2016/09/05 のログ
■蒼穹 > 「んや、勿論仕事よ仕事。興味本位で斬られに行くほど肝が据わってるわけじゃないし!
…ま、興味本位で行くのも少しは面白いかもしれないけど。元気だから万事ヨシ、って事で。」
そう言えば、彼にこの手の話は冗談でもあんまり良くなかった。本当のことなら尚更に。
不敵というか、考えのないだろう笑顔を浮かべて強引めに押し切らんとばかりである。
無論彼が、別の教師と殺し合いになっている事は知る由もなかった。
「夜間の見回りっていうか散策かな?だね、ちょっとまだ生暖かい気もするけど。」
そう言えば、あのごとーっとした首輪が無くなってる。
全貌の雰囲気がちょっと違うなって思ったのはこれのせいか。
いつもの変わった感じの拘束衣?的な衣装でもない。夏のイメチェンというやつだろうか。
「う…そりゃまたはっきり言ってくれるね……。」
包み隠さず殊勝さはなさそう、なんて直球で言われる事には反抗したいけれど、その通りだ。
苦い笑いで頬をさすさす。野次馬に来ただけだから。
「んー、今日の所は微妙かな。面白そうな子にはちょっかい出したりするんだけどさ。
熱心に訓練してる人は一杯いるみたいだけど。
あとは…ま、暇になったらちょっと遊びに訓練もするしね。」
やけに高みの見物めいた感想。
横目にて答えれば、施設の内部へと身を捻って一帯を一瞥する。
■ヨキ > 「全く、君は変わらんな。
だが仕事で、という点だけは見直した。
未だに幽霊委員だったらどうしようかと思ったよ」
軽い調子で笑う。
叱ったところで変わらぬものもあるのだとばかり、悟りかあるいは諦めか。
自分の明け透けな意見にたじろぐ蒼穹にも、悪びれる様子はない。
「ヨキは何でもはっきり言うさ。知らなかったか?」
可笑しげに笑う。
人が変わったというよりは、ひとりの男の気取らない姿が出ているかのような雰囲気。
思えば彼女とは真面目に話し込むばかりであったから、ヨキが持つ軽さも、
チャラさも、ほとんど見せたことはなかったのだ。
「なるほど、君のお眼鏡に適う者はまだまだ……と。
はは。それなら、このヨキにでもちょっかいを出してみるか」
まるで子どもをキャッチボールにでも誘うような気軽さだった。
■蒼穹 > 「あっはは、いやぁ、それほどでも。」
8割くらい褒めてなさそうだけど、まるで褒められたみたいな具合にからかい笑いを浮かて返した。
未だに幽霊委員みたいなものだけど、それでも近頃は一応最低限度の働きはしている。
「ああ、そういえばそうだったっけなぁ…。
ヨキさんが何か言い淀むってのもあんまり思い浮かばないかも。」
ああいう遠慮ない物言いは今に始まった事でもなかった事を想起。
確かに、遠回しに言ったりしなさそう。
「まっ、殊勝じゃないのは事実よ。今更かな?」
開き直って認めた。
よく考えれば、否、よく考えなくとも、この蒼穹という奴が殊勝ではない事は誰にも明らか。
「あっはっは!そんな偉そうな事じゃあないけど。気になる子!っているじゃん。そんな感じね。
んー、良いの?私のちょっかいは痛いぞー。」
凭れかかってる背を持ち上げ、また凭れて、落ち着かない。
前述のように、今日は気になる子も居ないし、乗り気だ。
ちょっと危なそうなちょっかい。
■ヨキ > 叱っていないときは、褒め言葉と受け取って相違ないらしい。
ゆるい顔で笑いながら、まあな、と肩を竦めてみせる。
「それにヨキは絶対に嘘を吐かない。
こんなに判りやすい人間はそうそう居らんよ」
偉そうに鼻を鳴らす。
今更かな、と嘯く蒼穹に、呆れたような、それでいて親しげな笑みを作って首肯する。
誘いの言葉に相手がそわそわとした様子を見せると、にやりとして凭れていた身を離した。
腰で結んでいたつなぎの袖を、ぐっと結び直す。
「何、この頃あまり“運動らしい運動”をしていなかったからな。
たまには学生との触れ合いもよかろう」
訓練場に空きがあることを確かめて、行こうか、と蒼穹を招く。
開けた空間に降りてゆくと――何となく、向き合ったヨキの表情が変わったように見える。
眼鏡をはずして首を鳴らす顔にじわじわと滲んでゆくのは、どう見ても昂奮だ。
■蒼穹 > 「絶対に…そりゃまた大きく出たね。
といっても、先生としちゃ頼りになるしぃ…信頼はしてるさ。」
裏表がない、っていうのは間違いないのかな。
ちょっと驚いたものの、細かい所はつつかず、それもそうだねとばかりに片目を閉じて言葉を続けた。
「夏場は運動の季節だしね~。ヨキさんは泳いだりしたのかな。
私はあんまり泳ぐの好きじゃないからしなかったんだけど。」
ふっ、と指先に溢れんばかりの魔力の籠る息を吹きかけた。
ちょっかいかけるには十分すぎるかな?
