2016/07/05 のログ
■士尺 流雲齋 > 「確かに困っておるが」
八の字眉の、傾斜がきつくなってきた。
唐突に現れたこの、元気があれば何でもできそうな長いタオルを見に纏った男は何者だろうか。
いや、よく見れば制服は着ている。この暑い中、はためくマフラーのようなタオルは汗を拭く用途には見えない。
キレのある無駄のない無駄なポージングは、老人にとっても強烈なインパクトを残し、記憶の奥にある生徒名簿から、名前をあっという間に引き上げた。
ゆっくりとそちらに向き直り、落ち着かせるように、ゆっくりと語りかける。
「……三年生、の、真乃……じゃったかの。
まず、どうして困っているのか、聞くべきだと思うんじゃ。
そのうえで、自分に何ができるか考える。できないことをやれといわれても困るじゃろう?」
■真乃 真 > 「はい!三年の真乃真です!」
無駄にカッコいいポーズを維持したままで答える。
前、別の人にも名前知られてたなとか思いながら。
「そうですね…じゃあ聞きます!何に困ってるんですか?
言ってみたら僕に出来るかもしれませんよ!」
もし、出来ない事をやれと言われても可能な限りはするつもりである。
最悪、他に出来る人を探せばそれで問題ない。
どっちになっても助けられるだろう。
何にせよ目の前で困ってる人を放っておく選択肢はない!
■士尺 流雲齋 > ふうむ、と手に顎を乗せ、目を閉じる。
「お主、確か魔術関係の科目はとっておったかの?
あるいは魔術師の友人はいるかの?
であれば」
と、視線を足元に落とし、長持ちに収められているマッチ棒のお化けみたいな松明を指さす。
「マジックトーチ、というんじゃが。
まだ魔力を安定して出せぬ雛どもを、出せるように訓練するための教材じゃよ。
やり方は簡単で、魔力を使って灯した松明を、消さずに維持したまま別の作業をするだけじゃ」
訓練そのものは、至ってシンプル。
その代わり、地味で大変なのだが。それは言わないでおく。
「儂、本格的に魔法剣の実技をやるつもりなんじゃが、剣以前の問題について、魔術がある程度判る者が若干名必要での。
単位を1つじゃが報酬として、どこかで募集する手も考えたんじゃが、試験もひと段落して、皆遊びたいじゃろうからのう」
まあ、目の前の人物にもあまり期待はしていないつもりである。
のんびりと、水分をとりながらそう、答えた。
■真乃 真 > 「とってないです!一応そういう知り合いはいます!」
風紀委員の時の知り合いとかで魔術に詳しい人物がいるはずである。
協力を得られるかはともかく。
「へー、魔力を安定して出せるように…。試してみてもいいですか?」
もし触ってもいいならその巨大なマッチ棒を手に取って自分で試してみるだろう。
「魔法剣の先生なんですね!なるほど、それならこの時期は乗ってくる人も多そうですね!夏休みも近いですし!」
もちろん真は魔術には詳しくない。
最近一つだけ使えるようになったものの詳しくは分からないぐらいである。
■士尺 流雲齋 > 「まあ、それとなく話してみておくれ。強制ではないでの」
老教師は、男が長持ちのマッチを触ろうと確認すると、にこにこと頷いた。
「おお、構わぬとも。
魔法剣に限らず、すべての魔術に応用できるじゃろうし、の」
魔力の灯をともすのは、息を吐くように簡単である。
特に詠唱など必要とせず、気が付けば煙が出ていることだろう。
問題は、その量と勢いである。
強すぎれば勢いも激しいが、あっという間に魔力も枯渇する。
弱すぎればふとした振動でもたちまち掻き消える。
一定量をいちいち測らずに、長く出し続けることこそがゴールであり、そこに至ってはじめて、魔法剣が解禁される。
「うむ。士尺 流雲齋(じゅういっしゃく りゅううんさい)じゃ。魔法剣を主に教えておる。
魔術と武術を両方やらぬと、縁がないかもしれぬがの」
■真乃 真 > 「はい、それとなく話しておきます!」
会う機会があればいいのだけども。
最近物騒らしいから忙しいかもしれない。
「はい!ふんっ!」
そう言ってマジックトーチを持った手に力を籠める。
しかし、一向に煙が出てくる様子はない。
その原因は魔力の流れを見える者なら簡単に、そうでなくとも
何となくはタオルが発光していることで分かるだろう。
魔力が全てタオルに流れているからである。
余りにも魔力の伝導が良さすぎるのである。
「士尺先生!つかないです!
