2016/07/24 のログ
ご案内:「訓練施設」に世永明晴さんが現れました。
■世永明晴 > 「……まじっスか」
訓練施設のドーム。その入り口で、額に汗を流しながら一人ぼやいた。
別に、訓練をしに来たわけじゃない。
元より、自分に訓練などからっきしで、何を訓練すればいいのか。
それさえも定まらない。だから、此処にきたのは観察だ。
誰かの、異能を制御している姿。感覚的な物かもしれない。
だけど、その姿を見ることは、きっと大いに意味がある。
だから、ここまで。このくそ暑い中一人、足を運んだ。
それがこのボヤキを得るためにはつまり―――――。
「誰もいないっスか……そうすか……」
猫背の背中を、さらに大きく丸め。入り口で一人。もう一筋汗を流した。
ご案内:「訓練施設」にレイチェルさんが現れました。
■世永明晴 > (まぁ……休みっスもんね)
自己鍛錬に余念がない、自己探求に余念がない。
ストイックとでもいうのか。そんな人物。……別に、それだけとも限らないが。
そんな人物も、休みともなると。休息日であるのだろうか。
ただ、タイミングが合わなかっただけかもしれない。それでも、この暑い中。ここまでくる体力の消費を考えると、ため息の一つもつきたくなるものだ。というかバテた。勘弁して。
「……どうしまスかね」
入ってもやることはない。だからといって、ここまで来た意味が全くないというのも……。
■レイチェル > 訓練施設の入り口付近に、こつこつと靴音が響く。
もし振り返るのならば、金の髪を揺らしながら訓練施設へ向けて
歩を進めている少女の姿が目に入る筈だ。
常世学園の夏制服に、風紀委員の腕章、そして何故かこの身も茹だるような
暑さにも関わらず、分厚いクロークを羽織っている。
不思議な雰囲気を纏った少女であった。
「訓練に来たのか、お前?」
目の前で独り言を呟いている青年に対して、少女は声をかける。
どうやら、訓練施設の利用に慣れていない生徒だと思い、手助けしようと
声をかけたようであった。
「それとも……見学か? この時分に訓練してるような奴は稀だと思うが……」
青年の顔を視界に入れるように、すっと横に立つと、少女はそのように重ねて
問うのであった。別に何かしら良からぬ疑いをかけるような、辛辣な表情ではない。
寧ろその表情は柔和であり、口調も気さくなそれであった。
■世永明晴 > 反応はとろかった。
バテているからだ。体力のなさは自覚している。
ゆったりと。眠そうな目。その凛、としたとでも言えるような雰囲気にはそぐわないバテている声。ゆっくりとそちらを向いた。
「……あ、お。…………」
汗を一筋流す。
「俺が訓練したら……救急車か、生活委員の出番スね……」
見学っス、一つ付け加え。その彼女の姿をはっきりと視認した。
多少、その顔を見下ろすように。
……。暑そう。よくそれでいられるな。
まぁ、その辺を考えるだけ、無駄な人達は此処には多い。
「……暑いスね」
「そりゃ……こんだけ暑けりゃ、訓練してる人も少ないっスか……」
もう一度、自分の考えの至らなさに。深くため息をついた。
しばらくして、彼女が風紀委員だという事に気付くには、幾分か時間が必要ではあったが。
ご案内:「訓練施設」に沈目言正さんが現れました。
■レイチェル > ゆったりと緩慢な動きでこちらを見やる青年の顔を、ふっと見上げる少女。
彼がこの暑さに完全にバテてしまっているらしいことは、少女にも十分伝わった
ようで。
「訓練しなくてもぶっ倒れちまいそうだぞ、お前……こういうこと忠告すんのは
風紀の仕事じゃねーけどな、水分補給はしっかりしとけよ」
少女はやれやれ、と肩を竦めれば。
訓練施設の入り口の横に置いてある自動販売機に硬貨を3,4枚入れて、
適当にボタンを2度押した。取り出し口に落ちてきた青いラベルのペットボトルを
2本取り出せば、その内の片方を青年の方へ突き出す。
こいつで良かったか、などと問いつつ。
「まぁ、そうだな……休みの日になるとやっぱり利用者は減るな。
オレも結構ここへは足を運んでるんだが……ま、目に見えて変わってくるぜ。
気温もそりゃあ、関係してるだろーがよ」
そう口にしながら、訓練施設の中を覗き込むように背伸びしてみたりする少女であった。
■沈目言正 >
「試験とお仕事大分ご無沙汰しちゃったからねー……んー……」
暢気な調子で施設へと足を進める栗色の髪の少年 少年?。
左腕に3本取り付けられた義腕の一つで紙パックのジュースを持ち、口元に近づけて飲んみながら歩いている。
