2016/06/23 のログ
ご案内:「魔術学部棟第三研究室」に獅南蒼二さんが現れました。
獅南蒼二 > 1年ぶりに顔を出した職員会議の後,獅南はリビドーに手渡された土産を紐解いた。
そしてなんともあっさり夜が明けて,翌日の昼を迎えた。
いつもの事である。

「………もうこんな時間か。」

机上に置かれたデジタル時計が12:00の電子音を鳴らした。
かれこれ20時間近く,没頭していたことになる。
元々疲れ果てていた表情はより一層ひどい有様だが,土産は大方解読し終えたところだった。
尤もそれを理解し,実際に使用できるようになるまでにはまだ時間がかかりそうだが…

「…少なくとも,飢え死にする心配だけはなくなったのが救いか。」

中途に残して,研究室から出て何か食べ物を調達しようという気にはならない。
が,今の獅南には頼りになる仲間がいる。
思いのほかに最新型のスマートフォンを取り出して,ある番号に電話をかけた。

曰く,かけ蕎麦一人前。

出前である。なんてこった。

ご案内:「魔術学部棟第三研究室」に蕎麦屋さんが現れました。
蕎麦屋 > 一分、二分、三分――

まだ、こない。

四分――

外からもはや聞きなれたカブの音がする。――止まった。

最早勝手知ったるなんとやら。
担当の警備員には「またですか」みたいな顔で通される始末。
警備がザルですが大丈夫ですかこの研究棟。

それはともかく――目当ての研究室の前までたどり着けば。

「毎度、蕎麦屋でございます。かけ蕎麦一丁お待ち――」

――きっかり五分。

獅南蒼二 > 「相変わらずの時間厳守だな。
 あのバイクではどうやって時速60kmが限度だろうに……。」

苦笑をうかべながら扉を開く。
どう考えてもおかしい。出前の電話をする前から準備をしているとしか思えない。
だが、まぁ、そんなことはこの際どうでも良いのだ。

「いつもすまんな……助かるよ。」

部屋の中は物凄い量のメモやら紙切れやら、辞書やら魔術書が積み上げられています。
ししなみせんせーはえらい過労感のあるクマをしております。

20時間頑張ったのです。

蕎麦屋 > 「あ、やっぱりまたですか。またですね?」

案の定というか。
やたらと淀んだ空気、目の下に浮かんだクマ、乱雑に積み上げられた書類――。
研究に没頭しすぎた結果、外に出るのすら面倒で呼ばれるのが常である。

「や、出前頼んでくれる奇特な人も中々居ませんからね。
 ああ、いつもの場所に置けばよろしいです?」

というかそもそも番号知ってるのリビドー先生と獅南先生だけですし。
持ってきたおかもちにはかけ蕎麦と、別皿で海老の天麩羅。

とりあえず出前なので置いたら帰る、そんな感じです。

獅南蒼二 > 「仕方ないだろう,途中で抜けるというのはどうも性に合わん。
 アンタを呼んでいるだけ,今の方がまだ健全なもんだ。」

事実,以前は3日くらいなら余裕で飲まず食わずでした。
1日1食は確実に食べるようになったのだから、だいぶ健康的でしょう。

苦笑を浮かべつつ,置かれた皿を見て…

「おいおい,天麩羅までは頼んでいないぞ?」

…帰ろうとする蕎麦屋さんを呼び止めるししなみせんせー。
さらっと置いていくんじゃありません。

蕎麦屋 > 「ほどほどで小休止は挟んだ方がよろしいと思いますけど。
 毎食蕎麦も栄養が偏ってすこぶるよろしくないのですけどねぇ――」

終わらせてしまいたい、というのは何となく理解はできるが。
ちょっと度が過ぎている気がします。しかもその都度そばというのも。
確かに消化はよいですけど。

――と、さっさと帰ろうとする足を止めて

「あ、これですか?
 先日トコヨオオエビ探しに行ったら黒眼鏡に腐るほど押し付けられまして。
 そういうわけで試験的に、まぁ、おまけというやつです。」

もちろん市販じゃないですよ、などと変な所で胸を張る。

獅南蒼二 > 「誰もがそう言うんだが,どうにも…そういう性分らしくてな。
 アンタに出前を頼むのが丁度いい小休止になっているよ。」

実際,こうでもしなければ絶対に休憩もしない。
ぶっ倒れて眠るまでノンストップである。死ぬぞそのうち。

「……おまけで海老の天麩羅を付けるな。
 まったく,アンタには分からんのかも知れんが,適性な対価を請求してもらわなければ,逆に呼びづらくなるものだ。
 客を恐縮させて遠のかせんように,その辺も,多少気を使ってみたらいい。」

