2016/05/14 のログ
■美澄 蘭 > 標的の水晶体が、やや透明感のある緋色を示している。
「………いまいちね…」
魔球魔術からするとまだまだ密度の低い色に、首を傾げる。
…そんな中、以前炎の色の温度について聞いた話を思い出す。
(………そういえば、炎って温度が上がると黄色、白、青になるんだっけ…。
魔力の属性に反応して色が変わる水晶体って、炎の色が変わっても赤系で反応するのかしら?)
■美澄 蘭 > それは、ほんの小さな…しかし、とてつもなく危険な出来心。
以前魔球魔術の練習で人に迷惑をかけた時のように、迷惑をかけるだろう相手が近くにいないことも、この出来心を実現させてみたい好奇心に拍車をかけた。
(放射魔術の多重詠唱はまだ制御しきれるか分からないから、単詠唱でどこまで温度が上げられるか、という感じの実験になるかしら)
端末を操作して標的の状態をリセットする。
それから、再び標的を前方にするように向き直った。
ご案内:「訓練施設」に那岐夜車丸汀さんが現れました。
■美澄 蘭 > 温度を高めるように、炎を、魔力を、濃く、強く押し込めるようにして、その密度で、そのまま放射状に放つ構図をイメージする。
ただし、そのまま野放図に広げず、標的を包み込むくらいで止めることも忘れないようにする。
そして、深く、深く。思いっきり空気を吸い込んで。
「………えいっ!」
ゴゥッ、と、空気を飲み込むような音とともに。
黄色い炎の壁が、標的の水晶体を遥かに超えて、3mほどまで立ちのぼった。
範囲は、丁度標的を飲み込む位置まで。やはり、多重詠唱なしにはそうそう効果範囲は伸びないらしい。
■那岐夜車丸汀 > 訓練施設がどうやらあるようです。
見て覚えてではなく聴いて覚えたので 場所は大体この辺り…の筈。
少し前に何かの音が聞こえたので 誰かしらが訓練施設にいるのだろうかと思案し
邪魔にならない程度に訓練施設の入り口付近で 足が止まり。
訓練スペースの入り口からほど近い処まで歩んで また止まった。
今訓練なさっている方の息遣い 何かが燃焼し それが放射状に移動して飛んで行った音がする。
■美澄 蘭 > 黄色い炎の温度は、ざっくりいって3000度から4000度。
それでも放射の中心にいる蘭には何ともないあたり、自分の魔術が引き起こした魔術で負傷する間抜けな事態はそうそう起こらないということか。
…あるいは、蘭の魔術耐性が高いのかもしれない。
炎が引くと、その水晶体は透明感のまるでない猩猩緋。
「…炎の色が変わっても、元素の色自体は変わらないのねー…」
標的に近づいてしげしげと見つめる蘭が、少女らしいソプラノで小さく零す。
蘭本人は何ともないようだが、魔術耐性の高くない人間が近づくと、炎の残した温度のせいで、それなりに暑く感じられるだろう。
ちなみに、訓練施設に新たに登場した少女には、気付く様子がない。
ご案内:「訓練施設」に東雲七生さんが現れました。
■那岐夜車丸汀 > (若干 熱い様な…何かが燃焼しているのは 感じられますが。)
異能を屋内で使うと 色々と反響するのですぐに何が大元で燃えているか分かった。
炎か何かだ。間違いあるまい。色は分からないが形状が正しく炎状。
足音を態と殺してもいないが 忍び足で入ってしまったため 気づかれてもいない。
見学という形で暫し 黙って見ておこう。
■東雲七生 > 七生が訓練室を訪れたのは、そこにある武器の模造品を調達するためだった。
両手いっぱいに近接武器を抱えた七生が通路を歩いていると、ふと異様な熱気を感じて足を止める。
「……あれ?ここ、こんな暑かったっけ……?」
きょろりと、辺りを見回し、その熱源を見つけようと再び歩き出す。
じわじわと、熱い方へ熱い方へ、と。
■美澄 蘭 > (…でもこれ、魔球魔術に力を込めるのと比べても、広範囲を制御しなくちゃいけないから結構疲れるわね…
魔力の方は別に足りないとかなさそうだけど、今は質より数を撃つことを優先かしら?)
