2016/10/22 のログ
ご案内:「廃神社」に加賀智 成臣さんが現れました。
ご案内:「廃神社」にレイチェルさんが現れました。
ご案内:「廃神社」に水月エニィさんが現れました。
加賀智 成臣 > 青垣山、廃神社。
神々しくも物寂しいその場所に、加賀智成臣は居た。
赤い塗りが剥がれ、木が剥き出しになった鳥居に体を預けるようにして、地べたに座っている。

「………。」

虚ろな目で虚空を見つめる姿には、生気がない。
この世界に自らの生きた証の何もかもを否定され、全てを失った男。

『生きていた事自体が間違いだった』と、念を押された男。
それが、今の加賀智であった。

その心は現実を蝕み、廃神社に近付く者を人知れず遠ざけていた。
今、この時までは。

「(………図書委員の人たちは、大丈夫かな。
  僕が居なくて、迷惑してないだろうか。……してないよね)」

他人の事を、考えた結果。それが、現実を改めて蝕んだ。

水月エニィ >  
 
「あの小屋はどこだったかしらね……
 ……って。何をしているのよ、こんな所で。」

 獣道めいた細い道の奥から少女が通り掛かり、声を掛ける。
 確か、大分前に見掛けた男性だ。
 見ていられなかったので飲食店に連れ込んで、ハンバーグを食べさせた気がする。

(……店の名前は何だったかしら。
 出会ったのは大分前の話だけれど、雰囲気が少し変わった気がするわね……。)
 

加賀智 成臣 > 「………………。」

顔を上げる。
加賀智の顔は、それはそれは酷いものであった。
目の周りは泣き腫らして赤くなり、顔には乾いて固まった脳漿と血がこびり付いている。
風呂にも入れずに外をさまよった結果、髪はいつにもましてボサボサで、顔にも軽く砂や泥がついていた。

「…………………。すみません。」

そして、その目は…ドス黒かった。
何もかもを呪い、恨み、懇願し、その上で打ちのめされたような、深淵の底を切り取ったような目だった。

水月エニィ > 「……!」 

 以前の状態は良好に見える程には、異様だった。 
 加賀智の状態を間近で見てしまったエニィの顔には苦いものが浮かぶ。
 ……顔についているものは、分からない事にした。

「何て顔をしてるのよ。ああもう……」

 ハンカチを取り出して顔を拭おうと、左手を伸ばす。
 見ていられないと言わんばかりに、意識するまでもなく身体が動いている。

加賀智 成臣 > 「………。」

その左手は、特に何にも遮られることなく加賀智に届いた。
ぱりぱりと乾いた血が剥がれてハンカチに張り付く。

「………すみません。すみません……」

当の加賀智はと言えば、謝るばかりで要領を得ない。
前よりも更にやつれたような気すらする。

水月エニィ >  
「ハンカチじゃダメね……」

 何か有っただろうか、と、普段使いのカバンの中を探る。
 たまたま持っていたウェットティッシュを取り出す。ついでに櫛も取り出そう。
 拒みさえしなければ――改めて顔、服を拭く。髪を軽く梳かそうと櫛を入れたが、ぼさぼさすぎて中々通らない。
 後回しにすることにして、大きな汚れだけ拭き取る事にした。

「良いわよ、別に。
 ……この前よりも随分ひどいけれど、何が有ったのよ。」

 謝り続けている。
 要領を得ない。故に改めて伺う。
 

加賀智 成臣 > 「……………。」

その問を投げかけられれば、顔を拭かれているのも気にせず俯く。
そして、ポケットからグシャグシャに丸められた書類を取り出す。
まるで、腫れ物か汚いものに触るかのように、その書類を摘んで手渡した。

そこには、悍ましいことが書かれていた。
望まぬ現実改変能力者。神の御業を持つ者。世界を弄ぶ力。

『アンディヴァインド』。それが加賀智の新たな異能の名であった。

レイチェル > 風紀委員レイチェル・ラムレイは時折、青垣山に寄ることがある。
山積みの仕事の合間を縫って、ふらりと。
彼女の生まれた世界では、こうも自然の草木が生い茂っている場所など、
そう多くはなかったのだ。
それが、彼女の生まれた世界だったから。
そんな世界が、彼女の日常だったから。
緑があるとすれば、それは人工の植物だった。

