
 立ち上がって、透子を見下ろす)

「もし幸せになりたければ、ヨキのところへ来るがいい。
 君の望む形で、ヨキが出来うる限りのことはしてやろう。
 このヨキには、久方君へ譲れる体温も身長もないが――

 手管なら?」

(戯れめかして首を傾げ、笑った)

久方 透子 > ひとまずの危機は――、どうしようもない、間近に迫る危機は去ったと考えるべきなのか。
ようやくある程度の距離を取り、目線も外れた彼を目線の下から観察するも、真意を読む事も、心の中をのぞく事も出来ない。
震えがようやく止まった指先で、コートの裾をぎゅっと掴み、手のひらを隠すように握りこむ。

再び、作る、笑顔。

「――まるで、そんな、私が幸せになろうとしてないみたいに、言われると傷つきますよ。
 私なりに、…せいいっぱい、やってますよ。
 でも、うん、そう仰っていただけるなら、何か困った事があったら、真っ先にヨキ先生に相談します。
 ……でも」

「…………。教師の鑑って言葉、撤回します」

立ち上がればその身長差は更に広がる。
長時間見上げていれば、首を痛めかねない程には。

付け加えられた一言。
今度は、無知で無垢で、控えめな態度を装う事はなく。
若干の侮蔑の意味も込めて、そう、呟いた。

ヨキ > 「おや」

(透子の顔を見下ろしたまま、瞬く。眉を顰めて、爪の先で眉間を掻いた)

「……そういうことを言いたかった訳ではないのだ。
 君の心証を害したな。……済まない、久方君。
 ヨキの言い方が悪かったな」

(吐き零す息は、冬の夜だというのに白く染まることもない。
 かぶりを振って、頭を掻く)

「人それぞれ幸せの形があることは判っている。
 君が幸せになろうとしていないのならば、こんな街へなんて出やしないだろう。

 …………。人間としてのヨキは、この街からはじまった。
 そこに暮らす人びとを、どうして蔑ろに出来よう?
 ……力になりたかった。それだけだ」

(踵を返す。
 後ろを見遣って笑み、軽く手を振る)

「そのうち挽回させてもらう」

(それだけ言い残して、人波の向こうへ消える)

ご案内:「歓楽街」からヨキさんが去りました。
久方 透子 > 「じゃあ、…助けを呼んだら、そのときはお願いします」

少なくても彼の視界に少女がいる間は、何とか笑顔を保てた。
人ごみの中、消えてしまえば、途端に眉を寄せて、眉間に深い皺を作って、その大きな背を見送る。

「……あーあ。これは怒られちゃうな。
 怪我の言い訳、どうしようか」

がり、と頭皮を爪で掻く。
今はまだ、その身に何の傷も受けてはいないのに。
そんな未来の心配をしながらベンチから立ち上がる。

向かうべきは、自分の住む世界。
自分の秩序へと向けて、歩みを進めようか。

おそらくはきっと、彼とは異なる道。

裏の、世界へと。

ご案内:「歓楽街」から久方 透子さんが去りました。
ご案内:「歓楽街」に雪城氷架さんが現れました。
雪城氷架 > 歓楽街、その駅前の広場のベンチに座る少女
すっかり太陽も沈み、クリスマスのイルミネーションがキラキラと輝いている
そこにちらほらと降ってきた雪が綺麗なものである

雪城氷架 > 「ふうっ…さむ……」

が、寒い
大きめのダッフルコートを着ているがそれでも寒い

つけたままスマホを操作できる手袋の発明は実にありがたいことだと思いつつ、
携帯を覗き込む

約束の時間まではまだ随分あった

ついつい浮足立って、大分はやく待ち合わせの場所に来てしまったのだ

雪城氷架 > ベンチに背中を預けて、駅前を行き交う人々を眺める

若い男女のペアが、寄り添って暖をとるような感じで歩いてゆく
何組も何組も、それも当然のこと
鮮やかなイルミネーションが示すとおりに今日はクリスマス・イブだ

今日くらいは夜の歓楽街を歩いたって、風紀委員に怒られはしないだろう
そんな特別な日である

雪城氷架 > 「(……そーいや、男子と一緒にクリスマス過ごすのって初めてだな…)」

今まで彼氏なんかがいた試しはないし、
兄貴がうちのクリスマスパーティーに来ることはあっても、
だいたいお母さんと、括流との2人+1匹で特別な日は過ごしてきた
パパは忙しかったし、家にいないことのほうが多かった

