2017/08/04 のログ
ご案内:「地下闘技場」に尋輪海月さんが現れました。
■尋輪海月 > ――パンフレットに載っている次の試合のマッチングには、「火炎系能力者」が片方に挙がっているのが、ふと見えるかもしれない
倍率は、恐らく今回の参戦が初めてなのかもしれないが、記録不明として、ブラックボックスの席を振られているようだった。賭け金はかなり引き上げられているようだが……。
間もなく、闘技場へと入場してくるのは、紅い髪に、ぼろぼろのツナギやゴーグルといった、異様な姿の女。遠目に見ても、あまり戦う格好、というようには、見えない。
■神代 理央 > 次の試合の選手の一人は、掛け金の高さ故か周囲の観客達の熱気も一層高まった様に見える。
別に賭事に興味がある訳ではないのだが、周囲に引き摺られる様に視線を闘技場に移せば、視界に映るのは真紅の髪を靡かせる女。その姿は戦士というよりはベテランの女整備士と言った方が様になるだろう。
「……会場の設備担当者が間違えて入場した、というわけではあるまいな」
まあ、戦う際の服装等人それぞれか、と思い直し、椅子に深く腰掛けて彼女を観察する様に視線を向ける。
火炎系能力者とパンフレットには記載されていたが、果たしてどの様な戦い方をするのか。ワクワクと子供らしい感情を抱きながら闘技場を睥睨する。
■尋輪海月 > 「…………」
――腰に巻いたベルトの横、何かの廃材のように、鉄の輪が何枚も掛かっている。そのベルトから部品を外して手に持ち、――向かい合う別の対戦者を見据える。
相手は歴戦の闘技者らしい。黒いスーツ姿の大柄な男性は、手慣れたように得物らしき大振りな斧を肩に担ぎ、その女を見て肩を揺らして笑う。
「…………宜しく、お願いします」
――律儀な挨拶を交わし、構える素振りはない。遠目に見ても、圧倒的に相手の男が有利なように見える。
……この組み合わせでは勝負は見えているだろうと、間もなく観客共は、女を冷やかし始めるだろう。それらの声に、大した動揺をするようではないが。
ご案内:「地下闘技場」から尋輪海月さんが去りました。
ご案内:「地下闘技場」に尋輪海月さんが現れました。
■尋輪海月 > 「っ、ふぅぅ……」
女はゆっくりと相手を見据えて、深呼吸。両手に持った鉄輪を強く握り締めてから、……ぽつりと。
「……お願い、ですから。火傷で止めて下さい、ね」
……女が何か小声で告げたようだった。それと同時に、手に持った鉄輪を、天井めがけて放り投げて。
大男がそれに視線を遣ると、女がそれに向かって手を翳す。
「『火炎輪』!!」
ーー異変は、その途端に起きる。 鉄輪が空中で見えない手に掴まれたように動きを止める。そして、……回転し始めると共に、強烈な閃光と、熱風を吹き散らし始める。
会場がどよめく。大男が、咄嗟に盾のように斧を構えたが、その熱風は回転速度をあげる鉄輪に比例して勢いを増す。会場全体が仄かに暑くなる程の熱量。
■神代 理央 > 「…これはまた。今の季節に喰らいたくは無い異能だな」
閃光と熱風を撒き散らし、地下闘技場に太陽が現れたかの様に輝く鉄輪を眩しげに目を細めながら眺める。
これでは、あの黒スーツの男も辛かろうと他人事の様に眺めていたが―
「……もう少し、周囲に気を配れないのかね。試合中だし、別に文句を言うつもりはないんだが」
スーツを着込んだ己には、ジリジリと上昇していく会場の温度が若干辛いものがある。
どれだけ熱量を発するつもりなのかと、氷が溶け始めたレモネードを啜りながら会場を熱と閃光で包む彼女に視線を向ける。
■尋輪海月 > ーー会場全体が暑くなることで、あちこちから飛ぶ罵声が女へと浴びせられる。鉄輪は閃光と熱風を吹き出しながら、彼女の手を向けた先で、輪郭を捉えられない程の回転を伴って、
「……っう、ぅぅぁぁぁ……ッ!!」
ーー制御する彼女自身さえもが、呻く声を上げて、翳した手を降ろさない。
……次第に様子が変だと気づき始める観客席と、対戦相手の男。
明らかに普通でない様相が、強まり始めた熱によって浮いていく。
ーーバチンッッ、と、彼女が手に持っている他の鉄輪が、瞬間的に発光し、その手を離れて回転する。一つだけでも強烈だった熱量は、輪の増えた事で、更に高くなりーー。
『お、おい待て、これ以上はやめろ……!!』
大男が後ろに下がり、熱によって赤熱した斧を手放しながら女から離れていき、壁際へ逃げていく。
そこでやっと、観客席は、…………女の異能が暴走している事実に気付く。
■神代 理央 > 「…これが異能の暴走というものか。制御方法や使用者の負担等は考慮すべきだろうが、こうしてみると際限無く能力を発揮出来る便利なものよな」
観客の中でも幾分聡い者は、巻き込まれてはたまらないとばかりに出口へと駆け出していく。