僕には魔術の才能がないのでしょうか?」
トーチを握っていない手で汗を拭ってトーチを見せる。
未だにタオルは光を帯びている。
■士尺 流雲齋 > 「気合いは入れてもなくても、自然と出てくるじゃろう。
加減を間違えて煤だらけにならぬようにの」
あるいは、すぐに終わってしまうとか。
「なに、着かない?
妙じゃな、魔力は確かに出ている気配はあるのじゃが。
……んん? これは」
差し出されたトーチをしげしげと眺め、首をひねり……
そこで、彼のタオルが光り輝き、とてつもない存在感を主張していることに気付いた。
「魔力がトーチへ行かずに、すべてタオルに流れ込んでおるな。魔力による光が見える。
そうじゃの、それなら。タオルでトーチを巻いてみてはどうじゃ?魔力伝導率は悪くないはずじゃがの」
何ともシュールな光景であろうが、現状はその手しかないだろう。
■真乃 真 > 「あ、気合いは入れなくてもいけるんですね!」
こう、魔力とかって気合いで上がるイメージがある。
創作物の影響かもしれない。
「トーチをタオルで巻くんですか?分かりましたやってみます。」
くるくると既に光を失ったタオルをトーチを巻いていく。
トーチだけでは余るので一緒に腕も巻き込む。
何だろう。腕が折れた人みたいになった。
「はっ!あっ気合いいらないんだった!」
魔力のコントロールとかは全く出来ない真乃真。
スイッチのONとOFFだけが存在する状態である。
そんな真が魔力効率のいい方法で流し込めば…
「うわっ!」
一瞬、ほんの一瞬だけトーチが壮絶に光輝いてすぐにその光は弱まった。
制御が出来ているのか魔力が尽きかけているのか。
「駄目だ…頭がくらくらしてきた気がする…。」
どうやら後者らしかった。
タオルごとトーチを取り外し床に座り込んだ。
■士尺 流雲齋 > タオルを巻きすぎて大変なことになりつつある男。
腕のギプス、あるいは聖火ランナーもどきといったところか。
いずれにしても、長すぎるタオルはいっそう出力調整を難しくしているようだと考えた。
とはいえ、気合いか。
「癖になっておるな。まあこれくらいは仕方がないことじゃろう。
さて、どうなるか。タオルの方も気にはなるがの。
ぬわーーっ!?」
咄嗟に両手で顔を覆ったが、まだ目の奥がちかちかする。
それほどの光が見えたのは驚くべき事であった。
が、それも一瞬だけ。
強烈な輝きは見る間に過ぎ去り、やがて力なく座りこんだ男の姿が見える。
「魔術の素養はないわけではないが。やはり刹那に力を使いすぎたようじゃの。
つまり、魔力が枯れかけておる。今日は回復するまで大人しく休んだほうがいいのかもしれんぞ」
なに、一度は通る道じゃ。そういってマジックトーチを拾い上げると、
長持ちを担ぎ上げ、夏バテしないうちに戻るんじゃぞ、と声をかけると、そのまま歩き去っていった。
ご案内:「演習施設」から士尺 流雲齋さんが去りました。
■真乃 真 > 「うう、魔力が枯れかけている…じゃあ、あの時も使いすぎだったのか…。」
先日必殺技の練習してた時に感じたのは魔力の使い過ぎだったのだろう。
二発までしか打てないのはそれが魔力の限界だったからか…。
「今日はもう帰ります…。今日はありがとうございました!
