2015/09/04 のログ
流布堂 乱子 > 両手に薄茶のエコバッグを1つずつ。
ブーツの踵でコツコツと音を刻みながら、通りを行く。

手を掲げられれば、手を振って返す。
儲け話がないかと聞かれれば、今は無いと無表情に告げる。
既に治った怪我について触れられれば、その節はどうもと感情のこもらない挨拶を返した。

人の流れに逆らうわけでもなく、歩みを緩めもせず。
しかし唐突に前触れもなく、足音が止んだ。

「……ちょうど、龍肉を仕入れたところでしたけれど」
ボロいベンチの前に立ち止まると、体の向きを変えもせず、首だけひねって声を投げかけた。
「店先に並ぶときに教えて下さい、謹んで買いに行きますので」

『エフェネリカ』 > 特に人のことなど見てなかった彼だが、流石にその声には反応をする。
膝に顔を埋めて隠してたが、隠す行為などあまりにも無意味だ。
何故なら彼女は、自分をこのような姿に変えられるようにした張本人なのだから。
姿形は違えども、感じ取れるだろう。
要するに彼女には恐らくというか、確実にバレている。

だから顔を上げた。
顔を上げてジト目で見据えるのだ。
瞼が何故か赤いが、知らん振りのままに、理由は悟られたくない。

「……何故…此処に居るんだ。」

流布堂 乱子 > 「言いませんでしたか。料理に使う肉を買い求めに来ました。
食用にしていることが知れるとどなたかの気分を害する類であれば、
異邦人街に行くよりははじめから此方に来たほうが早いので。」
少しだけ手の荷物の高度を上げて、それきり。見下ろす眼差しからも何も読み取れない。
何に使うとも、誰に振る舞うとも言わずに。
ただそれでも両手に持った骨付き肉の重量は相当なもので、
普通であれば誰かと食卓を囲む用途に見えた。

「それで?貴方はバハムートにでも成りに来ましたか。
食肉加工は向こうの店ですから、償いに殉ずるつもりが有るなら移動したほうがよろしいかと思います。」
龍として知られるその名は、由来を少し辿れば神の創りだした人間への供物を指す。
言いながら乱子は歩いて来た側を袋を持ったまま指先だけで示して、通りの先へと目をやった。
「『花火大会に顔を出すな』と申し上げたように思っていましたので、
私の言葉は軽々に扱われてるのかとも思いましたけれど。
……償い、とやらのことを忘れられたわけではないのでしょう?」
その落胆した様子はまるで殉教者のようでも有ったために。
乱子はその龍を人の群れから追い立てるように言葉を紡ぐ。

『エフェネリカ』 > 「そうか、肉か。わざわざ此処で買いに来るか。
あと声の掛けられ方から見て常連だったりするか?どうでもいいが。」

それは至極どうでもよかった。
特に自分を探しに来たわけでないようで、偶々こうして出会ってしまったのだろう。
彼女の手に持たれてる肉を見ると、大きさからして一人では食べないのだろうな、と。
だが龍だから一人でも食べれそうか。
答えはハッキリしない。

「私はバハムートになった覚えはないよ。
あとな、残念なお知らせだ。私には肉がない。
よって店に並ぶことは永遠と訪れない、残念だったな。」

中身は炎なのだ。
食べようとすれば命に関わるだろう。
そんなものを売ろうとする店などありやしない。

「あれが償いの一つだよ。パフォーマンスとしては成功の部類だろう?」

ん?と首を傾げながら違うかね、と問い掛ける。
迷惑は掛けてないつもりだ、それに喜んでた声が主だった。

「問題があったとしたら謝ろう。すまなかったと。」

ベンチから立ち上がり、赤龍を側面からジッと見据えるだろう。

流布堂 乱子 > 「10年熟成した火龍の肉を買うのでしたら、大半の方は学費を納めます。
払いが良ければ愛想が良くなるのも当然でしょう。
こんな通りに来たところで、この島は人間の貨幣で回っていますし……
そうでなくなるとも、考えづらいですし」

