2017/03/09 のログ
ご案内:「スラム」にファウラさんが現れました。
ファウラ > 「……!、っぁ………が……」

スラムの一角、日の当たらない路地にバタバタと暴れるような音が響いてた。
それは次第に弱くなっていき、数秒後静かになった後、どさりと重たい物が地面に落ちるような音が響く。
もしもその場を覗き込んだものがいたなら小さな少女と地面に倒れ伏す男の姿を見ただろう。

「……あれ?動かなくなっちゃいました。
 機能停止ですか?喉をつぶしたら人は動けなくなるですかそうですか」

不思議そうな顔でそう呟く少女の片腕はまるで何かをぶら下げていたかのように空へと掲げられたままで
その姿を見るだけならば到底危険どころかこの場所に居れば数分後には
身ぐるみを剥がされてしまいそうな様子にすら見えるだろう。
実際この光景だけ見ればただ倒れ伏す男とそこに居合わせただけのいたいけな少女の図だ。
--しかし、目前の男を片手で釣り上げ、あまつさえ喉笛を握りつぶしたのは紛れもなくこの少女だった。

事の発端は数分前に遡る。

島を自由に飛び回っていた彼女だが、島の中に点在する淀みのような場所は何度も目についていた。
彼女の世界にも貧困が、格差があった。その為スラム……吹き溜まりのような場所だとは認識していたが
実際に彼女はその環境を知識としてしか知らなかった。
口を酸っぱくして再三言われているように彼女には知っていても理解していることは少ない。
その為わからないことが多く……手加減どころかそもそもヒトを数としか認識できていなかった。
学生ではない身の上である以上、島のマクロファージ(自治団体)には関わらないに越した事は無い。
そういった意味では観察を行うには最適な場所であると与えられた”知識”に基づき
徒歩でその場所を巡ってみる事にしたのだけれど……

「お嬢さんこんな場所でどうしたんだい?」

見た目だけならただの少女で、しかもボロボロの服を羽織っているような状態で
見るからに貴重品と思えるようなものを握っていれば
治安の悪い地域では"襲ってください"と言う様なもの。
そのまま素直に路地裏に連れ込まれることになった。
しかし……

「うーん……何がしたかったんだろう」

その裏路地でどんな言葉と行為が行われそうになったかは想像に難くないが……
彼にとって不幸な事に、誘い込んだ者は倫理観が希薄な猛禽だった。
手を駆けようとした瞬間に喉元をつかんでぶら下げられ……結果見事に握りつぶされたのは
因果応報とでも言うべきだろうか。

ファウラ > 「まいっか」

掴みあげる際に叩きつけた壁には軽く罅が入ってしまっていたが
それには目もくれず、目前に崩れた体を無造作に踏み越えていく。
彼女からすれば何だかよくわからないのに声をかけられてちょっと摘み上げたらなんか倒れた。
そんな認識程度しかない為倒れているものには目もくれていない。
そんな事よりも……

「ふぅん……これは住居、でしょうか。
 私の記録に在るものとは随分設計が異なるですね。
 家屋とは風雨を凌ぐものとありますがこれでは雨は防げませんね」

近くにあった掘立小屋のようなものに顔を突っ込んだ後見渡してすぐに興味を失う。
そのままとことこと無邪気に足を進めていく。
何だか変なのと初っ端会ったが探検はまだ始まったばかりなのだから。

ファウラ > 「失礼しまぁーす」

何やら怪しげな会話をしているその真ん中を歩きぬけ毒気の抜けた顔で見送られたり
地面に捨てられた電子レンジに熱心に話しかける汚れた学生服の男を観察したり
ちょっと気の荒い猫を可愛がって(捕獲して)みたり、自由気ままに歩きながら、空を見上げる。
吹き溜まりから見る空は、いつもいる場所から見る空と同じようにとても綺麗で……