だから彼女は、たまにこの山に来て、人の手の加わっていない自然を
、満喫する。透き通った山の空気を肺に入れれば、
身体も心もリフレッシュされる気がしているからだ。


今日もまた、彼女はこの山へとやって来た。
何をする訳でもない。目的はリフレッシュの為の散歩だ。
しかし途中からその足はいつしか、廃神社へと向けられていた。
散歩の最中に感じた、異様な気配。
彼女はその源へと向かっていたのだ。

そうして、彼女は、自分にとって意外な組み合わせの二人に出会い、
声をかけるのであった。

「よう……また今日も大変そうだな、その、色々と」

その言葉は加賀智に向けられたものであったことだろう。
エニィへは視線をちらりと向けて軽い会釈をする。

加賀智 成臣 > 「………!!」

レイチェルを見れば、再び沈むように目を伏せる。
見たくなかったし、見られたくなかった。おそらく、この常世学園で最も接したのが彼女であるからだ。
……その関係が、虚無に虚構を塗りたくったものかもしれないなど、認めたくなかったから。
出来れば、二度と会いたくないとさえ思っていた。

「………あ……すみ、ません……」

ぼそぼそと、か細い声が口から流れる。

水月エニィ >  
「あら、いつかの風紀委員さん。
 ……ええと、こんばんわ。お知り合いかしら?」

 会釈を向けられれば、それを認めて確かな挨拶を返す。
 真っ先に加賀智へと向かい声を掛ける位だ。親しい仲なのだろう。

 挨拶の傍ら、差し出された紙に目を通す。

「『アンディヴァインド』――」

レイチェル > 「この間はありがとな、加賀智。で、えぇと知り合い、っつーか。
 友達だな、友達」

レイチェルは口にし、またエニィの質問へはそう返した。
細い人差し指で頬を撫でるように掻いて、視線は正面のエニィ達から逸れて何とはなしに横へと向かう。

「また出てるぜ、謝り癖。ほら、しゃきっとしろって、しゃきっと。
 で、何だその紙は?」

腰に手をやり、前のめりの状態で、先ほどまで頬に置いていた
人差し指をピン、と立ててそう言うのであった。
その紙の内容を見ようとエニィの方へと近寄るレイチェル。

加賀智 成臣 > 「……………すいません。」

その言葉は、地の底まで突き抜けるかと言うほど重かった。
平時の加賀智でさえ、ここまで沈んだ声色を出すことはなかった。

「………僕は、最低です。」

世界を好き勝手に書き換えて、全てを自分の思うがままに組み替えて。
無意識だったとしても、許されるものではない。
そしてなにより…そんな力を持っていては、なにもかもが虚構で、空虚だ。

自分の物語を持たない。他者の物語を書き換え、そこに自らを置くことしか出来ない。
クソッタレの神のなり損ないが、自分なのだ。……もはや、その力のルーツなどどうでも良い。

