2016/06/06 のログ
ご案内:「路地裏」に水月エニィさんが現れました。
■水月エニィ >
路地の奥。
今日こそは買い直しにと思いガンショップに行こうとして、柄の悪い誰かに絡まれた。
フードの彼のような気味の悪さもない、ただのモヒカンヘアの集団だったけれど。
その後は、えーと。
「……とりあえず起きておきましょう。」
そこで記憶に蓋をして、身を起こす。
痛みはあるけど概ね健康。なんかにおうのは仕方ない。
ご案内:「路地裏」に鞍吹 朔さんが現れました。
■鞍吹 朔 > 「…………。」
かつ、かつ、と路地の入口から音がする。ローファーの踵が立てる硬い音。
こつ、こつ、とリズムを刻むように規則正しいその足音は、エニィの前で止まった。
「………これで何度目だったかしら。」
そこに立っているのは、朔。おそらくこれは三度目の邂逅となるだろうか。
二度あることは三度ある、とはよく言ったものだが。
「立てる?」
そう言う朔の目は、眼鏡の奥で黒く濁って……そう、濁っていた。
単純に色が、では無く、黒い殺意で濁りきっていた。
■水月エニィ >
「立ってる。11回位だったかしら。
時間にしてどれくらいかしらね、と……」
ゴミ箱から降りる際、小さな植木鉢が足に当たる。
誰かがこっそり育てていたのか、それとも捨てられた植木鉢に勝手に生えた雑草か。
緑色の草のような何かが生えていた。
「寧ろ貴方こそここで何してるのよ。
私みたいな不良少女ではあるまいに……」
大きく、平然と溜息をついてみせる。
■鞍吹 朔 > 「………。」
拳をきつく握りしめる。何か思うところがあるのだろうか?
それとも、単純な怒りだろうか。
「……。私は不良よ。どうしようもないくらいに。
…一つ聞いてもいいかしら。」
そう言って、少し息を整える。殺気を抑える。
誰に向けた殺気なのか。目の前の少女か、『さっきの墨袋』か。
その殺気を放り捨てようとするように、植木鉢を見つめた。
「『貴女はなんでそんなに負け続けていられるの』?
どうして何度もここに来るの?貴女は負けるのが…死ぬのが怖くないのかしら。」
■水月エニィ > ……険しい顔をして、小首を傾げる。
「どうしてって言われても……
何度も言っている以上の事を言うならば、癖とか習性と言う他ないけれど。」
心底困ったように小首を傾げる。
とぼけているは、彼女の言う事はもっともな事は自覚している。
■鞍吹 朔 > 「死にたくなったりしないの?理不尽を感じたりしないの?
この先の人生、負けが確定しているのにどうして生きようと思えるの?
どうしても私には理解できないわ。どうして貴女は逆境に立ち向かえるの?」
普段の朔からは考えられないほど、口から疑問が溢れてくる。
強いのだ、彼女は。
負けるのが当然とまで言える異能を持ちながら、負け続けながら前に進んでいる。
朔はこれを『強い』と評価したが、それ以上に不気味なものを感じていた。
「……なんで貴女は、前に進もうと思えるの?」
■水月エニィ > 「それで死んでいたら生きていられないでしょうに。
生き死にの話をされたら、生きていたいからになっちゃうわよ。全く……」
小さく首を振る。
自分が死にたい、と思った事は一度もない。
……全く分からない、とは言わないが、自分はそうなれそうにない。
「随分と取り乱しているけれど、大丈夫……ではないわよね。」
どうしたものか、と、腕を組んで考えた。
■鞍吹 朔 > 「………。……そうね、そうだわ。ごめんなさい。
……ごめんなさい。」
呟くように謝る。
エニィに対してではなく、どこか別の何かに謝っているようにも見える。
「……私は弱いから。弱いから、こんなことで取り乱すのよ。
貴女みたいに強くはなれないもの。」
きり、と歯が軋む音が聞こえる。
少し俯いたように顔を伏せた。
■水月エニィ > 「私が強いなんて思ってくれるのは有難いけど。
……はぁ、もう。」
しかめっ面を見せて困惑すれば、
大きく大きく息を吐く。
「そもそも強い弱いって何よって話になるわね。
私が何故強いのかは置いておいて、そんなに卑下することもないじゃない。」
