2016/10/16 のログ
ご案内:「青垣山」に巓奉さんが現れました。
■巓奉 > 青垣山の中腹、巓奉が居を構える庵にて。
彼女は縁側で満月を肴に茶をすすっていた。
草木も眠る丑三つ時ではあるがそれに構うことなく隣には団子が山積みされている。
どうにも寝付けなかった巓奉は気分転換と言わんばかりに月見を行おうとしていたのだ。
■巓奉 > 茶をすする音と、鈴虫の音色だけがこの場に響いている。
そして天に頂くは雲一つなくまことに見事な満月のみ。
ああ、風流なりや。
なんて、年寄り臭い事を考えつつも団子を一口頬張った。月より団子である。
彼女の傍には鞘に納まった幾振りかの刀剣が置かれている。
■巓奉 > ハムスターが食べ物を頬袋に詰め込むよろしく、巓奉もまた団子を精一杯頬張り咀嚼している。
もごもごと口を動かしながら茶を器用にすすり、流し込み感嘆の声を上げた。
「ふー……美味美味。やはり甘い物は良いなあ。」
誰に言うでもなく呟いた。そして月に傍らにある一振りの刀をかざしつつ一人鑑賞しているだろう。
ご案内:「青垣山」に寄月 秋輝さんが現れました。
■巓奉 > 満月の光を受け煌く刀身に奔る一本の紋様。
まるで天翔る龍の如きそれが深々と差す月光を浴びて喜んでいるかの様で。
暫しじっと眺めていた巓奉であったが、手にした刀を両手に持ち軽く横に薙いだ。
僅かに空を切り裂く音が鳴り、また静寂が戻ってくる。
それを何度か繰り返している。まるで一つの型を練習しているかの様に。
■寄月 秋輝 >
ふわりと風を裂く音。
わずかに置いて、傍で唐突に現れる秋輝の姿。
偏光迷彩を解除して、姿を現した。
「こんばんは。
今宵は月が綺麗ですね」
縁側にて刀を握る巓奉に声をかける。
ごきげんいかがですか。
■巓奉 > 声を掛けられたものの巓奉はすぐに応えず、仕舞いと刀を横に薙ぎ払って音を立てず鞘に納めた。
「やあ、こんばんば。
それは口説き文句のつもりかい?」
ようやく微笑みつつ寄月へ挨拶を交わすだろう。
大事無い、と。
■寄月 秋輝 >
「男が夜に、女性のお宅を訪ねて、このセリフですよ。
それは当然どういうことか、わかるでしょう」
これも軽口だ。
仲のいい相手に対する、本当に軽い挨拶。
「とはいえ、花より団子、男より刀といった様子ですか。
最強の一振りへの足掛かりは見つかりましたか?」
鞘に納められた刀を見つめながら尋ねる。
納得のいくものが出来たのなら、それは喜ばしいのだが。
■巓奉 >
「はははっ。
さて、困ったなあ。まだ私は死にたくは無いのだけど?」
意地悪そうににやりと笑って見せて。
まるで悪友同士が交わすような、そんな軽口。
「最強、至高、頂点。言葉は変われどもどれも同じ意味合いを持つ。
なれど剣の道に果てを求めど際限無く、見渡す限りは海原のみ……かな。
極めれば極める程、先が見えない。そんな気がするよ。」
と、苦笑いしている。
納めた刀はかつて巓奉が打ったものであるという。
見るものが見れば立派な物とすぐに分かるだろうが巓奉は言うだろう。
『まだまだ足りない』と。
■寄月 秋輝 > 「お気持ちは察します。
僕も似たような気持ちと戦いながらの訓練の日々ですから」
極限とは、至ってみればまだまだ先が見えてしまうものだ。
己の剣の極地、明鏡止水しかり。
戦術級の大魔術、浄化術しかり。
強くなるほどに先が見えるようになってしまう。
「完成した暁には、一度見せていただきたいと思っていましたが……
十八代もの時を経ても完成しない刀となると、そうそう簡単にはいきませんね」
小さく微笑んだ。
それでもこの女性なら、前に進んでいるだろうと信じている。
■巓奉 > 寄月の言葉に頷きつつ、何となく用意していた未使用の湯飲みに茶を注ぎ勧めるだろう。
「団子も食べると良い。用意したのは良いが食べ切れそうに無いんだ。
先が見えない物程、気が殺がれるものは無いねえ。」
もごもごと再び団子を口にし、茶を一口。
ちょっとした苦味が甘さを打ち消しすっきりした気分になる。
「そうだねえ。もし、完成したらいの一番に見てもらうとしようかな。
十八代の世代を重ねても尚、至れぬからこそ秩序は保たれるのかもしれないね。
下手にホイホイ作れてしまったら、あっという間にこの世はお仕舞だね。」
ケラケラと笑ってみせる巓奉。だが、目は笑っていない。
■寄月 秋輝 >
「ではありがたくいただきましょう。
……いえ、少しずつでも先が見えてしまうからこそ、前に進まざるを得ない気持ちになるんじゃないですか?