入口付近で立ち止まれば、覚えのある二人に気付く。
「……あ、お財布が脱走した人とレイチェルさん。」
■世永明晴 > 「ははは……」
渇いた笑い。喉が渇いたのか、心臓が渇いたか。
「自分の体力というのは……存外見誤るもので……」
ゼー。バテた息を吐きながら。眠そうな目を少しだけ見開いた。
「お、ぁー。……どもっス」
正直、いまの水分は非常にありがたい。親切な人が多いことだ。
受け取り、小さく頭を下げた。
元より猫背気味なそれは、あまり大きい動作にはならなかったが。
ふたを開け、ちびちびと喉に流し込む。
その声が聞こえるまで。
「……ぇほっ! がふっ」
むせた。なんやねんお財布が脱走。
口元を白衣で抑え、ふいて、その方へ眼をやると。
「……ぇぉ。…………あー」
なんか見たことある人。
■レイチェル > 「こいつは……久々だな。いつぞやに食事した時以来か?」
ふらりとやって来たデミヒューマンの方を見やれば、おお、と声を挙げる。
お前も訓練にでも来たか、と問いつつ。
「気にするなよ。目の前で倒れられちゃ大変だからな……って、何してんだお前」
そう口にして、むせる青年を見て目を丸くする。
そうして二人を交互に見やって、レイチェルは口を開く。
「成程、知り合いって訳か……」
■沈目言正 >
「……? あれ、ひとちがい?」
曖昧な瞳が此方を向く。
はっきりとしないので、人違いかなと不思議そうに小首を傾げた。
その辺りでレイチェルからの声を受ければ、其方に視線を向ける。
「お久しぶり。エルピスだよ。
何だかんだで忙しくてね。元気してた?
そのつもりだよ。実戦ばっかりじゃ積めないものも多いからね。
それにしても空いてるねー……休日だからかな?」
振り返ってみればあっという間の一年。
懐っこい声と仕草を弾ませつつ、軽く解釈。
■世永明晴 > 眠そうな目なのに、涙目。突発的な出来事に弱さが見える。
「いや……だって……」
白衣で口元を拭きながら、訴える。財布が脱走した人はなかろう。無言の訴え。
「……いや。どーも。お久しぶり……とまではいかないっスか」
財布は見つかりましたよ。小さく笑みを浮かべた。
むせたことによって、更に体力を消費しながらも二人の間柄を把握する。
にしても、少しばかりこちらの少女の言葉遣いが男らしい。まぁ、あまり気にすることでもないが。
■レイチェル > 「オレもオレで忙しいなりに、元気はしてたさ」
引き締まった腰に手をやって、ふう、と息をつく少女。
風紀の仕事や、それ以外の仕事も。
元来本業でもある悪魔退治やら何やら、やる事は今も山積みであった。
「休日は結構こんなもんだぜ。しかもこの暑さだ。訓練施設がすっからかんに
なるのも頷ける話だ」
レイチェルと呼ばれた少女はそう言って、施設の中を確認することをやめにした。
中はまさに閑古鳥が鳴いている状態だ。
「……つーか、財布が逃げ出すって何だよ。異能か何かか?」
じとっとした目で、青年の方を見上げて小首を傾げるレイチェルであった。
■沈目言正 > 「……?……世永明晴くんだよね?」
反対側に首を傾げてから見上げる。
お団子にまとめて尚ツインテールとして流せる程の長い髪が揺れて靡いた。
「そっか、それなら嬉しいな。
見つからないと手続きも面倒だからねー……」
見つかった、と聞けば安堵を見せる。
自分のことのように心配した上ホッと安堵したように表情の移ろう
「うん。良かった。」
元気と聞けば にぱっと顔を綻ばせる。
当然と言わんばかりに淀みなく喜んだ。
「あ、それは異能じゃなくて、えーっと。何て言うか……」
単なる言い回しであるものの、どう答えれば良いか一度詰まる。
ちら、と、世永へと視線をそらした。
■世永明晴 > (……ん)
旧友の再会、とでもいうのか。少しばかり場違いか。
羨ましさを感じる。しょうがないことだが。
ひとしきり彼女(?)等の会話を聞いた後、こちらに向けられた視線に困った様に笑って見下ろした。
「とんだ異能スね。……ちょっと、財布を無くした時に世話になりまして」
その節は、どうも。頭を下げてばかりだが、礼は言うべきだ。彼の方へ顔を向けた。
というか、それアナタが言ったんでしょう。呆れた顔だ。
「財布も逃げ出したくなるほどの、労働環境ってことスよ」
■レイチェル > 「ああ、そういうことな」
両者の言葉を聞けば事情を理解して、一つ頷くレイチェル。
言葉の綾も、この世界では現実に起き得てしまうことが多すぎて、
なかなか判断に困ってしまうものである。
