2016/12/17 のログ
■V.J. >
その可愛らしい、静かな寝息から誘われ、ひとつの気配が部屋の中へと現れる。
キィ、と扉は開き、ハイヒールの厚底が無遠慮に床を叩いた。
■ミラ > カツカツと響いてくる靴音にうっすらと目を開ける。
この部屋を利用するということは研究者のうちの一人かもしれない。
生徒と勘違いされるかもしれないけれど……一応生徒も閲覧可能な場所ではあるし、
ここで眠っていて特に何も言われなければこのまま眠っていてもいいかもしれない。
……なんて思いながら再び目を閉じる。
■V.J. >
入って早々に溜息を一つ。
壁のようにーーいや、事実壁となっている書架からの威圧感に、肺の空気が押しつぶされてしまった。
見るだけでうんざりする。そう思わされるに足る知識量がこの部屋には眠っている。溜息の数だけ幸せが逃げるとして、自分は何度この雰囲気によって不幸へ叩き落とされたかと、なるべく意味のないことを考えながら部屋を往く。
目的はあるが、それを果たすために海に漂う神秘の葉を探す作業が待っている。さてーー。
舐めるように室内を散策すれば当然、目に入るのは一人の少女。
「ねえ貴女」
眠っている人物へ声をかける迷惑。それを考えるための逡巡は、一秒となかった。
■ミラ > (……いや、待とう私)
自分の思考に突っ込みを入れる。
つい眠気に負けて流しそうになった。
ぼうっとした瞳でゆっくりと身を起こしながら見上げる。
さらさらと長い髪が床へと流れ落ちていくけれど基本的に無頓着。
見上げた先には……古めかしいけれど明るい色のドレスに身を包んだ女性。
挨拶をしようと口を開きかけた矢先に声をかけられてびくりと肩を震わせた。
「……あー、ぇー、コンニチハ?」
咄嗟に出てきたのは練習した挨拶。
■V.J. >
受けた返事ににこりと微笑み、一直線にずいずいと近づいていく。
「こんにちは。丁度良かったわ、ちょっと聞きたいことがあるんだけれど、この資料に見覚えはない?」
手に提げていた鞄から、『SECRET』と赤字が捺印された封筒を取り出し、迷わずそれを相手に見せる。
この資料、と彼女が示したそれは、この資料室に詳しければさっと案内できるかといったレベルのもの。
「探しても見つからなくて困っていたの」
いいや、まるっきり探していない。先客へ言えた言葉ではない。
■ミラ > 「…ぁ」
わたわたと慌てた後数秒待ってほしいと手ぶりで伝える。
こめかみに手を当て妨害を解除。
「…こちらには詳しくないけれど、内容を読んではいけないものに見える」
翻訳呪文を有効にしつつ小さく首をかしげる。
内容を見ればある程度は判断できるだろうけれど……
「私に、任せる、いいの?」
ゆっくりと簡単な言葉を選んで並べていく。
■V.J. >
「大丈夫大丈夫、他人に任されるものな時点で大したものじゃないし、私に任せるのであればもっとロクでもないものだから、きっと。仮にそうだとしたら、そんなものを私に持たせるほうが悪いわ」
あっけらかんと責任転嫁。『SECRET』の理由は生徒の閲覧が許可されていないためでしかない。
無論、彼女が探している資料そのものは、それほど高度な秘匿レベルにないけれど。
尤も現状、彼女は相手のことを『生徒ではない』と認識しているわけではないので、褒められたものではないけれど。
「ということで、よろしく頼める?」
というか聞き方によっては丁寧に断られているとも取れないことはない返事であったのに、差し出した手は戻さない。
■ミラ > 「……わかった」
こくりとうなずく。
本人がいいというならまぁ構わない。
所々把握しづらいところがあったけれど要はなんかこう適当に……
(みたいな感じだと思う)
ちょっと自信はないけれど。
それを受け取りペンナイフで丁重にあけていく。
「……」
この資料はあっちの棚にあったような気がする。
とはいえこちらは一般閲覧も可能な区画。
「……無いことはない。けれど、求めているレベルが