だからなんとなく、今日は特別

寮のクリスマスパーティーから抜けだして、
お洒落して、プレゼントを抱えて、なんとなく急ぎ足で

「………」

もうすぐ約束の時間だ
髪型のチェックはいつもの数倍増しでやった
メイクも派手すぎないように、それでもいつもの倍以上時間をかけた
必要か不要かはともかく下着も一番お洒落なやつにした

「(か、完璧だよな…?)」

なんとなく自分の中で間が持たなくて、手鏡を取り出すと外見の再度チェックだ

ご案内:「歓楽街」に霜月 零さんが現れました。
霜月 零 > 息を切らせて走って行く。
待ち合わせの時間はギリギリだ……余裕を持っていたはずが、妹のおかげでこんな時間である。
待ち合わせ場所に近づくと、既に相手は来ているのが見えた。それだけで焦りが加速する。

「悪い、待たせたか!?」

走り寄って声を掛ける。
普段の彼とは違い、カジュアルな服装で帯刀もしていない。
確かに似合っているが……古臭いところのある霜月零のセンスではない、と気付くかもしれない。

雪城氷架 > 「ひゃわっ!」

鏡の中を注視していたせいで突然かけられた言葉に驚いて飛び上がる
自分でもなんて声出してんだと思いつつ、来たであろう待ち人へと振り返って

「1分遅刻、待ってないよ全然」

ほんとは着くのが早すぎて大分長い間そわそわしていたけれど、
そういってにこっと笑いかけるのだ

「走ってきたのか?雪降ってるんい、危ないぞ」

霜月 零 > 言われてちらっと時計を見る。……確かに、1分遅刻だ。やってしまった。

「いや、それでも遅れちまったしな……すまん」

気まずそうに頭を下げる。本当は1時間ほど余裕をもって来るはずだったのだが……。

「この程度じゃ転ばねぇよ、体幹は自信あるしな。……刀無いから逆にちょっと走り辛かったが」

ぽりぽり、と頭を掻きながら口にする。
常に、と言っていいレベルで帯刀している零にとって、素手の状態で行動するよりは、腰に刀がある状態で移動する方が慣れているのだ。
今日は珍しく刀を置いてきたため、その分の違和感が発生したのである。

雪城氷架 > 「お、出たでた、1スマンだな」
にへっと笑って謎のカウントがはじまる

「あ、そうか。いつもと違うと思ったら刀持ってないんだなぁ。なんで?」

なんとなしに、疑問を素直にぶつけてみる
特に事情はないのかもしれないけれど

霜月 零 > 「カウントすんな、なんだか恥ずかしくなる……」

少し顔を赤くして目を逸らし、ふぅと一息ついてその後の疑問に答える。

「あー、実はな……芙蓉に、取り上げられた」

とても、困った顔で。

雪城氷架 > 予想通り顔を赤くして恥ずかしがる零を満足気に見た後、首を傾げる

「…芙蓉が?なんでまた」

もしかしてそれが慌てて走ってきた理由だろうか
なんて考えを巡らせながら

霜月 零 > 「ホントは1時間くらい余裕を持ってくるつもりで、部屋を出ようとしたら、芙蓉がいてだな……俺のファッションチェック始めやがった」

はぁ……と深いため息を漏らして続ける。

「で、俺の姿を見るや否や『お兄ちゃん!お兄ちゃんはクリスマスに掛ける乙女の心を分かってないよ!なんでそんないつも通りの服With刀なわけ!?しっかりとキメてあげないとひょーかちゃんが可哀想だよ!正直予想は出来てたけど!』とか言い出してな……なんでか持ってきてた服を渡され、それを着ろと言われ、そして刀は『デートに刀は要らないから!』っつって取り上げられたんだ……」

