2016/05/27 のログ
ご案内:「落第街大通り」に蕎麦屋さんが現れました。
■蕎麦屋 > 生憎の雨も上がり、大通りの端の方。歓楽区・異邦人街とも比較的近い、境界の辺りを今日の住み家と決めた。
いつもの様に机を立て、椅子を置く。さくりと場所を移せるのは屋台の利点。
今日の張り紙は「掛け100円 ぷらす桜海老と玉葱の掻揚50円」。
かき揚げが揚げたて、といかないのが難点ではあるけれども、そこは折り合い。
「さて。今日も頑張りましょうか。」
応えるように、ちりん、と涼やかな音。
■蕎麦屋 > 「場所は悪く、ない。今日は見込める。はず。」
ぽつりと。
異国人が担ぎ屋台で蕎麦売ってる。などと限りなく胡散臭い。
正直クスリの取引かなんかの屋台にしてももう少し、ごまかしようもあるだろう。
いや、売ってるのは正真正銘本物の蕎麦なんですけど。
「―――――。」
だから、あやしくないです。
怪訝な視線を向けながら通り過ぎていく通行人に、内心呟く。
怪しかろうが、蕎麦屋なので蕎麦打つくらいしかできないのです。
本来の本業はほぼ廃業したようなものですし。
ご案内:「落第街大通り」に鞍吹 朔さんが現れました。
■鞍吹 朔 > 「………。」
それは、怪訝な顔をして屋台を見つめていた。
落第街の中でも最も混沌とした場所、異邦人街と歓楽街にほど近い、『交流』が盛んな地域である。
そこで、何やら背の高い女将が蕎麦の屋台を開いている。
不自然に思わないほうが不自然だった。
「……すみません。」
とりあえず声をかけてみる。
流石に奇妙すぎて、開口一番蕎麦を注文する気分にはなれなかった。
■蕎麦屋 > 「――あら。」
幾つかある怪訝な視線の一つが、寄ってきた。
一人でも入れば儲けもの。ではあるけれど。どう見ても警戒されている。
「はい?なんでしょう?」
首を傾げる。聞きたいことは何となくわかるけれど。
違法なものは売っていないので、別に怖気づく必要もない。
■鞍吹 朔 > 「……此処、蕎麦の屋台ですか?」
とりあえずファーストコンタクトは成功である。たぶん。
こちらとしても、まさかいきなりヤクか何かと決めつけて食って掛かる訳にはいかない。
そのため、とりあえずジャブ程度……と思っていたが。
「……掛けに掻揚。天かすって自由ですか?」
実を言うと、朔は蕎麦が好物である。
普段は基本的には断罪と読書以外にほとんど関心を見せない朔、無論食に関しても無頓着もいい所だが…
そんな朔が唯一、明確に好物といえるのが蕎麦だった。食うのに手間もかからないし。
■蕎麦屋 > 「はい。蕎麦以外には何もありはしませんけど。
――毎度。少々お待ちくださいね。」
蕎麦屋台なのだから当然、といった様子の返答。
注文を受ければ、手慣れた様子で器を用意、蕎麦をさらりと沸いた鍋に放り込んで。
くるり、くるりと掻きまわして、手早く笊に取り上げる。湯切りの際に器を温めるのも忘れない。
器に蕎麦を盛り、つゆを張る。刻んだ青葱と、かき揚げを添えて――
「はい、お待ちどうさま。
てんかすと薬味はそちらのをどうぞ。」
湯気立つ器を差し出した。
机の脇には一味と七味の小さな瓶、あとは天かすの盛られた器が置いてある。
■鞍吹 朔 > 「………。」
見た限り、本当に蕎麦のようだ。見たところ、蕎麦と掻揚は出来合いだが、それ以外の調理法に妙な所は見られない。
仮に蕎麦や掻揚に何か毒のようなものが混入されていたらどうしようもないが…
正直言って、それが目の前の彼女に対してメリットになる行為とは思えない。
蕎麦を通して人々を毒殺して回りたいサイコパスなら話は別だが……そのような事もないだろう。
「……ありがとうございます。
この屋台は、いつ頃から始めてらっしゃるんですか?」
天かすをわさわさと蕎麦に盛りながら聞いてみる。
朔は腹を空かせていた。
■蕎麦屋 > 「……?妙なものは使ってませんよ。安い上にこういう屋台、ですので疑う方もいらっしゃいますけど。
付け加えて言いますと、蕎麦は手打ち、出汁は一から、素材は水以外ほぼ自家製ですので是非、ずず、っと。」
というかこの状況で毒やらなにやら入れるとかありませんよー、と手をひらひら。
言う内容の割にやたら安いのは、単に趣味で採算度外視というだけの話。
「はい?ああ、此処では――此処に来てからだから、えー……と。
多分一週間くらい、かしら?他所も含めると数年になりますけどね。」
じー。
食べた味の感想、それを聞きたくて仕方がない。
■鞍吹 朔 > 「…そうですか。すみません、場所が場所ですからつい。」
釘を差されてしまった。まあ、最初から疑いは3割程度だったが。
残りの7割は5割が懐疑、2割が空腹である。
ぱきん、と割り箸を割って、手を合わせる。
「いただきます。……ここら一帯は治安が悪いですから、商売をするなら他の場所でやったほうがいいかと。
………。」
一口啜ってみる。
美味い。茹で加減の妙か、熱すぎない湯気とともに蕎麦の香りがふわりと広がり、
しかしそれでいて蕎麦のコシは失われていない。出汁を絡めた蕎麦が、喉を滑るように流れていく。
さくりと掻揚を噛み締めれば、その中に封ぜられた玉葱の甘味と桜海老の香ばしさが舌を撫でる。
出来合いだというのに食感はそれを感じさせない、かと言って硬く揚げることでの無理矢理な食感の固定でもない。
蕎麦も掻揚も互いの存在の邪魔をしない、実に自然で、かつ上質なクオリティの一杯である。
「おいしいです」
惜しむらくは、朔にそれを説明するほどの語彙がなかったことである。
■蕎麦屋 > 「このくらいの方が路上の屋台としては不都合がなかったりもいたしますので。あとは――いえね?
中央の方へ行くにも遠いですからねぇ……。」
治安が良い場所、というのはえてして路上での商売行為は許可もいる。
そういう意味では都合がよく、治安のよい区画は徒歩で行くには少々遠い。
そう話しながら、蕎麦をすするのをじーっと――じーっとみられていると食べづらそうなので意識して視線をずらした。
「はい、有り難うございます。
そういってもらえるなら屋台やる価値もあるってものです。」
小さくガッツポーズ。
この一言のために屋台をやってるようなものである。
■鞍吹 朔 > 「……普通にお店を持てばいいのではないでしょうか。
いえ、資金面などの問題もあるのでしょうね、失礼しました。」
若干失礼なことを言いつつ、蕎麦を啜る。
啜る。啜る。啜る
すごく啜る。
朔にしては非常に珍しい、食に没頭する姿だった。
「いえ、本当に……美味しいです。
なんというか、蕎麦がこう……こう、すごいです。
掻揚もなんというか、凄いですし……美味しいです」
食に関しては致命的に語彙がなかった。
普段名言などを引用している彼女はどこへ行ってしまったのだろうか。
多分胃の中。