流布堂乱子がこの島で他人と関わる場合、接点の殆どは金が絡む。
その理由は彼女の性格というよりはむしろ、
「異能であれ異邦人であれ、
ひとつの価値基準の前に圧し並べる場合にこれほど便利なものはありませんから」
龍狩りの栄誉も、龍の肉を食するということの意味合いも全て押しつぶして、
ただ肉を買ったと表現される。
その平等性こそが彼女の望みだった。
「…肉がないなら、角でも。角が食えぬなら、翼でも。
値段を付けて並べるまでは確実に行われますよ。
そうして判断されることを良しとするかどうかは別ですけれど」
判断は行われる。この落第街の市場でなら、鵺にだって値が付くだろう。


「……あのパフォーマンスについての私の判断としては」
通りの先を指さしていた手をゆっくりと下ろす。
視線に対してまっすぐに視線を返すと、ほんの少しだけ口角を上げた。
「よかった、よく呪われていると。そう思いましたけれど。」

『エフェネリカ』 > 「貨幣、金か。
金は裏切らないからな。そうか。それで愛想良いのか。」

納得をした。日常品などを殆ど買わずに、食料なども買わずに。
かと言って裏の品も買わない。
そんな自分は相手になどされないだろう。特にこの街だと躊躇だ。
だが必要としなければ買いもしない。それは当然な話。

「ま、角でも翼でも尾でも切り落としてもいいが、全部消えるぞ。
なんせ中身が無いのだから、存在することすら無い。」

切り離された時点で意味を成さない箇所は消え去り、再び蘇る。
炎とは質が悪い。なんせ、燃え続けるのだから。


「呪われているか、そうだ、呪いについて聞きたかった。」

その為に動いているのだから。本件を聞くのに会えて良かったとも言える。

「率直に聞く。この呪いは解かれることはあるのか?」

流布堂 乱子 > 「……そう、ですね。
外見だけでも値段は付く、と言いたいところですけれど」
言葉を切って、乱子の焦げ茶の瞳が"女性"を見た。
その容姿について取り立てて何か感ずるところもなく、瞳に感情の色はない。

「軍人でもなく、教員でもなく、何者でも有って何者でもなく。
……その上で、その中身さえ無いのでしたら」
「誰からも値はつかないのが頷けるでしょうね」
あるいは。需要がないのであれば、あの肉屋の主人でさえ諦めるかもしれない。


「"この"呪い?」
「いえ、どちらのことを指しているのか、と」
ごく短い間、瞑目して後。
開いた瞳は、ほんの少しだけ赤かった。

「龍(わたし)の呪いでしたら、然程心配することもないかと思いますけれど。
上書き禁止とまで厚かましくは申し上げません。
現に色だけなら変わっているでしょう?」
傾いだ口角は、牙を剥くように笑っていた。
「貴方が人間に成るのを邪魔することは御座いませんから。」

「……そうでないものでしたら、
きっと償いが終わる頃には解けていると思いますよ」
もう一度目を閉じる頃には、その表情も平坦なものへと戻っていた。
「呪いなんて言ったら笑われるくらい、簡単なものですから。
『病院前と公園での事件について、風紀で償うことは出来ない』とそう述べただけですもの」

『エフェネリカ』 > 「ふっ、値がつけられる程に安い存在ではないよ。
と、言いたいが。残念ながら今の私は安いな。とても安い"女"だ。」

誰からも求められていない。誰からも受け入れられていない。
そんな奴が果たして値段などつけられるだろうか。
本日二度目の失笑。当然ながら自分に対して。
笑ってはいけないが、これを笑わずにしていられるはずがない。

