2017/03/25 のログ
東雲七生 > 「あはは、悪いね。」

解って貰えたようで何より、と苦笑しつつ頷く。
そしてルールの決定権を投げられれば、少しだけ困った様に眉根を寄せる。
その悩みのメインは異能を使うか否か。以前ほど人前で異能を行使することに抵抗が無くなってきているとはいえ、あまりおおっぴらに使えるものでも無い。

しかし、説明された相手の異能では徒手空拳で挑むというのも無謀な気がする。
いや、無謀な事をする事に関しては一家言あるといっても良い七生ではあるが。

「……じゃあ、異能を使うのもお互いにありにしよう。
 それでいて武器あり。俺は状況に応じて使ったり使わなかったりだから、そっちは最初から武器使って良いや。」

遠まわしに自分の異能が武器になると、そういった類の発言をしつつ。
軽く屈伸運動を始めたり、ぴょんぴょんと跳ねたりし始めた。

三谷 彰 > 「了解、魔術以外は全解禁って事な」

 ルールが纏まったところで棒の入った袋を取り出し茶色の普通の方の棒を取り出しもう片方の黒い棒の入った袋を壁に立てかけグルンと棒を軽く振り回す。そのまま演舞のごとく数度グルングルン回してはピタっと静止させるを繰り返すとよしと軽く呟き部屋の反対側へ。

「こっちは準備OKだ。合図は何時でも良いぜ」

 そう声にだし目が紅く染まる。始めてみたとしても異能を行使したとわかるだろう。
 直感に優れているのであればまるで全てを見通されているかのような少し不快な感覚を受けるかもしれない。

東雲七生 > 「はいよー、ええとじゃあ……」

合図をどうするか。少しだけ考える。
相手の異能はこちらの動きがスローに見えると言っていた。
それが本当であればいきなり強襲に出ても良いだろう。その前に一声かけた方が良いかもしれない。
そこまで考え所で、俄かに肌が粟立つのを感じた。今のが多分、三谷が異能を使ったという感覚なのだろう。

「じゃあ……行くよっ!」

様子見も兼ねて七生は突撃を掛ける。
地面を強く蹴りつけ、バネ仕掛けの様に跳び、真っ直ぐ突っ込んで勢いそのままに殴りかかるつもりだった。

三谷 彰 >  相手の速度を見て思わず心の中で感嘆をもらす。前に海で聞いたとき凄まじい事をやっているなと思ったものだが今目の前にすればそれも可能だろうといった意見に変わる。

(人を超える速度か)

 口に出す余裕までは無い。そうすればこの突撃をかわす余裕は消えるだろう。コマ送りの様に緩やかに進む世界。七生以外が遅い世界、その世界の中で即座に動き出す。
 地面に棒を強く突き立てるようにし地面を強く踏む。棒に支えられるように彼の体が宙に浮かびギリギリで攻撃を回避するとそのまま棒を手元に手繰り寄せる。

「はぁ!」

 体制を変えることなく相手に空中から棒を振り下ろす。
 狙いは相手の肩だ。

東雲七生 > 特に策も無くただ突っ込むだけ、だった。
だが相手が動けばそれを追う様に七生の瞳も動く。

そして同時に確信する。
スローに『見える』というだけで別段こちらの動きを遅くする効果が有るとか、三谷自身が高速で動けるという訳では無さそうだ、と。
百歩譲ってまだ此方の動きの先が見えているという可能性もあるが、そればかりは今確かめる手が無い。

「……ッ!」

拳を繰り出す際の踏込みと同時に身を低く低く屈め、突っ込んで来た時と同等の勢いで急後退。
スローに見える程では無くとも、七生自身が機敏が動くため動体視力は良い方だ。
自分が動いている中でも、相手の視線、膝と肩の動きをつぶさに観察して相手の動きを予測する。

さながら獣の様な身のこなしで振り下ろされた棒を躱した。
ふー、と細く長く息を吐き、吸って、真紅の瞳が三谷を見据える。

三谷 彰 > 「ま、流石にあたらねぇよな……七生も”見えてる”みたいだしな」

 着地し相手に向かい今度はこちらから仕掛けながらそう声に出す。
 相手の視線は確かにこちらの動きを捉えている。そうでなければあそこまで的確に相手の動きを読む際に必要な点を見ることは出来ないだろう。あれだけの速度で動ける以上それに見合った動体視力は持っていてもおかしくは無い。

「ズルいとは言うなよ。俺も見える人間だからな。どうされるのが1番嫌いかわかってんだ」

 真っ直ぐに棒を相手の顔の位置に突き出す、だがそれは囮。即座にそれを引くと同時に棒を持ち替え相手を足を掬うかのようにさっきとは真逆の超低位置への攻撃を繰り出す。
 見えてしまうからこそ1発目に反応してしまい見えにくくなる2発目が見えなくなる。もちろん全員がそうではないが少なくとも自分はそれをやってしまい何度も訓練でやられたのを覚えている。

