2016/08/18 のログ
ご案内:「魔術学部棟第三研究室」に獅南蒼二さんが現れました。
■獅南蒼二 > まるで死人のような血色の悪い肌をした男は,スマートフォンを机の上に落とし,どさりと,椅子に深く腰掛けた。
呪術の作用かそれとも肉体の抵抗か,震えはじめた右手では上手く操作できない。
「……まったく,お前は本当に,気楽で良い,な。」
メールのやり取りをしていた相手を思い浮かべながら,そうとだけ呟く。
“呪い”と戦うための研究は難航を極め遅々として進まない。
非常に感覚的で概念的な呪術という分野と,獅南蒼二の魔術的素養の相性はこの上ないほどに悪かった。
■獅南蒼二 > 机上に並べられたのは各方面の呪術を扱った書物。
禁書庫の膨大な蔵書から,司書の助けも借りて関連しそうなものを選び出した。
不死性に関わる呪術,換身に関わる呪術,死に関わる呪術。
書物の情報からそれらを構成する魔術学的な要素を抽出し,術式として再現する。
それは言ってみれば,名画をドット絵で打ち直すようなものである。
が,この獅南蒼二にかかれば,そこまでは何の問題もなかった。
「……必ずしも発動に負の感情は必要では無い…のか?
いや,違うな……。」
獅南は実験を行っていた。
無論,動物や擬似生命を使った実験で得られる情報などたかが知れている。
獅南が実験体として選んだのは,獅南蒼二自身である。
■獅南蒼二 > 「・・・・・・・・・・・・ッ・・・・・・。」
対象に不死性を与え,対象が永遠に“死に続ける”地獄を作り出す呪術。
それは,本来であればどこまでも恨みの深い相手へと向けられるものだろう。
獅南の右腕は痣のように変色しており,確かに“呪い”を受けていた。
術者の手を離れても,術者が死んだとしてもなお,この呪いは対象を苦しめ続けるだろう。
「・・・・なるほど・・・,私の苦痛を餌にするとは,賢い術式だ。」
術式が自ら“負の感情”を貪るため,獅南の右腕を焼き,骨まで染みるような苦痛を与える。
そしてその苦痛という“負の感情”が呪いをより強固に変えていく。
きっと,これを考え出した術士は,最低のクソ変態野郎に違いない。
■獅南蒼二 > 悲鳴をあげたくなるような痛み,焼け爛れるような熱。
常人なら耐え難い苦痛を意識の外へ追いやり,意識を集中する。
発動のキーや強化のキーは確かに存在するこの術式の,停滞,解除のキーを探る。
「・・・さらなる魔力で押し潰すしかないのか。
それとも,属性魔術によって対消滅させるか」
その術式は獅南をしても容易に操作できないほど複雑にして難解。
大量の魔力を込めなかったから良かったものの,これを最大の出力で術式構成すれば,容易に解呪することはできないだろう。
右腕が震える。
・・・どす黒く染まった血流を通じて全身にまで,苦痛が広がっていくのを感じる。
■獅南蒼二 > 「がっぁぁああああアァァ・・・・・・ッ!!!」
金属の扉が閉じられている以上,内側の音は外からはまず聞こえないだろう。
身体中を掻き毟り,血管をむしりとってやりたいほどの苦痛だった。
腕を失ったことさえあるこの獅南蒼二にとってもそれは,悲鳴を上げざるを得ないほどの苦痛だったのだろう。
残念だが,限界だ。
机の棚へと手を伸ばす。苦痛に震える腕は思い通りには動かず,机上の書類やランプを地面へと落下させた。
助けを求めるように,書籍や魔石,メモや筆記具を掻き分け,引き出しの取っ手を掴んだ。
■獅南蒼二 > が,無常にも引き出しは開かない。
獅南は呪術の実験が苦痛を伴うことを理解していた。
だからこそ,安易な救いとなりうる魔力を込めた指輪を隠したのだ。
無意識のうちに呪術を軽視していた。
獅南は人知れず,その代償を味わうことになった。
力任せに引き出しを引く。
魔術的に補強された鍵は決して壊れることはなく,棚が壁から外れて,大きな破砕音とともに床に落下する。
■獅南蒼二 > 引き出しの奥から鍵を取り出し,鍵穴に差し込んで回す。
これだけの動作であるにもかかわらず,獅南はそれを実行に移すことができなかった。
床に落下した棚を狂ったように殴りつけ,
地面に叩きつけ,拳がズタズタになるのも構わず,目当ての引き出しを破壊した。
中に収められていた指輪が散らばり,そのなかの幾つかは淡い光りを放っている。
鍵だけでなく全体に補強をかけなくて良かったと,心の底から思った。
■獅南蒼二 > 奪い取るようにそのうちの1つを拾い上げ,握り締める。
この部屋どころかこのフロアを吹き飛ばしてしまいそうな魔力が瞬時に開放され,そしてそれは“呪術”を上書きするためだけに使われる。
同時に己の身体には鎮痛と安息の術式を描きこみ,呪術の苦痛を上書きしていく。
苦痛が失われ,“負の感情”がそこから解放されたことによる“正の感情”へと転じれば,後は簡単だった。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