そして呪いのことを聞いて確信を得た。
そうか。あの呪法は成功していたのか。
彼には感謝しなければいけない。

「君の呪いはとっくに心配するようなものでないか。
焦ってた自分が馬鹿らしい…色も変わってるのだからな。」

再度の納得。

彼女は笑っていたが、対して自分はと言うと。
続けられた言葉に同じ様に笑わずに、目線を下の在らぬ方向を見て。

「人間か…成れるものかな。」

弱きな言葉を吐いた。以前の彼からしたら考えられない言葉か。
そんな弱きのままに言葉は繋がれて。

「簡単か、答えがわからなければ簡単ではないのだが。
いつになれば償えるだろうか、私は。」

ぽつりぽつりと静かに言葉は紡いでいき、ふとして白き炎を身に纏う。
誤魔化したいが為に、この場から逃げたいが為に。
コレ以上弱い自分を見せたくないが為に。

「……教えてくれてありがとう。今はそれだけだ。
今度に会った時は…そうだな…殴り合いでもするか。」

ワンピースの裾を掴み、小さな礼と言葉を送ってから。
龍人と化して、彼女に冗談を混じえた言葉を送り去って行く。

ご案内:「落第街大通り」から『エフェネリカ』さんが去りました。
流布堂 乱子 > 「『私と同じ存在でいてほしい』と言うのでしたら。
もう少し良い誘い方があると思うのですけれど」
別れ際の挨拶を返して、乱子は落第街を抜けて女子寮へ向かう。

ご案内:「落第街大通り」から流布堂 乱子さんが去りました。
ご案内:「落第街大通り」に車騎 霙さんが現れました。
車騎 霙 > 【大きな鞘袋をぎゅっと握りしめ、辺りを警戒するように身を進めていく。過る映像。かつての所業。怖い。その後ろにある黒い感情を握りしめ、ただひたひたっと歩く。ガサッという音、小さな音それにいちいち反応しながら、街を歩く。鞘袋を握りしめて、いつでも抜けるようにしながら、冷や汗を流しながら。路を歩き続ける。ここから家までは長くない。あともう少しすれば、きっと……】
車騎 霙 > 【歩く、歩く。警戒心はずっと持ったまま。なれないが、ここではいくら警戒しても足りないということはない。
いや、この島事態がそうだ。全部がそうだ。全てが、全てが。全てが……息が荒くなる。はぁはぁっと呼吸をして、歩いて行く。今日は全て予備だ、だから問題ない。いや問題は無いわけではないが】

「……おい、ネェちゃん」

【声がかかった。肩を震わせる。来た。来た。そうだここは、そういう場所なんだ。どこでもどこでも。
ここは過激ってだけで、どこもないものへの安住の場所なんてアリはしない。声をかけられた後方を半身になってみればぷくりと太った男が舌なめずりしてこちらを見ていた】

「ひとり歩きかい? ここは危ないよ。良けりゃ送って行こう」

【嘘だ、それだけですむはずがない。そんなことはわかりきったことだ。だから言い切る前に走って逃げた。走れ走れ! 逃げろ……っ】

車騎 霙 > 【特別なヤツには、自衛なんてたやすい話かもしれないが自分にはそんなのはない。ないと、診断された。だからひたすらに走る。走って……】

「……追いかけっこかぁ? すきだよ、そういうの」

【舌なめずりして、走りだしたその瞬間。槍を手に”異能を使われる前に”喉を突いた。急旋回。虚を突いた一手。刺突。死にはしないだろう。だって、異能がアルんだから。口端は上がっていた】

「ウゴっ……!?」

【あたった。なら、また、そこから急旋回。ごきゅっという嫌な音がしたが、大丈夫だろう。異能サマサマだ。走って走って、見えない路地裏にまで走って。ニィっと嗤って。呼吸を整えた】

車騎 霙 > 「ははっ」

【こらえきれず笑い出す。人間は学習する。覚える。染み付く侮った獣にはこれが相応の罰だ。くすくすとこらえきれない笑い声を上げながら、ゆぅっくりと家路に急ぐ。夜ご飯はどうしよう。今日はパンの耳をもらえた。パキ、パキッと指を鳴らしながら、歩き出す。いつの間にか落ち着いた息は、別の意味で熱くなっていた】

車騎 霙 > 【しばらくすれば、ボロアパートに到着――あぁ、よかったと胸をなでおろす反面 なんだと思う部分もあって――】

「あっつ……」

【ゆっくりと足を進めて、階段を登り鍵を開けた】

ご案内:「落第街大通り」から車騎 霙さんが去りました。