2016/06/11 のログ
■伊都波 悠薇 > 気付けやしない。
そういったものの才能はない。ただひたすら、頑張る姿だけがそこにあった。
それが、実を結んでいないことは見ているものには十二分にわかる。
それこそ、武を噛んでるものであるならなおさら……
「……っふ……」
でも、頑張るのはやめない。
目標が高いから、絶望した? そんなわけない。
ただただ自分の頑張りが足りないからと……
その稽古に、思いがにじむ……
■阿曇留以 > 必死に頑張る姿をじっと見つめる。
努力は確かに裏切らない。
真剣にやっていれば、それは尚更。
ただし、効率的かどうか。それが問題になってくる。
(あの子もこれぐらい頑張ってくれたらいいのに……)
実家に残してきた家族を思い出しながら、苦笑する。
目の前の子と、実家の家族は似ても似つかないけれど、どこか似てるように思い
「精が出ますね。
お一人で特訓ですか?」
笑顔をうかべ、話しかけてみる。
■伊都波 悠薇 >
「………………え?」
こえを かけられた。
集中が切れる、動きが止まる。
ふと、その方向を見れば。見知らぬ女性。
――今自分はさらし一枚。
どこからどう見ても――……
「ろろろろろ。露出狂とか露出癖とかじゃなくてですね!!? あの、その動くところがその、あのですね!!? ちが、ちが――あの、そのそういう願望じゃなくて……」
必死に弁明。顔を真っ赤にして。
「べべべ、べつにみられるのを期待してとか、見られて感じちゃうとかそういったわけじゃなくて!!!!」
目がぐるぐる。
耳まで真っ赤で、早口であった
■阿曇留以 > 真っ赤な顔で何か口走っている少女。
とんでもないことを言っているようだが、ひとまずは聞き流し。
「あらあら、大丈夫よ、落ち着いて。
はい、深呼吸して。
すぅ~、はぁ~」
留以自ら深呼吸して、少女も深呼吸するよう誘う。
誘う深呼吸。
■伊都波 悠薇 >
「ひっひっふー……」
違う深呼吸をしている。
いもうとは こんらんしている
「ひっふー……え、あ……えええ?」
まだこう、頭はぐるぐるしてるようだが、話ができるレベルにはなったようで
■阿曇留以 > お産をしそうな深呼吸をしているが、一応少しは混乱が直っただろうか。
笑顔を浮かべながら女の子に向き合い、
「それじゃあ次は自己紹介ね~。
初めまして、私は阿曇留以(あづみるい)っていいます。
常世学園の一年生です。
22歳で、皆より年上だけど仲良く接してくれると嬉しいわ~」
のんびりした口調で喋り、今の状態が普通であるかのようにおもわせようとする。
とはいえ、現在の状況は廃神社に巫女とサラシとスカートの女子高生という組み合わせだが。
■伊都波 悠薇 >
「あ、え……えっと、伊都波悠薇、常世学園一年です。15歳です? 年下ですので、気軽に接してくださると大変ありがたいです?」
疑問符を浮かべながら、ペースに巻き込まれる。
なんだか、いつもよりもスムーズな会話。
初対面が、やっぱりアウトだが
■阿曇留以 > 「あら、15歳なのね。
こちらこそ、宜しくお願いします」
ぺこ、と頭を下げ挨拶し。
「それで、ちょっと聞きたいのだけれど、ここで訓練をしてたのかしら?
ずいぶん動きやすそうな服装だけれど……」
じっと彼女の服装を見る。
なんというか、大変扇情的で男の子がみたらアウトそうな格好だが。
■伊都波 悠薇 >
「……はい。いつもここで一人で練習してます」
『おうさ、はるっちの秘密の特訓場だ!』
携帯ストラップがすかさずしゃべる。
声は全く一緒だった。
「ここの近くに家族と住んでますので」
じっと見れば。さらしがにじむくらいの汗。
肌には珠が浮かび、うっすら朱色になっている。
はぁはぁと、荒い息は、熱を持ち。
まったくもって、男子には害になりそうな格好だった。
■阿曇留以 > (……男の子が来たら、間違いが起きそうな格好ねぇ)
頬に手を当てながらそんなことを考える。
グラマスな体に、若い肌、どこか弱弱しい雰囲気。
スリーストライクでアウト判定だ。
「そう、ここで……あら?」
今、変な声が聞こえた気がした。
いや、少女の声に違いないのだが、変な場所から聞こえた。
「……?
