2017/12/30 のログ
■神代理央 > 「働き者なのはお互い様だろう?君こそ、冬季休暇くらいはメンテナンスや部品の保護に努めても良いと思うんだけどね」
彼に言葉を返す際に吐き出す息は紫煙の様に白く立ち昇り、ネオン煌めく歓楽街の空へと消えていく。
その光景に改めて気温の低さを実感し、着込んだ制服でも些か物足りないという様に僅かに身震いしながら苦笑いを浮かべる。
「年末に限らずとも、人間は何かしらのイベントがあれば騒ぎたくなるものなのさ。問題さえ起こさなければ、幾らでも騒いでくれて構わないが…。尤も、我々の様に年末年始も働かざるをえない者達にとっては、憂鬱な季節かもしれないがね」
他者から見れば、彼に比べると此方は随分とリラックスしている様に見えるだろう。実際、己の戦闘能力の大半を異能に依存する己は、そもそも異能を発動しなければ戦闘態勢を取れないので平時では武器を構えすらしない。
問題が発生すれば直ぐにでも金属の異形を歓楽街に鎮座させられる様に警戒心は抱いているものの、傍から見れば風紀委員のHMTと談笑する華奢な少年、といった風体だろう。
実際、自分一人で居た時よりも、周囲の群衆は明らかに此方を警戒している様に見受けられる。
機関砲を回転させるHMTと、武器も持たない小柄な風紀委員とでは与えるプレッシャーも違うのだろう。
■イチゴウ > 「その点は安心してほしい。
ボクのメンテナンスタイミングは決められている。
またキミは働き者だが人間は働くと疲れてしまう。
良ければ受け取ってほしい。」
寒さに反応し少し震える少年を見て
脳を模したAIは一つの結論を見出したのか
ロボットの数cm前に機関砲を出した時のような
発光と共に一つの缶コーヒーが地面に対して直立する。
どうやらホットのようで立ち上がる湯気と
ラベルに描かれた甘味がその存在を主張させる。
「整備員に勧められて
最近数種類の小説を読み込んだがその傾向が見受けられた。
またそこではこのシーズンに男女が一組となり
行動するというものが多い。キミは違うのか?」
どうやら読んだ小説のジャンルが偏っているよう。
思い出すようような素振りと共に
最後の疑問は理央の顔を見つめながらクイッと
不思議そうにその妙な顔を傾ける。
また少年がリラックスした事もサーモセンサーをはじめ
いくつもの観測機器で感知しており
「理央、落ち着くことは重要だが落ち着きすぎるのは
不適切だ。」
ここの警備任務が殺到する理由はそもそも危ないからで
理央に対してある種のお節介を掛けただろうか。
そう言いつつ強力な支援型という彼の性質は理解しており
彼の一歩前にでるようなフォーメーションを自然と組んでいる。
■神代理央 > 「…異能だの魔術の類は此の島でも良く見かける光景だが、まさか君からこんな手品みたいな方法で珈琲を御馳走になるとは思わなかったな。いやはや、驚いたよ。
とはいえ、有り難い差し入れだ。遠慮無く頂くとするよ」
最新鋭のHMTである彼の武装展開方法については、詳細など知る良しも無い。類似、或いは劣化技術についての知識はあれど、専門家でも無いので原理を知るわけでも無い。
よって、眼前に現れた缶コーヒーには目をぱちくりとさせつつも、緩やかな笑みを浮かべて缶コーヒーを手に取り、そのプルタブを開く。
「学生が過半数を占める此の島では、寧ろ男女のペアで過ごす方が一般的だろう。島外ではそうとも限らないがね。
私の場合は、生憎ペアとなる女性に恵まれなかった。それだけの事だ。性格の悪さが顔に滲み出ているのかもしれないな?」
実際、クリスマスや年末に同年代の異性と過ごした経験等皆無であった。異性からの評判が芳しくないか、単に己の容姿が好まれないのか。或いは自身の言葉通り性格面に難があるのか。
とはいえ、悪気等微塵も無い彼の言葉に腹を立てる事も無く、僅かな溜息と苦笑いと共に、彼に返答を返した。
「異能を発動する際に焦っても仕方ないからな。ゴロツキ程度なら異能を発動させるまでも無いし、異能を使用するような事態になれば本格的な戦闘になる。そうなるまでは寧ろ力を抜いて平常心を保とうと思ってね。
とはいえ、気を緩みすぎるのは君の言う通り不適切だな。気をつけるとしよう」
実際、彼と自分のペアで此方が異能を発動する様な戦闘になれば、周囲の区画に避難誘導を出しつつ本部に応援を要請する様な事態になるだろう。
