2017/12/03 のログ
ご案内:「路地裏」に神代理央さんが現れました。
神代理央 > 迷宮の様に入り組んだ裏路地の一角…というよりも、裏路地だった場所。
今は、無数の銃痕と崩れ落ちた瓦礫の山が我が物顔で居座り、瓦礫に寄り添う様に無数の死体が転がっている廃墟の通路。

月光に照らされて鈍く輝く金属の異形を背に、少年は無感動に通信端末に語りかける。

「……ああ。此方は終了した。情報よりも幾分数が少ない。証拠品の回収は可能だろうが、別働隊の方に護衛が向かっている可能性が高い。一応、注意しておいてくれ」

了解の意思を伝える声を聞いた後、端末を切って視線を路地に向ける。
年齢も性別もまちまちな死体の数々。碌な戦闘経験も無いような女子供にまで銃を持たせて刺客に仕立て上げるのは流石に気が滅入る。別段罪の意識に苛まれる訳では無いが、気分が良い訳でも無い。

「…まあ、苦しまずに死なせてやったんだ。恨むのは構わないが、その点は感謝して欲しいものだな」

最早返事も返さぬ死体相手に呟けば、冬の冷風に靡く己の金髪を乱雑にかき上げた。

ご案内:「路地裏」に楊柳一見さんが現れました。
楊柳一見 > 縹渺と、風が一声哭いた後。

「やー、人の恨みなんて買わん方がいいと思うけどね。特に死人はタチ悪いし」

灯りの爆ぜた電灯の上に、鴉よろしく腰を下ろした影ひとつ。
ゆるぅい声音でそちらに呼び掛けた。

「いつかぶりー。相変わらず派手好みね、理央ちゃん?」

手ェ振りつつ、見覚えあるような如才ない笑顔。
ご丁寧にちゃん付けである。いや、丁寧なんて表現はそぐわんのだけれど。

神代理央 > 投げかけられた声に、主よりも先に反応を示すのは金属の異形達。
軋むような不快な金属音と共に、声の主に銃口を向けるが―

「…別に好き好んで派手な戦い方をしている訳じゃない。静かに済ませることが出来るなら、俺だってそうしたいと思ってるがな」

ちゃん付けされた事には幾分表情を顰めつつ。
異形達に銃口を下ろさせながら、小さな溜息と共に彼女を見上げた。

「……またお前の惰眠の邪魔でもしてしまったかと思ったが、そういう訳でも無さそうだな。散歩でもしていたか?」

かっちりと着込んだ制服についた埃を払いつつ、僅かに首を傾げる。

楊柳一見 > 「おおぅ、こっちも相変わらず感度良好」

銃口群のシャープなお出迎えにホールドアップ。それも銃口が下げられるまでの間だけだが。

「まあここまでゴツい武器に消音とか期待出来んわな…って、
この寒空の下で寝る訳ないっしょ。冬ごもりする動物じゃあるまいし」

ぺい、と中空にエアツッコミくれて、電灯から軽やかに飛び降りる。
瓦礫と死体の合間へ着地。辺りの惨憺たる有様は、さして気にした風もなく。

「そそ、夜の散歩。何だかんだ寝る前の日課になりつつあるんだけどねコレ――あれ?」

今度はこちらが首を傾げる。視線の先には、その存在と威信とを誇示するような意匠の腕章。

「あー……理央さん? つかぬ事をお聞きしますけど……」

さん付けと来た。

「何かこう、どっかの委員会に所属してらっしゃる?」

初めて会った時はなかったよなあそれ、と。
内心と背とに若干の汗を隠しつつ。

神代理央 > 「いや、お前なら案外何処でも寝られるんじゃないかと思ってな。野良猫とか、結構その辺で寝ていたりするだろう?」

等と軽口を叩きつつ、飛び降りた彼女を追いかけて視線は上から下へ。

「別に人の感性をどうこう言うつもりは無いが、正直散歩のコースを選ぶには不適格な場所じゃない……どうした?」