無いとちょっと落ち着かないんだけどな、とまた溜息。
要するに芙蓉は、服飾に無頓着な兄の行動を先読みして、デートにふさわしい姿にコーディネイトしたのである。

雪城氷架 > 額に手あてて小さく息を吐く
ほんと小さな吐息すらも白くなるそんな夜の駅前の広場で

「うん、まぁ割りと、そうだな…芙蓉が8割がた正しい…気がする」

芙蓉はルームメイト
当然というかなんというか、今日のデータの予定もしっていたのだけれど
寮のクリスマスパーティーで姿を見なかったと思ったらそんなことに

霜月 零 > 「…………すまん」

変に着飾るのもどうか、などと考えていつも通りを選択した零であるが、やはりちょっとズレていたようだという事に気付き、申し訳なさそうに頭を下げる。なんだか気持ちしょんぼりしている感じだ。

「プレゼントはまあ、自力で用意したんだけどな……正直不安になってきた」

そう、プレゼント。
一念発起して真剣に店を見て回り、予算にも糸目をつけず、一週間ほど迷い倒して購入したもの。
だがそれは所謂装飾品であり、自分のセンスで喜んでもらえるのか、今更ながらに不安になってきたのである。

雪城氷架 > 「2スマン」

カウント二つ目をちょっと意地悪そうな顔で言って

「いいよいいよ、とにあえず歩こ。
 異能使わずにじーっとしてると寒くっててさ」

バッグを肩にかけ直して、零の横へ並ぶ

「……手つなぐ?それとも腕組む?」

あえて問うてみよう
当然のように駅前を歩くカップル達は寄り添うような密着度で歩いているのだが

霜月 零 > 「ぐ……」

バツの悪そうな顔。癖になってるな、と首を振って気持ちを立て直す。

「まあ、そうだな。歩くか……う、そ、そうだな……」

手をつなぐか、腕を組むか。
問い掛けられれば、少し顔を赤くして考えて……

「……こっちで、頼む」

すっ、と。
彼にしては非常に大胆に体を寄せ、腕を絡めた。

雪城氷架 > 「………お、おう」
するんと絡む二人の腕
身長差が程よくあるので少し氷架がしがみついているようにも見える

「‥……意外と大胆だな…」

自分から振ったくせにほんのり頬を染めてぼそりと呟く

何はともあれ、寄り添って街を歩き始める
色とりどりのイルミネーションの下、舞い散る雪も光の粒に見える

こうやって身を寄せて歩くだけでも大分温かい気がした

「そういえば、零ってクリスマスは去年まで何して過ごしてたんだ?
 どうせカノジョとかずっといなかったんだろ?」

霜月 零 > 「……」

無言で少し目を逸らしている。顔も赤くなり、自分でも大胆である事は自覚しているようだ。

「(手をつなぐだけ、で我慢できるわけねぇだろ……!)」

内心でそんな呻き声をあげる。聖夜の雰囲気もあるのだろうが、今横にいる恋人が狂おしいほどに愛おしいのだ。
手を繋いでいるだけ、では物足りなく感じてしまうほどには。

「あー、今までなー……うちは特にパーティとかもしねぇから、まあちょっといいもん食って、後はいつも通り、だな」

そんな内心を必死に隠しつつ、問いに応える。
正直なところ、零自身に大して興味がなかった、と言うのも大きい。
妹の芙蓉は『くー!今年もカップルがいちゃついてるの見るのしんどーい!』などと宣っていたが、零は『関係ないんだからほっとけばいいだろ』と言った風情だったのだ。

雪城氷架 > 「そうなのか、うちには毎年賑やかだった…ていうか、多分括流達が賑やかにしてくれてたんだけど」

淡雪はタイルに落ちるとすぐに消えてしまう
積もらないかな、なんて少しは考えたりもするのだが、本格的な冬の到来にはまだ少しだけ遠いらしい

そんな情景の街を歩きながらかわす、なんてことのない会話
それだけなのに、例年の賑やかさとは違う、不思議な居心地の良さを感じて

「私彼氏どころか友達すら全然いなかったからなー。
 それでお母さんとか括流が気を使って盛り上げてくれてたんだ、多分」

ちら、と隣の顔を見上げて

「ま、今日は賑やかじゃない分、更に特別だけどな」

霜月 零 > 「あの人らなら、成程賑やかだろうな」

くす、と笑う。
氷架は『してくれてた』などと言うし、恐らくそう言う所もあるのだろうが、彼女らは根本的に明るい方だろう。
無理せずとも、自然と明るくやっていたのではないか、と思う。
キラキラ輝くイルミネーション、カップルたちで人通りの多い歓楽街。
普段なら、人の多さに辟易しかねないようなシチュエーションだが……今年は特別だ。
願わくば、これからも。

