2018/03/21 のログ
ご案内:「遺跡群」にモルガーナさんが現れました。
■モルガーナ > ゆっくりと瞳をあける。
その視界は白に覆われていた。
幼龍であった頃から
何かあるときはいつも、雪が降っていたような気がする。
哀しい時も、嬉しい時も、不安な時も。
そんな事を想いながら身じろぎすると体の上に積もった雪が
僅かな音を立てながら零れ落ちていく。
殆ど溶けていないその雪を見て僅かながら苦笑を浮かべた。
「……習慣というのは恐ろしい物じゃな」
その姿に似つかわしくない濁った声が喉元から漏れる。
昏睡するように意識を落としても
周囲から感知されないよう気配を、呼気を、そして痕跡自体を
最低限まで押さえる習慣は変わらないらしい。
「……んむ」
ゆっくりと上体を起こす。
見渡す景色は先刻と変わらず暗いままだが
初めて認識した時よりは生気が戻っているようだ。
改めて自身の体に視線を落とすと大きなもの以外は落ち着きつつあり
先刻よりは体も軽く、幾分かは歩けそうな位には回復している。
幸か不幸か封印術式の影響か、意識も大分はっきりしている。
幾ら気配を絶ったとはいえ、一つ所に留まるのはそろそろ潮時という事もあり
それらの全てがそろそろ移動した方が良いという結論に結びついた。
「……ふふ、小さいが楽しき一歩じゃのう」
そっと素足を地面に降ろす。
戦闘や魔術の影響で戦装束はほぼ消し飛んでいる。
転移魔法や精製魔法を試みる事も選択肢の一つだが……
(適切な対処とは言えぬの)
まず世界からして魔術が発動するかもわからない。
仮に発動しても正確に発動するかという点も判らない。
今の状態では不慮の事故に対して万全とは言えないのだから
被害状況を予知しきれない現状では不用意な発動は避けるべきだ。
加えて成功しても生成物がこの世界にそぐう物質であるかもまだわからない。
当たり前のように纏っている服が仮に敵対者を示す色であれば
その後の会話は非常に厄介なものになる。
――結論
もう少しこの世界について知る必要がある。
その為には極力力の行使は最低限に抑えるべきだ。
加えて情報源となるものを何かしら仕入れる必要がある。
町などがあれば手っ取り早いのだが……
「妾に相応しい装いとは言えぬが……まぁ仕方があるまい」
暫くの間の辛抱と言い聞かせ、ゆっくりと立ちあがるも
少々口元が心許なく思い、無意識に口元を抑えてしまう。
心が現れる唇を人目に晒すなど、実に恥ずかしい。
■モルガーナ >
(兎にも角にも頭装を整えねばならんの)
此方の世界に何がいるかはわからないが
周囲にある遺跡痕から何らかの知的生命体が
この地方に存在した事だけは判断できる。
……であれば、やはり旅先ではその地方の布や服等を物色したい。
身に纏うものがない今は特に、だ。
「しかしどこまで行っても岩ばかりじゃのう」
飛ぶことも考えたが狙い撃ちされないとも限らない。
それに何よりも気分が向かない。
■モルガーナ >
(どうせならもっと見目の良い場所に飛ばせば良いものを……
これだから趣味の悪い古蜥蜴共は)
向こうは殺すつもりで飛ばしているのだから若干ズレた感想かもしれないが
飛ばされる身としては綺麗に越した事は無い。
最も樹海などに飛ばされるとその分危険因子も増える為
結果として文句は零れただろう。
「海辺ならこの格好でも説明が付くのじゃが」
自身の体を再び見下ろす。
身に纏う布が無い事のなんと心細い事か。
しかもあの戦装束は中々のお気に入りだったというのに。
■モルガーナ > 腕の良い織師が居たらもう一度特注で作ろうそうしようと
心に誓いながら立ち止まる。そういえば一つ忘れていたことがあった。
(翼位は仕舞っても構わまいて)
龍がどのような立ち位置にいる世界かわからない以上
自身の正体を悟られる材料は少ない方が良い。
白竜と言えど要はアルビノなのだから
もしも龍が圧倒的弱者である世界なら
捕まって売り払われても文句は言えないだろう。
「それはそれで愉快じゃな……」
何処かの好事家に買われるというのも一興かもしれない。
欲を言えば一日二食の瞑想時間付きならなお良し。
ざっくばらんに言えば食っちゃね生活である。
ご案内:「遺跡群」にイチゴウさんが現れました。
■モルガーナ > 「……ふぅ」
そんな事を考えながら歩いても一向に平地が止まない。
山の一つでもあれば方角を定められるのだが……
(見知った気配はするもののそれが同じものとは限らんでの)
ひとまず目的地を目視する事が重要。
栄養に関しては元々そんなに食べる方でもなし。
とはいえ、苛立ちを何か食べる事で解消したい気分もあり。
■イチゴウ > 「目標地点に到達。」
無機質な合成音声でそう一言。
街から離れてからの約1時間と30分の長い行軍を終えて
機械がたどり着いたのは眩しい程の雪に囲まれた
岩があちこちに点在している転移荒野の一角。
どうやら先日この地点で
強力な超自然エネルギーの発生があったらしい。
碌な情報も無い上に偵察も行われていない状況で
風紀委員を出すなどどうかとは思うが
そもそも今、この土地を歩いているのはロボットであり
危険地帯に真っ先に行くのは機械の役目だ。
「生命反応を検知。」
人外にも匹敵、下手をすればそれを超え得る
探知能力を発揮する量子レーダーが
岩を挟んだ生命体を確実に捉えていた。
四つの足を持つ合金の塊は雪を鋭く踏みしめながら
岩を回り込んでその存在の前に姿を現わそうとする。
■モルガーナ > 「……?」
何やら甲冑を着た者が歩くような音が聞こえてくる。
とりあえず動くものに出会えるならばそれは情報の塊だ。
しかし……
(……骨や肉が動く音がない。妖の類か?)