「とんだ異能とは言うがな、実際に見たことあるぜ、そういう異能を持った奴が居てだな」
事実、レイチェルも自分の所有物に意志を持たせる異能を持った人間に
会ったことがあった。自分の所有物に意志を持たせて万引きをしていた者が居たのだ。
そのことを説明して、レイチェルは案外あり得ない話じゃねぇぜ、と付け加えた。
「さて、話してるのもこれはこれで楽しいが、オレも今日はトレーニングに来たんだよな」
そう口にすれば、先ほど買ったスポーツドリンクを口につけて、喉に流しこむレイチェル。
運動前の水分補給だ。
■沈目言正 >
「ううん。気にしないでいいのに。」
ぺこりと頭を下げる彼には首を振ってやんわり謙遜。
納得した素振りのレイチェルには
「そういうことだよ。……でも、異能は本当に色々あるからね。
使い方一つでルールをかいくぐったり踏み潰したり出来るから、やっぱり気を付けなきゃね。
僕の異能も、扱いは難しいし……」
言い淀み、少しの間を置いてレイチェルの呟いた言葉にはたと気付く。
自分もそのために来たと。
「と、僕もそうだったっけ。
ちょっと名残惜しいけど、やることはやらなきゃね。」
■世永明晴 > 「無機物に意思が宿る……」
それは、地味にとんでもない異能なのではないか。
ふと、顎に手を当てて思考に沈みかける。それに宿った意思は、自分なのか、それとも一つの命か。
自分の異能にも通ずる何かがあるのでは、と考えたが。
眠そうな目の視点を、少し遠くにあてて。
いや、と首を振った。
「……何事も、使い方っスね」
いえ。こういうものは、しっかりしておかないといけないのだ。
なにより自分の安心のために。
「そういえば……何か飲み物奢るって言ったスね」
何か考えました? 少しだけ、小首を傾げた。
トレーニング。そうだ。自分はそれを見に来たのだ。
ただ、魔術は専門外だが……。さて。
「異能……ス? トレーニング。見ててもいいスか?」
■レイチェル > 「エルピスが言ったようにルールをぶっ潰したり、
ええとお前……明晴、が言うように使い方を誤ったりする奴らを、
なるべく正しい道に戻すのがオレ達の大事な仕事の一つだ」
人差し指を立てて、真剣な眼差しでレイチェルは語る。
そうして、あるべき生活へと送り届けることが出来るよう努めるのだと、
レイチェルは付け加えた。
「ん、今日は異能のトレーニングのつもりだったから丁度良いと言えば良いんだが……
オレの異能は、見ても参考になるかどうか分からねーぜ? それでも良いなら、構わねぇよ。
見てきな」
気さくに微笑むと、レイチェルは訓練施設へと入って行く。
手近な訓練ルームへと足を向けているようだ。
■沈目言正 >
「レイチェルさんの異能……
中々話しに聞かないし、僕も見ていきたいけど……」
鍛錬もしておきたい。
どうしたものかと悩みながら、一旦足を運ぶ。
■世永明晴 > 気さくだな。先程の言葉から何となく思っていたことだが人柄なんだろう。
正義感も強い。……人に好かれるような人だな。ぼんやりと考える。
「世永明晴ス。大変そうな仕事スね」
こういう人もいるのだ、と少し。……どちらかというと、稀にあたるだろう。
「異能は、人それぞれスからね。……だからこそ、いろんな物を見ないと」
ありがとうございまス。どうせだから、この彼……エルピスの異能も見てみたいところだが……まぁ、贅沢は言うまい。
後をついて行きながら、さて。これをどう生かしていくか。
自分の異能について考えをはせた。
■レイチェル > 「最初に言っとくが、見えなかったってクレームは受け付けねぇぜ」
向かったのは、一番手近なトレーニングルームであった。
レイチェルは慣れた足取りで、トレーニングルームの隅に、
山のように積まれたダンボール箱を目指す。
そうしてそのダンボール箱の中から一つを選び出すと、持ち上げて
トレーニングルームの中央へと運び出した。
「この中には50個のゴム製ボールが入ってる。オレがいつもやる異能トレーニングは、
こいつを上に放り投げて――」
そう口にしながらクロークの内に仕舞ってあった銃を取り出して、くるくると
手の内で回して見せる。
「――地面に落ちる前に、全部こいつで撃ち落とす。このトレーニングは
欠かさずやってるんだぜ」
■沈目言正 >
何だかんだでやはり気になるものだ。
鍛錬は後でもいいだろうと進み、レイチェルが段ボール箱を取り出す光景を見る。
ボールの取り出しにしても、手伝うまでもない手際の良さだ。
「50個のボールを?
