2016/06/11 のログ
ご案内:「路地裏」に鞍吹 朔さんが現れました。
■鞍吹 朔 > 彼女は赤の中に立っていた。
赤よりさらに紅い赤の中で、それに染まった路地の中から、空に浮かんだ雲を見ていた。
辺りには、人間……否、彼女に言わせれば『墨袋』『だったもの』が、無造作に転がっていた。
恐怖に目を見開いたままで、そこに転がっていた。
「……ああ。」
彼女は、『彼女』を思い出していた。
弱く、負け続きで、可憐で、美しく、強い。そして、その『彼女』の紡いだ言葉を。
自分の心を、見つめてくれた彼女を。
■鞍吹 朔 > 彼女は、三秒から始まった。
彼女の最初の三秒は、生まれて初めて死を感じたあの時。
父親に首を絞められ、咄嗟に近くに転がっていたナイフを手に取り、腹に突き刺したあの時。
『三秒の悲劇(スリーカウント・トラジェディ)』。
朔は、かつて父が見た『三秒』を、そう呼んだ。
かつて父を殺し、今足元に転がっている『モノ』を、『者』から『物』に変えた異能を。
『三秒間、対象1人のあらゆる感覚から外れる』。ただそれだけのチンケな異能。
これを初めて、無意識に使った時の父の顔を覚えている。
化物を見るような顔だった。
■鞍吹 朔 > 彼女の時間は、三秒で止まっている。
■鞍吹 朔 > あの時に、私は怪物になったのだろう。
人にもなれず、畜生にもなりきれない『墨袋』に堕ちたのだ。
だが、彼女は私を人間だと言った。
人間とは、なんだろうか。
人間とは、墨袋とは違う。もっと違う……
私とは違う
「もっと、美しいものなのに。」
■鞍吹 朔 > 今更、人には戻れない。
今更、獣にはなれない。
だからこそ、『人狼』としての道を歩んだのだ。
美しい人間を守るために、『墨袋』を処分し、最後に自分も処分される。
そんな生き方を夢に見た。
人でなしは人でなしなりに、人を幸せにしたかった。
私を産んで死んだ母を。私を殺そうとして殺された父を。
その二人に恥じないように、誰かを幸せに出来る生き方を。
『私以外』が幸せになれる在り方を、やり方を、生き方を、殺し方を、歩き方を。
それを、人間などと呼ばれては……自分が今までやってきたことに目を向けてしまう。
歩みを止めてしまう。
私が人間になっては、美しい人間の在り方を汚してしまうのだ。
人間になる資格など無い。彼女は、そう思っていた。
■鞍吹 朔 > 「………。」
からん、とスローイングナイフを路地裏に投げ捨てる。
商品の刻印は削った、指紋も付けていない。それ以外にも、痕跡となり得る箇所は排除した。
ここから身元が判明することはまず無いだろう。
そうして、彼女は路地を出た。
人狼は、また人間に化けて、日の当たる街道を歩き始める。
その心に、どうにも拭い去れない闇を一粒抱えながら。
ご案内:「路地裏」から鞍吹 朔さんが去りました。
ご案内:「路地裏」にヨキさんが現れました。
■ヨキ > 「………………、」
ぎし、と重い足音。
既に生きた人気のない、血の池を見下ろす影がある。
「……仲間割れ?……違うな」
細めた金色の瞳が揺れて、残像を残す。
闇雲に暴力が吹き荒れた訳ではない、およそ正確なやり口。
人が立ち入ったのではなく、まるで怪異がその場に忽然と現れて、命を奪ったかのような――
「なるほど。……先を越されたか」
“正義の味方”が、他にも居るということ――小さく笑う。
鋭い眼差しが緩んで、不意に伸びをする。
「随分と有能な者が居るらしい。この島も安泰だな」
■ヨキ > 黒い手袋に包まれた手が、地面のナイフを拾い上げる。
表裏と見定めて、表情もなくふうん、と呟く。
寸分違わず元の場所へ放り捨てて、無音の足が後退った。
こん、と壁を蹴る。
ヨキの姿が空気に霧散して、黒い靄が壁を這い登った瞬間がある。
ひととき獣の臭いが漂ったかと思うと、ヨキの姿は立ち並ぶ家々の屋根の上にあった。
「腹が減ったな」
食べるつもりで出向いて、食べ損ねた。
■ヨキ > 一日に二件以上の殺しはしない。何らかの行き違いで標的が失われても、予定の変更はしない。
自分自身に定めた厳密なルールに則って、その場を離れる。