水月エニィ >  
「友達、ね。
 ……これは、加賀智さんに聞いた方が良いわ。」
 
 頬を掻く仕草を見る。
 はっきりとした物言いが濁った上で、友達と言い直した。
 仲が良さそう、と把握する。

 ……思う所はあるのだろう。
 腫れ物か汚いものに触るかのように差し出したものだ。
 それを加賀智の友人へそのまま見せてしまってもいいものか。

 覗かれる前に紙を閉じようとする。

 加賀智が見せたい・知ってほしい願えば、それは間に合わずに見えてしまう。
 見せたくない・知ってほしくないと願えば、すんなりと閉じた上で仕舞うだろう。
 
 今の所、レイチェルと加賀智の直接の会話に口を挟む素振りはない。
 

加賀智 成臣 > 加賀智の力は残酷だ。
何もかも、加賀智の感情を無視した上で、『加賀智が真に望むこと』を叶えてしまう。

知ってほしいと願えば、『知ってほしくないという感情』を無視してそれを知らせてしまう。
『望む結果』しか生み出さないそれは、無情だった。

レイチェルの目にも、それは入る。
それも、一瞬であるにも関わらず…すべての情報を、理解するような形で。

レイチェル > 加賀智の内側で起こっていた感情と異能の過程《プロセス》など知る由は
無かったが、それでも彼女の目には、彼の異能に関する情報が入って
来た。

初めは少しばかり、沈黙する。
アンディヴァインド、と名付けられたそれは、彼女が、そしてかつての
加賀智が思っていたような不死身の異能では無かった。
現実改変能力。彼の内に眠っていた異能は、
思っていた以上に強大な力であったのだ。
しかし、その異能の効果を知ったレイチェルは、すぐに合点が
いったようで、驚きの表情も数瞬ばかり浮かべたのみであった。
あくまで不死身は、副次効果に過ぎなかった、という訳であろう。

「……そういうことだったのか。その落ち込みようを見る限り、
 加賀智。お前自身もこの力については知らなかった訳か」

真剣な表情で、その紙に目を通した後。
さんきゅ、とエニィへ向けて口にして。
エニィから数歩離れた辺りまで、距離を空けた。

加賀智 成臣 > 「……………っ……。」

ぎち、と唇を噛んだ。
綺麗に拭き取られた顔に、唇から伝う血が赤い線を描く。

「…………はい。
 ………………………僕は、人を傷付けて……」

ぐっ、と胸を押さえる。
ごぼりと、喉の奥に熱い物を感じた。……血だ。
この状況で、相手に心配してもらうためだけに体の調子を壊したのか。そう心が命じたのか。
そんなことを思って、自らを侮蔑しながら血を飲み込んだ。

水月エニィ >  
「ん……見えてしまったのね。
 ……込み入った話をするなら、席を外すわよ。」
 
 距離を戻すレイチェルに応えつつ、加賀智へと視線を戻す。

 感情(エゴ)ではなく願望(エス)を叶える現実改変能力。
 その通りに神の御業を持つ力であり、聖女や聖人、"主の使い"、あるいは主そのもの。
 そのように語り継がれる類の異能。水月エニィの持つ異能とは、真逆のものだ。

「……確かに、最悪で、大変な異能ね。
 知らないわよあんなもの! って叫んでも赦される異能よ。」
 
 小さく首を振る。
 加賀智に向けられた言葉と瞳には、強い同情が宿っている。
 ……冗句めかした言葉はやけに堂に入ったものだったが。

レイチェル > 「ああ、悪ぃな。見させて貰った。
 席を外すかどうかは……任せる。
 ただ、席を外した後、このことについては黙っててくれねぇか。
 変な混乱を起こしちまうよりも多分、そっちの方が良いだろうよ」

現実を改変する――世界の法則を書き換える、というその性質は、
レイチェルの時空圧壊《バレットタイム》と同じだ。
しかし彼の持つ異能の場合は、その書き換える対象が『時間』に
限られてない。彼が望む限りありとあらゆるものが書き換えられていく
のだろう。
かつてこれ程までに強力な異能をその身に宿していた者が在った
だろうか。
レイチェルとしても、内心冷やりとしたものを覚えなかったか、
と言われれば否である。しかし、そんな感覚は一瞬で胸の内を
通り過ぎていった。
彼女は『彼の持つ異能』よりも既に、目の前の『加賀智成臣』に
目を移していたのだ。
ボロボロの姿になっている加賀智。おそらく、検査が終わった際に
騒動が起きたのだろう。そして逃げ回った挙句に今ここに居る、
そんなところだろうか。

レイチェルの内では異能を恐れる気持ちよりも、
彼を案ずる気持ちの方がずっと強かった。
見る者が見れば、逃げ出してもおかしくない。
聞く者が聞けば、罵詈雑言を並べ立てたとて、おかしくない。
しかし、彼女はそういった行動を取らなかった。
ただ、目の前の『加賀智成臣』だけを見ていた。
彼女自身も意外であった。
頭の片隅で意外に思いながらも、彼女の行動は、心は、そう在った。

「人を、傷つけたって? どういうことだ? 説明しろ、加賀智」

冷静な表情、そして声色のまま、レイチェルはそう語を紡ぐ。

加賀智 成臣 > 「…………………。」

加賀智成臣は、静かに語った。
とある女生徒との会談の際、その力の一端を見せたこと。
その力はその女生徒を傷付け、殺しはしなかったものの入院させるほどの怪我を引き起こしたこと。