……うん。特別な能力か特別な銃でもないと、物理的・時間的に間に合わないよね。」
50個のボール。それらが地に落ちる前に総て撃ち抜く。
――落ちるまでと言った制限時間の都合上、達人であったも出来るかどうか。
■世永明晴 > クレームなんて言えるはずもなく。
困った顔で笑い、肩をすくめた。
手際の良さを眺めながら、
訓練……訓練か。そして、ここまでできるのだろう。
人によって、異能は制御できる。出来なければ、それは……ただの病気と相違ない。自分の意思以外によって、発現し、自分の意思には関係なくそこにあるものならば……。
それはきっと感覚的なものだ。だから、人によってそれは違う。
見て感じるしかないのだ。……見れればいいのだが。
「やっぱり、最初は間に合わなかったんスか?」
■レイチェル > 「最初はそうだな、さっぱりだった。異能が安定して無かったからな。
異能の制御ってのがめちゃくちゃだったのさ。感覚に慣れてなくてな」
明晴の問いかけにはそう返す。事実、このトレーニングを始めた当初といったら。この世界に来て、そうしてこの世界の影響を受けて異能に目覚めてから、この力に慣れるまでには少々時間を要した。
「5個が10個になり、10個が20個になり、繰り返していく内に――」
ダンボールを両手で掴む。
それを天井へ向けて、力を込めて放り投げる。
そうして、ダンボールが天井へと飛んで行く間に、レイチェルは一言、口にした。
「……時空圧壊《バレットタイム》」
弾ける、ダンボール箱。
無作為に、雨のように降り注ぐ玉の数々。
それら全ての動きが一瞬の内に減速し、減速し、減速し――。
今や、レイチェルだけがその世界で一人、正確に時を刻む者として在った。
クロークからもう一挺の銃を取り出せば、遠慮無く連射する。
1つ。2つ。3つ4つは同時に貫通。
5つ。6つ――12――。再装填《リロード》。
ボールは、ゆっくり、ゆっくりと地に落ちて行く。
時の鎖に縛られた空間の中で、レイチェルは険しい表情で射撃を行う。
24――48―――。
「時間切れだ」
最後の再装填。
残り二つのボールは、地に落ちる寸前である。
右手と左手、双方を確認しながら、腕を広げて二挺拳銃をそれぞれの
ボールへ向ける。
そして。
時は。
次第に。
その刻み方を、思い出す。
――圧壊終了《バレットエンド》。
最後に、二つの大きな銃声が鳴り響くと同時に、トレーニングルームに流れている時は、
正常なものとなった。
そうしてゴムの破片が、空中から雨のように降り注いで地に落ちていく。
「――気がつけば、制御出来るようになってたって訳さ。時空圧壊《バレットタイム》。
オレを除いた空間の、時の流れの法則をぶっ壊す異能だ」
大きく深呼吸をして息を整えながら、レイチェルは最後に二人に説明をした。
■沈目言正 >
端的に過程を述べようとのならば、
ほぼほぼ分からない事だらけであり、一部を目視するのがやっとであった。
常軌を逸した速度を見せるレイチェルと銃弾。
どのようなものか分からないが、其れは明らかに作用反作用の外に在った。
まともにやればあんなに早く引き金を引くことなんでできないし、
弾を詰める事だって有り得ない。
スペックが高いだけでは反作用は振り切れないし、
技巧だけでは作用の壁で届かない。
分からないし、読み取れなさすぎるものが多すぎる。
それでも『結果』として50のボールを瞬く間に撃ち抜いた。
故に異能。
レイチェルだけが持ち得る特異な能力。
レイチェルのみ扱う事を認められる法則。
「わぁ……」
――未知故に、理解が届かない故に言葉で表現しきれない。
それでも目の前の結果は此処にある。
言葉にできない故の、強い感嘆が漏れた。
■世永明晴 > 「そ……スか」
そうなのだ。それでいい。今回きた価値があった。
だから、後は黙って、その異能を見るしかない。
……。
瞬きをしていなかったと思う。
いや、もとより瞬きをしていなかったとしても、分からなかったかもしれない。