悠薇ちゃん、腹話術とか得意なの?
なんだか、悠薇ちゃんの声が変なところから聞こえた気がするのだけれど……」
周りを少しだけ見渡してみるが、人影はない。
今のは腹話術、だろうか。
■伊都波 悠薇 >
『腹話術とかしっつれいな!! 付喪神の小雲雀だ!!』
携帯ストラップが否定した。真偽は――わかりません。
「……?」
じぃっと体を見つめられれば。
「な、なにか、変ですか? その――恥ずかしいです」
胸を隠すように腕で抱える。
さらりと前髪が流れて。泣きぼくろが見えた
■阿曇留以 > 「つくもがみ……。
九十九神?
あら、あらあら……まぁまぁまぁ……」
よくよくみてみれば、携帯ストラップから声が聞こえる。
なるほど、だから悠薇の声が聞こえてきたのか、と納得する。
野良九十九神様なら祓ってしまうとこだが、悠薇の持ち物となるとそうもいかない。
それに、九十九神は神様の一種だし。
「初めまして、小雲雀様。
本土のほうの田舎の、小さな神社で巫女をしています阿曇留以です。
宜しくお願いしますね」
と、丁寧に挨拶する。
そして、恥ずかしそうにしている悠薇には
「……えーっと、ここ、誰も来ないのかしら。
悠薇ちゃん、普段からその格好なの?」
と、問いかける。
■伊都波 悠薇 >
『お、おう……』
ちゃんとした扱いをされるとどもるストラップ。
どうしようといったように揺れているように見えた。
「いや、いつもは制服だったり。馬さんスウェットだったりですけど……」
さすがに一人で稽古する時だけですよと告げて
■阿曇留以 > 「……?
えっと、小雲雀様?
なにか……?」
なんだか反応が微妙だった。
なにか粗相してしまっただろうか、と少し不安になり。
「あら、ならよかっ……馬さんスウェット……?」
首を傾げる。
スウェットなら分かっただろう、何の問題もなく。
馬さんスウェットとはなんや、といった疑問の顔。
■伊都波 悠薇 >
『な、何でもないやい! きっちりと礼をもってやがんな。ほめて遣わすっ。別にうれしいなんて思ってないんだからねっ』
携帯ストラップは捲し立てた。
「……? 馬さんの模様がいっぱいのスウェットですけど……」
疑問の表情には、疑問の表情で。
知らないの? といった感じ
■阿曇留以 > (あ、なんだか嬉しそう)
もしかして、普段から雑に使われてるのかしらと予測を立て。
ぺたり、と小雲雀にお札を貼る。
阿曇特製、妖怪をしびれさせる御札。
定価2500円。
「……そ、そう。
なかなか可愛いスウェットをきるのね」
よかった、予想と違っていた。
てっきり馬を模したスウェットなのかと誤解していた。
もしそんなものを着て訓練しているのだとしたら、あまりの異様さに驚きではなく、妖怪の類と考えていただろう。
しかし、それはともかくとして。
「その、本題なのだけれど。
一人で訓練するときはいつもああなのかしら。
その、努力しているのは凄くよくわかったのだけれど……」
少し、言いづらそうにしている。
■伊都波 悠薇 >
『なにをするううううう』
張られたことを嫌がるストラップ。
かまってもらって嬉しそうだ。
「……素人に、見えた。ですか?」
いい辛い様子には苦笑。
すでに経験している。そういわれたことは。
そして――
自分がまったく伸びていないのも実感してる
■阿曇留以 > (あ、うれしそう……)
稀にいるのだ。
人畜無害だけどどこかかわいそうな妖怪が。
そのときのために使う御札なのだが。
とりあえず、貼っておこう。
「……努力に対して、全然成果がでてないように見えたから。
ここ最近始めた、とかならわかるのだけれど……そういうわけでもないのでしょう?」
あえて、悠薇ちゃんの言葉に肯定はせず。
しかし否定もしない。
とにかく、その訓練に対し、不思議な結果が出ているように思えた。
■伊都波 悠薇 >
『あびゃびゃ……』
携帯ストラップはうれしそうな喘ぎ声? を上げて、黙った。
空気を読んだのだろう。ぼっちのストラップのくせにそういうのはうまい。
「あはは、まぁ。そんな感じです。うまくならなくて全然」
その言葉にはうなずき、苦笑。頬をかいた
■阿曇留以 > 「……」
才能がない、のだろうきっと。
稀に、どうしようもない子というのはいるわけで。
苦笑し、頬をかいている悠薇をみながらそんなことを思い。
おもいついたかのようにぱっと顔を明るくする。
「なら、私と一緒に稽古しない?