さて,対価をどうしたものか。
小銭はきっかり蕎麦代しか用意していないし……。

蕎麦屋 > 「性分は変えようがありませんけれどね。
 ほら、よく言う。倒れてから後悔しても遅いですよ?」

最初の出前からなんとなく予想は付いていたけれど。
本当に出前なければぶっ続けで数日はやってるのだろう。酷い中毒者も居たものである。

「嗚呼、普段でしたら適当に価格付けるのですけれど。
 それに関しては本当にお試しですので、――まぁ、納得いかないならお得意様特典とかそんな感じで一つ。

 価格の方は、試行錯誤の最中でございますので、そこは大目に。」

なんか適当な理由をでっちあげ始めたぞ?なお、適当って50円とか100円くらいです。
それはともかく、とりあえず貰った食材で作った一品、評判が良ければ追加も考えよう、くらいのものではある。

獅南蒼二 > 「5分で来るなら救急車より有能だが,搬送サービスは無いかな。」

冗談を言って笑いつつ,
けれどそれが冗談に聞こえない顔色をしつつ。

「まったく,客を使って人体実験でもするつもりか?」

なんて言いつつも,やっぱりただでは貰えない。
引き出しから木箱を取り出して……

「ほれ、アンタのソレが試作品なら,私のコレは失敗作だ。
 売っぱらうなり飾り付けるなり好きにしろ。」

……明らかにマジックアイテムっぽい髪飾りを投げ渡します。
シルバーのシンプルな髪留めピンにルビーがついていてまぁまぁ綺麗。
色々術式組み込もうとした痕跡がありますが,途中で破綻してます。残念賞です。

蕎麦屋 > 「流石に見つけたら救急車くらい――あ、すいません、今のなしで。
 まぁ、病院に投げ込むくらいはしますけれど。それでよろしいです?」

ぐっ、と袖まくり。
本当に投げ込みそうなのがこの蕎麦屋の怖い所です。

「実験て、言うに事欠いて実験て。
 先生じゃあるまいですし、ただの試食ですよ。試食。――、っとと。」

流石に人体実験ではないです。というか自分でも食べてます。
ただまぁ、客の反応も見たいところ。改良点は自分だけではなかなか見つからないものだ。

投げ渡された箱が一度、二度跳ねて手元に収まる。
開けてみれば何やら。

「あら――よろしいので?」

なにやら非常に面倒くさそうな『何か』が刻み込まれてます。
しばらくながめつすがめつ。――魔力はあるし、術式の理解もできるのだが、魔術となると使えない蕎麦屋である。

獅南蒼二 > 「それじゃ,万が一にも倒れていた時には頼むよ。
 ……アンタに任せると本当に“投げ込まれ”そうで悪化しそうなんだがな。」

楽しげに笑いつつ,試食も実験のうちだろう?と返します。
「取り敢えず見た目には美味そうだ…聞いた事もない名前の海老だが。」
……正直に言えば、出どころも非常に気にかかる。絶対アイツだ。ルギウスだ絶対。

「防御術式を組み込むつもりだったんだが,発動には魔力が足りなかった。
 もう少し宝玉を大きくすれば上手く行ったのかもしれんが。」
そう解説しつつ,貴女の言葉に頷いて,
「私に妙な趣味が無ければ,そんなもの持っていても何にもならん。
 アンタの方がまだ,少なくとも似合うだろうさ。」

蕎麦屋 > 「病院の前にそっと安置してもよろしいですけど。その場合きっと死体と間違われると思うんです、私。
 いやですよもう、今度は死体安置して逃げた蕎麦屋の噂とか立つの。」