おっけい、とたったか訓練場の一つへと追従していく。
そして。
「………?」
空きの対峙の場所に降り、向き合う。運動するし眼鏡は外すのは分かるとして。
この顔…いや、大丈夫だろう。
さっきの遊び感覚な誘いとは打って変わってるあからさまに表情に満ちた危なげさを覚える様子。
「ヨキさん、行けるー?」
グーで握った拳を己の顎元へ押し付けてポキポキ鳴らす。
始めようかってばかりに少し後ろ歩きしてある程度離れながら質問。
声はいつもよりちょっと高くて大きめに。
■ヨキ > 「吐かない、と言うよりは、吐けない、といった方が正しいか。
この大きな口が開くときは、本当の言葉しか出ん。
ヨキもまた、君のことは信頼しているさ。
手放しに殊勝とは言えんが、思慮深いのは確かだからな」
手合わせが決まった後も、変わらぬ調子で言葉を続ける。
「いや。ヨキは身体が見た目より重いし、金属を操る異能者であるからな。
何しろ海は相性が悪くて、海の家で子どもらの監督ばかりしていたよ」
笑いながら屈伸して、肩を回し、前後に身体を曲げて準備運動。
向かい合った蒼穹の言葉に、大きな口がにいと深く笑った。
「ああ。どうぞ宜しく……」
“お手柔らかに”などと、決まりきった文句は口にしなかった。
嘘を口にしないというのは、こんな風に言葉の端々に表れているものなのだ。
「それでは」
じっくりと、相手との視線と呼吸を合わせる。
そうして十分にタイミングを測ってから、意を決して地を蹴った。
いつもはあんなに仰々しく重たげな身のこなしのくせ、その脚は速い。
瞬く間に距離を詰め、身を翻して蒼穹の真上からまっすぐに踵を蹴り下ろす。
実在の格闘技や、漫画のアクションをごった煮にしたような、我流の体術だ。
先手を打つ、小手調べの一撃。
■蒼穹 > 「よろしくねーっ。」
ひらっと手を振って。もう始まってたか。
先手を許してしまった。前から―――跳んで直上。
これで美術の先生だから驚きだ。
「おっと―――!」
見た目以上に早い。そして見た目通り、いや、見た目以上に重たい。
その辺の普通の生徒なら、この踵落としだけで潰れそうだ。
体から地面に抜けて行く一撃の衝撃。揺れて小さく罅入る地。
ごすん、と何やら硬いものが頭へ落ちる足先の行方を阻んだ。
蒼穹の右腕だ。とってつけた即席の硬化魔法でもかかったかのような、
タンパク質とカルシウムで出来ているソレではない、硬い何かで弾き返す感触。
まだ膝は付かない、折れない。
こちとら破壊神、力比べなら負ける気はしない。
反面攻撃を綺麗に受け流すなんて器用なマネは得意ではない故、
見た目より荒っぽく、性格同様無理矢理が多い。
技術や策略を力技で捻じ伏せるのがやり方。
「なるほど。うん…見た目より大分重いね、確かに。海に浮かべないかも。
じゃ、こんなもんでもどうかな?」
真上から降りたヨキがどうなったか、次はどうするか、それに関わらず、左手の指を鳴らす。
無属性の魔力―――今回はあくまでも演習なので、いつもとは違った破壊性のない、しかし充分攻撃性の高い魔力―――を収束、即発散させた。
半透明の白銀色に煌めいて目立つ、尖った矢みたいなものが、安物の連射ピストル同然の速度であちこちに乱射される。
殺傷性は、見た目通り、鋼鉄製のソレに近い。
それはお世辞にも命中精度に優れているとは言えないが、そのまま近距離に居れば魔法の矢に滅多打ちは必至である。
方向は様々だ、前にも横にも後ろにも。
そもそも、ばら撒く事も目的だが。
■ヨキ > 細身の、それでいて硬い腕に受け止められた。
腕と足とのぶつかり合いだというのに、鉄塊の重い音が響き渡る。
ヨキが防具を着けている様子も、魔力を行使した形跡もない。
つまりは、ヨキの骨が“初めからそうであった”ということ。
ヨキが意外そうな目を見せたのはほんの一瞬で、すぐに不敵な笑みが浮かぶ。
「……ほう!」
