2017/03/05 のログ
ご案内:「スラム」に谷蜂檻葉さんが現れました。
谷蜂檻葉 > スラムの通りは昼にして既に暗い。

物理的にだけでなく、精神的に暗いのだ。

窮屈に立ち並ぶ建物の隙間はゴミで溢れ、息を潜めるようにして過ごす押し殺した生活音。
そこに落第街特有の鬱屈とした空気感や、暗い表情で過ごす『貧民』達が混ざると、ただ居るだけで精神を病む。

―――きっと、この無限に続く負の連鎖こそが、このスラムを「闇」たらしめる由縁なのだろう。

こんな所にいれば『興す』気力すらこそぎ落とされる。

谷蜂檻葉 > そんな所感を抱きつつ、谷蜂檻葉はスラムを歩いていた。

その体に、視線がチラチラと飛ぶ。

ソレは綺麗な体をした女だという意味ではなく―― 一部そういう人間もいるだろうが――、

小奇麗な服装と、柔和な表情。
そしてこのスラムでは有り得ない程にふくよかな体型から物珍しさと『金の匂い』を感じた獣の視線だ。

「場違い」逆説的に『島内学生』である事を示す存在は、彼らの逆恨みじみた憎悪と羨望。

そして『欲』を駆り立てる。

彼女になり変わるのは、ほぼ不可能だろう。
……だが、彼女の持つ生徒証を使ってできることは?

このスラムを抜け出る程度のことは出来るのではないか?


―――無論、「不可能」である。

いや、千載一遇の好機に万に一度の幸運が重なるのであれば出来るのだろう。
しかし彼らには不可能である。

『スラムに落ちた』人間には、不可能なのだ。

何故なら―――

谷蜂檻葉 > 『あぎゃっ、ガァアァアアアアアアッッ!!!!!』

檻葉がスラムのある一角を通り過ぎたその時だ。

男の悲鳴が響き、遅れて何かが落ちる音と、より大きな何かが落ちる音。
そして「ドチャリ」と耳障りな音が聞こえた。

それは立て続けに同じような3つの音が2,3度聞こえるとそれきり静かになった。



「………餌をぶら下げる積りは無いんだけどね。」

檻葉は小さく溜息混じりにそう呟いた。


『スラムから出られない程度の人間』に彼女が負ける道理が無いのだ。
”力のある”者は正規の手段でなくとも、もっと大手を振って過ごしている。

つまり、”スラムで”襲いかかるような人間というのは『何の力もない』存在だ。

異能も、ろくな魔術も、特殊体質も―――塵芥でしかない、飢えるだけの弱者。



ああ、まるで地獄の餓鬼のようだ。

飢えて、飢えて、飢えて。
それでいて何ら生産性がない。

彼らは既に「詰み」に入っている。
「蜘蛛の糸」が降りるその時まで逃れられない一本道。

……きっと、その蜘蛛の糸が降りたときは捕まり合って落ちるのだろうけれど。

谷蜂檻葉 > 「まあ、でも……都合がいいか。」

そして彼女はスラムを抜けた。
抜けた、と言ってもスラムは落第街に一つではない。

そういう「吹き溜まり」を指す言葉であり、
この落第街の一区画全体が巨大な蟻地獄のようにこの負の空気を吸い込んでいる。

―――いや、ある意味『清浄機』と言っても良いのかもしれない。

この島の闇を、汚れを、一手に引き受ける廃棄所。
暗黙の中、半ば公然と『ゴミ溜め』と認識される場所。

此処がなくては、島の秩序はより混沌とした中にあっただろう。


もしくは、

「……島が出来る時から『何処かに落第街は出来る』のが必然だったのでしょうね。」

谷蜂檻葉 > 『だからこそ』 彼女は此処を選んだ。



谷蜂檻葉の”卒業研究”。



魔術を覚え、異能を研ぎ澄ませた3年間。

この1年間で彼女は「谷蜂檻葉を完成させる」。


「それじゃあゆっくり、始めていきましょうか。」

ご案内:「スラム」から谷蜂檻葉さんが去りました。
ご案内:「スラム」に黒龍さんが現れました。
黒龍 > 『あぎゃっ、ガァアァアアアアアアッッ!!!!!』

そんな耳障りな断末魔が耳朶に触る。近くのバラックの屋根で堂々と昼寝をぶっこいていればこれだ。
鬱陶しそうにアイマスク代わりにしていたサングラスを僅かにズラし、寝起きで目付きの悪さが増した視線で眼下を見る。

