2016/10/15 のログ
ご案内:「演習施設」に足ル歯 繰朗さんが現れました。
足ル歯 繰朗 > ガシュッ、ガシュッ、ガシュ……ガチャリ。
青い巨躯がのっしのっしと廊下を歩く。
大小の鱗に覆われた隆々とした肉体。傷跡が多く目立つなかに、らんらんと紅く輝く双眸。
すれ違う人が距離を置いて避けていくのにも慣れた。かえって歩きやすくなった道を悠然と進む。
やがて演習場の前まで来ると、黒い爪先を器用に動かしてドアノブを握る。

「……ム、無人か」

足ル歯 繰朗 > 肩に、というより肩の鱗に引っ掛けていたザックを外すと、片隅に放った。どさりと音を立てて、結び口から黒と赤の布地が見える。
半月に切ったトマトのような瞳で、グラウンドをぐるりと見渡すと、備え付けてある装置でフィールドを選択する。
タッチパネルよりも早く、画面を押さんとする指の動きを読み取って、サポートしてくれるナビは、彼のような体型であっても選びやすい。うっかり爪で突き刺してしまう、なんてことがないからだ。

「コースは400m。それに各種計測装置と」

入力後、すぐに形を変え、音もなく出現していくトラックのスタート地点へ進んでいく。

足ル歯 繰朗 > スタート地点へと立ったリザードマンの男は、ミシミシと体をきしませながら柔軟運動をそれなりにこなした後、
両手を地面について屈みこむ。
──それは一見、クラウチングスタートのようだが、後ろ足の様子がいささか、奇妙であった。すぐにしゃがまず、足を伸ばしている。
と、膝関節が逆に折れ曲がり、そのまま腰を下ろした。いわゆる、逆間接といわれるものである。
尻尾を邪魔にならないよう後方へ動かし、合図を待つ。

呼吸を整えた数秒後に空砲が鳴ると、強く地面を蹴り、その土埃が舞いはじめる前に駆けだした。
姿勢を低く抑えて風の抵抗を減らし、尻尾を後ろに靡かせる。
カーブでスピードをやや落とすも、全体的には獣人の速度にギリギリ追いつくかどうかの早さであった。

200mを越えた時点で、中間地点を計る速度計が数字の列を動かす。
この時点で、既に走る自転車を追い越し、車に並ぶ早さである。

ご案内:「演習施設」に寄月 秋輝さんが現れました。
寄月 秋輝 >  
地上から10センチほど浮いたまま、端末に目を通しつつ入ってくる男の姿。
どうやら先客が居るらしい、と顔を上げた。
随分鍛えられた様子の爬虫類らしい人物が見えた。

(人間ではお目にかかれない動きだ、観察しておこう)

というわけで、距離を取ったまま空中にあぐらをかいて、じっと見つめる。
わずかに細められた目は、眠たげでもあり、人を斬りそうなほどにも鋭い。

足ル歯 繰朗 > リザードマンという種は本来、足が速いと生存競争で有利であるとか、狩猟に早さを求めるとか、そういったことは報告されていない。
しかし他の獣人や亜人、あるいは人間種と同じく、鍛錬によって身体能力を高めることは可能であり、そういう知能はあるはずである。
現にリザードマンの戦士などは、鍛え上げた屈強な肉体で数々の武芸を使いこなす。
武芸の概念そのものが、知能が高くなければ思い至ることすら難しいのである。

青い疾風と化した影がゴールのラインを踏む迄、そう長くはかからなかった。
最高速度は、秒速25m。ネコ科の獣人には及ばないが、まずまずの結果であろう。
それでも急停止まではできない。
10m、20m、飛び跳ねるように地面を蹴って滑空し、スピードを徐々に落としてから着地する。

「ハァ、ハァ、……今日はそこそこだな。だがまだ鍛錬が足りぬ、人虎か人狼種を追い抜けるほどでなければな」

振り返って息を整えながら、タイムを確認する。それでも人間種よりは早いのだが。
……ところで、ゴール地点から演習場の入り口までは、直線距離でも結構離れている。視界に入るでもないかぎり、トラックの外までは気にしないだろう。

寄月 秋輝 >  
(あの巨躯で速度も十分。
 タックルされたら死ぬな)

雑な思考をしながら、足を崩して地面の方へ垂らす。
そのまますいっと飛んで近寄っていく。
歩くよりは明らかに早い。

「お疲れさまです。
 失礼ながら、今の走りを見せていただきました」

ぺこりと頭を下げながら、そう告げる。
亜人の知り合いは多くない、なかなか貴重な体験が出来た。

足ル歯 繰朗 > 人間種と思われる熱源存在が、自身へ向かって近づいてくるのを感じ取る。
その接近が空中からであるのが気になったので、そちらへと振り返り、姿を確認した。

「ム、学生か。別に見るのは構わん、隠すほどの事でもないしな。
だが、見たところ人間種に見えるな。リザードマンでは体のつくりも違うと思うのだが……」

そう言いながら礼を返し、次いで、まじまじと相手の少年を眺める。
一見して術士のような服装だが、どこか変わった身体特徴などは見えない。
人間種のようにしか見えない。他の種が擬態している可能性もあるが、それだって体温の変化でなんとなく勘づくはずなのだ。

