2018/07/03 のログ
ご案内:「スラム」に神代理夫さんが現れました。
ご案内:「スラム」から神代理夫さんが去りました。
ご案内:「スラム」に神代理央さんが現れました。
神代理央 > 興味本位に覗き込んでいたカプセルから視線を外す事になったのは、異形の砲塔が天井を擦る破砕音とは違う音が響いたが故。
最初は聞き間違いかと思ったものの、奇妙な囁きの様な、呟きの様な声が耳を打てば僅かに息を吐き出して視線を移す事になる。

「…どうやら迷子では無さそうだが、此処に何か用件でもあったかね?忘れ物や回収物の類なら、残念ながら受け入れる事は出来ないが」

醜い金属の異形は、主の意思に従って相手にゆっくりと砲塔を向ける。金属が拉げる音が地下駐車場内に響き渡り、重量を支えるコンクリートの床が悲鳴を上げた。

NσNαmθ >   
『この分なら連れて行ったものも期待できないか。
 無駄足ばかりで嫌になるな」

風紀委員の目の前で、当たり前のように証拠となるものをきれいさっぱり消し去っていく。
投げかけられた言葉と砲塔はただ一瞥、視線を一瞬向けるだけ。

『全く、想像力とかそういうものは無いのかな
 まだ猿真似するだけ猿の方がましだ
 ……まぁどーでもいっかぁ』

一瞬混ざった苛立ちはすぐに無感情な響きへと戻る。
投げかけられた声がまるで聞こえなかったかのように検体(証拠)を片端から消していく姿は
文字通り風紀委員など眼中にないと言わんばかり……だったが

『受け入れられないなら好きにすればいい。
 元々これは予定調和なんだから』

無表情な響きのまま、手を止めることなく返答に似たものを返す。
風紀委員の上層部はそろそろ気が付いているはずだ。
今回は余りにも警備が笊過ぎる。恐らくこの襲来は予知されたもの。
制圧に必要な手駒だけを現場に急行させ、此方を釣るつもりなのだろう。
これ見よがしに少ない人員配置にもみ消しやすいスラムのこの場所……。
お粗末なものだ。この程度の罠で何とかなると思っている辺り
此方の手段すら把握できていないと自白するようなもの。おめでたいとしか言いようがない。
まぁお陰で数人”消す”程度で済んだのだから此方としてはありがたいけれど。

『お掃除と釣り餌役ご苦労様
 無駄足だけどね』

風紀委員はある程度のクラスになれば映像記憶端子を持ち歩く。
恐らく本人は知らなくともそれは確実に起動しているだろう。
だからと言ってわざわざ”都合の良い痕跡以外”を残してあげるつもりもない。
それを見たものは驚くだろう。ずっと見ていたはずのそれらが
いつの間にか全て消えているなんて。
そんな映像に映るのは風紀委員ただ独りの姿と声だけなのだから。
普通であれば正気を疑うような出来事だ。

『別に君には興味ないから邪魔しないなら帰っていいよ
 文句は上司に言って。映像記録に独り言王子として残る羽目になったって』

……それに関して目前の彼が責任を問われるかもしれないが
まぁ状況が理解できないほど”視聴者”も馬鹿ではないと信じたい。

神代理央 > 状況を理解する前に、投げかけられた言葉を咀嚼して眉間に皺を寄せる。
別に相手の言葉が不快だったとか、挑発的な言葉に苛立った訳ではない。ただ『予定調和』『釣り餌』という言葉からどうにも宜しくない状況に追い込まれている事と、それを上層部が承知の上である事を察したが故。
囮になるのは別段構わないのだが、それならせめて近接戦闘か魔術に長けた者を置くべきでは無いかと思うのだが―

「…ああ、成る程。確かに、時間稼ぎとデータ収集用の雑兵役にはうってつけと言うわけか」

此方の異能は、物量で押し切るタイプのもの。とどのつまり、自分一人でも異形を処理される時間や対処方法を記録出来れば相手の情報を得る事になるのだろう。
五体満足で帰れれば良いが、と溜息と独り言を吐き出す。

「邪魔などしないさ。寧ろ手伝ってやろう。要するに、この施設の出来損ないとやらを消去したいのだろう?」

相手の行動は、回収されたく無いモノを処分している…様に見える。そして、それを我が身一つで止めるというのははなから頭に無い。
ならば、どうせ処分される証拠品等、気を遣っても仕方ないだろう。