時間が切り取られたようなそれだ。自分のソレと、見ている感覚としては似ているが、全くの別もの。
自分は認識なんてできるわけもなかった。
彼女はそれを認識していた。じゃなきゃ、こんな芸当出来ないだろう。
ほぅ……熱がこもった吐息を漏らす。
「すごいスね……」
確かに、参考にしろと言われても無理がある。
時間の制御なぞ……随分人知を超えるものだ。
なのに。
「なんででスかねぇ……」
なんで自分は、寝ている自分を制御する事すらできないんだろう。
少しだけ、こぶしを握った。
■レイチェル > 「つー訳で……まぁ、参考になるかは分からねぇんだけど……こんな感じだ」
汗が、彼女の肌の上を流れ落ちる。結構体力を消耗するらしい。
トレーニングルームは冷房が効いている筈なのだが、彼女の肩は呼吸と共に少々上下していて、暑そうだ。
しかし何度か深呼吸を行えば、それも収まって。
「……ありがとよ。『すごい』の一言は、素直に受け取っとくぜ」
レイチェルは明晴の呟きと、握られた拳を見逃さなかった。
しかしながらつい先程会ったばかりの人間だ。
特に突っ込んだ質問をする理由もきっかけとなる言葉も見つからなかった彼女は、
喉元まで出かかった疑問をそのまま腹へ押し込めることとした。
「エルピスも、特訓だろ? 異能のトレーニング、してくのか?」
ゴムの破片をさっさと片付けながら、レイチェルは振り返ってそう問いかけた。
■沈目言正 >
「うん。ちょっとだけしていこうかな。
見てて面白くないものかもしれないけれど――」
――何か都合のいいものはないか。
トレーニングルームに備えられた段ボール箱などの中から、めぼしいものを探る。
……軽く思案した後、奥の方から大きめのシーソーを引っ張ってくる。
都合4本の腕でがっちり掴んでしっかり運ぶ。
手ごろな位置に設置した後、今度は幾つかの重しを引っ張ってきて片側に置く。
50kgと書かれたブロックだ。それをシーソーの左側に置く。置けば左に傾く。
「これでよし、と。」
左に傾いたシーソーを見据えた後、指を弾いて鳴らす。
……左に傾いていたシーソーが重しもないであろう右に傾いた。
見栄えするものはなく、また、地味なものでもある。
それでも確かに異常である現象が此処に生じた。
重力の反転――ひいては"要素の反転"。
沈目言正が起こした現象を語ろうとするのならば、そうなるだろう。
■世永明晴 > 「いえ。うん。……お疲れ様っス」
今更だ。今は、それを生かすことを考えよう。
疲労が見える彼女にねぎらいの言葉をかけつつ少し笑った。
「やっぱ、疲れるもんなんスね」
なんだか含みのある言葉に苦笑いを浮かべた。そうしてください、一言付け加えた。
「ん。……アナタもやるんスか」
折角の機会だ。見させてもらおう。
重そうなシーソーを、どうにも一人で運んでくる光景に手伝おうかと身を乗り出しかけたが……多分。彼の方が体力があることはすでに自明の理。邪魔になるであろう。大人しくした。
見守る中、起きる現象は……確かに地味ではある。
地味だが、その内情を考えれば異能の特異性を強調する事しかしていなかった。
「重さの制御……でス?」
それは重力という事になるが、しかし……。
■レイチェル > 「異能の発動自体でもちょいと持ってかれるが、時の法則を壊しながら動くって、
それだけでも結構疲れるもんなんだぜ。体力の消耗具合で言えば……水中で動いた時の
それを意識して貰えれば、分かりやすいかもしれねーな」
そう説明して、レイチェルは一息ついた。トレーニングルームの隅に行けば、
エルピスが異能を使う様子を真剣な表情で見やる。
「空間に力を加える異能、重力の制御――いや、入れ替え? 分からねぇが何にせよ、
見事なもんだな」
ぱっと見は、地味と言えば地味であったが。その裏で大きな力が働いていることは、
レイチェルにも感じ取ることが出来た。
感心した様子で、エルピスへ称賛を込めた視線を送る。
