2015/09/23 のログ
ご案内:「地下闘技場」にリビドーさんが現れました。
■リビドー > ――地下闘技場。
戦いに飢えた虎を一手に引き受けるように、落第街に打ち建てられたッ闘技場。
売り子の一人から購入した泥のように濃厚な桃のジュースを片手に、観客として繰り広げられる光景を眺めていた。
「……ふむ。」
退屈凌ぎに顔を出した、と言った次第だ。
暇にあかせ、数個の試合を眺めている。
■リビドー > 正直に言ってしまえば飛び込みたくもある、のだが。
いかんせん相手を見つける段階から悩ましい。見知らぬ顔に殴り込んでも良いと言えば良いのだが――
「――見知らぬ奴に此方から声を掛けて殴るには、少々大人気ない気もする。
いや、此処に来る以上観客でなければ相手を求めているのだろうから、良いのだろうが――」
ううむ、と、一つ唸る。
その辺りの欲望を天秤に掛けた上で踏み込むに至る相手はいないのかなと、周囲を一瞥した。
ご案内:「地下闘技場」に鏑木 ヤエさんが現れました。
■鏑木 ヤエ > (そこにあったのは見覚えのある顔だった。
学園で教師をしている筈のその顔を落第街の、もっと言えば地下闘技場で見ることになるとは思いもしなかった。
されど、彼女はいつも通り。なんでもないような無表情を貼り付けたまま声を掛けるのだ)
「やあ、どうもリビドー。やえですよ。
こんなところに来るなんて教職クビにでもなりました?
そこそこファイトマネーも弾みやがるんですよねー、ここ」
(堂々と慣れた様子で観客たちの合間を掻き分ける。
もこもことした髪が揺れて動いた。赤いカーディガンの袖を少しばかりたくしあげる)
ご案内:「地下闘技場」に流布堂 乱子さんが現れました。
■リビドー > 「どうもやえ。リビドーだぜ。
残念ながら教職は続いているよ。それでも暇を感じてね――ふむ、ファイトマネーか。
勝てば金を得られるのは闘争や戦争の常だな。その調子だと大分稼げいるのかな。」
揺れてなびくヤエの髪をみれば表情を緩め、温和そうな顔をヤエに向けて会釈のかわりとする。
近寄る彼女を迎え入れれば、視線を彼女へと合わせ直す。
■鏑木 ヤエ > (ゆらり、頭を揺らした。
熱狂的な、というよりも人口密度の高い──もっと言えば落第街の猛者が集るここは汗臭くてならない。
一瞬だけ顔を歪めて、またなんでもないように返事を返す。
彼女にとってはなんでもない日常の一頁に中々なスパイスが降り注いだようなもので)
「やあやあ。そこそこ、ってトコですね。
やえは自分に賭けて自分が勝ってで荒稼ぎしてましたがさっき普通に油断したんですよね。
ン万円と儲けたのに残金千円ですよ千円。明日の飯も食えねーですよ。
楽しいですよ、遊びに来たんじゃねーんですか。リビドーは」
(こてりと不思議そうに首を傾げた。
周りの男どもを「うぜーよ邪魔です」と暴言を吐き散らかしつつ退かして堂々と横へ。
ぼんやりと人だかりの中心を眺めた)
■流布堂 乱子 > 「では、これにて失礼致しますので」
ぐるり、と体を回して、勿体つけた一回転の後に。
「お疲れ様でした」
頭の上で少し遅れて振り回していたパイプ椅子を、回転に同期させて最高速度、そのままアッパースイングで振りぬく。
底部を掴んで振るわれたイスの座面は、正面に立つ男の頬を叩き飛ばし、気力だけで立っていた彼は観客席でやっと受け止められた。
拳銃のように、底部と座面の間の枠組みの隙間に腕を突っ込んでくるくると回し、
放り投げてから観客に向けて四方へ一礼。
たっぷりと余裕を持って落ちてきた得物をキャッチすると、客席へ向けて歩き出した。
途中でまとめられたファイトマネーに手刀を切ってから受け取ると、後方でその興奮に当てられた観客だった者たちが次の試合を始めている。
昨日聞いた情報のとおりに顔を出したが、巡り合わせが悪いのか目当ての相手は見つからなかった。
そうなれば後は帰るばかり。悪くはない収入だったと珍しく頬を緩ませたところで、
観客席に嫌な顔を見つけて嫌な顔をした。