瞬間的に退いて足を引っ込め、着地して構え直す。
美術教師という肩書の似合わない、こなれた動きで手足をぴたりと止めた。
「だろう?その代わり、今年の海は一味違ったぞ。
魔法の力で、一週間だけ女になったんだ。
うんとハデな水着を満喫してやったわ」
その台詞を、低くスカした男の声で語るのである。
小さく笑って、再び疾駆――、
「ッ!」
放たれた魔法弾に、金色の瞳を見開く。
瞬間的に振り被った右手、人差し指に嵌められた指輪が、風を切る音と共に平たく展開した。
貝殻にも似たいびつで有機的な形状が、迫り来る矢を受け止める。
その指輪は、魔術学の実験にも用いられる、魔力と高い親和性を持つ鉱石から作られたものだ。
ヨキの異能が金属組織を生成し、変形させ、盾として凝固させたのだ。
直撃した矢の幾本かが、盾と相殺して消滅する。
だがその盾は決して魔導具とは呼べない。強大な魔力を受け止めるほどの技術を、ヨキは持っていないのだ。
「んなッ……!」
身のこなしに合わせて翻った猟犬の耳たぶを、矢の一本が掠めてゆく。
傘ほどに大きく広がったくろがねの盾を、最後にはぶるんと振り下ろした。
貴重な魔石を防具として用いていながら、勿体ないほどの力技だった。
鋼板に銃弾を撃ち込んだような音がして、木霊する。
見れば地に低く伏せたヨキの頬や晒した腕に、いくつかの切り傷がある。
「蒼穹君ッ……人死にが出たらどうするね!」
笑っている。
笑っているが、教師は叱らねばならないのだ。
だがどうしようもなく笑っている。
それは人ではないし、そう簡単に死にもしない者の顔だ。
■蒼穹 > 「ふ、む…っ?」
金属。
彼の身体は本当に重鈍な鉄、金属で出来ているんじゃないだろうか。
そう思う程に重く、また、人の外見をしたもの同士としてはなんともおかしな音だった。
「魔法ってすげー!ってかそんな魔法あるのか!」
この彼が、いや彼女になって水着に…?いやいや、想像が出来なかった。
でも彼が言うなら、本当と言う事だ。
世の中、理解が及ばんものである。
魔法道具、持ってたんだ。
今更すぎる指輪の認識。
鋭い魔法の矢は、魔法の盾でかちあって、消えていく。
これで威力の高い物を多数撃ち込んだ結構高等な品の様だ。
彼の方へ飛んだ矢は、悉く消えて、それでも収まりきらないその身を矢がスレスレで通過していく。
現れた鉄の盾に、ガンガンとぶつかって弾き返されていく魔法の矢。
その身のこなしもあり、酷い命中率とは言え蜂の巣にされているのに、中々当たらない。
外れたばら撒かれて生き残った矢は、空中で浮いたまま速度を急速に失い、ふわりと浮き始めた。
設置されたトラップみたいに、矢が広がっている。
浮かんだそれらは、まだ魔法として死んでいないのだ。
「う、ええー…これでも絶対死なないように考えてたんだけど…!」
鉄同然の身体には、恐らく刺さりきらないが、ダメージにはなる程度の攻撃。それくらいに選んだ。
少し慌て気味で気まずそう。笑ってるけど、熱くなってるんじゃなくて叱られてるって分かるから。
「大丈夫、これで演習や訓練じゃあ死人出したことはないからさ!」
心配はいらないとばかりにピースサイン。
生徒の身を案じれば、顔を顰めて叱るのが、彼の性格。……今は、何故だか笑っている。
いつもより、少し獰猛に見えるのは気のせいか。
伏せる彼を見据えて、次の動きを伺った。
■ヨキ > 感心する蒼穹に、ひととき笑う。そんな魔法もあるらしい、と。
右腕をぐるんと一回しすると同時、大型の盾がたちまち収縮して手元に戻る。
物理法則を超えた、無限の操作――ヨキが持つ異能。
周囲に浮かんだ矢を、前後左右、上下と素早く見定める。
その視線の動きもまた、常人のそれではない。
動体を聡く視認する、獣の眼差しだ。
「それもある種の信頼ということか。
だが死人を出さずとも、ここはあくまで学内ゆえに……流血沙汰となっては、
