2018/01/12 のログ
楊柳一見 > 追い縋る相手の姿が、みるみる変貌して行く様に舌打ちを零す。

「逃がすつもりはないって? ありがたくって涙が出るね。
 こっちも無駄撃ちせずに済むってモンよ!」

啖呵を切って、俄かに鎮む空にも打ち響く指弾を一つ。
生じた風圧の刃はしかし相手へでなく、袖を捲り上げた己の左腕へ向けたものである。
びしゅうと裂け破れた肌から鮮血が噴き出す。

「あ゛ァ痛ってえなクソがあ!!」

涙目及び的外れな悪態と共に、右手に受け止めた血の溜まりを、
勢い良く地面へと叩き付ける。
屋上の中央。四隅を呪詛塗の外縁に囲まれた、人工の魔陣。
その直中へと。

「――従此四部、流出無量毘那夜迦眷属!!」

口訣の終わりと同時、ただの血溜まりであったものが、
ぞわりと巨大な手の形を成して相手を文字通り掌握せんと迫る――!
それはもはや現世のものではない。
血と呪詛を依代に召し寄せられた、冥府魔道の眷属の仮姿である。
質量保存の法則も吹っ飛ばして顕現したそれは、
超重の圧力と、現を蝕む毒気とを纏って、相手を無力化せんとする。

龍宮 鋼 >  
……、げ――

(顔の鋼が左目の周囲の僅かな範囲を残して鋼に覆われる。
 身体も殆どが甲殻に覆われ、もはや小さな龍だ。)

――ろ、――んだ――!

(鋼の龍が口を開く。
 周囲の魔力を奪い取り、完全へ高密度の魔力の塊を形成していく。
 濃すぎる魔力はもはや存在自体が破壊の濁流と化し、龍は彼女へと狙いを定め、)

――逃げろっつってんだ死にてぇのかァ!!!!

(自身の顔を殴りつける。
 ほぼ同時に高密度の魔力の奔流が召喚された巨大な腕へ放たれる。
 仮にその腕を貫いたなら、それは彼女の真横の空間を焼き払い、彼女から遠ざかるように斜め下へとそれていく。
 そうなれば二人が立つビルを斜めに両断し、そのまま消えていくだろう。)

楊柳一見 > 「――? え、これ――」

術理の法則が乱れる。
と言うより、術を術たらしめる魔力そのものが霧散し、奪われている。
それを成すのは目の前の女。
否、もはやその半身すら呑み込まんばかりに膨張した鋼の――

「――ヤバッ!」

その姿をしかと認めるのと同時、動――けなかった。
それよりも早くほとばしった魔力の瀑流が、魔属の巨手を蒸発させ。
それに留まらず、己の真横――動けていたならいたであろう場所を衝き焦がし、
そのままバターナイフを入れるように足下のビルへと潜って行ったのだ。
基底部までしっかり徹ったらしく、程なく己らの立つビルは烈震に見舞われる。
崩落の予兆――。

「…何つうデタラメ…ッ!」

怖気をそのまま毒気に変えて吐き出し、
近場のビルを二、三と風に任せて跨ぎ越す。

――あれが本性か。それとも御し切れてないのか。

肩越し、崩壊の始まるビルの直中に、油断の消えた目で相手を探る。
遁れるか。追い来るか。それとも――?

遼河 桜 >  
「ハァ…ハァ……ぜぇ……ふぅ…」

大通りに辿り着き、足を止める
自分の来た方角を見れば、上空へと土煙が立ち昇っている
おかげで、大通りの連中の視線はそっちに釘付け、都合よく歓楽街を警邏している風紀委員の連中がこちらに向かってきている

顔には殴打の痕跡、お気に入りの服は無惨な姿、蹲ったりなんだりで土汚れもついてる
走ったおかげで息も切れて、表情にも疲労感がしっかり現れている
まあ、こんなところで十分だろう

「なんだってあんなバケモノが取り締まられてねーんだよ…クソが」

小さく悪態をつきつつ、懐から白い粉の詰まった小さな袋を取り出す
ふらふらとした足取りで近づけば、風紀委員はこちらに駆け寄って来る
当然だ、彼らは弱いものの味方なのだから

落第街に連れ込まれ、襲われ、暴行を受けた
主犯格は銀髪の髪の女で、仲間がいる
この袋は、彼らが持っていたもので、逃げるときに必死で手にしたもの───

常世における警察機構、風紀の人間にそう話すサクラの表情は重苦しく辛そうで、
───俯いたその翠の瞳は、歪な光を灯していた

龍宮 鋼 >  
(振動して崩落するビル。
 その屋上――だった瓦礫に蹲り、彼女を目で追う。
 崩落には巻き込まれずに済んだらしく、風を纏って飛び去って行くのが見えた。)

――クソ。

(逃げようにも「これ」を抑えるので精いっぱいだ。
 殆どを鋼に覆われた身体を両手で抑え込みながら、ビルの崩落に巻き込まれて落ちていく。
 僅かな光を反射しつつ――。)

楊柳一見 > 視線と視線とが交差する。
やがて本格的な崩壊を始めるビル。
その輪郭が地へと消えるまで。
その炯眼が眼下の街の頻闇へと消えるまで。
微動だにせず見届けた。否、またも動けなかったのだ。
目を逸らすなり、あの鋼翼の威容がこちらの前に立ち塞がりそうで――

「……かえすがえすも魔境だなあ。この島」

土煙棚引く空を背に、遠くで聞こえる街の喧騒に目を細め。
とおん、とビルの縁を蹴って、都市の闇へと紛れよう――。

ご案内:「路地裏」から遼河 桜さんが去りました。
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