隣りに座っている少女とは戦っていないが、何回かの試合を見に徹する間に見た気がする。
■リビドー > すん、と鼻孔をくすぐらせる。
全体的には熱気と汗臭さが鼻につくものの――
「油断してても落ちる時は一瞬で落ちるものか。
行けそうと思って賭け過ぎてしまったかい――ふむ。」
ヤエの言から、"遊びに来たであろうのに見ているだけなのか" とのニュアンスを感じ取って相槌を一つ打ち、唸る。
確かにそのつもりで来たのだ。先程までは踏み込むに値する相手がいなかったが――
横目に別の試合を見れば、覚えの有る顔が見えた。もしかしたら視線が合ったかもしれない。
取り敢えず、ファイトマネーに頬を緩ませた所は見た。
「中々踏み込む相手が見つからなくてね。
だがそうだな――――どうだい、ボクと一閃交えてくれないかよ。
見知らぬ相手をいきなり殴りつけるのも気が引けてね。
知っている相手か、それでも戦いたくなるような相手を探していたよ。」
■鏑木 ヤエ > 「ははあん、中々なお点前」
(くああ、と欠伸混じりに溜息をひとつ。
試合を終わらせてトントンと歩みを進める少女の手元を見遣れば「うわいいなー」、と
思わず素の感想が漏れた。
横のリビドーをちらと見遣る。少女の目線が一瞬此方に向いたような気がした)
「悪くねーです、少なくともツマンネー話じゃあねーですよ。
幾らやえでも教師をぶん殴るのはほんの、ほんのすこうしだけ気が引けますけど。
構いませんよ、おまけは単位の嵩増しでお願いします」
(はいはーい、と片手を挙げてジャンプする。
甘ったるい間延びした声をレフェリーが拾えば二人は会場の中央へと案内されるだろう)
■流布堂 乱子 > 手の中のパイプ椅子が、
『どうした、あの細い肉体がどこまでやれるのか……見てみたくはねぇのかい
さあ、オレに座れよ…さあ…』
と訴えているような気もする。
風紀委員会に席を置いている時点では教員と事を構える気はさらさらない。
もしも向こうがこの闘技場の常連、とでも言うのであればカードが出来上がるのかもしれないが、
少なくとも職務上立ち止まる理由はない。
その教員に応えて立ち上がる少女は小柄な乱子よりも更に一回り小さいが、
あれは"あの体格のライオン"とでも見たほうが正しい。
下手にかかれば、さっきのホームラン練習のように安々とは済まない。
対戦カードが組まれてもあまり歓迎したくはない相手だった。
どちらにしても、合理的に考えて観戦する理由はない、のだけれど。
かたん、と音を立てて、パイプ椅子が闘技場の床に形をなした。
乱子はそこへ体重を預ける。
「……まあ、朝の日課の炎上行為を此方で行うことになるかもしれませんし」
少なくともいつでも"燃やす"に足る相手がいるのは魅力的な場所で。
少しばかり、興味が湧き始めていた。
■リビドー > 「おーけい。遠慮しなけりゃ考えておくぜ。」
と云う訳で失礼するぜと会場へと飛び込む。
年若い風貌に違わぬ変声期の経過を疑うような声は、知らなければ生徒と紛わせるものかもしれない。
レフェリーに案内された後、会場を見渡す。
――ロープの代わりにうず高く積み上げられた瓦礫《ジャンク》の山で囲まれた、いかにも落第街と言ったようなリングだろうか。
気に入らなければ、別のものをあてがってくれそうだ。
■鏑木 ヤエ > (少女の読みほど彼女は大したカードでもない。
不意打ち裏拳と勝つ為なら正々堂々さすらも売りに出すただの子羊だ。
ライオンほども力がある訳ではない。精々野生の犬の方が強いだろう。
されど野生の犬も、思い切り目を角で一突きすれば子羊だって大物喰いは出来るのだ。
即ち、汚い)
「問題ねーですよ、やえ好みで中々に悪くねーです。
寧ろモノがない場所じゃあやえはロクにスコアもできねーですから」
(「どうぞ」、と無表情に語る。
背面に築かれた瓦礫の城の前に立つお姫様は不敵に先手をどうぞと手を広げる。
刺さる標識、傍らに転がされた凹んだ自動販売機。どこから拾ってきたのかも分からない看板。