東雲七生 > 「見えてるのとは、また違うけどね」

物理的に目視しているわけではないし、ましてや特殊な視覚を有するわけではない。
七生の目が捉えられるのはほんの数瞬、極々わずかな間だけだ。
何しろ自分自身が高速で動いているのだから、余裕なんてそうそう無い。

では何を以て確実な動きを可能足らしめているのか。
それは入学してすぐから積み重ねて来た知識である。
丸一年の間、学園内はおろか常世島のあらゆる場所で起こる戦闘行為を時に間近に、時に映像で、毎日の様に見続けてきた。
あらゆる地球人、異邦人、異形の戦闘を繰り返し繰り返し、夢に見るほどにまで観察し記憶し我流で模倣を重ねた結果。
あらゆる戦闘時における所作が七生の指先にまで刷り込まれているのである。

そしてそれは、“戦闘時の駆け引き”にも及んだ。

「そういうこと──普通は言わねえもんだよ!」

初撃の突きを躱すでも無く、両腕を交差させ足に力を込めて防ぐかのように見据える。
そして棒が寸でのところで停まり、引きに入った瞬間。弾かれたように間合いを詰めると、地を蹴り、三谷の肩口目掛け上段蹴りを放った。
三谷の口ぶりから、『フェイントがある』と判断しての動きだった。

三谷 彰 > (なるほどな)

 相手の足の動きから蹴りは理解できた。
 こちらは薙ぎに入った姿勢。かわす事も可能ではあるかもしれないが難しく失敗する可能性が大きい。
 しかもここで回避すれば結局はどちらも距離が詰まらない。おそらくはこのまま双方共に相手に当たらないまま終わりだろう。それどころか押し込まれる場合もある。そうなるのは抑えなければならない、相手が人間以上の身体能力を有しているのであればそれ以外の点で勝負をし絶対に相手に有利を取らせてはいけないのだ。
 それならばと相手の狙っていない方の手に棒を持ち替え逆にこちらも一歩踏み込む。
 肩に当たる蹴りは本来命中する地点より少し手前、威力が落ちる位置。それでも威力は消えてはいない、痛みを抑えそのまま蹴られた反動に従い回る。そして……

「じゃあ、話さないで行かせてもらうぜ!」

 その回転を利用し相手の軸足を狙い回し蹴りを放った。

東雲七生 > 「フーッ……!」

果たして三谷の回し蹴りは七生の軸足を捕らえた。
が、三谷の足に伝わる手応えは、さながら岩の柱でも蹴ったかのような反動。
常人離れした爆発力を伴う機動力を産み出す七生の足は、足だけは脚甲で固められたかのような頑健さを持ち合わせていた。
それでも痛みが無い訳ではない。七生は食い縛った歯の隙間から痛みを堪える様に息を吐き出した。
平時はあどけない表情を浮かべる顔が、狩りをする獣の如くに鋭さを帯びる。

「……フンッ!!」

直後、槍のような勢いで三谷の顎目掛けて蹴りが繰り出された。
肉を切らせて骨を断つ、と言わんばかりのカウンター。
それは小柄な体からは想像もつかない程重く、鋭い一撃だった。

三谷 彰 > 「うっそだろ!?」

 蹴った感覚は人のそれではない。というより生き物ですらあるのだろうかと言わんばかりの反動が帰ってくる。
 だがその感覚を感じる暇など無い、その足の頑強さ故かバランスを崩すことなく繰り出される蹴り、まともに食らえば意識を持っていかれることは容易に想像がつく。だからと言ってこちらも蹴りを入れた直後回避などできるわけが無い。とっさに腕を持ってきて顎に受けるはずだった物を腕で受けその衝撃のまま後ろへと飛び距離を取った。
 そして着地、衝撃をなんとか軽減しても尚盾にした右腕がジンジンとする。
 正直言えば……勝ち目はかなり薄いだろう。相手はそれこそ人間を越えたほどの身体能力、人間の中では高い程度の彼では魔術無しでは対抗できないほどの差がそこにある。
 だが諦められるほど良い性格もしていない。この状態で彼が取れる手段はただ一つ。自分の力ではなく相手の力を利用したカウンターだ。
 グルンと棒を回すと地面を踏め締め一気に加速。相手に駆け寄るとそのまま胴に棒を突き出す。

東雲七生 > 「ぐっ……!?」

咄嗟の反撃に腹に力を入れて受け止める。
脚ほどでは無いにせよ日々鍛えた腹筋は多少の威力を殺ぐことには成功したが、七生の顔が苦痛に歪む。
辛うじて体の芯までダメージが届く前に後方へ跳躍。棒に押し出される様に大きく後退して、両手両膝をつくように着地した。

「……ッ、……!」

横隔膜への衝撃からか呼吸もまともに出来ない。
咳き込む様に息を吸って、吐いて、落ち着いて来たのか一度深呼吸をした。
やはり徒手空拳では得物を持つ相手には分が悪いか、と眉根を寄せる。
相手の虚を突く戦いを得意とする七生にとって、現在取れる不意打ちは異能の行使以外は出し尽くした。