本格的な戦闘になるまではとリラックスした雰囲気を見せていたが、彼の言葉に素直に頷けば僅かに背筋を伸ばして風紀委員としての威厳を見せようとするだろう。
尤も、暖かい缶コーヒーを飲んで幸せそうな笑みを浮かべていては、威厳も何もあったものではないのだろうが。
■イチゴウ > 「学生は難しい話を好まない。
よって簡単に済ませるが今作動させたのは限定的に
空間を歪曲させる装置。対消滅反応を利用して
余剰次元と接続する。確かキミは甘いものが好きだったか。」
小難しい話はロボットにとっても好きなものでないらしくすぐに終わらせ
興味はすぐに缶を目の前にした理央の表情へ
タブに指をかけ軽快に開けるその様子を見届ける。
「なるほど性格の良し悪しも男女のパターン構成を
決める変数と成り得るのか。この問題は難しい、
より多くの標本を集める必要がある。
・・・キミの性格は悪いのか。」
理央の返答を受けて自分の電子回路で巡らせた事を
独り言として次々と吐き出していく。
最後は呆気に取られたように。
「なるほど、残念ながら異能者の都合というものは
ボクには判断する事が出来ない。
あと今、どんな気持ちなんだ?」
自分がそうだからと言ってあらゆるものが
そうであるとは限らない。
またコーヒーを喉へと通す理央の表情が
至極幸福感に包まれているものになっている事を見て
好奇心が刺激されたのか変わらぬ表情で
息を吐く様に自然とそんな疑問がこぼれる。
■神代理央 > 「缶コーヒーを取り出すのに次元を超えてくるとは予想していなかったよ。しかし、そういった技術が市井に広まれば、人々の生活もより良くなるだろう。輸送コスト等の漸減は著しいだろうしな」
ふむふむと感心した様に頷きながら彼の言葉に聞き入る。
合間合間でコーヒーを口に含んでは、幾分温まった吐息を白くたなびかせている。
「男女のペア…まあ、カップルの観察なら、注意を払って行う事だ。彼等は、他者の視線を好まないからな。
…自分で言うのも憚られるが、自分の性格が良いとは思っていないな。卑下する訳でも無いが、善人には成りきれんよ」
彼の独り言に律儀に答えつつも、己の性格については肩をすくめて飄々と答えてみせる。
それを是正しようと思って居ないことは、その態度にありありと示されているだろう。
「……今の気持ち?不思議な質問だな…。そうだな、思いがけない細やかな幸福を甘受して、幸福度としては小さい事でもそれが拡大されている感覚、といって君に伝わるだろうか?
此処で君から暖かい缶コーヒーを受け取るとは思っていなかったから、不意に頂いた好物をこの寒空の下で味わえる事は、缶コーヒー1本で得られる幸福度を大きく底上げしているんだよ」
きょとんとした様に首を傾げていたが、暫し悩んだ末に彼の疑問に対して言葉を返す。
その表情は温和なもので、学園で、或いは任務中の己を知る者が見れば些か驚くやも知れぬものであったかもしれない。
尤も、その表情は通信端末からのコール音で直ぐに掻き消える事になるのだが―
「……すまない。巡回地区の移動だ。当番の委員が体調不良だとさ。缶コーヒー有難う。次は、此方から何か御馳走させてくれ」
本音を言えば、此のまま彼と歓楽街の巡回を済ませたかったが仕事は仕事。僅かな疲労と、残念そうな表情を浮かべれば、缶コーヒーを飲み干して彼に軽く頭を下げる。
巡回場所に移動する車両が到着するまでは、もう暫く彼との雑談を楽しんだ後、少年は次の任務地へと赴くことになるのだろう―
ご案内:「歓楽街」から神代理央さんが去りました。
■イチゴウ > 「情報収集のアドバイスをありがとう。
さっそく役立てるとする。」
彼の言葉をふむふむといった様子で
耳に受けて再度彼の目に視線を合わせる。
「非常に分かりやすい説明だ。
キミはニューロAIの教育係に向いているかもしれない。」
データをインプットする際の変換の手間が
幾分か省けた。そのことに関しての感謝を
ジョークを交えつつ理央へと伝える。
そんなこんなで続いていた談笑は彼の区画移動で
打ち切られ残されたロボットは切り替えて
巡回へと移る。背部の機関砲を回しながら
歩く一機の戦車は歓楽街に渦巻く欲望を
抑えつけつつ歩むのであった。
ご案内:「歓楽街」からイチゴウさんが去りました。