褒められたものでもないでなあ?」
自由に生きる学生と、律を重んじる教師と。
自分たちの相性は、きっと決定的に悪いんだろう。
そうして他方では、神性と神性だ。
学園という制約さえなければ、そのときにはきっと――
だから今、ヨキは笑っている。
癖毛の奥で、金色の眼光が鋭く燃え立つ。
その顔はどこか衝動を抑え込むように張り詰めて、好戦的だ。
「ヨキにも魔力さえあればよかったんだがな。
残念ながら、馬鹿力だけがウリだ」
膂力と、頑丈さと、俊敏さをひっくるめての馬鹿力。
低い位置から、魔法の矢の間を擦り抜けて駆け抜ける。
左手に現出せしめるのは、指輪と同じくろがねの色をした野太刀だ。
“絶対死なない”蒼穹の魔法に倣って、切れ味のない、しかし重い刀。
鋭く吐き出した呼気とともに、踏み込んで切り上げる一閃。
まともに当たるとは思っていない。返す刀で、袈裟斬りが間を置かずに続く。
■蒼穹 > 「………こりゃまぁ。」
身体が金属なら、武器も防具も異能も金属か。
もっとも、動きだけは金属ではない。早いのは足だけではなかった。
「そうだね。胸を借りるつもりでってことさ。ま、気楽にやるのが一番だけど。
あっはは、なら、流血沙汰にならないように御願いしておくね。
先生に暴力振るった~とか、……ま、言われないだろうけどさ。」
叩くのは軽口。相変わらず冗談半分に答える。
相性は悪いのは確かだ。だが、今はこうして学園内で互いにルールの中で遊戯している。
「魔法合戦もアリだけどさ。
こういうのも、面白いと思うよ!」
速度は見切った。速い、しかし見切れない速さではない。
重苦しく駆ける彼に、浮かんでいた矢が形を変えて、迎え撃つ線形の斬撃となって襲いかかった。
浮かんでいるだけではなかったのだ。
「―――ッと!」
そして、目の前で繰り出される鉄の剣、鈍くて重い、ただ叩き潰す一撃を、
矢の斬撃で抑え込みにかかり、下向きに弾く。それだけでは止まらん勢いをその手で叩き返した。
こんな見た目だが、力強さは化け物も同然である。
「あ…!」
間抜けな声。
次いで返ってきた斜め斬りが、まともに対応も出来ないまま腰から腹にかけて当たった。
相変わらず、身体は異様な程硬いが、確かにその一撃は身体を捕えた。
安っぽい半袖の服が少しだけ千切れて、野太刀の鈍い打撃を受けた。
鈍さゆえに斬れる事はない。しかし、その衝撃で横に倒れ―――
「第四十術式、重力封殺!」
―――るのは、負けた気がするので、嫌だった。少し反抗的でふんといった具合だ。
あわや地面に無様に転びかけるところで、ふわっと拾い上げられる様に地面からぶつかるコースから浮かび上がった。
その身を引き縛る重力を切り離したのだ。
ふわふわ浮かんでいるのは念動の魔法。
身体を動かす感覚で多くの魔法を使うのも破壊神という神性の特権だ。
「うっへ…ヨキさんこそ、生徒にこんなことやって死人出さん様に気をつけなよ~?」
咳き込んだ。
「もう同じ手は食わんよ。あー…ヒリヒリするぅ…。」
涼しい顔して、無事では済んでない様だが。
まるで老人みたいに腰や手を擦りながら、
今度は喰らわんって宣言。
「ヨキさんほんと美術教師?ちょっとビックリだよ…。」
宙に浮きあがったまま、手のひらを彼に向けた。
さっきより狙いが良く、速く、そして絶対数が比にならん、
まるでそういう形の物であると錯覚する程に高密度の魔法矢が、
白い閃光となって彼を襲っていった。
盾で防がれる事を見越してか、それらは目に見えて加速していく。
「ちょっとズルいことするけど…!良いよね!」
そして、散らばって生き残っている矢で彼の背か横を狙おうって二段構え。
戦意っていうのは、やっぱりなんかの形で叩き潰したくなる、
演習だとは言え負けたくない。それも破壊神の有り様だ。
■ヨキ > 「君のことを、人に悪く言うものか。
悪いことは、面と向かって本人にしか言わんよ」