「……あ、ダメだ。 こ、降参。降参する。」

異能を使うか使わないか。
そこを考えてから、七生は静かに両手を上げて降参を宣言した。

三谷 彰 > 「ん? え? ……お、おう」

 相手の降参宣言を受け棒を下ろす。だがん? と首をひねり。まぁ良いかと終わらせる。
 それから元の様戻して。

「にしても驚いたぞあの身体能力。正直降参してくれてほっとしてるぜ俺……あのままだと負けてたし」

 もしあの身体能力を使ってゴリ押しされていれば負けていたのはこっちだろう。今でも右手がジンジンすることに変わりは無い。
 まぁそうは言っても。こっちは武器ありで異能使用。向こうは異能無しで武器無し。それでこの様では実質敗北と言ってもいいかもしれない。はぁと軽く息を吐き。

「とりあえず治療するか? 簡単にでいいならするが」

 ルーンを右腕に書き込み魔力を流す。2,3回腕を回すと納得した顔を浮かべる。

東雲七生 > 「あはは、いやー強かった。びっくりしちゃった。」

火照った顔をふにゃんと歪めて笑みを浮かべる。
そして鼓動を押さえる様に大きく深呼吸をした。
もし異能を使って続行していたら、多分自身でも制止の利かないところまで続けてしまっただろう。
流石にそれは避けたい。無用な怪我を生みかねないからだ。

「あはは、まあ鍛えてるからね。とはいえほぼ一撃に賭けるタイプなんだけどさ。」

七生が履行していたのは異能使いや魔術使いばかりが居る対魔導生物戦闘訓練だ。
そんな中で彼らに離されまいと体術一本で食らいついていたのだから、当然の力量と言ってしまえばそれまでである。
しかし、それは常人以上の学習と研鑽、そして無茶と紙一重な鍛錬の賜物でもあった。

「ああ、大丈夫大丈夫。
 ちょっと痛むだけで、これくらいならすぐ直るから。
 別に切り傷とかでもないし、うん。大丈夫。」

湿布でも貼っておけば一晩で治るさ、と笑いながら首を振る。
回復力の速さも人並み外れてはいるが、それはあくまでも異能の副産物であると七生は考えていた。
もしかすると、回復力の速さも異能の一部なのかもしれない。

三谷 彰 > 「仮にもマルトクだしな。弱かったらつとまらねぇよ」

 相手の笑顔に釣られこっちも笑みを作る。
 結構鍛えたつもりだったがやはり上には上がいるようだ。

「鍛えてそれだけ出来りゃ十分だよ、俺だって鍛えてこれだけなんだぜ?」

 自分も化け物揃いのマルトクの中でもまれたつもりだったがまだまだらしいと改めて考えさせられる。特に身体能力はこれ以上は厳しいだろうなとは予想がついているし、相手は戦略などもかなり上手だった。色々と見習うべき点はある。

「ん、なら良いがまぁ変になったら言ってくれ。治しに行くからさ、後ありがとうな付き合ってくれて。修正点見つかったぜ」

 そういって笑いかけた。
 今回の事でわかったことは単純明快、戦略の幅だ。格上相手には魔術を駆使して対抗すると決めたが魔術が何時でも使えるわけでもない。そうなった場合どうにもなら無い可能性があるのだ。

東雲七生 > 「それもそっか。」

マルトクって何だろう、と疑問が浮かんだが流石に訊ねるのは憚られた。
笑顔の裏にそっと仕舞い込みながら激しい動きで乱れた髪と衣服を整える。
ひょこん、と夏よりもだいぶ長くなったおさげ髪を揺らし、大きく伸びをして。

「ありがと、それじゃあそろそろ俺は帰るね。
 えっと、三谷の方こそ痣とかになったり骨とかに届いてたらすぐ病院行ってね?」

生憎と七生には他者の怪我を癒す力は無い。
それがどうしようもなく悔やまれる事も無かったわけではないが、無いものはどうしようもないのだ。

「ううん、こっちこそありがとう。
 じゃあまた、今後も鍛錬頑張って!」

にぱっ、と笑顔で軽く手を振って。
割かし確りとした足取りで部屋を後にするのだった。

ご案内:「訓練施設」から東雲七生さんが去りました。
三谷 彰 > 「安心しとけこのくらい慣れっこだ。ま何かあったらそうさせてもらうさ」

 そういって笑いながら手を振る。そもそも治療はいましたのでもう大丈夫のはずだ
 
「ああ、お前は帰り気をつけ……って心配する必要ねぇか。じゃあな」

 一瞬何時もの癖で言いそうになるがアレだけ強ければ大丈夫だろう。
 彼を見送った後さてとと呟き棒を構える。さっきまでとは違い棒には電撃が纏われるだろう。
 今からするのは彼が来た目的である散の練習。何度も自分の身を火炎や電流で焼いたりする事になるがもっと安定させなければならない。

「じゃ、始めるか」

 その日何度かこの部屋からは爆発音が響いたと言う。

ご案内:「訓練施設」から三谷 彰さんが去りました。