2015/06/05 のログ
シュリク > (ふう、と3度めの溜息を漏らしつつ、擬似異能の一つ、「凍てつく爆心地」(アイスシェイカー)を発動させようとした瞬間、絹の如き白糸がシュリクの頬を掠める)

「う、うおおお!?」

(「至る刃の輝き」の斬撃は、シュリク前方に出来た糸の塊により防がれ、剣戟を跳ね飛ばされた)

(これは、異能――いや、魔術――!)
(思わずその手を取り、男に先導されるままその場を後にした)


……反応、ありません。諦めたのでしょう。これ以上の逃走は必要ありません。
(スラムの入口近くまで逃げ出し、その先に行こうとした道中、不意に告げる)

橿原眞人 > (彼女の手を取ると、そのまま不良集団から逃げるように突っ走っていく。やがて入口付近まで走った頃、不意にシュリクから声をかけられる。振り返ってみれば、あの不良集団は既にいなかった。)
撒いたか……それにしても、こんなところで子供が何してんだよ。ああ、いや、子供じゃないのかもしれないが……。
(小さくため息を吐きながら、シュリクの手を離す。世界の変容により色んな存在がこの世に現れていた。子供のような見目でも中身はどんなものかはわからない。それぐらいは眞人も認識はしている。)
あのまま突っ立ってたらやられてたぜ。あんな不良連中でも異能や魔術使えたりするんだから、こんなところ歩かないほうがいいぜ。
(そう言いながらタブレットを鞄にしまう。先ほど魔術を使った眞人であったが、魔導書の類は一切持っていない洋だった。)

シュリク > 子供という概念は私にはありません。機械人形ですから。
(さらりと自らの正体を明かす。そういえば、割と全力で走ったはずなのに息切れ一つ起こしていない)
ご心配には及びません。擬似異能を使えばあの程度の術者は比較的楽に排除できます。ので、救助も不要でした。
……ですが、貴方が先ほど使った能力に興味があり、付いてきました。あれは魔法、でしょうか? しかし、その機械式のパネルから出ていたように見受けられましたが。異能反応ではありませんでしたし。
(黄金の瞳が眞人をじいと見つめる。……よく見ればこの瞳、人間のそれと明らかに瞳孔が違う。カメラのレンズのように、何重にも層が連なっている)

橿原眞人 > ……機械人形?
(そう言われるとぽかんとしたようになる。確かによく見れば疲れているのは自分だけである。目の前の少女は息切れ一つ起こしていない。)
つまり、ロボットってことか? そうか、最近そんな手合いばっかりに会うな。妖怪に退魔師に破壊神に……何だよ、それじゃ俺はただのバカじゃないか。
(脱力したように頭を振る。救助も不要だったと言われると情けなさが募る。やれやれと言った様子で、それじゃあまたあんな奴らと面倒なこと起こすなよと去ろうとしたのだが、自身の遣った魔術のことについて言われると、一瞬、気づかれてしまったかというような表情を浮かべる。じっと見つめられるので少し居心地が悪い。見てみれば、確かに彼女の言うとおりその瞳孔は人間のそれと違う。確かに機械人形というにふさわしいのだろう。)
ああ、あれな……まだ実験中だから、今使うつもりはなかったんだが。
(そう言って頭を掻く。)
機械人形のあんたに言う事じゃないだろうが、今は人間の科学も発展してる。魔術と科学となんて分けて言われることもあるけど俺はそうは思わなくてね。
つまりだ、魔導書を電子書籍化したってことだ。呪文を機械語に変換して……ってやつさ。お前の言うとおり魔術だよ。他の人間がどういうか知らねえけどな。

シュリク > 妖怪、退魔師……破壊神……?
(最初2つはいい。<<ゲート>>が開いた影響でそういったものが出てきても何らおかしくはない。しかし、最後の単語だけは見逃せなかった)
破壊神って、あなた、気軽に言いますけど、それって途轍もなく不味い状況なのでは? 地球崩壊の危機なのではないですか……?
(機械人形という割に、表情が引き攣っている。見用によっては青ざめているようにも。感情があるように思えても不思議ではない)

