2017/10/14 のログ
ご案内:「落第街大通り」に黒峰龍司さんが現れました。
■黒峰龍司 > ――その、如何にもヤクザかマフィアみたいな風体の男がその場に居合わせたのは全くの偶然で。
煙草を蒸かしつつ、気儘に落第街をブラブラと歩いていれば…前方、撃ち込まれた射撃…否、砲撃か。それにより派手に吹っ飛ばされるのを目撃する。
「……オイオイ、何じゃありゃ」
煙草を咥えたままボソリと呟く。サングラス越しに黄金色の瞳で見遣る先…派手に引っくり返ったり炎上したり。
まぁ、そんな参上よりもそこに砲撃を撃ち込んだよく分からん物体の方が気になるというべきか。
周囲のゴロツキや住人が退避したり遠目に見ているのを他所に、一人堂々とその異形を観察する。
(――魔力の類じゃねぇ。という事はゴーレムでもねぇか。つぅと異能の一種になんのか?ありゃ…)
どうにも異能には疎いので判断が付きかねる。さて、どうしたもんかねと思いつつ視線を炎上する車列に向ける。
…生きていれば御の字だろうどう見ても。生存者が居たらそれこそ奇跡的だが。
■神代 理央 > 男に対して最初にアクションを起こしたのは、炎上する車列の前方に陣取っていた異形達。
といっても、言葉が喋れる訳でも、敵か味方か判断出来る知能がある訳でもない。
ただ、逃げ惑う住人達とは異なる行動パターンの何者かがいる事を主に伝えると同時に、炎上する車体を踏み潰しながらゆっくりと男に近付いていくだろう。
「……豪胆な見物客もいたものだな。見た目は組織の手の者の様に見えるが…さて」
一方、異形からの思念を受け取った少年は、ビルの上から男に視線を向けて僅かに首を傾げる。
ビルの上から飛び降りる体力も無ければ、空中浮遊等といった便利な能力を持ち合わせている訳でも無い。
まして、その男が敵か味方かの判断が尽きかねる以上、迂闊に姿を晒す事は避けたかった。
「…本部に照合しつつ様子を見たい所だが、此処からでも画像判別が出来るものかな?」
タブレット端末を起動しつつ、異形に思念を飛ばす。
主からの思念を受け取った金属の異形は、ひしゃげた車体を踏み潰し――途中、肉塊を踏み潰す様な不快な音を立てつつ――その不格好な砲身の一部を男に向ける。
尤も、砲身を向けただけで攻撃する様子は見せないが―
■黒峰龍司 > 実際とある情報商会に所属している…が、そこは情報商会の主が何重にも細工をしており足は付かないだろう。
問題はこの男が偽造学生証による学生身分、という点だがこれも学生証のダミー情報が二重三重に情報紹介の主の手で足がつかないようにされている。
つまり、学生では該当するがその正体までは結びつく事はない。分かるとしたら顔と名前、異邦人である事だろう。
あとは、"黒龍"と落第街では呼ばれている事くらいか。
「…つぅか、めっちゃ邪魔だなアイツ等…往来じゃなくてどっかの路地裏でドンパチしろよ」
と、溜息混じりに口の端に咥えた煙草から紫煙を吐き出す。と、何やら騒動の元凶らしい異形達がこちらへと近づいて来た上に砲身の一部を向けてきた。
普通、そうされたら身構えるか逃げるか出方を伺うか…そうする所なのだろう。が、男はといえば…
『おい…おい、こら"黒龍"!お前命が惜しくねーのか!?』
と、こちらと多少は顔馴染みの露天の店主が少し離れた建物の物陰から声を掛けてくる。そちらに暢気に顔を向けて異形から視線を外す。
「あぁ…?んな事より何だよあの金属のデカブツ。普通に邪魔なんだがよ…つーか退かしていいか?アレ」
『俺に聞くんじゃねぇよ…!!と、いうか正気かオマエ!?』
等と、砲身が向けられていても全く動じた様子もなく物陰に隠れた店主と会話を交わす。
