2015/08/15 のログ
ご案内:「路地裏」に深雪さんが現れました。
深雪 > 普段と何も変わらぬ落第街の路地裏。
暗闇に蠢くのは人の道を外れた人々や、人ですらないものたち。

「・・・・・・臭うわね、相変わらず。」

彼女の家はこの落第街と異邦人街の境目にあった。
普段、彼女はこちら側を歩く事は殆ど無い。面倒事に巻き込まれるのが目に見えているからだ。

だが今日は、その目立つ銀の髪を靡かせて、少女は裏路地の暗闇を堂々と、歩いていた。

深雪 > 理由を聞かれれば、返答には困ってしまう。
気紛れ、の一言で済ませることができれば楽なのだが・・・
・・・“友達”に頼まれて久方ぶりの“狼”の姿へと変身して以来、どうしても消せない1つの感情があった。

弱者を力で捻じ伏せ、痛めつけ、全てを奪う。
そんな破壊を求める衝動が、彼女をこの場所へと導いた。

だがそれは、あまりにも短絡的な思考だった・・・この暗闇の中であれば、誰にも知られる事なく、この衝動を満たす事ができる。
そこまで意識はしていなかったのかもしれない・・・ただ、ここに来ればきっと、誰かが“襲ってくる”だろうと思った。

深雪 > そして、それは現実のものとなる。
育ちの良さそうな少女が無防備に歩いていれば、彼女の歩く道を塞ぐように立ちはだかる、2人の男。
1人はナイフを手にしていて、もう1人は警棒らしき物を握り締めている。

『俺たちの縄張りを無断で通ろうってのかぁ?』

安っぽい台詞。ちんけな理由をつけて、2人は少女へと迫った。
・・・酷く臭う。恐らく何かの薬をやっているのだろう。ナイフを持っているほうの男は、どこか目が虚ろになっていた。

少女は一歩、後ずさる。けれど内心では、きっと、恐ろしい笑みを浮かべていただろう。

深雪 > 声も上げず、少女は後ずさる。少女の背後には路地裏の袋小路。
とん、とその背が背後の壁に触れて、少女はついに追い詰められてしまった。

『ヒッヒヒヒ、イイ女じゃねぇか。』『このまま犯っちまおうぜ。』

無邪気に話す男2人を、少女はまるで害虫でも見るような目で見つめていた。
そんな視線に気づく事もなく、ナイフを持った男はそれを少女の首筋に近付ける。
もう片方の手は少女の髪を掴み、少女をにらみつけた。
触れるか触れないか、ギリギリの距離にナイフを置いて・・・気色悪い笑みを浮かべ、

『言う通りにしな、お嬢ちゃん。』

そう言い終わったか、どうか。
伸ばされた少女の手は彼の咽喉を掴み、気道ごとそれを握り潰してしまう。

『カヒュッ・・・』

と情けない空気の抜けるような音を出して、彼はもう二度と声を発さなくなった。
自慢の髪を触らなければ、もう少し長生きできたかも知れないが。

深雪 > やってしまった。これじゃ何も楽しくはない。
生きているのかどうか分からないが、1人目の男は倒れて、動くのをやめてしまった。
今度はもう少し、ゆっくりと“遊んであげなくては”。

「・・・力、入れすぎちゃったかしら。ごめんなさいね。」

にっこりと笑って、それはもう、目の前の惨劇とはまったく無縁な少女の笑みで、もう1人の男を見る。
男は目の前で何が起きたのか理解するのに、長い時間がかかった。
けれど少女が一歩踏み出し、物言わぬまま倒れ伏した男を、まるで石ころか何かのように踏みつければ、全てを理解した。

深雪 > 男にとってこの場で取るべき行動は、絶対に振り返らずに逃げ去ることだっただろう。
だが、突然の出来事による動揺がそんな最後のチャンスを、潰してしまう。
一瞬の間の後、悲鳴をあげながら逃げようとした男は、舗装されていない道に足をとられて路地裏に転がった。
「逃げるなんて酷いわ・・・貴方たちが、先に言い寄って来たのよ?」
静かに歩いて近付き、少女は男を見下ろす。
男は本能的に、逃げられないと悟った・・・そして、その目には涙を浮かべていた。
助けてくれ、だとか、アイツが勝手に、だとか、次々に命乞いの言葉が飛んでくる。
違う、そんな言葉を聞きたいんじゃない。

「助けるだなんて、変な人ね。私は貴方と楽しく遊びたいだけよ。
 ・・・ほら、貴方たちが追いかけてくるせいで汚れてしまったわ。綺麗にして下さらない?」

こういうプレイが好きなわけでは無いが、優越感を得るにはもってこいだった。
そして、助かりたい、という一心で素直に行動する人間を見るのは、本当に愉快だ。

深雪 > 舐めろともなんとも言っていない。
けれど男は自分の命とプライドとを天秤にかけ、悲痛な表情で汚れた靴に舌を這わせる。
・・・・・・きっと、怖いんだろう。 本当に、可愛らしい。

「ねぇ・・・私、舐めろだなんて言ったかしら?」

理不尽な事を言っていると思う。
プライドを捨ててまで舌を這わせた男が、怒りと屈辱と恐怖と、様々な感情が交錯した表情を見せる。
蹴り倒すように足で仰向けに押し倒し、そのまま男の胸を踏みつけた。
こんな少女に踏まれたくらいなら、普通は少し苦しい、程度だろう。
だが、この少女が僅かでも力を込めれば、肋骨が不快な音を立てて、へし折れた。
男は声にならない叫びを上げる。