自分の事を棚に上げる。
理由を問いながらも困惑と心配を混ぜた様な瞳を向けてみせた。
■鞍吹 朔 > 「………。私は、ただの道具なら良かった。
生まれながらのギロチンなら良かった。悪を殺して気にも留めない、ただの処刑器具なら良かった。
………。私は弱いから。
弱いから、悪を敵にすることでしか自分の足元を見つめられないんだもの。」
どうして自分はこんな事を言っているのだろう。
悪を滅ぼし、悪を滅ぼす者達に滅ぼされる。それでいいと納得していたはずなのに。
今更、自分は何を言っているのだろう。
「結局私は何にもなれない。
……貴女のようには…なれない。」
■水月エニィ > ……どうしたものかと、思い悩む。
心因や断片的な要素からあれやこれやは推察は出来るが、
決定的なものは掴めていない。
(どうしようかしら。これは、私ではなんとも言えないわね……)
信条に基づいて行動しているのは違いないと睨んでいる。
切欠はどうあれ、その信条と普遍的な道徳ならびに現実のギャップに思い悩んでいる風には見て取れる。
安易に折り曲げてしまって良いものでもないと、認識している。
■鞍吹 朔 > 「…………。こんな話、今することではなかったわね。
ここから離れましょう。『無いと思うけど』、貴女を襲った相手が戻ってきたら事だし。」
すっ、と声色が元の調子に戻る。
いや、戻りきっていない。少し声が震えているが、それを無理やり押し殺している。
「ごめんなさい、変な事言って。困らせるつもりはなかったのだけど。
少し気になったから聞こうと思っただけなのよ。」
■水月エニィ >
(寧ろ戻ってきた方が、彼女の薬にはなるのでしょうけれど――)
見る限り、これまではやってきているのだ。
正でも負でも自信が付けば、今の行動に不安を覚える事はなくなるように思えた。
信念とか諦念とか、その辺りの観念だ。
「はいはい。そうしましょ。
私は一旦シャワー浴びに戻るけど、そのあとは何か食べに行きましょ。
ああそうね、鰻でも食べに行く?」
■鞍吹 朔 > 「…………。」
その手には、気付くか気付かないか程度に、爪の隙間に血があった。
朔のものではない。……「誰か」のものだろう。
それがこの精神状態にどのような影響を与えているのかは、正確には分からない。
「………。そうね、行きましょうか。
私は鰻より蕎麦が食べたいけど。」
蕎麦ジャンキーなのは変わらなかった。
■水月エニィ >
(……でも、どうしましょうかね。
信条的にあまり人殺しはさせたくないのが本音だけど……)
動機はどうあれ、彼女からは強い怨みを覚えた。
状況と言動を鑑みるに夜な夜な悪人と判定したものを殺して回っているのだろうと推測する。
特に彼女の爪に付着する、紅い"それ"は決定打足りえる材料だ。
殺してどうしたいのか、
その先までは見えない。
見えないから。
「……行こうと思ったけどその前に一つ。
どうしてそんなに人間を殺して回っているの。」
打ち立てた推察だけで、踏み込む。
■鞍吹 朔 > 「……………。」
ピタリと、足を止めた。
ざわりと辺りに殺気が漏れ出す。濃い、とても濃い、べったりと貼りつくような。
しかし、怒りではない。どちらかと言うと、妙に悲しそうな。
「………。私が殺してるのは人間じゃないわ。 人間ですら無い。
骨で骨組みされた肉と皮の中に墨が流れる、ただの『墨袋』。
悪を為す墨袋を処分して……いずれは私も処分される。
私という存在が、そういう終焉を迎えるため。そのために殺してる。」
くるりと振り返る。
「私だって、ただの墨袋だもの。」
■水月エニィ >
それが彼女の認識と信条であることは納得できる
そう崩せないし、崩してはいけないものだとも理解できる。
……分かっては、いたが。
・・・・・・・・・
「いいえ確かに人間よ。……ここだけははっきり言っておくわ。
だからと言って貴方の価値観を変える訳ではないけれど――
――その墨袋を人間と見る私からすれば、私はそれを認めた上で承諾しないわ。」
確かに朔を見据えて、断言する。
