2015/08/02 のログ
ご案内:「常世寮/女子寮、自室」に鈴成静佳さんが現れました。
鈴成静佳 > ただいまぁ~。
(陽も暮れ始めた頃。やや疲れの色の見える声とともに、自室の戸を開ける静佳)
(部屋には誰もいない様子。せっかくの夏休みだ、この時間に誰も彼も外出中なのは当然ともいえようか)

(私室に入ると、ベッドの脇の戸棚には大きめのフォトフレーム)
(仕事に行く直前に歓楽街でビアトリクスさんと出会い、描いてもらった似顔絵だ。赤と緑の線が踊り、笑顔に満ち溢れた、自分の顔)
(定着液をかけてもらい、さらにアクリル板でしっかりとサンド。スケッチブックの画用紙も、しっかり飾れば様になるものだし、日持ちもするだろう)
……フフッ、何度見ても、良い絵だなぁ。
(つられて静佳もひとり微笑む。笑顔こそが静佳のあるべき姿なのだ)

鈴成静佳 > (実際、仕事は楽しかった。歓楽街、『ハニー・バレット』での仕事)
(静佳が働くのは主に昼ということになったが、分類としては「夜の仕事」だ。もちろん、夏休みや休日は呼ばれれば夜でも行く)
(今日も、6人ほどの男女と【特殊Free】してきた。店の性質上、お客さんにも『嬢』にも異邦人が多い。様々な人が暮らしているんだなぁと感心しきりであった)

楽しんでもらえたかな、アタシで……。

(少なくとも、お客さんは皆、満足気な顔で、あるいは笑顔で静佳の「部屋」を去っていった。また指名するね、と声をかけてくれた人もいた)
(それでも、やはり自信があるかと言われれば、100%ではない)
(自分はまだまだ未熟者のはずで、生き方を見つける・学ぶためにこの島に来たのだ。異邦人との交流は、毎日が発見と戸惑いの連続だ)

(楽しかったが、疲れた。クーラーを入れ、Tシャツ姿のまま体をベッドに横たえる)
ふぁぁ……。

鈴成静佳 > (仰向けで部屋の蛍光灯を見上げる静佳。仕事の成果とは別に、気になることがあった)

………。
(寝転がったまま、下腹部に異能の力を集中する静佳。もこ、とハーフパンツの股間が盛り上がる)
(生えたのだ)
(そして、もう一度集中を加えると、今度はへこむ。消えたのだ)

(普段であれば、この時間に部屋に一人であれば自慰としゃれこむ所だが、仕事で満足できたため、そんな気分にならない)
(それに、ビアトリクスさんに描いてもらった絵。あれに微笑みかけられていると、興奮が落ち着いていくのも感じる)
(……そうではなく)

……これ、どうやって生えたり消えたりしてるんだろう……。

(『自販機』から1万円で買ったドリンク『変身しよう!』を飲み、死にかけた末に得た『後天的両性具有』の器官)
(出し入れの方法はその時、死にかけたときに教えられた。謎の……『異能』を名乗る者から)

鈴成静佳 > (仕事中も、相手に合わせて生やしたり消したりを繰り返した。そうする内にふと湧いた疑問)
(自分で事も無げに行っているにも関わらず、その原理が分からないのだ)

(否。原理は字面では分かっている。自らの『異能』から教わったとおりだ)
……前後でも左右でも上下でもない方向へ「揺らす」……。
(その意識を、下腹部に集める。ヨガで丹田を意識するときのように。すると、生えたり消えたりするわけだ)
(ちぎれ飛んだりくっついたりしているわけでもない。そこがブレて、次の瞬間には「その状態」になっている)

……何を、揺らしてるんだろう? どこへ?