■沈目言正 >
3秒後、シーソーは左に傾く。
反転した現象は消え、再び正しい現象を示す。
明晴の推察には一度縦に頷いてから横に振る。
惜しい、の意思表示だろう。
「正確に言うと、要素の反転になるのかな。
重さを扱って訓練するのはこの形が僕に取って分かりやすいからかも。
凄くあいまいなものだから、分かりやすい形に落とし込んで訓練することも大事かなって。」
うんと頷いた後、エルピスの身体が"上に落ちる。"
重力に逆らう形で天井へと張り付いた。
「勿論重さだけに囚われちゃダメだし、
このような異能を持っちゃったからこそ正しいものの動き方も勉強しているよ。
作用を知っていないと反作用も推測できないからね。何にしても。」
特に異能を秘匿するつもりはないのだろう。
先程までよりもはっきりとした口調からはある種の自信が伺える。
対策を打つ《土俵に上がってくれる》のならばその上を行く位の気概は必要だ。
そう思う故の自信だろう。
「だから、その辺りの分野は異能抜きでも自信があるよ。
勉強したからね。そこからずれると自信がないけど…………っと、参考になったかな?」
三秒きっかりで地面に着地。
緊張と疲労をほぐす様に大きく息を吐いた。
「レイチェルさんもありがとね。
やっぱり、自身のある分野を褒められると嬉しいな。」
■世永明晴 > 「で……スよね。水流に自分だけが逆らっているような物スかね」
その分だけの苦労を払っている。さて……どこにその労力をつぎ込めばいいのか。
「おわ。飛んだ……んじゃなく、落ちたってことスか」
上に登ったのではなく、張り付いた。重さは確かに分かりやすい。
ただ、重さだけの物だと認識すると、多少の不可思議さはあるが……そういう意味では得心が行く。
「努力家、ってことスね」
その異能への理解へのしかた。応用力。
公安もしながら、自らの異能に対しての余念がない。
もちろん、彼女にしてもそうだが……。まだまだだな、自分も。
頭をかいて、参考になった、と頷いた。
知識もなにも自分には足りていない。
「お二方、ありがとうございました。たまには来てみるもんスね、やっぱり」
■レイチェル > 「成程、面白い異能だな。自分の力についてより深く理解しようとする姿勢っつーのは
オレも学びたいところだぜ」
称賛したい、と思った点は素直に称賛する。そして、自らの学びへと繋げる。
それがレイチェルのスタイルである。
説明を聞いて、頷く。その説明からは確かな自信が覗いて見えており、レイチェルもそれを
感じ取っていた。
レイチェルの方はと言えば。
自らの異能について説明したのは、無論バレてもそこまで問題が無いからである。
彼女の本当の奥の手は異能では無いし、此処で説明するようなものでも無いのだ。
「ああいや、別にオレには礼なんて要らねぇさ。と、そちらにはまだ自己紹介もして
なかったな。
オレは風紀委員のレイチェル・ラムレイだ。何か困ったことがあったら、連絡寄越
しな……と、やべぇ。ちょいと向かわねぇとマズい事件が起きちまったみてぇだな。
じゃ、悪ぃけど、オレはこの辺で! じゃあな、二人共!」
そう言って、レイチェルはトレーニングルームを去っていった――。
ご案内:「訓練施設」からレイチェルさんが去りました。
■沈目言正 >
頭を下げたり微笑んだりすれば髪が靡く。
注視すれば毛先から10㎝弱程が桃色に染まっているが伺えるか。
異能を使う/消耗するとこのようになるのだが、沈目自身は特に言及せず。
「僕は……もう少し続けていこうかな。
世永お兄さんはどうする?」
もう少々続けるつもりでいるのだろう。
モノを整理しつつも片づけてはいないらしい。
■世永明晴 > 「素直に受け取った方が、双方にとって多分いいことっスよ」
なんて、眠そうな目で笑う。変な言い方だが、そういうものだろう。
「レイチェルさん、スね。……覚えておきまス。余りお世話になることがなければいいんスけど」