深雪 > ああ、可哀想だな。心からそう思う。
けれどそれは、人間が踏み潰された蟻をみて感じる感情とおなじようなものだった。
結果を見て可哀想と感じはしても、踏み潰さないように足を下す場所を一歩一歩確かめるようなことはしないだろう。

「・・・・・・・・・・・・・・・。」

苦痛に表情を歪め、必死に足を持ち上げようとする男。
その僅かな抵抗を楽しむ・・・少しでも力を加えれば、この抵抗も悲鳴も、この男の生きてきた人生やこれからの日々も、全てを踏み潰すことができる。

楽しい・・・・・・

深雪 > ・・・・・・のだろうか。
いつのまにか、少女の笑みは消えていた。
男の抵抗は段々と弱まり、表情は憎しみや怒りよりも、悲しみと絶望に沈んでいる。
蟻の表情など、これまで気にも留めなかった。けれど今は、それがよく見える。

「・・・・・・・・・・・・。」

ああ、可哀想だな。もう一度、そう思った。

深雪 > しばらくそうしていたが、少女は静かにその足をどけた。
男の表情は変わらない。抵抗する事を諦めて、全てを投げ出し、まるでギロチンが落ちるのを待っているようだった。

「・・・・・・・・・・・・。」

少しでも力を込めて、その足を振り下ろせば全てが終わる。
けれど少女はそれをしなかった。何も言わず、仰向けに倒れている男を見る。
もう、楽しくはない。

ご案内:「路地裏」から深雪さんが去りました。
ご案内:「路地裏」に焔誼迦具楽さんが現れました。
焔誼迦具楽 >  
      ―― 聲 が きこえる――

【路地裏の片隅で、迦具楽は肩を抱くようにして蹲っていた。
 徐々に落ち着いてきたものの、異様な空腹感は未だ迦具楽を苛んでいる。
 さらには今朝から、ひどい寒さを感じ、動けなくなっていた。
 体温は低いわけではない。
 迦具楽の感覚が何かによって寒さを錯覚してい――足音だ。
 空腹感に苛まれる迦具楽の嗅覚に、肉にスパイスをまぶし焼いたような、香ばしい匂いが届く。
 その美味しそうな匂いに顔を上げれば、こちらに向かって歩いてくる人影が一つ。
 それはとても美味しそうな一人の男だった。
 いや、空腹のせいか今は誰を見ても美味しそうにしか感じない。
 だから正常な感覚であったなら、きっと好みではなかったことだろう】

      ―― たべてしまおうよ ――

【それでもその男の匂いは、丸二晩、空腹感に耐え続けている迦具楽には、耐え難い誘惑だった。
 男が近づき、目の前を通り過ぎようとする。
 匂いに誘われるように手を伸ばし――】

「――ッ!」

【もう一方の手で引き戻すように手を下ろし。
 耐えるように肩を掻き抱いた。
 怪訝そうな顔をして男が、匂いが遠ざかっていく。
 それを感じなくなればようやく、微かな安堵を得る事ができた】

ご案内:「路地裏」に迦具楽さんが現れました。
ご案内:「路地裏」から焔誼迦具楽さんが去りました。
迦具楽 >  
      ―― どうして食べないんだい ――

                  ―― おなかがすいてるだろう ――

         ―― きっと美味しいよ ――

【いつもの騒がしい、五月蝿いくらいの『聲』は先日から聞こえなくなっている。
 ただその代わり、ささやくような何者かの聲が、事あるごとに迦具楽に話しかけてきていた。
 震える身体を抱きしめて、迦具楽は弱弱しく首を振る。
 空腹は辛いし、食事を我慢するのは拷問のようだった。
 けれどそれでも、今食べてしまったら、自分が自分でなくなってしまう。
 そんな危機感だけが――今を異常だと認識する自意識が、迦具楽を思いとどまらせていた】

迦具楽 >  
            ―― 強情な子だ ――

     ―― 楽になろう ――

                     ―― あたりまえの食事じゃないか ――

【無駄だとわかっていても、耳を塞ぎ、目を閉じた。
 これが何時まで続くのかはわからない。
 それでも、この得体の知れない恐怖を、危機感を感じなくなるまでは。
 この囁く聲には従うわけには行かないと、何度も自分に言い聞かせた。
 気が狂いそうになる。
 まさか、あの騒がしい『聲』が聞こえないのが、これほどに心細く感じる日が来るなんて。
 いつもの『聲』は聞こえない。
 ただただ、優しい、囁く聲が、繰り返し繰り返し、耳元で鳴り続けていた】