(疑問を口にするが、これも薄々は答えが分かりつつある)
(何を。それは、おそらく謎ドリンク『変身しよう!』に含まれていた成分だ)
(そして、どこへ。それは……そう、死にかけた時に垣間見た、あるいは瞬間移動術の間に度々垣間見る、あの『世界』……)

鈴成静佳 > (仰向けのまま手を頭上に伸ばす。戸棚の上、自らのスケッチ画の横に置かれている目覚まし時計を手探りで手に取る)
(時刻は18時を少し回ったところ。カーテンの外の空はまだ明るい)

(……毒素を、「前後左右上下のどちらでもない方向」に揺らし、出し入れしているとしたら)
(それ以外のモノも、同じことができるのでは)

……いや、きっとできるはず。

(そう、自分はすでにそれを無意識のうちに行っていたはずだ。『自販機』に出会う前から)
(瞬間移動術を行使する際は、自分のいる空間と行き先の空間を「揺らしてつないで」いる)
(では、揺らすだけで「つながない」とどうなるのか)
(怖くて自分で試す気にはなれなかった。またあの世界に閉じ込められるなんて、死んでも嫌だ)

(目覚まし時計を凝視する。そんなに高価なモノではない)

鈴成静佳 > (手の中で時を刻むデジタル電波時計。その「存在」を揺らす。前後でも上下でも左右でもない、第4の方向へ)
(実際には、そんな方向はない。感覚の上では。なので、本来の異能のとおりに手を震えさせ、そこに「何か」を重ねるイメージを描く)
(この「何か」の具体的な像がわからないまま。『異能』から教わったとおりに、脳にある何かを引き出す)

………!

(手の中から、時計が忽然と消えた)

鈴成静佳 > (消えた。しかし、依然として目覚まし時計が「手の中にある」という感覚がある。硬さも重さもない、ただ「存在する」という雰囲気が)

………マジで。

(何も握っていないはずの右掌。そこに、再び先ほどの異能を集中させる)
(前後左右上下のどちらでもない方向、その「奥」に仕舞われてしまった目覚まし時計を、引き出す)

………!

(引き出せた)
(目覚まし時計は、先刻と全く同じ姿で手の中にあった。時も進み続けている)

鈴成静佳 > こりゃ便利……。
(……と素直な感想が口をついて出るものの、次の瞬間に感じたのは、得体のしれぬ不快感だ)

(この目覚まし時計が「仕舞われていた」場所。それは、静佳が幼少期に半年間捕われ、孤独の果てに追い込まれた《白い街》に他ならない)
(目覚まし時計にもその世界……異次元といったほうがいいのか? そこの空気が纏わりついているのを感じると、胃のムカつきを覚える)

(同時に、少しの恐怖)
(ものを消し去るという力。小さな家具を容易く消し去って見せたが、もしこれを他人に使えたとしたら)
(……少なくとも、静佳にそんな意思はない。手に余る力であり、権能だ。できれば持っていたくない力とさえ言える)

………。
(とにかく、自己分析の必要はある。もう一度、目覚まし時計を『消す』)

鈴成静佳 > (そのままベッドから体を起こし、私室の扉のあたりまで歩いてみる)
(クーラーの風が頬を撫でるとヒンヤリと冷たい。知らぬ間に汗をかいていたようだ)

(1分ほど時間が経っても、そして場所を移動しても、相変わらず目覚まし時計は手の傍に『有る』という感覚が残る)
(どうやら、仕舞ったものは……あるいは《白い街》という世界そのものが、自分の周囲にあり続け、ついてきているようだ)
(そう考えるとまた少し気分が悪くなるのを感じる)

(時計を取り出そうと、揺らす異能を掌に集中した、その時)

………ひっ!?

(パァン!! と激しい破裂音が部屋に鳴り響き、手から肘にかけて鋭い痛みが走る。静佳は思わずのけぞり、壁に背中をしたたかに打ち付ける)
(蛍光灯が一瞬だけ切れ、点滅ののちに再び灯った)

(床に転がる目覚まし時計は、角のほうが黒く焼け焦げており、デジタル表示の液晶には黒いヒビが蜘蛛の巣のように走っていた)

鈴成静佳 > …………!!
(背筋に力を込めて壁から跳ねるように離れたかと思うと、静佳は時計を飛び越え、私室から駆け出す)
(そして共用のトイレへと転がり込み……嘔吐した)

