2017/09/15 のログ
HMT-15 > 「・・・。」

影が独立して動いていた。
その影は微笑み手を振って降りていった。
影は実体がなければ存在できないがこの空間には
生憎その実体と呼べるものは存在しない。
そしてその影が微笑んだ対象、その少女には
見覚えがあった。

「都市伝説、現代に言い伝えられている噂話。
信じるか信じないかじゃない。
実際の目で見る事が重要であると判断する。」

相変わらず異様な雰囲気を漂わせている
少女ーカナタをまっすぐ捉えれば
低い機械音声でそう返す。

「この車両もその都市伝説とやらなのか?
非常に興味深い。」

一周ぐるっと車内を見回してから
頭を傾げてそう尋ねる。
その直後に

「久しぶりだ、カナタ。」

軽く楽しそうな彼女に対し
思い出したかのように無機質な挨拶をする。
ロボットにとっては久しぶりだが
彼女にとってはどうなのだろうか。

宵町 彼岸 >   
「見る、っていう行為がどこまで信用できるかは正直僕には疑問だよ
 ボクは人を見ても、人としか見えないからねぇ」

ゆっくりと機械の方へと向き直る。
普段は現を見ていないような瞳が低い声を発するそれの上で焦点を結ぶ。
そして目を細めて小さく小首を傾げた。

「久しぶり、なのかな?
 こんな所で乗り合わせるなんて奇遇だねぇ。
 僕は特に用事はないから乗りっぱなしだけれど……
 間違えて乗ったならどこに運ばれるかわからないねぇ」

くすくすと笑いながら穏やかな声色で話しかける。
乗り合わせる……まるで偶然乗ったかのような言い草だがある意味嘘ではない。

「いちろーくん、だっけ?
 これが都市伝説かどうかは、
 それこそ君が決めればいいんじゃないかな。
 君の視界にこの車両はうつってるんだろう?
 なら判じるのもまた君なんじゃないかなぁ」

最も、彼の目(センサー)から何がどこまで見えているのかは定かではないけれど。
少なくともこの車両にいる誰かや何かが一人でも見えているのなら
それはそれで面白いかもしれないとどこかで思いながら肩の高さで小さく手を振る。

HMT-15 > 「むしろ見なければ何もわからない。」

彼女の疑問にロボットはそう答える。
認識というものについては見るという事から始まる。
見えなければ信用できるものも信用できないものも存在し得ない。

「確かに奇遇だ。
む。どこに運ばれるかわからないか。
それはいい、見知らぬ景色は好奇心を刺激する。」

穏やかに笑う彼女に呼応するかのように
ロボットもまた一種の楽しさをその無機質な
声質の中に含ませているだろう。
また彼を縛る任務は目的地から始まる
ゆえに目的地に着かなければ彼は縛られない。

「いちろー・・・?ボクはイチゴウだ。
センサーがこの車両を捉えたならば
それは真実であり嘘ではない。
少なくともボクにとっては。」

彼女から発された名前に一瞬混乱しつつも
それが間違えられた名だと気づけば訂正する。
そして感じているものが嘘みたいなものでも
実際に感じているのならその者にとっては真実だ。

宵町 彼岸 >   
「ふふ、なるほど真理だね。
 見なければ何もわからない……かぁ」

一瞬ぱちくりと瞬きをした後

「何と言うか、ボクの知ってるいちごー君とは
 少し変わったみたいだねぇ。
 喜ばしい事なのかもしれないね。
 なんにせよ進化したと言えるわけだものぉ」

呟くように告げる。
彼女の中での彼は
彼女が投げかける言葉に戸惑い、純粋無垢に悩む雛鳥だった。
けれど目の前のこれは明確に何処か一線を引いている。
以前に比べて自我が形成されたとみて良いだろう。
それはある意味とても悲しい事であり、同時に喜ばしい事でもある。
少なくとも彼女にとっては。

「彼が聞いたら喜ぶだろうねぇ」

零した言葉はその心中を移すかのように複雑な声色が含まれていた。

「それで、君にとってここは居心地が良い場所なのかな?
 少なくとも景色はとても綺麗だけれど、
 移動手段としては少々先行き不安だよねぇ
 これは一夜限りの夢の様なものだからぁ」

彼と共にこの列車に乗った者達の中には
ずっとこれに乗って居たいというものもいる。
その願いはいつも半分だけ叶えられることになるのだけれど……
目前の彼はそういう訳にもいかないだろう。
彼は帰らなくてはならない場所を持つものだ。
本人が望むにしろ、望まざるにしろ。