首を傾げた彼女に、此方も釣られる様に再度首を傾げる。
だが、次いで投げかけられた言葉――しかもさん付けである――には、怪訝そうな表情を浮かべて。

「…ああ、入学して暫くしてから風紀委員に所属する事になってな。そう言えば、お前と会った時はまだ委員会には入っていなかったしな」

一体それがどうしたんだと言わんばかりの口調で答えを返す。
しかし、彼女の態度と質問の内容を咀嚼し終えた時、僅かに瞳を細めて―

「…どうしてそんな事を聞く?俺が風紀委員だと何か拙い事でもあったか?それとも、そもそも風紀委員とは会いたくない事情でもあったか?」

幾分意地の悪い笑みを浮かべながら、言葉を投げかけた。

楊柳一見 > 「アタシは野良猫と同列かいッ!」

軽口にフシャーと吼え返す。
……もっともその威勢も、風紀委員の四文字の前にすぐに消沈したが。

「え、えぇー? ヤだなあ。マズい事情なんて全ッ然これっぽっちもありゃせんとですよ?」

目が泳いでる上に変な方言も混じってる辺り、まるで誤魔化せていないんだが。
そもそも一般――少なくとも身分上は――生徒がこんな時間にこんな場所にいる時点で、
充分補導対象になる訳で。

「アッ、帰ってテスト勉強しなくちゃあ。理央さんもお仕事ガンバってネ!」

いっそ清々しいくらい別人然とした佇まいで、シュタッと片手を上げて回れ右した先は。

「…………」

行き止まりでしたよコンチクショウ。

神代理央 > 「何だ、不満か?野良犬でも鼠でも何でも良かったんだが」

彼女の様子が目まぐるしく変化するのをしげしげと眺めつつ、悪びれた様子も無く言葉を返し―

「……何というか。此処まで露骨だと逆に不審な事情が無いんじゃないかと思うぞ。それが演技なら大したものだ」

呆れた様な溜息を吐き出しつつ、先ずは学生証の確認からしておくかと一歩足を踏み出す。
だが、彼女が分かりやすすぎる言い訳と共に踵を返せば僅かに歩調を早めて―

「…ほう?テスト勉強か。殊勝な心がけだな。ところで、そもそも不良生徒がテストを受けられるかどうかが俺は心配なところなんだが、お前はどう思う?」

クスクスと楽しげな笑みと共に、彼女の背後まで近づいて言葉を投げかける。

楊柳一見 > 「好き勝手言いやがってコノヤロウ…」

うぎぎと歯噛みしながら、地を這うような低音で唸る。

「……しっつれいな。授業だってちゃんと出てるしー」

ちゃんと授業内容も聞いている、とは言ってない。
ノートなんて落書きだらけだ。哲学上のカオスのモデルになら使えるかもってレベルで。

「ねー、勘弁してよー。この前バックレる時に助けたげたじゃん。それでおあいこって事にしてさー」

しらばっくれるのは諦めたのか、今度は前の事を持ち出してねだり始める。
…あれぐらいは彼の独力でも突破出来たろうが、それは置いておこう。

神代理央 > 「…一応出席はしているのか。その点は褒めてやらなくもないぞ。てっきり、散歩だの昼寝だので欠席ばかりかと思っていたからな」

彼女が授業に出ている、という言葉には若干本気で驚いた様に目を丸くする。
授業内容の理解は兎も角として、授業に参加する意思がきちんとあるのは良い事だと些か見直した様に頷くだろう。
尤も、だからといって此の場を見逃す訳では無いのだが―

「ふむ。確かにお前に受けた借りを返す事については吝かではない。だが、風紀委員に対して忖度を求めるというのは、如何なものかと思うがな?…取り敢えず、学生証から見せて貰おうか」