(5分近く便器に向かい、目を剥きながら胃の不快感と戦い続ける静佳)
(右手を襲ったのは、感電の衝撃。雷サージを受けたあの時と比べればどうという事はないが、トラウマを呼び起こすには十分すぎた)

……ハァ、ハァ……。
(冷や汗が全身に浮かび、Tシャツを濡らす)

……やっぱり……か……。
(感電の理由、時計が破壊された理由を考えようとして、すぐに答えは見つかった)

鈴成静佳 > (《白い街》には、《雷の魔物》がいる)
(静佳が捕らえられている間、何度も目の前に現れ、雷サージに感電したときの記憶を呼び覚ましてきた魔物)
(そして、『異能』は言っていた)

『よくないものが、お前を殺そうとした。それは俺がここに「放逐」した』

(そうだ、きっと)
(《雷の魔物》は、静佳を襲った雷そのもので。放逐されたあとも、《白い街》で生き続けていて。目覚まし時計はそいつに触れられたのだ)

……とんでもない、シロモノっすね。異能ってのは……。

(バチバチと弾ける、不定形の火花の塊。『奴』の姿を思い出し、また吐いた)

鈴成静佳 > (『異能』はこうも言っていた。手や体を振動させるのは、静佳の異能の本質ではない、と)
(いまではその言葉をなんとなく理解できる気はする)
(……しかし、理解したくない)

……要らないよ、こんな力……。

(モノを、あるいはヒトを、孤独の世界へと『放逐』する力)
(そんなのが、静佳の異能の本質だとしたら。極めて不本意といえる)
(自分はただ楽しく笑って人生を過ごしたいだけだ。誰かを孤独に追いやるなんて……)

(吐き気が収まれば顔を洗い、前髪から水を滴らせながらリビングへと戻る。その顔には快活な笑みはなく、どこか虚ろな表情)
(こんなことを試すのではなかった。何もなかったことにしよう。そうブツブツと呟きながら、自室へ向かう)

鈴成静佳 > (感電事故のトラウマを引きずり出されると体力をひどく消耗する。何年経ってもこれには慣れない)
(ベッドに体を横たえようとした時、再びあの絵が目に入る。絵の中の静佳は変わらず、弾けるような笑みで躍っている)

……………。

(苦笑を浮かべるが、その笑みは絵の中の静佳とは程遠い、疲れきった笑みだ)

(常世島に来て初めて、自分の未来に黒い靄が掛かるのを感じた)

ご案内:「常世寮/女子寮、自室」から鈴成静佳さんが去りました。
ご案内:「水族館」にギルバートさんが現れました。
ご案内:「水族館」からギルバートさんが去りました。
ご案内:「水族館」にギルバートさんが現れました。
ギルバート > 水族館前。繁盛期ともあり入り口からしてかなりの客入りが見てとれる。
少年はといえばそこから少し離れた大時計の下。彼と同じように、待ち人を待つ姿がぽつりぽつり。
待ち合わせ時間までは暫くあるが、どうにも落ち着かず早めにきてしまった。
焼き焦がすような日差しを浴びながら、ごくりと水を飲む。

「流石にあっついな……。」

ご案内:「水族館」にレイチェルさんが現れました。
ご案内:「水族館」からレイチェルさんが去りました。
ご案内:「水族館」にレイチェルさんが現れました。
レイチェル > 「結構早めに来たつもりだったが、もう来てたのか、早ぇな」
とたたーっと、人混みの向こうから走って来たのは
純白のワンピースを身に纏ったレイチェルであった。
休日で、見回りという訳でも無いので完全に私服のようだ。
ただし、眼帯はそのままである。

ギルバート > 「いや、なんかこう……ソワソワしちゃって。
 呼び出し喰らった時より緊張してるんじゃないかなって。オレ。」

頬の汗を拭いながら笑いかける。
冗談混じりの本気混じり。
入場券を手渡し歩き出す。

「どう? そっちは最近。
 大掛かりな事件も減ってきたし、平和にはなってきたのかなって。
 少しずつだけどさ。」

レイチェル > 「は? 何で緊張なんかする必要あんだ?」
きょとんとした顔で小首を傾げるレイチェル。
眩いばかりの白のワンピースを薄い黒のカーディガンで
抑えてある。涼しげな服装であるが、それでもやはり暑いらしい。
走って来たこともあってか、額には少々汗が浮かんでいる。