「……集団自殺か殺し合い奪い合いで転落かはしらねぇが…他所でやれよクソが」

吐き捨てるようにそう零す。死体は死体、死者は死者だ。そこに思う事はない。
ただの肉の塊に何を思えと言う?見ず知らずの有象無象に傾ける気持ちなど欠片もない。

二度寝を決め込もうかと思ったが、最悪な事に目が冴えてしまった…億劫そうに身を完全に起こして欠伸を噛み殺す。

ご案内:「スラム」に黒龍さんが現れました。
黒龍 > 「……安眠妨害に巻き上げてやろうにも、金目のモンなんてまず持ってねぇしな…最悪だ」

死体を一瞥してから嘆息。ガリガリと頭を掻いてから懐から黒いパッケージの煙草を取り出す。
最近ハマっているアメスピだ。確かペリックブレンドとかいうのだったか。
一本抜き出して口に咥え、右手の指先に火を点して先端を近付ける。
ゆっくりと紫煙を吐き出して一服しながら改めてバラックの屋根から雑然混沌鬱蒼としたスラムを見渡す。

「……監獄だな」

それも忘れ去られて朽ち果てるだけの。そんな事を呟いて嫌そうな顔に。
微妙に詩的な表現だがそういうのはガラじゃあない。

黒龍 > まぁ、その監獄と例えた場所に自分から出入りしている物好きの一人でもあるのだが。
如何せん安全度合いが高い華やかな学生区画の方はいまいち馴染めない。
嫌い、という訳ではなくあの空気や雰囲気がどうにも苦手なのだ。肌に合わない。

とはいえ、偽造学生証ではあるが学生身分であるから、こちらに来た時よりもあちらに行く頻度は多くなっているが。

(…掃き溜め肥溜め、こういう場所で育ったからか変に落ち着くっつぅのもな)

茫洋とした顔で煙草を吹かしながら、バラックの屋根の上で一人寝起きの一服タイム中。

ご案内:「スラム」に黒龍さんが現れました。
黒龍 > 「……適当に何か食いに行くか」

金はまぁ、向こうから財布(チンピラ)が勝手に喧嘩を売ってきたりするので問題ない。
欠伸をもう一度噛み殺し、吸殻は火の魔術で一瞬で燃やし尽くしてからバラックの屋根から飛び降りて着地。
そのまま、ダラダラとした如何にも気だるそうな足取りで歩き出すのであった。

ご案内:「スラム」から黒龍さんが去りました。
ご案内:「スラム」にマリアさんが現れました。
マリア > その日の夕暮れ時,落第街の一角で取るに足らないほどの小さな事件が発生した。
事の発端は,男たちに追われていた少女が,通りかかったマリアに助けを求めたことから始まる。

「………………なっ……!」

マリアが迂闊にも逃げることをせず,肉体強化術を駆使して数名の男を殴り飛ばした事で,騒ぎが大きくなってしまった。
息の続かないマリアの戦いかたでは,少女を逃がすのが精一杯。
そして,後から現れた男が初歩的な拘束魔術を唱えれば,マリアは容易くその動きを封じられてしまった。
……袋小路に追い詰められたマリアは,己の未熟さと迂闊さを呪った。

ご案内:「スラム」にセシルさんが現れました。
セシル > セシルは落第街の警邏はするが、スラムはあまり歩かない。
ただでさえ財団が「裏」の領域を「否認」し続けているし、そもそも「表」の顔に良い思いをしない者達の居住地域を侵せば、かえって話がややこしくなるのが通例なのだ。

ただ、セシルにとって「守るべき弱者」には、「表」も「裏」も差がない。
それで、何となく、境界の向こう側からスラムを覗き見て…この騒ぎを目撃してしまったのだ。

(…何が起こっている?)