(さらに、魔術への問いかけの答えがシュリクにとって驚くべきことだった)
魔導書を、電子書籍化……? 魔術の電脳化……? ああ、あああ……ついに、恐れていたことが現実になったのですね……境界が、あやふやになってしまった……。
(項垂れ、嘆くように。顔を上げたシュリクの瞳には……怒りのようなものが見えた)
……それは、貴方が発明したのですか。魔術と機械を混ぜるなどということを。

橿原眞人 > ロボットっていうけど、殆んど人間と変わらない反応してるよな、あんた。
(人型のロボットというのは眞人も見たことがある。だが、ここまで精巧はものはほとんど見たことがない。感情すらあるように思える。地球とは別の世界からきた、というのならばわかる話だが。)
そりゃ俺もまずいと思ったがね。当人が今は破壊するつもりはないとかいってたんだからそう信じるしかないだろ。俺みたいな一般人にはどうしようもねえよ。
常世学園はヤバいとは聞いていたんだが、ここまで色々いるとは俺も思ってなかったよ。妖怪とかそういうのなら、本土にもいたんだけどな。
(破壊神の話をすると、ひどく疲れたような声を出す。眞人当人にとっても破壊神との出会いは大きく常識を覆すものだった。)
え? え? な、なんか怒ってる……? なんで……?
(魔導書を電子化したという話をすると、突如シュリクはうなだれはじめた。そしてクッ、と顔を上げたかと思うと、その瞳には怒りの色すら感じられた。顔色をうかがっていた眞人は思わず一歩退く。)
いや、だってしょうがねえだろ。俺は使えるものは使いたいし試せるものは試したいんだよ。
ああ、そうだよ。他にやってるやつがいるかどうか知らねえけど……さっき使った魔導書の電子化というのは俺が考えた。まだ未完成だから企業秘密だけどな。
で、それが……な、なんか気に障った……?

シュリク > ……破壊神の話は、どうやら大丈夫そうなので置いておきますが。
(とはいえ、そちらも調査する必要があるようですね。記憶の片隅においておきましょう……ですが、その前に)
貴方は、自分がどれほど愚かなことをしでかしたか理解しているのですか。魔術というのは、本来ならばこの世界にあってはならない力なのですよ。外なる世界の力です。それを、この世界の力である「科学」と融合させてしまっては、世界のバランスが保てなくなるのですよ。
(本当ならば、魔術もこの世界の一要素だ。しかし、6000年前はそういう解釈ではなかった。異能こそがこの世界における力であり、魔術とか異端なる能力である。――宗教的な問題だ)
外なる世界をつなぐ門、<<ゲート>>の開放により、魔術が再びこの世界に現れ、バランスをかき乱している。ですが、それなら<<ゲート>>を閉じれば何とかなったのです。ですが貴方が、現代の技術と融合させてしまったから、この世界に余計な能力が混ざり、バランスが崩れていってしまうことに!
(ずい、と近づいて。至近距離。目と鼻の先)

橿原眞人 > (結構な剣幕でまくしたてられ始めてしまった。いきなりのことに困惑の表情を眞人は浮かべる。魔術側から魔導書の電子化がどうといわれるのはわかるが、目の前の機械少女は科学的な産物に思える。むしろ賞賛されてしかるべきではないか、などと眞人は思っていたのだが。)
お、愚かなことって、ちょっと待ってくれよ。落ち着いてくれロボ娘。
(機械人形を自称する少女が眞人に迫る。眞人はどうどうとなだめるように両手で彼女の肩を軽く押して離れようとする。ロボットとはいえ子供の姿の少女に迫られるのは色々とまずい。)
お前、この世界の存在なのか? それにしてはなんか、常識に欠けるというかなんというか。えらく昔の人間と話してる気分だぜ。
俺は魔術についてそんなに詳しくないから知らねえけどさ、元々魔術は隠されてただけでこの世界にあったって話だぜ?
21世紀初頭の世界の大変容のときに、誰か知らねえけどネットワーク上に異能とか魔術の情報をリークしたらしいんだよ。それで世界にもその存在が実在のものだって知られたわけだ。
21世紀が始まるまでは普通の人間は魔術や異能なんてオカルトの話だと思ってたし、本当だなんて思ってなかったって話だぜ。それが今や魔術も異能も余に満ち満ちてるんだ。
今更あんたみたいなこと言う奴の方が珍しいと思うぜ? それに俺みたいな一般市民の発明がそんな影響なんて及ぼさねえって。
「門」だってさ、閉じれば何とかなるみたいにあんた言ってるが、まるで今以前にもそういうことがあったみたいな言いぐさじゃねえか。何者なんだ……?