それこそ突き付けるように。
蔭口よりも性根は真っ直ぐだが、ある意味で性質が悪い。
肉を切らせて骨を断つ、という表現そのままに、刀を振るう他には一切の防御がなかった。
肌のみならず衣服の布地まで裂ける感触があったが、構ってはいられない……
「もッ……もう買えないのに……!」
……という訳でもないらしい。嘆いたのは、Tシャツについた傷だ。
けれど斬撃が蒼穹の腹を打ち据えた感触に、たちまち服どころではなくなった。
「蒼穹君!」
天が落ちてきたような顔をして、宙に浮かぶ蒼穹を見遣る。
垣間見せた剣呑なまでの鋭利さは、すっかり鳴りを潜めてしまった。
「あああ、済まない、ヨキは何ということを……!」
教え子へのダメージを看過できないのも、ヨキが武術ではなく、美術の教師に専念する理由のひとつなのだろう。
蒼穹が次いで放つ、威力を増した白光。
さすがに堪らず、ええい、侭よ、と歯を食い縛った。
加速する矢が、余さずヨキを目がけて突き刺さる。
その瞬間。
ヨキの身体が、黒い靄と化したように爆ぜた。
強い錆の匂いが、蒼穹の鼻を掠める。
相手の視界へまぼろしのように残るのは、金色の焔が棚引く獣の視線――
――次に人の形をしたヨキが姿を現したのは、蒼穹からはるか距離を置いた前方、訓練場の壁すれすれの位置だ。
地面に片膝と手を突いて、肩で息をしている。
魔法の矢が突き刺さったのは、ヨキが立っていた位置に屹立した、金属の柱状のデコイだった。
黒い風が吹き抜けたかのような、一瞬の出来事。
瞬間的な変身が成す、神速の回避。
“何をしているか”を明確に視認される訳にもゆかず、披露できるのはこの一度きり。
「こ……降参だ、降参。
これ以上、ヨキには太刀打ち出来んよ。ヨキの負けだ!」
立ち上がりながら両手を大きく振って、棄権をアピールする。
手合わせという枠組みの中では、これが限度だった。
■蒼穹 > 「優しいもんだね…。」
演習でも勝負だが、この辺が負けてならんとする蒼穹と彼の違いなのかもしれない。
真っ白な閃光が突風の如く突き刺ささらんと進んでいく。
刺さった、程よく切り上げて、これもまた刺さりきらん様に減速と威力を落とす。
身体の一部を操るみたいに容易だった。
「……んっ?!」
突如爆ぜる彼の身体。
妙に鉄臭い。
鉄の身体を持つ彼…とするとあれは…まさか…?
ぎょっとしたように掌から魔力を捨て去ると、目を見開いて見た。
そっちにばかり気を取られて、結局何がどうあったかは分からないまま。
刺さりきらない程度に手加減は加えた。まさか砕け散ったりするはずがない。
煙が晴れるまでの一瞬の戦慄。
そして、晴れ上がった煙から出てくる鉄柱。
訓練所の隅に、現れた彼の姿。
「は、はあああああ……。」
頭を抑えて脱力した。半ば座り込み気味。
あんな会話をしたのもあって、死人出したらどうしようって思っていたのは口が裂けても言えない。
彼の事だからそうそう死にはしないだろうが、ああいう光景をみたらヒヤヒヤはするものだ。
大きく口をおっぴろげて、何か色々と吐き出す様に息を。
「…ふー、そっか。じゃあ勝ち星貰っとくね、ありがと!」
ゆるゆるのピースサインを頭の辺りで作って対応。
その性質上肉体は疲れないけど精神は疲れるのだ。それに、やっぱり肉体にもダメージもある。
けども、勝ったぁ、とそれはそれは嬉しそうだった。
「さて…それじゃ、引き上げよっか。」
今日明日は暫く、どこかでのんびりと身体を休めて居たくなった。
ゆっくりと立ち上がって身体を伸ばすと、破けた安物の衣服を適当に肌に合わせて。
それから、訓練施設の所から立ち去っていくだろう。
ご案内:「訓練施設」から蒼穹さんが去りました。
■ヨキ > ほっとしたのは、お互い様のことであるらしい。
二人してしゃがみ込んでいる、傍目にはよく判らない画だ。
力ないピースサインを向けられると、いっぺんに脱力して笑った。