特段、彼女を補導しなければならない理由は無い。無論、風紀委員としては仕事を果たすべきではあるが、荒事専門になりつつある自分が今更不良生徒を補導したところで―というのもある。
だが、弱味を見せた相手を見逃す等という詰まらない事をする筈もなく。ニコニコと楽しげに笑みを浮かべながら、学生証を求めて右手を差し出した。

楊柳一見 > 「わーい褒められてウレシイナ……」

野郎マジどうしてくれよう。
引き攣った笑顔の裏の声を読み取れたなら、きっとそう聞こえるに違いない。

「いやほら、風紀委員たってそれ以前に人間じゃん?
 で、危機を共に切り抜けた同胞には、義理ってモンが生じるでしょ?
 仕事よりも大切なものが世の中にはあると思うんですよおねえさんは」

一丁前に理屈をこねくり回しているが、今までの言動からして似合わないにも程がある。

「…あ、学生証ね。ハイ」

求められるままそそくさとポケットから出したそれは、
全然目も通してないんじゃないかってぐらい綺麗なもんですよ、ええ。

「――どうよ!」

何がどうだってんだよ。

神代理央 > 「おや、何だか元気が無いじゃないか。それとも、風紀委員からの評価は喜ぶに値しないとでも?」

彼女の内心を知ってか知らずか…というよりも分かった上で、殊更風紀委員を強調しながら小首を傾げる。

「そうだな。お前の言うとおりだ。義理や人情というものは大事だし、尊重すべき事だ。
因みに、俺の好きな言葉は《誠意は言葉では無く金》だ。ついでに言うと、俺は金持ちだから別に金はいらん」

うんうんと散々彼女の言葉に同意する言葉をつらつら並べた後、ばっさりと切り捨てた。

「……意外と素直に差し出したな。うむ、素直な事は良い事だ」

懐から端末を取り出せば、差し出された学生証を流れるような動作でスキャン。

「後は適当に顛末を書いて送信すれば、お前の評価は目出度くマイナスだ。ご苦労様、散歩の続きに行って良いぞ?」

ヒラヒラと端末を振り翳しながら、この上なく楽しげな笑みを彼女に向けた。

楊柳一見 > 「でしょでしょ? いるからねー時々、風紀がナンボのモンじゃいってな具合に突っ掛かるヤツ。
 そこへ来てアタシの模範的行動は、こりゃもう少し色を付けてもらっても――」

減らず口に生返事代わりの電子音が返り、きょとんとした表情となって。

「え、ちょっ――」

端末ふりふりしながら下される宣告に、しばし時が凍った。
反射的に差し出しかけた手が、やがてワナワナと鉤を作り――

「よくもだましたアアアア!!
 だましてくれたなアアアアア!!」

ビタミンとかカロテンとか豊富そうな宇宙人よろしく、怒号と共に周囲の瓦礫と土煙がドワォと爆ぜ散った。
すげえ気だ。もとい風圧だ。
何気に通常の能力行使レベルをちょっぴり超えてたりするんだがどうなってんだ。

「風紀がナンボのモンじゃいゴルァアアア!!」

お前数十秒前の自分の言葉を思い出してみろ。

神代理央 > 「…っと。全く、さっき制服はたいたばかりだってのに」

流石に此処まで愉快――もとい、過激な反応をされるとは思ってもいなかった。
巻き上がる砂埃をうっとおしそうに手で払いつつ―

「まあ落ち着け。まだ送信してないからお前の評価は下がっていない。お前はまだ出席率だけは高い模範的な生徒だ。安心しろ」

啖呵の切り方は立派なものだなあ、と彼女を眺めつつ、穏やかな口調で声をかける。

「まあ、そうやってお前に暴れられると手が滑って送信してしまうかもしれないが」

上げてから落とすスタイルは、勿論忘れないが。

楊柳一見 > 「あ゛ァ…!?」

まだ送信してない、との言葉に、僅かに目に理性の光が戻る。
もっともすんごいメンチ切ってるんだが。
おまけに、送信を質に取られたのでは、理性の勝る今となっては手出しが出来ない。

