2015/07/21 のログ
ご案内:「落第街大通り」に薄野ツヅラさんが現れました。
■薄野ツヅラ > 落第街の大通り。
歓楽街から続く其の一本道に彼女は居た。
赤いジャージにヘッドフォンに右手でついた前腕部支持型の特徴的なシルエット。
電灯の下、色濃く彼女の影を落とす。
「────はァ」
ついさっきまでは相も変わらず趣味の散歩に精を出していた。
また第二特別教室に足を運ぶ理由が出来てしまったがまあ構わないだろう。
そう、悪くない。
電灯に寄り掛かりながら、ぼんやりと空を仰ぐ。
曇天。月は隠れ、灯りは橙の電灯ひとつ。
退屈そうに溜息をひとつ吐いて、彼女は視線を周囲の屋台群に移した。
ご案内:「落第街大通り」に畝傍さんが現れました。
■畝傍 > 路地裏での戦いを終えた橙色の少女は、狙撃銃を抱え俯きながら、重たい足取りで大通りを歩く。
体をかすめた銃弾や異能者の放った光線により、ところどころ掠り傷や軽い火傷を負い、出血もあった。
そのうえ、今は精神状態まで芳しくない。
「……おなか、すいたな」
呟きが漏れる。せめて何か食べられれば――と思いながら歩みを進めていると、いくつかの屋台が出ている場所に辿り着く。
そこで、杖をついて歩くジャージ姿の少女が畝傍の視界に入った。
「(けが、してる……?)」
自らの負傷をよそに、赤ジャージの少女のことが心配になった。
ゆっくりと歩きながら、彼女に近づいてみる。
■薄野ツヅラ > ぴくり、と眉を動かす。
其の少女の洩らした独り言が耳に入れば、ぼんやりと向けていた視線をゆらりと左右に振る。
図らずも目に入るのは随分と満身創痍な少女の姿だった。
怪我をしているのが目に入れど、此処は落第街。
誰にとっても此の街の住人にとっては『当たり前』の光景。
特に気を使うこともなく、適当に視線をまた揺らす。
──近付かれれば、ゆったりと視線を其方に向けるだろう。
■畝傍 > 赤ジャージの少女に近づくと、彼女の視線はこちらに向く。
「…………あ」
ほんの一瞬言葉に詰まるも、まずは話を切り出そうとし。
「キミも……おなか、すいてる……の?」
周囲にあるさまざまな食べ物の屋台を見渡しつつ、少女に問うてみる。
■薄野ツヅラ > そう橙色の少女に問われれば、彼女は不機嫌そうに口を開く。
「えェ………?」
怪我を負った其の姿から出てくる言葉としては意外なものだった。
一瞬呆れたような表情を浮かべたものの、直ぐにまた顔を顰める。
「だったら何か変わる訳ェ?」
■畝傍 > 赤ジャージの少女の不機嫌そうな表情と言葉に動じず、話を続ける。
「ボクも……おなか、すいてるから。なにかたべたいな、って、おもったんだ。キミもそうなら……いっしょに、たべられるかな、って」
そう言い終えると、力なく笑みを浮かべた。
こちらからは、自身が負っている怪我の理由について、まだ口を割らない。
向こうに対しても、いきなり怪我のことを尋ねるのは失礼ではないか、と思っていた。
故に、まずは食べ物の話から入ってみることにしたが――。
■薄野ツヅラ > そう笑みを浮かべられれば、変わらず不機嫌そうな表情を湛えたまま左手の親指でくいと屋台を指す。
深夜帯でも営業している屋台、時期外れのおでん屋。
「別に構わないわぁ、丁度暇してたしねェ」
怪我については気にした様子は然程ない。
彼女の意図については察することも察そうとする気はまるでない。
ただ、暇をしているところに声を掛けられれば断る理由もまた、ない。
故に構わない、と。
■畝傍 > 「ありがと」
また、笑顔を見せ。
「おでんやさん、かあ。ボク、おでんやさん、はじめてなんだ」
赤ジャージの少女が指した先を見ると、子供のように無邪気に、話す。
事実、畝傍の精神は実年齢よりはるかに幼いのだが。
おでん屋台まで歩き出そうとし、ふと立ち止まって。
「……なまえ、きいてなかった。ボクはウネビ。キミは?」