そんなことになれば今度こそ蕎麦屋廃業の危機です。

「何やら先日どこかのパーティでも出された、とか。
 この島の特産品で普通に流通はしている、らしいですね。食べごたえのある身がなかなか。」

美味しかったですよ?と。いや本当に実験じゃないですってば。
出所に関しては内緒です、人の事(蕎麦)とか登録してくれやがりましたあの野郎。

「ほうほう、なるほど。無理矢理魔力捻じ込めば発動自体はしそうな感じですね。
 まぁ、ええと、ありがたく、頂戴しておきますけれど――はい、その顔でこれ身に着けてたら私その場で崩れ落ちる自信がありますよ?」

もちろん笑いすぎて、である。酷い。

獅南蒼二 > 「ははは,ただでさえアンタは妙な噂が多い。
 私にとっては美味い蕎麦を運んでくれる腕のいい蕎麦屋だが…」

喋っている間に伸びてしまいそうなので,食べ始めてしまおう。
20時間ぶりの食事です。毎回こんな状態で食ってりゃ、そら最高に美味い。
天麩羅はとりあえずまだおいておこう。

「…教員の間で聞いただけでも,アンタは色々と怪しいからなぁ。」

苦笑交じりにそう投げかけたりしつつ,お蕎麦美味しいです。
天麩羅も齧ってみよう……ブラックタイガーより一回り大きいか?

「いつもながら美味い。
 ……あぁ、制御の術式は組んである。魔力だけぶち込めばまぁ、
 そうだな,対物ライフルくらいは防げるんじゃないか?」

とんでもない防御力だ。使い捨てだろうけど。

「あぁ,そんな使い方もあるのか…アンタと戦う時には試してみるとしよう。」

こら。

蕎麦屋 > 「――妙と言われましても。
 ただの蕎麦屋なのですけどねぇ。はて――」

勝手に勘繰られて怪しまれてるのは何とかならないモノだろうか。
独り歩きしている噂の大半は割と身に覚えのない話です。

――ほんの一部はちょっと身に覚えが。

「というかどんな噂立ってるのか非常に興味が尽きませんけど。
 それはおいといて。天麩羅の方はどうです?」

噂よりも天麩羅の味です。
ブラックタイガーよりは一回り大きく、身が締まって、ぷりぷりしている。
少なくともスーパーの身があるのかわからない天麩羅とは比べ物にならない身のボリューム。

「まぁ、それだけ食べてないと何を食べてもおいしいと思うのですけど。
 ――あー、対物ライフルまでですか。」

なんか残念そうだ。

「え、やですね。お客様は神様ですよ?そんな襲ったりしませんよ。」

ひらひら手を振る。お前が言うのかそれ。

獅南蒼二 > 「ただの蕎麦屋ね…
 …私としては,本当にそうであってほしいとさえ思うが。」

勘繰られるに足るものを引っ張っているのだから仕方ない。
勘繰るなと言う方が無理なハナシである。

……何か身に覚えもあるようですし?

「本人の前ではとても口に出せるような内容ではないよ…。」
わざとらしく首を横に振ってから…
「正直に言えば,こんなに美味い海老の天麩羅は久々だ。
 腹が減っているのも事実だが…まぁ,そのくらい美味い。」
…こっちの答えは素直だった。

「改良すれば…とはいえ,まぁ,その大きさではミニガンをフルパック耐えられるほどには出来ないだろうな。
 ルビーは炎との親和性が高いから,火炎放射器くらいなら余裕なんだが。」
こっちもまだ不満らしいので,感想は近いです。
と言っても現時点での技術では限界もあります。

「……誰かと喧嘩するんじゃなかったか?
 あぁ、ソイツは客じゃないから構わんのか……。」
苦笑しつつお蕎麦ずるずる。

蕎麦屋 > 「ただの蕎麦屋だ、と言っているうちはただの蕎麦屋ですよ?
 ――一応はですね、これでも区切ってるんですよ、色々。」

まぁ、言えない噂の内容はなんとなく、想像ついたりもします。
いやでも病院の一件は私別に悪くない。

「ふむ、先生のお墨付きもあるなら売り出してもよさそうでしょうか。
 とりあえずは数量限定になりますけども。」

安定供給できるルートが構築できないのである。
一般的に出回る食材ならともかく、こういう特産品は管轄外。

「せめて対空砲の1斉射くらいは耐久出来ないと使いどころが難しいですけれど。
 ――あ。話聞いてますと、対爆防御にはよさそうでしょうか。持続時間を捨てて強度に回しましょう。」