入場券を受け取ると、一緒に歩き出した。

「まー、どうだろうな。台風一過、って訳にもいかないんでな。
細かい事件や厄介事なんかは色々あるし、な」
やれやれ、と呟くレイチェルであった。

「暑くてかなわねーや。さっさと入ろーぜ」

ギルバート > 少し並んだものの、スムーズに中へと案内された二人。
空調の効いたひんやりとした空気が、火照る身体に静かに染みいるようだ。
薄暗い照明の中、道を示すように床面にはライトが点在して順路を示す。

少し進めば展示コーナー。
壁に埋め込まれる形で収められた水槽には、聞いた事もないような亜熱帯の魚が回遊している。

「はー。こういうって妙にカラフルなんだなー……。
 真っ赤だったり真っ黄色だったりさ。
 島の外じゃウヨウヨ泳いでるのかな?」

興味深そうに中を覗き込んでいる。
物心付いたときには島で暮らしており、外の世界についてはまるで知らなかった。
だからだろうか、普段触れない文化と知識のためかいつもの彼より幾らか饒舌。

レイチェル > 「は~、やっぱり凉しいぜ~、水族館! 来てよかった~」
そう言って、く~っ、と声をあげながら伸びをするレイチェル。

「何でこいつらこんなにカラフルなんだろな。こんなにカラフルにしてたら
 海の中で天敵に目立って喰われたりしねーのかね」
と、顎に手をやりながら水槽に顔を近づけるレイチェルであった。
レイチェル自身は、島の外、寧ろ外の世界の人間だ。
自分の世界では見たことのないような魚に興味津々の様子である。


「いや~、めっちゃ綺麗だなほんと。ていうか今日なんかお前すげー
 喋るな? 魚好きなのか?」
と、饒舌なことにツッコミを入れつつ問いかける。

「いやしかし、驚いたぜ。何か急に呼び出すもんだから、仕事の話かと
 思えば水族館だとか、さ。まぁ水族館とか一人じゃ来にくいもんだよな
 ~。まさか、お前他に友達居ないのか?」
などと、少し悪戯っぽく顔を覗きこんでみたりなどするレイチェルであった。

ギルバート > 「……なっ! ちっ ちげーよそんなんじゃなくてっ!!」

その表情があまりにも近くて。
心が覗き込まれるような気がして。
思わず距離を離す。散歩後ずさり咳払いがひとつ。

「あのな、野郎連中でこんなトコ来ても台無しだろ。
 だからってワケじゃないけどさ……。
 ……普段仕事の話ばっかじゃん。たまには息抜きもいいかなって。
 そう思っただけだよ。」

レイチェル > 「何か今日のお前面白いな~」
くくく、と 腕白な様子で笑うワンピースの少女。
今日の彼女もすっかりオフモードのようで、
時折見せる歳相応の顔も前面に出てきている。

「そいつはありがてぇ気遣いだ。
 同じようなこと五代先輩にも言われたぜ。
 確かに息抜きは必要だよな~」
そう言って笑いながら、水槽の中で泳ぐ魚達を眺める。
色とりどりの魚達が、あちらこちらへ、自由気ままに泳いでいる。

「ま、それだったら良いんだ。ギルバート、お前さ、いつも割と
 感情とか見せないじゃねぇか。たまーに熱いとこあるけどさ。
 オレ以外に友達いねーのかと思って心配しちまったぜ」
そう言って腰に手をやりながらふっと笑うレイチェルは、
次の展示行こうぜ、と催促するように、ギルバートの前を歩き出す。