んー、と声を出しながら、鮮やかに染まった標的の水晶体と睨めっこしつつ思案顔。
とりあえず、数を撃つことを優先しようと結論付け、標的の状態をリセットすべく端末の方に向き直った…ところで、固まった。
「…あ、東雲君に………えーっと………」
そこにいたのは、友人と見知らぬ少女。
見た目からすると、先ほど自分が使った魔術の煽りを受けて何かの傷を受けたとかはなさそうだが…
「………2人とも、いつからいたの?それと………大丈、夫?何か、変わったこと、ない?」
自分の魔術の練習で何か迷惑をかけていたら申し訳ない。
とりあえず、状況を確認すべく、2人の方を交互に向きながら、そんな風に尋ねた。
ちなみに、表情は強張った笑みを貼り付けたようになっている。
■那岐夜車丸汀 > (私は無 私は無の境地 私は…)
ひたすら 入り口付近で正座をし 瞼を開いても閉じても見えないので目を瞑って黙っていた何か。
気配は殺してはいたが 姿までは隠蔽スキルなんぞ持っていないので 見られれば気づかれるという。
(見つかってしまいましたか)足が痺れたとか微塵にも感じられない動きですくっと腰を上げると
「ごきげんよう 暫し お邪魔を致しております。魔術と思しき訓練を拝聴致しておりました。
変わった事と申せば 若干熱い事を御報告致しますが」
異能は使わなくても 視覚以外の感覚が鋭くて問題がない。
二人? ああ、東雲先輩もいるようです。気配や声は恐らく東雲先輩だろうと目星はついている。
そちらへと 東雲先輩へと 会釈も忘れない。
■東雲七生 > 「ん……あ、よっす。美澄!
……それに、えーとなぎや、……なぎさ……だっけ。」
熱源を辿ってみればその中心に居たのは友人で。
あらゆる武器を抱えて両手の塞がった七生は軽く会釈をしてから、もう一人、最近知った顔に気付き、そちらにも会釈を返す。
「俺は今来たとこ……というか、先に居たとこかな。
ちょっと武器庫に用があってさ、見ての通り。」
当たらめて美澄へと向き直って、腕の中の武器の数々を示す。
刀剣のみならぬ鈍器なども、本当に幅広く抱えていた。
「変わった事?……んまあ、特に何も無いぜ。」
そういや暑かったっけな、と首を傾げて。
まあ何かやってたんだろ、そういう場所だし、と一人納得する事にした。
■美澄 蘭 > 「…あ、暑い…?
ごめんなさい、自分で使った魔術の影響っていまいちピンとこないから…
…他に人がいないと思って、調子に乗っちゃったの」
と、まずは暑いことを素直に指摘してくれた汀に。それから七生に頭を下げる。
それから、顔を上げて
「もしよかったら、この影響を打ち消せそうな魔術を使って室温下げるわ。
………でも、東雲君凄い武器の数ね…これ、全部使うの?」
と、改善の申し出をした後、たくさんの武器を抱えて手が塞がっている状態の七生を今更改めて確認し、目を瞬かせながら尋ねる。
■那岐夜車丸汀 > 「汀でも 那岐でも 宜しいですのに。大体苗字が名前染みておりますが」
東雲へと言葉を淡々と返しておこう。何となくだが反響定位ではなく周波数変調音を使って
東雲の現状を把握してみた 大量の武器を抱えて何をしているのだろう。
武器庫に用事があるらしいが それにしても 多い。
「若干程度なら 然し この位でしたら問題は御座いませぬ故。」
次に美澄へと言葉を返しておく。ちらりと彼女が先程まで弄っていた方へと顔を向けて 異能を使い 把握更新。
どうやら 室温を下げてくれるらしいので -おっとっと。
二人はどうやら知り合いの様子。 黙って見守ってみようと口を閉ざし気味に。
■東雲七生 > 「あ、いーよいーよ、別に。気にしなくてさ。
これくらい、ちょっと脱げば何とかなる程度だし。」
あはは、と笑いながら自身の服装を省みる。
学校指定──ではないが、朱色のジャージ姿であった。
その後、腕の中の武器の事を問われ、
「ああいや、違う違う。
使うって言うか……資料としてよく見とこうと思ってさ。
図鑑で見るより、本物触った方が分かりやすいと思って。」
試しに軽く素振りくらいは、と思った程度で、
特別何かしようと思ったわけでは無い、と告げる。
そして那岐夜車丸へと振り返ると、
「──ええと、じゃあ、汀……で。
汀はこんなとこに何を?異能の訓練……って感じじゃ無さそうだけど。」
女子寮からここまで結構遠かっただろ、と小首を傾げて。
それから少女二人を交互に見て、共通の知り合いポジションである自分の身の振りを少し考える。
「……と、とりあえず……まずは自己紹介、しとこっか。
二人とも、俺の事は知ってると思うから、まあ省くけど。」
■美澄 蘭 > 「………そう…。
でも、一応後で下げておくわ。氷の放射魔術の練習にもなるし」
2人が気を遣って問題無いと言ってくれてはいるが、やはり申し訳ない気持ちが先に立つ。
なので、練習を兼ねる程度の感覚で、一応試みる意志は表明した。
「…武器が資料、ね…