ここにあるもので満足できるか、保証、できない」
小さく首を傾げながらその封筒を返す。
正直自分で解説したほうが早いくらいの内容。
■V.J. >
そしてこの情報漏えいが問題化した場合、見た側にもなんらかの不利益があるーーなんて可能性など考えてもいなかったので、伝えられることもない。
言わなきゃ気づかれない。
「ありがとう」
渡し、そして返ってきたSECRETなそれを受け取る。
「余分だろうと余計だろうと、情報が見える形で存在して、それをやり取りすることそのものに『目的』が生まれるのよねーーこの世界では」
小首を傾げる少女へと、肩をすくめてそう告げた。
「ということで、保管先まで案内してくれないかしら」
■ミラ > 一応知識としては特秘事項に目を通した場合
それ相応の影響があるということは知ってはいるのだけれど
そもそも自身がそれに該当するモノだったためそれに関する危機意識はかなり抜けていた。
というよりこの世界においても彼女が書く物のほうが特秘事項になりえるわけで……
「……かまわない」
椅子からゆっくり降りると大まかにあたりを付けたあたりに一人で歩いていく。
必要ならば勝手についてくるだろう。
「この世界では、か」
その言葉はどこかしら異国の風を纏った言い回しだけれど
相手もまた情報の伝達係として選ばれたのだろう。
「このあたり」
本棚を二つほど指さす。
「これ位なら30分もあれば探せると思う」
■V.J. >
「べ……優しい人が居て助かったわ」
便利と言いかけた。与えられた仕事を一回りも小さそうな相手に任せて、後ろからのんべんだらりと付いてくるその様は、無能と呼ぶに他ならない。
「ん」
このあたり。指し示された本棚二つ。
さて、ここから見つけるくらいはしてやるかと、何様な思考で本棚へ相対し、背表紙の字を見て目眩がした。
「ちなみに私は活字を一日に一定数見てしまうと失明する病だから、どうか見つけてくれると嬉しいわ」
などと宣い、発見された資料がこの手に渡るのをただ待つだけの姿勢となった。
■ミラ > 「そう、なの?」
大変な病気にかかっている人もいるものだ。
私だったら我慢しきれずあっという間に失明してしまうだろう。
本が読みたくても読めない病気なんて……
心から同情の瞳を向け、本棚に目を向ける。
「…これと、コレと、これ
補足がいるなら、これも持っていくといい」
中身も見ずに抜き出していく。
そうしてくるりと振り向き数冊の本を差し出す。
丁寧に活字と題名を見ないで済むよう裏表紙を向けて。
■V.J. >
本気で信じられて、ちょっと心を痛めてしまう……ような殊勝な気持ちがあれば元々頼っていない。
信じられたことでなんならちょっと笑いをこらえながら、サクサクと仕事をこなすその姿を見る。
「あっ、ふふ、ありがとう。助かったわ」
相手の気遣いで、ついにちょっと笑いがこぼれてしまったけれど。
SECRETな封筒に、貰った本をグイグイと押し込み、押し込みきれないようであれば適当に鞄へとしまい込む。
もう用はないとばかりに、もと来た道を戻ってから、もう一度感謝の言葉を残して帰ろうーーと、思ったけれど。
「そういえば、貴女はここで何を? 仮眠にはちょっと空気が良くないけど」
少女が座っていたものとは別の椅子を引っ張り出して、長居の姿勢を見せ始めた。
■ミラ > 「どう、いたしまして」
活字を見れないなんて自分だったら発狂してしまう。
それなのにすごいなーと少し労りの混じった視線を向けてしまうのは
本好きというより活字中毒ゆえか。
「こちらの普通、がわからない。
公開資料を見てもわかったのはそう多くはなかった。
付け加えると本の中も仮眠には悪くない」
いそいそと自分が丸まっていた椅子に戻るとちょこんと姿勢よく座りなおす。
特に話すことを禁じられてもいないというのは新鮮。
本質的にはこの少女おしゃべり好きだった。相手がいないだけで。
■V.J. >
このまま資料を持ち帰れば、待っているのは次の雑務!