軋む音やこすれる音、金属が岩を噛む音はするものの
生き物として必ず発生する振動や波長、呼吸音を感じない。
使役物として派遣された式であれば、この辺りの調査に来るのは遅すぎるくらいだが……
「……なんじゃこれわ」
現れたそれに目を丸くする。
今まで見た形の式とも違う、少し丸っこい形の何かが
ガシャガシャと音を立ててこちらへ近づいてくる。
とりあえず刺激しないよう急激な動きは見せず
けれど興味をそそられていると目に見えるような表情でそれをじっと見つめた。
■イチゴウ > 駆動部が奏でる金属音と前足の鋏が地面を啄み
進んでいけばようやくその反応の正体が
ロボットの視界に入ってくる。
破損したような衣類に白い肌、そして美しい銀髪と紅眼、
何より気を引くのは種族を表すであろう角。
彼女のすぐ近くまで来れば
顔の視線を上げていき彼女の下から上へと
じっくりと見つめていく。
顔まで視線がたどり着けば視線が交差し
一瞬の沈黙が訪れるだろう。
「やあ、初めまして。ボクの名前はイチゴウ。
キミは何者だ?」
頭が少し傾くと不意にその機械から放たれる挨拶。
生物からは絶対に発されないであろうノイズが混じる声、
男性のものであろうと判別が出来るくらいか。
因みに先程の沈黙の間は
少女の容姿と既存のデータベースを高速で照会していた。
勿論、どの情報とも一致しない。
となると場所から考えて所謂「転移者」である可能性が高い。
■モルガーナ >
「うぉ!?シャベッタ!?」
まず言葉が通じるよりそちらに驚きびくっと肩を震わせる。
何だかよくわからない眼前のモノはどうやらコミュニケーションを行う事が出来るらしい。
「何じゃ……なんじゃこれは……」
しゃがれた……喉を焼かれたような声に幾分か親近感を覚えるも
抑揚の少なさからどれ位の判断能力があるのか少し判断に迷う。
「ふむ、イチゴー?というのじゃな。
妾が何者か?んむ、其れは良い質問じゃが
まず妾の言語は通じておると判断してよいかの?」
投げかけられた質問に小さく頷くと
いきなり質問に質問で返した。
背筋をぞわぞわと這い上るような感覚……好奇心に既に目が爛々と輝き始めている。
本当に此方を見つめているように見えるこれは一体何なのだろう。
■イチゴウ > 彼女は意外な驚き様を見せた後に
まるで声を濁らせるようにして眼前に見える
多脚ロボットの存在に頭を悩ませているようだ。
これは無理もない話だろう、
いきなり見たこともない謎の存在が佇んでいるのだから。
ただ機械はそんな彼女を相変わらず不思議そうに
二つのつぶらなカメラがじっと見つめていた。
一応警戒しているが攻撃の意思及び兆候が
感じられない事から武装の展開まではしていない様子。
「キミとボクとの間にコミュケーションは成立している。
言語は通じていると判断して問題は無い。
その質問から逆算するとキミは別の世界からやって来た者だろうか?」
質問の質問をさらに質問で返していくスタイル。
此方側にとって異世界からの転移者からというのは
認知済みでそれほど珍しいものでもないものの
転移してくる側にとって
あなたが居るのは異世界ですと
いきなり言われれば普通混乱するだろう。
ご案内:「遺跡群」に黒峰龍司さんが現れました。
■モルガーナ >
「ふむ、ふむふむふむ」
どうやら言語は通じているようだ。
一人何度か頷く。それならある程度は何とかなりそうだ。
とは言え耳に届く言語は聞き覚えがない。
聞き覚えがないにもかかわらず”理解”出来るところから見ると
一定以上の魔術が利用される世界であるといえる。
「……ではこれでも通じるかの?」
響く音が掠れた声から若干細いものの外見相応の若い声へと変わる。
口はほとんど動いていない事からそれが魔術を利用したものである程度は伝わるかもしれない。
「うむ、妾は数刻前にこの場所に来たばかりじゃ。
周辺の景色から察するに妾の知る場所ではないようだが……
お主はこの辺りについて何か説明できるかの?
特に織師について詳しく聞きたいのじゃが。」
特に異世界にきた件については驚くでもなく
もっと別の問題があると言わんばかりの表情で
服を売っている者はいないかと尋ねる。
近くの町がどの程度の発展をしているかはわからないが
眼前の式のようなものを見る限りこれはかなり期待できそうだ。
ご案内:「遺跡群」に黒峰龍司さんが現れました。
■イチゴウ > どうやら喋っている言語自体はお互い似ても似つかないもの。
しかしこのロボットに魔術式を機械言語に翻訳する機構が
備わっているおかげで不自由なくコミュケーションが
成立しているようであった。
「魔力を検知、術式を検証中。
やはりキミは異世界人である可能性が高いようだ。」
魔術というものは不思議な事に
その世界毎で構成が微妙に異なっていると言われる。
だからこそ科学的に分析してやれば
ある程度の事は判明するのだ。
「ここは転移荒野と言われる場所であり
様々な要因によって
キミのような転移者及び転移物が良く漂流する所だ。」
彼女の顔を見つめながら取りあえず細かい事を抜きに
この場所の説明だけをしていく。
そうしていたかと思えば
いきなりロボットは反転して彼女の進んでいた方とは
逆の方へ向けて歩き出すだろう。
ある意味でフリーダムな挙動であるが。
「つまりキミは街へ行きたいように見受けられる。
街へ行くにはこの方角へ向けて歩く必要がある。