そうして散歩のように気楽な足取りで、路地裏の空を歩いてゆく。
重い靴が踏んでも音の立たない、頑健な造りの建物を選ぶだけの土地勘。
人の通らぬタイミングを測って、屋根から屋根へ。落第街から歓楽区へ繋がるルートだ。
歩調とは裏腹に、街を見下ろす背に獣の警戒を纏う。
ご案内:「路地裏」にリビドーさんが現れました。
■リビドー >
「……"仕上げ"も終わったから休憩がてらに蕎麦屋を探しに来たんだが。
どうにも蕎麦にありつけん――蕎麦屋狩りでも居るのか?」
屋根の下にて。
表も裏かもわからないような路を歩くのは若き風貌の教師。
何かの気配を察すれば、冗談のように呟いた。
「しかし、これは上か。上に何かいるのか。何かいるな。」
気を取り直して冗句を取っ払ってしまえば、
そのまま見上げて眺めてみせた。
■ヨキ > 屋根の上で、静かに足を止める。
呟かれた声に、口角がぴくりと引き攣った。
身体の動きを止め、顔だけでリビドーが立つ辺りへ目をやる。
互いに姿は見えぬ位置。
「――何か不届き者の気配でもあったかね、リビドー?」
刹那。
地上に立つリビドーの背後にぬっと現れたヨキが、何食わぬ顔で声を掛ける。
そもそも、ヨキが発する気配は他ならぬ邪気だ。
大きな邪気の塊が丸ごと場所を移したのだから、察せられる者にとっては何の攪乱にもなりはしない。
ヨキとて承知の上らしい。リビドーの顔を見て、にっこりと笑う。
■リビドー >
屋根の上に在ったであろう、埃塵と邪気を散らす強い邪気。
それは確かに刹那で移り、リビドーの背後を取ってみせた。
一瞬だけ意識を揺らした後、首を回して振り向いてみせた。
「ああ。強いリビドーを感じたよ。後はやけに飛び散ってる埃と汚れ位か。
しかし、キミだったか。ヨキ。
最近のここはどうにもごたついているように思えるが、元気だったかい。」
笑みを向けられれば、表情を緩めて笑ってみせる。
■ヨキ > 「好いことだ。人の暮らす街には、エネルギーが溢れていなくては」
笑いながら、両手を広げておどける。
「ああ、年度変わりの忙しさがちょうど落ち着いたところでな。
今年も金属工芸クラスに人が入ってくれて、何とか潰れずに済んでる。
それにしたって……」
周囲を見渡してから、リビドーを見る。
「君が斯様な通りに現れるクチだとは知らなかったな。
ヨキはご覧のとおり、どこにでも姿を現すが」
緩く手を動かすと、腕に着けた銀のバングルやブレスレットが軽い音を立てる。
首にも二重三重とネックレスが掛かっていて、身体に沿った服の選びもいかにも年相応――というか、チャラい。
むしろヨキの方こそ随分と、普段の堅苦しく縛り付けた身なりからは程遠い姿をしている。
服に着られているような不自然さはなく、普段からそうした格好を好んでいることが察せられるだろう。
「もしやこの辺りが住まいであるとか?」
■リビドー >
「同感だ。エネルギーが満ち溢れているぐらいが丁度良い。
ボクもまぁ、そんなとこだ。交流会も上手く行ってくれれば好いんだが――」
おどけた調子に合わせるような弾む声。
疑問を呈されれば、不思議そうに答えてみせる。
「……ん? ボクも大体の場所には顔を見せるぜ。キミと同じだ。
そもそも、教師が歓楽街を歩いていても何ら可笑しくないだろう?」
学園側の見解としては歓楽街の一部だ。
そう思われていないことを承知の上で、わざとらしく言ってのけてみせた。
「しかし、今日は随分とラフな格好じゃないか。
どこにでも現れるってのも嘘じゃなさそうだが、オフの日かい。」
■ヨキ > 「大きな活力があまり無軌道でも困ってしまうがな。何しろ平和がいちばんだとも。
交流会の案内も見たぞ、楽しそうなことをしておるではないか。
ヨキは身体が空くか判らんが……用の途中に通り掛かることもあろう。
なあに、賑やかが好きな我らが学園のことだ。きっと盛り上がるよ」
リビドーの答えに、ふっと目を細める。
「ヨキと同じ、か。よくよく理解した。
このヨキと話が合う『品行方正な』教師のことだものな。
何しろこの島のことは、手広く知っておかなくては」