「しかし、それにしても。あまり、動じているようには見受けられんな。
講義や委員活動以外で声をかけられるのはめったに無いことなのだが」

ふたつの紅い半月が、三日月のように細められた。至って普通に声をかけてくれて、声の調子からも機嫌がよさそうであった。
たいていは見て見ぬふりをされるか、通報されるか。
少なくとも、人間種が多い一般学生の間ではそうであったから。

寄月 秋輝 >  
「見紛うことなく人間ですよ。
 体の作りが違うからこそ、知るべきものがあるといいますか。
 知らないことを知る、というのはとても楽しいことですから」

知の探究の一環でもあり、彼のようなリザードマンを見誤らないための研究の一つでもある。
先ほどの逆関節での加速も、彼の骨格と筋肉だけを見ていたら確実に見誤っていた。
そういった相手への対応を怠らないようにするためのものでもある。
が、そこまで話すと少々不穏にもなるため、黙っておく。

「常世島で亜人の方は多いですからね。
 奇異の目線で見る者も居るかもしれませんが、僕にとってはあなたの見た目は些細な違いです。
 僕のこの対応は、あなたが僕を『ニンゲン』と下したりしないことと、同じだとは思いませんか?」

相手を同じ目線で見れば、相手もこうして敬意を以て接してくれている。
それは対等な友人関係であり、この世界のあるべき姿だとも思う。

足ル歯 繰朗 > 「まるで学者のような口ぶりだな。
だが、相手を知る、未知を知る、それはとても大事なことだ。」

相手を知らねば、相手が何を欲するかを知ることはできない。
青い男は頷いて、そうまとめる。知的探求の根拠に差があるかもしれないが、それはさしたる問題ではないだろう。

「確かにこの島、亜人は多いが、人間種はそれよりも多い。
妙な目線にはもう慣れたが、だからこそ対等に接してくる者がいっそう印象に残るのだ。
フム。俺は自身を高めるため積極的にコミュニティの外と交流を持つべきと考える故、他種族を下するやつらの気がしれぬが……名前を聞いておきたくなった。
俺は足ル歯 繰朗という。親しいものにはタルシとかクルローとか呼ばれている。そちらの名は何という?」

敬意をもって敬意に返す。
種族を越えても、それを維持するのは難しい。それ故もし友人関係を築けたら、きっと互いに有意義なものになるだろう。

寄月 秋輝 >  
「ある意味学者でもありますからね。
 こう見えて魔術研究もたしなんでおりますので」

やはり話が通じると楽なものだ。
相手と感情を共感できるというのは、それだけで価値がある。

「対等に、最初から友好的に接してくれる相手は、そうでなくても印象に残りますよ。
 あなたもそのうちわかるようになると思います」

ふ、と小さく笑みを浮かべた。
自分も含め、異邦人や亜人が好意的に接してもらえる世界となってくれるとよいのだが。

「ではタルシさん、と。
 僕は寄月 秋輝。寄月でも秋輝でも、呼びやすい方で」

足ル歯 繰朗 > 「フム、魔術研究か。
するとそうだな。俺は忍術も扱うが、そちらは専門外ではないかな。一家秘伝のものでなく、学園で習い覚える方の、だが」

タルシは耳まで裂ける口元をゆがめ、にやと笑ったような印象を残す。
流石にここで披露するわけにはいかないが、其方の話が通じるかどうか、念のために訊いてみよう。
通じなくとも、属性に関係する話だけでだいぶ身になると思う。

「そのうちか。少なくとも2年はいるから、まだこれからということかな。

ああ、こちらも寄月、と呼ばせてもらおう。
それで、ここに来たということは、訓練をしに来たのではないか?そちらはいいのか」

寄月とて、最初からおしゃべりに来たわけではないだろう。
何か目的があって……そう考えると、あまり時間をとらせるのも不味いか。
それに、少し喉が渇きつつあった。この演習場、自販機へ向かうにはいったん外へ出ないといけないだろう。

寄月 秋輝 >  
「忍術……そういえばそんな授業もありましたね。
 試してはみたのですが、どうにもダメでしたね。
 何せ魔術で大体代用出来てしまうのと、体質的に属性術の類が扱えないのでどうしても……」

自分とは違う種族だ、感情を読むのは難しい。
けれど、笑顔はなんとなくだがわかる。
情けないけれど、というような微妙な表情で返した。

「ええ、ゆっくりどうぞ。
 楽しい世界だと思える日が必ず来ますから」

そう囁いた。

「あぁいえ。
 動かないで行う訓練も兼ねてお話させていただいたので、実はもう十分です。
 なのでそろそろ僕は失礼します……ありがとうございました、タルシさん」

ぺこりと頭を下げた。
力の行使は、動くことに限らないのだ。

それ以上に、実のある出会いが出来たことが喜ばしかった。
礼を述べて、その場を立ち去るだろう。