所謂反応装甲的な使い方。
そういう方向ならまだまだ使う余地はありそうだ。

「――あ、喧嘩。正確には私が喧嘩してるわけでもないですしねぇ。
 いや、こないだお客として食べに来てましたよ。その人。」

正確には主人の喧嘩である。
ついでに言えば一戦交えた後に普通に蕎麦を提供していたりもする。

獅南蒼二 > 「区切っているのは分かるよ…だからこそ心配だ。
 その枠線から一歩出れば,アンタはバケモノかも知れんからな?」

小さく肩を竦めて笑う。
けれどその言葉には,冗談,では済まされない真実味がある。

「で,問題は値段だが…幾らで売るつもりだ?」

どうせまたアホみたいに安いんだろうな,と予想はしている。
数量限定とか言いつつ限定なお値段にする気はないだろうと。

「あぁ,仕掛け爆弾くらいは耐えられるように後で改良してやろう。
 尤もそんなものが必要になる蕎麦屋など聞いた事も無いが?」

使う気満々で話している辺りがもうすでに問題なのである。
それで蕎麦屋だとかもう馬鹿じゃないの?って言われてしまうわけである。

「想像はついていたが……アンタ,戦乙女は廃業済みなんだろう?
 だったら主も,後見する戦士も居ないはずじゃないのか?」

“蕎麦屋”なのであれば,誰かの喧嘩に加担するような立場ではないはずだ。
てか、食べに来てたんかい。と、思わずツッコミである。

蕎麦屋 > 「あ、悩んだのですけどね。――えーと、150円くらいで。」

そうですね。スーパーの市販の海老天だったらそのくらいの価格ですね。

「――んー。まぁ、神も悪魔も等しく地に堕ちた以上、それらを纏めて何と呼ぶかと考えれば――
 バケモノ、なんてのは言い得て妙かもしれませんね?」

特に否定はしない、そこは。
否定する理由もなければ、否定するだけの立場もない。

「いや、使いませんよ?改良案の提示なのですけど、要りませんでした?」

そもそも対空砲くらいで死ぬタマでもないのは横に置いておく。
というか持ってたら無駄に使いたくなるじゃないですか。

「頼られれば助力くらいはしますし。貢献するに足る魂が居たら、やはり助力くらいするかもしれません。
 ほら、人が食事するのと同じことです。――完全廃業できるならさっさとやっちゃうのですけど。」

廃業のやり方知りません?などと冗談めかして言う。
食べに来てましたよ。また来るとか言ってたけどさすがにもう来ないかな、とか思ったらこれですよ。
そりゃもう普通に蕎麦だすくらいしかできないじゃないですか蕎麦屋ですし。

獅南蒼二 > 「……その価格設定でコレが出てきたら,私ならまず賞味期限を疑うね。」

予想通りの価格設定に肩を竦めて苦笑する。

「だろう?
 私のような無力な人間にしてみれば,アンタはやっぱりどうしても“そういう存在”になってしまうわけだ。
 アンタだって同じだろう?何だかんだと言って,私たち人間を同等には見ていないはずだ。」

違うかな?なんて,肩を竦めたままに問いかけた。

「なんだ使わんのか……実際にどのくらいの爆発まで行けるのか実験してほしかったのだが。
 アンタなら万が一吹き飛んでも死にそうにないからな。」

冗談交じりでそうとだけ言って……続けられた言葉に、小さく頷く。

「やっぱりアンタの蕎麦屋はまだ“副業”だというわけだな。
 ……実際のところ、どうなんだ?
 神話ってのは面倒臭いもので,アンタの名前もきっと“役割”になってるんだろうが…
 …それを一度忘れて,今のアンタは,どうしたい?」
廃業すれば力も失うだろうし,普通の人間に変わるようなものだ。
それを心から望むのか,それとも今のまま,神話を引き摺ることを望むのか。

蕎麦屋 > 「ぇー……やっぱりですか。割と妥協したのですけどねぇ。」

多分最初50円くらいで売るつもりだった顔をしている。苦渋の値上げだったに違いない。
――世の商店主が聞けば跳び上がってグーパンされそうな話だ。

「まぁ、同等ではないですよねぇ――」

頷いて――

「だって、人間はこれだけ躍進してみせましたよ?
 古来から糞みたいな神の横暴を跳ねのけて、捩じり潰し、此処までのぼりつめたんですよ?
 ――それと同等などと。おこがましいにもほどがある。」