ご案内:「路地裏」に道鉄さんが現れました。
道鉄 > 「……何やってんだ? お前」

授業終わりの、帰り道。学校は始まったばかり。
最初の授業を行かないとそのまま行かず、落とすのが
いつものことなので、顔だけだして睡眠しよう。

なんとなくそんな気が向いたので、外に出たのが幸か不幸か

暑いのでさっさと帰ろうとした時だった。

「まるで、怯えた子鹿かなんかだな。獅子かもしれねぇけど」

げははっと心底可笑しそうに嗤う。

迦具楽 >  
【――覚えのある匂いだ。

 やってくる足音に顔を上げる。
 それは(いつ? どこで?)見覚えのある姿。
 両腕こそなくなっているようだが、それはいつか見た通りに嗤っている。

 ――けれど、ここまで美味そうだったろうか】

「……何も、してない」

【近づいてくる匂いに、身体をより強く抱きしめ耐える。
 手を伸ばしてしまわないように】

          ―― 美味しそうじゃないか ――

【囁く声に抗うように、首を振ると憔悴したような病的に青白い顔と疲れきった瞳を向ける。
 子鹿か獅子かといえば、今は子鹿にしか見えないだろう。
 無力に、ただ怯えることしか出来ない】

「だから、私に、近づかないで」

【搾り出すようなかすれた声。
 震える身体を押さえつけながら、途切れ途切れに発した】

道鉄 >  
「……どうだか――そうは見えねぇけどなぁ。げはは、なぁ、お前……」

――なんの鬼?

なんて、声を投げかけながら、一歩一歩近寄ってくる。

「近づくなぁ? 近づいたらどうなっちゃうわけ
 もしかして、男を襲っちゃう肉食系女子ですか?」

げははっと、笑いながら。くつくつと喉を鳴らして
翡翠の目を細めていく――

「なんか、怖いことでもありましたか、お嬢さん」

わざとらしい、質問
見ればわかるだろうに――

迦具楽 >  
「鬼じゃ、ない」

【人でもないけれど。
 近づかれれば、さらに身を縮こまらせて、蹲ったままずるずる、と壁に沿って後ずさっていく】

「やめて……こないで……」

【逃げ出せるような気力はなかった。
 だからただ、小さくなって蹲るしかできない。
 ――怖いことばかりだ。
 今は、何もかもが。
 食料だと見ていた人も、繰り返し囁く聲も、それに飲み込まれそうな自分も、何もかも】

      ―― さあ素直になろう ――

【囁く聲が、優しく誘う。
 甘い声に揺れそうになるが、嫌だと何度も首を振る。
 身体を抱いていた腕が、耳を塞ぎ頭を抱えるようになり。
 道鉄の目の前で、何も見ないように、ただ顔を伏せて震えている】

道鉄 >  
「……はぁ、面倒臭。中途半端だな、お前」

腕はなく、ひらひら……
――壁ドン……またできねぇなぁ。かっこつかねー。まぁいいか――……

自身の体を眺めて――

また、足でいいか。

……ぐち……

自分の足をむしって

「んじゃ、チェックしまーす♪」

ぐっと、壁際に身を寄せてこつんっと、額を合わせて顔を上げさせて。
口移しに、”鉄の味をする食べ物”を、移した――

ご案内:「路地裏」にサヤさんが現れました。
サヤ > 公安第九教室の外部協力者として、路地裏をぶらつくよう指示を受けた。
指示通り適当にうろついては見たが、特に何も変わったことは無く、もう帰ろうかとしたところに、風にのって見知った匂い。
その匂いの下にたどり着けば、路上にうずくまる見知った相手と、それを笑う見知らぬ相手。

「焔誼さ……」一体何事かと声をかけようとしたところで、一人が自らの足を喰いちぎり、焔誼さんに口移しで食べさせた。異常な光景に驚き、目を見開く。
キス…、そうじゃない。自分の肉を食べさせ……どういうこと?焔誼さんは食べることが好きらしい、でも人肉を?
棒立ちのまま、固まる。

迦具楽 >  
【面倒だろうと、中途半端だろうと構わない。
 今はただ耐えて、耐えて、そしてまたいつも通りに戻れれば、それで――】

         ―― 面白そうな事がはじまりそうだ ――

   ―― ほら、顔をあげてごらんよ ――

【至近で、動く気配。
 何かをちぎるような音。
 そして――】

「ひ――っ」

【接触される。
 体温が伝わる。
 そして、口移し――】

「ん、ぅ――ッ!?」

【口の中に、何かが押し込まれる。
 けれどそんな『不味い』物はなんでもない。
 その接触が、何よりも問題だった。
 道鉄に触れた部分から、熱を奪い取る。
 迦具楽の意思に関係なく、ただ、ただ、空腹であったがための反射】

「ぃ、やあアッ!」

【悲鳴を上げて、両手で突き飛ばそうとする。
 その力は確かに人ならざるものであり、いくら尋常でない筋肉を、密度を持っていたとしても耐えるのは容易でない。
 そして、迦具楽に触れた部分を中心に、異様な冷感を、接触部は氷のように冷たくなっているだろう】>>道鉄

「ぁ、ぁぁ――」

【気が遠くなる。
 空腹の上で食べた道鉄の味は――あまりにも美味すぎた。
 それは今の迦具楽にとって、毒でしかなかった。
 衝動を欲求を刺激し、耐え続けていた自意識を蝕む、毒。
 口移された肉と共に、うめき声を吐き出した】

     ―― ああ、また美味しそうなモノがきたよ ――

【聲が囁く。
 匂いが増えた。
 それもまた、強烈なほどに空腹を刺激する匂い。
 けれどその匂いはよく知っている。
 そして、だからこそ、今の自分を見られたくなかった】