………東雲君、何か武器を使うような演習があるの?じゃなきゃ、部活か委員会か」
よほど物騒に感じたのか、どこか心配そうな表情で七生に尋ねる。
自分の魔術の威力を棚に上げているような気配がなくもない。
…と、見知らぬ少女も七生の知り合いであると知り、そして七生に自己紹介を促されると、ぱちくりと大きく目を瞬かせ。
…それから、汀の方を向いた。
「…そういえば、自己紹介もしないでごめんなさい。
美澄 蘭。この春に2年生になったの。生活委員会の保健課に所属してるわ」
「よろしくね」と、はにかみがちの笑みとともに軽く頭を下げた。
汀の目の様子は、まだ気付いてはいないようだ。
魔術の練習で「やらかした」後なので、そこまで気が回っていないらしい。
■那岐夜車丸汀 > 「はい。 私の身ですか? 私の訓練 屋内で行うと…
ほぼ 粉砕と破壊しか御座いませんので 色々とご迷惑が及びかねません。
強いて言うのであれば ただの散策に御座います。仰る通り遠い道のりでしたが」
女子寮に無事についたあと あっさりと住めた。地図は渡してくれた人に説明して貰って地理を覚えたとも。
視て覚えるのも出来るっちゃー出来るが 時間はかかる。
東雲に言われて 近くにいる美澄の事を全く存じない事に気づくというか知らない。
自己紹介はしておかねば 今後の事にも響こうと考えた末、東雲から美澄へと視線を何となく向け
口を僅かに開いたかどうかしてから 体の向きを変えたとも。
「氷 の放射魔術…もですか。魔術で上げた室温は魔術で下げる…」
独り言の様な呟きを零してから ああ、自己紹介でしたねと気持ちを切り替えると
「いえ、 私の名は 那岐夜車丸 汀。一年です。他は無所属ですが」
異能を使わなくても 感覚と音で彼女が頭を下げたらしいのは分かる。
此方も自己紹介の後に 微笑程度の笑みと会釈は忘れない。
■東雲七生 > 「うーーん……まあ、そんな、とこ。
異能の方で、ちょっとこのままじゃ今度は進級危ういって言われて。」
それで仕方なく、と普段は快活な、無邪気な顔をしている事の多い七生が珍しく苦虫を噛んだ様な顔をしている。
それだけで、あんまり触れないで欲しい案件の延長線上だということが伝わるだろうか。
武器をがしゃがしゃと置きながら、自己紹介をし合う美澄と那岐夜車丸を微笑ましく見守る。
次いで宣言通りにジャージの上だけを脱ぎ、大きく伸びをしてから。
「ただの散策、かあ。
……じゃあまた帰り送ってくよ、一人で歩いて帰るのも寂しいしね。
にしても、屋内で使うと粉砕と破壊って……どんな異能なんだろ。」
那岐夜車丸へとそう告げてから、ジャージの袖を腰で結わう。
そして改めて美澄と、その先にある水晶体とを見比べる。
「見た感じ、魔法か何かの練習?」
■美澄 蘭 > 「…異能のある人は制御を覚えることも重要なんだったっけ。大変よね…」
この学園の特徴として魔術と並び称される異能の教育。
特に、異能の制御は卒業の際の重要な課題になると聞いていた。
異能のことを詳しく聞いてみたくもあったが、どうも七生の雰囲気がそんな感じではないので、言葉を飲み込む。
そして、汀から自己紹介を受ければ、
「なぎささんね、よろしく」
そう言ってにこ、と柔らかい微笑を浮かべる。
後輩のようなので、出来るだけ丁寧に接しようと考えたようだ。
…そして、汀が、自分が説明した魔術に関心がある様子を見せたのと、七生の質問を受けて。
「そう、コゼット先生の元素魔術の中の1つ、放射魔術の練習をしてたの。
魔球魔術よりも魔力を使う範囲が広くなるから、ちょっと制御が難しいのよね」
「見ててね」と言うと、端末のところに向かって標的の状態をリセットする。
水晶体が、綺麗な無色透明に戻った。
汀が魔力・魔術を感知する能力に長けていれば、魔力の残滓が消えた、という認識になるだろうか。
■那岐夜車丸汀 > 「いえ、お気持ちだけ頂きます。
此度の散策は単体では居りませぬ故。鳥か何かを召喚して目の代わりを務めてもらおうかと。
私の異能は…屋外でなおかつ 破壊と粉砕しても支障がない空間でありましたら お見せ出来るかと存じます。
最近は 増幅器たる楽器があれば 方向性は定まりますので あらぬことでご迷惑事件は減りましたが」
東雲には そう答えざるを得ない。送ろうかと言われたものの、
散策程度で来てしまっている以上 余り長居は考えていなかった。
両手を組んでそっと開くと―先程までいなかった 小さいというか中ぐらいの梟がいた。
それは ほうほう と啼くと汀の肩に飛び移り定位置と化した。
異能の制御? 自分の場合は制御は大体問題はない。
魔術も異能と似たり寄ったりなので 課題と制御が似たり寄ったりで楽ちん。
二人の会話を黙って聞いていたので そうなのですかと思って居たり。
(おや 魔力が消えましたね 見えなくても その魔力の塊がしゅっと)
見えて居なくても 異能で視てはいた。