そもそも、砲身が向けられている事を全く脅威とすら思っていない…そんな不遜とも言える堂々さで。
■神代 理央 > 情報を照合したものの、返ってくる答は芳しくないものだった。
落第街での異名持ち、という点でデータベースには登録されているものの、異能や魔術の類といった此方が欲しい情報は得られずじまい。
とはいえ、落第街に出入りする人間の情報がそう簡単に得られる筈も無いか、と端末を閉じる。後は、直接情報を得るしか無いのだが―
「…経験則から言えば、ああいう手合と距離を近づけたくは無いんだがな」
落第街で出会った者達は、大抵が近接戦闘に長けた者達。本来後方支援型である自分は、常々酷い目にあってきた。見下ろす男も、しなやかな体つきに纏った黒スーツが映える高身長。異形を前にしても物怖じしない態度を見れば、己の戦闘能力に自信があるということなのだろう。
とはいえ、仕事は果たさなければならない。
自身の側に異形を召喚し、その上に飛び乗れば、異形は主を乗せたままビルから飛び降りて――
「……あいたた…。慣れない移動の仕方はするものじゃないな。舌を噛むかと思った」
男から数メートル離れた地点に、轟音と共に落下した。
■黒峰龍司 > もっとも、情報照合がもしすんなりと行って正体が露見しても男は気にしない…彼の方が出方を変えたかもしれないが。
男の異名は通っているが、落第街全体からすれば大したものではない。実際知名度が高い訳でもなく。
少なくとも、風紀委員会にマークされている形跡は今の所は無い訳で。
「……つーか、おいデカブツ。俺はただの通行人なんだが?とっととそこのスクラップ片付けて道を譲れよ」
と、物陰で『このアホー!!』と、小さく叫んでいる店主から異形へと顔を戻し堂々と啖呵を切る。
…とはいえ、どうもこちらの言葉が通じているかも怪しい。面倒だな…と、思っていれば。
「――あぁ?ボスのおでましか?…ってか、落下緩和の魔術とかくらい習得しとけ。」
空から不意に落ちてきた別の異形、とそれに乗る少年をサングラス越しに一瞥する。
…風紀委員会の腕章に一瞬目を細める。そういう事か…と、面倒そうに心の中で舌打ち。
つまり、”お仕事”の場面に出くわしたという事だろう。ツイてない。
と、思いつつ魔術習得しろ、と一応普通にアドバイスしている辺りは理性的だ。見た目はチンピラだが。
■神代 理央 > 男から声を投げかけられた異形達は、砲身を向けたまま微動だにしない。
男からの言葉を逐一主に伝えてはいるものの、指示が無ければ行動する事も無い異形達は、オブジェの様に沈黙を保っているだろう。
流石に攻撃されれば自律防御を行う程度の知能はあったが―男が直接的な行動を取らなければ、主が訪れるまで只の彫像と化していた。
その異形達の主でもある少年は、男から投げかけられた言葉に僅かな苦笑いと溜息を吐き出しながら異形から飛び降りる。
「いやはや、言い返す言も無いね。日頃高みの見物を決め込んでいる罰が当たったのだと思うしか無い」
頭3つ分は身長差のある男に対して、僅かに肩を竦めて言葉を返す。
今のところあからさまな敵意は見せていない男に対して、興味と疑念を入り混ぜた様な視線を向けるだろう。
「…ところで、見ての通り此方は風紀委員として正規の任務中だ。とはいえ、既に任務は完了し後の処理は別働隊が行うだろう。そちらも、思うところが無いのなら早めに立ち去った方が懸命かと思うがね?」
言葉の通り、既に少年の任務そのものは車列を吹き飛ばした時点で完了している。
つまるところ、この邂逅は少年の興味と好奇心に寄って引き起こされたものだが、それでも一応、風紀委員として為すべき勧告は与えるだろう。