そうでなければ、今もまだ刀匠を続けるなどと出来ないでしょう」
彼女と自分は、そういうタイプなのだ、と確信をもって告げ。
団子を一つつまみ、口に放り込む。
もちもちした食感がたまらない、自然と笑顔になる。
「そうですね、最強の刀が誰でも振るえる物だと、大変なことになりそうです。
ですが、僕は巓奉さんを信じていますよ。
巓奉さんならば、その刀にふさわしい、正しい使い手を選んでくれると」
淹れてもらったお茶を一口すすり、巓奉の目を見つめた。
笑顔の中に真剣な眼差し、刀がどういうものかを理解しているから出来る目だろう。
だからそれを信じるのだ。
■巓奉 >
「粗茶ですが……は、遅かったかな?
私はね、御伽噺が好きなんだ。数々の英雄達が織り成す物語が大好きだ。
そして同時に憧れでもある。人の身に余る力を持つ武具を賜る彼らにね。
だが、それは私の役目じゃないと悟ったのはいつだったかな。」
だからこそ彼は、彼女は鍛冶の道を進んだ。
御伽噺のそれを再現 いや、それすらも凌駕するものを作り上げんと。
巓奉はそう語りつつもどうしてこんな話を彼に話しているのだろうと考えていた。
だけど答えは出る事は無かった。『そういう時もある』と自分に言い聞かせて。
「最終戦争待った無し。
まあ、そうなったらそうなったで仕方が無い気がするけども。
キミは勘違いしているな? 選ぶ前にまずは打たなければならないんだ、選ぶのはそれからでも遅くはないさ。」
からからと芯から笑う巓奉。あゝ愉快愉快。
■寄月 秋輝 >
「……同時に、その英雄が振るう武器を作ったのは自分だ、と誇りたい……ですか?
いずれ時の果てに、それを抜いた英雄を見て、天から誇れるように」
鍛冶師としては、確かにそれは素晴らしい名誉なのだろう。
剣士として名を、技を遺すように、実績と実物が残る彼女の生き方は素晴らしいものだ。
「逆だと思いますよ」
笑う巓奉に、目を細めて笑い返す。
「……英雄に足る武器を、英雄の手にも余ると思える武器を作る。
その方がモチベーションも上がるでしょう。
……あなたは……」
ほんの少し逡巡し、巓奉に手を伸ばす。
居合剣士として、絶対に鞘から離れない左手。
マメはすべて潰れ、修復され、ガチガチに固まった手だ。
「……剣士を見て、剣を打ったことはありますか?」
■巓奉 >
「いいや、違う。 残念だけど、そんな見上げた志では無いよ。
どの物語に出てくる刀剣よりも優れた武具を作り上げ巓奉に勝る刀匠無しと言わせ
同業者の悔しがる顔を肴にしたいのさ。」
それはそれは悪い表情を見せる巓奉。
だからそれは向上心から来るものではない、と改めて口にするだろう。
あくまでこれは意地悪したいだけだと。
呟くような、自分に言い聞かせているようなその言葉を語った直後、視界に入るのは彼の手。剣士の手。
手などいくらでも見てきた巓奉だが彼の手を不思議と見入ってしまう気がする。
放って置けばずっと見ていそうなくらいに。
それは剣士として離してはいけない手を離している珍しさから来る物だ、と自らに言い聞かせ。問いに答える。
あくまで刀匠 巓奉として。
「剣士を見て打つ、と言ったかな。答えなんて分かりきってるだろうが敢えて応えようじゃないか。
剣士を見て打ったことは無い、いや……打てないと言って良いだろう。
心血注ぎ鍛え造った刀はいくらでもあれど、その様な刀はありはしない。
人が刀を選ぶのでは無いんだ、刀が人を選ぶのだと私は思っているから。」
そう語る巓奉の顔は少し寂しそうな、悲しそうな表情であった。
■寄月 秋輝 >
「ふふ、それは同じような意味でしょう。
十分な志だと思いますよ」
何度も語り合って、彼女の性格は理解しているつもりだ。
口で言うことと、心で思っていることがまるで逆。
可愛らしい、あまのじゃくなのだろうと。
「そうでしょうね。
……先日あなたの刀をいくつか見せていただいたときも思いましたが……
振るわれた刀に、戦いの記憶こそあったけれど、剣士の魂は籠っているように思えなかった」
ぐ、と手を握りこむ。
刀の鞘を握るかのように。
「……僕は愛刀に選ばれたと、確かに思っています。
ですが鍛え直された時、新たな強い武器ではなく、この刀がいいと選んだのは僕です。
剣士と剣は一心同体。
……一方的な想いだけでは、人と剣は繋がれないとは思いませんか?」
その寂しげな表情に、諭すように、優しく笑みを浮かべて囁く。
■巓奉 >
「まあ、そう言いたいのであれば止める理由は無いなあ。
まったくキミってヤツはつくづく物好きだねえ。」