この異能を知ったこと。
その直後に、とある男に自らの心の闇を射抜かれたこと。
その男を、その男という「現実」を、無意識に排除したこと。
そして、その男の排除を、自らの願望のままに行ってしまったこと。

説明というよりは、もはや自白に近かった。
それほどまでに加賀智の心は荒みきり、ささくれ、触れれば崩れそうなほどに疲弊しきっていた。
それほどまでに、この異能は…加賀智という『一般人』には過ぎたものであった。
扱いの分からない銃を唐突に持たされ、狼狽える少年のような、そんな様子であった。

「………………。」

冷静なレイチェルのその声色が、視線が、妙に肌に冷たく感じた。

水月エニィ >  
「それじゃあ、席を外しましょう。
 
 ……この異能については言われなくてもそのつもりよ。
 貴方にだって、彼の許可なし先に見せるつもりはなかったもの。
 でも、見る事が出来たということは――」

 加賀智 成臣と言う人間はレイチェルに自分の異能を知って欲しい。
 加賀智 成臣はレイチェルに自分の事を知ってほしい。踏み込んでほしい。
 感情では否定しながらもその様に願っているのだろう。
 紙面の中身を読み解けばそうなってしまう。

 故に明言はせず、言葉を引き伸ばした後に止める。
 さて、戻ろう。……そう思っていた所で強めの語句が聞こえる。
 声色こそ変わらぬが命令口調だ。

「気が変わったわ、もう少しだけ居ることにする。」

 腕を組んで瞑目する。
 語られたことは嘘ではないのだろう。
 だが、加賀智 成臣 が願望のままに現実を改ざんしてしまう能力者であるのなら、

(鵜呑みにするのは危険ね。)
 

レイチェル > 無言のまま、彼が紡いでいく言葉に対して頷くレイチェル。
その表情と声色は真剣そのもので、感情が浮かんでいない。
見聞きした者からすれば、底知れぬ冷たさすら感じるものであったかもしれない。

「お前がしたことを、簡単に許してくれる程世界は甘くない、
 とだけは言っておくぜ。
 オレだって、お前がしたことは許されることじゃねぇと思うさ。
 ……話を聞いてる限りは、な」


どういう事情があったのか、詳しい所までは彼の口から仔細に語られていない。
表面をなぞるに留まっている彼の話を、そのまま飲み込んでどうこう判断する気は、
レイチェルには無かった。故に彼が生み出した結果に対して、口を挟むことしか出来ない。
それでも、伝えたいことはあった。だからレイチェルは、口を開く。


「もう一度言うぜ、加賀智。
 オレはお前がしたことを、許せる……なんてことは言えねぇ。
 だけどよ、オレは――」

少しばかり黙った後に、レイチェルは語を継いだ。

 「――オレは、お前自身を、『加賀智成臣』を許さない訳じゃねぇし、
 お前を見捨てることもしねぇよ。
 お前が、自分の力を振るうことを楽しんで、誰かを傷つけることを喜んで
 いるような人間だったなら、別だ。でも、お前は違うじゃねぇか。
 お前はまだ、引き金を絞る指に重みを感じてる。
 だからこうして身体も心もぼろぼろになってここに居るんだろうし、
 そんな辛そうな顔してるんだろうよ。お前がそう在る限り、オレはお前を
 見捨てねぇよ」
 
真剣そのものの声色はそのままに、
その表情は少しばかり穏やかなものとなっていた。

「一緒に考えようぜ加賀智。いい道がある筈だ。
 少なくともここでぼろぼろになってへたりこんでいるよりも、
 ずっといい道が」

加賀智 成臣 > 「……………僕、に」

レイチェルの言葉を、静かに聞き続けた。
エニィの視線と、レイチェルの視線を、その身に受け続けた。

エニィの言うとおり、それを投げ捨てられればどんなに楽だったか。
しかしそれは、自らの過去を全て否定することにも繋がる。

「道は、ない」

もはや、何もかも終わりだ。
もはや、何もかも終わらせなければならない。
僕の異能が、彼女を変えてしまう前に。
僕の異能が、彼女に都合のいい事を言わせる前に。

加賀智の望みは、誰かに今の自分を認められ、許してもらうことだった。
それが、「叶ってしまった」。それが、自らの能力が引き起こした自作自演ではないと、誰が証明できるだろうか?