「――にげ、て」

【わずかに視線を向けて、かすれた声で懇願する】>>サヤ

道鉄 >  
――おっと……

突き飛ばされた。簡単に。まぁ、それはそれでいい。
目的は達成した――けれど。

「へぇ……」

あともう少し接触してたら危なかった。
”熱”を盗られた、取られた、喰われた

「こりゃいいや、げはは! 夏にピッタリだなぁ!! 寒くなってきた、げはははははははは」

面白そうに嗤う。なるほど? 推測は十二分。
確定には至らないが、そういうことか。
自分とは違うが、ある意味で”食人鬼”

「げはははは、なんだ、お前、もしかして食事が怖いのかっ」

ぶっと吹き出して、手があったらお腹を抱えて微笑っていたことだろう。
それだけの大爆笑。

そこで、人影に気づく

「……っとぉ、見世物じゃねぇけど。嬢ちゃん知り合い?」

目の前の悲鳴を上げた少女を指さして、訪れたものに声を投げる。

赤い赤い、自身の血を紅として纏いながら。

サヤ > 肉を吐き出し、嫌がった。何が起きているのかよくわからない、だが人が苦しむのを笑っている、あの人はきっと敵だ。
「焔誼さん、今助けます!」この状況で逃げろと言われて逃げるほど、情は薄くない、狼狽える石蒜に優しくしてくれた人だ、助けないと!


「サヤと申します、彼女の……友人です。焔誼さんから離れて下さい。これは警告です。」右手を柄に当てて、威圧しながら、二人に歩み寄る。その目は鋭く、射抜くような眼差し。必要なら即座に刀を抜いて斬りかかるだろう。

迦具楽 >  
      ―― あはは 助けてくれるってさ ――

【囁く聲が、愉しそうに哂う、嘲笑う。
 ――ちがう。思ってくれるのは、嬉しいけれど】

「にげ、て。離れて――『二人とも』近寄らないで!」

【目の前の二人に伸ばそうと、喰らおうとする腕を。
 必死に自分を抱きしめて押さえつける。
 ――だめだ、これ以上は。
 悲鳴のように叫びながら、身体を縮こまらせ――壁に、地面に押さえつけるようにして、耐える。
 今この場で、もっとも危険なのは自分だろうと。
 衝動に、欲求に支配されつつある自分なのだと、わかっていた。

 歩み寄れば、サヤは、石蒜は。
 迦具楽からわずかに。知った気配を――混沌の影を感じ取れるかもしれない】

道鉄 >  
――おっと……

敵意。殺意。つまるところ、自分は敵認定、されてしまったらしい。

少し考える。ディナータイムとしてもいい。だが、気は進まない。
聞いたところ、友人だという。なら、なんとも馴染んだ”優しい食人鬼”だ。
自分とは違う。残念ながら。

今日は夜に仕事がある。無駄に。時間の消費はしてられない。

「げははっ、はいはーい」

あっさりと離れた。静かに離れて――
踵を返した。

「しゃーねーなぁ。残念無念。同類じゃなかったということで」

ない袖を振り、肩をすくめたように。

「もう関与しねぇよ。二人でどうぞ――?」

サヤ、ねぇと静かに呟いて。

二人から離れて、路地裏の出口に背中を預けた。

サヤ > 「っ……。」必死の声と、微かに感じる混沌の匂いに、足を止める。
『サヤ』刀からサヤとほぼ同じ、微かに幼さを感じられる声、石蒜だ。
「ええ……。」迦具楽は人に非ざる存在、何かとても不味いことが彼女に身に起きているのだろう。言われた通り数歩、下がる。

「………。」そして、離れていく相手、道鉄には完全に見えなくなるまで、警戒を怠らずに、無言で見送った。

迦具楽 >  
【離れてくれた。
 意外にも二人とも。
 それにわずかばかり安堵して、前のめりに倒れこむ。
 出来るなら立ち去ってしまいたい。
 けれど、立ち上がればきっと、そのまま、より近く――そして二人分の魂を持つサヤへと襲い掛かってしまうだろう。
 けれど――】

         ―― ああ早く食べないと逃げられちゃうよ ――


【囁くばかりだった聲が存在感を増す。
 それに比例して、迦具楽の自意識が少しずつ、黒く染められていく。
 ――この場から、逃げてもらわないと】

「サ、ヤ。聞いて――」

【微かな声が、呻くように聞こえるだろう】

「私、なんか、ダメみたい。
 だから、ワタシ、が、サヤを襲う、前に――」

【逃げて、と。
 路に伏せたまま、顔も上げられず。
 相手の顔も見れないままに】

道鉄 >  
「――食事は我慢するから、暴発した時に抑えられなくなる
 小刻みに。それらしい理由をつけて……ゆっくりと、軽く、摂取することをおすすめするよ、朝昼抜いて、夜だけは余分な栄養も、摂っちまうからな」

げはははっと嗤いながら。一人でなんとかするのだろう。
なら、なんとも運命的な。感動的な
フィクションのような展開だろう。

「一応聞くけど、手助け要らないよな?」

最後の一歩をを踏み込む前に、一応訪ねておこう

サヤ > 「いいえ、ここに居ます。」苦しい時、辛い時に一人で居る寂しさを、サヤは知っていた。だから、今ここを離れるわけにはいかない。

「それに、焔誼さんなら私、いいですから。全身は困りますが、死なない程度なら、いくらでも。」刀から手を離し、静かに微笑む。恩があるし、友達だ、そしてそれ以上の存在。苦しみを癒やすためなら腕や足ぐらいくれてやるつもりだった。