それをさっと避けるべく、彼女の出した結論は「ここで駄弁る」の他にない。
憐れまれるほどの、労られるほどの人間ではないのに、なんとなくよく見られているような感じがしたので、少し快い気持ちになどなっている。
「貴女は多分、教える側よね。定期的に新しい人が入ってくるからまだ把握してないけど」
出会ってしばらく。彼女が抱いた結論はそれ。
「あ、そうそう。私の名前はヴェイパージェイル。どこを取っても可愛くないから好きに呼んでね」
知らないので自己紹介、と。続いてーー
「普通がわからないと、不便?」
■ミラ > 「そう、便宜上、講師」
小さく頷く。さらりとそういう結論が出たあたり
私のような講師も珍しくはないのかもしれない。
「ヴェイパージェイル、覚えた
私は、ミラ、こちらではこれが、近い」
頑張って現地の言葉で話そうとしてみる。
できるだけ簡単な言葉を選ぶことになるけれど……
この国の言葉はニュアンスが難しい。
「不便。教えるときは、特に」
少しだけ視線を落とし足をぱたぱたと揺らせる。
つまるところ自信がないというのもある。
■V.J. >
教師側である。異世界の人間である。魔術の分野において秀でている。
このあたりが、彼女の持った少女ミラへの印象。三番目に関してはあまり持ちたくない思い込みだけれど。
鞄を無造作に床へ置き、軽く肩を揉みながら首を回してしまうのは、若さを感じられない所作だった。
「そうね、教えることには責任が伴う。あんまり考えずにやっていいことじゃないーーまあ私はあんまり考えてないけど」
やや卑屈な笑みがある。
「さて、そんなミラちゃんはまず普通であることが好ましいと思っているみたいだけど……普通にならないとダメって、誰かから言われでもしたの?」
自分は地球側の人間であるため、異世界からの来訪者がどのような条件付けをされているか、知る由もない。
相手がなんらかの制約を持っているとすれば、少々失礼だけれど、あまり深くは考えない。
■ミラ > 「授業、感覚。説明、しても、理解できない」
生徒の頭に直接刷り込んだほうが早いのではないかと提案したところ
それは倫理的に如何なものかと思われると返されてしまった。
ただちょっと人格が狂う程度で特に問題はないと思うのだけれど。
「理解できない事、理解できない
なぜ判らない、判らない」
まさにこれに尽きる。なぜ何処がわからないのか一切理解できないのだ。
当たり前のように理解してしまうからこそ、わからない者の感覚がわからない。
今まではそれでよかった。教えるつもりも必要もなかったから。
小さく首を傾げ本当に不思議そうに言う。
「なら、わからないものを対象、授業
何、教えれば、良い?」
授業とはわからないものにわかるように教えるためにするもの。
教科書を読むだけで理解できるならそもそも講師なんていらないのだから。
「……よく、怒られる。
わからない人、気持ち、考える、べきと」
マフラーに片手を当て俯く。
いまだに彼女の言葉の意味が分からない。
■V.J. >
「はーん。大変ねぇ」
結構な苦労だと思うけれど、めちゃくちゃざっくりとした感想がそこにあった。
「相手のことを考えろ、か。うん、自慢じゃないけど私もよく言われるわ。テスト用の機材を完全にぶち壊した時なんか厳しく言われたわ」
そのニュアンスは『人の気持ち』というよりも『常識をわきまえろ』に近かったことを、彼女は覚えていない。
「魔術のことには詳しくないから、授業の相談に乗ることは出来ないけど……」
ごめんね、と薄ら笑い。
「人の気持ちなんてね、考えるだけ無駄なのよ!」
それからそう、断言した。その力の入れ方は、相手に伝えているというよりもむしろ、自身の正当化に近いのではないかと思う。
「普通なんて基準は、世界じゃなくて個人が持っているものだもの」
■ミラ > 「これくらい、みんな、悩む
私だけ、違う、ない」
軽く首を振った。
思春期の青年の悩みそうな話題でもある。事実こうして悩んでいるわけで。
「考えても、わからない
なら、悩む、無駄、思う」
