2017/09/02 のログ
ご案内:「スラム」に陽太さんが現れました。
陽太 > 子供たちが生きる場所としては、スラムはあまりにも厳しく劣悪だ。
酷く不衛生で流行り病にはすぐかかるし治らない。
捨てられた子供は食べ物にも、家にさえありつけない。

おまけに、度々風紀委員と住人が引き起こす戦闘に巻き込まれて死んでしまうこともある。

スラムで暮らす子供にとっては、親を亡くすことは死も同義。
生き残った子供にも、優しい幸せな未来など待ってはいない。
今スラムで生きる大人達のように、地べた這いずり回って汚い生き方しかできないのだ。

そんなスラムの子供たちにとって地獄でしかない夏が終わろうとしている。
勿論冬も地獄だし、そもそも年中地獄である。
だが、食べ物が簡単に腐る季節は一先ず終わりなのは幸いだろう。

「すずしくなってきたなー!」

そんな憐れなスラムの孤児の1人である陽太は、今日も道行く人から頂戴した財布を整理しながら機嫌よさそうに笑った。
ボロ屋は今日は知らない男が寝床にしているので帰れない。
朽ちた橋の下をとりあえず寝床と定めたようで、そこで胡座をかいて財布の中から僅かな紙幣を抜き取る作業を繰り返している。

陽太 > 数え終わった紙幣を擦り切れた麻袋に突っ込む。

「今日は10まい!
んー。まあまあだなー」

紙幣の種類なんて分かりませんがなにか、というあっけらかんとした表情で自慢げに胸を反らす。
麻袋を伸びきったポケットに突っ込み、今日のしごとは終わり。

そのまま地面に横たわり、藁を被って目を瞑る。
暫く動かずそのままだったが、急にがばっと藁を蹴飛ばして叫んだ。

「ねれない!!!」

細かい作業を繰り返したせいで、目が冴えてしまったらしい。
ふんすふんすと興奮したように息をしながら飛び起きて、橋の下から駆け出した。

「よし、さんぽしよ!」

ご案内:「スラム」に風間理音さんが現れました。
陽太 > 夜のスラムは、静まらない。
寧ろ本格的に動き出す闇がある。

そんな闇が蔓延る道を、
我がもののような顔をして歩く小さな少年。
夜の闇よりも深い深い闇色の瞳は何も映さない。
しかし、楽しげに足は下手くそなステップを踏んでいる。

どん、と男と身体がぶつかる。

『ッチ!どこ見て歩いてんだ糞ガキ!!』
「うわ!ごめんなさい!だいじょうぶか!?」

あわあわする陽太に、男は少し眉を顰めた。
スラムの孤児には珍しいタイプだ。
____明るすぎる。

ゾッと背筋に何かが走る。
それを振り払って、男は陽太を睨む。

『....分かったからとっとと行けよ。殺すぞ』
「はーい!」

逃げるように男が去ってゆく。
その後ろ姿を見つめながら、陽太は悪戯っぽく無邪気に笑った。

「ゲットだぜ!」

その小さな手には、擦り切れた紙幣が2枚握られていた。

風間理音 > 今日も今日とて、窃盗グループの会合が終わり。
スラムにこれと言って用事があるはずもなく、
真っすぐ自分の部屋へ戻ろうと歩いていた時。

「あ、子供…うわ、ぶつかった」

橋の下から子供が駆け出してくるのが見えた。
この時間に出歩く子供も珍しい。
何やら道行く男と衝突したようだが、トラブルが起きようと知ったことではない。
むしろ自分が巻き込まれないように、なんて脳裏によぎった時。
偶然、少年の手が男のズボン、そのポケットに伸びた瞬間を目撃する。

「うーわ、盗った。なにあれ、めちゃくちゃ慣れてんじゃん…」

自分が戻るには、少年の居る方に歩くしかない。
しかし、近づくのはどうだろう、と道の真ん中で悩む。
人通りの少ない夜のスラム、女一人で立ちつくす姿は、逆に目立ってしまっていた。

陽太 > 紙幣をポケットにふたつ折にして仕舞い込む。
犯罪の後とは思えないぐらいの無垢な笑顔を浮かべて、
ふんふんと下手くそな鼻歌を歌いながら散歩を続行しようとすると...。

「ん?だれだろあのひと」

こちらに向かってくる女性。
スラムにいるにしては綺麗すぎる格好に純粋に興味を持つ。
とたとたと一直線に駆け寄ると、見上げながら無邪気に声をかける。

「なあなあ、なにしてんの!?
ここのやつじゃないよね?!」

興奮に紅潮させた頬と、輝くような笑顔。
表情は豊かだが瞳は真っ黒な闇だ。

風間理音 > 隠れるか、素知らぬふりをしてスルーか。
どうするべきか思案していたのはほんの少しの間だった。
気付けば少年はこちらに近づき、あろうことか自分に声を掛けてきている。
少し困った様子を浮かべつつ、それを取り繕うように笑みを浮かべると。

「え?いやー…道に迷っちゃって、あはは」

まさか犯罪グループの会合だとも言えず、へたくそな演技でごまかし。
さりげなく、財布やその他貴重品の入ったポーチを胸元で
がっちり抱え込みながら、少年の顔を覗き込み。

「君は何してるの?こんな時間に出歩いてたらアブナイっしょ?」

これは純粋な興味。
笑みはそのままに、小首を傾げながら訪ねてみた。

陽太 > 「そうなの!?だいじょうぶ?」

相手が取り繕った言葉だと気づかないまま。
心配そうに首を傾けながら、「おれ案内できるぞ?」と尋ねる。
いくら自分が嘘をつけても子供は単純なので、簡単に騙されるのだ。

「んーっと、さんぽ!」

がっちり抑え込まれた金銭にはちょっと残念そうに眉を下げながらも、
どこにでもいる小学生のように元気よく答える。

「あんたもおんなのひとなんだから危ないとおもう!
きをつけなきゃ!」

一丁前にそう諭そうとする。
ふつうに入った路地で性犯罪が蔓延してたとかありがちな話。
その場にいた女性の苦痛の表情を思い出し、純粋に心配して注意をしようと思ったらしい。

「おれはへいき!つよいから!」

えへん、と自慢げにちいさな胸を張った。

風間理音 > 「それじゃ、歓楽街の方まで案内してもらおっかな?」

反応そのものは、無邪気な子供のそれ。
濁り切った瞳は土地柄かとあえてスルーし。
こちらの心配をする言葉に、クスリと笑うと。

「…っぷ、くく…そうだね、気を付けるよ。あ、アメ舐める?」

人から心配されるのなど、いつ以来だろうか。
それが子供相手というのが少し可笑しく、
つい吹き出してしまった。
そのお詫びというわけでもないが、スカートのポケットから
小さな飴玉の子袋を取り出し、少年に差し出して。

「心強いなー。小さいのに随分肝座ってるし」

言いながら、先ほど紙幣を仕舞ったポケットを指差した。