2016/07/03 のログ
ご案内:「落第街大通り」に獅南蒼二さんが現れました。
獅南蒼二 > 夜更けの大通り,煙草の香り,場違いな白衣の男。
月も星々も厚い雲に隠されてしまえば,辺りは暗闇に沈む。
建物から漏れる僅かな光と,煙草の炎,
そしてぼんやりと光る指輪だけが,闇の中に形を浮かび上がらせている。

「……………。」

白衣の男は,静かに煙を吐いて,背後の暗闇を振り返った。

獅南蒼二 > この淀み,腐り切った街にも“生徒”がいる。
正規の生徒ではない,学生証を持たぬ不法滞在者だ。
だが,この島から出ていくこともできぬ彼らは,力をもってこの島に居座る他に選択肢が無い。
その外発的な動機は,最底辺の不法滞在者をして,意欲ある優秀な学生たらしめるに十分なものだった。

「……………。」

獅南は不法滞在者に魔術学の知識や技術を惜しむことなく教授した。
正規の学生と同様に,一人の人間として一切の区別なく扱った。
人として尊重されることさえなく,闇に喰われる日を恐れる彼らにとって,
この白衣の男は救世主でさえあったかもしれない。

尤も,異能者に戦闘術を教えることだけは,相変わらず忌避し続けているのだが。

獅南蒼二 > そしてこの男も,善意でそうしているのではない。

彼らは,才能や出自に恵まれず,機会を得る幸運にも出会えなかった人々だ。

この島の,この世界の“理不尽”に怯えて生きる者たちを,
“己の努力と研鑽によって得られる力”によって変える。
それは獅南の理想の体現に他ならない。

腐り切った街の,僅かに切り取られた一角の小さな世界であれば,
この男の理想はまさに世界の理想と一致し,
その理想は今まさに小さな世界を変容させようとしている。

善意などではない。
この男は己の理想を体現する,実験をしているのだ。

「……………。」

月が顔をだし,通りをぼんやりと照らす。
煙草の煙を纏う白衣の男は,静かに静かに,歩いていく。

ご案内:「落第街大通り」に蕎麦屋さんが現れました。
蕎麦屋 > 帰り道、片腕には魚籠を提げていた。
先日獲った分は龍の子に渡してしまった故の再補充。
量はそこそこ、味の方は帰ってから確かめようという所だが――

「――いやぁ、遅くなりました、と。あら。」

視界の端でくゆる紫煙。
嗚呼、この崖にでも立っていようものなら止めざるを得ない。そんな雰囲気は見間違えようもない。

「ごきげんよう、先生。」

獅南蒼二 > 声を掛けられるまで,気付いていなかったようだ。
この暗さであれば知覚魔術を展開していない限り仕方のない事かもしれない。
貴女の声に足を止めて,そちらを振り向く。

「こんな場所で会うとは思いも寄らなかった。
 ……いや,そうでもないな,アンタならどこに居ても驚かん。」

小さく肩を竦めてから,煙草を携帯灰皿へと入れる。
空いた手のひらを軽く翳して小さな光球を生じさせ,貴女と自分自身を照らした。

蕎麦屋 > 「意外そうに言われますけれど。
 まぁ、身分がない人間が居を構えるとなると彼方か、此方か。
 ――あちこちふらふらしてるのは否定しませんけどね?」

案外と夜目は聞く。不意に浮かんだ明かりには若干目を細めて。
彼方、未開拓地区の方と、此処、落第街、を示してみせた。

あ、私の家あっちですけどね、などと付け加えて指したのはスラムの方角だ。

「で、こんな夜更けは先生と言えどもあまりオススメしませんけれど。
 思索の邪魔でもしましたか?」

いや、死にそうな難しい顔しているのはいつものことだが。

獅南蒼二 > 「あぁ…そう言えばそうだったな。
 研究室にも堂々と入ってくるものだから忘れていたよ。」

ククク,と楽しげに笑った。
貴女は身分が無くとも,治安の悪い地区に住もうとも,きっと困り果てるようなことは無いのだろうと,
この街の“生徒”との雲泥万里の差を思いながら。

「…なに,出張授業をしていただけのことだ。
 魔術学のことくらいしか,教えられることも,考えることも無いのでな。」

つい最近も出前は頼んでいるだろうが,その時の獅南とは何かが決定的に違う。
貴女はそれを感じ取ることが出来るかもしれない。

蕎麦屋 > 「まぁ、入り込むのは出前があるからですし。
 基本的には、害意はないですからね――」

言い訳などしつつ。

困ることはまず、ない。――生活的にも、社会的にも。
最悪のところ、水すらない無人島に居てすら問題なく生き残れる。

「おや、この辺りは学生の成り損ねか生り損ねが屯する――そんな話を聞きましたけれど。
 先生は見捨てない側、ですか。

 ――で。普段から死にそうですけれど。今日はこれから死にに行きます、って顔ですが。何かございました?」

この男がそういうところに気を回して教える、というのは。外見、思考からすると――意外な感じである。
そしてそれ以上に、出前の時と決定的に違う違和感を口に出す。

獅南蒼二 > 「この街の大半は金と運が無かっただけの不幸な人間だ。
 それに,恵まれた学生よりも余程熱心で,学ぶ意欲がある。」

無論,平等や人権,そんな思想を旗印にしているわけではない。
この男の考えていることは容易には読み取れないだろうが,
少なくとも,慈善事業を展開しているようには見えないだろう。
貴女がこの男の思考を読み取れるのであれば,前述の全てを読み解くことが可能だが…
…この男は一切の嘘を口にしていない。
理想を体現する実験をしている。という自覚を持ちながらも,学ぶ意欲のある生徒に対して,相応に報いているのも事実だ。