どうせ真の意味で人は分かり合えないのだから。
彼女の言う通り世界なんてその観測者の数だけ無数にあるのだから。
「でも、無駄じゃない、言う、人、いる」
正直理解できない。
分かり合えないとわかって居て尚そんな非生産的なことをするのか。
■V.J. >
「気難しいのね、きっとそれは悪いことじゃないんでしょうけど」
悩まないほうがおかしい。
彼女もどちらかといえば、完全に常識がない。
彼女が拠っているのはきっと、元々この世界に住んでいたから、という弱い理由にしかない。
弱く、異界からの来訪者にとっては困難な。
「ミラにとっての普通ってーーああ、やっぱりいいわ。これは多分私が理解できない。知能レベルの問題で。
そうね、思うんだけど……文句を付けてくる人は、貴女が異世界の存在である限り、ずっと何か言ってくるでしょう」
断言してもいい。
彼女が彼女なりの普通を構築したところで、きっとそうなる。
「思いやりを持てって話だろうけど……貴女の気持ちが何も考えられてないわね」
苦笑をして。
「郷に入れば郷に従えーーなんてのは、防衛機構でしかないのよ
怖がられているのね、ミラは」
当たり前のように言った。
■ミラ > 「怖い?私、が?」
確かに人は理解できないものを恐怖に感じるけれど。
「確かに。異邦人、区別は思っていた、以下
けれど、確かに、存在する」
それはもうどうしようもないことで、でもそれ故に
私個人への恐怖というより異邦人に対する恐怖だと考えていた。
自身の常識外の場所から来た常識外の存在。
良くも悪くも個になりえない……そんな存在。
「……私、個人、なのか?」
なら仕方がない。
もともと私は元の世界でも怖がられていたのだから。
逆にそうならいっそ納得ができる。
もしかしたらどこかで期待していたのかもしれない。
異邦人の枠としてなら受け入れてもらえると。
「私の、気持ち、は、どうでもいい」
そうおもうけれど
「あなた、みたいに、自由、なら
少し、生きやすい、かもしれない」
活字で死ぬという部分を除けば少しうらやましい。
■V.J. >
「当然、異邦人そのものへの畏怖もあるでしょうけどーーその異邦人としての知識を、能力を、当然みたいに振るえる人は怖いわね。
馬鹿馬鹿しいと思わないこともないけど、大体の人は怖がるものだから、だからこんな場所が作られたんでしょうけど」
この島の成り立ちも、あまり彼女にとって興味のあるものではない。
まあ文献なんぞ読んでしまおうものなら眼球から血を撒き散らして死ぬんだから仕方がない。
「聡明であればあるほど生きづらいんでしょう。
馬鹿すぎるのも困りもの……違うわね、困られモノだけど」
それを改めるつもりはない。
「日にち薬な気がしないでもないけど、いま貴女が悩んでいることには変わりないし、由々しいこと
かといって私がどうこう出来る話じゃないものねー」
ギシと椅子を鳴らしながら、座面の縁を掴んでぐんと仰け反る。
大きく息を吸って、吐き。
「ただ、貴女は望まれているわよ」
■ミラ > 「隔離場所、理解、している」
逆に隔離しなければ社会が成り立たないだろう。
社会とは一定の安心がなければ成り立たない。
理屈としては当然のことだ。
「本物、は、それすら、考える、ない
無茶と、現実、区別、できない」
ばっさり口にするあたりそういう人種には容赦がない傾向がある。
実際何度そういった人種に迷惑をかけられたことか。
「……望まれている?」
理解できないでもない。
確かに技術保持者、そして講師としての制圧力、そのどちらも求められてはいる。
そしてそのどちらも十二分に果たせる自信はある。
■V.J. >
「悩むのは仕方ない。でも悩んでいたところでどうにもならない。
相手は貴女が変わることに期待しているし、貴女の遠慮につけこんでいる。
こいつは異邦人だ。しかし地球という世界に対して侵略的な害を与えるような存在ではない。
だったらこの世界の当たり前を押し付けて縛ってしまえーーと」
足を組み、腕を組み、興が乗ってきた。
「だったらミラは、アンタの常識を押し付けてやるべきだ。
