2018/07/26 のログ
神代理央 > 背後の異形が軋むような金属音と共に僅かに砲塔を動かす。
その音に釣られる様に視線を向ければ、視界に現れたのは顔馴染みの少女。
相変わらず胡散臭い場所で会うものだ、と思っていれば後戻りし始めた彼女の姿に思わず苦笑いを零す。

「…風紀委員を見て後ずさりとは、何か悪いことでもしてきたか?残念だな。明日、生徒指導室でまた会おう。良かったな。教科書は来年も同じものだぞ」

如何にも残念無念といった表情で厳かに端末を掲げれば、彼女の姿を写真に一枚。
そして、にこやかな表情でひらひらと手を振っていたり。

楊柳一見 > 「待って。ちゃうねん。これはちゃうねん」

お国言葉を隠しもせず、待ったのジェスチャーと共に再登場。

「後ずさったのはむしろ風紀だからっつーか、よりにもよってアンタだったからなんだけどねえ……」

毎度のように、妙な場所で鉢合わせするモンだ。
たまには登校途中の坂道とかで、その背に息せき切っておはようの挨拶とか何とか――似合う訳もなかった。
不毛な想像にひとり鬼火を背負う。

「や、冗談抜きで。今人助けの最中だから、うん」

ぶんぶか振りくる右手の先の瓢箪が、しゅるしゅると擦過音じみた異音を発している。
冷気すら纏わせるそれはまるで、灌木に潜む蛇の声を思わせた。

神代理央 > 「…今どき、そんなテンプレート地味た言い訳をする奴も中々おるまいな」

待ったとご丁寧にジェスチャーまで付け足した彼女に思わず可笑しそうに笑みを零す。
別に悪いことをしている訳じゃないのなら、堂々としていれば良いのに、と思わなくも無いのだが。

「…ほう?成る程、俺だと何か不都合な事でもあったということか。職務に忠実な風紀委員を恐れるなんて、やはり厳重な指導が必要かな?」

とはいえ、自分だから後ずさったと言われれば良い気分がする訳でも無く。
へえ、とばかりに僅かに首を傾げつつ、彼女にじっと視線を向ける。

「……人助け?そう言えば、何だか妙なモノを持っているな。言っておくが、危険なものなら冗談抜きで没収の上事情聴取する事になるが」

彼女が無遠慮に振る瓢箪に視線を向ければ、そこから感じる違和感に眉を潜める。
こうやって軽口と冗談――彼女がそう思っているかは分からないが――を言い合う中でも、仕事は果たさなければならない。
瓢箪をより近くで眺めようと、数歩彼女に近付こうと歩みを進めるだろう。

楊柳一見 > 「……あんだけからかっといて不都合もクソも」

ぷいと横向いて小さく毒づいた。噴進弾よろしく逃げ出した夜の事。
覚えてろと紡いだ手前だが、覚えられてても忘れられててもこのモヤモヤは消えそうにない。
何の呪いだ畜生め。

それでも瓢箪に興味を示されれば気分切り替えて、ううむと唸り、

「まあ…危険っちゃあ危険? いや、今は一応管理下に置けてるんだけど」

近付いたところで別に瓢箪から何か飛び出す訳ではない。
しかし奇妙な居心地の悪さ――微量の瘴気を感じる事は出来るだろう。
その程度では障りのないように“対処”しておいたが。

「トンベっての。トンボだのトウビョウだの、まあ呼び方は色々あんだけども。
 人に取っ憑いて何やかんやする――まあ、魔物ってヤツね」

事も無げにそんな説明を軽く済ませて、ぽおんと宙に放ってまたキャッチ。
瓢箪の中の異音が、抗議でもするように高くなったがどこ吹く風。

「あ、先に言っとくけどアタシのペットじゃなくてよ?」

そこんとこホントよろしくな。切実な目で釘刺した。

神代理央 > 「……何というか、お前、意外と初心なんだな。いや、何となく予想はしていたが。成る程、年下の男にからかわれるのは慣れていなかったか」

彼女の言葉にぱちくりと瞳を瞬かせる。
しかし、次いで浮かべた表情は愉快そうに笑みを零すものだった。あの夜も、風紀委員の職権乱用の末、彼女をからかい倒したなと思いを馳せる。
だが、そんな牧歌的な雰囲気も瓢箪に話題が移れば表情を引き締める事になる。