「氷架が友達いなかった、ってのは意外だけどな。こんなにいい奴なのに」

首を傾げつつ、本気で疑問に思う。
確かに不愛想なところはあるが、一皮剥けばとても素直で、しっかりとした可愛い女の子だ。
そんな彼女の持つ魅力に、ほとんどの人間が気付いてこなかったのだろうか?と思うと首を傾げざるを得ないと言う物だ。

「……そうだな。俺も、こんな日が来るとは思ってなかった」

聖なる夜。恋人たちの夜。
正直、今まではドライな眼で見ていたところがある。
基本的に神道及び仏教である零にとっては他宗教の祭日であるし、恋人たちの夜と言うのも、本旨から外れているというのが正直な感想だった。
だが、それは所詮、独り身故の感傷。
こうやって恋人と共に歩いていると、この日がどれだけ特別で、彩りに溢れた物かよくわかる。

「ありがとな、氷架」

だからか、ついついお礼の言葉が零れた。

雪城氷架 > 「いやぁ、ほら私こんなだし、日本の田舎のガッコだと浮いちゃってさ。常世だとそんなでもないけど」
言いながら自分の銀髪をさらりと手ですいて見せて

「だから此処に来るまで正直、学校とか死ぬほど嫌いだったんだよな。
 零の思ってる通り、今は違うからいいんだけどな」
それで根がついた、所謂サボり魔
当然成績も落ち込み教師達からの目線も冷たくなる

そんな折、突然かけられたお礼の言葉に目を丸くする

「ありがとうってなんだよそれ、変なヤツだなぁ!」
とすとす、と腕を組んだまま頭で小突いてやる、痛くない頭突き

と、何かが目に入ったようで

「ちょっと待ってて」
いうと、何やら屋台のほうへと走って行って…

「買い食いしながら歩いたっていいよな、今日ぐらい」
戻ってきた氷架の手には丸くてほかほかしたもの、大判焼きである
ちなみにどっちも中身はカスタードクリームのようであった

霜月 零 > 「あー、あー……成程なぁ」

綺麗な銀髪。だが、それはとても日本人的ではない。日本人と言えば黒髪である。
それだけで随分と奇異の目で見られるだろうし、そこに不愛想な態度が合わさってしまえば、確かに人を遠ざけるには十分だろう。
そして……『極小の集団社会』と言う側面を持つ学校と言う場所において、孤立と言うのは見た目以上の苦痛を伴うと聞く。
ならば、学校が嫌いになってしまうのも、むべなるかなと言った所だ。

「俺は好きだけどな、氷架の銀髪……っておいおい。アレだよ、こんな日を送れるのは、氷架のおかげだなって思ってさ」

とすとす、と微笑ましく小突かれ、笑みを零しながら。
思わず撫でまわしたくなってしまったが、急にぱっと離れて行ってしまう。
少し待ったら、大判焼きを手に持って戻ってきた。氷架らしい。

「はは、らしいなあ、氷架は。ま、今日くらいはOKだろ」

また微笑んで、今度こそ頭をくしゃくしゃと撫でてやる。
サラサラの銀髪が手に心地よい。

雪城氷架 > 頭を撫でられると ぼっ と顔が赤くなる

「れ、零。あのな、嬉しいんだけど、その……」

クリスマス・イブの歓楽街、そのストリート

周囲にはカップルもそうでない人もいっぱいである

『学生さんカップルかわいい』だの
『微笑ましい』だの

色んな意味が含まれていそうな視線を感じる

「ほ、ほら!もう歩くぞ!」
はむっと大判焼きを口に運んで、今度はこちらから、ぐいっと零の腕を組んで引っ張るように歩き始める

霜月 零 > 「あ、ああ、えっと、すまん」

慌てて手を離す。周囲の視線が少し恥ずかしい。
でも、氷架の頭を撫でるのは、撫でてる方も心地よいので中々手放しがたい感覚でもある。むむむ。
だが仕方ない、と小さく溜息を吐いていると、ぐいっと引っ張られる。