シュリク > なっ――
(魔術が、この世界に、もともと存在していた――?)
そ、そんなはずは、ありません! あのような非科学的かつ、魔力などという胡乱なエネルギーを使うものが、この世界にあるはずが――
(そこまで言って、矛盾に気づいた)
――それでは、異能、とは、――?

……申し訳ありません、些か、情報整理に戸惑っております。
後日、改めてお話をお伺いしたいので、お名前を聞いてよろしいでしょうか。
(少し距離をとって、頭を下げる)

橿原眞人 > ……すごい前時代的な事をいうんだな? 今じゃ使おうと思えば魔術なんてそう難しいものでもないぞ。
(魔術がこの世界に元々存在していた、ということをいうと機械の少女はひどく狼狽えたようである。)
そう、それを言ったら異能もだぜ。今の世界じゃ普通のことだ。だが異能だってそもそも、21世紀以前はオカルトの範囲だったんだ。常識でもなんでもなかったんだよ。
それが急に現れ出したから、世界が混乱したってわけだ……知らないのか?
(自己矛盾に少女は気づいたようだ。だが、どうにも眞人の歴史観と齟齬があるようだ。)

ああ、わかった。なんだか知らないが、あんたはあんまりこの世界の事を知らないみたいだな。
俺は橿原眞人、常世学園の一年だ。こういう機会とかネットを弄るのが好きでね。あんたには怒られたが、今やろうとしてるのは魔術の電子化だ。
それで、あんたの名前は?

シュリク > 前時代……そう、ですね。6000も時代が違うのであれば、解釈も当然……いや、しかし……
(異能は、6000年前はその仕組を解明されつつあった。故にシュリクに擬似異能というシステムが組み込まれていた)
……どこまで魔術が解明されているか知りませんが、電子化できるほどならば、ほとんど体系化されていると考えていいのでしょうね……

私は、シュリク。今から凡そ6000年前に作られた機械人形……異能人形(アーツドール)です。
橿原眞人、登録しました。私も同じく一年生なので、整理が付き次第声をかけます。
……助けていただいたのに無礼を働いてしまい申し訳ありませんでした。では、私は調べたいことが出来ましたので、これで。
(もう一度深々と頭を下げると、跳躍し去った。人間の動きとは全く異なるそれは、一瞬のうちに姿が確認できなくなるほど疾かった)

ご案内:「スラム」からシュリクさんが去りました。
橿原眞人 > 6000千年前……!? ま、まてよ、そんな時代にあんたみたいなロボットがあったっていうのか!
俺からしたらそのほうが驚きだぜ!
(素っ頓狂な声を上げて言う。21世紀以前は魔術も異能も現実のものと考えられていなかったのだから、そういう話もあっても当然なのかもしれないが、それにしてもであった。)
ああ、いや、いいや。色々驚いていたら今後身が持たない気がする……またあんたの話も聞かせてくれよ、シュリク。異能人形なんてのは初めて聞いたよ……。
まあ、あんまりここら辺うろうろしないほうがいいぜ。破壊神だっていたんだ。他に何がいても……あっ、はええ……。
(シュリクが頭を下げたかと思うと、跳躍して何処かへと去ってしまった。)