「何処にいても空は綺麗ですのに。
 人間って不思議です。
 なんでこんなところに住んでるんでしょぉ?」

抗えば良いのにと無邪気に残酷な事を考える。
手段がないから、機会がないから、力がないからか
理由はいくらでもあると知っていても、
力あるものとしてその感覚を理解するには少々彼女は幼過ぎた。

「んなー……美味しい物、なさそうです」

必要なら何をしてでもそれを揃えればいいのに
どうしてそれをしないんだろう?
先ほど自身がそれの対象になりかけていたことなど露知らず
そんなことを考えながらとことこと歩き続ける。

ご案内:「スラム」に黒龍さんが現れました。
黒龍 > 「……んーむ……」

そんな、無邪気で気儘で残酷な散策を続ける少女の丁度前方、曲がり角から出てきた姿がある。
黒い上下のスーツ姿に黒い革靴。黒髪にサングラス。そして左腕の無い隻腕。
落第街や歓楽街には居そうだが、スラムでは地味に珍しいかもしれぬ装いだ。
右手に紙袋を抱え、口元には火のついた煙草を咥えながら考え事でもしているのかボンヤリ歩いている。

何時もなら前方から歩いてくる既知の少女にとっくに気付いているのだが…。
それが無い辺り、結構マジに考えに没頭しているらしい。

そうしてこうして、彼我の距離が自然と縮まってくるだろうか?

ファウラ > 「んやぁ?」

ふと前方に見知った姿をみかけ小さく首をかしげる。
この場所には不釣り合いな格好をした男と、
ボロボロのワンピースで腕に汚れた、何かを悟ったような表情の猫を抱きしめ
男を見て首を傾げるある意味この場にふさわしい装いの少女。
それだけならある意味良くある光景だったかもしれないが……

「にーぐぅ。にーぐぅだぁ」

ぽいっとその腕に抱えた猫を放し、
普通の人であれば軽く吹き飛んで壁の染みになったであろう速度まで瞬時に加速しながら
楽しそうに首元に手を伸ばし飛びついていく。
勿論故意ではない。

黒龍 > 「………あ?」

何か嫌な予感でも働いたのか、考え事に没頭していた意識を引き戻す。
そして、改めて進行方向…己の前方へと意識とサングラス越しの視線を向けたのだが。

「……いや、にーぐぅって何だよ…変なあだ名つけんじゃね――またかオィ!」

前もいきなり飛びつかれた経験がある。それも本人悪気無しの不意打ちで。
普通の人間なら、それだけでスプラッターな光景が展開されてしまうであろう加速も同じく。

(つぅか、あの野良猫は運がいいな…)

と、直前で無事?に少女から開放された猫を一瞬だけ見てから対応開始。
まず、紙袋を宙に投げ上げ、次いで超加速で首元に飛びついてきた少女を右手で抱き止める。
あと、この距離だと煙草が邪魔になるのでそれも魔術で一瞬で吸殻ごと灰にして風に流す。
これらを、一瞬で全てこなしつつ…改めて少女を見下ろした。

ちなみに、投げ上げた紙袋は落下はするが男の頭上でフワフワ浮かんでいる。
魔術でその場に固定しているだけだ。特に珍しい術式でもない。

「…おぅ、相変わらずだなファウラ。つーかお前律儀に俺がやったリボンしてんのな…」

と、言いつつも改めて見れば…ボロボロのワンピースはそのまんまだった。
この娘、そろそろ服ぐらい調達しなければいかんのでは?と、思ってみたり。

ファウラ > 「あははー。こんなところでこんにちはですよ?」

ノンブレーキのまま飛び込むのは倫理観がない事もあるが相手が平気だと以前確認しているため。
特に弊害が無いならと無邪気に抱き留められたまま朗らかな声を響かせる。
正直こんな場所で知り合いに会うとは思いもしなかった。
最近は少し水中飛行についての微調整を試みていたことから月単位で会っていなかった気もする。
彼女の中のプログラムとしては帰巣本能が働き親鳥に会ったような気分……だろうか
とは言え彼女の場合数か月という時間は一瞬のようなものかもしれないけれど。