考える必要も、悩む必要もない。
アンタが変わるんじゃなくて、世界を変える。
幸運にも教えるのはミラ。たとえば教室というフィールドにおいて、そこの支配者はミラだ。
教えてしまえばいい。アンタの常識を、アンタの理屈で。
文句を言われたら言い返せばいい。『望まれた、だからやっている』と。
第一、異邦人として認められている人間を、こっちの常識に合わせようなんてのが馬鹿馬鹿しい。
損失よ、損失。
どんな馬鹿が、アンタに何を言ったのかは知らないけどーーミラが悩む必要なんて、ないでしょ」
指をさす。魔術的に、その行為はどうやら危険をはらんでいるらしいけれど、彼女は知らない。
「アンタの行いに、世界が悩む。
そうして世界は変わっていくの」
■ミラ > 「……両立、しない、か」
目前の彼女が言うことはとても理解できる。
いや、理解しないようにしても理解してしまうような内容でもある。
今までずっとそうしてきたのだから。
そうして生きてきたのだから、今まで通りそうして生きていけばいい。
それだけの事。
「ヴェイパージェイル、は、そうして、いきて、きた?」
視線を少しだけあげ、ゆっくりと目前の彼女を見つめた。
ここまで言い切るなら、きっとそれだけのことが彼女の世界にあったのだろう。
自身の世界を変えてしまうような何かが。
■V.J. >
「いや、私はそうしてたら死んだけどね」
ゲラゲラと笑った。自由奔放に生きてみたら死んだ。
そして間違って生きながらえてしまった。
「だからその結果ミラも殺されるようなことになったとして、責任は取れないけど」
焚き付けておいてそんな感じだけれど。
「でも、もしミラがミラであろうとしているだけで、たったそれだけで世界から排斥されるというのであればーー
その時私は、アンタの隣で世界と戦いましょう。探し物を手伝ってくれたお礼に」
なにせ、危うく活字の見すぎて死にそうなところを助けてもらったのだ。
そんな相手に命を賭けるのは当然だと、彼女は言う。
ンン、と、咳払いを一つ。
「ま、貴女が世界の滅ぼし方を生徒に伝えたとして。
私はそれを、世界が滅びないように使っていく術を教える側だから。
教科担当はもうちょっと、雑に教えてくれてもいいわよってこと。
授業なんてそもそも、十を教えても一さえ伝わるか怪しいんだから……他人の考えていることは分からない。だからこそ、他人の影響力なんて、実は大したことない。
裏返しよね。」
■ミラ > 「そう」
言葉少なく、けれど想いの詰まった一言を返す。
「私、死ぬ、とき、私、の、責任
ただ、そう、いってくれた、人は、多い、ない」
どこか遠くを見つめているようで、でもしっかりと私を見てくれているこの瞳は
きっとたった一つを除けばどこまでも冷静に見つめられるだろう。
それは単純に学者として好ましく、その内容は……個人としてやはり暖かかった。
「……ありが、とう」
まだ言い慣れていないお礼を口にする。
あちらでもほとんど口にしないような言葉だったけれど。
「……優秀、じゃない、と、理解、出来ない
可能性、高い」
だからそれで与えられるのはしょせんきっかけ程度。
けれど教育というのはまさにその程度でいいのだろう。
■V.J. >
「ふふ、私が命の優先順位を低く見積もっているだけだから、『言ってくれなかった人』よりも私がどうこうってわけじゃないでしょうけど」
それは事実であり、一度明らかに人間的な死を迎えた彼女にとって、現状はロスタイムのようなものに近い。
その命を自分ではないものの為に張れるのであれば、むしろ有難い話なのだ。
「それはつまり、優秀な生徒をもっと伸ばせばいいってわけ。
全部を貴女が教える必要はないんだから。いまそういうことを望まれた配置に居るとすれば、様子見みたいなものなんじゃないかしら。
無茶な授業を続けていればそのうち、それに付いてこれる人だけが集まる場所へ連れて行かれるでしょうし。
あるいは、それが本当に、ミラへ望まれていることかも」
解釈なんて、自分にとって最も都合がいいように行うべきなのだと。
