2017/04/24 のログ
ご案内:「研究施設群」に谷蜂檻葉さんが現れました。
■谷蜂檻葉 > クッションの効いた、柔らかい靴音が雑多に立ち並ぶ施設棟の隙間を縫っていく。
コツコツコツ、 コツコツコツ。
少し歩く毎に立ち止まり、また歩きだしては立ち止まり。
不規則なリズムは彼女の今の状況を音だけで理解させてくれる。
「ええと、”試験棟の4番”はー………。
……参ったなぁ、ちゃんと道を聞いておくんだったかも。」
背にかけた小さなバックパック、そして逆の手には書類の詰まったハンドバッグを持って、
キョロキョロと忙しなく視線を彷徨わせる―――目標物を完全に見失ってうろつく女の―――谷蜂檻葉の姿があった。
ご案内:「研究施設群」に寄月 秋輝さんが現れました。
■寄月 秋輝 >
ふと、顔を上げる。
わずかに浮いたまま、手元の端末と研究資料を見比べて移動していた最中である。
「谷蜂さん?」
珍しい場所で珍しい顔を見た、という表情で声をかける。
図書館で委員の活動をしていたが故に、おそらく一方的に知る立場なのだが。
「……道に迷いましたか?」
■谷蜂檻葉 > どうしようか。
ここまで道に迷ってしまえば最早地図がどうというよりは
一度抜け出て、再度最初の目標物を目当てに照らし合わせながら――――
「……はい?」
声をかけられて、間の抜けた返事をしてしまう。
そして、見覚えのある顔にそんな返事をしてしまったことに。
そのまま慌てて言い訳するつもりで、ズバリそれ以上に間抜けな事になっている事を指摘されて頬をかいた。
「あ、あはは……どーも。
ええと、私ってほら、研究してるよりは読書だーって感じなので、
どうにもあまり、こっち側《研究施設郡》に着たことがなくってですね。
なんだか面白いなー……なんて新入生みたいにキョロキョロ歩いていたら、こう、すっかり……。」
恥ずかしいなぁ、なんて手慰みに髪を弄りながら彼女は乾いた笑いを吐き出した。
「『4番試験棟』って言って、分かりますか? 多分、もう近くには来てると思うんですけれど。」
それから、手元に在る簡素な地図を差し出して寄月に思い切って道を尋ねた。
■寄月 秋輝 >
「ああいえ、気持ちはわかります。
普段生徒として生活していたら、ここは珍しい場所でしょうからね。
よろしければ、用事が終わったら案内しましょうか」
慌てた相手とは対照的に、落ち着いて、恥をかかせないように対応する。
差し出された地図を見て、小さく頷く。
「そうですね、近くまでは来ています。
今日は何の用事で?」
そう尋ねながら、行先を指さして先行を始める。
相変わらず浮いたまま、横目に檻葉を見つめている。
■谷蜂檻葉 > 「あ、本当ですか? すいません、私ってばどうも、こう初めてくる場所って毎回こうなっちゃって……。
だからいつもは下見とかするんですけど、
研究施設自体は来たことも在るし、大丈夫かなー、なんて。
いやぁ、少し進むだけで雰囲気がドンドン変わって凄いですね。
異邦人街みたいで、でもあんなごった煮っていうより……こう、綺麗に陳列されたコレクションみたいな?」
寄月が先行するとそれについて付いていき、
もうこの島の事知った気でいましたけど、全然ですねぇ。 と、脳天気に笑う。
昨日の雨が今日の晴れ。―――コロコロと表情どころか気分も変わる彼女は、悩みの無さそうな頭をしていそうだ。
「私の用事ですか? ええと、『発表』ですよ。
これから研究として進めていく準備が整ってきたので、その前フリ……みたいな?