「はぁぃ、相変わらずですよ。頂き物は大事にしろとおじーさんが言ってました。
 にーぐぅはここに何か用事ですかぁ?
 あ、そいえば先ほど電子レンジさんと仲良しの学生さんに貴重な情報を教えてもらいましたぁ
 実はこの世界の人間は邪悪な冷蔵庫文明に支配されてるそうですよぅ?」

当時に比べ若干人間らしさが出た……というより
機械らしさが抜けたとは自負している。
はた目から見ればまだまだかもしれないが……。

黒龍 > 「…おぅ、まぁ相変わらず元気そうで何より。暫く見掛けなかったが、島の散策でもしてんのか?」

そして、彼女の倫理観の無さ…もとい、力加減一部無しの行動に対応できる一人がこの男である。
弊害は特に無い…強いて言うなら、左腕が無いので抱きとめた時のバランスに少々難がある程度か。
そして、未だに男からすれば何でこんなに懐いてくれてるのかサッパリだった。
別に悪い気もしないので、そこは特に問題があるという事は無いのだが…。

「……いや、それ嘘だからな。どうせヤク…麻薬とかでもキメてるから精神病んでんだろその学生とやらは」

と、間違った情報を淡々とだが律儀に修正していく男で。と、いうかややポンコツな空気が…。

(こっちの世界の影響か、それとも普段はこれがデフォルトなのか…いや、でも前より人間ぽいな)

そんな空気を感じ取る。ともあれ、後で同調魔術で正しい学生の光景を見せておこう。
一方通行だとハッキングになってブロックされるので、彼女の同意があれば、だが。

「しっかし、スラムまで散策してるとはなぁ…まぁ、オマエなら心配とかいらねーだろうが」

手負いとはいえ、直に戦った経験があるので彼女の生体兵器としての凶悪さは理解している。
それを省みれば、余程”相性の悪い敵性存在でない限り”は無難に撃退するだろう。

(……いや、コイツ手加減とかしなそうだから殺害になりそうだな…風紀とかに睨まれやしねーだろうな)

内心で溜息を零しつつ、取りあえず右手を一度離してポフリとファウラの頭を撫でる。

ファウラ > 「んっと、先ほど……約42分程度前にこのスラム領域内で遭遇した
 二十代後半と推察される自称正義の電子練慈常世支部隊員の男性がそう言っていたですよぉ。
 軽くスキャニングをしたところアンフェタミン類の精神刺激薬が検出されましたので
 麻薬利用との推測と一致しますぅ」

彼曰く「私に良い考えがある……」が口癖の巨大冷蔵庫が
世界を席巻すべく日夜仲間を人間たちの元へ送り込んでいるらしい。
熱心な表情で唾をまき散らしながらその脅威について熱弁してくれた。
大変面白そうなので今度変形しそうな冷蔵庫を見かけたら
改造しても良いですかと声をかけてみようと思う。
わざわざゆっくり凍らせることについてぜひ理由を聞いてみたい。
冷やすだけなら直接熱エネルギーを奪って分子を止めてやるか
瞬間冷凍気化弾でもぶつければ良い話なのだから。
この島にも来ているだろうか……。

「それはともかく、私の自衛プログラムは正常ですよぉ?
 危険と判断した場合には緊急離脱も可能である環境を選んで探索を行っているのです!
 そういえば先ほど突然の敵対行動と思しき行動をとる個体と遭遇しました。
 なぜあのような行動をとったのかは不明ですが……」