ギルバート > 「お前なあ……友達なら幾らでもいるってば……ったく。」

口を尖らせてレイチェルの後ろをついていく。
語調を別として悪い気分ではない。それはきっと、彼女にも伝わっている。

少し進めば細長いトンネルに入った。
全周囲がガラス張り。まるで海底を散歩しているような不思議な錯覚。
イワシの大群がくるりと孤を描き、黒と銀の軌跡をなぞっていった。

「そういや五代サンとは仲良いのか?」

ポケットに手を突っ込んだまま、特に他意はなく。

レイチェル > 「すげぇ~! 海底歩いてるみたいじゃねぇか! ここで立ってるだけで涼しげ
 に感じるってもんだな」
両手を広げて、横を見渡し、頭上を見上げる。
一面の青、青、そして青。
その中を、魚達が忙しなく泳ぎ回っている。

「ん、五代先輩か? いい先輩だけど……」
ポーズはそのままに、ポケットに手を突っ込んだギルバートの方を振り向く
レイチェル。

「仲がいいかって言われたら、わかんねーな。だって先輩、あんまりそういうの
 表に出さねーじゃん? 知ってるだろ? だからわかんねぇ」
困ったように笑って、人差し指で頬を掻く少女であった。

ギルバート > 「んー、そんなもんなんだ。
 わりと仲良さそうだったからさ。
 ……あの人、男から見て格好良いんだよね。仕事する時はきっちり仕事するって感じが。」

何処か安心するのは自分も男だからなのかと、内心引きつるような苦笑い。

「彼女いるのかなー、あの人。
 私生活全然見えないんだよなー。
 なあ、見たことある?」

レイチェル > 「そ、そうか? 仲いい……って言えるもんなのか、あれ?」
腕を組んで小首を傾けるレイチェル。
彼の前でオレ達仲いいよな、などと声をかけたらどんな反応
をするのだろうか、そんなことを頭の中で思い浮かべる。
結果、想像できなかった。

「いや、見たことねーな。でも、もし彼女居るとしたらすげー
 出来る女、なんだろうなぁ……確かに気にはなるよな。
よし、今度ちょっと彼女居るかどうか聞いてみるか」
よし、と思い立ったレイチェルはにこっと笑ってそんなことを
口にするのであった。

「ギルバートは彼女とか居ないのかよ? ……って居たら彼女と来てるか。
 なら好きなタイプとかさ~」
恋バナ。
彼女にしては非常に珍しい話題であるが、そんな彼女の口からこのような
話題が出るのもオフならではといったところだろうか。

ギルバート > 「生まれてこのかた一人もいねーよ!
 だいたい仲の良い女子なんて全然いないし。
 ここ選ぶのだって、すっげー悩んだんだぜオレ。ほんと。」

言葉に刃があったら今頃失血死している状態である。
下腹部の架空の痛みに耐え、そのまま明るい場所へ歩いていく。
ベンチがいくつかと自販機。いわゆる休憩コーナーだ。

「さっきの話の続きだけどさ。
 正直なところ、自分でもタイプとかわかんないんだよな……。
 普通さ、今までの人生経験とかが好みに影響すると思うんだよ。
 オレ、昔のこと全然覚えてないから。気付いたらこの島にいたし。
 だから……あ、何か飲む? ついでだし一緒に買うけど。」

硬貨を入れて麦茶を選ぶ。
ばたん、と大きな音。

レイチェル > 「そ、そいつはありがとよ……でもさ、お前の場所選び、すげー良いと
 思うぜ。オレは楽しめてる」
この場所を選ぶのに悩む彼の姿を思い浮かべて何となく申し訳なくなる
レイチェルであった。


「ま、そうだな。オレも、タイプって言ったらこう、ぐいぐい引っ張ってくれる
 ような男がタイプだけど、やっぱり師匠の影響が大きいからなー、それも。
 ああ、師匠ってのはオレの父親代わりだった人だったんだけど……」
そこまで言って、何か飲むかと聞かれれば、じゃあメロンソーダで、と
返す。