■黒峰龍司 > 正直、黙って突っ立っている…いや、ついでに砲身も絶賛向けられているが…それだけでウザい。
が、意外と理性的なのがこの男だ。ただのチンピラならもう攻撃を仕掛けていただろう。
「…見た感じ、魔力の質は悪くねぇ。量は…まぁ鍛えれば増えるか。高みの見物決め込むのは悪くねぇが…。
手数…あー自衛の手段は複数確保しとけ。」
見ただけで彼の魔力の量と質を看破したのか、煙草を蒸かしながらそう唐突に告げる。
異能はサッパリだが魔術に関しては一家言ある。一応、煙草の煙が少年のほうに流れない程度の配慮はしつつ。
「…あーーそうだな。そのデカブツには興味あるな。魔術の類じゃねーだろ、それ。
それに、俺の態度を見てりゃ分かるだろ。風紀を恐れるとでも?」
不適に軽く口の端に笑みを浮かべてみせるが、別に少年に対しての殺意も敵意も無い。
どちらかといえば、この異形と…あともうひとつだけ気になる事がある。
「それと、見ててどうにも歯痒いっつぅかイラッと来るからテメェに言いたい事があるんだがよ…?」
そこでフッと真顔になる。その顔は真剣で何処か凄みがある。そして男が口にしたのは――…。
「魔力の質は悪くねぇが、何だその"流れ"は。無駄に垂れ流してんじゃねぇか。勿体無ぇつぅか宝の持ち腐れだぞオイ」
ビシィッ!と、少年へと指を突きつけてのたまう。流石に彼も予想外かもしれない指摘かもしれない。
■神代 理央 > 「御忠告有難う。魔術に関しては学園での講義以上のものを受ける機会が少ないものでね。素直に受け取っておくとしよう」
ふむ、と幾分真面目な表情を浮かべて緩やかに頷く。
流石に初対面の黒スーツの男に魔術に関する蘊蓄を告げられるとは思っていなかったものの、敵意を見せないということは聞くに値する言葉なのだろう。
或いは、魔術の才覚を持った者なのかもしれない。それならそれで、貴重なアドバイスを聞けたのだと思うことにしよう。
「デカブツ…ああ、コレか。想像通り、異能と呼ばれる能力の類に値するものだ。魔術に関して見識が深い様に見える君に、説明するまでも無いのだろうが。
別に此方の邪魔さえしなければ、後処理を眺めていても構わないが…見ていても退屈なだけだと思うがな」
敵意を見せない相手に此方から撃つ様な真似はしない。無秩序な破壊や戦闘は風紀委員として望まぬ事でもあるし。
風紀委員に対して後ろ暗い事が無いのなら立ち去る必要も無いと告げつつ、表情を変えた男に怪訝そうな表情を向けて―
「……流れ?…すまないが、一体何の事なのか今ひとつ理解しかねるのだが」
突きつけられた指をきょとんとした表情で見つめつつ、困惑した様に首を傾げる。
そもそも、母方の血を引き継いで魔術の素養はあると聞かされてはいても、実感した事はまるでない。
学園の講義で初歩的な魔術は行使出来るので、そんなものかと思っていたくらいである。
だからこそ、彼の予想通り告げられた言葉には首を傾げる角度を深くするばかりになるだろう。
■黒峰龍司 > 「……成る程な。だがテキストと講義だけじゃ身に付かないものも多いぜ。魔術も異能と同じで果てがねぇからな」
スーツのポケットに両手を突っ込み、煙草を蒸かしながら少年に告げるグラサン男。
目の前の少年とこうして向かい合っていると、周囲から見れば滑稽に見えてしまうかもしれない。
「……いや、むしろ通行人的な俺からすればテメーが派手にやったアレが邪魔なんだがな…」
と、顎でクイッとまだ炎が燻っている車列を示して。彼らに思う事は何も無い。その辺りはドライだ。
そして、案の定少年にはピンと来ていない様子だ。溜息と共にガシガシと軽く頭を掻いて。
「あーー…要するに魔力の流れがあちこち滞ってんだよ。全然魔術を使ってないからかもしれんが。