撫でられている事が嬉しいのか実に良い笑顔で見上げながら口にする。

「ちょっと釣り上げたら意識混濁状態に陥ったようなので
 そのまま置いてきましたぁ」

……元々の気質は訂正されていなかった様子。
信じやすいというかある意味ちょろい所があるのは全く変わっていなかった。
そして一部無頓着という点も。

黒龍 > 「……おぅ、そこまで正確に分析済みとはさすが生体兵器…つか、そういうのは相手にするなよ?
いちいち真に受けて話を聞いてたらキリがねーしな…」

と、言いつつ彼女から聞かされる冷蔵庫の話に、何とも言えない表情を浮かべる。
サングラスに隠れているが、その黄金の瞳はこう物語っているだろう。

『いや、絶対その冷蔵庫の考えはロクでもねーだろ…』と。
若干感想がズレているが気にしてはいけない。
むしろ、彼女の好奇心で今後あちこちで改造家電製品…もとい兵器が誕生しそうな悪寒しかしなかった。

(…一瞬で対象を凍結粉砕する冷蔵庫(?)の皮を被った無駄兵器とかを造りかねん…)

「…そりゃ、ファウラを襲おうとしたんじゃねぇか?性的な意味で。流石に金目のモン目当てではねーだろうなぁ」

服装がまずボロボロのワンピースだ。とはいえ見た目美少女…ただしその実態は超凶悪な生体兵器。
その男は命があっただけマシなのだろう。いや幸運だ。うっかり殺されなくて。

(んな事よりこの娘、根っこが全然進歩してねぇ…大丈夫かホント)

頭を撫でた手を引っ込めていきつつ。取りあえず宙に浮かぶ紙袋に右手を伸ばし。

「……ほれ、食うか?何か「肉まん」とかいう食いモノらしいが」

取り出したのは肉まん。それをひとつファウラに差し出そうと。
彼女はまぁ、多分味覚機能はあるだろうし食べ物の分解機能も普通にあるだろうし。

ご案内:「スラム」に黒龍さんが現れました。
ご案内:「スラム」に黒龍さんが現れました。
ファウラ > 「らじゃー。了解しましたぁ。
 精神刺激薬の常用が推察される人物の発言は信憑性が低い、ですね。
 ファウラしっかり覚えましたぁ」

服の裾を握って見上げながら軽く敬礼。
とはいえそれが真実な可能性もあるわけで……
一応仲間に見えるように冷蔵庫の外見の瞬間冷凍機器でも作って呼び込んでみるのが早いかもしれない。
オープンザドアで開けた人物が凍り付くような機能をつけてやればきっと
味方と信じて胸襟を開いてくれるはずだ。

「以前も言いましたが私に該当する機能があるかどうかは記載されておりませんー
 ですので実地試験となる可能性が高いですがそれには詳細データが必要となるため
 あのような装備では不十分ですー。
 また、当機の外見年齢は人類における14歳相当ですので
 繁殖行動には適している年齢とはいいがたいと推察しますー」

小さく首を傾げつつ臆面もなく言う癖も変わっていないようで
効率面を重視するのは兵器ゆえか。
ロリータ好みの男性の存在をばっさり否定するような発言の為
世の青少女嗜好の男性が聞けば思わず真顔になるだろう

「にくまん?食べた事は無いのです。
 美味しい物はダイスキ、なのです」

楽しそうに受け取り躊躇なく口に含む。
これが別人なら警戒もしただろうが
相手が相手の為一切の警戒することなく口にするさまは
実に危なっかしいかもしれない。 

ご案内:「スラム」に黒龍さんが現れました。
黒龍 > 「……まぁ、全部が全部嘘とは限らねぇが、真偽を見分けるのも優秀な兵器としての性能の見せ所ってな?」

と、軽く敬礼をする少女にそう補足もしておく。彼女の分析能力の限度には興味はあるが。
そして、うっかり聞き流していたが常世支部って他にも支部とか本部があるのかその自称正義の電子練慈という団体は。

「……そういうぶっちゃける所も相変わらずっつぅかなんというか。
あーー実地試験するなら最初の相手は俺がやるわ。他の連中だといかん気がする」

性欲解消目的、というより地味に芽生えてしまった保護者視点的な考えだ。
どうでもいい情報だが、男の守備範囲は割りと広いので見た目が14歳程度でもさして問題は無い。
ある意味で、倫理観が一部薄いのは男がそういう世界で育ってきたからだ。