来てくれれば時間を作るって言ってもらってるのでのんびりしてたんですけど、
寄月さんに会えなかったら夕方になるところでした。」
研究棟の隙間に差し込む暖かい日差しは、昼を過ぎてその暖かさを増している。
けれど彼女のあの様子だと、確かに見付ける頃には夕暮れ時だっただろう。
■寄月 秋輝 >
「そういえば、僕も最初にここを歩き回った時は、数時間かけてマッピングしましたね。
ただ研究テーマが近しい場所は隣り合っていたりして、法則さえ理解すれば、全体を覚えるのは早いですよ」
面白いたとえ方をする女性だと、小さく笑った。
話したことの無い相手だが、図書館で委員の仕事をこなす、いわゆる大人しいタイプとはまるで違った。
会って話してみるものだと考えながら、道案内を続ける。
「研究より読書派だったのに、今回初めて研究をするんですね。
ということは、卒業後はこちらで研究を?」
興味を示したか、目を合わせるように体の角度を変える。
移動速度は落とさないどころか、わずかに急ぐかのように、早足程度に早くなる。
■谷蜂檻葉 > 寄月のアドバイスになるほど、と頷いて周囲をぐるりと一度見回した。
「……なるほど?」
そして、『解らない』としっかりと顔に書いてからへにゃりと眉尻を落として笑った。
「まぁ、『読む』っていうのは『溜め込む』って事ですから。
ちゃんと吐き出せる時に吐き出さないと宝の持ち腐れになっちゃいます。」
溜め込んで膿んでも嫌ですしね、と。快活に笑う。
彼女の読書は、どうやら実践用のものらしい。
「でも、研究を続けるつもりはないんです。
やりたいことがあるので、『本島』の方に戻ろうかなって思ってますよ。
……此処、居心地がいいのでしばらくは居ると思いますけどね。」
それなりの決心と、それ以上の寂寥を表情に浮かべて答える。
「それに、『卒業が区切りじゃない』って甘えた気持ちで居ると、出来ないこともありますから。」
■寄月 秋輝 >
「慣れれば、ですよ」
微笑んで、そう返した。
「読書の内容は、大なり小なり人生に出るものですが……
そうして知識の集大成を披露したいものがある、という気持ちはよくわかります」
魔術研究者として、それには同意出来る。
読書だけを楽しめる者と、読書を起点に自分を高める者の差はあるものだ。
「将来設計がしっかりしていていいじゃないですか。
最終的にやりたいことが決まっていて、それまでの準備は楽な場所で行う。
居心地の良さを追求して、学生で居る事は『甘え』ではないですよ」
表情は変わらない。
静かな微笑みで、肯定に肯定を重ねた。
■谷蜂檻葉 > 「……ですかねぇ。」
ありがとうございます。 と、彼女は微笑んだ。
―――アナタが、人並み外れて洞察力が高ければ彼女が何かをはぐらかしたような笑みにも見えるだろう。
「そういえば、寄月さんの『用事』って何なんですか?」
間もなく、問わずとも解ることだったが彼女は口を閉ざすことを嫌うように話題を振った。
■寄月 秋輝 >
「僕はそう思います」
気付いたか気付いていないか。
目を細めて、正面に顔を向けた。
それに気付いていたとしても、詮索もしなければ態度を変えることもないだろう。
「僕はここで魔術研究の成果を保存しに。
講義をしていると、新しい理論予測がどんどん浮かんでくるんですよ。
忘れないうちに端末には保存してあるのですが、こちらの研究データベースにも理論予測だけは残しておこうと思って」
答えながら、もう近いですよと囁く。
檻葉の持つ地図に、現在地を光の点を灯すことで示してみせた。
■谷蜂檻葉 > 「 りろんよそく が、ですか。」
色々な意味で、想像がつかない。
……本当にいろいろな意味で。 ”そもそも”がない、とも言うが。
『なんか凄いもの』を見るような童の如き視線が寄月を見ている。
「………、あ。そうですよね。 寄月さん、講義を持ってるのよね。
そっかそっか――― あ、いや、なんでもないですよ!はい。 ……うんうん。」
それから、しばらく見て何かを思い出したように小さな声で呟き寄月が視線を向ければ誤魔化すように笑った。
……もしかしなくとも、彼女のことをアナタが図書館で知っていたように、彼女もアナタの事を別の事で覚えていたようだ。
そして、その肩書に『教師』の文字がなかったらしい。