鼻で笑う話です。と、笑ってみせた。

「いや、本業ですよ、間違いなく。
 ただまぁ、人が食事を、睡眠を忘れられないのと同じ程度の話です。多分。

 私個人の希望、ですか。それが蕎麦屋としてなのか、戦乙女としてなのか、それとも――」

悩んだ様子で、首を傾げ――視線を先生へと、向ける。
瞳の奥で――一瞬だけ、燃え盛る炎が見えた、気がするかもしれない。

獅南蒼二 > 「アンタの感覚が全くあてにならん事だけは分かった。
 頭に描いた金額の5倍は最低限貰った方が良いだろうな。」

それでも安いとは思うが,まぁ,そのくらいだろう。
まったく恐ろしい蕎麦屋である。

「……なるほど,それは皮肉というやつかな?」
小さく肩を竦めて楽しげに笑う。だがそれ以上追及することも無かった。
そばを食べ終わり,静かに息を吐いて……

「アンタにそれが存在するのかどうか分からんが…どちらでもない。
 私は魔術学者だが,それはそう在りたいと“獅南蒼二”が望んでいるからだ。」
貴女の瞳を,見つめ返す。その奥に焔を見たか,僅かに目を細めた。
疲労の極みにありながらも,この男の瞳は深く,そしてどこまでも澄んでいる。

「……さて,それなら蕎麦屋でも戦乙女でもない,“アンタ”は何を望む?」

蕎麦屋 > 「五倍ですかー……蕎麦一杯五百円ですかー……」

落第街で売れるのだろうか。そっちの方が心配になってくるわけです。
それでも言うからにはそういうモノだろうか。教師なんて職につく人間がそういう所で嘘をつくとも思えないし。

「皮肉?いいえ、とんでもない。
 羨望ですよ?」

そういう風に聞こえたのなら――それは中々に、悲しく思うが。
表には、出さないでおこう。

「そうですねぇ――私達としては――」

首を傾げたまま、静止する。チリチリと、音が響く。
肉が、血が、土が、木が、鉄が、空が、大地が――焦げていく。そんな形容のしようの無い匂いが――

「――内緒にしておきましょう。
 今は蕎麦屋、それで割と満足していますしね。」

――幻想の様に、消えた。
それにほら、乙女ですし、秘密あったほうがミステリアスですし?などと付け加えて。

獅南蒼二 > 「まぁ,安い分には私は助かるんだが…かけそばに天麩羅もついたらそのくらいだろうと思うよ。
 蕎麦だけならまぁ,もう少し安くしてもいいんだろうが…。」

落第街で売る,ということを考えるとまぁ,安い方が良いに越したことはないでしょう。
けれどあくまでも適正価格の話ですので,ここはそれ以上言及しないこととしましょう。

「……羨望か。どうやらお互い,自分に無いものを求めてしまうらしい。
 皮肉めいていたのは私の方かもしれんな。」

小さく肩を竦めてから…ごちそうさま,と食器を差し出して…
…貴女が見せたのだろうか,不快な幻想には表情一つ,変えなかった。

「“私達”ね…違和感のある言い方だ。やはりどうも,人間とは感覚が違うのか?
 役割を持って生れて来た存在からその役割を完全に取り除いたら…というのは学術的にも興味があったのだがなぁ。」