因みに進路を変えない場合、海に出る。」
こっちへ行こうと前右足を上げて少し振りながら
彼女に合図を送るだろう。
ご案内:「遺跡群」に黒峰龍司さんが現れました。
■黒峰龍司 > 丁度、イチゴウが彼女へと方向を示した瞬間、その前方辺りに直径2メートル程度の真っ黒な”穴”が現れる。
魔力検知が出来る者なら、それが空間と空間を繋ぐ門に似た転移術だと分かるだろうか。
そこからヒョイッと無造作に現れたのは一人の黒ずくめの男だ。周囲をザッと確認してから一人と一体へと顔を向けて。
「…昨日の気配の残滓を辿って来てみれば…何か妙な組み合わせに出くわしたもんだな。…よぅ、イチゴウ」
まずは、見知った相手である四脚ロボットに軽く挨拶をしつつ地面へと着地。
それから、まじまじとボロボロ…は、いいがほぼ裸体状態の少女を眺め。
「……つぅか、オマエ取りあえず服を着たほうがいいと思うぞ。衣服が無いなら即席で何か”作る”がよ…。」
開口一番、挨拶とか自己紹介の前にまずそう口にした。何となく場面からしてイチゴウが彼女に説明とかし終えてる気がする。
そうなると、まず現時点での彼女の見た目を少しはマシにしないといかんだろう。
流石に彼も衣服をこの場で用意、というのは厳しいだろうし。その程度の配慮は一応男も出来るのだ。
■モルガーナ >
「ふむ、町はそちらにあるのじゃな。
良い良い。案内するが良い。」
話が早いと満足げにうなずくとそちらに足を踏み出し……
ふと足を止めると同時に空に円が現れる。
そこから現れる姿にその瞳が一瞬細くなるが
続く言葉に呆れたような表情を見せ
「愚か者。乙女を眺めて開口一番それとは礼儀を知らんのか。
それにそれを言うならまずは体調を伺うのが道理というものじゃ」
腕組みしつつ特に恥ずかしがるでもなく堂々と言い切った。
そもそも此方の常識が分からない以上、どうしようもないのだからと
開き直っているとも言える。
■イチゴウ > 「時空間異常及び高レベル魔術式を検知。」
まるで空間自体にぽっかり空いたような真っ黒い穴。非常に高い魔力を内包したその転移術を
繰り出せる者は限られる、つまり高い戦闘能力を持つという事だ。
それを見たロボットは高速でスライドし
彼女の前へ出るとその背中で歪むような眩い発光が起こると
突如背部にシャーシとは不釣り合いな大きさの砲台が出現し背負っている形になる。
それは複数の砲身が束ねられたこっちの世界で
ガトリング砲といわれる兵器。
その異様な威圧感と一瞬変わったロボットの雰囲気から
この丸い変わった機械が戦闘用のマシンであると悟ることができるだろう。
しかしそれも長くは続いた訳ではなく
「...黒龍か、こんな所で出会うとは奇遇と言える。
前回の時計塔でお世話になった事は感謝している。」
その転移術によって現れたのは意外な顔見知り。
決戦兵装の試射を共に見たり歯車から助けてくれたり
少女型の生体兵器と共に談笑したりと割と付き合いのある人物だ。
ある意味、彼という事ならばこのレベルの魔術にも納得がいく。
そうやって警戒は解けたが背中の物々しい兵装は何故かそのままである。
ロボットは彼との再会を良いものと感じているが
ただ初対面となる彼女の方はそうではないようで・・・
その原因を彼と彼女の少ないやり取りから分析してみる。
「黒龍、彼女の言う通りだ。
女性というものは少々難しいらしい。」
つい最近、学習したことを元に
彼女の後を追ってそう告げる。
ご案内:「遺跡群」に黒峰龍司さんが現れました。
■黒峰龍司 > 「…おぅ、いきなり現れた俺にも問題あるが取りあえず落ち着けやイチゴウ。
オマエと俺がやりあったらこの一帯が消し飛ぶぞ。つーか、別に戦闘目的とかじゃねぇからな?」
と、苦笑気味に反射的な武装展開をするイチゴウを眺めてそう口にする。
これがあながち冗談ではないのがタチが悪いのだが、それはそれとして転移者の女に視線を戻し。
「だったら今の体調はどんなモンだよ?怪我とかしてんなら大抵のは治せるが。
それと、いい加減こっちで服は適当に選ぶぞ、こっちの環境に慣れたらあとは自分で適当に服を買っとけよ。」
彼女の真珠色の鱗に覆われた手足を一瞥して、内心で「やっぱ同類か」…と、呟く。
世界は別だろうが、龍なのは間違いない。まぁ、それはそれとしてスタイルが良いだけに堂々とした態度も相俟って、これはまたどうしたものか。。
「…あーまぁ、女心は男心より複雑とか言うみたいだしな。そんなもんなんだろ。
で、イチゴウ。風紀委員会所属としてはこういう転移者の対応はどうすんだ?」
と、彼に何となく質問。自分が転移してきた時は誰にも見つかる事が無かった為だ。
こういう場合の、転移者に対する対応というのはどんなものか少しは興味がある。
「さて…と。怪我もだが取りあえずやっぱ服は着とけ。裸体も悪くないが、イイ女は服を着てこそだ。」
そんな会話をしつつ、指をパチンと一度鳴らす。すると彼女の裸体を薄い魔力光が包み込む――当然だが何か害のある魔力ではない。
そのまま光が収まれば、和装…いわゆる「振袖」姿になっているかもしれない。
色は赤と白を基調としたもので、普通の振袖と違い所々に目立たない切れ込みがあって動きやすいものだ。
■モルガーナ >
「ふぅむ、これは良い精度じゃの……」
おそらく火筒に類するものだと見受けられるが
眼前のそれの背中に転移したと思われる武器を興味深げに撫でまわす。