「放射魔術…ですか。 おや、魔力が一旦消えましたね。」
■東雲七生 > 「うんまあ、そんなとこ……別に俺の場合、体術一本でもやってけるからーって説得してみたんだけどさ。
……この学校に居る以上、そんで“持ってる以上は”一定の訓練するのは学生の義務なんだってさ。」
実にそれっぽい事を言われてしまったらしく、渋い顔をしていたと思えば今度は目に見えて凹んだ様子で。
もし七生が犬ならば、耳と尻尾が、しゅん、とたれ下がる様に見えたろう。
──まあ、それはともかく。気を取り直して那岐夜車丸を見ると、
「ん、そっか。なら安心だな。
困った事があったら何でも言ってくれよ、なんたって俺は先輩だし。
……ふふ。ふふふ。」
初対面でもちゃんとセンパイ扱いして貰えたことが嬉しかったのか、思い出し含み笑いなどしつつ。
どこか自信満々に頷くと、少女の肩に留まったフクロウを見て、目を瞬かせる。
その横合いから、美澄の声がした気がして振り返れば。
「ほうしゃまじゅちゅ……魔術か。
前に言ったか覚えてないんだけど、俺魔術魔法の類はからきしでさ……。」
無知無学ゆえか今ちょっと可愛い発音をしたためか、バツの悪そうに頬を掻きつつ。
結局水晶体の色が変わったなー、くらいにしか思えなかった。
■美澄 蘭 > そして、半円状に並んだ水晶体の的を、自分の前半分の周囲に巡らすような位置に立つ。
手を前方、やや下向きに伸ばす。
魔力を感知する能力があれば、この世界ではなかなか見ないレベルの魔力が、術式を構成すべく練り上げられているのが感じられるだろう。
魔力を感知する能力が乏しくても、ある種の「気」のようなものが感じられれば、華奢な少女に似つかわしくない「何か」を感じ取ることが出来るかもしれない。
「…えいっ!」
蘭の手の先の床から、氷の塊が、壁が放射状に伸びるように形成されていく。
それは、2mほど先の標的を駆け上がって飲み込むと、キーン、という音を立てて砕けた。
水晶体の的はそのままそこに鎮座しているが、ラピスラズリに、少し透明感を足したような色に変わっている。
汀には、注がれた魔力の量からすると、やや少なめの残滓が記されている、と読めるだろう。
「…こんな感じ。魔術に込めた魔力とか、元素の密度とかで、あの水晶体の色が変わるの。
…透明感があるから、まだちょっと密度が低いわね」
水晶体にちらりと目をやった後、そんな風に2人に解説をする。
「…まあ、制御出来なくて暴発することがあって、困るのは自分だしね…。
もし私で手伝えることがあれば、言ってね」
異能の訓練に前向きになれない様子でいる七生に、気遣わしげな表情を浮かべながらせめてもの慰めの言葉をかけてみる。
…そこで、はたと集中の中で聞こえた気がした言葉を思い出し、汀の方を見て。
「………あ、そういえば、もしかしてなぎささん、見えない…?」
今までの説明が完全に視覚頼みだったことに気付いて、やってしまった、という感じの気まずそうな顔をする。
■那岐夜車丸汀 > まぁ 色が分からないだけで 形状及び魔力の塊や薄濃の量
…色の無い世界を眼以外の感覚でその身で感じ視るのだ。魔力感知察知は高いが、
目の前の事は ほぼ定期的な異能で把握していた。
美澄の魔術をじっくりと 色なしで。 透明感はさっぱりだが 若干透明から色が付いたような感じがする。
「的が透明から濃くなった位は 分かりますが… え、ああ、全盲に近いので 見えていないと聞かれれば ほぼ見えておりません。
然し乍ら 私には 異能がありますので 色なしで大体視ております。お気になさらぬよう。」
彼女に向けて お辞儀を深々と頭を下げることで致し、
梟が ほうほう 啼く、そろそろ帰ろうと啼いている。
「私はそろそろ お暇を致しますので 申し訳御座いませんが
御前失礼致します。 何か御座いましたら 此方に連絡先が…」
お二人に向けて 帯から取り出したのは名刺が二枚。
名前と今住んでいる寮の住所と連絡先しか載っていないものをそれぞれ手渡すと、
それでは、と再度小さく頭を下げて 訓練施設を後にしてゆく。
■東雲七生 > そわ、と首筋の産毛が逆立つのを感じて美澄の姿を注視する。
うっすらと、陽炎の様な揺らめきを感じ取った他は、生憎何も感じ取れなかった。
ただ、あれよあれよという間に氷塊が出現し、そして水晶体の色が変わっていったのである。
「ほー……」
何がどうなってるのかさっぱり分からなかったが、ぱちぱちと七生は拍手をした。
ちなみに、解説を聞いた後である。解説を聞いてもさっぱりなのだ。それほどまでに七生にとって魔術や魔法の類は別世界のものなのである。
そして、話が自分の異能の暴走にまで及べば、
「いやまあ……何と言うか……俺の異能は、暴走するとしたらそれこそ俺が死にかけの時というか、
……もしかしたら、死んだ後に暴走するタイプかも知れねえし……。」
そんなものをどう制御すれば良いのか。七生の言葉の裏にはそんな苦言も忍ばされていた。