血液に例えれば体の末端…毛細血管まで十分に血液が行き渡ってねぇようなもんだ。
魔力の流れが正常化すりゃ…そうだな。常世学園の…あー上級魔術までなら鍛錬しだいで使えるようになる。
それに、そっちの異能のデカブツを魔術で"強化"とかもたぶん可能になるだろーぜ」
彼の母方の血筋は勿論男は知らないが、その血筋に秘められた魔術の素養は男には感じ取れているようで。
ある意味で"敵に塩を送る"ようなアドバイスだが、こういうのを黙ってるのも歯痒いのだ。性格的に。
(…もっとも、コイツの適性次第じゃ上級どころか独自に魔術を編み出すのも不可能じゃなさそうだがな…)
「…つー訳でちょいと右手出せ。魔力の流れを正常化してやる。受けるかはテメー次第だが」
■神代 理央 > 「…耳が痛いな。浅学の身なれば、どうしても型に嵌まったところから学ばざるを得なくてね。それこそ、初心者に陥りがちな欠点なのかもしれないが」
再び浮かべる小さな苦笑い。
そして図らずとも、男と全く同じ感想を少年も抱いていたりする。かたや黒スーツを纏い、歴戦の戦士の様な風格を漂わせる長身の男。かたや堅苦しい程の制服を纏い、風紀委員の腕章を身につけた華奢な少年。
しかし、そのちぐはぐな邂逅こそが触れれば危険だと、賢い住人は本能的に距離を置いているかもしれない。少なくとも、此方――というより彼を――笑い飛ばせる勇気を持つ者はいないだろう。
「任務の為だ。仕方あるまい。此処が落第街でなければ、もう少し配慮はしたがな」
男の言葉に対して、我関せずとばかりに肩を竦める。
男が周囲の住民や肉塊と化した男達の死に義憤を感じていたのなら警戒もしたが、その様子も見受けられなければあっさりと答えてみせて―
「魔力の流れ…か。確かに、魔術自体そう頻繁に使用している訳でもなし。思い当たる節が無いとは言わん。とはいえ、良くもまあ見ただけで判別出来るものだ。若いように見えるが、随分と鍛錬を積んだのだな。しかし、魔術によって自身が強化されるなら是非とも修練を積みたいところではあるが…」
彼を照合して知り得たのは、名前と異邦人であること。黒龍という二つ名。
異邦人である彼は、外見年齢と実年齢が一致しないのだろうかと僅かに思考を巡らせる。
「右手を?……ああ、分かった。これで良いか?」
彼の言葉に、一瞬考える様な仕草を見せる。
初対面の相手に無防備に手を差し出すリスクを考えざるを得なかったからだ。
しかし、僅かとはいえ言葉を交わし、騙し討の様な卑怯な真似はしないだろうと素直に頷く。
僅かに離れていた距離を歩み寄り、男に比べれば随分と華奢なその腕を、無造作に差し出すだろう。
■黒峰龍司 > 「…ハッ、初心者でもピンからキリまでいる。テメーは少なくとも自覚はあるだけマシだろ。
ただの授業の延長程度で魔術を習っていたらそれ以上は決して身に付かねーからな」
笑い飛ばすように言うが、別に少年を馬鹿にしている訳ではない。
むしろ、色々と少年にも思惑はあるだろうが現時点での己の魔術の熟練度…レベルを把握しているだけマシだ。
周囲の連中は遠巻きに眺めているが、それを気にする互いでもないだろう。
そして、車列の残骸に関しては我関せずの少年の態度にやれやれ、と肩をすくめて。
「まぁ、スクラップはどうでもいいとして…だ。安心しろ。少し体に違和感は出るだろうが一日で馴染む。
今まで使ってなかったモンが急に使えるようになるって事だからな…そこは多少我慢しろよ」
と、忠告をしてから彼が伸ばした右手に己も右手を伸ばし軽く握手の形に。
そうして、一度軽く目を閉じてより正確に少年の魔力の質と量、流れを計測する。
目視でも把握出来るが、矢張り直接こうして体の一部を通して測ったほうが正確なのだ。