「…独り言王子か。ジョークのセンスは余り無い様だな」

そんな不名誉なあだ名をつけられた日には、スラム街の一区画消し飛ばしてしまうかも知れない。
言葉と口調こそ軽口めいたものであったが、その言葉を終えると共に異形の砲塔が火を吹いた。
轟音と共に、大口径の機関砲が唸りを上げて相手に放たれる。柱や機材が流れ弾で次々と消し飛ばされるが、知ったことではない。

NσNαmθ >   
『……うん、三つ助言をしてあげよう』

文字通りの砲撃の嵐に爆風と衝撃、機材の破片が
赤く染まった施設内を駆け抜ける。
それは通り過ぎるモノを等しく引き裂き、
そこにあるモノを物体に帰す……はずだった。
施設内に立ち込めた砂塵と煙、反響し止まぬ轟音の中
やけに明瞭にその声が響く。

『一つ。この会話、君の声と行動しか記録に残ってないよ?
 だから”データ取り”は無意味。
 二つ。君は今すぐ帰って上司を変えた方が良い。
 君の上司は無能だ。
 そして三つ』

煙の中央には先ほどと変わらない姿のまま、
初めてそちらに顔を向けたソレが立っていた。

『砲撃はちゃんと狙わないと当たらないよ?』

くすくすと不思議な声で笑うそれが立つ周囲には砂ぼこりこそあれ、
肝心の着弾痕は一つも見られない。
それに向かって撃ったはずの弾丸は全て、あらぬ方向に向かって発射され
全く別の目標へと着弾している。
傍目には突然、風紀委員が証拠隠滅を始めたように見えるような、そんな具合に。

神代理央 > 「…まあ、これで片がつく等と楽観視はしていなかったが…」

砲音と破砕音の中から響く声。
どうやら、機関砲程度では足止めどころか行動を阻害する事も難しい様だ。

「御助言感謝しよう。とは言っても、此方も宮仕え故な。無意味と分かっていてもしなければならん事もある」

視界に映るのは、異様な模様の描かれた仮面。姿也や声からは男女の区別すらつけがたい。というよりも、その存在を認識しようとする事が難しい。それも能力の類だろうかと、眉間の皺をより深くする事になる。

「その様だな。射撃の腕は余り悪くないつもりだったが、まだまだ練習が必要か」

小さな舌打ちと共に、銃撃を停止。後に残ったのは、粉砕された機材や砕かれたコンクリートの破片ばかり。
追加の異形を召喚するにも、室内では本来の火力が発揮出来ない。仮に召喚したとして、飽和する火力は施設の倒壊を招きかねない。
ならば、他の委員達が来るまでどう時間を稼ぐべきか。僅かな思案の後、今度は深い溜息を吐き出した。

「どうせ、俺が何を言っても独り言なのだろう?なら、他の委員が来るまで時間つぶしに付き合え。どうせ、それまでには痕跡も残さず撤退する段取りも出来ているのだろう?」

相手の言動から察するに、応援が来たところで捕らえられるとは到底思えない。ならば、風紀委員としてではなく個人的な興味――実家への報告も兼ねて――で相手と接する事にした。
何か意味のある会話が出来れば儲けもの。最悪、取り敢えず無傷で帰還出来ればそれで十分だろうと割り切った。

NσNαmθ >   
『さて、彼らはこの光景をどう見るだろう。
 カワイソウな実験を前に若い勇士は義憤に震え、敵を演じる事で
 すべてを無に帰そうとした……うん、若い情熱とは素晴らしいね。
 それとも余りの悲しみと怒りに錯乱し、
 幻覚に取りつかれ周囲を焼き尽くした……か?
 結果だけ見ればそうだけど想像力の欠片もない結論だね。
 まぁ道理か。此処まで後手に回っているのだから。
 故に責任を押し付ける羊が必要なわけだね」

ある意味ソレは彼にとってとても相性の悪い相手かもしれない。
認識操作、空間掌握、攻撃する際のコンマ数秒の意識の空白化……
”たったこれだけ”で銃撃など意味を為さない代物になる。
そしてそれらは仮に理解できたとしても……

『自爆位しか当てる方法がないというのもかわいそうな話』

そして相対した相手であれば、それもまた無意味であることが理解できるだろう。
無意識に”隙間”を作られてそこに潜り込まれれば御仕舞だからだ。

『嗚呼、応援なら来ないよ。来れないというのが正しいかな。
 このあたりで生存者は敵味方含め”君独り”だから。
 それにそもそも君が追いかけた幹部はともかく
 それを追いかけた同僚は元々そういう”手筈になっていた”のだから。
 だから安心して死んで?』