冗談じみた言葉とともに笑いつつも,その視線は真っ直ぐに貴方の瞳を見つめたまま。
“今は”という言葉を聞けば僅かに細められて……

「…まったく,乙女なんていう年齢でもないだろうに。
 っと,流石に今のは失言だったな。忘れてくれ。……アンタは,ミステリアスで素敵な蕎麦屋の乙女だ。」

最後のは完全に棒読みでありました。
複雑な内心を,その冗談と苦笑の裏側に,しまい込んだまま。

蕎麦屋 > 「じゃあ先生価格で据え置きにしておきましょうか。
 ――天麩羅蕎麦五百円。そんなものなのですねぇ……」

まぁ、そのくらいなら。いける気がする。
とりあえずそれはおいといて。

「そういうことです、ね。
 自身で成すか、他人に見るか、そこの違いはありましょうけれど。」

そういう意味では、先生も羨ましいのですけどね?
そんな言葉を口の端に乗せて。

「おや、達なんて言ってましたか?私です、私。
 ん、もぅ。――いや、失言。忘れてくださいな。

 どこからどう見ても乙女です、酷いですねぇ――ああ、やだやだ。歳を取ると昔を思い出して厭になります。」

棒読みにはジト目で返す。信じてませんよね?
――歳を取ると、とかいって信じてもらえるわけがないのですが、それはそれ。

思い出したように、食べ終えた器を引き取って、おかもちに放り込んだ。

獅南蒼二 > 「学生街あたりで蕎麦屋を探してみればいい。
 それなりに適正な価格でやってるんじゃないか?」

まぁ,最終的にはアンタの判断だが…なんて肩を竦めつつ。
…どれほど値上げしても,きっとこの男は出前を頼むだろう。

「ほぉ,魔術学者になりたいのなら今から20時間でも講義をしてやるが?
 ……冗談だ,羨ましがるならもう少しマシな人間を選ぶといい。」

…………。
忘れてくれと言われた部分には,小さく頷くのみでもう言及しない。

「そりゃあ,見てくれは乙女にしか見えん。ぱっと見だけなら確かに乙女だろうさ。
 そして私としては,アンタの言う“昔”ってのはだいぶ興味があるんだが……それを聞くのは失礼に値するかな?」

蕎麦屋 > 「いやほら、見つかると面倒くさいので――?」

もうしばらくしてから行ってみますけどねー、とは。
いつになるかは、誰にもわからない。

「講義する前にまず寝てください。
 というか本業の講義忘れてないかの方が心配なのですけど。」

大丈夫大丈夫、よっぽどマシです。

「昔ですか?――んー。
 多分、此処で起こった『黄昏』とは随分と趣を異にする話になりますけれど。
 まぁ、とりあえず寝てくださいな。いつでもできる話ですし。」

どーせまた出前頼むでしょう?と首を傾げる。

とりあえずは出前も終わったし、そろそろ帰りますかー、などと。

獅南蒼二 > 「ン、学生街に行けないなら……ここに来るのも同じくらい危険じゃないのか?」

今更気付くししなみせんせー。
フツーに呼んでしまっていたけれども。

「いや,一休みしたのだから研究を再開しようと思っていたのだが……。」
死んでしまいますししなみせんせー。
ちなみに講義は今日は1コマも無いようです。そっちは最優先で頑張るよ!!休講とかありえないよ!!

「そこまでアンタに言われるなら,一休みすることにしようか。
 あぁ,また頼ませてもらいたい……ここに来るのが“面倒”でないなら,だが。」

蕎麦屋 > 「え、出前なら例え火の中水の中ですけど。」

あ、本気で言ってる。

「それはやめましょう?寝ましょう?
 人間はそういう風には出来てません。ウォーモンガ―でも3時間は寝ます。」

きぱっ。
まぁ、休まないのはすごいですけど偶には休め、ちゃんと。

「まぁ、そういうわけで。私は失礼しますね?
 出前ならいつでも。そのついでに昔話を聞きたいというなら吝かではありません。」

あくまで蕎麦前提ですけどね。と。
最後に付け加えて、研究室から――出ていく。

しばらくすれば、気の抜ける様なエンジン音が聞こえて、遠ざかっていくだろう。

獅南蒼二 > 「……それなら良いが。」

目がマジだったので,それ以上何も言うまい。
そしてここまで休めと言われれば流石に従わざるを得ない。
美味しいお蕎麦を食べて昼寝をするとかなんて優雅な生活なのか。

「近いうちにまた頼ませてもらうよ……何だかんだと言って,楽しい時間だった。」

その背を見送ってから,思い出す。髪飾りあげたけどまだ金払ってねぇ。
……少し考えてから,次の時にしっかり払えばいいかと,思い直した。

いつも通りにエンジン音が遠ざかっていく…その音を聞きながら,
ソファに横になった獅南は,研究中にしては珍しく,静かな寝息を立て始めた。

ご案内:「魔術学部棟第三研究室」から蕎麦屋さんが去りました。
ご案内:「魔術学部棟第三研究室」から獅南蒼二さんが去りました。