「そうなんだ、昔のこと全然覚えてねーんだな。じゃあ、もしかしたらこの島
の人間じゃねぇ可能性もある訳か?」
全くの初耳であったレイチェルは、そう問うた。

ギルバート > 「そ。この島で人身売買やってた奴がいてさ。オレはそいつのとこにいたよ。
 いたらしい、かな。今じゃ全然覚えてなくて。だから殆ど公安で育ったようなもん。」

同じく大きな音を立てて出てきたペットボトルを手渡し、空いてるベンチに腰をかける。

「本当は名前だって違うんだぜ。きっと。
 笑っちゃうよな。」

ペットボトルの先に指をかけ、ぶらぶらと。

「な、師匠ってのはどんな人だったんだ?」

レイチェル > 「人身売買か……じゃ、公安って組織が家みたいなもんだった訳だな」
まさに、常世学園の暗部である。
まだそういった件について捜査などの形で関わったことは無いが、
いずれ関わることになるかもしれない。そう思うレイチェルの顔は、
先までと違って凛と引き締まっていた。


笑い話じゃねぇだろ、と。
声をかけようと口を開くも思い留まるレイチェル。
笑い話なんかではない、と。
他者から改めて告げれば、それが彼の心に重くのしかかる可能性だってある。
だからその言葉はそっと胸の内に押し留めた。


「師匠か。とにかくすげー人だったぜ。純粋な人間なんだけどな、魔狩人と
 しちゃ超一流で、どんな悪魔でも魔物でも、魔剣で一刀両断。負け知らずの
 師匠だったぜ。それに強いだけじゃなくて、料理もできて色んなこと知ってて、
 、オレに教えてくれた。恩人だったぜ、ほんとに」
レイチェルの表情は一見得意気に語るだけのようだったが、少しばかり
寂しさを覚えるものだった。

ギルバート > 「腕っ節も強くて料理もできるか。
 なんつーか、勝ち目ないなあ……凄いよその人。」

ただの人間。その一言だけで自分とどうしても比較してしまう。
特異な能力もなければ魔術だって使いこなせない。
それでもなんとかやってはいるが……日々憧れないと言えば嘘になる。
続く言葉を探しながらちらりと横目に彼女の顔を見やれば、色の変化は確かに見て取れた。
どうしたものやら。

「……話は変わるけどさ。
 お前は彼氏とかいないの? それこそタイプとかさ。」

レイチェル > 「ま、50過ぎのおっさんだったけどな。腰痛が最大の弱点」
にっと笑って、ソーダを口にする。
話題が変われば、先のような彼女の淋しげな表情は見られなくなる。

「さっきも言った通りタイプはぐいぐい引っ張ってくれるような男だけど、
 今は別に彼氏は居ねーなー。学園に入ってからまだ日が浅いし、その浅い
 日も殆ど風紀の仕事で潰れてるからなー。学生っぽいこと、したいとは思う
 んだけどなー、どうにもな」
ぐいぐい、とソーダを喉に流し込んで、容器をゴミ箱へ投げ捨てる。

ギルバート > 「ぐいぐいなー。それ以外ないってことは外見は特に指定ないわけだ。
 なんつーか、公務に追われて私生活もなっての、だいぶ似てるよな。
 オレたちさ。」

目を細めて笑みを零す。
ゆったりと立ち上がりながら、ペットボトルをくずかごへ。

「この奥はペンギンコーナーだってさ。」

少し歩くと壁一面にガラス張りのウィンドウ。
岩山にプールにと、まるで切り取られた風景の中に、大勢のペンギンたちが暮らしている。
ざぶんと飛び込み泳ぎ回る姿は、なんとも愛らしい。

「すげー。こんなに近くで見れるんだ。」

一匹のペンギンがガラスの前まで歩いてくる。
特に何するわけでもなく、そのままぼーっと立ち尽くしている。

レイチェル > 「まー、外見はな。不衛生な奴はどうかと思うが、別にちゃんと清潔にしてる奴なら
 特に文句は言わねーよ、外見は。あぁ、一応言っとくけど人型がいいぞ、オレは」
そう言って、唇に人差し指をあてて、天井を見上げる。
常世には多くの種族が存在している。
人型をとらぬ生徒も居る。
それ故の発言だ。