「アンタさぁ……ホンッッットいい性格してるよねぇ…!」

胃袋に流し込まれた流動食が、苦虫のすり身でしたとか。そんな表情。
ともあれ、引換えに風圧は収まり、再び夜の静かな空気が戻る。

「……で、この流れはアレか。
 告げ口せん代わりにどうこうと無理難題を吹っ掛けるワケ?」

ぶすくれた表情でそこまで言ってふと、胸元庇うようにして後ずさり。

「……アタシ、全然出るとこ出てないよ?」

何を想像したのかお前は。

神代理央 > 「性格面については良く褒められるよ。品行方正、素直で従順。他人の嫌がる事を進んでやる模範的な生徒だと、教師の受けは良い物でな」

実際、今回も彼女の嫌がる事を進んで行っているわけだし。
日本語とは難しいものだなとしみじみ思う。

「…いや?お前をからかうのが楽しいかっただけだ。別にそれ以上の理由は…」

と、そこまで言いかけて彼女の言葉と仕草に怪訝そうな表情を浮かべた後、ああと納得した様に瞳に理解の光を灯し―

「……フッ。いや、そうだな。うん。安心しろ。俺もそこまで面白……いや、酷い事はしないとも」

鼻で笑った後、何だか優しげな視線を向けつつ言葉を返した。

楊柳一見 > 「教師絶賛とか……世も末だわ」

頭に手を当てて打ちひしがれたポーズ。
今まさに、人の嫌がる事を進んでやられている身としては、
是非にも教師陣の目玉をくり抜いて銀紙を貼っ付けてやりたいところ。

「は、鼻で笑ったぁ?!」

その上に向けられる視線は、何だろう、あったかいのにひどく居た堪れないぞ。
ぷるぷると一しきり震えてから、脱力。

「アンタと話してると、イジられ芸人になった気分だわ…」

だからしょっぱなからちゃん付けでリードしようとしたとか。
そんな浅はかな目論見は、御覧のありさまだがな!

ご案内:「路地裏」に神代理央さんが現れました。
神代理央 > 「ま、学園にいる間くらいは良い子でいないとな。お前も、出席するだけじゃなくて少しは教師受けの良い事をしてみたらどうだ?」

打ちひしがれた様な仕草を見せる彼女に、僅かな助言を込めた軽口を一つ。

「良いじゃないか。芸人というのは、他人を笑わせて喜ばせる事も出来るしな。とはいえ…」

脱力する彼女を見て満足そうに笑みを浮かべた後、一歩彼女の方に踏み出して―

「……本当に俺がお前の身体を求めたら、どうするつもりだったんだ?冗談でも、余りそういう事を想起させる事は言わない方が良いと思うがね」

彼女を窘める様な低さで囁いた後、何事も無かったかの様に意地悪そうな笑みを受かべてみせた。

楊柳一見 > 「……ご機嫌取りとか、そんな上級スキル持ってたらここまでひねくれてないって」

かと言って正面切って歯向かう度胸もない。要はヘタレである。

「それで金が取れりゃあ、進路はもう決まったようなモンね。そんな気サラサラないけど」

芸人になる気はないくせ、根っこに芸人根性が染み付いている。これも一種の風土病かな。

ふと、こちらに歩み寄って紡がれた声の低さと、その言葉とに思わず息を呑んで。

「――なっ、なぬ、何言って…!」

噛んだ。上に詰まった。
とどめにジョークめかした底意地悪い笑みを向けられれば、
刹那止まっていた血液が一気に顔面に集まった。

「うぅぅ、うっ、うるっさいなもう!! 分かってるよ!
 タダの軽口よ! アホちゃう!? ほんまアホちゃう自分!!?」

お国言葉ダダ漏れでギャーギャーと喚き散らした。
芸人がおサルに退化した瞬間である。顔色も尻みたくまっかっかであるし。

神代理央 > 「別に上級スキルでも何でもないと思うんだが…。まあ、変におべっかばかり使うよりも、ありのままの自分でいるのもまた一興。現に、俺はこうして楽しませて貰ってるしな」