介入すべきか否かの判断をするため、セシルは静かに喧噪に近づいて、様子を伺った。

マリア > その四肢の動きを封じられてなお,マリアは抵抗を止めなかった。
何より救い難いのは,マリアが自分自身の命や身体のこと以上に,その正体を暴かれた際のクローデットへの影響を危惧した点だろう。
もっともそれは,マリア自身以外の何者にも伝わらないことだが。

「……来るなぁっ!!」

近寄る男の一人に肩から体当たりし,弾き飛ばす。
しかしそれが最後の輝きであるのは誰の目にも明らかだっただろう。
マリアは,勢いそのままにうつ伏せに倒れ伏す。

セシル > セシルの目に入ったのは、拘束魔術をかけられながらも男の集団の一人を体当たりで弾き飛ばす、華奢な少女の姿。
一対多。それなり以上の体格の男達と、華奢な少女。
セシルの判断は早かった。

「何をしている!」

集団の背後から、作った強い低音での、ドスの利いた威嚇。
男達が狼狽えれば、その隙間を「異能」でかいくぐって、少女と男達の間に割って入る算段だ。
…もっとも、狼狽えなくても実力行使のつもりで、セシルは声を発しながら警棒を抜いているのだが。

マリア > 倒れたままでは姿は見えない。しかし,声が聞こえた。
次の瞬間には男たちに囲まれるはずだったが,その瞬間は永遠に先送りされる。

「………………!」

僅かに見上げれば,そこに立つのは見覚えのある制服の青年。
風紀委員,だっただろうか……かつてはどちらかと言えば,自分達の敵として存在していた,その制服。

マリアはまだ立ち上がらず,男たちも動かない。
だが,1対多数の状況が彼らの気持ちを大きくさせているのは疑いない。

「……この野郎,邪魔すんじゃねぇ!」

しばしの沈黙の後,角材を手にした男が迂闊にも貴女に殴りかかった。

セシル > 相手が殴り掛かってくることも想定のうちだ。
そして、角材なんて大振りな武装は…セシルに対しては、「懐に飛び込んで下さい」と言っているに等しい。

「…フッ!」

セシルは、速さを優先した。魔法剣を使わずに、角材を半身ずらしで見切ると、すぐに体勢を整えて男の喉元に突きを入れる。
重い攻撃ではないし、警棒なので刺さることもないが…頸動脈を棒でぐっと押し込まれれば、人間ならば苦しい。

「付与・魔力《エンチャント・オーラ》!」

相手の次の動きに備えて、ここで魔法剣を発動させる。
打撃の威力を増すための、魔力付与。

マリア > 何が起きたのか,マリアには理解できなかった。
同様にして,突かれた首を押さえて倒れ込んだ男も,周囲の男たちも,恐らく全てを理解してはいないだろう。
不利を察したリーダー格の男の一声で,彼らは一目散に逃げ去っていく。

「……………………。」

上体を起こしつつも,いまだ状況が飲み込めぬマリア。
ぺたんと地面に座り込んだまま,自分を救ってくれた,風紀委員の生徒を見上げる。

セシル > 「………。
…やれやれ。あの有様で、よくこの島の「裏」で悪事を働こうなどと思ったものだ」

速さの差を見せつけられて、捉えようがないと思ったのだろうか。
予想外過ぎるほど呆気ない男達の撤退に、しばし唖然とするも…何とか我に返って、辛辣な言葉とともに息を吐く。
いや、悪事を働く者が強くても困るが…ああまで情けないと、縄張り争いの時点でどうしようもないのではなかろうかとか、要らぬ心配をしてしまうのだ。

それから、周辺の気配を探り、危険な感じがないのを確認すると、座り込んだままの少女の元へ向かう。
それから、少女と目線を合わせるように、片膝をついて…

「…随分大変なことになってしまっていたな…立てそうか?」

と、作った声は保ちながらも、語調を和らげて問うた。

マリア > 無論,力の差を見せつけられた部分もあるだろう。
しかし一方で,ここで下手に意地を張って問題を大きくするのは得策でないと判断したのかもしれない。
…すべては憶測にすぎないのだが。

「……ありがとう,ございます。」

自分に視線を向ける青年の瞳を,紅色の瞳が呆然と見つめ返す。
少なくとも,目の前の青年が自分を助けてくれたことや,危機が去ったことくらいは理解できた。

「あ,立つくらいなら………とっ………。」

だが,まだ両腕は自由になっておらず,そして同時に,酷使した身体はいう事を利かなかった。
立ち上がろうとするマリアは,バランスを崩してふらりとよろめく。