「そっか、君にとっての真実、
 見つかったんだね」

窓に背を向け月の光をその背に受けながら優しく微笑む。
その表情は今まで見せた事がないほど穏やかなものに見えるかもしれない

HMT-15 > 「いや、ボクは何一つ変わっていない。」

投げかけられた彼女の言葉を即座に否定する。
確かに自我形成というステップは進んでいるかもしれない。
だが彼はまだ指令に縛られるお人形に過ぎない。

そして不意にロボットは席へ軽く飛び上がり
流れてゆく窓の景色を眺める

「ここは不思議な場所だ。
ボクに行き場所を選ぶ権利はない。
だからこそ安心はする。」

今、彼に目的地を選ぶ自由があれば
間違いなく任務を執行しようとするだろう
自ら縛られにゆくのだ、本能的に。
それが彼にとっての帰る場所。
肉体的な自由と精神的な自由は一緒ではない。

「ここにあるボクは真実。
・・・真実は変えられるか?」

優しく微笑む彼女とそれを照らす月の光
それはまるで絵画の世界かと思うほど。
その前に質問を飛ばす彼は
困り果てていた。

宵町 彼岸 >   
「そう」

まるで切り捨てるかのように性急に返された回答にただ頷く。
彼は気が付いているだろうか。
彼が自然に語るその立ち位置が既に、以前の彼から変わってしまっている事を。
けれど彼女はそれを告げず、ただ小さく頷くだけ。

「そうだね。
 これはそういうものだから。
 ただあるべきモノがあるべき方へ向かう
 その流れの中に在るもの……とでも言えばいいのかなぁ」

彼の中に設定された黄金律が変わる事は
これから先沢山の出来事が重ならなければ無理だろう。
純粋に、この目の前のこれはとても強い。
それを縛る鎖を必要としないのであればそもそも必要としない類の力を
これは自在に操るように出来ている。
だからこそ……

「変えられるよ
 君が望むことを知った時、
 君が君であろうとした時に」

穏やかに、けれどしっかりと頷く。
月の光を背負いながら、その影を抱きながら
それでもなお笑みと分かる表情を浮かべて。
それはある意味慈愛に近い感情。

どうしても優先しなければならない物が出来た時
たった一つのそれを守るために、他のすべてを差し出す時。
彼は何かを選ぶだろう。
例えそれが今までと同じものであるという選択であっても
其処には目に見えない鎖の様なものが出来上がる。
……今の彼がそうであるように。


――人はそれを呪と呼ぶ。

HMT-15 > 望む事を知れば真実は変えられる、
彼女はそうロボットに告げた。

「そうか、・・・そうか。」

一言目はぼんやりと二言目は自らに刻みつけるようにしっかりと。
彼を縛るプログラムという鎖は電子の呪いと取れるかもしれない。
果たして彼がそれを破る日は来るのだろうか。

間もなく彼はフリーズしたようにしばらく動きを止める。
直後に彼は自身の目に当たるカメラアイを一旦閉じまた開けば

「指令を受信。
やはり気ままな旅を送る必要はないようだ。」

そう低くつぶやき窓から離れて席を降りれば
車両の搭乗扉の前に待機する。
彼の夢はここで覚める。

「今日はありがとう、カナタ。
また会おう。」

列車が停車しその扉を開けば彼は別れの言葉と共に
現実へと帰っていくだろう。
またその際にどこで学んだのか
左目を閉じるいわゆるウィンクという動作を彼女へと送る。

宵町 彼岸 >   
まるで悩むかのように動きを止めるそれをただじっと見つめる。
辺りを照らしていた月の光が雲に遮られ、まるで心中を写すかのように
まるで深海の様な闇を世界へと投げかける。
その中でぼんやりと光るような瞳は確かに彼を見つめ、
そして優しく見守っていた。

「……そっか。
 行ってらっしゃい。
 君が選択するその日まで君であり続けるために」

そう告げて夢はただ静かに現実へのステップを下す。
行き先など告げられていないにもかかわらず
何時しか列車は内地に入っており、
扉があいた場所は彼が向かうべき場所の近くの一角。
本来この区画には線路すらないけれど……
一晩の夢ならばこんなことがあってもおかしくはない。

ウィンクと思しき動作を見せた後、
静かに町の闇へと溶け込んでいく彼を見送りながら
列車のドアは閉まり、再びそれは走り始める。
カタン、カタンと音を立て、
何一つ変わらないかのように変われない何か達を運んでいく。
それはさながら厳粛な葬列のよう。

「ボクの様になっては駄目だよ。
 例え作られた者でも、その心すら電子の波に縛られていても」

この列車に乗っているべきなのはきっと彼女自身なのだろう。
ある意味彼女はもうずっと昔から死者そのものだ。
彼は機械かもしれないが、それでも
……自分よりもはるかにずっとヒトらしい。
それならいつか、その境界線で揺れる日も来るかもしれない。
だからこそ……

「……キミがキミの夢(世界)で生きていく事が出来ますように」

小さなつぶやきを乗せた都市伝説はゆっくりと
まるで慟哭の様な車輪の音を響かせながら
ただただ静かに夜の闇へと溶けていった。

ご案内:「列車内」からHMT-15さんが去りました。
ご案内:「列車内」から宵町 彼岸さんが去りました。