楽しませて貰っている、という言葉には僅かな含み笑いを乗せつつ―

「魔術や異能を学んだ挙句、進む進路が芸人というのは中々見かけないだろうなあ…。本気で狙ってみたらどうだ?応援はしてやるが」

異能や魔術を駆使する漫才というのは、最早大道芸人の類だろう。
彼女がその道に進むつもりが無い事を知りつつ、誂い混じりに煽ってみた後―

「…ふうん?中々初な反応を見せてくれるじゃないか。そういうのは嫌いじゃない」

顔を真っ赤にして騒ぐ彼女を面白そうに眺めつつ、更にもう一歩踏み出して距離を縮める。

「そうやって人の事を…まして、風紀委員にアホだの何だのと暴言を吐くのは良くないな。……さて、どうしようかな?」

わざとらしく彼女を上から下まで無遠慮な視線を向けた後、意地悪そうな笑みを浮かべながら彼女の琥珀色の瞳に視線を合わせる。
本音を言えば、次は彼女がどんな反応を返してくれるのか愉しみで仕方が無いのだが―

楊柳一見 > 「こっちは別に楽しませる為にやってんじゃないんだけどねぇ…!」

いいように娯楽扱いされている現状にまたしても歯噛み。うぎぎ。
これはアレか。ちゃん付けの意趣返しか。

「う……あ、アンタこそ、そうやって風紀の名前振りかざして! オーボーよ、オーボー!」

踏み出される一歩に、こちらはもう一歩後ずさり――したいんでどいてくれませんかね壁さん。

「……おおぅ」

青ざめた顔でビルの壁を背中で支える作業、開始!
終業時間? こっちが聞きてえよ!

神代理央 > 「何、俺が勝手に楽しませて貰っているだけだ。お前が気にする事は何もないぞ」

そういう問題ではないと知りつつ、敢えて論点をずらして笑みを一つ。

「与えられた権威を有効活用するのは当然だろう?その為の義務は果たしているしな」

振り翳した結果が彼女を誂っているだけというのは、風紀委員の名前からすれば悲しいものであるかもしれない。
だが、自分が楽しければそれで良いので何も問題は無い。

「そこまで怯える事も無いだろう?とはいえ、ちゃん付けした男に壁際まで追い詰められる事についてはご感想をお伺いしたいところではあるが」

彼女とは身長差が殆ど無い。それ故に、見下ろすことも見上げる事も無く、視線を合わせたまま更に一歩。
そして、壁に背を貼り付ける彼女の肩に触れようと緩慢な動作で腕を伸ばすが―

楊柳一見 > 「なお悪いわ! つか、お、怯えてないねッ! 焦ってるだけだかんね!」

何をそんなにあせっているのか。
そもそもこの場においてはそんなもんほぼ同義であるが。

「やっぱり根に持ってるしッ…!」

今度からはどんなにカワイイ顔した男であっても、ちゃん付けで呼ぶのはよそう。そうしよう。
そんな、何の甲斐もない誓いを胸中で固めて。

「ぅえ、ちょっ…!」

こちらを捉える視線から目を逸らす事も出来ず、
為すがまま肩に置かれる手を受け入れるしかなかった。

「…………ッ!」

目と口とをぎゅっと閉じて。
何と言うか、落雷などの天災に怯える子供のようなありさま。
ほんのボディタッチ程度で大仰な事だが、口先ばかりで免疫がないのだから仕方がない。