「お、あ……サンキュ、汀!」
差し出された名刺に気付き、相変わらず何でも入ってる帯だなーとぼんやり考えて。
質素なのがむしろそれらしい名刺を仕舞いつつ、少しだけ身を案じる様な顔をした後、
「───まあ、気を付けてな。
その、見えてない、って解れば不埒な事をする輩も出るかも、だし。」
授業の合間に級友たちの間で不穏な噂話があった。
それを暗に心配しつつ、軽く笑みを浮かべる。
ご案内:「訓練施設」から那岐夜車丸汀さんが去りました。
■美澄 蘭 > 「…色なしで…ああ、でも情景とか色が変わったくらいは分かりそうね。
…良かった、2人に説明するつもりで、片方を前提条件から置いてきぼりにするわけにいかないもの」
汀の言葉に、良かった、と胸を撫で下ろす。
それから、名刺を「ありがとう」と言って丁寧な手つきで受け取ると、
「それじゃあ、なぎささん、またね。
その時は、魔術の話でもしましょう」
と、汀の背中に小さく手を振って見送ったのだった。
■美澄 蘭 > 「コゼット先生の扱う元素魔術の中では中級らしいわ。
さっきみたいな感じで広がるから、攻撃だけじゃなくて盾みたいにも使えるんですって」
「魔術を使って戦ったことなんてないからピンとこないんだけどね」と言って肩をすくめて笑いながら、放射魔術の使い方についての説明を付け足す。
少し分かりやすくなる、だろうか?
そして、七生の異能の「暴走」の可能性についての言及に、何か考えるように眉を寄せて、首を傾げ。
「………なんていうか、危険な時に限って制御が難しいみたいな、そんな感じ…?」
危険な時に限って制御が難しい異能…と聞いて、自分の母親のそれを軽く連想するが、七生と自分の母親の性格はかなり傾向が違うように思うので、どんな異能ならそうなるのか、簡単には想像がつかない。
■東雲七生 > コゼット先生って誰だっけ。
七生の場合そこから始まる。そんなだから等級なんてさっぱりだ。下級も中級も上級も、等しく七生にとっては別世界である。
「へ、へー……よく分かんないけど、すげえってのは、よーく分かった!」
全然わかってなかった。
「危険な時に制御が難しいって言うか……あー、説明が面倒だな。」
うへえ、と顔を顰めると、百聞は一見に如かずか、と意味深長そうに呟いて。
ジャージのズボンのポケットからナイフを取り出した。折り畳まれた刃を出すと、少し躊躇いながらも自分の手に一筋、傷をつける。
■美澄 蘭 > 「…理論としてはそこまで複雑じゃないんだけど、その分個人の適性が出やすい魔術ではあるらしいのよね。私は、普通に練習してるだけのつもりでいるんだけど…」
「すごい」という七生の感覚にどう応えたら良いのか分からず、困ったように笑ってそう返すのみで終わってしまった。
…もっとも、異能についてそこまで理解が深くないという意味で、蘭と七生はある意味好対照ではある。
躊躇いながらも、自らの手に傷を付ける七生の様子を見て、
「え…」
と、表情が固まってしまった。
■東雲七生 > 「ぃつっ……」
すーっと七生の手に付けられた横一線が、じわりと赤く滲む。
その様子を、少し複雑そうな面持ちで見た後、
「まあ、こういう事さ。」
七生の掌に滲んだ血は、意志を持ったかのように一度大きく震える様に動いてから、小ぶりなナイフへと形作った。
それは七生が自らを傷つける為に使ったナイフと同じ、しかしその色はまるで血の様にどこを見ても真紅に染まっている。
表情の固まった美澄を見て、七生は少しばかり申し訳なさそうに笑みを浮かべた。
「やっぱ引くよなあ、目の前で自傷されるとさ。」
■美澄 蘭 > 基本的には、意識して発動させる類の異能だろう。自分の母親のそれとは、まるで違うことが分かる。
それでも、行使のためにはまず自分が血を流さなくてはならない。
その、決意をしなくてはならない。
「…気軽に使える異能じゃないのは、よく分かったわ。
………ごめんなさいね、わざわざ。」
そう言って、七生が自分につけた傷に、手を伸ばそうとする。
「…説明のために、わざわざ痛い思いさせちゃって…
その埋め合わせにはならないかもしれないけど、治させて、もらってもいい?」
「一応保健課員だから」と。
その顔は、七生の異能の性質を、真剣に受け止めたそれで。
「引く」という感じの表情には見えなかった。
■東雲七生 > 「解って貰えて何より。
やっぱ口で説明するより見て貰った方がすんなり解って貰えそうだなー」
説明下手は、大本は七生自身の語彙力の無さが原因なのだが。
裏を返せば、七生自身自分の異能に関してはまだまだ未知な部分が多いということでもあった。
真面目な顔でこちらの異能の性質を受け止めてくれたらしい美澄を見て、七生は少しだけ緊張を緩めた。
が、こちらの腕に手を延ばそうとするのを見ると、別種の緊張状態に入る。
「あっ、いや!その!ななな、慣れてるから大丈夫、すぐ止血も出来るし!