・・・この部屋は決して暑くはない,それなのに服は汗でぐっしょりとぬれていた。
荒れ果てた部屋のソファに座り込んで,肩で息をする。
右腕を見れば,そこにはもう,先ほどまでのどす黒い痣は残っていない。
■獅南蒼二 > 収穫はあった。非常に不本意な結論だが。
やはり,呪術は生物の負の感情無しには真価を発揮しない。
そして対象を物理的に破壊,ないし殺害することよりも,その“感情”を何らかの方法で操作する事の方が効果がある。
過去の事例に学んでも,呪いのアイテムを物理的に破壊すれば呪いはより一層悪化するが,
その裏に隠された怨霊を慰めることによって鎮静化することは多い。
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
どさり,とソファに横になる。
たったそれだけのことしか解明できなかった・・・いや,この部屋に展開させた記録術式を活用すればもう少し詳細が分かるだろうか。
いずれにしても,今はここから動き出したくなかった。
まだ,血管の中に蠢くような何かが,錯覚ではあるが,残っているように感じられる。
ご案内:「魔術学部棟第三研究室」に谷蜂 檻葉さんが現れました。
■谷蜂 檻葉 > 一人の男の、呪いとの格闘。
その内部での恐ろしく激しい騒音も、しかしドアを一つ挟めば無音。
学部棟、そして研究室特有の静けさの中、少女はやがて目的の部屋に辿り着いて声を張った。
「―――失礼致します、『図書委員 禁書管理課』の者ですが! 獅南蒼二 様は居らっしゃいますか!」
言葉は厳かにハッキリと、しかしその表情は困ったような、申し訳無さそうな。そう言った風にも見える。
「禁書の無断持ち出しがあり、現在その所在を確認しております。
宜しければ所有冊数確認、また魔力残存確認をお願いしたいのですが!」
……内容は、所謂「窃盗者の確認」だった。
禁書の無断持ち出しが起きた時は、おおよそこうして容疑者を全員見て回る必要がある。
勿論、それが教師であってもだ。
■獅南蒼二 > 「・・・・・・また面倒なタイミングで。」
勤勉な事だ,と身体を起こそうとするが,いう事をきかなかった。
仕方が無いので,指先だけを動かしてまずは床の真ん中の棚をテーブルの上へ。ベコボコだしなんか血とかついてるけど。
それから書類や灯りなどを机上へと戻して・・・・・・扉の鍵をあけた。
扉を開けてあげるようなことはしない。というか,そこまでサービスしてやる気力が残っていない。
■谷蜂 檻葉 > 「獅南蒼二 様ー…… ん、鍵… ………今閉められたのかのかな?」
カシャン。と、小さな音が扉から聞こえて首を傾げる。
正直な所、彼は図書館の”お得意様”だしもしも件の禁書―――『夢魔』の召喚術に関するそれを彼が持って行ったとしたのであれば何らかの高尚な研究に使われるものだろうし、きっと無断の持ち出しも誰にでも在るウッカリだろう。
そう思っている。
「……あの、失礼します。」
しかし、静かに待っていたが返事も迎えもないまま1分が経ち、恐る恐る扉を開ける。
「獅南先生、いらっしゃいます――――か?」
彼の部屋は、一度だけ見たことがあった。
多くの魔道書に囲まれた、しかしただ乱雑にあるのではなく『書斎』のような研究室。
しかし、開いてみれば
「あ、あの……どうなされたんですか?」
誰かと争ったような跡。
いくつかの散らばった本、そして――――汗だくの獅南。
目が見開かれ、僅かに頬が朱に染まり、恐る恐るそう切り出した。
■獅南蒼二 > 扉が開かれれば,そこには普段どおり…と言えるほどには復帰できていない,研究室。
テーブルの上のベコボコになった棚が一段と異様さを演出している。
貴女が入ってきても,獅南は特に反応することもなかった。
ソファに仰向けになったまま,肩で息をしている。
「・・・・・・いや,少しばかり実験に失敗してね。
何とか押さえ込んだんだが,派手にやってしまった。
まったく,慣れない分野に手を出すものじゃないな。」
机の上には呪術の魔道書が並べられている。
確かにこの男と呪術は結びつかないだろうし,なれない分野という言葉とも整合性がつく。
「・・・・・・で,すきに探して構わんが,魔道書には下手に触らんようにな。
最も,アンタなら問題ないだろうが。」
■谷蜂 檻葉 > 「そ……そうですか。 押さえこんで……。」
まさか。 いやそういう事じゃないだろう。 でも今言ってたのって。
なんて、想定に引っ張られた勘違いに唆されてますます顔の赤くなる檻葉。
ドギマギしながらも図書館から持ち出してきた魔術の込められた指輪をはめると仕事に取り掛かった。
「あ、はい、すいません。
規則が絶対、と言い切る訳ではありませんけど万が一や不測の事態が起きてはいけませんから……。
『反応指定、禁書A39 ―――■■■■■ 』」