「……道は、ないんですよ」

進むも地獄、戻るも地獄。
その縋り付くような目と声で、レイチェルの言葉を静かに拒絶した。
誰よりも受け取りたかったその言葉を、誰よりも先に。

許してほしいという願望を、許されないという感情が、切り刻んだ。

水月エニィ >  
 彼の吐き出した言葉には思う所がある。
 そしてレイチェルの言葉はまごうことなき正論だ。その上で差し伸べる言葉だ。
 加賀智 成臣はそれを否定した。絞り出した否定の言葉は感情に因るものだろう。

「……」

 横目でレイチェルを見遣る。
 言いたい事もあるし、思う所もある。  
 だが……彼女が押し黙ったままとは思えない。
  

レイチェル > 「道が無い。どうしようもない。何もかも終わりだ。
 このまま生きていても仕方ない。先に良いことなんてない。
 自分が生きてる意味なんてない。
 どうしようもない。どうやったって無理だ。諦めるしかない。
 何も出来ない。死ぬしかない……ってとこか」

ネガティブな言葉をひたすら並べ立てるレイチェル。

「……加賀智。こんなことを言うのもなんだが、お前、ほんと昔のオレみたいだ。
 同じ、とは言わねぇが……他人の気がしねぇ。だからオレも、こんなに入れ込んじ
 まってるのかもしれねぇが」

レイチェルの頭に浮かんでいたのは、過去の自分だ。
悪魔の襲撃にあって家族が皆殺しにされたあの頃。
もうどうしようもない、そう思って震えながら銃口を自分の口に向けて。
それでも死の恐怖に震えて、撃てなかった毎日。
視界の中で。自分の手で放り投げた冷たく光る拳銃が、
床と一緒に揺れていたのを覚えている。

道なんてない、そう思っていた自分と一緒に歩いて、道を作ってくれた男が居た。
自分もそうなれたら、と。心の底からそう思っていた。
だから、レイチェルは口にする。
かつて、師匠《あの男》が自分に伝えてくれた言葉を。

「お前の前に道が、無い訳じゃない。見えてないだけだ。
 何故か分かるか? 
 下を向いてるからだ。そんな狭い視界で先が見える訳がねぇ。
 視界が涙でぐしゃぐしゃだからだ。そんな曇った目じゃ、道が見える訳がねぇ。
 道が無いと決めつけている間は、お前の目に道が映ることはねぇ。
 立ち上がって道を探せ。無ければ作れ。命があれば、それが出来る……

 ってな。昔、オレに言ってくれた人が居たんだ。バカなジジイだったけど、
 まぁよく色々とオレに教えてくれたもんさ」


レイチェルはクロークを翻した。
加賀智に背を向ける形で。

「それから。自分がしたことは、憎め。憎んで、蔑めばいい。気が済むまでな。
 だが、それでも自分は許してやれ。自分まで憎んで蔑む必要はないだろ。
 失敗したら、次はちゃんとした道に進めるように、頑張ればいいだけだ

 こいつは、受け売りじゃねぇ。オレからの言葉だ。
 立ち上がれよ、加賀智。
 ここでうじうじするのに飽きたら――もし立ち上がる気になったら、
 オレに連絡寄越しな。いつだって、支えてやるさ。友達なんだから」

このオレの態度や言葉が都合の良い改変されてないって、証明は出来ねぇけどな、と。レイチェルは悪戯っぽく笑いながら。エニィに会釈すれば、その場を後に――

加賀智 成臣 > 「…………………………。」

流れ出る言葉を聞き続ける。
彼女の過去に何があったのか、加賀智が知る訳はない。
しかし…その言葉が親身なのは伝わった。

その背を見つめる。その背を見送る。
はためく漆黒のクロークが、青空を削り取るようにそこにあった。

道は無いのではなく、見えないだけ。
……だとしたら、自分はどうすれば良いのか。
過去の道さえ、崩れて見えない。道とは何か。それさえ分からない。
その考えが溢れるように、加賀智の濁った瞳から、涙が滲んだ。