……やはり、俺の知らないものがこの世界には多いな。
そうだ、異能や魔術、異界の「門」……どれもこれも、本来はこの世界だと普通じゃなかったものだ。
俺は真実を知りたい。この世界の真実を。
その点じゃ、俺もあんたも同じかもな。
(消え去っていくシュリクにそう呟くと、踵を返し、落第街の闇の中に消えて行った。)

ご案内:「スラム」から橿原眞人さんが去りました。
ご案内:「スラム」にカエラムさんが現れました。
カエラム > 「……こんにちは。」

すっかりスラム街に溶け込んでしまったカエラムは、道行く知り合いに軽く挨拶をする。
子供達に捕まってはよじ登られたり、子供を乗せたまま走り回ったり……
公園がない落第街において、カエラムは遊具代わりなのだ。

カエラム > 「――YaYa!」

夕方になって帰っていく子供達を、手を振って見送る。
今日も沢山笑顔を見られたので、カエラムはとても満足していた。

「……むふー。」

最近、ちょっとした言葉が現世寄りになってきた気がする。

ご案内:「スラム」に高乗 キバさんが現れました。
高乗 キバ > いやはや微笑ましい光景ですね~
(遠くから子どもとカエラムの風景を見ていたキバが軽い調子でカエラムに
話しかける)
ところで貴方はどなたでしょうか?
(少し素に戻って言う)

カエラム > 少しずつではあるが、現世の言葉には慣れてきている。
相手が何を言いたいのかは、細やかなものでなければある程度予想できる。

「――こんにちは。じぶん、かえらむ。そっち、なまえ、きく。」

かたことで名乗った後、名前を聞き返した。

高乗 キバ > 今はファングとでも名乗っておきますかね~
(相変わらずおちゃらけた様子で言う)
しかし見ない顔ですね~というかフードを被ってて分かりませんし……
教師ではなさそうですし学生?
とりあえず写真一緒にとってもいいですか?
(巨体に対して遊園地のぬいぐるみのような軽さで言う)

カエラム > 「ふぁんぐ、おぼえた。」
「ごめんなさい。しゃーしん、もってない。」

どうやら『写真』を『シャープペンシルの芯』と聞き間違えているようだ。

高乗 キバ > ああ、シャー芯じゃなくて写真
えっと……何かあったかな
(自分の持ち合わせを探る。するとホテルに入っていく男女を
写した写真があった)
こういうある"瞬間"を残したのが写真です。
(普通人に見せないものを躊躇なく見せる。悪気は全く感じられず
実際内面もその通りだった)

カエラム > 「……ああ、しゃしん。」

『写真』という名称は知っているようで、単なる聞き間違いだったようだ。

「しゃしん、こうなる、はじめて、みた。とる、おーけー。」

写真に映るのは初めてのことなので、むしろ興味があるくらいだ。
興味津々なカエラムは、OKサインを出した。

高乗 キバ > ああ……一つ言い忘れていました。
私、今どきアナログ写真を使っていまして
すぐに写真が出ないんですよ。
つまりすぐにこれ(現物の写真を指す)は出来ないんです。
それでもいいですか?
(少々早口だが、それがキバの癖だった)

カエラム > 「……は…はやい、しゃべり。きく、むずかしい。」

流石に早口過ぎると聞き取れないらしい。
ある程彼を理解できたのなら、なんとか追いつけるかもしれないが。

高乗 キバ > ああ、すいません。つい癖が出てしまいました
(今度は普通の速度だ)
まあすぐに写真は出来ませんがそれでよろしければ
写真を一緒にお願いします

カエラム > 「すぐ、むり……きこえた、おーけー。」

どうやら了承してくれたようだ。

高乗 キバ > では、一緒に……
(カエラムのとなりに移動しVサインを取りカメラを片手で持ち
こちらに向け撮ろうとする)