■寄月 秋輝 >
「つまり、魔術式をこう組んだら、こう作用する『かもしれない』という物ですね。
予測して、上手く行ったら魔術として機能させられる。
上手くいかなければ、また最初から組み直し。
その予想段階だけですが、まずは予測が無ければ実践も出来ませんからね」
こうなるかな、というイメージを形にして、実践するのが寄月秋輝という魔術師の構築の仕方だ。
言葉にしてしまえば簡単なことだと思ってもらえるだろうか。
「ええ……あぁ、今年飛び級卒業して、そのまま教師になりましたからね。
谷蜂さんは一応同学年……でしたか?」
何せ急なことだったので、親しい者や風紀委員会の一部の者しか知らなかったことかもしれない。
適度に見知った相手との会話のつもりで、さらりと流してしまったのは失敗だったのだろうかと思う。
■谷蜂檻葉 > 「なるほどぉ。」
この『なるほど』は教育番組でゲストで招かれた芸能人が研究家の言葉に対して使う『なるほど』とほぼ同義である。
直接的かつ直感的に魔術を扱う彼女にとって、『予想』に意味はない。
予想とはつまり『結果』に直結し、「思考実験」とは『未来予測』と変わらない。
―――何が言いたいかと言うと「頭を使って魔術を使わない」のだ。
(主に獅南教授との交流で顕著になるが。
彼女にとって彼の授業はなかなかに鬼門である。 赤点に近くても突破できたのが奇跡だ。)
「ええと、私は今が4期目だし……そうなるんですかね?」
この学園において年齢そのものに拘りはないが、『同期』というのはなんとなく繋がりを感じる。
■寄月 秋輝 >
「理解出来ない、といった声ですね。
つまりなんとなくこうしたら上手くいくかな、というのを確固たるものにするために必要なものですよ。
で、忘れないうちにメモしてしまおう、くらいの気持ちです」
予想だけでは、浮かんで消えることも多い。
ほぼ直感で魔術を組むものの、その直感が消えてしまわないようにするためのものだ。
「もう一年、学生を続けていれば、まだ何かしら交流が出来たかもしれませんね。
こうして話をするのが少し遅かったですね」
とはいえ、学生を続けるには自分は歳を取りすぎたと思っていた。
谷蜂檻葉という女性と、自分は歳が近いことは知らないままだ。
■谷蜂檻葉 > 「理解は出来、てる。 と、思うけれど。」
イマイチ、言葉にできずに曖昧に笑う。
『理論』として頭に残るものと、『納得』するものは別というだけのことだけだが。
「……いやいや。
こうしてお話するのだって、そう変わりませんって。 ちょっとだけ、肩書が違うだけで。」
寄月が惜しむように言えば、肩をすくめた。
先の通り、年齢や立場。 ソレに伴う様々な肩書が乱れ飛ぶのがこの島だ。
たまに神様もいる。
だからカッチリと意識しない限り、本当に「肩書」でしかないのだろう。
書いていても意味のないことだって在るし、書いてある以上の意味が在ることもある。
■寄月 秋輝 >
「説明するには難しい引っかかりがあるんでしょうか。
魔術の扱いや考え方には、かなり差が出ますからね……」
つまり、彼女と自身の魔術の捉え方には大きな差があるということだ。
それならばかみ合わないのも仕方がない。
「学生と教師では、さすがに差が出る……と思いますよ。
恋人とのことも考えると、もう一年くらい生徒してもよかったかなとも……」
秋輝自身、そうそう変わらないと思っていた。
しかし学生と教師間の恋愛となると、さすがに背徳感が強いものだ。
■谷蜂檻葉 > 「多分、カレーとシチューぐらい違うんでしょうね……。」
要素だけ言えば、似たものだけれど。
「結構、別のところで教師しながら幾つか授業を受けている人も居ますし……。
気にするかしないか、何じゃないですかね? 私とかはあまり気にしないですけど。
―――ところで、アレじゃないですか?」
と、その辺りで寄月の目指す建物まで辿り着く。
■寄月 秋輝 >
「それはそうかもしれませんが……
なんというか、どうしても気になってしまって」
それもまた感性の違いだろう。
そう悩んでいたところ、指摘されてようやく目的地に近付いていた気付く。
「ええ、あそこです。
すみません、話し込んでしまって」
これから研究の発表があるのに、と小さく頭を下げた。