ほんの少しだけ表情を緩めた。観客も同時に熱くなるのがわかった)
■流布堂 乱子 > おお!おお!と声がする。
急き立てるような声、下馬評を囁き合う声、ともかくも周りの観客が邪魔でしょうがないとブツブツ言う声。
最後のはパイプ椅子で強引に割り込んだ乱子の周りには特に多いようだが、
砂かぶりというべきかモッシュピットというべきかわからない最前列に比べれば、
ここは特等席のようなもので。
瓦礫の山に自分から彷徨い込んでいく二人の姿はよく見えた。
いつものスカートと違って随分と足を組みやすい。
両手の上に顎を乗せて、表情を変えることもなく。
声も上げずに、始まりを待つ。
■リビドー >
此方も彼方も戦意は十分。
大物を食わんとする彼女の振る舞いからそれを改めて掴めば、無邪気に口元をニヤつかせる。
「ああ。ボクも此処らしくて実に好みだぜ。――ふむ。」
先手を促される。
その行為は彼女の『戦術』に因るものなのか、あるいは『性格』に因るものなのかの推測を一瞬だけ巡らせ――
「――先手を譲ってくれるのは戦術かい。それとも性格かな。
ま、その好意に甘えさせて――貰うとしようッ!」
――問いを口にした後、瓦礫の山から叩けば割れてしまうようなコークの空き瓶をひっつかみ、ヤエへと向かって投げつける!
■鏑木 ヤエ > (スコン!とおもむろに顔面にコークの空き瓶が当たった。
目の前でパリンと割れるコーク瓶から思い切り顔を背ける。
最初の一撃は当たった。だらり、と垂れる赤いそれを拭えばまた口元を吊り上げた)
「いっっっっってーんですけど!!!!」
(観客の失笑が漏れる中での咆哮。
そう威圧感がある訳でもないが、ブチ当たった瞬間に傍らに突き刺さっていた標識を引っこ抜く。
三角形のとまれの標識。初速をそのまま乗せて、一歩踏み込む。
踏み込んだままの勢いを逆に乗せて、思い切りぐるんと遠心力のままに振り切った)
■流布堂 乱子 > 「……」
ちょっとだけ考えた。表情が少し曇る。
こうして坐ったはいいけどなんというか。
「パイプ椅子でもまだ上品すぎたでしょうか」
なるだけ周りに馴染むようにと考えていたけれど、やっぱり常連の戦いかたとは格が違う。
角を当てるんだよ角を、と飛んできたヤジはやはり正しかったのか。
瓶を拾え!刺せ!などが現状では聞こえている。
「それ、死ぬのでは…?」
少なくともガラスが傷口に入り込んでマズいのは確かなのだけれど、熱狂の前にはそんな判断は無力ということも有り。
獅子のように髪を靡かせて少女が振るう標識もまた、
"重し"を当てれば頭蓋なんて簡単に内容物をぶちまける気がした。
■リビドー >
「そりゃそうだッ!」
彼女の咆哮と、力の侭に振り回される標識を認める。が――
(早い――、ッ。)
彼女と以前行った会話では、"戦闘向け"の異能を持っていないような口ぶりであったこともある。
故にその体躯からは想像も出来ぬような怪力は想定の外だ。
なぎ払いを防ごうと咄嗟に左腕を上げ、その上で踏み留まろうと足に込める――
――相手の暴力を些か軽く見積もり過ぎた。
込めた力は足りず、力のままに薙ぎ払われ、瓦礫に山体を打つ。
受け身のようなものは、取ったらしいが――天辺からレトロなカエルの置物が落下し、リビドーの頭を打った。
「――く、良い怪力をしているじゃないか。」
……それを異能だ、とは言わない。
もう少し、観察と推測を行う事にする。
■鏑木 ヤエ > 「ははあん。レフェリー、やえはやえに1000円ベットですよ。
明日の飯を少しばかり豪華にしてーもので」
(カーディガンのポケットに突っ込まれていたままの千円札を放る。
ぐわんと地面に標識が落ち、やかましい音を立てた。少しばかりその形も歪む。
一瞬彼から離れたと思えば、またジャンクの中に埋もれた鉄パイプを引き抜く。
ヒットアンドアウェイ。殺す訳ではない、ただの喧嘩屋の常套手段。
飛び道具に当たればそこまで、自分の踏み込みが甘かったらカウンターを貰うのみ)
「このままだとやえの明日の朝食が超豪華ニルヤカナヤ式バイキングにッ!