カエラム > 「……」

ファングと名乗る男の真似をしてVサインをとると、カメラの方を向く。

高乗 キバ > はい、チーズ
(ボタンを押すとフラッシュがたかれた。カシャリという音はない)
ありがとうございました~では私はこのへんで
(そう言うと歩いてその場を去った)

ご案内:「スラム」から高乗 キバさんが去りました。
カエラム > 「YaYa.」
そそくさと去っていくファングを、見送った。

ご案内:「スラム」からカエラムさんが去りました。
ご案内:「スラム」にグレゴリーさんが現れました。
グレゴリー > (貧困にうらびれた街路を歩む大柄な黒い影。風も無いというのにコートの襟を立てて、その容貌は窺い知れない)
(ただ一点、帽子の前から零れた長い触角のようなものが忙しなく揺れ、否応なく目を引く)
(注がれる視線は臆病な好奇心、あるいは値踏み、偏見、そういった諸々を嗅ぎ分けるかのように)
(歩調とは不揃い、不規則なリズムで触覚が揺れる)

グレゴリー > (男が足を止めたのは、スラムの街路をさらに奥に入った先である)
(砂埃に汚れた硝子戸を開き、窮屈気に身を屈めて通ると、不衛生で雑然とした戸棚に怪しげな物品の並ぶ空間に出た)
(いわゆる不法取扱い品を商う店だ。だが合法的な品であっても、それを表立って入手出来ない事情のある場合、金額次第で取り扱いがある)
≪店主。頼んでいた物品は入荷しているだろうか≫
(ぎちぎち、ぎいぎいという耳障りな音を上塗りするようにして、壮年の男性のそれを模した低音の機械音声が響く)
(痩せぎすの店主が胡乱な視線を向けて、背後の棚をごそごそとやり始める)

グレゴリー > (やがて取り出されたのは、中型のダンボール箱が1つ)
(中身を検めるように促され、無造作に引き開ける。中身の多くを占めるのは昆虫型の異邦人向け食糧)
(普通人あるいはそれに類する雑食性の生物からは『虫ゼリー』と揶揄されるものであるが)
(こちらに自生し人類に無毒であるとされる植物を食べたとして、致命的な不適合が無いとも限らない以上)
(合成栄養のみによって構成されたこれらの食物は、流れ着たばかりの昆虫型異邦人にとっては生命線とも呼ぶべき存在である)

ご案内:「スラム」にクラスカさんが現れました。
グレゴリー > (これら食糧は異邦人街でも取り扱いが少ない。昆虫型は数が少ない上、通常はすぐに体に合う植物を見つけて適合するからである)
(箱の残りを埋めるのは少々の衣類、そして昆虫図鑑および植物図鑑である)
(昆虫系に限らず、異邦人の食性を語るうえで、科学的根拠に欠けるものの大凡の目安として通用している一つの法則がある)
(曰く、『地球在来の生物に似通ったものがいれば、それと同じ食物を食べても害は無い』)
(さりとて表立って本屋などには行けぬ身、こうした入手経路を頼るほかはなかったのである)
(検品を終えると、箱に改めて封をして、およそ数えたとは思えぬぞんざいさで、不愛想な店主に金銭を支払う)

クラスカ > (仕事上何度も足を運ぶうちに、暗惨としたスラムの雰囲気にも慣れ親しんでしまった)
(風が吹くだけで飛びそうなあばら家も、強化型ダンボールを積み上げて組まれた簡素がすぎる寝床も、既に当然のものとして風景の一部と化している)
(見る限り、傍らに抱えるコピー用紙に特記すべき事項は、ない)
(巡回を終えて立ち去ろうとしたところで、大柄な帽子を目深に被った男の姿を視界に入れる)

グレゴリー > (ダンボール箱を脇に抱えて注意深く店から出、街路に戻ったところで、これまで感じたものとは異質な視線を感じた)
(一般的なスラムの住人が持つ小心な、あるいは小狡いものとは異なる視線)
(その源に注意を引かれた一瞬、買い物の間に吹き始めたと思しき風が、安定の悪い帽子を飛ばす)
(公安あるいは風紀が発行するポスターで見たこともあるだろう)
(曰く、『指名手配』『生死問わず』『生徒1名を殺害』『この顔みたら110番』)
(写真だけでは冗談としか思えない、カミキリムシの面相が露わになる)