「ま、待てって、おい!」

少しバランスを崩しながらも、とてててとお互いが転ばない様に気を付けつつ歩調を合わせる。

雪城氷架 > しばらく歩いただろうか
イルミネーション眩しい大通りから少しだけ外れた小さな公園に着いた

「歓楽街にこんなトコあったんだなぁ… お」
空いているベンチを見つけて、座ろうと促す

丁度ベンチの正面にはこじんまりとした噴水があり
大通りの賑やかな光をきらきらと反射している

ベンチに腰を下ろせば少し冷たい
はむん、と残りの大判焼きを頬張って

「今まで昼しか来たことなかったけど、やっぱこういう日はこの街が賑やかだなー」
そんな感想をほろりと漏らす

普段は風紀委員にばっちり学生の夜間徘徊を咎められてしまう

霜月 零 > 「ん、座るか」

一緒にベンチに腰を下ろす。ついでに少し体を寄せる。

「俺は殆ど来たことがなかったんだけど、こんなに賑やかになるとはなー……で、その中に自分らがいたことにちょっとびっくりだ」

くす、と笑う。隣で大判焼きを食べている氷架が可愛らしい。
我慢できなくなり、今度こそと頭をくしゃくしゃと撫でる。

「はは、やっぱいい顔で食べるよなー」

ちょっと照れ隠しを混ぜつつ、くしゃくしゃくしゃ。

雪城氷架 > 「ちょっと背伸びした感じする」
夜の歓楽街は所謂大人の街だ
けれど今日の日は誰にでも平等な聖夜
くすくす笑いでそう返して

「な、なんだそれ…まるで私が大食いキャラみたいじゃんか」
まあ否定できる要素が一つはないのだが

撫で付けられれば、ほんのりと頬を染める
恥ずかしいから真っ赤になったさっきとはほんのすこしだけ、違う反応

「そ、それよりほら!噴水もなんかきらきらして綺麗だよな!
 結構この公園で休んでる人も多────」

誤魔化すようにそう言いながら噴水と、その周囲のベンチを眺めて、そこで気づく

カップルだらけである
しかもこう、体をものすごく密着させているというか、重なっているというか
どう考えてもキスしてるというか

クリスマスの歓楽街の公園
当然といえば当然の光景であった

霜月 零 > 「だって、よく食べるだろ?

微笑んだままくしゃくしゃ。
実際氷架はよく食べる。その割にはやせすぎではあるが……逆に言えば、食べてスタイルを崩しているという事もない。
それに、料理が趣味の零としては、美味しそうに食べてくれる人と言うのは心地よい存在なのだった。

「そうだな、なんかこういう日だと噴水も雰囲気出て……」

つられて周囲を見て、硬直。
……まあ、当然と言えば当然の光景ではあるが、なんだか一気に気恥ずかしくなってしまった。

「……」

少し困った表情で、氷架をじーっと見つめてしまう。

雪城氷架 > 「………」
バツが悪そうな顔でちらりと零の顔を見ると、見つめられていることに気づいてしまう

「え、えっと違うんだぞ。
 別にこういうのがあってそれで此処を目指して歩いてきたわけじゃあ…」

なんだかあわあわと言い訳にもならない言い訳をはじめる氷架
とはいえ、すぐに言葉も尽きて、俯き気味に零の顔をそっと見上げて

「…………まぁ、クリスマス…だし、しょうがない、な……」

霜月 零 > 「……しょうがない、よな」

……うん、しょうがない。
クリスマスだし。雰囲気もそんなだし。それに、氷架は可愛いし。
だから。

「…………」

そっと抱き寄せ、唇を重ねに行く。
……キスしたくなってしまうのも、しょうがない。