「トンベ……トウビョウ……日本の妖怪の類…だったか?四国辺りで伝承されていると聞いたことはあるが…」

風紀委員として、ある程度魔物やら妖怪やら幻獣の知識は得る努力はしている。とはいえ、全てを網羅出来ている訳でも無い。
うろ覚えの知識が正答であるかどうか首を傾げつつ、視線は彼女が放り投げた瓢箪を追いかける。

「それがペットならお前を蜂の巣にしなければならないところだったぞ。しかし、所有に至るまでの経緯はぜひともご教示願いたいものだが」

風紀委員として真面目な表情を浮かべれば、僅かな忌避感を覚える瓢箪から彼女に視線を戻し、詰問する様な口調と共に幾分大股で近づくだろう。
別段意識している訳では無いが、仕事に切り替わった思考は無意識に彼女に逃げられない様にと距離を大きく縮めようとしているだろう。

楊柳一見 > 「……別に乙女気取りたいワケじゃないけどね。まあアレだ。経験値が足りんのよね」

レベルアップ? したくもねえよ。
この話は終わりだと言わんばかりに、かぶり振りつつ手をぺっぺと払う仕草。
相変わらず、その間は視線をまったく合わせようとしないんだが。
話題が移ればオンオフは容易い。

「うん、それそれ。西国じゃそこそこ知れてる憑き物で、これはそれの蛇タイプね」

音の正体は、まさしく蛇の唸り声であった。
もっとも尋常の蛇では、無論ないのだが。

「そんじゃあ飼い主は御愁傷様だね。アタシもこれに憑かれてた子から抜き取って、返品しに行く途中だったんよ。
 んで、アンタとバッタリってワケ」

詰め寄る相手から逃げはしないが、いつになく鋭角な眼光と声音の直撃を避けるように、くるりと後ろを向いた。
――照れ隠しとか言うんじゃねえ。

「こんなアナクロな呪術、タダの市街地でやったら嫌でもそっちの技官の網に引っ掛かるっしょ?
 で、こんな薄暗がりまで当たりをつけて御足労つかまつったワケ」

お分かり?と、肩越しの眠たげな目が問い掛けた。
…ついでに、ダカラ悪イコトシテナイヨホントウデス的な眼差しも込みで。

神代理央 > 「では、精々経験値とやらを積むことだな。何、男なら掃いて捨てるほど此の島にもいるだろうし」

と、随分失礼な物言いで此方も話題を締めて切り替える。

「…ふむ。要するに、呪われていた奴からそのトンベとやらを抜き取り、呪っていた奴に返しに行く、という認識で良いのだろうか?」

彼女の話を信じるなら、取り敢えず捕縛したりご同行願う様な事にはならない。何故か視線を合わせて貰えず、それどころか此方に背を向けた彼女に不思議そうな視線を向ける事にはなるのだが。

「成る程。確かに、最近は風紀も公安もピリピリしているからな。お前の判断は正解だよ。……だからそんな目をするな。お前が嘘をついていないなら、俺だって悪いようにはしないさ」

納得した様に小さく頷いた後、此方に向けられた彼女の視線に苦笑いを一つ。
そして、幼子に言い聞かせる様に幾分落ち着いた口調で彼女に言葉を返した。彼女に警戒心を抱かせない様、その琥珀色の瞳と目を合わせようとするが―

楊柳一見 > 「そうねえ。いっそアンタも掃きさらってやりたいねいつか」

売り言葉に買い言葉の様式美で、いびつなピリオドをひとつ。

「ん。それで正解」

こっくり頷く。当たったところで賞品なんざないのだが。

「……おう。信じてくれておねーさん嬉しいよ」

打って変わって優しくなった瞳に、またそっぽ向いて低い声で返した。
何か子供に言って聞かせるような調子だが、前までのように噛みつく気分じゃなかった。
きっと仕事中だからだな。うん。勤労は尊し。

「まあ、そう言う事だからこの場は――お?」

そろそろ捜索に戻ろうかと言う時に、瓢箪がずくりと疼く臓物の如き振動を見せる。
これは、蛇妖が進もうとしているのだ。
今まで中でぶすくれて蜷局を捲くのみだったそれが。
それの意味するところは――。

