2016/05/21 のログ
ご案内:「青垣山」に伊都波 悠薇さんが現れました。
伊都波 悠薇 > さて、日はすぎるのがわりと早い。
それこそ、やることが決まっていて。充足していればなおのこと。
また、寝ていても同じこと。悠薇にとっては割と寝ていることのほうが多く。
退院日を迎えるまですぐだった。

「……ただいまー」

両親は当然ながら、迎えに来てくれて。
久々のあいさつをする。
姉はというと――……

ご案内:「青垣山」に伊都波 凛霞さんが現れました。
伊都波 凛霞 > 「よいしょっと」

傍らには"いつも通りの"姉の姿

入院の間の荷物を、まだ万全じゃないんだからと全部一人で抱えて帰路を歩いた
山道なので結構な運動量になってしまったのか、顔に汗を滲ませて

「ただいまー!
 父様ー、荷物お願い!疲れちゃった」

玄関にへた、と座り込んで手団扇ぱたぱた
母親は苦笑して、飲み物の準備をしに奥へと下がっていく

伊都波 悠薇 >  
「元気だなぁ……」

なんとも、戻ってきた感じがする。
どこか、変だった姉もいつの間にかその、変も消えていた。
大丈夫だったのなら良いと、そっと息を吐いて。

『そんなんで疲れる鍛え方してないぞー。いや、腹筋のつけすぎはよくないけどNE!!』

ふんっと、張り切ったように荷物を持ち、父は奥に消えようとして。

「あ……」

退院、初日。でも少しでも遅れを取り戻したかったから。

「お父さん。今日、お姉ちゃんとの稽古、一緒にしてもいい?」

いいよね? お姉ちゃんっと、視線を送り――

伊都波 凛霞 > 「えー?退院したばっかりでそんな、今日一日くらい久々の我が家でゆっくりしなよ」

提案と共に視線を送ってくる妹に心配そうな目でそう返す

と言ったところで、決めるのは我らが大黒柱、父である
父様もちゃんとはるかの身を案じてあげてよね、といった視線を父親に送る
無言の圧力である

伊都波 悠薇 >  
「でも、随分休んじゃったし。すぐ忘れちゃうから……」

稽古は大事だ。感覚も――
一日休めば三日分の遅れになるという言葉は結構有名な話。
だから、軽くでもいいから動かしたかった。

「無理はしないし、簡単なことだけでもいいから――」

父は、悩む様子を見せる。
どっちの気持ちもよく分かったから

伊都波 凛霞 > ふぅ、と溜息をつく
昔からこういうところは本当に頑固で、頑張り屋で

……もう、無理に追いかけなくてもいいのに。自分なりに、自分のペースで…

「……む」

ふと心に去来した、そんな言葉を振り払う
それとこれとはまた別だ
妹がやる気になっているのだから、それ自体を否定する意味はない

「一度決めると頑固なんだから、
 父様ー、もう父様が決めて。私が言っても多分聞かないもん」

伊都波 悠薇 >  
「……?」

ちょっとした違和感。
いつもなら、すぐの反応があるのに。

『しょうがないんだから、はるかは』

そんな風に、応援してくれたのに。今のは”勝手にして”といったニュアンスで――

父『見取り、までならいいよ。稽古中はそれ以外は許可しない。いいね?』

ふぅっとため息。
そして父は、今度こそ奥へ行く。

「えっと、おねえ、ちゃん?」

なんだろう。すごく、不安が、募った

伊都波 凛霞 > 人のことは言えないけど、父様もはるかに甘いなぁ、なんて思いつつ…

「ん?どうしたの、はるか」

不安そうな、妹の言葉に首を傾げる
そんな姉の表情は、いつもと変わらないはずが
どことなく迷いや、背負ったものがなくなったような、そういった軽さを感じさせる

伊都波 悠薇 >  
「ううん、なんでもない」

気のせいかと思いつつも、どこかまた遠くへ行ってしまったように感じる。
――弱音、はいてる場合じゃないよね
改めて、決意をし直して――

「学校は、どんな感じ? 最近夜遅いってお母さん心配してたよ?」

行ってない場所のことは気になる。
だから、そのまま。

「面白いお友達とか、いる? いつも、何して、遊んでるの?」

――コミュニケーションのこつ、教えてほしいな

なんて、お友達作りに前向きな姿勢を見せる。
それは――


――行かなかった空白への不安の表れでもあった

伊都波 凛霞 > 「ん?学校は──…まぁ、普通…かな」

大きく変わったことがある
自分の"写真"をネタにしてきた男子生徒が全員…いなくなったこと
それもあって、正しく、いつも通りの学園生活に戻りつつあった
そのいつも通りの中で、1つ変わったことと言えば…