クラスカ > (生活委員会に入った後で説明を受けた仕事の一つに、異世界人の保護がある)
(最低限の衣食住の保証、常世学園へ入学の意思を示すものへの学籍登録)
(特に生活レベルに差異が存在する場合、初歩的な文化の教示)

(特に大柄な男で目を惹いたのは、帽子から覗く対になった触覚だった)
(昆虫に似た危険な異世界人がスラムを中心に潜伏しているとの情報は、噂ではなく確固たる事実として、定例の報告に挙げられる)
(だから注視することも当然であったし、風に帽子があおられ、その下に隠された特撮映画の怪人かと見間違う貌を目にして)

(すぐに傍らに駆け寄り、頭部に土のついた帽子を被せてやるまでに、時間はかからなかった)

グレゴリー > (己を害すべきあらゆる有形力は、すべて異能によって遮断される)
(その発動を待たずとも、敵意の「匂い」は感じ取れなかったために)
(少年がしようとする行為の意図を察して、頭を下げてやることまでした)
(ぎちぎちぎいぎいという音に一拍遅れて、蟲人の言語を過たず人語に変える汎用自動翻訳装置が作動し)
(壮年の男性を模した機械音声が胸に提げられた機械より発せられる)
≪親切な人間に出会ったのは、こちらに来て初めてのことだ≫
(帽子を具合よく据えなおしながら、言葉を続ける)
≪礼を言おう。だが、幾分不用心ではないか≫

クラスカ > よく抜けているって言われますよ。部屋の鍵も開けっ放しにしたり、ね。
(虫人の問いに、スラムにおよそ相応しくない小奇麗な洋服に身を包む少年が、どこか的を外れた返事を返す)
(事実、少年は蚊ほどの敵意も抱いていなかったし、それはある一つの疑問があったためだ)
(疑問を解決させるまで、彼を敵、あるいは常世に害を成しえる脅威として認識してはいけない)
立ち話もなんなので、少しいいですか。

(そのまま暑苦しい格好の男の背後に回り、背中を押して、こっちへ、と誘導し始める)

グレゴリー > ≪不用心だ。盗難の危険がある≫
(この場に長く留まるのはお互いにとって好ましくない)
(何しろ『美味しそうな』獲物を見つければ骨まで食おうとする輩には事欠かない街だ)
(そうでなくとも、公安や風紀の目につく恐れがある)
(誘導される方へと歩みを進めるが、触覚による警戒は怠らない。それが犯罪者を捉える巧妙な罠である危険性を考慮してのことだ)

クラスカ > (野生の極みな佇まいと裏腹に、理路整然とした虫人の言葉は、機械の合成音声を噛ませれば、更に歪なモノへ変わる)
(しかしクラスカは、そんな歯車の噛み合わなさも、風評と実際相対してからの差異を踏まえて、好ましいギャップとして受け止めていた)

(グレゴリーの心配は無用に、まばらな通行人が奇異の目で見さえしろ、終ぞ二人をつけ回す視線が増えることはなかった)
(誘った先は、スラムの中でも更に人目と光が遮られる薄暗がり)
(人間心理として、やはり闇に落ちぶれてもでも輝きが恋しいのか、スラムの大抵の住人は寿命の近い旧式電灯の下に根城を構えている)
(直進と右折左折を繰り返し、完全に他者と隔絶された、行き止まりで二人きりになるまで、実に一分弱)

もう大丈夫ですね。窮屈なら、帽子を取って下さい。
(少年の声色は軽く、高い。少年の身長はゆうに頭一つ以上虫人からは凹んでいる。それでも怖じることなく、どうぞ、と勧めた)