自分から先に名乗り、赤ジャージの少女に名を訪ねてみる。
■薄野ツヅラ > 「別にお礼されるようなことはしてないと思うわァ」
その笑顔には目を向けず。
無邪気に語る様子にも特に気にする様子も見せずに、真っ直ぐに屋台に向かう。
かつり、かつり──
「薄野。薄野ツヅラよぉ」
三歩目を踏み出す直前、暫し立ち止まって不愛想に。
屋台にこんな状況の少女を連れて行くのはどうなのか、とぼんやり思案しながらもまァいいかと首を振る。
其れだけ溢せば、かつりと三歩目を踏み込む。
赤い灯りに照らされた屋台の暖簾を潜り、手短に注文をひとつ、ふたつ。
「大根。あと白滝ふたつねェ」
■畝傍 > 「ススキノ……ススキノ、ツヅラ。うん、おぼえた」
そう言って、ツヅラと名乗った赤ジャージの少女の後に続くように暖簾をくぐった。
狙撃銃を一旦傍らに置くと、慣れた雰囲気で注文をするツヅラの姿を見ながら、畝傍はしばし考える。
「(うーん……なににしよう)」
顎に右手を当てながらしばらく考えた後、注文が決まる。
「こんぶ、ふたつ」
■薄野ツヅラ > 物騒なモンねェ、と大きな狙撃銃を一瞥する。
自身も少女に続いて傍らに杖を立て掛けた。
直ぐに興味なさげに視線を店主に戻して、目の前にズイと差し出された器を見遣る。
特に口を開くでもなく、ぱきんと割り箸を割って大根を二つに切る。
じわりと染み出す汁に、何処か満足そうに笑みを溢す。
「いただきます」
小さく呟いて、4つに等分された大根をゆっくりと口に運んだ。
■畝傍 > こちらの眼前に差し出された器の中には、ふたつの結び昆布。
「いただきまーす」
傍らのツヅラよりもやや大きな声で呟き、割り箸を割る。
怪我で力が出ないこともあり、少々うまく割れなかったが、食べる分には問題は無い。
結び昆布のひとつを、ぱくり、と口に入れて咀嚼しはじめる。
汁に染み込んだ風味と昆布の噛み応えが合致し、ちょうどよい味わい。
やがて、しばらく咀嚼していたそれを飲み込むと、
「うん……おいしい」
と、心からの喜びを示すような声で呟くと、口角が上がる。
■薄野ツヅラ > 口角が上がったのにも彼女は気付くことはない。
目の前の器の中のおでんに集中する。
安っぽい味ながらも何処か安心するような、そんな味につい口元が緩む。
感想を漏らすこともなく、黙々と食べ進める。
おでん2品と云うのは随分と少ないものだ。
ほんの何口かで食べ切ってしまえる。
暫し無言での食事が続いた後、ゆったりと水のグラスを傾ける。
■薄野ツヅラ > 暫く二人は無言の時間を過ごしたものの、言葉を其れ以上交わすことはなかった。
ゆらり、杖を片手に携えて彼女は立ち上がる。
「ご馳走様」
其れだけ漏らして、畝傍の分も含めて多少色をつけてお札を一枚店主に押し付ける。
去り際に畝傍を見遣って、軽く笑顔を浮かべる。
「また何処かでねェ、よい夜を」
ひょいと左手を挙げて、彼女は夜の闇に自身の影も溶かしていった。
ご案内:「落第街大通り」から薄野ツヅラさんが去りました。
■畝傍 > 「またね、ツヅラ」
畝傍は一言ツヅラへ別れを告げると、笑顔を返し、右腕を振って見送った。
「(…………いいのかな)」
受け取ったお釣りを財布に収める。今度会ったら返しておこう、と思った。
畝傍もまた、傍らに置いていた狙撃銃を抱えて店を離れ、再び夜の落第街を歩き始める。
食事の間、向こうはこちらにあまり関心のなかった様子でもあったが、そのことは畝傍には気にならなかった。
ヒトと話し、一緒に食事をとることができたというその事実が、危うかった精神状態をいくらか安定に向かわせている。
あとは寮に戻り、ゆっくりと肉体の傷を癒すのみ。
「ススキノ、ツヅラ……ふしぎなヒト、だったな」
呟く。
「(……また、あえるよね)」
そう思いながら、やがて畝傍は落第街を後にするのであった――
ご案内:「落第街大通り」から畝傍さんが去りました。