「………んー…」

わかってる、自分でも歪んでいると認識できる
でも、自分の"過ち"を気付かせてくれた
尚且つ、隙間だらけになった自分を埋めてくれた
そんな相手に、心奪われないほど、挫折への免疫はない───

「気になる人ができたかな…」

一言だけ、そう答えて
打って変わったように笑みを作ると、友達の話
カラオケにいったり、歓楽街を買い食いして歩いたり…
なかなか素直になってくれないけど新しいお友達もできた、そんな、いつも通りの姉の話だ

「はるかのほうは?誰か、お見舞いとか来てくれた?」

伊都波 悠薇 >  
「……わっ!」

ぼんっと顔が赤くなった。でも思いっきり手をたたく。

「そそそそそ、それってこここ、恋……あの、お姉ちゃんが、わわわわ。おか。おかさー―せきは、せきは……」

『ひゃっはー。せきはんだー、おおせきはんだー。塩を準備しろ――――!!』

わたわたしつつ――

「だだだ、だれ。だれだれ!? え、どんなひと!!?」

さすがに気になる。恋に関しては、縁がないと言ってた姉だ。
すごく、気になる。

「へぇ……そんな友達が……お名前は?」

首をかしげつつ――

「ん。きてくれた、かな。告白してくれた男の子と――あと、お姉ちゃんにCMお願いしたって男の人」

伊都波 凛霞 > 「?! ち、違うよ気が早い!ばかはるか!」

大慌てで訂正する
まだ、本人もよくわかっていないのだ
惹かれている、ともまた違う
好きになったのか、と聞かれればそれもまた違う
唯一、わかっているのは、彼だけが自分を埋めてくれた
これまでの自分に、埋めるべき隙間がなかったのかと言えば、きっとそうじゃない
天才、神童、才色兼備、色んな比喩の言葉で隠されていただけ
……はじめて、自分自身を見てもらえたような気がした、姉ではなくて一人の女性としての自分を
……あんな風にされたのも、はじめてで───

「───」

思い出して、顔が真っ赤になる
いけないこれじゃ隠そうにも隠せない、慌てて視線を外すのだった


「な、名前とか、まだいいでしょ…ほんとに、もう。
 へぇー、二人とも男の人なんて、はるかも放っとけない…、って…CM…?」

何の話だろう、と首を傾げる

伊都波 悠薇 >  
「……!!? だめだよおねーちゃん! 最近は進んでるんだよっ。そんな認識じゃあまあまだよ!!」

鬼気迫る。命身短し恋せよ乙女。
そんな風にしてくれる男の人なら、是が非でも――

――あ……

「えー……男の人だけじゃなくて、お友達の名前も教えてくれないの?」

表情を見て、慌てて話題転換。ちょっと、寂しい。そして嫉妬が浮かんだ。
なんでだろう。見ず知らずの人に、なんだか。すごく悔しい思いを抱いた。
なんで、だろう……

「うん。お姉ちゃん、部活のCMお願いされたって聞いたよ? 断ったって。えっと、部活コンサルティング、の人だったかな……名前は、そう。烏丸さん、だっけ?」

伊都波 凛霞 > 食い気味の妹に圧倒される姉
この子は本当、火がつくと勢いもあるなぁ、と
普段の引っ込み思案が嘘のようである

「んん…もう、別に秘密ってわけじゃないって。
 ただあの悪縁ってワケアリの子も多いでしょ?なんなら今度一緒に遊ぶ時にはるかも喚ぶから」

納得しなさいね、と念を押すおねーちゃんオーラ

でも、その次に妹の口から出た名前に驚く

「え……烏丸、クン…?」

表情を整えるのも忘れて、でも、これで合点も言った
彼は自分のことだけならともかく、妹のこと
そして自分が妹にどうやって接してきたまで、見破って見せたのだから
…人間観察力の妙というやつか、それにしても妹に直接会っていたというのは驚いた

「……何、話したの?」

当然、それも気になってしまう

伊都波 悠薇 >  
「……むぅ」

すねたように口をとがらせる。
でもまぁ、遊ぶ時に呼んでくれるのはありがたい。
少しでもハードルが低いほうが嬉しいというものだ。
――お友達、作るチャンスだ
そう、少しずつ少しずつ。

「……うーん。なにっていうほどじゃないけど」

口に手を当てて思い出すように。

「CMに、お姉ちゃんの代わりに出てほしいって。でも、向いてないからってお断りしたんだけど――
 あきらめてないみたいで、二回。会いに来てくれて。そのときに、もったいないとか言われちゃった」