美澄は何もしなくて良いから、そのまま動かないで──」
顔を赤らめてて制止を訴える。異性に触れられることには慣れてないのだ。
が、その“動かないで”という想いが七生の異能に作用してしまう。
ナイフを形作っていた血液が、ぶるり、と再び震えてその姿を解き、
紐状になって美澄の伸ばされた腕を這うように衣服の中へ侵入しようとするだろう。
目的は、対象の拘束。つまり紐で捕縛する事である。
もちろん即座に手を引っ込めて距離を取れば、紐は七生の手の中でとぐろを巻くように納まるだけだ。
■美澄 蘭 > 「百聞は一見に如かず、とは言うけど…
…でも、説明のために毎回傷を付けるのも嫌よね」
「痛い思いなんてしないに越したことはないし」と、眉を寄せて。
そう、蘭は基本的には良識的だ。
危険と告知されている場所にわざわざ近寄らない程度には。
…そして、七生が別種の緊張状態に入ったところで。
「………え?」
「腕を伸ばして掌を傷口に近づけた状態で」止まった。
蘭が基本的に肉体的には異性に近づこうとしない性質のため。
そして、七生も会話の分には大きな問題が無いため。
…七生が、異性が苦手であるという認識が、蘭には欠けていた。
そして、七生の血液が、形を変える。
■東雲七生 > 「うわわわわ!?」
しゅるり、と言うよりはもう少し液体っぽさを含めた動きで。
液体と固体の境目の様な赤い紐は美澄の腕を這い、肩口から胴体へと縛るように巻き付いていくだろう。
その感触は、七生の混乱もあってか固体に至り切れなかったためかゼリー状に近い。
粘性は無いものの、元が血液の為生暖かさもあるだろうか。
「ちょ、ま──何、これぇぇぇぇ!」
七生の理解が追い付いていない。
要するに、これもある種の“異能の暴走状態”なのだろう。
形状・形質の変化は精神状態に大きく左右されやすいということなのだろうか。
残念だが、七生にそこまで冷静に分析する余裕はない。何せ自身の血液が面前で友人の衣服の中に入り込んでいる。
──もう一つ残念なことに、異能が発動している間、七生の血液と七生自身の感覚は半ば共有状態にも、ある。
■美澄 蘭 > 前に知人に治癒魔術を拒まれたことがあったので、七生もそういう理由から止めたのかと思ったのだが…どうも、話が違うらしい。
「え、え?」
そうしている間に、液体と固体の境目のような、細い何かが服の中にするっと入っていって、巻き付いていく。
締め付けもそうだが、如何にも体温という物体が肩を通過し、背中を通り…
「何これ、生温くて気持ち悪い!」
そう叫んで立ち上がる。振り落とそうと腕を振り回したり、ぴょんぴょん飛び跳ねたり。
結果的に現時点での束縛はきつくなさそうだし、あまり蘭らしくない、いささか子どもっぽ過ぎる振る舞いは面白いかもしれないが、多分当事者達はそれどころではない。
■東雲七生 > あわわわわ、あわわ。
顔中を真っ赤にして、もはや顔と前髪の区別がつかなくなった七生は自制の利かない己の血液をどうにかしようとしていた。
美澄を拘束しようとしたわけではない、ただ“じっとしてて貰いたかった”のだが。
どうやら魔物相手の戦闘実習やらで知らず知らずのうちに血の気の多い発想を身に着けていたらしい。
……と、自己分析する余裕もない。
感覚を共にしているため、血液の動きが手に取るように解る。
さながら、友人の素肌を素手で撫でているかのように錯覚しかけ、それが更なる自制心を突き崩していたが、
「……ハッ!!」
美澄の叫び声で我に返った。
そこからは訳の分からない言葉にならない悲鳴のような謝罪を繰り返しつつ、凄まじい勢いで友人から遠ざかる。
ある程度の距離を取ると同時に、細いものもビデオの逆回しの様に美澄の体から離れ、袖口から出て行った。
■美澄 蘭 > これだけ激しく腕を振り回したり、飛び跳ねたりを制服でやるという経験は恐らく、ほとんどない。
細いものがするりと身体から離れていけば、立ったまま胸元をおさえ、呼吸を整える。
「………。
………東雲君…大丈夫?落ち着い、た?」
恐る恐るといった風情で、首を傾げながら七生の方に問いかける。
幸い、締め付けはさほどきびしくなかったらしく、特に後に残るような感覚もないようだ。
というわけで、呼吸さえ落ち着いてしまえば後は七生の心配だけ、という程度には蘭の方は落ち着いたようである。
■東雲七生 > 土下座。
距離を置いて自身の異能の暴走が鎮まれば即座に、だった。