珍しく巓奉の方から折れたつもりの様でそっぽ向いている。
が、耳がほんのり赤く染まっているようにも見受けられるだろう。
「応さね、巓奉の刀剣はとどのつまり道具。人斬りの、道具以上でも以下でもないのさ。
巓奉の刀剣を求め手にした者共は皆"道具"を求めていたに過ぎないって寸法さ。」
巓奉も満月を見やり、己が手を強く握る。
「それは幸せな事だ。真にキミが欲し、刀剣が応えた一例なのだから。
だが──悲しいことにね。皆が皆キミのような剣士ばかりではない。
私の刀剣は、私の子らは残念ながらそういう良縁に巡り合えなかったんだ。
この庵に居る子らはそういう連中だよ。」
表情らしい表情は無く、淡々と語るだろう。
■寄月 秋輝 >
「剣士は皆道具を求める。そう感じますよ。
僕も僕以外の剣士が、僕と同じだけ剣を愛しているところを見ることはあまり無いですから」
どうしても、武器は道具でしかない面が大きい。
実際、いくつもの剣を使い捨てながら戦う剣士を見たこともある。
命は失えば終わり、だが道具は新たに作ることが出来る。
そう考える人間も多いかもしれない。
「……人も剣も同じですよ。
道具として、人に使い捨てられる刀がある。
僕のように、心から求めた恋人を失う人間も居る」
同じように淡々と語り、団子をもう一つ口に入れる。
「ただ一人のための、世界でたった一本の剣。
それを一度でいいですから、作ってみてください。
巓奉さんはまだ、刀の声に応える人間に出会ったことがないだけです」
団子をつまんだ指をぺろりと舐める。
鋭い、剣士の眼差しに変えて。
■巓奉 >
「さもありなん。剣士は己に見合った剣を欲する。
己の定規で量った剣を。そこが滑稽ではあるのだけどね。」
乾いた笑い声を上げるも、すぐにやめてしまうだろう。
この庵に眠る刀剣全てと言わないまでも、大抵はそう言った末路を辿った物ばかり。
笑えない、実に笑えない話だった。
「キミは……ふん、たかが二十年行くか行かないかくらいの小童がこの私に説教とは。
やれやれだな、勘違いしないで貰いたいのだけど──
私の定規に適う剣士が居ないだけだ。やる気が出ないのに個人の為に一振り鍛え上げるのは、巓奉の名が落ちるからね!」
そうして、にやりと人が悪そうな笑みを浮かべるのだ。
強がりか、本心から言っているのか読み取る事は難しいだろう。
だが巓奉と関わりあったキミにならきっと理解できるはずだ。
もし彼女が誰かの為の一振りを鍛え上げる事になったならば、それは素晴らしい物になるはずだと。
■寄月 秋輝 >
「だからこそ、刀匠が見極めるべきなのでしょうけれど」
少女の笑いを、じっと見つめた。
「……勘違いはしていませんよ……だから言ったんです。
たった一人のために、刀の声に応えられる人間のためにと」
目を細めて囁く。
縁側から立ち上がり、腰の裏に回してあった刀を握る。
左手で鞘を、右手で柄を。
すらりと引き抜いた刀は、銀色に輝いていた。
「いずれでいいのです。
それが今である必要はないし、その答えが当代で出るかどうかもわかりません。
でも、あなたはわかっているでしょう。
本当に刀を打つに値する相手こそ、あなたが求めた最強の刀です」
月に切っ先を向けながら、優しい笑顔で振り向いた。
まるで女性のように優しく、美しい表情。
「……僕の刀は僕の腕の一部、
僕の体は、僕の刀の命そのものです」
■巓奉 >
「……キミって人は、本当に。ああ、本当に厭らしい。」
やれやれ、と頭を振る巓奉。その様子真一文字に結び、うんざりしたそれ。
笑顔を見せる寄月に背を向け顔を見られないようにしてから、何かに耐える様にぷるぷると僅かに身体を震わせながら言うのだ。
「……それが勘違いって言うんだ、うつけ……。
私が誰かの為に槌を振るうのなら……それは……ごにょごにょ。」
最初と比べて明らかに勢いや声が小さくなっていくのが分かるだろう。
そして、背を向けてはいるものの耳は真っ赤だ。
■寄月 秋輝 >
「……前にもそんな風に言われましたね」
笑みを浮かべ、刀を納める。
あるべきところへ戻った刀は、また静かに眠る。
「……それは……
……いえ、僕ら剣士が刀を振るう理由と同じかもしれませんね」
それは守りたいと願ったもののために。
愛した誰かのために。
力を、能力を振るう理由はそれに尽きる。
「……進捗も、巓奉さんの元気そうなお顔も見れました。
そろそろおいとましますね」
■巓奉 >
「ふ、ふん……その刀は簡単な手入れしかできていないんだろう?