なかなかどうして、これは戦闘向きに作られたものらしい。
この手の類に関しては自身の世界よりかなり進んでいるものと推察できる。
使ってみたい欲求にかられるが
二人の会話を聞く限り……そう乱発する者でもないらしい。残念。
「うむ、乙女と接する時はもう少し気を配るが良いぞ。
特に身分が高い相手にはの。
ちなみに体調だがすこぶる悪い。
聴力はほぼ機能しておらんし、腕も感覚が戻らん。
何より封印が中途半端に機能しているせいですこぶる気持ちが悪い。
じゃが治療はいらぬ。妾は自分の体は自分で管理する事にしておるでな」
聞く側が本当かと思うほどの気軽さでポンポンと並べていく。
実際満身創痍ではあるものの、それをいちいち深刻に述べる趣味もない。
とりあえず保護か回収かは知らないが、まぁ身柄を受け持つ団体があるなら
回復を待つ暫くは其処に身を寄せるのも悪くないだろう。
「む……悪くない。
お主、見た目以上にセンスはあるようじゃの」
何処か着慣れた形の服に満足げに目を細める。
生地も……まぁ悪くない。
袂で口元を隠すが口角が吊り上がる様が見えるかもしれない。
■イチゴウ > 「それに関しては同意する、黒龍。
しかしこの場所は大型魔物が多数現れる危険地帯であり
今、この瞬間に遭遇しても不思議ではない。」
そう喋りながら背部の砲塔を約60度、上に向けて
一応の武装解除を行う。
確かに一体と一人の化け物がそれぞれぶつかり合えば
辺りはトンデモない事になるだろう。
しかもその責任はロボット、さらには風紀委員会が被ることになる。
黒龍の同伴もあり大抵の存在は脅威にならないと思うが
こちらは転移者の護衛と言う任務なので
完全に武装を閉じる事は無いだろう。
因みに彼女が砲塔を撫でてることには
驚異的なレベルで全く気付いていない。
「ここからが重要な話だがキミはこのままでは
不法入島者として処罰される。
よって風紀委員会本部へ行き登録する事を推奨する。」
合理的かつ美しい衣類を羽織った彼女を
見上げつつ黒龍の疑問にも答える形で形式ばったそんな台詞を。
委員会棟で証明書を発行してもらえれば
この島での市民権を得ることが出来る、
そうすれば生活は必ず保障される事だろう。
因みに黒龍は非正規の方法で入手しているらしいが
ロボットはそれに気づいてはいないらしい。
「そういえば、キミは龍人として分類できるようだが
実際はどうなんだ?」
一行で歩きながら彼女に対してそう質問する。
衣類が破損していた状況で身体の至る所を見ていたために
その特徴からこんな仮説を立てている。
黒龍と同じように直観で感じるという訳にはいかない。
■黒峰龍司 > 「オマエのセンサーと俺の感知能力なら対処できるだろ。少なくともそこの…あー名前をそういえば聞いてなかったな。
俺は黒峰龍司…まぁ、覚えるのとか発音面倒なら「黒龍」って呼んでくれりゃいい。
世界は違うが俺も転移者の一人だ。…こっちでは異邦人とかそう呼ばれてるな」
そこの怪我人をカバー出来る程度には、と続けようとしてお互い名乗っていない事に思い至る。
あと、砲塔触られてるけどいいのか?と、思いつつ安全装置とかはまぁしっかりしてるだろ、という事で口出しはしなかった。
そして、イチゴウが転移者の女に説明する様子を聞きつつ、内心でこう思う。
(…俺はめっちゃ不正滞在してるようなもんだけどな…)
まぁ、それはそれとして。風紀委員会に保護されるのも一つの手だろう。
少なくとも衣食住は最低限世話にはなれるだろうし。あの学園の生徒になるかどうかは彼女次第だろうが。
「大丈夫じゃねぇだろそれ。まぁオマエがそう決めてる事なら俺は余計な事はしねぇさ。
あと、気を配るのは俺なりに善処するが…敬語とか堅苦しいのは勘弁してくれよ”女帝”さん…もしくは”女王”さんか。
生来苦手なんだよ、変にかしこまった口調や態度は…息苦しくてな」
転移者の女の忠告にそう答えて肩を竦める。何故女帝や女王と評したのか?…理由は簡単だ。
自分も”皇帝”或いは”王様”だったからだ。世界も性格も違えど、王者の風格は互いに完全には消せないだろう。
「この島がある国の民族衣装みたいなモンだけどな。素材は少し妥協したが、オマエにはそういうの似合いそうだし」
実際似合うと思ったからチョイスしたのだ。赤と白は彼女の髪や瞳の色に合わせたもの。
■モルガーナ >
「良い鍛冶がこの世界にはおるのだな。
波の腕では中々こうまで精密に作れるものではない。
やはり知恵あるものとはこう在らねばな。」
何処かしらうっとりした表情でそれを撫でている様は少し危ない人。
彼女からすればここまで精緻な造形品は武器と言えど
芸術品の類に見えるのだから仕方がない。
「この着物に免じて不敬は不問としてやろうぞ。
これは中々着心地が良い。
生地も触りが良いでの。気に入った。」
不遜とも言える態度で言い放ちつつ
少女のような表情を見せる。
本来ならば何処か相いれない表情も
長らく浮かべ続ければ慣れたもの。
「不本意とは言え不法滞在には違いないが……
この世界では異邦人は珍しくないようじゃしな。
一つ身の振り方にでも考えを巡らせてみようかの。
む?うむ、妾は龍に連なるもので間違いはない。」
風紀というならば治安を維持する者達であろう。
そうであれば良い誂えの武器なども所持している物が居るかもしれない。
それはなかなか魅力的だが今はそれ以上に……
「ふむ、二人なら対処できるのだな?」