私も人を相手にするのは苦手で、きっと悠薇ちゃんとレベルはそう変わらないはずだから。
きっといい練習相手になるとおもうのだけれど」
そんな、提案をしてみる。
嘘ではない。
留以の専門は妖怪退治であって、人間じゃない。
人間に対する対処など、ほとんどやったことはなかった。
■伊都波 悠薇 >
「……え、でも――」
いいのだろうか。前にあった先輩もそうだが。
そんな風に、初対面なのに。いいのだろうか。
こんな未熟な自分に、時間を割いてもらって……
少し悩み――……
「いいんで、しょうか?」
困惑した瞳を向けた
■阿曇留以 > 「それはむしろ、私がいう言葉よ~」
悠薇の言葉に、小さく笑う。
「悠薇ちゃんが了承してくれたら、私はすごく助かるわ。
だって、一緒に訓練できる子ってすくないもの~。
……あ、もちろん今日じゃなくていいのよ?
明日でも、明後日でも、一ヵ月後……は、ちょっと私悲しくなっちゃうかもしれないけれど……」
う~ん、と困ったような顔。
■伊都波 悠薇 >
「……いえ」
これはチャンスではないだろうか。
そう言ってくれるなら甘えてもいいんじゃと思う。
でも――
――天秤が頭に浮かんだ。
ノイズが走る。あれ、今何を考えていたんだったか。
「ぜひ、お願いします」
深く礼をした。膝をつき、三つ指で。
自分のできる、最大の礼を。
■阿曇留以 > 「そ、そんなことしなくていいから!
そういうのは将来の旦那様のためにやるものだからっ。
ほら、悠薇ちゃん立って立って」
慌てて悠薇を立たせようとする。
仰々しい礼をされ、ふんぞり返って「うむ!」なんて……いえるほど人間はできていない留以だった。
「でも、どうしようかしら。
そのままでやるのはちょっとまずいかしら……?
一旦おうちに帰って服、着替えてくる?
それともそのままやるか……後日でもいいけれど……?」
■伊都波 悠薇 >
「今、お願いします」
立って、土を払う。今しかない。
そう、今しか。
これを逃したらダメな気がした。
それに――
「いえ、このままで。これが一番動きやすいですから」
もっと頑張ると決めたのだ。追いつくすべができるなら逃したくは、ない
■阿曇留以 > 「……そう。
じゃあ、お互いちょっとだけ離れてからやりましょ。
殺傷は禁止。終わりは、相手が気絶するか、参ったを言うまで。
それ以外は何でもあり。
で、どうかな悠薇ちゃん」
大太刀を左手に持ち変え、一歩、二歩、三歩とだんだん下がっていく。
既に勝負が始まっているかのように、自分に最適な距離をとろうとしている。
■伊都波 悠薇 >
「……はい。よろしくお願いします」
ぺこりとお辞儀、構えをとる。
右手を前に。左足は後ろに。基本の構え。
前に出る――始めなんて合図があるとは、彼女は言ってない。
ならば、勝ちを求めに行く。なりふりは構わない。
詰め寄って――きた、最初の一撃は。
――喉笛を穿つ、こぶし――
殺傷は禁止、なのに。躊躇いなく彼女はそれを選んだ
■阿曇留以 > そう、はじめの合図があるとは言ってない。
ゆえに、この攻撃は正当なもので。
「――っ」
そして、それは分かっていたことで。
大太刀をもっていた左手をまっすぐ伸ばし、柄を悠薇に向けて自分の正面で構える。
悠薇の腕が留以の喉に届くよりも先に、悠薇の腹に大太刀の柄を食い込ませ、ひるませようと。
■伊都波 悠薇 >
「えぐっ……」
届かない。リーチが長い。
不意打ちは間違いなく最良。選択もまた――
しかし、なにより才がない。
鋭さも、体さばきもまさしく素人そのままだ。
えずき、よろめく――が――
顔を振り上げて、睨んだ。
前髪が降りあがる。表情が明るみに出る