この刀匠巓奉が直々に見てやるから、寄越し給え。
さほど時間は取らせは、しない。不安ならこの庵にある刀でも帯びると良いだろう?」
相変わらず背を向け、耳を赤く染めたままだが去ろうとする寄月の腕を引き彼の刀の手入れを行おうとする。
「(ばかばかばか。まだ気付かないのかね、キミは……。)」
誰かの為に一振りを、誰かに託す為に鍛え造り上げた一人振りでも、きっとキミには必要ないだろう
なれば、私に出来ることはキミの腕と言った、命と呼んだ一振りを守るだけさ──
鈴虫が奏でる音色と共に涼やかな風が流れ込む。
■寄月 秋輝 >
「こんな時間だというのに……いいんですか?
……ではせっかくですから……」
ふ、と笑って、腕を引かれるままに近付いた。
夜の風が肌を撫ぜ、駆け抜ける感覚がした。
その好意に甘え、刀の手入れを終えるまで、傍に居続けることだろう。
ご案内:「青垣山」から寄月 秋輝さんが去りました。
ご案内:「青垣山」から巓奉さんが去りました。
ご案内:「廃神社」に蕎麦屋さんが現れました。
■蕎麦屋 > 「どっこい……せー……と。
や、着きました着きました。」
屋台担いでえっちらおっちら。
夜のこんなところに客が来るはずもないが――
「まぁ、与太ですし。」
偶には店でも出そうと思うところまではいい。
第一候補が此処なのは如何なものか。
■蕎麦屋 > 境内を見回し――
最近も誰かが来ているのか、境内はそこそこに綺麗。
これなら別段清掃の必要もなし。
てきぱきとした様子で簡易の椅子と机を取り出して組み立てた。
提灯に火を灯せば、『蕎麦 200円』の文字が揺れる。
「――あ。」
忘れる前に、袋を一つ取り出して。
拝殿に供える。中身はただの蕎麦煎餅だが。
使い道のない金品よりはマシ、であろうか。
そんなことを思いつつ、二礼・二拍・一礼。
礼は尽くして、損はない。
■蕎麦屋 > 「さて――」
後はゆるりと客が来るのを待つだけである。
来るとしたら魑魅魍魎の類かもしれないがそこはそれ。
――蕎麦食わせりゃいいのである。
旗から見ればこっちが妖怪だっていうツッコミは受け付けない。
椅子の一つに腰掛ければ――スマホなど取り出して弄り始めた。
なんとも源田的な妖怪です。
■蕎麦屋 > 「――おや。」
配布石が規定数溜まった。
というわけで……
「虹、虹来い、虹――……あ。」
残念、金でした。
暇すぎてスマホゲームなど始めた模様。
それにしても――
「この国のワルキューレってこういうのなんですねぇ。」
ぽちぽち。これ半裸やん。みたいな子ばかりです。
というか強くなると脱ぐ法則。どうなってるの。
ご案内:「廃神社」にライラさんが現れました。
■ライラ > 蝙蝠が飛ぶ。
そりゃまあ、夜だし蝙蝠くらいは飛ぶだろう。
集まってドレスを着た美女になるかどうかは……まぁ、わからないが。
「夜空の散歩中に見慣れぬものがあると思うたが。
……この国独自のYOUKAIというやつかえ?」
■蕎麦屋 > 「――おや。」
何かの気配に。スマホを片づけて、空を見上げる。
帳の降りた空を見通すのはなかなか骨が折れるが――
あ、居た居た。
「ああ、いえいえ。
この土地とは縁も所縁もないただの妖怪です?
