2016/05/21 のログ
ご案内:「落第街大通り」に水月エニィさんが現れました。
水月エニィ >   
【私たちは知っている。】

 ――路肩に凭れる少女の姿が一つ。
 全身に殴打や裂傷を負っており、一見すれば目を覆う程に痛ましい。
 とは言え、見るものが見れば どれ一つ致命に至っていない事が伺える。

(何時もの事だけど、痛むわね。)

 なんてことはない。
 ただ絡まれて、ただ応じて、ただ逃げた。
 それだけのことである。

水月エニィ >  
「追ってきている様子は……なし。
 まぁ、そうよね。そこまで私に欲を持たない。
 ……はぁ、お気に入りの財布だったのだけれど。」

 忍ばせていた学生証とカード類を取り出して、ため息をつきながら眺める。
 "わざと落としてきた"が、これらだけは抜いておいた。

「ま、お金と財布ぐらいは仕方ないわね。また調達すればいいもの。
 ……ハルナ(わたし)の財産を食いつぶしている私が言う事でもないけれど。」

水月エニィ > 「噂には聞いていたけれど、本当に無法地帯ね。
 その分、隠れる所も多いけれど――っと。」

 手書きのような地図を取り出す。
 足を悪くしている物売りから高値で買い取ったものだ。
 もっとも、そこで払いを良くしてしまった故に目を付けられ、今に至ったのだが――

「この地図はどこまで精確なのかしら。
 ……買ったはいいけれど、結局、ある程度は自分で歩き回らないとダメそうね。」

ご案内:「落第街大通り」に鞍吹 朔さんが現れました。
鞍吹 朔 > 「今晩は、水月さん。」

近くに、人の声が響く。
足音はなかった。気配もなかった。近付く時間すら無かったはずだ。
だがそれはそこに立っている。

「お互い最悪の夜ね。」

水月エニィ > 「そうね。何時も通りの夜よ。」

 不意を突かれるのは慣れている。
 ……声の主で誰かと察せば、ゆっくりと顔を挙げる。

「金払いを良くしたら目を付けられてしまったわ。そっちは?」

鞍吹 朔 > 「そうね、蛇を追ってたら見失った帰りかしら。」

口調が、昼とは違う。
こちらが素なのか、あちらが素なのかは分からないが。

「それで、どうするの?逃げきれる?
 見た限り、既に負けきった犬みたいな有様だけど。」

水月エニィ > 「大丈夫よ。問題もないわ。一人で立てる……と。」

 口調の違いは把握した上で言及しない。
 そういうものなのであろう。私だって使い分けるし、先の大時計塔では使い分けた。
 そも、口調一つ変わった所で見誤る事はない。

「現金だけ入れた財布を落したから多分追ってこないわよ。
 私を殴るよりお金を欲しがる方が自然な反応でしょ。」

鞍吹 朔 > 「そう、それなら良いんだけど。」

そう言いながら、辺りに気を配っている。
まるで辺りを警戒する狼のように、鋭い気迫だった。

「そうとも言い切れない手合が居るのも事実よ。何者にも例外というものはあるもの。
 とりあえず、早めにここから離れたほうが良いんじゃないかしら。ここらへんの地理には明るいし、案内するけど。」

水月エニィ >  
「かもしれないわね。
 何事にも例外は――」

 災いも口にすればやってくる。旗を立てればやってくる。
 "それ"か"別件"か、明らかに此方へ向かう靴の音が地に響く。
 走っている様子はない。

「……本当に来た気がするけど。
 浮足立つ何かがあるのかしら。歓楽街より賑わっている気がするわよ。」

鞍吹 朔 > 「そのようね。
 さっさと行きましょう、別件でも何でも面倒を増やしたくないし。」

そう言って、移動を促す。
その間も、足音の方向に注意を払い続けて。

「そもそも、金を置いて来たからといって安全というわけでもないでしょう。
 貴方自身にだって、いくらでも金は詰まってるのよ。」

水月エニィ >  
「そこまで頭が回るなら、私は傷ついていないわよ
 ――あら。心配してくれた?ありがと。」

 朔に続いて歩く。
 確かに朔に追い付くペースだが、足音は歪か。
 多分、ちょっと挫いてる。些細な程度、意識し始めると引っかかる程度だ。

「今度はもう少し考えないとダメね。
 ……早く抜けてご飯でも食べたいわ。」

鞍吹 朔 > 「どうせ治るのよ、その程度。
 腕が折れても足が折れても買値は付く。……そんな物よ、墨袋共は。」

後ろをちらりと振り向く。
足音の歪さに気付いたようで、足首を見つめている。
朔は人の体について聡い。何故かは……あえて此処には記さない。

「手を。……早く。
 足、挫いてるんでしょう。」

水月エニィ >  
「そんな者ね、人間は。
 ……人の事を良く見ていること。代返と食事位しか返せるアテはないけれど。」

 差し出された手は疑う事無く掴む。
 そのまま、朔の動きに身を任せるだろうか。
 
「で、何でアナタはこんなとこに居るのよ。
 お互い、鬼風紀委員にばれたらにどやされるわね。」

鞍吹 朔 > 「人間?人間?
 あんな者共が人間などと呼べるシロモノかしら。…否、呼べるはずがない。」

ぎゅっ、と眉をしかめる。
手を取れば、エスコートでもするかのようにその手を引いていく。

「言ったでしょう、『蛇を追った帰り』だと。
 闇に紛れて逃げられて、その帰り。『偶然にも』落第街に迷い込んでしまったことは謝るしかないわね。」

水月エニィ > 「随分と怒るし、抽象的ね。わっかんないわ。
 何をしたかもわからないのだから、謝る事もしなくていいのに。
 ……何が有ったか聞きたいけど、今は話す気分でもなさそうね。」

 流れに逆らわず引かれて進む。
 今のところは、問題はなさそうだ。

鞍吹 朔 > 「気にしないで、こっちの話。
 怖い風紀委員さんは、それで赦してくれるかしら。私だってむやみに風紀の心象を悪くしたくないもの。」

そうしているうちに、見えてきた。
路地が路地裏になる頃。壁に貼り付いた血がなくなる頃。
その先は、非日常の表に被さる日常。落第街の出口が見える。

水月エニィ >  
「んもう、そう言われると気になるじゃない。
 ご飯奢るから教えてくれない? 財布ないけど。」

 夜明け前が一番昏い。
 路地裏の血痕を横目に進んでいけば――。

鞍吹 朔 > 「……聞かせるには面白く無いわよ。
 意味も意義もない、足を掬われ救われない話。」

ふい、と後ろを見る。
その目は、凍りつくほどに冷たかった。
暗く昏く儚い闇さえ引き千切り食い殺すように、冷たく鋭く、そして悲しそうな目だった。