「…ま、異邦人だからな俺は。俺の居た世界じゃ魔術は戦争の道具としても発展してた。
…んな訳で、応用法とか効率に関してはかなり進んでんだよ」
と、軽く笑みを浮かべたまま目を閉じてそう答えつつ。彼の中の魔力の流れに己の魔力を軽く通す。
より強い魔力を流す事で滞っている部分を決壊させ、スムーズに魔力の通りを良くするのだ。
1,2分程度だがそうして少年の魔力の流れを完全に最適化する事に成功する。
少なくとも、彼が本来持っている魔力の質と量をきっちり開放したという訳だ。
「…よし、こんなもんだな。あと、一つサービスしといてやったぜ。テメーは見込みがあるからな。
"肉体強化"の魔術をテメーの魔力に刻み込んでおいた。使い方は簡単だ。自分の全身に魔力を流すイメージだけでいい。」
ちゃっかり己の持つ魔術の一つまでサービスする男である。気紛れではあるが。
勿論、男からすれば大した魔術ではない。そもそも必要ないのだ。
なら、有効活用する見込みがあるこの少年に譲ってもかまわないだろうと判断。
さて、と右手を離して一息。あまりこういう行為をしてなかったから地味に肩が凝った。
「ぼちぼち俺は行くが、後はテメーの向上心と努力次第だ。魔術で何かありゃ報酬次第で聞いてもいいぜ」
と、言いつつ少年の肩を軽くポンと叩いてから歩き出し…思い出したように足を止めて振り返る。
「…ああ、俺は黒峰龍司ってんだ。ここらだと黒龍とか呼ばれてる。テメーは?」
■神代 理央 > 「そう言って貰えると幾分気が楽になる。…いや、初対面の相手にこういう事を言うのも可笑しいのかも知れないがな」
彼と相対して初めて、ほんの僅かにではあるが笑みを零す。
それが、此方を庇い立てする様な言葉を告げた彼に対して向けられたものなのか、何だかんだ眼前の男に自身の心情を告げる程度には警戒心を緩めてしまった己に向けられたものなのか。
それは少年自身にも判断尽きかねるものではあったが。
「…余り痛みを感じない様にしてくれると助かるんだが…まあ、贅沢は言うまい」
男に握られた右手に視線を向けつつ、軽口めいた口調で言葉を返す。
男の行動そのものは信頼しているが、魔力や魔術に対しての知識の少なさ故、僅かに緊張している様が見受けられるだろう。
「戦争の道具、か。それは此方の世界でも同じ事さ。いや、正確にはこれからそうなっていくと言うべきなのだろうな。そちらの世界がどの様なものであったかは分からぬが、少なくとも未だ発展途上ではあるのだろうし……っ…と、中々不思議な感覚だな、これは」
己の中に男の魔力が流れてくる感覚に、思わず息を漏らす。
痛みや不快感は無い。しかし、己の中に全く異質の力が流れ込んでくるというのは、表現し難い不可思議な感覚だった。
しかしその感覚が治まるにつれて現れるのは、今迄感じたことのない新たな力の流れ。
異形を召喚する際に感じる力とは全く別の、全身を隈無く流れる様な魔力の奔流。
全能感すら覚える感覚に僅かに身動ぎするが、深く息を吐き出してその熱を吐き出した。
「……これは、何というか、凄いな。正直、持て余す程の力と感覚だ。力が湧いてくるのは、その《肉体強化》を付与してくれたおかげか。何というか…その、何から何まですまない。そして、有難う。結果として、世話になってしまった」
離された右手を軽く握ったり離したりしつつ、綻んだ表情を男に見せる。
風紀委員として小難しい言葉を並べていた先刻までとは違い、随分と貧相になった語彙力で男に感想を述べた後、小さく頭を下げて礼の言葉を告げるだろう。
「向上心と努力、か。そちらには自身がある。君……あー、貴方が驚く様な実力をつけてみせよう。報酬次第となれば、金で良ければ幾らでも弾むとも。その時は、宜しく頼む」