道鉄の言葉には「はい、なんとかしてみせます。」強い意志とともに、はっきりと言った。下手に頼ったら、もしもの時被害を増やす。
それにこれはきっと自分の仕事のような気がする。酷く難しいだろうが、やり遂げよう。

道鉄 > そうかと嗤って。

「じゃあな、幸せな鬼。その心地を愉しみながら、ズレも愉しめるようになるといいな?」

さて、逢引きに邪魔者は不要だ。
起こした責任をとってもいいが。それじゃきっと展開への
逆に邪魔になる。だったら素早く退場が望ましい

――食事に、マナーは大切

そっと路地裏を後にした

ご案内:「路地裏」から道鉄さんが去りました。
迦具楽 >  
【離れてくれない。
 何故、どうして――】

       ―― いい子じゃないか ――

               ―― お望みどおり食べてあげなよ ――

【――いや、サヤならきっとそう言うだろうとは、思っていた。
 散々からかって、遊んでいただけなんて知らないで――サヤは本気で自分を案じて、自分を投げ出してくれるのだろうと。
 ……覚悟を決めなくては】

「……なんとかして、くれるなら」

【それはきっと、本当なら立ち去ってしまった食人鬼に頼むべきだっただろう。
 けれどそれは、サヤが納得してくれない――そんな気がした】

「――私を、殺して。
 ワタシが、私で……サヤの友達で、居られるうちに」

【今の自分は、力が非常に弱っている。
 刀と斥力による手段しかないサヤ達であっても、抵抗さえしなければ殺すことはできるだろう、と。
 衝動に、欲求に呑まれて、自分で、『迦具楽』でなくなるくらいなら。
 今のまま『迦具楽』として死んだほうが、マシだった】

サヤ > 「それは、出来ません。」それが正解だとしても、それ以外の手段が彼女を苦しめるだけだとしても、諦めるわけにはいかない。

「焔誼さん、もう覚えていらっしゃらないかもしれませんけれど、ちょうどここのような路地裏で、苦しむ石蒜を助けて下さいましたね。それに、このあいだは何のとりえもない私を好きだと言ってくれました。とても嬉しかった、感謝しています。」少しでも落ち着いてくれるように、優しく穏やかな声で、思い出を話す。彼女を苛む衝動が、少しでも薄れてくれることを期待して。

「もう壊れてしまいましたけど、首輪もいただきました。まだ答えが決まってないのに、迦具楽さんに死なれては困るんです。だから、あなたを殺せません、絶対に助けてみせます。大丈夫です、きっとなんとかなります、私と石蒜だって助かったんです。皆に助けてもらったんです。だから、今度は、私が助けます。」

迦具楽 >  
「サヤ……」

【顔をわずかに動かす。
 瞳を動かして見上げれば、そこには優しい少女の――姿】

「――あれは、私じゃない」

【そんな彼女を、食べるわけには行かない。
 自分を化け物でなく――『迦具楽』として認識し、思ってくれた相手を喰らう事は、出来ない。
 ―― 聲 が きこえる ――
 まとわり付くような、囁くものでない、いつもの『聲』が。
 最適解を示そうと、一つ二つと、か細い声で訴えてくる。
 囁く声は静まった。けれど、空腹はまだ収まらない。
 衝動も欲求も、目の前の匂いに、ただただ強まるばかりだ】

「石蒜を助けた、のは、私だけど、私じゃ、ない。
 あれはただ、あの時はああ言え、って、言われた、だけ」

【自分が何時まで持つかわからない。
 ただ話せるうちは、言葉を発しているうちは、気を逸らせる】

「アナタに、首輪を渡したのも、ただ、からかった、だけ。
 好きって言ったのも――嘘。
 からかうと面白そう、だったから、困らせて、みたかっただけ」

【それは事実で――一つだけ、嘘だけれど】

「首輪だって、最初から、壊れるよう、に作ってた。
 サヤが困る、のも。泣きそうに、なるのも。
 凄く滑稽で――面白かった、わ」

【今、哂えているだろうか。
 御馬鹿で優しい少女を、嘲笑うように】

サヤ > 「そう、だったんですか……。」自分だけど自分じゃない、サヤと石蒜のような関係だろうか、あの時の迦具楽と何かが入れ替わっているとしたら、石蒜と交わした約束を覚えていなかったのも、そのためだろう

「でも、言ったことは覚えているんですよね。それに、言われたことに従うかどうかを決めたのは、きっと焔誼さんです。だから、それは焔誼さんの行いですよ。焔誼さんには意志があるんです、負けないでください。」少しでも力になりたくて、励ますように。
『焔誼さん、また遊ぼうって約束したんですよ。また遊んで下さい、楽しみにしてるんです。』サヤの腰の刀から、石蒜の声。

そして、からかっていただけという言葉には、少なからず衝撃を受けた。
でもきっと、嫌われては居ないはず。なら少なくとも友達だ。
「それでも、助けない理由になりません。私を気遣っているんですね、焔誼さんは優しい方ですね。首輪が本気でなかったのは、少し残念です。」冗談めかして、薄く笑う。

「あ、そうだ。ええと、今お腹が空いていらっしゃるんですよね、でしたら……これを。お口に会えば、いいんですが。」先日異邦人街に行った時に手に入れた、唐辛子の漬物。辛いのが好きだという迦具楽のために買っておいたのだ。
瓶に入ったそれを、瓶ごと転がして相手に渡す。