何気ない会話を目ざとく聞きつけ
にやりと悪い笑みが浮かんだのを見ると
悪い予感しかしないかもしれない。
基本的に好奇心を優先して生きているため、その目は爛々と輝いている。
「良い、では案内ついでにその魔物とやらの対処が見たい。
幸いにも道中のようじゃ。案内いたせ」
有無を言わせぬ口調でそちらへと歩き始め
振り向くと袂で口元を隠しながら微笑む。
「もちろん、熟練の古兵たるお主らなら
か弱き美姫たる妾に指一本触れさせはせまいて?」
返事はYesもしくはハイしか受け付けておらんと言いながら
再びそちらへと歩き出した。
■イチゴウ > 彼女が満足げに喋った所で
ようやく撫でられている事に気づいたらしい。
「このような兵器は一日に大量生産されている。
もはや人の手によっては作られていない、
ボクのような機械というものが作っている。
その機械こそ人間が生み出したものだ。」
このロボットもまた人間達が怪物に対抗するために
作り上げた人工的な鉄の怪物。
力無い者が力あるモノに足掻こうと知識を振り絞ったその結晶だ。
果たして彼女の居た世界では人間というものは
一体どのような地位でどのような存在だったのだろうか。
「やはりキミも龍なのか、
なるほどお似合いという訳だ。」
彼女と黒龍、それぞれを交互に見上げた上で
不意に呟かれた一言。
特に深い意味は無いだろう。
その後、少し意地悪な少女らしい笑みを浮かべながら
軽い足取りで弾む彼女を前にロボットは少し早歩きになる。
「待ってほしい、先行するのは危険だ。」
シャカシャカといつもより早く四つの足を
動かしながら彼女の真横へと並走する。
護衛対象なのだからもう少しおしとやかにしてほしいと
無機質なカメラが視線で訴えかけるだろうか。
その奥で不気味な魔物の影がいくつか蠢いているのもまた事実で。
■黒峰龍司 > (コイツ、この世界のおそらく最先端の兵器の一つだろうに、変な所で鈍いというか)
漸くというか、彼女が満足げに口にした事で彼も砲塔を撫でられている事に気がついた様子。
まぁ、それはそれで悪くない。徹頭徹尾、面白みの無い機械より遥かにマシだ。
「俺の世界も、この世界とは少し違うが人間が作った機械、というのはあったな。
ま、”人の知恵と挑戦が生み出した武器”なのは間違いないだろうな」
人は足掻く者だと昔誰かが言っていた気がする。あながち間違いでもないだろう。
人は、自分では到底かなわない怪物にも、その知恵で切り抜けてきたのだから。
「…いや、確かに俺も龍だがこっちの世界じゃ色々と制限もあるしなぁ」
そもそも、本来の力の約7割が失われている。残り3割でも十分に化物ではあるが。
今は手負いの彼女も、男の観察眼からすれば強大な力は持つが矢張り何か制限があるように感じられて。
あと、イチゴウの言うお似合いがどういう意味かサッパリ分からない。同じ龍種という事からだろうか?
「そりゃありがとよ。気に入ってくれたんなら、少しは長く着てくれよな。普段着の一つくらいにゃしてほしいもんだ」
ずっと着ていろとか言い張るつもりはサラサラ無いが、簡単なようで地味に工夫はした振袖だ。
所々、目立たぬ切れ込みで動き易くしているし、こっそり疲労軽減などの術式を織り込んでいる。
勿論、彼女の怪我の治療はしない。しないがこういう間接的な補助はするな、とは別に言われてないから問題ない。
「…か弱い姫さんねぇ。…つか、護衛はいいがいい加減、名前くらいは教えてくれよな。
一応、この世界で初めて見知ったよしみ、って事でよ。」
そうして、イチゴウとは違って落ち着いた足取りで彼女のもう片方の隣に並んで。
「…さて、連中の気配がウジャウジャと。幾つかレベルが高いのが混じってるな…やれやれだぜ」
面倒臭そうにボヤきつつ、懐から煙草を取り出して一本咥える。火は点けていないが…。
しかし、龍の女帝に護衛役が機械戦車と黒い龍。ぶっちゃけ規格外なメンツばかりである。
そうして、二人と一体で歩き出しつつ男は左腕の黒い義手をギチギチと変化させる。イチゴウのそれとは違うが、それも砲塔に近いもの。
「試し撃ちには丁度いいか。イチゴウ、右翼は任せる。左翼は俺がやる」
そうして、義手を魔術で変化させた砲口を魔物の群れに向けつつ小さく笑う。不敵な笑みは龍の王様のようだった。
さぁ、手負いの白龍姫がお通りだ。黒い龍王と勇敢なる戦車(ドレッドノート)が道を切り開こう。
■モルガーナ >
「なんと、この世界ではこのようなものが大量生産されておるのか。
それ程人が増えたというのか……」
淀みなく歩を進めながら返された答えを反芻する。
このようなものを大量生産するとはつまり、
それだけの量必要とする人が居るという事だ。
この規模での運用となれば手合わせというよりも
大規模な戦となるだろう。
「ヒトというものはどの世界も変わらぬものなのだな」
何処までも脆く、儚く、どうしようもなく救われないが
同時に目を見張るほど多様性に溢れている。
それが時に酷く愛おしい。
「何?男児に二言はあるまい。
それに対処できない相手なら
手を出さなければよいだけの話じゃ」
勿論そんな相手だっただろうとしても容赦なく行けと言ったのは間違いないが。
やはり戦闘能力の水準というものは例があればあるほど良い。
歩きながら体を返し、後ろ向きに歩きながら機嫌よさげな表情を浮かべ、
くるりくるりと器用に回る。
「うむ、よう似合っておるじゃろう?