なる気がしやがるんですけどねえ!」
(相手が逡巡する様を見せれば一気に攻め込む。
先ずこの地下闘技場はエンターテイメントの場でもある。
会場を沸かせるのは演者にとっては先ず常識のようなものであるがゆえに)
「明日の飯になりなさいな!
異能も魔術もドーセあるんでしょうて!」
(ストラップシューズで地面をぱんと叩く。
宙に舞った小さな砂埃に小石の群れ。その中をまた野球でもするかのように、)
(また鉄パイプを振りぬくのだ)
■流布堂 乱子 > 「このまま良い所なしとかですと、溜飲も下がろうというものですけど」
それでは観客も納得しないだろう。
"先生"と呼ばれた男への嘲笑は期待の裏返しか。
それとも、"戦う"つもりがあるのかというとても真っ当なヤジが本当に正鵠を得ているのか。
一方で鮮烈な一撃の後、ギャラリーの歓声を受けるための時間を十分に用意するあたりはまさにステージ上の業で。
持った時点で観客の沸くような得物で戦うのも、多分、そういうことなのだろう。
…それとも戦闘技術という存在について何か思うところでもあるのか。
ともかく、振りぬかれる鉄パイプへと、乱子の視線も引き寄せられていく。
■リビドー >
「ふむ。……と。」
――羨むような口ぶりから、垣間見せた彼女の怪力が"異能"でないことを察する。
だからきっと、アレは彼女にとっての《当たり前》――なのだ。
(朧げにだが、少しずつ見えてきたな。)
彼女の行動/闘争を、喰らい呑む様に見据えて立ち上がる。
それこそが己にとって最も豪勢な食事だと言わんばかりにヤエからは目を離さず――に、鉄パイプで"打たれた"小石の礫を受ける。
少し痛いが、先程の標識に比べれば誤差のようなものだ。
目晦まし/牽制。必ず次の一手が有る。……無理に打って出るのではなく、体勢を整えてからの迎撃を選ぶことにする。
(次は、どう出る。)
『それを喰らわせろと』と全身で語る。礫を受けながらも構えを作り、崩さない。
足を広げ、腰を落とし――城壁が如き姿勢で鬼や巨人と見紛うばかりの、威圧と気迫を込めて立ち開かる。
■鏑木 ヤエ > (やや赤みの帯びた電灯が映す影が揺らぐ。
と同時に踏み込んだ瞬間の彼の表情がまた変わったのが目に入る、が)
(…………、止まれる訳ねー訳ですし、ッ)
(引く選択肢は存在しない。
この状況で引くのは面白くない上に先ず身体的に止まれやしない。
速度に乗せた鉄パイプも自分の身体も簡単に止まれるようにゃ出来ちゃいない。
カウンターが入るか、それとも別の何かが来るか。
一瞬一秒で出来る限りの可能性を確かめる。
ただのニンゲンが『未知』のソレに勝つには考えるしかない)
「────ッッ!」
(初速と変わらないまま体重が掛かり運動エネルギーがまた生まれる。
それを作用点である鉄パイプに全て乗せて、そのまま振りぬく──ッッ!)
■流布堂 乱子 > どーしたマグロか兄ちゃん!