何やらキーワードを唱えると指輪は緑色に光り出し、檻葉はそれを翳すようにして部屋を歩きまわる。
「先生が失敗って意外な感じがします。
あ、いえ。誰にでも失敗はあるって解ってるんですけど。
その……先生と失敗っていうのが、なんだか結びつかなくて。」
ただ靴音だけが響く中、沈黙を嫌ってか檻葉はそういって獅南に視線を向けた。
■獅南蒼二 > 「・・・・・・・・・?」
先ほどまで死ぬほどの苦痛に悶えていた獅南は,貴女が赤くなっている理由などサッパリ分からず。
疲労の極みにあってそれいじょう敢えて口をきこうとはしなかった
「・・・・・・まぁ,正確に言えば,術式そのものは成功だった。
自分の忍耐力が思いの外に脆弱だったというのが“失敗”だな。」
けれど,聞かれればしっかりと答える。それから,少し考えて…。
「過去に数え切れないほどの失敗を積み重ねた。
これからやるべきことは,同じ失敗を繰り返さない,ということだけだ。
・・・・・・それだけで,失敗は減るだろう。魔術でも何でも,同じ事だ。」
獅南の右手は袖に隠されているが,その手の甲からは明らかに血が滲んでいる。
一体何があったというのだろう。
■谷蜂 檻葉 > 「…………!」
獅南の僅かに訝しげな表情に、何か余計なことを口走りそうになってしかし黙りこむ。
そう、彼が汗だくだったのも何やら格闘したような痕があるのも偶然であり、気のせいのはずなのだから。
「忍耐力が……。
そ、そうですか。耐えるのが、大変だったんですね……。」
(だから暴れたのだろうか。いやそんなバカな。)
「数えきれないほど……!」
(そんなに経験が。 いやそんな意味で先生は言わないはず。)
獅南の言葉を、酷く難しげな表情で反芻する檻葉。
その間も探索用の魔術を込めた指輪で行う捜索は順調に進み、何事も無く半分を判別し終えた。
「あ、その……手、怪我してますけれど大丈夫ですか? 今私、絆創膏ありますけど。」
■獅南蒼二 > 何か2人の間に認識のズレが生じているようだが,獅南もそれを読み取って指摘するほどの余力は無い。
そもそも,半ば意識を失いかけているこの瞬間にそんな洞察力を発揮できようはずもなかった。
「・・・・・・そういうことだ。」
小さくそうとだけ呟き、頷いた。
内容まで話すことはなく、静かに瞳を閉じる。
が,そこで手の怪我に言及されれば・・・・・・
「・・・あぁ,気持ちはありがたいが,絆創膏では足りないだろう。
後で,少し休んだら保健室へ行ってみるよ。」
・・・・・・袖から手を出す。硬いものを殴りつけたのか,拳がズタズタになっていた。
確かにそれは絆創膏というより,包帯でぐるぐる巻きにするレベルだろう。
「・・・・・・で,目当てのものは見つかったかな?」
■谷蜂 檻葉 > 「そうですよね、獅南先生も若い時があるんですものね……。
あ! や、その先生が老けてるとかそういう訳じゃなくてですねっ」
モゴモゴと、しどろもどろな台詞は二人の間に曖昧に解けて消えていく。
そのうち、どこかぼんやりとしだした獅南の視線から逃れると慌てたように仕事を進めていく。
そうして、最後に机の上の本に指輪をかざした。
「そうですか。 はい、そうしてください。
禁書関係から付けられる『傷』は得てして危険なものが多いですから。
―――はい。無事に見つからなかったですよ、獅南先生。ご協力有難う御座いました。
ご存知とは思いますが幾つかの要返却の本には改めて期日の付箋をお付けしたのでご確認下さい。」
なんだか、必要以上にホッとした様子で檻葉は獅南に頭を下げた。
■獅南蒼二 > 「・・・・・・何の話をしているんだ一体?」
まぁ,失敗の話なのだろう。
そう勝手に解釈した獅南は問い返しはするが,それ以上言及することはない。
故に,この認識の擦れ違いは解消されぬまま,貴女はこの部屋を出ることになる。
「わざわざスマンな・・・・・・私は少し眠りたい。
扉だけ閉めていってくれればいい・・・・・。」
徐々にその言葉は不明瞭になっていき・・・
「・・・・・・。」
・・・獅南は,静かに寝息をたて始めた。これだけ魔道書がある部屋で,えらく無防備である。
これがこの人の通常営業なのだろうけれど。
ご案内:「魔術学部棟第三研究室」から獅南蒼二さんが去りました。
■谷蜂 檻葉 > 「……はい、お休みなさい。」
やがて扉を締める前、静かな寝息が聞こえてくる。
あまり、こうした場所では褒められたことでもないのだけれど。
その堂々とした寝姿は普段からこうしていることがよく判った。
そして部屋を出ようとした檻葉だったが、
ふと何かを思いついたらしくドアの隙間から部屋を覗き込んだままスマホを取り出す。
「えい。」
パシャリ、と。
小さな音と、ドアの締まる音を最後に再び部屋に静寂が戻った。
ご案内:「魔術学部棟第三研究室」から谷蜂 檻葉さんが去りました。