全身全霊を賭した『ごめんなさい』である。いや、七生自身にそういった悪戯をしようという意思は無かった。
無かったが、結果的に何だかとんでもない事をしてしまった、気がする。
ついでに一心不乱に振り払おうとする美澄の制服のスカートが翻る様を見た気がした。
そっちはもう、不可抗力だったとはいえ全霊でお詫び申し上げたい。
そんな心境で、ただただ床に額を押し付けていた。
「だ、だいじょうぶ。いちおう。」
落ち着いてるかどうかは、まあ、正直まだ少しというかだいぶ……かなりドキドキしているが。
■美澄 蘭 > 「え、えええ!?」
土下座をされれば、こちらはこちらで慌てふためいて。
「いや、その、私が距離感間違えちゃったのもあるし、大したことはなかったから…
だから、顔上げて?」
蘭が「大したことない」と認識しているのは、飛び跳ねてる中でのスカートの翻り具合まで気が回っていないのが1つと…あの血液と七生が感覚を共有していると思っていないのが1つ。
多分。いや間違いなく。これらのことは感づかれない方が、七生は幸せだ。
■東雲七生 > 「いや、その、……あの。
……仮にも血だし。」
気持ち悪かったろうと思う。
しかも不完全な状態での捕縛を敢行しようとしたのだ、輪を掛けて不快だったろう。
もちろんちゃんとした謝罪の意図もあった。ゆっくりと顔を上げ、まだ熱の残る頬をどうやって隠したものかと考えつつ。
思春期男子としては身に余る体験をしてしまったのだが、それを口にして反感を買う事は七生にも容易に想像がついた。
友達を減らしておきたくないのと、ほんのちょっとの下心とで七生は自身に緘口令を敷く。
「とにかく、何て言うか、ごめんとしか言い様がない……。」
■美澄 蘭 > 「………そう………」
自分が魔術の制御をし損ねて迷惑をかけたら申し訳なく思うように。
七生も、そんな気持ちなのだろうと考え、とりあえず蘭は納得した。
…社会とか、集団単位のあれやこれやはおくとしても、蘭は友人の善意は信じる性質だ。
「………でも、異能の制御の課題、は出来ちゃった感じよね、多分」
「痛い思いをしないで済むならそれに越したことはないのに」と、まるで自分のことで困っているかのように眉を寄せ。
■東雲七生 > 「えっと、その……。」
少し気持ちに食い違いがあるが、根底なのでどうしようもない。
しかし奇妙な形で合致してしまった部分が、互いの誤解を気付かせないままにしてしまう。
……ともかく、美澄は自分が思っているほど気を悪くしたわけではない、らしいと七生は受け取った。
「や、制御というか……まあ、射程外に出たからというか……。
今みたいなのは俺も初めてで、本当に、どうしてこうなったのか……。」
自分の事の様に心配する友人を見て、何だかとても申し訳ない気持ちになる。
その原因が『思春期だから』の一言で片付く事を、残念なことに七生は知らない。
■美澄 蘭 > 「…射程?そっか、異能にも力が及ぶ範囲があるのよね。
…でも、武器とは違う感じの、変な動きだったわよね…ほんと、何があったのかしら」
この学園に来る前の蘭の人生で深く関わってきた男性からは、「思春期男子」の層がほぼ綺麗に抜け落ちている。
そうなれば、七生の胸の内を蘭が知る由はなかった。
■東雲七生 > 「んまあ、俺が意のままに動かせる範囲は、大体決まっててさ。
……つっても、まあ、量とか、大きさとかで変動するんだけど。」
それと精神状態。
だいぶ落ち着きを取り戻した七生は、自分の手にかさぶたの様に残った血の跡を指で拭った。そしてしっかりとした紐と遜色ない硬さになった元、血液を拾うとポケットにしまう。
冷静になったらなったで、美澄の顔を直視できなくなるのだが、やや俯きがちになる事で自然と目線を切る事には成功した。
「とにかく、ええと……美澄には迷惑かけちまったな。
ごめん。……だからあんまり、この力、好きじゃねえんだ。」
はは、と自嘲気味に笑って、七生は一度置いた武器の類を拾いあげ始めた。
■美澄 蘭 > 「量とか、大きさで…。
結構、魔術とも似てるのね」
蘭の魔術も、込める魔力の量や効果範囲で制御の難易度は変わるので、そう考えれば蘭の方は納得することが出来た。
「………何か、色々大変そうなのは分かったわ。
でも………だからこそ、結論はどうあれ向き合っておいた方が良いかな、って、ちょっと思うかも」
「自分の中にある力には、違いないし」と、真顔で付け足し。
七生とは対照的に、こちらはさほど引きずっていないようだった。
■東雲七生 > 「そうなのか……?