魔術師の人の方は声をかけときます!」
クラクラしながらも立ち上がりお辞儀をする。
まだ辛い少し休んでから行くとしよう。
日差しを遮るようにタオルを顔にかけるとそのまましばらく休むことになる。
ご案内:「演習施設」から真乃 真さんが去りました。
ご案内:「訓練施設」にステーシーさんが現れました。
■ステーシー > 木刀を持って訓練施設に現れる。
ステーシーは近頃色々あった迷いを振り切るために、体を動かすようにしていた。
走りこみ、生活委員会の仕事(主にきつい除草作業)をし、怪異対策室三課の業務に取り組んだ。
幾分かクリアになった視界と思考。
それを恩師に見てもらうためにここにいる。
ご案内:「訓練施設」にリビドーさんが現れました。
■リビドー >
「――さて。」
打診を受ければ二つ返事で応じた。
元より拵える意味でも手を合わせておきたかったものだ。
――彼女の精神を疑っている訳ではないが、念のため。念の為だ。
再び鈍ってしまうのも宜しくない。
故に、刃が毀れぬように、立ち会おう。
「悪いね。お待たせしてしまったかな。」
扉を開けて近付く。
教師にしては大分ラフに声を掛けた。
■ステーシー > 「いいえ、時間ちょうどです、先生」
教師が来れば、頭を下げて出迎えて。
「今日はよろしくお願いします」
木刀の先と尻尾と猫耳が揺れた。
顔を上げれば、英気にして十分。
「私、頭が良くないから。考えすぎると同じところをループしてしまう」
「だから体を動かすことにしました。今日はお付き合いください、リビドー先生」
そこまで言って一瞬の硬直。
「あの……考えていなかったわけではないのだけれど」
「レギュレーションはどういうことにしましょうか…?」
■リビドー >
「ああ。こちらこそ。」
頭こそは下げないが、快い声で応じ。
瞳を確かめる。意志は十二分か。
「安心すると良い。頭が良くたってそうなることもある。
――ああ、存分に付き合おう。」
少々の間の後、
レギュレーションを問われれば。
「ふむ。
加減をする必要はない が そうだな。真剣の類は止めておこう。
木刀・石剣・刃を潰した獲物――その辺りを用いて、降参ないし10秒以上のダウンで決着だ。
ただし、獲物を禁ずるだけで、斬る事は禁じない。」
「とは言え、ここの仕様規則上、
当然ながら相手を殺傷することや重大な怪我を負わせるようなことは認められていない。」
「まどろっこしい言い方になってしまったが、言いたい事はどうだ。
事故を防止する為にも普通の模擬戦に近いルールを設ける。
『どうしても斬りたい』と思ったら 鈍らや木刀 で斬るぐらいの事はしろ。
但し、斬るものは択べよ。鈍らや木刀を握っている以上、無理を通さなきゃモノは斬れん。
斬ったのならば、それはお前の意志に因るものだ。事故にはならない。」
■ステーシー > 相手の言葉を理解して、神妙な顔つきになる。
もう授業は始まっているのだ。
相手の言葉を、一挙手一投足を見逃してはならない。
「……わかりました」
まるで自分の悩みを見透かされているようで、少し怖かったけれど。
この人に自分の力を見てもらいたいという気持ちが勝った。
「では、いざ尋常に………勝負」
木刀の切っ先を正眼に向ける。
五行にして水、基本にして正道の構え。
そのままリビドーの左手側に回り込むようにすり足を始めた。
■リビドー > 「ま、気負う必要はない。
いや、気負わせる暇を与えてしまってはダメか。」
フィンガースナップを一つ。
それに応じれば、土塊の剣がリビドーの手元に手繰り寄せられる。
「本懐は拳や魔術だが、使えない訳でもなくてね。
とは言え加減のつもりも、本懐を縛るつもりないが――打ち合ってみるとしよう。」
「覚悟は良いかな?」
土塊で出来た肉厚・幅広剣。
全長1.5m、刃渡り1m程のそれを両手で握って構えて、踏み込み
――大きく踏み込み、真上段から振り下ろす!