褒められたことではない、子どものようなことを言う。
反発するものも多いだろう。
でもその責任は、彼女が取らされるべきではない。そう、ヴェイパージェイルは思い、告げる。
「あ、でも私がこう言ってたみたいなことを言うと余計に怒られそう」
あんな奴の言うことを真に受けるなと。
■ミラ > 「それ、は、理解できる」
命の価値を重く見積もるものは大体において平和に慣れた者たちだ。
戦火の元、病室、そんな場所では命の優先順位は下がっていく。
それは彼女にとっても自然なことで。
「選別、に、は、なる
元々、先端魔術、簡単、ではない」
真面目に内容に返しつつも彼女が言いたいのはそういうことではないと
理解はしているつもり。
きっとほとんどの人はそれを欺瞞や傲慢だと表現するだろうけれど
その解釈は嫌いではなかった。
そうして続く言葉にクスリと笑みをこぼす。
「その理論、だと、真に受ける、物も、自分で選択する、べき」
静かに何を選ぶかを告げる。
もとより彼女の視野には有象無象などは入ってはいない。
それが口にする言葉は正直言ってあまりにも興味がない。
■V.J. >
ミラの言葉を聞いて、嬉しそうに微笑んだ。
彼女がそうやって生きていく限り、自らの命もまた、そこに生きる。
全く迷惑で自分勝手なことだろう。
そこにある思いやりが真実だとしても、根付く土壌が打算と陰謀。
それでも彼女は裏表なく、笑う。
なんと言っても頭が悪いから。
「よし、ヴェイパージェイル塾の信奉者がひとり増えたことだし、……仕事しないと……ウッ……」
そうそう。この熱弁もサボりたいが為だった。
「もし1年にヤバそうな奴が増えたら喜ぶわ。貴女が頑張っているんでしょうって。
きっと貴女を悩ませるものは、正しくて偉大で美しい。
でも私は嫌い。
好き嫌いも許されるわ。この島は狭いけど、この世界は広いもの」
そこまで言って立ち上がる。
床に置いた鞄を手にして。
「ゆっくりしちゃったわね。じゃあ、またどこかで会いましょう。
その時は、ミラの世界の話をしてもらおうかな」
■ミラ > 「仕事、できる範囲、手伝う
機会があれば」
さりげなく予防線を張るあたりうすうす感じるところがあるのだろう。
安請け合いすると全部飛んでくるようなそんな予感が。
「……その正義を、覚えて、おく」
少なくとも記憶力は自信がある。
忘れたいことも全部覚えたままなのだから。
怒りも苦しみも、思いも願いも自分自身。
そしてこの問答もまたそうなるだろうと思っている。
「……楽しみに、して、いる
その時、まで、は、言葉、もう少し
上手、なる」
■V.J. >
「あらほんと? 校舎の損壊を直すみたいなことが出来たらとっても助かるけど」
それは多分仕事ではなく、損壊の原因は絶対に彼女自身のはずだ。
「あんまり上手になられても、ミラくらい頭がいい感じだと、ちょっと何言ってるか逆に分からなくなりそうだけど……その感じも可愛いから、それでいいんじゃない? きっと好かれるわ。私も好きよ」
冗談ではなく。そう告げて、足は出口へ。
「幸せな一日を」
■ミラ > 「……余裕」
まさか目の前の彼女がそれの原因とは夢にも思わず
その程度ならすぐ終わらせると小さくうなずく。
この一言でこの後の受難が確定したのだけれど、それを今の彼女は知る由もない。
「そういう、もの?」
やはりそういった感覚はよくわからない。
わからないのでとりあえず置いておくことにする。
「幸せな、明日、を」
そうして投げかけられた言葉を返し、その送り手を見送った。
ご案内:「研究棟資料室」からV.J.さんが去りました。
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■V.J. > (PL:何らかの操作が原因で入室ログを大量に流してしまいました……管理人様へロク削除の依頼メールを出しております。ご迷惑をおかけして本当に申し訳ないです……)
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