グレゴリー > (嗅覚によって忙しなく動く触覚が周囲をの安全を確認し終えその動きを落ち着ける)
(窓も無く、違法建築物の頼りない壁ではあるにせよ三方を遮られており、密談には適した場所であるように思える)
≪なるほど。どうやらここは安全なようだ≫
(目の前の少年がこのような場所を知っているのは少々奇異ではあったが、言葉に甘えて帽子を脱ぐ)
(黒光りする頭部の甲殻を撫でながら、感情の見えぬ複眼を相手に向けた)
≪では、用向きを聞こう≫

クラスカ > あなたにとっては、あまりいい響きではないと思いますが。
(不穏な前置き。声のトーンが一段下がる。昆虫人の、一旦は緩めてくれた猜疑心が強まることすらも織り込み済みで、次を続ける)
僕はクラスカ、『生活委員会』に所属しています。
申し訳ありませんが、委員会の仕事の最中にあなた……グレゴリー・グリーンウッドの姿を見たので、声を掛けました。
(血気盛んな上級生が何人も、指名手配の虫人に勝負を仕掛けて返り討ちにされたことを、つまらない武勇伝として聞かせてくれる)
(彼らはきっとこう名乗りを上げたのだろう。「生活委員会だ」と)

もし、僕のことが信用できないならば、すぐにここから立ち去って下さい。
(できるだけ威圧感を減らすよう、握っていた両の手を開く。開かれた色白の掌は、もちろん無手だ)

僕は、あなたを識りたいと思っています。

グレゴリー > (生活委員会。学園都市内の社会基盤の管理・整備。その延長としての、異邦人に関する諸事の管理業務を担う)
(学園における異邦人の管理者。これまで幾度となくその業務を『遂行』しようと向かってくる者達がいた)
(そのいずれもを戦いで退け、あるいは逃走し巻いてきた)
(この学園において無手は戦闘能力の非保有を必ずしも意味しないが、非戦の意思の表明にはなろう)
≪私が生徒を殺害したのは事実だ≫
≪君が職務を全うしようとするのであれば、すぐにでも居場所を仲間に伝え捕獲を考えるべきだろう≫
(触覚が猜疑的に動く。あるいは思案する際の手遊びのような癖に近いのかもしれない)
≪だが君は私のことを知りたいと言う。それは何故だ≫
≪その目的と意図するところを聞きたい≫

クラスカ > (閉塞感漂うスラムに、一陣のつむじ風が舞う。クラスカの銀色の髪がたなびくと、隠されていた深い青の瞳が露わになった)
(空の色。水の色。涙の色。海の色。宝石にも似たブルーの湛える感情は、伺い知れない)

これは僕の個人的な活動なので、生活委員会には、当然公安や風紀に報告するつもりはありません。

風紀、公安、生活委員会の生徒の閲覧権限がある全ての記録の中で、あなたが実際に人間を殺害したという記録は、僅か一件しかない。
それもあなたが学園に籍を置いた直後の日付だ。
(「器物破損や物品奪取は結構な数がありましたよ?」と付け加え)

僕はあなたに、人を殺さざるを得ない、切迫した事情があったと考えました。
誰かに濡れ衣を着せられたのかも、と。
だからあなたを知りたいと思った。

(目的、と聞かれれば、唇を釣り上げた微笑を見せる)
だって、僕が帽子を被せようと試みた時に、あなたは僕を攻撃しなかったでしょう?
それだけで十分ですよ。『信頼する』にはね。

グレゴリー > (蟲人は目の色や表情で感情を読み取る習慣が無い)
(人間が発する匂いに関して『敵意』に類するもの以外には未だ疎く、それが無いということしか知れない)
(耳障りなギチギチという音がクラスカの耳朶を打つ。翻訳は無い。これは笑いだ)

≪実に曖昧な根拠だ≫
≪だが、その勇気に敬意を表し、君を少しだけ信用しよう≫

(彼が知りたいというのはこの自分の為人、あるいは事件の詳細だろうか)
(面白い少年だ。完全に信用しきることは出来ないが、騙されてやっても構わないと思った)