願わくば、次に会うときがあるならば、起きてる時でお願いしたい。
そうじゃなければ多分恐らく、お世話になる可能性が高いからだ。
「ん?」
彼から声をかけられれば、そちらを見て。少しだけ、目を細めた。
ほんとに女の子みたいだな、なんて感想を持ちつつも、声に出さない。
桃色ねぇ……。しかし。
「……その、お兄さんっての、どうなんス? そんなに年齢変わんないんじゃないでスか?」
まぁ、べつにいいスけど、と呟き一口先程もらった水分を補給する。
「見ていきましょうかね。元より、そのために来たんだし」
片づけ位はさせてもらおう。その位の心づもりだ。
■沈目言正 >
「あ、ごめん。おっきくて気が緩んで、つい。」
罰の悪さと間違えた故の恥じ入りを乗せて俯きがちに視線を逸らす。
……見学していくと応えれば嬉しそうに表情が綻ぶ。
懐っこい子犬のような調子だ。
「んっ、うんっ。ありがと。
誰かが居るとやっぱり気も入るし、意識しないとこにも意識出来るからね。えへへ。」
重りのいくつかを片づけてシーソーを戻した後、
再び大きな段ボールを持ってくる。
■世永明晴 > 「別に怒ってる訳じゃないスよ」
いやいや、なんの。顔の前で苦笑しながら片手を振る。
ただ、少しばかり気恥ずかしさがあるだけだ。
……。寝る子は育つという奴だ。
「……そういうもんスかね。がんばれっス」
感覚的な物を理解するには、知識も必要だ。先程彼女が言っていたように、その感覚がどれに類似するか、それを制御するか。
何を、制御するか。経験も必要だ。だから、視る。
彼がどんなことをするか。
■沈目言正 >
「うん。がんばるっ」
はしゃいだ調子で段ボール箱の中から道具を取り出す。
暫くの間、明晴を意識しながら鍛錬に励んだ事だろろうか――。
ご案内:「訓練施設」から沈目言正さんが去りました。
■世永明晴 > 終るまで見続けた。
得るものはあったし、自分がやれることも少なくとも、まだある。
だが、それでも自在に異能を制御し、自らの糧に出来るその姿に幾ばくかの――。
頭を振った後、片づけを手伝い(バテた)
暑さにうだりながら、帰途へ着くであろう。
ご案内:「訓練施設」から世永明晴さんが去りました。
ご案内:「演習施設」に寄月 秋輝さんが現れました。
■寄月 秋輝 >
ずばぁん、と凄まじい音と共に、いくつかの木偶人形を切り落とす。
「……はーっ! ……はーっ!」
肩で息をしながら、全身から大汗を流し、残心もそこそこにその場にへたり込む。
フィールドの設定は、重力が2.5倍。空気濃度は標高6000メートル相当。
あえて魔装からは空気量を一定に保つ設定を外してある。
■寄月 秋輝 >
ことの始まりは、今までの訓練の密度の薄さを考え、自分で以前の極限訓練を再現しようと思ったところにまでさかのぼる。
重力、空気濃度を規定に保ち、動き続ける。
木偶人形は一体一体に魔力防御を付与し、秋輝の全力での魔力刃でのみ断ち切れるようにしておいた。
疲労で腕が鈍ることすら許さない、文字通り常時全力を解放するための設定だ。
そして演習場いっぱいの木偶人形を切り落として、今に至る。
「ぜー……っ! はぁー……!」
頭痛と吐き気、過剰な倦怠感。
意識を手放しそうになるのを必死でこらえ、演習場の設定を戻し。
「……ぶはっ!」
なんとか呼吸がまともに出来るようになり、刀を鞘に納めてその場に仰向けに倒れた。
胸を大きく上下させながら、荒く呼吸をして整えていく。
■寄月 秋輝 >
(まずい、思ったよりだるい……)
これに加えて、さらにハードな『バケモノ』との戦闘を数時間おきにやっていた当時、自分はどれほど強かったのか。
と同時に、自分はどれだけ自己の感情を有していなかったのか。
いやまぁ、そのせいで週に一度は死にかけて医務室送りだったわけだが。
何にせよ、なまった自分の体を痛感するだけになってしまった。
特訓自体は完遂出来たが、結果として体力も魔力も使い果たしてしまった。
まるで立ち上がれない。