似てると言われれば、そうかね、とシンプルに返すレイチェルであったが。

「うわ~、ペンギンじゃねぇか! か、可愛い!」
ペンギンを見れば、表情が一転して、ぱぁっと明るくなる。
ぱたたっとガラスの前まで走っていけば、顔を押し付けんばかりの
勢いで。近づいてきたペンギンをじっくりと近くで眺め始める。

ギルバート > 「おいおいそんながっつくなって。
 逃げちまうぞ……って、こいつ(ペンギン)も大概人慣れしてるな……。」

ペンギンはくるりくるりと時折首を回しては、細長い嘴を大きく開ける。
あくびだろうか。レイチェルの方と目が合えば、また大きく嘴を開ける。

「なんか挨拶してるみたいで面白いな。」

その姿が微笑ましくて、少年もどこか満足げ。
他の客も物珍しげに、その光景を眺めている。

レイチェル > 「ペンギンって寮で飼えねーもんかな……飼えねーよな……
 罪な生き物だよな、こんなに可愛いだなんて。
 図鑑なんかで見たことはあったが、実際に見るのは初めて見たぜ。
 やっぱり本物は可愛さが段違いだよな~」

ぞっこん惚れ込んでしまったようである。
ペンギンのつぶらな瞳をじっと見つめて、
その挨拶のような仕草に返すように、
レイチェルも満足気に微笑んだ。

彼女が仕事をしている最中には見られないなんとも緩んだ、
隙だらけの表情である。

ギルバート > 「こうして見ると普通の女の子だなーって感じ。」

しばし佇んでいたペンギンは、思い出したように振り返って水面へと飛び込んでいった。
高く舞い上がる水飛沫。ガラス越しでなければこちらもずぶ濡れになっていただろう。
近くにいた別のペンギンが、その一途を全身に浴び、呆けた様子で飛び込んだ先を見つめていた。

「あーあ。」

同情の視線を送りながら、また移動を始める。
お次はロビーに設置された"ため池"に大きな亀が飼育されているゾーンであった。
のんびり屋であろうのが伺えるほど動かない。
二人で笑いあった後、いくつかのコーナーを抜けて出口近くのみやげコーナーに入った。
お決まりのキーホルダーや銘打っただけの菓子など定番のアイテムが光る。

「あ、ペンギンコーナーもあるじゃん。
 ほら、キーホルダーとか。」

レイチェル > 「何でだよ~~っ!」
悔しそうに両手を張りつけていたガラスからずずず、と滑り落ちるように
崩折れるレイチェルであった。


「分かり合えたと思ったんだけどなー、畜生~!」
むす、とした顔で腕を組んで歩き出すレイチェル。
そんなレイチェルも亀を見ればまた笑って、
元気を取り戻したようであった。


「ぬいぐるみもあるみてーだな」
そう言って、レイチェルはペンギンのぬいぐるみを抱え上げた。
かなりの大きさだ。抱えれば、レイチェルの上半身がすっぽり
覆われて見えなくなってしまう程の。

ギルバート > 「ちょっとデカ過ぎないそれ。」

その他にもウミガメやサメなんてのもある。
デフォルメが効いているせいか、結構間抜けな表情をしていてかわいらしい。
手にとってみればなかなか愛嬌がある。ずいと顔を近づけてみれば、これはこれでいいもんだと思う。

「あ、これビーズクッションになってるんだ。
 抱き枕代わりになりそう。オレこれ買おうかな。
 レイチェルそれでいい?」

そう言うとひときわ大きなサメのクッションを抱える。
ふかふかで見事な抱き心地である。

レイチェル > 「デカ過ぎくらいがいいんだって。デカいのが好きなんだよオレは」
むっと顔を向けて、超ビッグなペンギンのぬいぐるみを再び満足そうに見て。

「おう、オレはこれでいいぜ。じゃあちょっと金払って――っと」
そう言ってすたすたと会計まで歩き出す。
が、前が見えずになかなか危なっかしいものである。