■ステーシー > 「覚悟はできていますッ!」
咆哮。相手の幅広にして重量もありそうなそれと斬りあえばパワー負けは必定。
ならば。
「バントライン一刀流……黒法師ッ!」
相手の切っ先に木刀を合流させるようにそっと添える。
力の方向を変えて逸らしながら、自分はその場で一回転。
「だぁ!」
木刀による横薙ぎ一閃。
今まで派手な技ばかり使ってきた。
だが、今なら。師匠があれほど心血注いで教えてくれた『剣技』のありがたみがわかる。
■リビドー > 「っ、!」
添えられれば流される。
真向から受けられれば押し勝てるものでも、
斜めに添えられ力の向きを流されればどうにも逸らされる。
振り下ろし切った所に迫る横薙ぎ。
手と獲物は降ろし切っていて使えない。
ならば、と、
「そら、よッ――!」
本懐を以って応じる。
回る身体から最短で仕掛けるとすれば横軸の攻撃と読み込み、
横薙ぐ一閃が体に迫る前に蹴って弾くことで応戦する。
■ステーシー > 咄嗟の判断が光る相手の蹴り、これは当てにいっても弾かれて不利。
無理やり当てにいっても自分が蹴りを受ける可能性があった。
これが真剣勝負でないことを知った上での迎撃、まずは相手が一枚上か。
切っ先を引いて後方に跳ぶ。
攻撃の途中で変幻自在に姿勢を変えられるのも猫が持つボディバランス。
次はこっちからいく。
脇構えに構えを変更する。
これは切っ先を体の後ろに隠れさせることで軌道を読みづらくすることもできる、玄人好みの構え。
五行にして金、幻惑の切っ先。
「バントライン一刀流…雪童!」
切っ先はステーシーの後ろから迫る。
最短距離ではない、しかし。
相手の左肩、右肩、胸元を狙う三段突き。
■リビドー > 木刀の腹を叩けば足を引き、構えを直す。
真剣でも木刀でもそれくらいの事はしてみせる。
木刀であったからこそ、選択し易かった事も事実ではあるが。
「ふむ。」
切っ先を後ろに隠す。
読ませぬ為の技巧はいくらかあるが、見せない事を択んだ。
つまり、読み合いの利を取りに来た。
「――ふむ。」
打ち合った数は蹴りを含めて二合。
完全な初見でない故に読めるものは多いが、読み切るには些か足りない。
だから、
左足を右足の後ろへ動かし、全身をそれに追従させる。
所謂 半身の構え。左肩を狙う初撃を空振らせる。
(とは言え――)
最短でないのは初撃だけだ。
矢継ぎ早に二撃を繰り出されればかわしきれぬ。
それでも上身を捻りながら二撃目を掠める程度に留め――
「く、ッ!」
三撃の刃には右腕を縮め肘鉄を併せる。
真剣だろうが木刀だろうが胸元への直撃は痛手となる。
出来得る限り真正面に中らず木刀の腹に中るよう、角度を付けて放つ。
その分動きは遅れるし、リーチの問題もある。
丁度胸元を推した木刀を、押し切る前に跳ね上げさせる形になるだろう。
■ステーシー > 「なッ!?」
切っ先が跳ね上げられる。
三連突きを読みきられただけでなく、ダメージ覚悟で最後の攻撃を崩しに利用した。
ピンチだ。でもプラーナを使ったブーストも卑技の数々も使う気になれない。
この打ち合いに、山岳の頂上の空気を肺腑に吸い込むような清涼な居心地の良さを感じている。
木刀を跳ね上げさせられ、姿勢を崩したまま獰猛に笑った。
■リビドー > 「かっ――は、っ!」
教師であり、哲学者の肩書は持っている。
誇張して云うのならば、幾多の旅路を経て此処に居る。
"読む"――分からないものを分からないなりに対処することに於いては少なからずの造詣と矜持がある。
とは言え、分からない故にリスクは減らすしリターンも減る。加えて言うなら初撃以降は反応と速度の勝負だ。
それで身軽さに優れる彼女にここまで応じられたのなら重畳だ。
「――そらッ!」
剣を"投げる"。
逸らさせなどしないと、両手から手放してぶん投げる。
至近故に速度は乗り切らずとも、重くてでかいだけ手段足りえる。
■ステーシー > 次の攻撃は?
先ほどの蹴りに準じる白打?
剣を使った斬打?