蝙蝠のお客は二人目ですが、――ああ、一人目は客でもなかったですけれど。一杯どうです?」
揺れる灯篭の文字を指して、首をかしげて見せた。
■ライラ > 「……この島の通貨をもっておらぬ。
銀や黄金でよければ持ち合わせはあるがのぅ」
蝙蝠達が集まって、人になる。
黒いドレスを身に纏った銀髪の女性。
容姿だけならば同郷に見えなくもないかもしれないが。
「どうにもわからぬな。
土着でもない、同胞でもない……さりとて、人でもなさそうじゃ。
眠りから覚めてからどうにも、世の変化についていけぬわ」
とりあえず椅子には座るが。
「一杯と言うておるが、何かを提供するのかえ?」
首を傾げた。
■蕎麦屋 > 「嗚呼、なら別段お代は結構ですよ。
――そもそもが、お代頂かないと煩く言われる所為で御座いますし。
金銀財宝とか貰っても困るだけですよ、そんなもの。」
換金する当てもないし。
とりあえず立ち上がる――湯は沸いているし、後は作るだけではある。
「いやいや、しがない蕎麦屋ですけれどね?
そういう貴方は余程のお寝坊さんのようで――何もかも変わり過ぎている、のには同意いたしますけれど。
――何って。
蕎麦ですよ、ソバ。ジャパニーズソウルヌードル。」
知りません?などと言いながら、調理を始めてしまった。
座った時点で客である。逃がさん。
■ライラ > 「趣味でやっておるのじゃろうが……。
迂闊なモノを口にすると、その世界のモノになるとは呪いで聞いた事はあるぞえ?」
疑いの視線は継続である。
扇で口元を隠す。
夜は好きだが、こうも煌々とした灯りは苦手である。
何せ影が落ちないのだ。正体をすぐに看破されてしまう。
「そのソバというのはどういうものかわからぬ。
東の果てにある異国の知識なんぞ、あんまりもっておらぬわ」
■蕎麦屋 > 「それもまた一興でしょう。
言葉とは言の刃。――そういう変化を楽しむくらいの余裕は持ちたいものですね。」
返しながらも淀みなく、調理は進む。
蕎麦を鍋へと。茹で上げる間に浴びせ湯で器を温める。
湯切りした蕎麦を器に盛り――
「最果ての国と侮るなかれ、という所でしょうか。
いろいろ頭のネジぶっ飛んでますからね、この国。案外飽きないかもしれませんよ?」
2000年も続いた国など他にあろうか。
それだけでも抱腹絶倒ものである。個人的には――
器に熱い汁を注ぎ、刻んだ葱、海苔を添えれば。
「はい、お待ち。
かけ蕎麦一丁。――まぁ、騙されたと思ってどうぞ?」
ことり、と器を眼前に差し出した。
影が落ちていない事には、気がついているのか居ないのか。
■ライラ > 「まぁ、今更冥府に落ちるとも思えぬが」
調理工程を見ている。
あの細長いものを湯がいて食べる料理?らしい。
「別に侮ってはおらぬ。
数十年でもはや別世界じゃ。夜が眩しくて適わぬわ。
眠りにつく前の夜は静かなものであったのじゃがなぁ」
在りし日に思いを馳せる……暇もなく、蕎麦は完成する。
そうやらスープ的なものらしいが。
「食べ方がわからぬ。
箸とやらはまだ上手く使えぬでな」
練習はしているのだ。
練習は。
■蕎麦屋 > 「――おや、これは失礼。
えーっと……はい、どうぞ。」
箸が使えない可能性を忘れていた、と慌てて屋台をがさごそ。
取り出したのは至って普通の木製フォーク。鉄製だと熱くなるが故の配慮。
「通な食べ方、みたいなものはありますが――特にテーブルマナーがあるようなものではありませんし。
特に気にせず食べていてくださいな。」
こう、ずずっと。と蕎麦をすする講談のごとき動作をして見せた。
「昔と比べれば、そうですね。随分と闇の中でも動く術を見出したものです。
闇を恐れず、禁忌を畏れず、異端を怖れず――それを強くなったとみるか、傲慢とみるかは知りませんけれど。」
■ライラ > フォークを受け取る。
どうやら、そのまま食べるものらしい。
「普通の食事なぞ、いつ以来じゃろうな。
まだ人であった頃以来かもしれぬが……」
フォークで掬い、口に運ぶ。
マナーを意識していないとはいえ、その所作は実に洗練された貴族的な動きである。
まぁ、食べなれない食事 ではあるので悪戦苦闘しているのではあるが。
「傲慢は強きものでなければ得られぬ大罪よな。
永き時の代償に変化をせぬのも良し悪しかもしれぬ」
食事を続ける。
「……食した事のない味じゃが、悪くはないのぅ」