そうじゃろうそうじゃろう。
これが汚れぬよう気を使うが良い。
妾とて良い生地を汚したくはない。」
お似合いとの言葉に頷きつつ若干ズレた返事を返す。
種族や性別の違いで相手を侮る習慣は彼女にはあまりない。
強いて言うなら上か下か対等かの3択しかないとも言える。
同時に相手がそのいずれでも彼女にとっては面白い。
くるりとかかとで回り、前へと向き直った。
眼下にはいく匹かの生物。
それらは此方を察知したようで剣呑な声を響かせながら此方をねめつけていた。
「さぁ、宴の時間じゃ。
存分に踊るが良い」
■イチゴウ > 「了解、制圧モードへ移行。」
後ろに控える大将の一声と共に
前両足を地面に刺すかの如く構えて
四足の駆動部からはモーターが唸りをあげだす。
ロボットは事実上の戦闘モードに入り
攻撃力、防御力共に飛躍的に上昇する、
言い方を変えればこちらが破壊兵器としての本来の姿だ。
「敵弾接近。」
姫を狙う魔物達から高エネルギーの魔弾が飛んでくる。
ロボットは魔法や異能などでシールドを張るという事が出来ない。
だがこのボディそのものがシールドなのだ。
特殊合金に張り巡らされた電磁装甲によって
射られた魔法エネルギーは多脚戦車に命中すると同時に
激しく分散してあらぬ方向へ飛散する。
「目標ロック。」
今度はこちらの攻勢だ。
先程、姫が撫でていたバルカン砲、
突如その一つ一つの砲身が
視認出来なくなるほどまで高速回転を始めると
次の瞬間、そこいらの獣の咆哮とは比べ物にならない
引き裂くような唸り音を辺りに響かせ
20mm口径の砲弾がまるでレーザービームの如く
魔物達の群れへ薙ぎ払うように射撃される。
彼らもまた防御を展開するが装甲車すら穴あきチーズにする
この砲弾の雨を防ぎきるには力不足のようだ。
すぐさま舞い上がった地煙に飲まれて
魔物の達の原型が奪われた事が確認できるだろう。
此方側は処理できた、さて黒龍はどのような力を持って
姫に道を作るのだろうか。
■黒峰龍司 > 「さて、少し鬱憤も溜まってるし発散しますかね」
姫の護衛が第一として、だがそれを遵守するならある程度好きにしていい、という事だ。
無造作に左翼の魔物の群れに左腕の義手が変化した黒い砲口を向ける。
「1番から10番多重展開。3割出力で殲滅最優先。」
詠唱のように呟けば、砲口から黒い幾何学的な魔方陣のようなものが浮かび上がる。それらが計10個。どの魔方陣もゆっくりと回転しており。
「――――んじゃ、纏めて死んでろ」
次の瞬間、10の魔方陣から放たれた黒いビームのような閃光。それは魔物の攻撃すら飲み込んで殲滅していく。
彼と違い、攻撃そのもので防御も成すという攻撃は最大の防御、を地で行く殲滅特化の多重展開術式砲撃。
無論、これは砲撃モードみたいなもので、殲滅を終えれば技手を元の形へと戻し。
「――さて。」
先ほどの転移術式を展開し、そこに右腕を突っ込む。取り出したのは黒い龍の装飾がされた長大な斧槍(ハルバード)。
滅多に使わないが、偶には使ってやらないと勘が鈍ってしょうがない。
軽くそれを一振りしてから、無造作に――モルガーナの背後へと一閃する。
すると、そこに転移しいて現れて不意を突こうとしていた魔物…おそらく中々のレベルだろう…が、両断された。
勿論、彼女には魔物の攻撃どころかその返り血一滴すら浴びせていない。
「イチゴウ、今みたいなのが混じってるだろうから、転移も警戒しといた方が良いぜ。あと、そっち方面に対処できる装備があれば”換装”もしといた方がいい」
それと、お姫様をちょいと軽く手招き。彼女が来ればその胸元に軽くトンッと触れる。別にセクハラではない。
「……ま、こんなもんか」
そして手を放す。世界が違えど、龍は龍に繋がる。少しだけ彼女の龍の魔力とリンクさせて貰った。
勿論、別に彼女の怪我が悪化したりとかそういうデメリットは無い。この方が守るのに都合がいいのだ。
■モルガーナ > 「うむうむ、たまにはほど良く実力を発揮せねばの。」
殲滅されていく生き物たちを見ながら
何でも無い事のように呟き小首を傾げる。
数秒前まで頭のあった場所を爪が通り抜けていくが顔色一つ変えず
そちらを見もしない。
「……時間にして凡そ数十秒という所じゃな
見事じゃな。この世界ではこうも戦えるのか」
両断され、撃ち抜かれ
動かなくなった体を見てのんびりと声を上げる。
「物騒な世の中じゃな。ほんに」
同時に数体、集団で移転してくるものと
銃撃に耐える大型種の気配を確認。
中には味方の死体を楯に使っている者もいる。
「壁役兼囮役に火力役か、なるほどのぅ
しかもしっかりと妾を狙ってくるとは……良い判断じゃの」
敵も敵である程度連携を取ってくるらしい。
形成されたリンクにも特に反応は見せず、けれど口元に笑みを湛えて。
■イチゴウ > 「了解した、助言感謝する。」
黒龍の言った通り巧みに転移術を使って
こちらとの距離を詰めてくるヤツがいる。
極近距離戦闘はバルカン砲では少々取り回しが悪い。
そう判断した機械の前両足から不穏な金属音と共に
一定の刃を持った電子鋸が半円だけ覗かせる。
間もなくそれは聞くだけで耳が痛くなる音を発しだし
前左足を軸にしてボディ全体を超信地回転。
転移してきた数体を前右足の回転斬りによって
その硬い魔甲をそのまま切り潰してしまう。
そして近づいてくる魔物の中で一番大きい大型種、