(繁殖行動云々は兎も角、感度とかそういう快楽方面が再現されてるかどうか、が問題だがな)

等と冷静に考えているが、内容はつまりエロなので色々と残念である。
彼女の言い回しからして、そこら辺りも効率重視の趣が伺えるのだが。

「……オマエ、俺相手だと全く警戒とかしねーのな…もちろん効果は無いだろうが、毒物とか混入してたらどーすんだ」

と、若干その無警戒さに呆れつつ。逆に言えば、完全に信頼、信用されているとも取れるが。
こちらもこちらで、紙袋から肉まんを取り出して口に運ぶ。忘れそうになるがここはスラムのど真ん中だ。

警戒心ゼロ、のように見えるがむしろこの二人に略奪なり強姦なりの目的で手を出した相手は…地獄を見る事になるかもしれない。

ファウラ > 「はむはむ……小麦粉を主体とした生地に別の具材を詰めたもの……
 にくまん、にくまん、記録しました。
 ……むぅ。私は情報処理AIとは別に自立思考型AIも搭載されていますし
 両立すれば余裕なのです」

頬張りつつ首を上下にフルフルと振る。
最悪衛星ごと通信を強奪して探索処理してやれば真偽のほどは掴めるだろう。
優先順位的にそれはおそらくもう少し先の事になるけれど。

「おじーさまの指示で一部データに閲覧制限がかかっているので
 許可が出ている範囲であれば検索してみますよぉ?
 とはいえ相手にも幾分かの耐久能力が必要と推察されるので
 条件は満たしているとはいえるかもしれませんね!」

聞きようによってはOKサインにも聞こえるが
良くも悪くも事実を伝えているだけだったりもする。

「はぃ、リブートの際に指示優先順位の更新がかかるですが
 初回に限り再起動者の順位を自身より上位に設定するよう私は設定されてるです。
 ですので勿論無効化も可能ですけど、上位者の指示や推奨による服毒は
 私の行動維持よりも優先されるのですよぉ?」

要は管理者がそう判断したならその指示に従うという事ではあり、
兵器として運用時に制御不可能にならない為のセーフティが設定されているともいう事だ。
その場合は機能維持のために毒素の隔離、同時に機能停止を行うため
実質毒にはほぼ完全耐性があるに近かったりもするのだが……

「なので警戒する必要項目をチェックしており
 その必要性はないと判断するですー」

間延びした声でニコニコとほほ笑みながらそんなことを口にする。
その様は平和に見えて、戦争続きの世界の理論でもあり
それを理解できるならこの場所が決して簒奪される者たちの場所ではないと
きっと理解できるだろう

……仮に理解できないような愚か者がいたとしたら
最悪数秒後にはスラムごと地面の染みになりかねないのだから
平和に見えて実に物騒な場面である。

ご案内:「スラム」に黒龍さんが現れました。
黒龍 > 「……俺の世界の兵器よりも高性能だわな…まぁ、その分機械生命とか普通にゴロゴロ居たりはしたが」

男の世界にも生体兵器、と呼ばれる類はあった。もちろん人型で男女問わず。
だが、彼女程の高性能…まだ機能はその一端しか見えていないが…まず存在しなかった訳で。

(…あっちに不利な条件が多かったとはいえよくあの時はコイツを制する事が出来たもんだ)

と、それだけ見ればただ無邪気に肉まんを頬張っているだけの少女を眺めつつ思う。
あと、優先順位とか以前に衛星ハックは洒落にならないだろう。
が、この時点でまだそこまでの機能がある事は男は知らないのだった。

「…そうだな、じゃあ検索よろしく頼むわ。つか、普通の人間じゃオマエとの性的行為は不可能だと思うが」

最低でも体力と持久力は相当無いと厳しい気がする。割とマジで。
そして、受け取り方しだいではオッケー発言にも聞こえる少女の言葉に、堂々と検索肯定していく男も男だが。