「はははは,恐ろしい洞察力だな。
 アンタに忠告した私が,とある美術教師と喧嘩をすることになった。
 それだけのハナシだよ。」

男は心底楽しげに笑いながら,近くにあったベンチに腰を下ろす。

蕎麦屋 > 「嗚呼――成程。
 いや、それを聞けば納得も致しましょう。」

心情など読み解けるはずもない、ないが。
『運命』を嫌うこの男であるならば、『立場』を重んじるこの男であるならば。
今一言で表面上の理由くらいは推察が付いた。――何処までも教師であり、探究者である。

「ほら、私と貴方の仲ですし?」

くすり、と。
仲も何もしょっちゅう蕎麦押し付けに言ってるだけですが。
定期的に見ていれば、変化には気が付きやすいモノだ。

「喧嘩――喧嘩はやめた方がいいですよ?
 とお決まりの定型文だけ置いておきますけれど。何やら面白いことしてますね?
 
 ――ああ、飲みます?」

言うだけで止める気は全くないのだが。
言いながら、取り出したのは、安酒の代名詞、ワンカップ。
よく冷えたそれを片方、差し出しながら。

獅南蒼二 > 「アンタはいつも,話が早くて助かるよ。
 学ぶ意欲があるのなら,アンタにだって教えてやらん事は無い。」

貴女は僅かな言葉だけで理解し,多くの説明を求めない。
読心術の心得でもあるのだろうと疑いたくなるほどに。
尤も,定期的に会い,言葉を交わしているのだから,それも道理なのだが。

「私としたことが,アンタを研究室に入れたのは少々迂闊だったかな?」

貴女の言葉にはそんな風に笑って返し,差し出されたワンカップを受け取る。
この男が“崑崙”以外で酒を飲むことはまずありえなかったが…それを拒む理由も無かった。

「教師同士が殴り合うことになるとは,生徒に合わせる顔が無い。
 “ソイツ”とは馬が合わんわけでもないんだが…
 …どうしてこんなに面白いことになったのか,皆目見当も付かん。」

こぼさないように注意しながらタブを引っ張り蓋を開ける。
“喧嘩”という言葉を使って濁してはいるが,殺し合うのだと,貴女には分かるだろう。
しかしこの男には“恐怖”も“躊躇”も無く,どこか楽しげでさえある。

蕎麦屋 > 「嗚呼、そうですね――
 暇な時にでも、でしたらお願いしましょうかしら?」

酷く短い付き合いではあるが。
この男の立つ場所は揺るぎ得まい。
冗談めかして教えは請うが――。

「いやいや、今更後悔されても。
 貴重な出前の客ですのでもう断られても乗り込みますよ。」

さらりともう押し売りします宣言。金がなくても持ってきそうである。
一つを渡せば、もう一つ。このチャチな金属の蓋を開けるのは、ある意味で楽しみの一つと言える。
こういう発明をするあたり、人間はやはりすごいのだ。

「まぁ、合わす顔がないなら見つからなければ宜しいでしょうし。
 幸いこの島、そういうことするならおあつらえ向きに人目のない場所が多いですからねぇ。

 仲がいいから、は別段理由になりませんし。
 世の中、仲がいいからこそ。というのもよくある話です。」

経緯はさっぱり分りませんけど、相手も知りませんし。
ただ、経験上――仲がいいから殺し合わない、は必ずしも成り立つものではない。

獅南蒼二 > アルコールの香りがやや強い酒をくくっと呷り,小さく息を吐いた。
人間である以上,酒を飲めば思考も鈍る。ワンカップの1杯くらいなら問題ないだろう。
それにしても,白衣姿の無精髭…この男には,ワンカップが妙に似合っているかもしれない。

「…授業はいくらでもしてやるが,まずは身分証を手に入れることだな。
 私が口利きでもしてやろうか? アンタを学生というには無理があるだろうし,助手か教師として,だろうが。」

実際のところこの学園に年齢制限は無いのだが,雰囲気の問題である。
そしてもちろんそれは冗談なのだが,頼まれれば断ることもないだろう。

「その通りだな…できるならば誰にも知られずに,殴り合いたいものだ。
 …おっと,私としたことがアンタに話してしまったな。
 アンタに乗り込まれる前にまた出前を頼むから,このことは口外してくれるなよ?」

押し売り宣言を許容しつつ,さらりと釘を刺した。
貴女を信頼しているのか,それ以上言及することはしなかったが。

くくっと酒を呷って…背もたれに身体を預ける。

蕎麦屋 > 「身分証――ちょっと拗れてましてね。とりあえずは保留、といった所でしょうか。
 いや、取るつもりではいたのですけどね。散々突っつかれましたし。

 身分なしだと流石に講義は受けれませんか、残念ですねぇ――」

残念そうに肩を竦めてみせた。もうしばらく身分の方は取るつもりがない。
実際――目の前の先生に限らず、取る段取り、アテ自体は幾つかある。
のだが。それをしないちょっとした理由――まぁ、そこまで話す必要もないだろう。

「もう、先生嫌ですねぇ。
 巻き込まれた場合は別ですけど。――他人の『喧嘩』に水を差すような真似、この私がすると思います?
 それはそれとして蕎麦は押し付けますけれど。」

自身も一息で煽れば――飲み終えたのを見て、もう一本どうです?と。
違和感がなさ過ぎて、つい勧めてしまう。