「………すみません。」

その謝罪は、癖か、礼か、それとも詫びか。
その真意は、加賀智自身にさえ分かるものではなかった。
ただ、その心の暖かさは感じ取れて。だからこそ、よりいっそう自分という存在が惨めに見えた。

水月エニィ >   
 
 会釈を受ければ、頷く。
 気遣っている事が痛烈に伝わる言葉だ。それが加賀智にとってどうあれ、そうであることには違いない。
 レイチェルが去るまで、黙って二人を見送るだろう。
 
「……。」
 

加賀智 成臣 > 「………水月さん。」

去ったレイチェルの背を見つめて、その姿が見えなくなるまで。
そのまま、エニィに声をかけた。

「どうして、僕はこんなことになってしまったんでしょうね。」

その問に、答えは求めない。
ただひたすら、空虚に、乾ききった言葉。

ご案内:「廃神社」からレイチェルさんが去りました。
水月エニィ >  
「……ふんッ!」

 レイチェルが去り切った事を確認してから、加賀智にげんこつを落とした。
 ……当たるかどうかは加賀智次第だ。
 
 

加賀智 成臣 > 「………。」

ごん、と頭に衝撃を感じた。
結構痛い。鍛えているのだろうか?

「………すみません。」

とりあえず、謝る。
何かされたら、理由を考える前に謝るのは、昔からの癖だ。
……その『昔』も、自分が作った望みの蓄積かも知れないが。

水月エニィ >  
「彼女の手前控えていたけれど、少しだけ怒るわよ。
 ……現実改竄の異能?願望通りになってしまう異能? はっ、そんなものは紙キレよ。
 貴方がそうなったのは異能なんて関係ないわ。貴方がふにゃけた思考と性格をしているだけよ!」

 苛立たしい。
 私《水月エニィ》と逆しまの異能を持ち、私《鏡花ハルナ》と同質のものを持つ彼が苛立たしい。
 それは決して彼が強者だからではなく、弱者だからではなく、勝負の土台に立とうとしないヘタレだから苛立しい!

「貴方の異能については同情するわよ。
 だけど何? その異能で本っ当に全てが思い通りになると思っているの?
 そんな訳ないじゃない! それは相当強力な異能だけど、貴方だけが特別じゃない!
 特別でもなければ全能でもない! ――ああもう苛立つッ!」

加賀智 成臣 > 「……そうですね。全部僕が悪いんです。」

すっ、と目を伏せる。
どす黒い目はどこまでも黒く、感情の起伏を感じさせない。

「……思い通りになんてなってほしくないですよ。何も。
 思い通りになんてならない方がよかった。……こんな異能、いらなかった。
 ほしいならあげますよ。あげれませんけどね……」

自嘲気味に冗句を飛ばす。……こんなことは、今まではなかった。

水月エニィ >   
「馬鹿言わない。
 本当にあなたが望むのならば、あげられないはずがないじゃない。
 ――それが出来ない時点でまやかしよ。心底ではあげたくないかもしれない?
  それならやっぱりあなたがふにゃちんの思考と性格なだけじゃない!」

 怒気を含めて言い放つ。
 イライラしていて、今にも殴りかかってきそうな熱気だ。

「ええ。だから何度でも言ってやりましょう!
 ――そうなったのは貴方がふにゃけたヘタレだからよ。異能は関係ないッッ!」

加賀智 成臣 > 「はぁ…。」

消沈した様子でため息を吐く。
だから何だ、と言わんばかりに。

「…すみません。
 ……だったらどうすればよかったんでしょう?」

エニィを見上げる。
その顔は、虚無に包まれている。

「…水月さんと僕は違う。貴女ほど僕は強くないし、強くなれない。
 ……こんな屑に付き合ってないで、他の人のところに行ったほうが良いですよ…」

水月エニィ > 「それよそれッ!」

 膝を蹴る。
 ガンガン蹴る。
 凄く蹴る。
 ……怒りに任せて噛み付いている。

「先ずは金輪際異能のせいにするのをやめなさい。
 全能を持った奴が強くないし強くなれないとか、悪趣味なギャグにも程があるわよッ!
 そのお得意の異能でどうにかしてみなさいッ!」