よだれを垂らしながら、おなかを抱えながら――
人を殺したことがないのに――
殺気の、こもった瞳で。強くにらむ
姉にはない、殺気。どこまでも、武の根底にある――
「――だぁっ!!!!」
痛みをこらえながら、もう一度、走る。
もう一度、同じ。喉笛を毟るこぶしを穿つ。
■阿曇留以 > もし居合いの姿勢でいたなら、鞘を着せたまま、確実な一撃を悠薇に当てていただろう。
予測していた急な不意打ちでも、想定より留以に肉薄する速度が速かったため、鞘を当てるしかなかった。
しかし、今がチャンスだった。
確実に怯んでいる今のうちに次の攻撃を――
「っ!!」
背中を這うその感覚。
鬼を相手にしたときに感じたことのある、此方を殺そうとする、その意識が籠った視線。
思わず怯み、大きく一歩下がる。
――それが間違いだったと気付いたのは、地面に転がってからだった。
悲鳴もあげることは出来ず、ただ痛みから右手で喉を抑え、うずくまっている。
■伊都波 悠薇 >
泥臭く、型はぼろぼろ。
だが、入った――決まった。
が――でもまだ止まるな。殺し切る。
ここで、手を止めれば負けるのは自分だ。
つかみ取れ、やれやれ!!
「――ぁぁああああっ」
うずくまっている今なら。決めれる。
心臓穿ち――心臓を殴って、呼吸を止める。
その姿は鬼にも見えて。
最早、巫女には人間に見えていなかったかもしれない
■阿曇留以 > 「――」
背中にうける視線。 痛い。
何度も這う悪寒。 痛い。
潰された喉。 痛い。
ふと、顔を上げれば。 痛い。
悪鬼がいた。 怖い。
「――」
どくん、と心臓が跳ねる。 怖い。
思い出される鬼。 怖い。
家族との約束。 怖―。
妹との、約束。 ――。
「―――!!」
うずくまった姿勢から、大太刀を抜く。
一瞬で大太刀を抜き、同時に、迫る鬼を斬ろうと。
■伊都波 悠薇 >
姉は、天才だ。どこまでも、傷一つ突くことなく。
なんなく、こなして見せる。だが、悠薇にはできることは一つだけ。
こぶしを使った、殺傷の技。心臓を穿つそのこぶしだけだ。
喉をつぶす、それ自体は伊都波流にはない。
ただ、心臓に打つべきものを喉に打っただけ。
姉は天才だ。姉ならば、腹部の突きも受けなかっただろう。
姉ならば、この大太刀ですら難なくよけただろう。
でも、妹には、できない。
思考すら浮かばない。
ただただ捨て身。それだけで――
裂く。
ばっさりと、横一線。
腹部が、斬れる――
それでも――
とんっと、胸に。力なく、当たる。
成功はもちろんしない。でも、届いたことを、喜んで喜んで。
”嗤った”……
「伊都波流”毟り蕾”」
蕾を、容赦なく摘み取るように。
そこには一切の慈悲もなく心臓を止める。
ただそれだけしか、悠薇にはできない――
それができた、実践でできたことに笑い。
力なく倒れ伏した。
「――おねえちゃ、とど、いた……」
だばだばと、血が。地面を濡らす。
でも、笑う。哂え嗤え。えみを浮かべろとお前は誰にそう願ってる。
ならば、自分もしろ。それが礼だ。
「……やった、よ……ねぇ、――」
ほめて……?
それから言葉は発せず
■阿曇留以 > 「――」
冷めた顔で立ち上がり、血の滴る刀を地面に置く。
今日も無事に帰ることが出来る。
妖怪も祓った。
さぁ、うちに帰ろう。
そんな思考がずっとぐるぐるまわって。
赤い血が、だんだんと鮮明にみえてきて。
「――おえっ」
顔を背け、嘔吐する。
びちゃびちゃ、と水が地面に当たって跳ねる音。
「あれ、私……。
わた……、悠薇……ちゃん……?」
血の池に沈んでいる少女を見て、それが先ほどまで訓練していた子だと気付いて。
慌てて、悠薇に近寄る。
「悠薇ちゃん、悠薇ちゃん!