迦具楽 >  
「意思は――」

【ある。生まれて、それから少しずつ蓄積して、得たもの。
 何よりも、大切な自分自身】

「――『約束』も、覚えてない。
 私は、優しくなんか、ない」

【否定する。そう、しなければならない。
 けれど、それでも――きっと彼女は離れてはくれない。
 自分を、殺しもしないのだろう――なら。
 『聲』が新たな解を、提示した】

「……ありがと。
 けど、違うの。私が食べるのは――人の、魂。
 人の熱、命――だから」

【ゆっくりと、身体を起こす。
 蓄積したエネルギーを、喰らってきた魂の一部を熱に変換する。
 意識を攻撃的に切り替えたからか、衝動も欲求も、わずかに和らいだ。
 これなら、制御しきれるだろう】

「私を、助けたいって思う、なら。
 今すぐ、殺して。出来ないなら、逃げて」

【表情を消して、サヤの瞳を見つめ――、勧告。
 起き上がった迦具楽の腹部に、膨大な量のエネルギーが生み出されるのが、感じ取れるだろう】

「――でないと、この街ごと消し飛ぶわよ」

【口角を吊り上げて――、宣告。
 訴える『聲』から迦具楽が選んだのは、自身の力を使い果たしての自壊。
 一度全力で力を放っただけで、これほどまでに弱ったのだ。
 おそらくもう一度。恒星に匹敵――太陽を越えるだけの熱量を生み出せば。
 この存在は生命を保てずに崩壊するはずだった】

サヤ > 否定、そして脅しにも似た勧告。
自分が死ぬだけならまだしも、街ごと巻き込まれては自分のわがままを通すわけにも行かない。
今はどうにも出来ない、無力な自分に歯噛みする。

「殺せません、出来れば逃げたくもないですが……。」
手が思いつかない、助けたい、お礼がしたいのに、出来ない。それが悔しくてたまらない。

「……ご迷惑を、おかけしました。」目を伏せ、静かに下がる。その拳は白くなるほど握りしめられていた。
「ですが、私は諦めません、絶対に助けてみせますから。私は何が起きても、焔誼さんの味方ですから。」それだけは伝えて、踵を返すと、路地裏から走り去った。

迦具楽 >  
「……ありがとう。
 ――友達になれてよかった」

【去り行く背中にそれだけ伝えて。
 サヤが去っていけば、小さく笑みを浮かべ、その場に倒れこんだ。
 背中を見送りながら、迦具楽は安堵していた。
 これで友人を巻き込むことなく、襲うことなく、自分のまま死ぬことが出来ると。
 迦具楽にとってもっとも恐れることは、自分を失うことで。
 たとえあの場を切り抜けられたとしても、何時自分を失うかという不安に耐えながら生きるくらいなら――今のまま死んでしまいたかったのだ。
 ただ、心残りは幾つもある。
 願わくば、出がらした一片くらいは残る事を祈り――。
 ――収束させた熱量は、あっけないほど簡単に、迦具楽を包み込む。

 そして、爆発は――起きなかった。

 一瞬、上空に向かって細い火柱が上がったが――それだけである。
 壁には多少焦げ付いたような痕。
 そして迦具楽が居た場所には、ただ、黒い液体だけが広がっていた】

ご案内:「路地裏」からサヤさんが去りました。
迦具楽 >  
 誰も見ていない路地裏で、黒い水溜りが跳ねる。
 呻くように、水音でなく重い金属音を鳴らしながら、跳ね回る。

 そして、そこに燃えるような瞳が浮かび上がった。

 ―― どうやら、まだ少し、はやかったみたいだ ――

 瞳は何もなかったように消えうせると、その跡をなぞる様に、黒い水溜りに皹が走る。
 皹が裂け――口が開く。
 新たな皹が生まれた。――黒と白の球。眼球が零れ落ちる。
 液体が捩れ、淀み、固まり――白い手足が産まれた。

 産まれた口は、吐き出すように眼球を生み出し。
 眼球は転がりながら、視線を転がし、破裂する。
 手と足は絡み合い、互いをへし折りながら、また液体に戻り――再びそれを繰り返す。

 その光景はあまりにも常軌を逸した、気分の悪くなるものだろう。
 先ほどの火柱を見て駆けつけるような者が居れば――たとえば去った少女らが戻ってくれば。
 その光景に嫌悪を抱いただろうか。

迦具楽 >  
     【――致命的消耗の確認】

        コネクト
        《接続》

     【――バックアップ......確認】

        リカバリー
         《復旧》

 

迦具楽 >  
 ――狂った水溜りに、琥珀の水晶が浮き上がる。

 その両端が僅かにひしゃげた、眼球を思わせる水晶から、黒い水が湧き出した。

 