・・・・・・・・・・・
「貴方の悪への殺意は認めるけれど承諾しない。」
エゴは混じれど、呪うようなものはない。
それでいて、強く、鋭く、別つように断言する。
「承諾しないから、対立するわ。」
■鞍吹 朔 > 「……そう思う? ありがとう。そう思ってくれるなら、私は嬉しい。
でも、もう無理。……言ってなかったかしら、この目。もうこの目は、色を見ることが出来ないの。
……父親に虐待されて、殺されそうになって、逆に父親を殺した。
その父親の血が、真っ黒だったのよ。まるで墨が流れ出るようだった。
私の世界からは、もう血がないのよ。」
そう言って眼帯と眼鏡を外す。
右目は白く濁り、その周りには大小無数の傷跡。
「……人って、単純なものよね。目で見たものにすぐ影響されるんだから。
対立したって、私に何ができるかしら。私は弱いの。
『人間』を殺せないから、『墨袋』を殺すしか出来ないのよ。
そう思わないと、私はどうにかなってしまいそうなんだもの。」
■水月エニィ >
「それは――辛かったわね。 でも、それはそれ。これはこれ。
そんなことはどうだっていいとか、重要じゃないとか、そう言うつもりはないけれど。
色が戻ったからって、貴方の罪悪感や殺意が消える訳ではないでしょう。
無かったことになっても、なかったことには出来ないでしょう。」
傷を見れば、目を伏せる。重く昏い言葉を吐き出した後、
深呼吸一つで意識を整え直す。
「言い直すわ。此処より先、貴方にとって私は敵になる。
貴方の価値観を認める敵がいると知りなさい。
――芝居がかった言葉でいうならこうね。汝を敵と認めよう。」
冗句めかしている。冗句めかしているが、語気は真剣そのものだ。
……そこまで言い切れば踵を返し、顔を背ける。
「と言っても、精々貴方のアクションに割って入る位よ。
……ああ、また落第街をうろつく理由が出来てしまったわ。」
■鞍吹 朔 > 「ええ。なかった事にするつもりもないし、そう出来るとも思ってないわ。
一生咎を背負って、最後には潰れて土に還る。それで終わり。
……『モグラは太陽に向けて土を掘るが、太陽を見ると目が潰れる』。
ええ、貴方が太陽で私がモグラね。
貴方という存在を知らなければ、私は弱い自分を盲信し続けていられたのに。」
その目を、見つめ返す。淀んだ目には、暗い感情が渦巻いている。
ドス黒く、汚らわしい瞳だ。
「ええ、敵が出来るのは慣れっこ。少し悲しいけれど。
……私は、私の行動を改めるつもりはないわ。今更別の生き方なんて知らないもの。
だから、貴方が私を止めたいなら……私を敵として捻じ伏せて従わせるしか無いわね。」
その背を見つめる。
見つめながら眼帯を付け直し、眼鏡をかける。
眼鏡のレンズの向こう側に、『汚らわしく色付けされた世界』が見えた。
「私としては、貴方にうろついてほしくはないのだけど。
貴方がそう言うなら仕方ないんじゃないかしら、『エニィ』。」
■水月エニィ >
「ソレ、誰かの格言だったかしら。
……でもソレって嘘らしいわね。嘘だからダメと言うつもりは無いけれど。」
見つめ返す頃には背けている。
見るまでもなく分かるとでも言わんばかりに歩き去りながらも否定を返す。
「その辺は好きにしなさい。
それは私が選択させるものでなくて貴方が選択できる事。
まあ、いいわ。……おやすみなさい、『朔』。」
言い終えれば歩き去る。
エニィの姿は闇夜に紛れ、直ぐに消える―――
ご案内:「路地裏」から水月エニィさんが去りました。
■鞍吹 朔 > 「ええ、ウソよ。
……嘘だけど、私にとってはウソじゃない。」
そう言うと、路地裏の奥へと去っていく。
かつん、かつん、とローファーの踵を打ち鳴らしながら。
「聞いてくれてありがとう、エニィ。
私は貴方が羨ましくて、眩しくて、目が焼け潰れそうな思いだけど。
それでも、私は貴方を尊敬してるわ。
……おやすみなさい。」
その背は闇に溶け、揺れるように消え去った。
彼女がこの夜、何袋を「処分」したのかは、誰も知らない。
ご案内:「路地裏」から鞍吹 朔さんが去りました。