実に軽く言い放つと左手がゆっくりと上がる。
その指先に波紋のような波と共に漆黒の円が広がっていく。
――が、

『暇つぶし?良いよ』

何処か無邪気な声で答えると、一瞬何かを握りつぶすような動きをする。
そのままその縁の中から何やら人が駄目になりそうな独り用の白いソファと
白磁のティーセットを引っ張り出した。
宙に浮かんだそれに腰かけ、先ほどまでの喧騒などなかったかのように
場違いな雰囲気で宙に浮くカップに紅茶を満たしながら指を鳴らし

『あ、適当に座って?』

それが合図であったかのようにいくつもの様々な椅子が次々と浮かび、
音を立てて瞬く間に地面を埋めていく。
手のひらサイズや王族もかくやと言ったもの、
繊細なアンティークな物から拷問器具まで並ぶあたり実に無節操。

神代理央 > 「残念ながら、義憤に燃えるような性格でもなければ、合成生物の悲哀に発狂する程慈愛の心を持ち合わせている訳でも無い。まあ、精々言い訳だけはさせて貰うとしよう」

その『言い訳』の為に多額の現金が動く事になるのだが、寧ろ金で解決する話なら何とでもなる。
そもそも、言い訳する為に無事に帰還しなければならない訳で―

「……光栄だな。唯一の生存者であることを喜ぶべきか。それとも、同僚達の死を嘆き、義憤し、後を追うべきか」

正直、碌に話もしたことのない同僚達に憐憫の情など無い。
任務で死ぬなら仕方のない事だし、それは自分自身にも言える事だ。
そして、上げられた左手に対応すべく異形を召喚しようとするが―

「………椅子の数くらいは調整したまえよ。パーティを開くには、些か人数不足だと思うがね」

地面を埋め尽くす無数の椅子を眺めて、場違いなほど呑気な感想を一つ。というよりも、突然戦意を無くした様に見える相手の行動に呆気に取られたという方が正しいか。

「紅茶を嗜むには些か趣が無いが…まあ、致し方無いか。どうせ暇つぶしだ。格式に拘る事もあるまい」

アンティーク調の椅子に腰掛け、小さく肩を竦める。
場所が場所なら相手の服装は――仮面は別として――この茶会に良く似合うのだろうが、血溜まりと銃痕に覆われた地下では、ただひたすらに違和感しか無い光景であった。
そういえば、やっと落ち着いて相手の姿を眺める事が出来るなと、しげしげと視線を向ける。こうして見れば、完全に認識と記憶が出来ずとも、女性では無いか、程度の判断は出来るが、正直それが正しい自信は無い。

NσNαmθ >   
発狂したと思われるような光景を描き、あとは本人を消してしまう事で
この情報はそれこそ信ぴょう性の無いものとなってしまう。
戯れに撹乱するような情報だけ残し、少し風紀委員で遊んでやろうか。
そんな風に考えていたが何気ない一言で文字通り気が変わった。
余計な情報は与えるつもりはないため情報端子ごと”握りつぶす”。
実況情報はもう十分与えてあげた。
遊び足りなさそうな向こう側の相手はこんな物でも十分。
それよりも……

『んふ、ちゃーんと聞かせて?君の物語』

こういった変わり気と思考が最も狂人と言われる所以かもしれない。
普通は理解できないだろう。多数の命とプライドなどより
目の前の小さな物語の方がよほど興味があるなどと。
彼女の中の重要度はいつも不定形で気まぐれだ。

『ああ、話しやすいように……
 うーん、”私”の方が良いかな?』

そんな呟きと瞬き一つの間にその姿が何処か見慣れたものに変わる。
青と白のエプロンドレスにトランプを模ったソックスと質素なブーツ
想像しやすい姿のロリータスタイルの”アリス”の顔をしたそれは
にこにこと優しい笑みを浮かべ

「じゃあお茶会をはじめよっか
 ”帽子屋”さん?」

凄惨な舞台の上、仮初の平和の中、
茶菓子と紅茶に囲まれた無邪気な少女の声で笑った。

神代理央 > 「俺の話、か?さして面白みのない話だと思うが。囮にされた哀れな風紀委員の話で貴様が満足すると言うなら、別に構わんがな」

躊躇いなくカップに手を伸ばしつつ、怪訝そうな表情で首を傾げる。
戯れに過ぎないのかも知れないが、此方が持つ情報だの、命乞いする様を望むのでは無く、身の上話をせがまれるとは思ってもみなかった。
そんな事を思いながら、手に取ったカップに口をつけ―