「別にオマエを機能停止とかする必要はねーからしねぇけどな。
…つか、変更可能とはいえ、ファウラの中では俺は管理者代行権限持ちにでもなってんのか?」

代行、と付けたのはそもそも彼女を作った、あるいは再起動させた最初の人物は己ではないからだ。
…と、いうか保護者通り越して何かとんでもない事になってる気がしないでもない。

(…殲滅の猛禽を従える隻腕の龍…なんて、冗談にもならねーわな)

少なくとも、彼女の判断を尊重はするしアレな権限行使をするつもりは無いのだが。
多分、機能とかそういうの込みで彼女もこちらの人格や精神を分析した上で懐いているのだろうか。

「…ってのは都合の良い考えでしかねーが」

と、最後は独り言のように口から零しつつ肉まんを食べ終える。
紙袋には他にもあんまん、ピザまん、チーズまん、チョコまんなど無駄に数種類入っている。
ついでなので、紙袋ごと全部ファウラに提供してしまおう。

ファウラ > 「むぐむぐ……らじゃーなのですー」

食べかけの肉まんを食べきり、笑顔のまま投げかけられた言葉に返答した。
そのまま少し離れると空中に手をかざし……その瞳から光が消え、

「上位権利者の認証を確認。
 検索ロック条件を一部解除します。
 データバンク、再接続……完了」

数秒無表情になり、オーダーを宣言する。
周囲の空中にいくつもの歯車のような陣が浮かび上がり
不思議な音を立てかみ合っていく。
それは魔導兵器としての存在を知らしめるような光景

「該当機能の確認。データの移送を行い
 通常モードに移行します」

それもわずか数秒の事。
指示者に通達する時間よりも短い間に処理自体は終わっているのだろう。
そうして瞳に色が戻ると同時に周囲の陣も掻き消えていく。

「ふむふむ、"ファウラ"には揺り篭としての機能も備わっているようですー。
 生体の遺伝子情報保存による人物のロールバックを目的とした物みたいですね。
 指揮官クラスが戦死した場合、再構築するためのデータ保存というところでしょぉか。実に効率的ですぅ。
 あと、当機は単独作戦を基本に設計されていますが
 分類上司令機体に相当するため高位指揮官の慰問用途や
 潜入時のハニートラップを可能な強襲機体としての役割もあるようですね!
 その為、生殖行動の対象としては実行可能のようです?
 ただその活動記録は白紙の上長い間リブートされていなかった機能ですので
 現在も正常に作動するかは不明ですー」

あっさりと検索結果を口にしていく。
続く問いにも小首をかしげて言葉を連ねるだろう。

「どうやら"私"の空間超越能力はあらかじめ想定されていたものみたいなのですよぉ
 それによると別領域に空間跳躍した場合、リブートする対象を
 その世界の上位権限者として認識するよう設定されていたみたいです?
 私を御する事が出来る程度の能力者、そしてある程度の思考能力の保持者なら
 制御可能であろうという設計思考と推察されますー」

渡された袋をガサガサしながら軽ーく告げていく。
どうやらチョコまんがお気に入りの香りだったらしく
かぶりついてはとろけそうな表情をみせていて。

ご案内:「スラム」に黒龍さんが現れました。
ご案内:「スラム」に黒龍さんが現れました。
黒龍 > (ほんと、こうやって見てれば無邪気な小娘なんだがな…)

等と思いつつ、暢気に会話しているようでスラムだからか男は周囲の状況確認を怠っていない。
もっとも、索敵や探知系統ならまず彼女の方が上手かもしれないが。

等と考えている間に、どうやら彼女の機能が切り替わったのか、暫く黙って眺めていた。
ついでに、煙草を一本口に咥えてから指先に魔術で火を点して先端へと点火。
検索が終わるまで、一服と洒落込みながらその様子を観察していく。