「――どうやら奴さん。わざわざお出迎えにいらっしゃったみたいよ?」

瓢箪の揺れ傾ぐ先は――暗がりの中の闇をも欺く昏黒渦巻く“袋小路”。

神代理央 > 「成る程。人助けとはよく言ったものだ。えらいえらい。褒美に、頭でも撫でてやろうか?」

そっぽを向く彼女に、可笑しそうにクスクスと笑みを零した。
そして、有言実行とばかりにゆるりと腕を伸ばそうとするが―

「……やれやれ。仕事熱心な事だな。いや、自分の持ち物をきちんと管理できる野郎だと褒めてやるべきなのか」

冗談めかして叩いた軽口だが、その瞳は険しい色に染まる。
少年の背後で、異形達が重苦しい金属音と共に全ての砲塔を暗闇へと向けた。

楊柳一見 > 「褒美ってのは、もっと形に残るモンでもらわなきゃ――ねっ!!」

それまで右手で弄んでいたトンベ入りの瓢箪を、闇めく道目掛けてブン投げた。
土造りの呪器たるそれは、地面に着けば容易く砕け、まろび出た黒い小蛇がいそいそと奥へ潜って行く。
それを認めれば、空いた両手で目まぐるしく印契を結び始める。

「――まだよ。今撃っても、最悪どっちか討ち漏らす」

そう。呪者と呪物が、平常別たれた今の状態では。
背後で咆哮の時を待つ砲塔群。その使役者へと短く告げて。

「即仏是幻法是幻、況や一類七十五眷に如何ばかりの謬あらん――」

地を這うような読誦の声に、小蛇がぶくりと泡立つように膨張する。
闇の向こうでたじろぐ気配に、見えぬ女の貌は凄惨に嗤う。そして。

「――弾けて混ざれや外道共!!」

ばん、と金剛合掌。その手の打ち合う音に合わせ、肉々しいものの爆ぜる音。ややあって――

『ぶばあああああああっ!!』

人と蛇とを巨大な電子レンジに掛けて爆ぜ散らしたならば、こんなものも生まれようか。
そんな、一塊の醜怪なモノが産声上げて現れる。

「――今ッ!!」

一まとめに撃ち砕け、と。

神代理央 > 「なら、形に残る報酬の為、精々活躍することだ。さすれば、多少の報酬は色をつけるとも」

発する単語は軽いが、既に戦闘態勢に入った自身は放り投げられた瓢箪と、印を組む彼女に鋭い視線を送っている。
その一方で、意識を集中し一体の異形を新たに召喚する。鉄と火の火力でも事足りるだろうが、顔見知りの彼女に余計な危険が及ばぬ様に最善は尽くしておかねばなるまい。

「…フン。俺の異形も見栄えは宜しくないが、これまた随分と醜く成り果てたものだ…な!」

彼女の叫びと同時に、背後に控えた異形達の砲塔は一斉に吠えた。
機関砲を、重砲を、戦車砲を。そして、己の魔力を吸い上げて光の帯として発射する魔力の砲撃を。
彼女の言葉に従い、眼前に現れた醜い化物にその火力を全て叩き込んだが―

楊柳一見 > トンベも零落した憑き物とは言え、その根本はあるいは縄文期にすら遡るとの謂れもある蛇神である。
単なる鉄火の殺到ならば、御しようもあったかも知れない。
しかし、人の身と無理繰り合一させられた事。
更には光帯と見紛う魔力による怒涛の一瀉。
これが明暗を分けた。

「たーまやぁー!!」

夏の夜の空ならぬ、人も避く地のどん詰まりで。
それはひどく絢爛な爆裂をどよもし、はらはらと火屑へ帰した。

「いやあ、絶景――でもねえや。見晴らし最低だし」

伸びをしながらあんまりな言葉を垂れて、ふと、

「それって、新技?」

前までは魔力を用いての砲撃はなかったように思い、振り向きざまにそんな問い投げた。

神代理央 > 「花火に例えるには、些か清潔感が足りぬな。…まあ、なんにせよ無事に片付いた様で何よりだ」

轟音と硝煙が止み、後に残ったのは最早肉片ですらない魔物の欠片。
それを眺めながら、小さく肩を竦めて笑みを浮かべ―

「…ん?ああ、そうだ。普通の火砲じゃ対応しきれない事態も考慮して、俺の魔力を発射出来る様にちょっと、な。余り多様すると俺の魔力が尽きるのが難儀だが」

振り向いてそんな疑問を投げ掛けられれば、小さく頷いてその問いかけに応える。
服についた埃を払いつつ、そうして言葉を言い切ればふと思い出した様にずいっと彼女に近付こうとするだろう。