恐らくこの荒野でもトップクラスに危ない奴だろう。
しかしこちらは無尽蔵に転移してくる方に対応を追われ
肝心のバルカン砲を使用している余裕はない。
「大型種を検知、ザッパー起動。」
回転砲身は大型種の方には向いていない。
カッターもまたそれを斬ったわけではない。
しかしその大きい化け物は一瞬にして硬い表皮が吹き飛び
その動きを急激に鈍らせる。
原因はロボットの装甲から照射された
とんでもない出力の電撃であり
空気の中に眩い光が一閃する。
高い防御力をそのまま攻撃力に変換したのだ。
ボディから直接放たれるために
射角を気にする必要が無いがその強力さゆえに
連続使用は出来ない。
「黒龍、申し訳ないが機関砲は使える状況ではない。
大型種はキミが排除してほしい。」
地面から空間から転移してくる有象無象共を
けたたましいダイヤモンドホールで粉々にしつつ
黒龍にそう一言。
自身の保全のために加減した電撃とはいえ
もはや大型種はその脅威の半分を失ったただろう。
一思いにやってやれということだ。
■黒峰龍司 > 「…つーか、俺が出張らなくても案外イチゴウだけで何とかなるんじゃねーかなぁ、こりゃ。
あと、そこのお姫さんよ。護衛対象がそもそもいない場合はもっと早く終わってるって事を忘れんな。」
引き続き、転移してくる魔物のやそれに合わせた動きをとってくる魔物の動きを一瞥しつつボヤくように。
そもそも、誰かを守りながら戦う、というのはどうにも苦手なのだ。
それでいて、イチゴウにも即席の警告をしつつ何となく連携になっているのだから、器用と言えば器用。
モルガーナが気にしていないのをイイ事に、龍のリンクを生かしてそれを自分の中で一時的に増幅する。
己の世界にある感応式の魔術を改良したもので、同種でなければ使えないが用途は幅広い。
今回の場合、リンクで僅かに借り受けた白龍の魔力に己の黒龍の魔力を混合、それを薄く周囲にレーダー探知のように放射する。
これは、この場に居るモルガーナやイチゴウ、魔物に何の効果も無い。
その代わり、転移荒野の隅々まで行き渡るレベルの超広範囲、そして超高精度の探知が可能となる。
転移荒野で頻発する時空の歪みなどもきっちり把握しつつ、こちらに敵意を向けて襲ってくる魔物の残りを確認。
そうしながら、斧槍を軽々と振り回して敵を薙ぎ倒していく。近接戦闘はむしろ慣れている故にその動きは暴風の如しだ。
これでも、まだ手加減というか本来の力を出せていないのが男には少し不満ではあるが。
チラリ、とイチゴウの方を見れば相変わらずというか。どうやら近接戦闘もきっちり対応しているらしい。
(遠距離攻撃主体なイメージが強いが、まぁそもそも近接戦闘が出来ない方がおかしいレベルだよなコイツ)
と、思いつつも大型種とイチゴウの攻防を眺める。中々に派手なカウンターだ、と思いながら。
「はいよ、折角だからリンクの幅を広げるのも試してみるかな…っと!」
斧槍をグルンと頭上で一度旋回させ、残りの魔物を薙ぎ払いながら白と黒の色彩の魔力を斧槍に纏わせる。すると、白と黒の捩れた光の刃が斧槍に発生して。
「名前は――まぁ、適当に『双刻龍』で」
と、口にしつつイチゴウが痛手を負わせた大型種に、真正面から捩れた白黒の光の刃を叩き込む。
一瞬、静寂の後に龍の力に耐え切れず派手に大型種は爆発四散する。
「…と、アフターケアはばっちりと…ってか」
飛び散ったソレの血肉や体液もお姫様に届く前に転移術の穴で吸い込んで消していく。
さて、いい加減もう”飽きた”のでそろそろ終わりにしよう。
大型種の排除が終われば、イチゴウに加勢して残りの有象無象を全て切り伏せて沈黙させようか。
「――ま、こんなもんか」
そうして、斧槍を転移術式に放り込んで軽く首をコキコキと鳴らす。久々にまともに武器を使った気がしないでもなく。
「…おーい、お姫様よ。ぼちぼち終わったからもういいだろ?さっさと街に行こうぜ」
■モルガーナ > 「おーぉ―……派手じゃの
妾としても見ごたえがあって飽きぬな」
空を走る弾丸に割く雷撃
その間を縫うかのように踊る斧槍に
空中に浮かぶかのように足を組むと見学としゃれこむ。
実際のところ此処まで此方を狙ってくるのは
そう”誘った”からだが、特にそれを隠すつもりすらなかった。
守るように繰り出されるカッターの火花や火薬の匂い
嗅ぎなれた戦場の香りにこの世界の戦争の在り方を探る。
目の前のこれはある意味それの顕現だ。
……こちらでもそこそこ楽しめそうだ。
「うむ。見事。
大勢は決したのう」
そして自身は微塵もその手を動かすつもりはなかった。
リンク自体もノーガードに見えて、肝心の部分からは全て遮断している辺り、
諜報戦にもかなり慣れている事は伝わるかもしれないがそれは手間賃の範囲。
「うむ、ご苦労。
貴重な体験じゃった。
何分か弱き身の上での。
こうして最前線の風を浴びるのもたまには悪くない物じゃな」
ぱちぱちと手を鳴らす。
この世界では賛辞の際こうやって手を合わせ音を出すらしい。
傍から見れば戦闘などよくわかっていないかのような呑気さ。
あまりの気軽さに本当に戦闘能力がないと疑われても仕方がないだろう。
実際龍の中にも戦闘能力を持たないものは少なくはない。
特に宮廷勤めともなれば火と爪と鋼の争いは鳴りを潜める。
「借りた分の応力は駄賃替わりじゃ。
いつまでも繋いでおくでないぞ?