という声にはこの世界でもまだマグロが食用魚として流通していることを示していて、
時代に抗うように生き残ったスラングへは敬意を表するべきなのだろうけれど。
その声に続くようなヤジは無かった。
客席中に広まる一瞬の静寂。
「……私なら…」
自然と。
あれをどう崩すか、という形に向かおうとしていた思考を止めた。
崩すとかどうとかではなく。
真っ向から断崖絶壁に切り通しを作る為の一撃。
アレを、観客は求めていた。固唾を呑んで、来るべきその一瞬を待ち構えていた。
■リビドー > 「――オォォォオッ!」
打ち据える瞬間に一歩出て、懐に飛び込む。
極力速度と威力の乗っていない、手元に近い位置を狙って身体で受ける。
ヤエの手元に跳ね返る手応えは、『山にでも打ち込んだ』ようなものが跳ね返る。
微動だにせず、一寸たりとも怯まない。
脅威足り得る気迫と暴力がヤエに迫る。
単純且つ凶悪に、胸元を狙って右拳を振り落とす。
旧き巨人や闘士が如き戦いを、彼女と観客に魅せつける――
――それでも、ヤエが放つ渾身の一撃は猛進を鈍らせた。
彼女の放った痛撃は彼のフォームを僅かに歪ませる。本来放たれる一撃よりも僅かに遅く、浅い。
フォームが僅かに狂うだけでも威力と速度は落ちる。――脅威であることには、何ら変わりはないが。
■鏑木 ヤエ > 「はっはあんッ!」
(笑い声が零れて落ちた。
本当に楽しいときに。感情の昂ぶった時にだけ漏らす笑い声。
誰に向けられたものでもない嘲笑を落とす。
と、同時にぐわんぐわんと鳴く鉄パイプ。勿論それも落ちる)
「タノシイですねえ!やえはね、ホンットに大好きなんですよ!
この時間が好きで好きで好きで好きで────」
(地面に落ちる小柄な体躯。スカートを気にした素振りがあったがそれも一瞬。
その右拳を受ける。みしりと何処かが鳴いたような気がした。
ぎぢぎぢと筋肉が軋む。
一撃を貰いながらも容赦なく突き出された右が思い切りぶち当たる)
「大好きなんですよ」
(ゆらり、幽鬼の如く立ち上がる。次に選んだ獲物は転がった自動販売機で。
全身の筋肉が笑っているのがわかる。ぎぢり。もうやめておけ。
それでも、子羊は子羊なりに地べたに這い蹲って、)
「好きですよ、リビドー」
(四角いその箱を、持てる限界ギリギリの箱を、ただ)
(投げた)
■流布堂 乱子 > 『オイオイオイ』
『あんな、あんな一発持ってたのかよあのセンコー』
『まず鉄パイプ受けてんのがおかしくない…?』
実際に攻撃をやり取りする中で言えば、
『綺麗に決まった』と言って差し支えないカウンターを受けて、傾いだヤエを見て。
もう半ば決着はついた、と。少なくない観客が自らの掛け分について文句を言いかけたその前に。
『ピロートークには早ぇよ素人ども』
ステージを見守っていた喧嘩屋たちの視線は微動だにせず。
何馬力あれば持ち上がるのか。考えるのも馬鹿らしいその重量が宙を舞うのを、
乱子は見た。
「……確か、人類の持ち上げられる最大重量が…」
あれくらい、だったはずだ。
■リビドー >
「ボクだって大好きだ。
キミも、この時間もな――ッ!」
闘争へ、全てを"ぶつける"。
全てを"引き出す"。――全霊を以ってして向き合う。
『この時間はボクのものだ』と、強欲に"のぞむ"。
戦いに賭ける意思は好ましい。
相手を斃す手段を探る探求は素晴らしい。
衝突し呑み呑まれる理性と感情は最高の味わいだ。
「――」
何の変哲もない自動販売機が飛来する。
質量と速度の暴力が迫る。
此れは易々と受けられるものではない、が――
「受け止めなきゃ、嘘になってしまうよな……ッ!」
――全身で抱える様に受け止め、それを持ったまま/重さで潰れる前に、地を蹴って勢いを付け、ヤエへと迫る。
とは言え、持ち方としては最悪だし、そうでなくてもあのヤエのように持ち続ける事は不可能だ。
受け止めた衝撃だって無視できるものではない。無理矢理受け止めた衝撃で身体が軋む。
「――――ち。鍛えていても、無茶か。」
ヤエの身体まで後一歩の所で勢いは消える。
故に舌を打つ。このまま冷蔵庫を重さに任せて叩き付ける腹積もりだったが、それには少し足りない。