「はあッ……君は強いな、蒼穹君。
先生としていいところを見せたかったが、そういう訳にもいかないようだ。
あのまま続けていたら、きっとこてんぱんにされていた。
君が学園を卒業した後ならば、存分に戦うことも出来ようが……な」
眉を下げて笑う顔は、元通りのヨキだ。
厳格さも、獰猛さも、親しさもすべてひっくるめたのがこのヨキという教師の姿なのだった。
それこそ人間らしいだろう、と誇らしげに。
服の埃を払って、蒼穹と共に訓練場を後にする。
相変わらず毒にも薬にもならない話をしながら、最後には笑って手を振ってみせる。
ご案内:「訓練施設」からヨキさんが去りました。
ご案内:「訓練施設」に滝川 浩一さんが現れました。
■滝川 浩一 > また、ここに来た。
もう既に日課となっている訓練施設での異能訓練。
異能で作り出した武器や道具に試運転や、ロボット相手の戦闘訓練諸々…
しかし、今日の訓練はいつものとは意味が違う。
ぼんやりとした仮想敵に対し、特に目標もなく自身を鍛えるのではない。
手合わせを約束し、近いうちに戦闘訓練をする相手へ対策するための訓練だ。
訓練に備えての訓練とはこれまた滑稽だが…まぁ、気にしないでおこう。
いつものように備え付けの端末を操作し、的を出現させる。
同じように、変わらずに出現する的でも意識のしようで何かが変わって見えるのは気のせいだろうか。
呼吸を整え、右足を踏み込むと青い光が出現しだす。
■滝川 浩一 > 「……7、いや60点ってところ…か」
――――数分後、最初と同じ位置に立ち、的を見据える。
的はボロボロに砕けて、すでに原型を留めてなかった。
手に持っている武器や装備している道具を消し去ると息を吐く。
その吐息は白く、冬の時期によく見かける白い息であった。
頬をかき、端末に近づいて訓練施設の気温を確認する。
11℃。今の季節のしかも室内ではありえない気温であった。
「すこし、やり過ぎたか…う~寒い寒い」
余り気温に驚かなかったのは何か心当たりがあるからだろう。
自分の体を摩りながら訓練施設の暖房を起動する。
■滝川 浩一 > 訓練施設の天井の埋め込み型エアコンから暖かい空気が放出され、冷気が中和されていく。
通常の温度に戻るまでに端末を操作し、別の的を出現させる。
まだまだ訓練は終わってない。
自分の異能はとかくイメージが重視される。
的を見据え、それを敵とみなし、最適の武器で対処する。
「…相手が射撃とか使ってくるならまだしも、近接戦闘とか、俺近づかれたら…」
――――即死だ。
銃の撃ち合いならば、相手の攻撃を防御しつつ超火力の武器で打ち勝てばいい。
しかし近接戦闘は別だ。近接戦闘を仕掛ける相手は誰も彼もバカみたいな身体能力を有している物ばかりだ。
武器だよりで一般人より少し身体能力が高いだけの彼には、接近戦は自殺行為のようなものだ。
その対策も練らねば…などと考えている内に室内の温度が標準に戻る。
ご案内:「訓練施設」に三谷 彰さんが現れました。
■三谷 彰 > 新学期も始まり学校の日常も戻ってきた。
だが同時に問題となるのが施設の不足だ。
今もかなりの数の訓練施設が稼動しており空いている部屋を探して棒を片手にうろうろとしていた。
そんな時にふと目に着いた部屋では的が出現し今から練習を始めるといったところだろうか。
何となく今から始まるとわかるとどんな事をするのか気になってしまうというのは人の性というものなのだろうか。部屋を探さなければいけないのにどうしても見たくなってしまう。
どうせ部屋も空いていないし1回だけ見ていこうかと少し考え外から声をかける。
「少しだけ見てても良いか?」
黙ってみていれば良いとも思ったのだが見られるのが嫌な人も当然いるだろう。
だから声をかけて一応の許可を得る。
「部屋が空いてなくてな。見てるしかすることねぇんだ」
ハハハと軽く苦笑を浮かべながら頭を掻いた。