それとも投げか、あるいは。
思考を上回る相手のアンサー。
リビドーは剣を、投げた。
「――――――っ!!」
まともに受け止めればそれでおしまい。
押しつぶされるように倒れて大ダウン。
鼻の奥がチリチリする。
思考速度が、際限なく鋭くなっていった。
その時、自分も木刀を一旦手放した。
相手の虚を突く意図はない。
それが自然だと感じた。
事実、脱力は屈む猶予をくれた。
相手に向けて加速していく。
自分がこれほど速く動けるとは思わなかった。
いや、これは、まるで。
自分の剣の師匠、リルカ・バントラインがやっていたのと同じ。
加速行動(アクセラレイター)だ。
投げられた剣を掻い潜って、リビドーの直前に移動する。
「わわっ」
ダメだ、攻撃手段がない。そのままの速度で拳を前に突き出した。
■リビドー >
刀を捨てて最短――あるいはそれ以上の高速接近。
それがどういうものであるかは置いておくとしても、
眼前の少女は意より速きものとしての神速を以って肉薄してみせた。ただ、
(惜しい、な。)
とても惜しい。
恐らく経験に基づいた無意識・反射的アクションだったのだろう。
動いた後に動揺が見えた。
然らば十二分に間に合う。
気合を入れて拳を受け止め、足を引いて踏み込む。
とても好いが惜しい。だから甘やかすのは宜しくない。腕を水平に広げ――ラリアットを仕掛けた。
■ステーシー > ラリアットを喉に受けてよろめく。
それは剛斧のように強烈に、それでいてフルーレの一撃のように正確に喉を強打していた。
酸素が喉を通らず、呻いて踏鞴を踏んだ。
■リビドー >
「惜しい、なッ!」
次いで踏み込み、脇腹へと両手を伸ばす。
――甘んじて受けてしまえば、そのまま豪快に放り投げられるか。
■ステーシー > 伸ばされたリビドーの両腕。
このまま終わってしまえば、どんなに楽だろう。
しかし、それじゃダメだ。
ダメなんだ。
掴みかかるリビドーの左手を切って右手を掴む。
小さな体全体を使って、相手の右腕を極める。
バントライン流格闘術が一つ、腕絡み・白鷺。
いわゆる飛びつき腕ひしぎ逆十字固め。
失敗すれば完全に死に体だ、投げられるも関節技をかけられるも覚悟するしかない。
■リビドー >
「ぐ、腕ひしぎ逆十字固めの類だな、これは――ッ」
「がっ!」
掴みかかる事は出来るだろう。
――掴んだ腕をそのまま体を揺らし、地へと身体を落として極める直前に"仕掛ける"。
自分からなだれ込むように、非常に強く大地を蹴って滑り、暴れる。
極端に勢いを付けて自分ごとステーシー押し倒し、受け身をしくじらせてダメージと隙を作る狙いなのだろう。
例えそれで腕が曲がってはいけない方向に曲がろうが覚悟の上。
そう言わんばかりの気迫と勢いを叩き込み、仕掛ける。
■ステーシー > リビドーが暴れた。
ステーシーが床で後頭部を打つ。
「い……っ!!」
目に火花が散る。相手は本気だ
そして自分には、これ以上極めることはできない。
尊敬する教師の腕を折ることなんて、できない。
ぱっと腕絡みを外して横に転がり、涙目で相手に右掌を突き出す。
参った、のポーズ。
「降参です、先生……普通、関節をキメられて暴れますか…」
その場に座り込んで、はぁーと深く息を吐く。
命のやりとりじゃなくったっていい。
自分は正しさの中で呼吸ができるし、完全に満たされる。
それがわかっただけでも、嬉しかった。
「ありがとうございました、先生」
立ち上がることはできないけれど、感謝の気持ちをストレートに伝えた。
■リビドー > 「つぅ、たた……」
外れてから調子を確かめる。
……大分痛めた。
「ボクの為か、好ましい生徒の為ならこれくらいはやる。
――人を斬るのも自分を斬るのも大差はないだろう?」
当たり前のように言ってのけつつ、
肩を抑えたまま立ち上がった。
「もしもの話だ。
相手が殺す気でやってきた。キミの背後には守るべき人が居る。
……その時に無茶をしたくないから正しいまま死のう。キミはそれでいいのかな。
意地悪な話を加えると、キミがボクをみたように、
守るべきものもそれを普通じゃないと思うだろう。」
■ステーシー > 「………私は、自分を殺してでも戦うのが正義だと思っていました」
「でも、それは人を殺すのと大差がない……」
「私を大切に想ってくれたたくさんの人の気持ちを裏切ることです」
観念したように立ち上がり、コブができた後頭部を手で押さえる。
「正しいというのは、難しいですね…先生」
「腕、大丈夫ですか? ごめんなさい、痛めたでしょう」
しょんぼりとした表情で相手の顔を見る。
尻尾の動きも弱々しい。
「……回復魔法とか使えたらよかったのだけれど」