なんで、私こんな……!」
頭の中は、やってしまった、という言葉で一杯で。
とにかく、血を止めようと巫女装束を脱いで悠薇の腹を縛る。
血の匂いに嘔吐しそうになりつつも、そんなことより先にやることがあると。
■伊都波 悠薇 >
「……――……」
笑っていた。処置している中も。
でも――おなかをぎゅっと縛られれば苦痛に顔を歪める。
なぜ、こうなったのか。
なぜ、こんな顛末になったのか――
それは――
天秤が、傾く。
それは、姉が長物を持ち。
妹が、馬好きの友人と出会い――
そして。
眠れなくなって、稽古に出た夜のことだった
■阿曇留以 > 緋袴が血に濡れ赤黒くなろうとも。
襦袢が赤くなろうとも。
彼女が笑っていようとも。
必死に悠薇の腹をしばり、臓物がながれでないようにして悠薇を背中に背負う。
(お願い、お願い。お願いします!
死なないで、死なないで!)
必死に、急いで。
廃神社を後にする。
残ったのはちだまりと、血に濡れた大太刀だけだった。
ご案内:「廃神社」から伊都波 悠薇さんが去りました。
ご案内:「廃神社」から阿曇留以さんが去りました。
ご案内:「廃神社」に寄月 秋輝さんが現れました。
■寄月 秋輝 >
ジャリ、ジャリ。
地面の小石を足で蹴とばしながら、神社まで来る。
転移荒野近くであり、実は秋輝が最初に『呼ばれて』来たのがここだ。
神性の欠片を引き継いでしまった秋輝が、廃れたとはいえ神の社に呼ばれたのは必然というべきか。
なんとなく挨拶をしておこう、という気持ちでここへ。
来たのだが。
「…………」
足元には大太刀。
それも乾いてはいるが、血にまみれている。
(……まぁ、一般的なレベルの剣士のものか……)
その刀を手に取……らない。
血がどうやら獣や魔の物ではないようだから。
■寄月 秋輝 >
鞄から布を取り出し、柄に巻き付けて持ち上げる。
大太刀にしてはさほども重くない。
目を細め、じっと見つめる。
(……むしろこっちに神性があるな。
逆か……退魔の力?
多くの魔を断ってきた分の力だな)
そして乾いた血を見つめる。
何度も見てきた、これは人の血だ。
(神社の神主、もしくは別の退魔師あたりが、強盗とでも交戦した……か?
だがそんな人間が、刀を放っておくだろうか……
大体そんな事件があれば、さすがにニュースになってもおかしくはない)
思考を巡らせる。
どういうことだ。
こんな退魔の剣を使う人間が。
相手に手傷を負わせ。
刀を放ってここを立ち去る。
しかも回収に来ていない。
■寄月 秋輝 >
(……わからないな……)
ここにこんな刀が捨て置かれているという状況が全く理解できない。
情報を察することが出来るが故に、核心には至れない。
実に厄介だ。
(……持って戻るか。
風紀に連絡を)
ぴたりと止まる。
一人、退魔の力を持つ人に心当たりがある。
彼女だとしたら。
それこそ理解出来ない。
人を斬って、刀を捨てて……逃げた?
そんな女性だとも思えない。
無意味な憶測を振り払う。
それは思考を鈍らせるだけだ。
刀剣の扱いは心得ている。
風紀委員会に言えば、こちらで保管することを許されるだろうか。
刀が血を浴びた状態で一晩も放置されていたなど。
「……かわいそうに……」
刀に哀れみの目を向ける。
剣士として、耐えがたいことだった。
■寄月 秋輝 >
一度風紀委員会へ足を運ぶ。
その後許可が下りるなら、こちらで引き取り、手入れをして封印する。
持ち主が居るならば、きっとコンタクトが来るだろう。
刀もきっと、使い手の手に収まりたいと願っている。
この刀も明らかに、秋輝の手に収まり続けまいとしている。
それは重心の違い、刀の重さの違い。
それこそが、主が刀を見分ける重要なファクター。
「……帰れるといいな……」
囁く。
その刀を持ち、下山していく。
一分でも早く、研いでやるために。
ご案内:「廃神社」から寄月 秋輝さんが去りました。