迦具楽 >  
【狂った魔術師が居た。そして、その隣には黒い肌の男が居た】

《私は、化け物を作るつもりなどない》

『ははは、なら賭けようじゃないか。
 君と僕の、どちらの研究が成就するか』

《――いいだろう。
 だが私の研究は――この子はけして、貴様の思惑通りになどならない》

【そして、その小さな小屋は。
 その地下の研究室は、無数の光球に包まれ、燃え上がる。
 黒い男は姿をゆがめ、哄笑を上げ。
 その無数の光の中へと消えて行った】

迦具楽 >  

          ≪シンクロナイズ≫
             【調和】

【――残存エネルギーにより再構成開始

 ――肉体構成:維持...不可...最適化
 ――記憶構成:継承...不可...一部破棄...第一、第二段階をクリアー...解凍...最適化
 ――人格構成:維持...不可...記憶より生成...最適化
 ――能力構成:維持...不可...異常検知...異常部分を破棄............最適化完了】

 

迦具楽 >  
【黒い水溜りが形を変えた。
 それは徐々に人の形を造り、少女の姿となる。
 黒髪、赤瞳、白い手足、まだ幼さの残る体躯――それは崩壊する前の迦具楽と同一に見える】

「…………」

【一糸纏わぬ少女は、どこを見るでもなく、焦点の合わない瞳をさまよわせ。
 ゆらりと立ち上がると、ふらふらと歩き出す】

迦具楽 >  
【細い路を、揺らぐように歩いていく】

「――ワタシ、は、ナニ……?」

【赤い瞳は虚空を見つめたまま、問いかけは宙に消え。
 路地の影に吸い込まれるように、少女の姿は見えなくなった】

ご案内:「路地裏」から迦具楽さんが去りました。
ご案内:「路地裏」に東郷月新さんが現れました。
東郷月新 > 小柄な女性が一人、路地裏に倒れる。
東郷は深く息を吐く。
感応系の精神能力者。相性は最悪だった。

「やれやれ……」

先日からどうも人斬りとしての欲望が増している。
椿で発散したり美味いものを食べて温泉に入り行楽を楽しみいつも通り人を斬るだけでは足りていない。
おかげでこうして不得意な相手まで斬る破目になる。

「やはりあの妖刀ですかなぁ」

東郷月新 > まぁ、実害が無いならば別に良い。
いつもの人斬りが何人か増える程度だ。
あとは椿に激しくしたりなどで事足りる。

「ま、強いて治す必要もありますまい」

おかげで実力の方もすっかり元通りになってしまった。
自分が弱い、というのもなかなか出来ない経験だったのだが。

「ふむ……?」

と、そこで屋台を見つける。
ホットドッグ屋で「ザワークラウト大盛り無料」。
うむ、なかなかジャンクでよろしい。

「店主殿、酢キャベツ大盛りでひとつくだされ」

東郷月新 > ホットドッグを頬張りながら雑誌に目をやる。

『今夜あなただけに……学園駆逐艦のすべて、見せちゃうのです』

なんで駆逐艦の紹介にそんな扇情的なキャッチフレーズをつけるのかはよく分からないが、軍事特集のようだ。
懐かしい。あの死霊騎士がよく洋上艦やら武装列車やらと戦っていた。
まぁ派手で面白い戦いだったが、東郷の趣味ではなかった。
雑誌をぽいと放る。

東郷月新 > ホットドッグをもぐもぐと食べ終わる。
うん、酢がよくきいて美味い。
お土産……はいいか。
あんまり居つかせてもかわいそうだ。
今は夏期の休み中だが、宿題もあるだろう。

――手伝わされたらたまったものではない。

東郷月新 > 結局土産にはアイスクリームを買う事にした。
溶けたらどうするのかとも考えたが、まぁいいだろう。
そんな事を考えながら屋台を後にする。

ご案内:「路地裏」から東郷月新さんが去りました。
ご案内:「路地裏」に鬼道椿さんが現れました。
鬼道椿 > 夏の夜にしては妙に肌寒い日だった
路地裏を吹き抜ける風はからだから容赦なく体温を奪っていく

誰かドラム缶に火をくべてそのままにしたのだろうか
バチバチと火花が舞い熱を求めた鼠がドラム缶に張り付き死んでいた

唐突に…ドッ、と鈍い音が路地裏に響く
積み上げられたゴミが崩れたか…それにしては少々湿った音である
揺らめく炎越しにその鈍い音がした方を見れば何かがころころと転がっていた

ポールか?