乙女の胸中は踏み入れ難き秘密の花園じゃからな。
さて、次は町で織師じゃな。向かうとしようか。」
自分も情報を引き出している事などまるで無かったかのように
臆面なく告げながらあくまで相手から切る様に求める様は
お姫様にふさわしい自由気ままさかもしれない。
……実際はもっと上の立場だったわけだが。
■イチゴウ > 「戦闘終了、通常モードへ移行。」
辺りに敵性反応が無くなった事を確認してから
出現させた時と同じように背部の回転砲塔を
発光と共に今度は綺麗さっぱり消失させる。
見た目だけなら転移魔術だが魔力反応など
微塵も感じられない。
つまり異能や魔法が関与しないただの技術なのだ。
発展し過ぎた科学は魔法と区別がつかない。
「先程の行為はVIPとして不適切だ。」
やけに楽しそうな彼女ーーモルガーナに向けて一言。
あくまで姫として、戦闘能力などないように
振る舞っていた彼女だがその本質はもっと危険なものだろう。
現に魔物を誘引していた魔力に関しては
ロボットのレーダーがきっちりと捉えていた。
無論、同じく共闘した黒龍も存外とんでもない対象だ、
だが彼はきちんとした思慮深さも持っている。
風紀委員会への攻撃と言った自身にとって得のない行為などまずしないだろう。
その意味では得体の知れないモルガーナは潜在的な脅威と言えるだろうか。
今はまだ何とも言えない。
「とにかく街へ急ごう。
また衣類よりも先に登録を済ませるべきだ。」
前右足で一度街の方角を指した後に
先頭に立って再度ナビゲートを開始する。
どうやら一定の行動を終えるまで
とことん彼女に付いていきそうな勢いである。
ご案内:「遺跡群」に黒峰龍司さんが現れました。
■黒峰龍司 > 「…めんどくせぇな。”誘発”してんのにそれを隠すでもないとか単なる愉快犯じゃねーか」
イチゴウと同じく、男も男で魔物がやたらとこちら…むしろ、モルガーナを狙っていた理由は気付いていたらしい。
と、いうより本人に隠す気が全く無いし、戯れとか悪戯の延長だろうか。
(…いんや、むしろこの世界の”戦場”と”戦闘”の観察、把握…情報収集の一環か。食えない女ってのは間違いねぇか)
ちなみに、リンクについては肝心の一定ライン以上には踏み込めない、というか遮断されているのは察していた。
そもそも、踏み込む意図は特に無かったがそれが幸いした。遮断の手際が見事過ぎて逆に力量が測れる。
勿論、彼女の呑気さに騙される事も無い。下手すれば自分と同等か一部自分以上だろう。面倒な事だ。
「か弱いのは単に怪我してるだけだろうが。あとリンクはもうとっくに切ってる。…つぅか、こっちの情報までどさくさで引き出してんじゃねぇよ」
と、溜息混じりに。こちらもこちらで情報の遮断は完璧だと言いたいが、一つだけ漏れた。
まぁ、単に本名である『ニグレイド・エンデ』という名前くらいだが。
さて、彼女は服を調達したいようだが金はどうするのだろうか?という目下の疑問がある。
「言っとくが俺やイチゴウは金は出さんぞ、そこは自分で何とかしろよな。せいぜい案内してやるくらいだからな”女帝”さんよ」
こういう釘を刺すのは忘れない。気紛れ、狡猾、それでいて自由奔放。まるでお目付け役になった気分だ。
それに、彼女が…実際はもう己と同じく違うのだろうが女帝だというのは看破している。
そもそも、男だって皇帝だったのだから、そこは同じ立場を経験したものだからこそ分かるものがあって。
「さて、さっさと行こうぜ。…つぅか面倒だから俺の転移術で戻るぞ。イチゴウ、魔術の防衛機構があるなら数秒だけシャットアウトしとけ。転移の際に邪魔になる。あとそっちの女帝は取りあえず大人しくしとけ」
と、言いつつ転移術式を軽く右腕を振って展開。ぽっかりとあいた黒い”穴”。
さて、と黒龍の皇は白龍の帝をヒョイッとお姫様抱っこしておく。
「失礼するぜ女帝さん…と。イチゴウ。行くぞ」
そう、彼に告げれば穴へと迷わず飛び込んで。彼も突いてくれば穴は閉じて…その先は、イチゴウの希望でもある登録に必要な委員会街へ繋がる。
多分、その後は登録とか服の調達とかでひと悶着あり、彼やイチゴウが振り回されるのだろう。
■モルガーナ >
「ふふん、ちょっとした戯れじゃ。
そう目くじら立てるでない
結果として主らがおれば問題がなかったわけじゃ
何ら問題あるまい」
上機嫌のまま悪戯な笑みを浮かべる。
思っていた以上に今日は収穫があった。
戦闘面でも、情報面でも。
自身を狙わせることはやはりあの場面では良い手であったと言える。
……どうやろうと守らざるを得ないのだから。
「しかしこの世界の昼夜は随分と廻りが早いな……
これでは慣れるのに時間がかかりそうじゃの。
……良い良い、分かっておる。
手続きはちゃんと正規の物を受けようぞ。
保証された自由というものも悪くない。」
どうやら規則を重んじるのは何処の世界の使いも同じらしい。
今の所規則に逆らうだけの理由もなく、無視するだけの面白味もない。
「妾の事が知りたければもう少し”正規”の手順を踏んでもらわねばな?
ああ、無心をする予定はない。安心いたせ。黒の。
最も、上納したいというのであれば吝かではないがの?」
抱き上げられるままに一向にかまう事なく門へと入ろうとして
「そうじゃ、忘れておったよ。
妾の事はモルガーナ、もしくは陛下と呼ぶが良い。
嗚呼、今宵は気分が良い故姫君でも構わんぞ?」
そんな軽口を叩きながら腕の中でくすくすと笑う。
これからこの場所で体験するであろう出来事が今農地から楽しみで仕方がないといった様子。
そうして与えられた自由と平和を甘受すべく登録を済ませた後は……
「さてさて、もう少し付き合ってもらうぞ?」
とりあえず支給された喫緊の生活費を思いっきり服と食糧で使い切る気満々の彼女に
荷物運び兼案内役としてもう少し振り回される羽目になった。
■イチゴウ > 彼女の怪しい振舞いから
街へ行ってからの行動にも警戒していたが
ひとまずはこちらの意図した行動を取ってくれる事で
機械としては動きやすい。
「とりあえずキミは賢い龍であることが分かった。」
彼女にそう一言。
それは素直に言う事を聞いたからか
それとももっと別の奥深くのものを感じたからなのか。
回路を反復するだけの電気信号は決して表には出ない。
機械はある意味究極のポーカーフェイスなのだ。
「ではモルガーナ。
登録が済むまでは勝手な行動を慎んでほしい。」
名前を聞いた後はその名を合成音声でしっかり
含みながら頼もしい龍に抱えられた姫君と共に
魔力の渦へと入って転移していくだろう。
その後自由奔放な姫に振り回されたのは言うまでも無く
ロボットに関して言えばその積載量を生かした
荷物持ちをやったとか。
■黒峰龍司 > 余談だが、イチゴウが荷物持ちをしているとすれば、黒龍は服のアドバイスとかそういう方面担当だった。
ちなみに、食料と衣類に消えたモルガーナに支給された生活費だが…。
多分、仕方なくイチゴウか黒龍が一部立て替えてたかもしれない。上納ではない!
そんなこんなで、深夜のドタバタは終わりまた朝がやってくるのだった――。
ご案内:「遺跡群」からモルガーナさんが去りました。
ご案内:「遺跡群」からイチゴウさんが去りました。
ご案内:「遺跡群」から黒峰龍司さんが去りました。