「…もう少し砂糖が欲し……姿も変えられるのか。いや、寧ろ、その程度の事が出来ない訳も無いか」

図々しくも砂糖を要求しようとして、姿を変えた『彼女』に呆れた様に溜息を一つ。
だが、次いで耳を打つ彼女の言葉に、可笑しそうに笑みを浮かべるだろう。

「俺からすれば、『狂った帽子屋』は貴様の方なのだがな。まあ、精々終わらぬお茶会の主として、貴様をもてなしてやるとしよう」

尊大な口調と共に笑みを浮かべると、彼女に小さくカップを掲げた。

NσNαmθ >   
「面白くないかは私達が決めるよ。
 少なくとも踏みつぶすよりは楽しいと思うの」

とんっと指先で突かれた(eat me)と書かれたシュガーポットがふよふよと宙を舞う。
何故か和風の割合が若干多い茶菓子がお皿の上でくるくると回り続ける。
重力すら狂ったようなその光景の中その主は無邪気に微笑む。

「それはそうだよ。私はワタシで、ボクでもありわし等その全てでもある。
 そんな些細な事で世界なんか変わっちゃうんだから。穴に落ちたとかそんな理由でね」

宙に浮く駄目になりそうなソファがぐるりと逆さに回り
それにぶら下がるような姿になりながらも姿勢が変わることもない。
間違いなくこの場では狂人がどちらかなどと考えるまでもない程
それは違和感の塊でありながらも
まるで冒険譚をせがむ子供のように期待に満ちた表情を浮かべ
はたと思いついたように両の手の指をそろえる。。

「上手くいけば誕生日じゃない日おめでとうって言えるよ
 それってつまり、生きて帰れるってことでしょ?」

その言葉はその姿通り残酷な無邪気さで満ちていた。

神代理央 > 「ふむ、確かに話の評価は聞き手の主観に委ねるべきか。踏み潰されるのは性に合わんし、良い語り手である努力をするとしよう」

宙を舞うシュガーポットを手に取り、中の砂糖を多めに注ぎ入れる。
過度な糖分を含んだ紅茶で喉を潤し、茶菓子の中から比較的甘そうな物を選んで口に含む。
この狂気じみた光景でのほほんと紅茶を味わえるのは、別に自分が豪胆だとか、狂気に取り憑かれたとかそんな訳では無い。
眼前の光景を全て受け入れ、咀嚼し、その中で尚、本来の己であり続ける事は数少ない自分の矜持なだけである。

「穴に落ち、世界が変わり、それでアリスは幸せになったのかは知らんがね。ところで、行儀が悪いぞ。せめてちゃんと座れ、はしたない」

彼女は狂人であり、自身は普通の人間である。
だからこそ、特段接する態度を変える事もなければ、その狂気に合わせる事も無い。例えどんなに違和感と狂気が此の場を支配しようとも、それが己の眼前で起こっている以上、それは少なくとも己に取っては紛うことなき現実なのだ。
そして、現実に逆らって理性を失う程、リスクに見合わない行動を取るつもりは無い。こうあることはそうあることだ、とあるがままを受け入れて尚、己自身として彼女と相対するだけの事。

「おや、物騒な話だ。てっきり、見目麗しい女性とお茶を楽しめる事を祝えるのかと思っていたんだが」

眼前の少女が本来の姿をしているかはさておき、その容姿が良い事はそれもまた事実。
そんな冗談めいた言葉と共に小さく肩を竦めると、静かにカップを置いて―

「そうだな、別に必要も無いし知っているかも知れんが、名前だけは名乗っておこうか。私は神代理央。学園の一年生で風紀委員。別に覚えなくても構わないが」

淡々と名前を告げて、他に何か聞きたいことはあるかと言わんばかりに首を傾げた。

NσNαmθ >   
「楽しみだなぁ。楽しみだなぁ」

この施設を含め、最早ここは彼女の世界。
世界に色を添えるのは登場人物の物語。
物語は楽しければ楽しいほどいい。

「はーぃ」

軽い返事と共に椅子がくるりと周り
それに両手をそろえて行儀良く腰掛ける。
僅かに首を傾げる様はそこだけ見れば小さなレディのよう。
何処までも望まれた人形のような所作のそれは
まるでそう作られたかのように人形らしい動きで微笑む。