加賀智 成臣 > 「できるわけないじゃないですか。」

目の闇が濃くなる。
蹴られていても痛いのか痛くないのか、それすら分からない。

「出来ないことは出来ないし、そんなもの望んでませんよ。
 ……強くなって、何の得になるんですか?僕に何をしろって言うんです?」


「全能程度で神様気分なんて、僕には想像もできないです。
 ……こんなもの、要らないんですよ。こんな子供だましの異能。」

水月エニィ >   
「出来る訳ないならそんなに悩まなくてもいいわよね?
 それにそうね、いらないのなら私がもらっても良いわよね。
 あげられないといったけれど……現実を改竄できるなら、捨てられるでしょう?」

 苛立しく、眉を顰める。果てには揚げ足を取り始める。
 去る気もなさそうに、感情の侭に我儘をぶつけている。

「出来ないのならただのまやかしじゃない……!
 ただ現実を適当に改竄できる程度の異能なだけで、思い通りになってないじゃない!
 損得じゃないわ。貴方がとても腹立つのよ……!」

加賀智 成臣 > 「………。」

こんな下らない問答をするためだけに、この女性は自分に話しかけているのだろうか。
そう思うと、軽い怒りすら感じる。

「だったらどうするんですか。迫害すればいいでしょう。
 蹴って叩いて罵って嘲って、排斥すればいいでしょう。
 『好きにする権利』は貴女にもあるんですから。……さあ、どうぞ。」

そういって、エニィから目線を外す。
麓の町には、雨が降っている。

「じゃあ逆に……『どうやったら現実を改変できるなんて思うんですか』?
 手を振る?足を動かす?呪文を唱える?言ってみてください。
 『どうやれば、現実を改変できるんですか』?……分からないでしょう。僕にも分からないんですから。」

そう。
これまでの現実改変は、加賀智がしようと思って起こしたものではない。
『起きた』物だ。どれもこれもが、偶発的に引き起こされたものにすぎない。
そうでなければ、加賀智は早い段階でそれに気付いていたはずだ。

水月エニィ >  
「――聞いて頂戴。私は現実を改竄された覚えがある。
 私はした経験がある。だから確信を以って思えるのよ。 
 この世界での、本来の私の名前は鏡花ハルナ。
 この島以外では――教の聖女として、とある島に外来種が侵略する異変の解決に関与した。と言うことになっているわ。」

 一旦は怒気を抑え、加賀智を見つめ直す。

「だけれど私は水月エニィ。その異変が解決する前に島を支配されてしまった歴史の人間。
 それが、鏡花ハルナの起こした奇跡によって歴史が統合されたわ。そして、私に総てを寄越してくれた。」

 言い切り、疲れた素振りで首を振る。

「……まぁ良いわ。これは改変出来ると思える根拠なだけで重要な事じゃない。
 アイツ(私)は確かにコントローラブルにしていたわ。
 ……だから、コントロールできるモノと願っている。ええ、エゴでしょうね。
 振り回されるしかないなんて力なんて、見てるだけで厭になる!」

 一部を伏せて解釈を告げる。
 視線を逸らされれば加賀智の顔を引っ張って向け直しに掛かる。
 身体が止まらないと言わんばかりの乱暴さだ。

「貴方の異能がそうだなんて言わないし、このまま話していても堂々めぐりなのも薄々分かっているわ。
 ……でも……あんなにボロボロになった貴方は見ていられないし、自慢げに卑下している腹立たしい。
 わけわからないわよ……ここで見捨てる程薄情にもなれないし、ここで見ないフリを出来る程寛容でもないわよ……」

 拳を握り伏せ、目を伏せた。
 

加賀智 成臣 > 「…………………。」

言葉の羅列が、耳に染み込む。

「……へぇ、すごい人だったんですね。
 ……僕に、その人の真似事をしろとでも言うんですか?」

ぐい、と首をむりやり曲げられる。
グキ、と首から音がした気がするが、そんなことはどうでも良い。

「………………。
 死にたいですね。」

少しだけ唐突に、そんなことを口にする。

「……誰かに迷惑をかけるくらいなら、死んだほうがマシですよ。
 こんな異能、あってもなくても同じです。……人に迷惑をかけるくらいなら……
 …僕は、誰かに辛い思いをしてほしくない。……呪われ、蔑まれるなら、それは僕が良い。」