神代理央 > 「…なら、精々そのまま焦っていてくれ。俺も、今更落ち着けなんて言うつもりもないしな」

相手が焦れば焦るほど、誂い甲斐があるというもの。
クスリと笑みを零しながら言葉を紡いで―

「…やっぱり怯えているじゃないか。いつもの飄々とした態度はどうしたんだ?振り払って逃げることだって、お前なら容易いだろうに」

肩に置いた手は、そのままゆっくりと彼女の腕を撫でる。
初な反応を見せる彼女に愉しげな笑みを零しながら、目を瞑る彼女に囁く。

楊柳一見 > 逃げる。そう、逃げる事は容易い。
風を操る能力を以てすれば、そんな事はあっという間だ。
だと言うのに、ここに至るまでの思考の混乱が、その手段を見事にナイナイしてくれていた。
災害時のパニックほど恐ろしいものはないね。
しかし、親切にもアドバイスを頂いたおかげで復帰した。
アタシは しょうきに もどった!
足踏みでほんの少しの風圧さえ起こしてしまえば――

そこで腕をゆるゆる撫でられる。

「ふぇ――」

なまじ目を閉じていると、欠けた視覚を補うように、他の感覚が一層鋭くなる。
ただ撫でられただけのそれも、何だかえも言われぬ感触にすり替わってしまい。

コンボの締めは耳元へのささやき攻撃であった。

「――ゃんっ」

何か変な声が出た。
ああ、これはアレだ。前にクモ女にヒイヒイ言わされた時とおんなじ――

「――っっひゃあああああ!!?」

素っ頓狂な叫びを上げて、飛び上がった。
それはもう、能力の加護も得て噴進弾の如く夜空へと。

神代理央 > 「……振り払って逃げろとは言ったが、まさか飛んでいくとはな。しかし……少し誂い過ぎたかな?」

濛々と立ち上る砂煙に軽く咳払いしつつ、彼女が飛び去った夜空を見上げる。
少し苛めすぎただろうかと苦笑いを受かべるが、誂い甲斐のある相手に対して嗜虐心を覗かせてしまうのは己の悪い癖だろう。直すつもりは毛頭ないので、反省はしているが後悔はしていない、といった有様である。

「…まあ、次会った時は謝っておくか。それとも、俺の顔を見たら逃げ出すかな?」

スキャンした学生証のデータに視線を移し、再度自らに対する自嘲を込めた苦笑を零した。

楊柳一見 > 夜気を切り裂きかっ飛んで、どこをどう翔んだものやら判然としないまま、
なおも風任せに狂奔するさまは、それこそ昔語りの天狗か何かじみていたかも知れず。

「うぅぅ~~……!」

呻き声まで伴えば、それはもう立派な一つの都市伝説候補だ。
当の本人はそんなものお構いなしに、赤熱した顔を抑えながら悶絶中であるが。

「お、覚えてろおおぉ……!!」

すごく情けない捨て台詞は、もはや彼へと物理的に届く距離でもなく。
聞き咎められなかったのが、せめてもの慰めか。
あと涙目だったし。

夜の冴えないつむじ風ひとつ。
街のいずこかへと消えて行こう――。

ご案内:「路地裏」から楊柳一見さんが去りました。
神代理央 > そんな彼女の捨て台詞が届いた…という訳では無かったが、再度彼女が飛び去った方角を見上げれば、今頃恨み言でも呟いているのだろうかと思考を烟らせる。

「…さて、俺も仕事に戻るとするか」

すっかり存在感を失っていた死体の山に幾分げんなりとした視線を向けた後、事後処理を他の委員に任せて此方は次の任務へと急ぐ。

虚空へと飛び去った彼女とは対象的に、ゆっくりと大地を踏みしめ、一歩一歩刻む様な速度で、少年は路地裏から立ち去るのだろう。

ご案内:「路地裏」から神代理央さんが去りました。
ご案内:「路地裏」に東郷月新さんが現れました。
東郷月新 > ぶらぶらと路地裏を歩く男。
昨日もまた、風紀の大規模な捕り物があったらしい。
ここ最近多い事だ。

「いやはや、物騒ですなぁ」

呑気に言いながら路地裏を歩く。
なんのことはない、ただの散歩だ。
男は惰性で生きており、この落第街に惰性で出現する。
昨日も誰かを斬った気がするが……はて、一昨日だったか?

ご案内:「路地裏」から東郷月新さんが去りました。