「名前、名前……
 じゃあ一つ目だね」

いつからだろうか。長机の横に並んだ椅子の列に一つの人影が座っている。
その姿を何処かで見たことがあるだろう。幹部を追いかけて行った風紀委員の一人なのだから。
しかしその目に光は宿っておらず、ただ椅子に座っているだけでピクリとも動かない。

「二つ目は何かなぁ
 なんでもいいよ?
 それとも人形遊びでもする?」

噛みあっているようでかみ合ってない会話のままその指が躍る。
それに合わせて食器が舞い、いつの間にか現れていた草木が歌い
”人形”が躍り始める。

「まだ、まだ足りないの。
 全然足りないよ。
 君は名前なの?
 君の世界は名前で終わりなの?
 それならもうおしまい?」

戯曲のような世界のなか、深淵の闇を覗かせる笑みがその口端に溢れる。
もっと、もっと欲しい。まるで小さな子供のように
一枚ずつ曝け出せと迫る笑みは狂気を孕んでいて

神代理央 > 「宜しい。行儀の良い子は好きだぞ。手がかからないからな」

意外と聞き分けが良いのだな、と少し驚いた様な色の表情を浮かべる。
尤も、その表情は直ぐにかき消えて、思案に耽る様な表情になるのだが。

「…人形にしてはセンスが無いな。もう少し可愛げのあるものにしたらどうだ」

いつの間にか現れた人影に視線を向け、一瞬瞳の色を暗くする。しかし、興味を失ったかの様に彼女に視線を戻せば、肩を竦めて言葉を続けて―

「欲張りな事だ。俺としては、お前の話も聞きたいものだが。お前の望む様に俺を差し出せば、お前はお前自身を差し出すのか?いや、それでは入れ替わるだけだな。
帽子屋がアリスになるなど出来の悪い二次創作だ。それではつまらんから、お前だけ寄越せ。紅茶に溶けるくらいの事はお前でも出来るだろう?だから寄越せ。全部寄越せ。
………いや、違う。違う。俺は今何を言った?すまない、忘れろ」

出来の悪い幻想に迷い込んだかの様な風景の中、自身が告げる言葉が一瞬彼女の狂気に飲まれる。
それは、彼女と対峙してから尤も焦りを覚えた瞬間でもある。彼女と相対する際に尤も必要な理性が溶け、己の本能に狂気が混ざる。獣の様な本性が狂気で鈍り、暴食の悪魔の様に求め続けるだけの欲望が頭をもたげる。
それを再び理性で押さえ込み、大きく息を吐き出して椅子に深く身を預けた。

NσNαmθ >   
「”ありすはいいこだから”」

行儀のよい姿勢と表情に戻ったそれは
姿に相応しい、けれど少し幼い口調で微笑む。

「だって、パパがくれるおにんぎょうは
 ぜんぶこんなふうなの。
 すぐこわれちゃうからね、ありすあそびかたをおぼえたの。
 ぜんぶ、ぜんぶありすがうごかせば、みーんないっしょ」

そうして指を躍らせれば
人形たちはクルクルと輪舞を踊る。
張り付いたような表情で、幸せそうな笑みを浮かべて。
けれど……

「……くす」

寄越せ……その言葉にきょとんとした表情を浮かべていたそれは顔を伏せる。
くすくすと耳をくすぐる鈴のような笑い声と共にその肩が揺れた。
それは次第に大きくなり、ついには楽しげで朗らかな、けれど空虚な笑い声を響かせる。

「おにいちゃんは、アリス(お砂糖)が欲しいの?
 いいよ?”私”、がほしいなら」

噴出する狂気に当てられたかのように周りがすべて動きを止める。
その中で、小さな影が彼の膝元へとゆっくりと舞い降りた。
先ほどまで相対していたはずのそれは
幼い容姿には似合わぬ程妖艶な笑みを浮かべ
”彼”を見上げ微笑んでいる。
宙に浮かんでいた”少女”は何時しかまた姿を変え、
くすくすととてもよく似た笑い声を響かせていた。

「嗚呼、その子は君のモノ騙りが気に入ったみたいだ
 ”その子”はあげるよ。……よかったね、Λ1icθ。
 またキミで遊んでくれるヒトが見つかったみたいで」

そう、これは彼女の物語であり、”あの子”の物語。
正気を蝕む甘い甘い砂糖菓子のような。

神代理央 > 「直ぐ壊れるのは、使い方の問題だろう。物は大切にすべきだと思うがな」

先程に比べ、幼い印象を受ける少女。
いや、見た目は十分幼いのだが、外見では無く内面が幼くなったような、そんな些細な違和感。
尤も、周囲は違和感しかない空間なので気の所為かと首を振ったのだが―