彼女の目の前で力を尽かせ、自販機を持ったまま前方へ――ゆっくり、ヤエへと倒れ込む。
力が篭っている様子はなく遅く、鈍い。
リビドーは自販機を抱えたまま堪えきれずに崩れ落ちた。
倒れる方向こそヤエへと向いているものの、そう描写するのが的確だろう。崩れ落ちたと、尽きたと。
歩いたって、避けられる。
ご案内:「地下闘技場」から流布堂 乱子さんが去りました。
■鏑木 ヤエ > (少女は笑った。
普段の無表情なんかではなく、イキイキとした、心底楽しそうな笑みを。
喧嘩屋としての思考か、それとも獣としての本能か。
それとも───)
「ニンゲンは壊れてしまうからニンゲンなんです。
血が出て、骨が折れて、面を割って───ええ、そうですよ。
やえも、この瞬間は本当にニンゲンなんです。
争いの中で思案できるのもニンゲンの優位性で、それで──……」
(迫る質量にただただ笑う。
ある種感情のぶつけ合いとも言えるそれ。
先日は思考の、思案のぶつけ合いだったが今はそんな高尚でも意味もない。
ただただ剥き出しの勝ちたい、という感情だけを表に出して。
ただただ目の前の彼に勝ちたい、教師である彼を超えたい、とだけの。
ただの喧嘩屋のただの激情だ。けれどそれは何よりも高尚で、)
「ねえ、」
(ふらりぐらりゆらあり。揺れる彼の身体をただ楽しげに見遣る。
鈍いそれを、遅いそれを一歩身体をずらして避ける。
そこにあるのは意地。意地でも勝って賞金を奪い取るという意地。
それから──喧嘩屋の意地と周りに張る虚勢。
それを全て、飲みこむように心底大事に抱いて、それから)
「オヤスミナサイ、子羊さん」
(ゆらり倒れる彼の背中を、舐めることなく。
それが礼儀だとでも言わんばかりにその辺に突き刺さった標識──今度は速度規制の標識──を。
思い切り振り下ろすのだ)
■リビドー >
――リビドーにとって欠けているものを挙げるとすれば、『勝利への執念』は確実に挙がる。
確かに彼は闘争を楽しみ臨み、貪欲に喰らう。全力だって尽くす。
手段は選ばないし、容赦だってしない。決して手を抜いている訳ではない。しかし。
「そうだな。壊れてしまうからニンゲンだ。策を練るからニンゲンだ。
不死身の化物どもには決して味わえない快楽だ。……なんだい。」
――こと"勝利"に欲望が向いているとは、到底言い難い。
彼女のような、勝利への意地や執念がない。持っていない。
「はっ――ボクを子羊さんと、見てくれるかい。」
強引に起き上がることはない。伏せたまま呟く。
左腕が自動販売機に敷かれている事は、見れば分かるだろう。
……吸い込まれる様に、速度規制の標識が叩き込まれた。
程なく、決着の合図が響くだろう。
■鏑木 ヤエ > (それとほぼ同時に。
がんがら鳴る標識と膝をつく少女の姿がそこにはあった。
ぎぢぎぢと鳴いていた筋繊維は最早限界を超えていて、酷使された現状に抗議するように動かない。
だらあんと両手を垂らしたまま、歪んだ笑みを浮かべて)
「やえ、明日の晩御飯もありそうじゃねーですか。
………いやあ、たのしい。本当にタノシイですよリビドー。 ・・・・・・・
膝をついても今やえは勝ったんですから。これで───これで明日も生き延びられる」
(鏑木彌重の勝利への執念は、勝利は生きるために必須である故に。
自分に所持金の全額を賭け、明日の飯を食う為に、生きるために必須である故に。
意地でも負けを認めようとしない。意地でも勝利を追い求める。
一番にはならなくてもいいから勝つべき試合で勝つ。それが、)
『終わった────ッッッ!』
(獣の──鏑木彌重の執念そのものなのだ。
終了を知らせるレフェリーと同時に遠くなる意識。
次に二人が目を覚ますのは、恐らく地下闘技場の救急スペースだろう)
■リビドー >
「……そう、かい。」
――長らく語るには言葉が足りない。
だが聞いていない事にするには惜しい。そうしてなるものかと、聞き届ける。
一度だけ目を開いて、口を開いて、精一杯に少しだけ緩めて、それらを閉じた。
程なくすれば二人共、救急スペースに搬送されることになるのだろう――
ご案内:「地下闘技場」から鏑木 ヤエさんが去りました。
ご案内:「地下闘技場」からリビドーさんが去りました。