結構、ほめるの上手だよね、あのひと。
と付け足して。

「あ、そういえば今度おねーちゃんと三人でショッピングするって話が出てたんだけど……おねーちゃん、どうかな? 二人だけでっていうのはなんか、いやで……」

伊都波 凛霞 > 「(もったいない、か…)」
あの人が言いそうなことだな、と思った
姉の欲目と言われそうだけど、自分も妹にはそういった印象を持ったことは多いものだ
2回も会いに来たのなら、それなりに気にしているんだろうなぁ、と思って

「え…3人で…?」

一瞬、迷う
先日のことが脳裏に過ぎって
…3人だと、どんな顔をして会えるんだろう

「…そ、そっか。私はもちろん、大丈夫だよ。
 でも稽古もあるし、うまく予定、擦りあわせられるといいね」

伊都波 悠薇 >  
「あとは、器が大事って言ってたよ。結果に違いはないって。要は、好みの問題だって」

面白い感性だと思った。自分とは違う、視点。
姉ともたぶん違う。こういうのは刺激になると――

「……お姉ちゃん? 大丈夫? 若干、顔色悪いよ?」

歯切れの悪い言葉に、不思議そうに

伊都波 凛霞 > 「……え?ご、ごめん、ちょっと聞いてなかった…」

はっ、としたように。
どうやら上の空だったらしい
姉と妹、二人で会話している時に今までこんなことはきっとなかった

……二人の間に、誰かが割り込んできたことは

「えっと、とにかく私は大丈夫!
 はるかとショッピングも久しぶりだし!男の人が一緒だと視点変わるかも知れないよね!」

笑顔を作って、そう返す
…妹相手に作り笑顔なんて、最近までしたこともなかったのに

伊都波 悠薇 >  
「…………お姉ちゃん? ”大丈夫”?」

再三の、掛詞。
いついつもの、大丈夫とは意味が違う。
きっと、どこかぞっとするものを秘めている特有のもの。
いつもの姉ならなにも笑顔で流すようなものだが。
今は――どうか。

「うん。じゃあ、日程決まったら連絡するね?」

違和感は確信に。どうみても、今の姉は”変”だ

伊都波 凛霞 > 「あ、あはは大丈夫だってば。ちょっとふっと思ったことで考えこんじゃっただけだから、よくあるでしょ、そういうの…はは」

笑顔で受け流、───しきれない

妹はしたたかなところがある
きっと、自分の変化に気づいている
…支えとしていたものが、自分から他人へとすげ変わったことに、
きっと気づいている

それでも、自分がお姉ちゃんであることに変わりはない
ただもう、妹に自分を追い回すことは強いたくない、そんな当たり前の感情が、深く深く腹の中に渦巻いて
それが、自分を少しずつ少しずつ、変えていっている

「…うん、楽しみにしとく」

しょうがない
変わってしまったものは、変わってしまったのだから
…そのうち、慣れてくれるよね
そんな宛のない解決を期待するのも、全く今までの姉らしくはないのだが

伊都波 悠薇 >  
「……--お姉ちゃん」

にじんだ、表情は。
失望でも、悲しみでも、絶望でもなく。

――憤怒、だった。
どこまでも、怒りをこらえた悔しさだった。
だれに――?
姉に? いいや――……

    自分に

「……ちょっと、顔洗ってくる。稽古”見てるから”」

唇をきゅっとかみしめて。
黄色い、薔薇は心の中に咲いているのを感じながら

「――ごめんね、お姉ちゃん」

すれ違う時に。滴が通り過ぎた気がした

ご案内:「青垣山」から伊都波 悠薇さんが去りました。
伊都波 凛霞 > 「………」

足音が過ぎ去って、妹の気配がを感じ取れなくなって…
そこで、大きく自分の頬を、バチンと両手で叩いた

これでいい

間違っているかもしれない
でも、きっとこれでいい

自分が、あの子から全てを奪って前を進む、
それを赦しとする為に、常に矢面で、妹を守り続ける……
他でもない、自分自身を守るために
……明確な否定はできなかった

盾となって、妹を守って傷ついて
妹の目標となれるように、立派な姉になるように…
それは結局、ずっとずっと、妹に後を追わせるということ
疲れても、息切れしても、追いかけてこいと言っているようなもの

なんて残酷なことだろう
ほかならぬ最愛の妹に、そんな仕打ちをずっと続けてきたのだから

「──ごめんね、はるか。 ……ごめん」

ぱたりと小さな雫が一つ
凛と咲く霞も、黄色い薔薇の蕾も、そのどちらもが夜露を落とした

そんな、伊都波家の一夜

ご案内:「青垣山」から伊都波 凛霞さんが去りました。