相対するリビドーに比べて、今のヨキに「品行方正」の語が相応しいかは怪しい。
仄かに漂う香水が、異性との奔放な交遊をも思わせた。
「ああ、休日や家ではこんな格好ばかりをしているよ。
街ごとに見合った格好で歩くのが、ヨキの信条でな」
見るだに金の掛かった衣服を見下ろす。
「このなりで、バーにもゲームセンターにも行く。
美味い店を探すのが、お決まりの楽しみでな」
■リビドー >
「ボクとしては無軌道でも好かったりする。
行き過ぎれば処置をするが、軌道を気にして縮まるよりはそうしてくれる方がまだ良い。
それらに手を突っ込んで整えるのもまた、『品行方正な』教師だ。」
ヨキの言葉と振る舞いに頷いて同意する。
鼻をひく付かせるし、装飾品へも目を遣っている。
臭いと装いを察した上で、細められた瞳を見据えて言い切った。
「無理強いはせんよ。だが、そうだな。
キミの身体が空かずとも、キミの耳に届く程度に盛り上がってくれるようには努めよう。」
それぐらいは望まないとな。
浮かべた勝気な笑みからは、そのような意識が伺えるかもしれない。
「良い信条じゃないか。
大抵どこでも同じような服装でうろつくボクよりもずっと礼儀正しい。
ボクの場合、どうしても我が強すぎてね。」
■ヨキ > 「当然、ヨキとて軌道修正は望むところさ。
だがヨキは平等を是としているから……ひとり手を付ければ、またひとり。
叱る相手が際限なく増えられても、教師の身体が足りぬというものだ。
君のやり方は、ヨキにとっても好感の持てるものだ」
このヨキという男は、人の強気な表情を好むものらしい。
リビドーに向けて、満足げな笑みを返す。
「ああ、期待しているよ。
ヨキものちのち、催しを開く参考にさせてもらうさ」
どこでも同じような服装、と語るリビドーから一歩離れて、その様相を眺める。
「場違いな服装を気にせんのは野暮だが、同じ服装でどんな風景にも溶け込むくらいの方が、力強くていいものさ。
新しい服や、欲しかった小物や。
身に着けるものが変わると、何かと気分も明るくなるものだ。
君はそういう風に、ファッションで気分を盛り上げたりすることはないかね?」
■リビドー >
「有難い言葉だな。とは言えキミのような者が居るから"こう"出来るとも云う。
その中にはどこに着地するかが楽しみな奴もいるが、そこも踏まえてそうしている。
取りこぼしや隙が拾われると予想出来なければ、この手のやり口は出来ん。」
ある種の確信と信頼を言葉に乗せる。
好意に敬意を示すように、告げて返す。
「気まぐれにもするし、与えられる事は拒まないが、自分からはあまりしないな。
ボクの欲とはどうにも離れているから、気が向かん。
コーディネートしてくれるのは大歓迎だが、自分からはしない。欲しがり屋さんだからな。ボクは。」
首を振って否定した後、
身に着ける事そのものが嫌いな訳ではないとの意を補足する。
微かな振動音。……スラックスのポケットからスマートフォンを取り出して、一瞬眺めてから戻す。
「すまないが、そろそろ行かねばならん。
蕎麦は食えなかったがそれ以上の収穫だったよ。
また会おう。ヨキ。」
ご案内:「路地裏」からリビドーさんが去りました。
■ヨキ > 「教え子も、同僚のことも信頼せねば出来ぬ方法だな。
そういう点で、我々は気が合うらしい。
酸いも甘いも、それなりに味わい分けた者ではなくてな」
リビドーを見る目を細める。
頭上にもわもわとした吹き出しが浮かんで見えるかのようだ。
「ほう……なるほど、なるほどな。
君は小柄だが体格がしっかりしておるから、ヨキよりずっと似合う服もあろう。
学園には着せ甲斐のある、よい顔をした面子が揃っているものでな」
悪戯めかして笑う。
「蕎麦?ああ、蕎麦屋を探して居ったか。
ここからは少し離れるが――歓楽区から研究区へ繋がる辺り。悪くない店があるぞ」
店名を告げて、子どものように大きく手を振った。
「このヨキは、万年刈りどきぞ。またこうして話そうではないか、同志よ?
ふふ……ではな。いつでも応援しているよ」
踵を返して、気侭な足取りが遠ざかる。
ご案内:「路地裏」からヨキさんが去りました。