「…違う。違うと言っている。俺の、俺の中を汚すな。闘争も無く、屈服もさせず奪うだけなんて、そんなつまらん事をするものか…!」

狂気にあてられた、というよりは、狂気によって理性が解け、本能に狂気が混じった様な感覚。
闘争を求める心が、収奪と嗜虐と暴虐を求めるものに変質する。
それを抑え込もうとしても、突然眼前に現れた少女の姿が視界に映れば、紫煙の様に正気は揺らぐ。
『あげるよ』と、此方に差し出すのだと、己に献上するのだと言うのだから、遠慮なく受け取れば良い。そして、思うがままに、好きなように貪れば良いのだと――

「…必要、無い。俺が、そんな施しを受けるものか。コレは貴様のモノだろう。ならば、貴様が責任を以て遊んでやれ」

唇を噛み締め、口内に血が広がる。全く甘みの無い鉄の味に漸く理性を取り戻し、膝下の少女を避ける様に立ち上がると、仏頂面を浮かべて 『彼女』を見上げた。

「少しばかり気が動転した様だ。見苦しい真似を見せた。謝罪しよう。この詫びは、次会った時にさせてくれ。今日は、帰る」

口調と態度だけは、何とか『己』で有ることが出来た。
まるで街中で知り合いと別れるかの様に言葉を告げると、何の警戒もせず彼女に背を向けて施設から立ち去るのだろう。
それは、彼女が背中から撃つような事はしないだろうというある意味での信頼。というよりも、背中から撃つくらいならとうの昔に殺されていただろうし。

本来なら、まだ彼女から情報を引き出す努力をすべきだった。
意味のある会話では無くても、増援を信じて時間を稼ぐべきだった。それでも此の場から立ち去る選択をしたのは、己が狂気に取り込まれかけた事への苛立ちと恐怖故。
だが、既に狂気の種は植え付けられた。本来自身が持つ傲慢かつ嗜虐的な本性は、彼女と出会った事によって変質していく―かもしれない。

NσNαmθ >   
「おにいちゃん、行っちゃったね」
「そうだね、行ってしまったね」

去っていくその背中を見送りながらくすくすと悪戯が成功したかのように笑い声を響かせる。
一人減ったお茶会は、まるで時間が止まったかのよう。
それは次第に色を失い、灰色へと色を変えていく。
その中にチシャ猫のような笑い声だけが残り続ける。

「ねぇ、あのヒトの想いは甘いかなぁ?」
「どうだろう」
「――ありすね、みつけたよ」
「それは良かった。君のお気に入りが見つかってボクも嬉しいよ」

灰色のお茶会はその形を失い、崩れていく。
主賓が居なくなれば彼女の世界を維持する必要もない。
崩れていく世界の中、同じように崩れていく体を眺め
二人は声を揃え呟いた。

「「ああ……ちゃんと殺して(壊して)くれるかなぁ」」

一瞬の静寂の後、笑い声が響く。
壊れた人形(アリス)は玩具を見つけてしまった。
ならば望みはただ一つ。

「「さぁもっと、もっとあまぁぃ夢を!!」」

愛しきものにドロドロに煮詰まったカラメル色の凌辱を。
心を漬けて、体を溶かして
二度と、他を口に出来ないほど
あまぁぃあまぁぃ幻想を届けよう。

「……沢山”愛して(汚して)あげましょうね。”」

それが私たちが作られた理由なのだから。
そう言って笑いあう人形ごと、指なりの音と共に辺りは漆黒の沼に包まれる。
翌日其処にはぽっかりと空いた穴が残っていた。
襲撃したはずの風紀委員も、その組織構成員も
まるで初めからいなかったかのように不自然なまでに綺麗さっぱり消え去っていた。
仮に彼らについて記憶がある者が他の誰かに尋ねたならこういわれるだろう。

「だれ?それ」と。

鏡面のように鋭利に切り取られた其処には
割れたティーカップが一つだけ。
そこには「eat me」の文字が刻印され
小さな角砂糖がそばに転がっている。
それらもまた、削られた水道管などからあふれた水に溶け
……ゆっくりと溶けて混じっていった。

そう、まるで
――彼女の狂気はまだ終わりなどしないと告げるかのように。

ご案内:「スラム」から神代理央さんが去りました。
ご案内:「スラム」からNσNαmθさんが去りました。