上昇する気温と混乱で煮詰まった観客席の中で、ぱたぱたと片手で己を扇ぎながら、鉄輪が閃光と熱量を増大させていく様をしげしげと眺めた後、闘技場で苦しげな声を上げる彼女に視線を落とす。
「…どうしたものかな。大人しく逃げ出しても良いのだが…」
暫しの思索。面白いモノを見ることは出来たし、スーツが汗塗れになる前に逃げ出すべきであることも分かっている。しかし―
「自信は無いが…まあ、戯れも良かろう」
彼女が何者なのか、何故闘技場に現れたのか。事情を知る由もなければ、そこまで他人に興味がある訳でも無い。
ただ、この状況を何とか出来るなら取り敢えず己の力を振るってみるか、という気紛れと戯れによって、己の異能を発動させる。
観客席に設置されたベンチを砕き、地面から湧き出た金属の異形達は、会場内の熱気で高温化した砲塔を闘技場に向けた―
「女は殺すな。驚かす程度で良い。内部温度に不備が生じた固体は自壊しろ」
少年の声と同時に、異形達の砲口が一斉に火を噴く。
周囲への影響と彼女への被弾を避ける為、比較的小型の砲弾が彼女の足元と上空の鉄輪にそれぞれ放たれるが―
■尋輪海月 > 「っ……ゃっ!?」
ーー足許への着弾が、先に音を立てる。 距離的に近いはずだろう鉄輪への射撃は、ーー届くよりも前に、その鉄輪からの熱で、砲弾を"蒸発"させたようだ。
しかし、制御する本人が驚いたのが功を奏したのか、彼女が足元の炸裂音に悲鳴をあげてうずくまるのと同時に、ーー
「ーーっきゃぁあっ?!」
『うわァッ……!!』
パァンッッ!!と、砲弾のとは比べ物にならない破音。太陽のように閃光を放っていた鉄輪が、次々に炸裂していき、熱をまとった破片を闘技場内に撒き散らしなから、熱風を収めていった。
降り注いだ鉄片による被害こそないが、炸裂の衝撃に、うずくまっていた女と、壁際に居た大男が吹き飛ばされ、それぞれが闘技場の外壁に叩きつけられる。
……男は眼を見開いたまま完全に腰を抜かしているだけのようだが、当の異能の主の女は、それで気を失っていた。
■神代 理央 > 「…砲弾を蒸発させるとはな。やれやれ、あんなのとどうやって相対すれば良いのやら…」
放水車とか召喚出来ないかな、などと考えつつ、ゆっくりと闘技場へ歩みを進める。
さながら階段の様に積み上がる異形達を早足で乗り越え、腰を抜かす男には一瞥もくれず、気を失っている彼女の元へ歩み寄る。
観客席よりも遥かに気温の高い闘技場に辟易した表情を浮かべつつ、彼女の直ぐ側まで近づこうとするが―
■尋輪海月 > 「ーーーー。」
……近づいていけば、闘技場の熱量は、異能による鉄輪の消滅と共に、少しずつ落ちてきてはいるようだった。しかし、真夏日の構内のような温度は暫くこの闘技場を包むようだ。
女は炸裂した鉄輪の衝撃で、壁に強く身体を打ったらしい。完全に意識を喪ったまま、力無く四肢を投げ出して倒れていた。耐火性の素材らしいツナギは先の熱で表面を黒こげにし、掛けているゴーグルも溶けてひびが入っている。手袋も表面の一部は繊維が融合して焦げ付く等、その素材の耐えれる温度を、容易く先の異能が上回っている痕跡を遺していた。
……暴力的な熱量で、使用者自身さえ焼き焦がす、制御不能の絶熱の異能。そんな異能を抱えている女が、何故このような場所にいたのか、本人の目覚めぬ限り、知るよしは恐らく無い。
この後、意識を失ったままの彼女を、まもなく戻ってきた闘技場の経営スタッフが搬送していくこととなり、試合の結果は、対戦相手の男の"不戦勝"という形で収まることとなる。
……男を、本領すら発揮せずに圧倒した、異能者の存在をしばし闘技場に刻んだままで。
ご案内:「地下闘技場」から尋輪海月さんが去りました。
■神代 理央 > 此方の脇をすり抜ける様に、闘技場のスタッフ達が彼女を搬送していくところと、対戦相手の男を介抱している様を眺める。
スーツ姿の子供が闘技場に降りてきた事を不審に思ったスタッフも居た様子ではあったが、彼女と対戦相手が運ばれていくのを邪魔する訳でもなく、処置が始まれば興味を失った様に立ち去っていく様を見れば特に声をかけられる事も無く悠々と立ち去る事が出来た。
「……能力の暴走か。著しい負荷を感じる程の能力使用は試した事が無いな。良いものを見ることが出来た」
闘技場に降り立ったのは、異形の放った砲弾を蒸発させる程の力を有する彼女の姿を記憶する為。
此の島では、敵と味方の区別をつけることが難しい。万が一敵に回った際に、取り敢えずその風貌と能力を記憶しておけば、先手を打たれて何も出来ないまま焼死体、ということは免れるだろう。
「……しかし、本当に暑い。スーツもクリーニングに出さなくてはならないなあ…」
結局、汗だくのまま地上に戻れば、新鮮な外気に満足げな表情を浮かべながら、学生街のマンションへと帰路についた。
ご案内:「地下闘技場」から神代 理央さんが去りました。