それはころころと転がって…街灯の真下でぴたりと止まった

首である

切断面からはまだ血がぴちゃぴちゃとこぼれ出し
ほっこりとゆげが上がっていた

この街、この場所では珍しくない光景

だが…それは異常なまでに異常だった
生首には顔が無かった―否、何十、何百と切り刻まれて
顔がぐずぐずになっていたのだ…

闇の中からの人影が浮かび上がる
漆黒の世界を光でまるく切り取ったその場所に

首と――

      ――鮮血に汚れた一人の修羅が現れた

鬼道椿 > 少女の白い肌を彩る鮮血は黒くくすみ、霧のようにぶすぶすと崩れて消えていく
ただの血ではない、この世の恨み辛み、不平不満、憎悪と淫欲の塊

『穢れ』

ああ、この首の持ち主は人ではないのだ
人を喰らい刻み笑う悪鬼

少女は―否、その顔は娼婦のように妖艶で内に宿る熱があふれほんのりと赤く染まっていた

熱にうなされた仕草でゆっくりと首の前に座りそれを抱き上げた
赤子をあやすように、愛をこめて
じっくりと胸の中で溶かすように…生首の白い髪を手櫛で解く

本来この首の髪は黒であった
だがこの雌はそれが許せなかったのだ
首には白い髪が好い
『あの首』の様に綺麗な白い髪でないと…
この首は変わり、女にとっての張型

歪んだ愛欲を満たすための一時しのぎの代用品

うっとりとした顔で崩れゆく首を抱き夜空を見上げる

嗚呼―

「はァ… しい…  欲しい… アナタが欲しい…」

愛しの生首
けどそれは今は斬り落とせない
だから作ったのだ

何十、何百と顔を切り刻み、憎悪しか知らぬ妖魔に傷と恐怖を刻み
苦痛と絶望でその髪を白く美しく―清めた

鬼道椿 > どれだけあの男に抱かれ注がれようが、抱かれれば抱かれるほどに
あの逞しく彫像の様に鍛え上げられた体の熱を感じるほどに
満たせぬ渇きがいっそう強まっていく
だから何度でもその身体を求めてあの男に股を開くのだ

そしてどうしようもなくなるとこうして代わりの首を抱く

浮気と怒るだろうか?

そんな東郷の顔も見てみたい…

ぐずりと顔が崩れ、その中に指を深く沈みこませる
熱い肉の感触、それも早々に失われていってしまう
欲しい・・・欲しい・・・貴方が欲しい…

ある女に唇を奪われたとき、言われた言葉を思い出す
貴方は蹂躙されることを望んでいると…
だがそれは違う、微妙な違いだ
蹂躙されたいのではない《殺し/愛し》あいたいのだ
自分と同じような衝動に突き動かされた者に
だからこそ、そう言った女に唇を奪われたとき、戸惑いこそすれ
心が動くことはなかった
何故ならその女からは衝動を感じなかった
それでは鬼道椿の胸の内に渦巻くどす黒いヘドロに火をつけることは出来ない
東郷新月が能見さゆりに手を出さなかったのと同じよう
鬼道椿もまた愛憎を能見さゆりにぶつけることはないだろう

《愛/殺意》が、絶対的に足りないのだ

鬼道椿 > チリチリと首が崩れ消え胸の中に虚しさだけが残る

寂しい―

ひゅぅと冷たい風が胸にともる熱まで奪い去っていく
このままでは穴まで開いてしまいそうなほどに孤独を感じる
こんなことをいつまで続ければいいのだろうか?
何時まででもだろう

何故ならあの男の事が   だから

何時までも   ていたい

    ことなど考えられない

寂しい…
あの男はいつも肝心な時に居ないのだ
この我儘をぶつけたい…

「新月…会いたい…」

闇に浮かぶステージの上で小さくうずくまり、あの男の名を呼ぶ

ご案内:「路地裏」に東郷月新さんが現れました。
東郷月新 > アイスクリームを片手に安宿への帰り道を歩いていると――

血の臭い。
あまりにも嗅ぎなれた鉄錆のような臭い。
それに誘われるように路地裏に入ってみれば……

「――椿?」

鬼道椿 >  
 
 
 光 が 煌 め い た 


それは暴風に乱れる糸のように
視野に入ればその軌跡が目に焼き付くほどの
一瞬で消えるが、一瞬では消えることのない斬撃

獲物に襲い掛かる蛇のように
うねり、最短距離とはいいがたい歪な軌跡

それゆえにとらえることは出来ず
それゆえに相手に錯覚させる、それは永遠にこちらには届かないのではないかと
ふさぐにはあまりにも遠すぎるのではないかと

光にも似た速さのそれがその首筋に吸い込まれていった

東郷月新 > アイスクリームが地面に落ちる。
あぁ、折角買ったのに。
彼女の好きなフレーバーを探すのになかなか苦労した。
なお東郷は基本抹茶とバニラしか食べない。

二刀のうち一刀、すぐに抜けた脇差で彼女の斬撃を受け止める。
あと一瞬遅ければ首を半ばまで断ち切られていただろう。
刃風だけで首筋にうっすらと傷ができ、血が流れている。

「いきなりですなぁ」

東郷はのんびりと呟いた。

鬼道椿 > 刃がぶつかり火花が散る
何時か剣を交えた時よりもそれは重く鋭かった

瞬時に片手を放し脇差に手を伸ばす
鞘から抜き放たれたそれは抉るように切り東郷の臓物を吹き飛ばし壁にぶちまけた―
―と、思わせるほどの濃い殺気
以前のようにただぶちまけるだけではない。
剣を極めたものが相手の機を操るために用いると念のように
椿は鋭く殺気を飛ばしたのだ
感情のままに斬りつけていく以前の彼女ではない

その放たれた殺気とずらし本物の脇差が東郷を斬りんと襲い掛かる
肉薄した間合いでは脇差のようにリーチが短い刀に分がある
小手先の変幻自在の剣を東郷新月はさばくことが出来るのだろうか―!!

東郷月新 > また腕を上げている。
まったく、彼女はどこまで強くなるのか。
退魔の家たる鬼道の家の剣なのか、それとも――
いや、確実に。東郷の剣と同じ、殺人剣。

殺気が彼女の剣先を微妙に読めなくする。
変幻自在の剣、つきあっていては東郷に分がない。
あくまで――

「――!!」

二刀ほどは受ける事になるかと思ったが、なんと五刀。
五筋の傷痕から血が噴き出す。
だが、どれも致命傷ではない。
その間に東郷は太刀を抜き放ち。

気合と共に一閃、まるで地面を抉るかのように力任せにたたきつけた。