まあ、もちろん血だから出し続けてたら危ないんだけどさ。
そういう意味でも、あんまり使いたくないけど……。」
何だか理解力の早い友人に戸惑いつつ、しかしまあそういうものなのか、と七生も納得する。
きっと物事を捉える能力の差なのだろう、と思う事にして。
「向き合う……か。
うん、まあ……それは先生にも言われたよ。
だからこうして、次の移転荒野での魔物退治の課題と併せて──」
口が滑った。慌てて言葉を切るが、果たしてどこまで聞かれたか。
先の出来事からもあんまり居続けるのも気まずくなってきたので、
「じゃ、じゃあ俺は別の部屋でこの武器眺めたりするから!
またな、美澄!たまにはメールとかするよ!」
慌てたように荷物を抱え直して、ぱたぱたとその場を後にしようとするだろう。
■美澄 蘭 > 物事を掴む蘭の知性は、魔術のみならず座学でも遺憾なく発揮されている。
慎重な性格が、一足飛びの結論にある程度枷を設けてはいるが。
「そうよね…治癒魔術で出血した分も補えるはずだけど、異能絡みだとどうなのかしら?
…あっ、今使うって話じゃなくて、純粋に疑問ってだけなんだけど」
またさっきのようなことがあっては大変と、あわてて話の上での距離をとる。
…が、七生の口から、不穏な言葉が出てくる。
「………魔物退治?」
眉をひそめてその言葉を繰り返す。
《大変容》があったとはいえ、この世界の日本の一般市民の多くは戦闘経験などないし、戦う力も持たない。
異能や魔術があれば戦闘自体は不可能ではないだろうが、一足飛びに魔物退治とは、尋常ではない。
深く聞こうとしたところで…
「あっ」
七生も口を滑らせた自覚があったらしい。
慌てたように、駆け去っていってしまった。
「………今度、話を聞く時についでに聞いてみよう。
「身体を動かすこと」と無関係じゃないはずだし」
変な決意を固めつつ七生の背中を見送った後、蘭自身も魔術の練習に戻っていった。
ご案内:「訓練施設」から美澄 蘭さんが去りました。
ご案内:「訓練施設」から東雲七生さんが去りました。
ご案内:「演習施設」に水月エニィさんが現れました。
■水月エニィ > 「っ、シャアァァァァァッ!!」
グラウンドに響く咆哮めいた掛け声と共に布を来る。
風を切る音、三次元の軌道を描く布。水に映った斧が如く、布が撓る。
そのような掛け声と動きを何度も繰り返し、五月蠅い程には声を響かせる。
■水月エニィ > 「シ、イィッ!」
地を蹴り、身体を空に躍らせる。
身体ごと回転を効かせた布を振り下ろす。
捻りを効かせた竜の尾の如き"布"で大地を叩き、地を鳴らす。
舞い上がる砂煙の中、確かに着地した。
「……今日は調子が良いわね。」
納得の行くキレを覚えれば、うん、と、一人に頷いた。
■水月エニィ > (けど。)
好調の理由は"分かっている"。
あの日、多元を成していた"揺らぎが消失した日"。
”私が統合された日"。
その日から、身体のキレは増している。
今日はと言ったが、今日もと言うべきだったのだろう。
それでも統合される前までは、調子の良い日なんて珍しかったから、つい喜んでしまった。
■水月エニィ > 歯を噛んで軋ませる。
だから何だと、私だって生き延びながら負け延びながら研磨を重ねて来た筈だ。
"鏡花ハルナと統合されたから、スペックが増した"などと、認めたくない。
苛立ちが増せば布を握り直して構えを直す。
苛立ちをぶつけるように、演習を再開する。
「ドゥゥェァァァァアアッ――!」
狂犬じみた咆哮が響く。
動きに力みを乗せたまま、演習を続けている。
■水月エニィ >
……一心不乱に続けている。
人がいないと思っているのか、発する声も相当なものだ。