≪切迫した事情といえばそうなのだろう≫
≪だがあの日、私は私の身を守ったに過ぎない≫
≪ただ私を狙ったその人間が、我々の天敵によく似ていたというだけに過ぎない≫
≪ゆえにこれは濡れ衣ではない。私は事実として人間を殺害したのだ≫

クラスカ > (金属とも樹脂とも異なる奇妙な擦過音がグレゴリーの生の発音だと気付くまでには、少しの時間を要した)
(喜び。嘲り。怒り。どの感情とも異なるらしい声色を、クラスカは)
(興味、だと感じた)

聞かせてもらって、ありがとうございました。
(指名手配犯と遭遇し、お咎めなしで見逃したことが露見すれば、職務怠慢あるいは内通として厳罰を受けることも自明の理)
(しかし。危険を承知で身を晒し、かつここまでコミュニケーションを取ってくれた蟲人の心得に反することは、許されない)

(そもそも自分には、彼を人殺しとして糾弾する資格など、ないのだ)

(―答えは、最初から決まっている)
僕は、あなたをどうもしませんよ。
……散々僕の同類があなたを追い回しておいて、何を都合のいい、と罵られることは、受け入れます。
でももし、あなたがもう少しだけ、僕を信用してくれるなら。

無暗に誰かを傷つけることは、これからは避けて下さい。
あなたを恐れた誰かが、あなたを傷つけようと襲ってきても、できる限り相手をせず、逃げてあげて下さい。
人間は弱く脆い。異質なものを敵とみなして排除しようとする。これは僕より、あなたがよくご存じかもしれませんね。
(グレゴリーの辿ってきた経緯を考えれば、無理もないことだ)

グレゴリー > (黒い複眼は何も映さない。表情筋を備えないその貌からは何も読み取れない)
(ただ中空を見上げて、きちきちと触角を蠢かせるだけだ)

≪成程、実に都合がいい≫
≪弱さ。それがこの箱庭を形作ったのだろう。そしてそこに排斥された者達が再生産をしている≫
≪だがそれは、社会というものを成す限りどの種族もそう変わらないことだろう≫

(気配を感じた。強い警戒心と敵意の匂いだ)
(何者かに姿を見られ通報されたか、偶然の遭遇か)
(この時少年の姦計を疑わなかったのは、後になって気が付くことだ)

≪クラスカ。君の名前は記憶しておく≫

(異質を退けようという気質が弱さというのなら、自分も例外ではないのだろう)

≪私も傷つきたくは無い≫
≪故に、ここは忠告に従って――≫

(上半身の衣類を破り捨てる。それは争いの痕跡で、言い訳の余地であり、かつ、必要性に迫られてのものだ)
(黒光りする背中の甲殻が展開し、張り出した半透明の後翅が空を打てば、箱を抱えた2m近い巨躯が宙に浮く)

≪逃げるとしよう≫

(後には羽音のみを残して、建造物の壁を越え何処かへと飛び去っていった)

ご案内:「スラム」からグレゴリーさんが去りました。
クラスカ > (一説には、惑星開発のためTERRAFORMARという極限の環境下に適応した巨大昆虫が研究されているとも聞く)
(人間に人為的に昆虫の細胞を移植し、身体能力を高めようとしている、とも)
(闇夜に飛翔した蟲人は、異なる世界で、人類が遂げた一つの進化の形なのか)
(月のない夜に、漠然と羽音を見送る)

(そして、一人残されたクラスカを、錆びた電柱から見つめる視線がある)
(首から使い捨てのインスタントカメラを構え、捉えたスクープに歓喜する男)

「こりゃ特ダネだ。生活委員会、犯罪者と深夜の密会! 奴らを揺すれるネタ―に―」

「ネタ? ネタが―」

「あ、あれ、何だっけ?」

(インスタントカメラが破損していた事情も)
(自分がスラムにいた理由も忘れて)
(取り残された男は、首を傾げていた)

(銀色の髪の男の姿は、既にない)

ご案内:「スラム」からクラスカさんが去りました。