楊柳一見 > 「そうそう。お互い無事に片付いたんだし、無問題無問題」

花火に雅やかさよりも爽快感を求めるタチ。
どうこうするべきターゲットも、既にどうこうすべくもなく吹っ飛んだのだし、ここは快哉を叫ぶところ。

「あー、魔力由来の攻撃はねえ。ガス欠怖いよね。
 いざって時に撃てませんでしたーじゃシャレになら――おおう?」

不意にずいと迫る相手に、虚を突かれた形でたじろいだ。

「……どしたん?」

言葉こそ軽いが、心情的には蛇に睨まれた蛙に近い。
トンベの祟りか。今更か。

神代理央 > 「その通り。通常の砲撃なら問題は無いが、魔力を用いるとなるとどうしても、な。まあ、その点についてじゃ精進あるのみだろうよ」

魔力を用いた砲撃について言葉を返しつつ、たじろぐ彼女を面白いものを見たと言いたげな瞳で見つめる。
そして、ゆっくりと彼女へ腕を伸ばし―

「…別に其処まで構えなくても良いだろう。それとも、妖怪は恐れずとも私は怖く感じるのか?」

そんな言葉と愉しげな笑みを合わせて、僅かに首を傾げながら―

楊柳一見 > 「妖怪の類は慣れてるんで。
 …アンタがその辺のチンピラとかだったら、どうとでもしてやれるんだけどねー」

あはははは。
虚ろな笑いに埒もない仮定を重ねながら、じりじりと円を描くように間合いを取る。
時代劇の殺陣かよ。ああアタシなんていっつもやられ役だよ参ったよ。
ギャラも出ねえしよ!

「前から思ってたけど……アンタ、パーソナルスペース狭過ぎひん?」

お国言葉漏らしながら、スペースとり過ぎてる奴が何ぞほざいた。

神代理央 > 「生憎だが、学園の治安と正義を守る風紀委員様なんでな。此方とて、お前が不良学生なら此処まで和やかに会話していないさ」

などと、彼女の告げる過程に話題を合わせつつ、伸ばした腕は苦笑いと共に幾分素直に引っ込めた。
まるで隙間に逃げ込んだ猫を追いかけている様な、そんな僅かな罪悪感にも似た感情が沸き起こったからだ。

「パーソナルスペースが狭いというよりは、獲物を追い詰めるには近い方が良いだけってだけの話だ。……折角眼の前に獲物がいるなら、逃がすなんて勿体無いだろう?」

再び服の埃を払いながら彼女に向けた表情は、僅かに愉悦を含んだ獣の様な、獰猛な色を湛えていた。
尤も、その評定は端末からの振動音によって直ぐにかき消される事になるのだが。

「……ああ。そうだ。此方で少しトラブルがあってな。いや、問題は解決済みだ。調査と事後処理の連中だけ派遣してくれ」

短く通信機に用件を伝えると、身形を整えて彼女に向き直る。

「……まあ、其処まで怯えられれば別に無理やりどうこうなんて事はしないさ。初心なお姉さんをからかうのも楽しいが、ものには限度があるからな。さて、此処にはもう直ぐ風紀の事後処理部隊が駆け付けてくる。お前も、成績の評定を下げられたくなければ早めに家に帰る事だな」

そうして、制服を翻し路地裏から立ち去ろうとして―

「……次は、もう少し明るい場所で会いたいものだな」

振り向きざま、穏やかな笑みを浮かべて彼女に告げれば、返事を聞くことも無く異形を引き連れてその場を立ち去っていった。

ご案内:「路地裏」から神代理央さんが去りました。
楊柳一見 > 「うん、アンタにはこれからも模範的な正義の風紀委員サマでいて欲しいモンだわね」

まあこっちは非行や違法に――今の所大っぴらに――走ってないプチ不良なんだけどな!
じゃあ今のこのハンティング(原語)的環境は自業自得か。おのれブッダ。

通信機に助けられれば密かに胸を撫で下ろした。
この前の今で、またぞろあんな痴態をさらしたとあっちゃあもはやトラウマになりかねない。

「……ま、アタシも用は済んだしね。言われんでも帰って風呂入って寝るよ」

立ち去る相手に精一杯すげなく返し、こちらも去ろうとした間際。
捉えた笑みは、今までの何やかんやを洗い流しかねないほど穏やかで。

「……ここでそういう顔とセリフ、卑怯だと思う」

会いたくねえ、と相変わらず憎まれ口を孕む莫迦。
明るい所なら違う何かを見出せるかも、と埒もない希望を抱く阿呆。

「……ああもうっ」

どうしようもない愚図付を抱えたまんま、自分もまたその場を後にする。
模糊たる闇に、己の曖昧さを愚かしくも馴染ませながら。

ご案内:「路地裏」から楊柳一見さんが去りました。