綻んだ表情で、しかし、僅かに見せる対抗心と不敵な笑み。
歩き出した男にそんな表情を見せつつ、未だ燻る自身の魔力に感動を覚えていたが―
「…ああ、すまない。本来であれば此方から名乗るべきだったな。私は神代理央。二つ名も何もない、しがない風紀委員だ。次は、もう少し治安の良い場所で再会したいものだな」
■黒峰龍司 > 「別に礼はいらねーよ。俺はただ俺が思ってる事を言っただけに過ぎないんだからよ」
こちらはハッと苦笑じみた笑みを返すに留める。彼からすれば本当にただ言いたい事を言っただけなのだ。
少年の警戒心云々が緩んだのは、戦場を渡り歩いてきた者として感じ取るがそれはそれだ。
そもそも、別に彼に取り入るとか媚や恩を売るつもりは無い。己のやりたいように行動するだけ。
自由気儘で俺様的ではある…が、結果的に…少なくとも少年と男の"衝突"は回避されたのだろう。
「あほぅ、テメーも男だろ。多少の痛みくらいは気合と根性で耐えろ。忍耐も風紀委員には必要じゃねーのか?」
と、彼の軽口にそうこちらも軽口を返す。秩序を守る側と無法者な側だが、少なくとも互いに嫌悪感などは無さそうだ。
「…俺はこの島っつぅか世界に来てまだ1年程度だからなな…正直、島の"外"に関しちゃネットとかで間接的に把握してる程度だが…。
まぁ、異能だろうが魔術だろうが…デカい力ってのは都合の良い道具に成り下がるのもよくある事って訳だ」
無論、今から開放される彼の魔力…魔術を少年が今後どう生かすかは彼次第だ。
己の目的の為に、野望の為に、誰かの為に。魔術は力であり真理でもある。
とはいえ、矢張りその使い手の意志が最終的に重要なのだから。
「…ああ。実感あるならやっぱり魔力の質や量は潜在的に悪くねーって事だ。
これが、例えば質も量も大したことがねーと、正常化しても実感が沸き難いからな。
あと、その肉体強化も当然だが、使い込んでいけば熟練度が上がっていく。
もしかしたら、その強化をそっちの異形にも付与したり出来るかもしれねぇ。
まぁ、どう発展させたり磨き抜くかはそれこそテメー次第だ。その強化魔術はもう"オマエの力"だからな」
譲り渡したので、もう男のモノではない。男からすれば些細な魔術だが…。
少なくとも、彼にとっては戦術の幅が多少なりとも増える事にはなるだろうか?
「ああ、礼はいい。ぶっちゃけ俺には必要ねぇ魔術だしなそれ。なら有効活用するヤツに渡した方が無駄が無くていいだろうよ」
と、少年の態度の変化に苦笑気味に。魔力の開放による戸惑いや高揚感もきっとあるのだろう。
だが、一日経てば体に馴染んで冷静な思考も保てる筈だ。見た感じ、彼の異能との干渉や軋轢も無さそうだし。
(…むしろ、この異形のデカブツとコイツの魔術の組み合わせが完成したら厄介だろうな…)
違反部活や違反組織からすれば頭が痛い話だろう。間違いなく、この少年は将来的に風紀の顔の一人となる。
まぁ、同時に命を狙う輩も増えるだろうがそこは彼自身で切り抜けて貰おう。
「ハッ、いい返事だ。そうこなくちゃ俺としても面白くねぇ。…いずれ、テメーの"力"を示して見せろ」
と、不敵に笑って。少年の感謝と同時に宣戦布告じみた言葉に楽しげだ。
そう、このくらいの意気がなけりゃ面白くない。矢張りコイツの魔力を開放して正解だった、と思いながら。
「神代…ああ、覚えとくぜ"今は"無名の風紀委員。だが、一つ忠告と訂正だ。
…オマエ、違反部活とか違反組織の一部からは結構有名人だぜ?鋭いヤツは勘付いてるってな」
と、ニヤリと笑ってみせる。二つ名が無くとも彼の存在を危険視する者が既に落第街には存在する。