周囲に浮かぶ歯車じみた陣…魔方陣、というには少々機械的、科学的なイメージが強い。
だが、魔術らしさもある辺り…成る程、今更ながらに思う。相当に高度な生体兵器だ、と。
そして、想定より短い時間で検索が終了した様子。彼女の表情や瞳、雰囲気が元に戻る。
そして、先程まで宙に浮かび上がっていた歯車の陣も消えていく。

「…指揮官機っつぅ事はアレか。ファウラと同タイプのが他にも結構居たって事か。
しかし、遺伝子情報保存にロールバック…で、高官の慰問用途にハニートラップ…と。」

成る程、大体把握したとばかりに緩く頷いた。煙草を吹かしながら少し考えて。
万能すぎて弱点らしい弱点が直ぐには見出せない。とはいえ完全無欠でもないだろう。
別にそこを突く気は全く無いが、彼女の弱点もあるなら気になる所ではある。

「…つまり、俺の戦闘能力と思考能力が条件を満たしていた、と。
まぁ、オマエがこっちで再起動して最初に遭遇したのが俺だしな…」

とはいえ、上位権限…ファウラ程の高性能なら、あちらから権限の書き換えなど簡単だろうが。
むしろ、懐かれているのが上位権限のそれなのか、そこが少しわからない。
チョコまんが気に入ったのか、何かかぶりついて幸せそうにしているファウラを眺め。

「…あ、質問つか可能なら頼みが一つ。見ての通り、俺は左腕を欠損しててな。
そっちで何か代替可能な義手か、もしくはそれに近いモノとか用意できたりしねーか?」

フと思いついてたずねる。あくまで可能なら、であるが。
それに、彼女が用意するのはメインはやはり武器、兵装関連だろう。
スペアパーツ、という意味合いでならあるかもしれないがサイズは彼女の腕になりそうだし。
まぁ、もしあれば譲って欲しいという程度のものだ。ささやかながら見返りも考えている。

ご案内:「スラム」に黒龍さんが現れました。
ファウラ > 「一応ファウラと同じ設計思想を持つものはいくつかありますけど
 ファウラはプロトタイプなのです!
 というよりファウラ程の実戦能力を持つ機体が生産される前に
 戦争が終結したですよぉ?
 両方滅んじゃえば戦争は終わるのです!」

胸を張って物騒な事を笑顔で言い切る。
結果として潜入も、指揮官も必要なかった。
純潔の鷹は純潔のままで全てを、全部殺してしまえば良かったのだから。
彼女が再び目覚め、その話をお爺さんにしたとき
彼は涙を流していた。その理由は未だにわからない。

「一応他試験機のデータがフィードバックされてるですけど
 実際使う事は無かったみたいですね!
 だからファウラ忘れてたのかな?思い出せないこと、沢山あるです」

とは言え当時ほどの出力はこの環境では出せないとも思う。
あちらとは重力も、気圧も、世界の広さすらも違った。
そしてほぼ無尽蔵のエネルギー供給があったからこそ
十二分にその機能を動かせたわけで……
此方では供給可能な動力は2~3割程度で……。
供給手段が大幅に制限された上に条件が悪い此方では
あれほどの攻勢は出来ないだろう。
大量生産を度外視したプロトタイプゆえに燃費が悪すぎる。
この先この世界で生き続けるならば……もしかしたら
この機能も必要になってくるのかもしれない。

「腕、ですか?」

きょとんと首を傾げる。
むしろ無理な理由が思いつかないレベルだった。
多少の強度……流石に龍種の頑強さまで再現しようとなると厳しいが
生きている生体……遺伝子情報が目の前にあれば、人の腕ベースの構成であれば
容易に構築できるだろう。それも秒単位で。
彼女の修復機能をちょっと転用してやるだけなのだから。

「ビームが出るのと、ドリル付きと
 ガトリングとか、複数関節の軟体用とか…
 あ、一応面白くないですけど普通(当社比)の腕も可能ですよぉ?」

さらっと答えて首を傾げる