男はむしろ興味や好奇心だが、敵意と殺意を彼に向けられるのも遠くは無いだろう。
(…まぁ、コイツも強かだからそれを利用してのし上がるくらいはしそうだけどな)
悪くない。そのくらいして貰わないと手助けした意味が無いのだから。
なので、今度こそ立ち去ろうとしつつ、右手をヒラリと振って。
「んじゃな、神代。学園でも会う事あるかもしれねーが、まぁそん時はテキトーにな」
と、そう別れの挨拶を告げてスクラップを面倒そうに避けてから歩き去るだろうか。
ご案内:「落第街大通り」から黒峰龍司さんが去りました。
■神代 理央 > 「…ならば、重ねて礼を述べるのは無粋というものだな。とはいえ、借りを作ったままというのは性に合わないのでな。この恩義は、いつか必ず返すことを約束しよう」
男からすれば恩義だの何だのと堅苦しい言葉かもしれないが、借りを作ったままというのは少年の心情に反する事であった。
自分に出来ることは精々金をばら撒く程度の事かもしれないが、それでも、此の夜の恩は必ず返すと幾分真面目な表情で告げるだろう。
自由闊達な男と傲岸不遜な少年の邂逅。彼を知る住民達の心配を他所に、血も硝煙も吹き上がる事無く、落第街は無事に夜を終える事が出来るだろう。
「精神論で何とかなるものなど、世の中に大して存在しないのだぞ?……と言っても、魔術だの異能だのといったものは正しく精神論の世界ではあるが」
もし彼が最初から敵意を見せていれば。或いは、身の程を知らない風紀委員の上層部が彼の討伐を命じていれば。また違った争いが生まれたのだろう。
しかし、そうはならなかった。それだけで、この街の住民がどれだけ安堵のため息を吐き出したか――少なくとも、少年は知る由もない。
「成る程…機会があれば、是非島の外の情勢も情報を得るべきだろう。尤も、人々の愚かさを思い知るだけになるかもしれないがね」
異能や魔術が世に流れても、人の本質は変わらないだろうと肩を竦めて3度めの苦笑い。
それは、こうして力を手に入れた己自身にも言えることなのだが―
「つまり、得た力に振り回されぬ様に鍛錬を積むべきということか。先ずは何度も使ってみて、己の身体に馴染ませなければなるまいな。
…俺の力、か。貰った力に溺れぬ様に、頑張ってみるとしよう」
未だ醒めきれぬ高揚感に戸惑いすら覚えつつも、男の言葉には冷静さを保つ努力をしながら言葉を返す。
これまで後方支援として異能に頼り切っていた己が、魔術によって前線に立てる可能性が大分高まった。その分危険も増えるだろうが、それは臨む所であった。
「応とも。此の島から犯罪者を撲滅させるくらいには、実力を磨いてみせよう」
その実力を示す機会が、彼と敵対する未来で無い事を祈るばかり。
功に焦りがちな過激派の先輩方に釘を刺しておこうと決意しつつ、緩やかな笑みを浮かべた。
「…余り目立たない様にしてきたつもりなんだが…まあ、仕方あるまい。降りかかる火の粉は、全て振り払って塵芥にしてやろう」
身辺を探られている自覚はあったが、裏社会に精通している様な彼の言葉となればそれは真実なのだろう。
だが、それもまた臨む所。己に敵意が集中すればするほど、それを振り払いつつ敵を誘い出す事も出来る。
慢心せず、されど傲慢に。彼の予想通り、此方が狙われるのならそれは上へと駆け上がるチャンスでもあるのだし。
「…そうだな。学園で会った時は、先輩と呼んでやろうか?」
そんな冗談で彼の別れの言葉に答えた後、反対側からやって来る後詰の風紀委員の足音に視線を向ける。
一瞬、彼が立ち去った方向に視線を向けた後、風紀委員たちに状況を説明する為に再び大通りへと歩いていくのだろう。
ご案内:「落第街大通り」から神代 理央さんが去りました。