2016/06/15 のログ
ご案内:「放課後の空き教室」に六道 凛さんが現れました。
■六道 凛 > 放課後。
前回――といっても一年ほど前の話だが。
その時と、同じような。でも確かに違う、時間に。会う約束をした。
初めて会った時とはまた違う、空気。
雰囲気をまとって、”美術屋”はそこにいた。
会わなかった時間。会えなかった時間。六道凛は、何度レイチェルが誘っても会おうとしなかった。
そう、会おうと、しなかったのだ。その空白が、今の凛をかたどったのかもしれない。
「じゃあ、始めるね」
会うとき、凛から持ち出した条件。
それはレイチェルに、自分の作品を”みて”もらうこと。
キャンバスを広げて、レイチェルをモデルに。
”美術屋”は絵を、描いていく
ご案内:「放課後の空き教室」にレイチェルさんが現れました。
■レイチェル > 「ああ……」
目の前の人物が告げる言葉に、レイチェルはそう返した。
放課後の空き教室。開放的な雰囲気。
夕暮れは赤く教室を染める。夕陽は静かに、煌めいて。
光と影のコントラストが教室をしっとりと染め上げている。
絵のモデル、というのは初めての経験だ。
写真なら撮られたことがあるが、じっくりと、画家と面と向かいながら
自らの姿を写し取られる、というのは、全く未知の領域である。
ほんの少しだけ胸に残った緊張を身体から逃す為に、小さな息を吐く。
「しかし何だって、今……なんだ?」
あの事件以来、二度三度、或いはそれ以上に、彼のことを外へ連れ出そうと誘ったのだが。
彼は自分と会うことを拒んでいた。
一体何が彼をそうさせたのか。
そしてなぜ、今になって彼は自分を受け入れたのか。
それが気になって、レイチェルはまずそんな質問を投げかけた。
ずっと胸の内に秘めていた質問を。
問い詰めるような口調にならないように注意を払いながら、
レイチェルは慎重にその言葉を吐いた。
■六道 凛 >
静かに、ペンを持ち。ゆっくりとキャンバスに躍らせていく。
モデル、の緊張はいいものだ。あんまりだらけていても困る。
息を吐いた姿に、くすりと、嗤った。
どこか、前にもまして色香が増えた気がする。
「――それは作品ができてからのお楽しみだよ」
あいまいな、答えにならない答え。
それすらもスパイスになるというように。
「――そういえば、元気だった? 気持ちは楽になった? 鳴れたかな? ”ヒロイン”」
一年前からそう。
ずっと、この少年はレイチェルをそう呼ぶ。
彼女があてはめた配役を、刻むように
■レイチェル > 「あーあー、勿体振りやがって……ま、別にいいけどよ」
やれやれ、とかぶりを振り――かけて、すんでのところでやめた。
今は絵のモデルをしているのだ。あまり大きな動きをするべきではない
だろうと、レイチェルはそう考えた。
1年を経て、レイチェル・ラムレイの色香は確かに増している。
髪は更に艶やかさを増しているようにも見えるし、
その肌はより透き通るように白く、艶めかしくも映る。
顔立ちも幼さよりは、大人の魅力が少しずつ表に出てきている。
何より身体は、最早大人のそれに限りなく近い。
「元気は、元気だぜ。気持ちは……どうだろうな、そう簡単には
いかねぇさ。いつだって楽になれるような図太い精神を持って生まれたかったもんだが」
ヒロインと呼ばれ、レイチェルはかつての戦いを思い出す。
「……ヒロインか。どうだか……な。
やっぱり、オレには重すぎるようには思ってるがな、その肩書き」
ヒロインと呼ぶな、などとは言わなかった。
以前そのような言葉を投げかけた時、彼は必死にそれを否定してみせたから。
正義の味方同様、出来ることなら避けて欲しい呼び方であるのは間違いなかったが、
あの時の彼の表情を思い出したレイチェルは、出かかった否定の言葉をそっと押し込めた。
そうして少しばかりオブラートに包んで、そう言った。
■六道 凛 >
「――察しが良くて助かるよ」
動くのをやめるしぐさ。それに柔らかく、笑む。
少年のほうはといえば、”全く変わってなかった”
色白な肌、囁くとき話すときの色気。
どこか虚無を感じるまなざし。はかなげな雰囲気。
まさに、肉食なら歯を立てずにはいられない、モノがそこにあった。
性別問わずに、だ。
「――とてもきれいだね?」
お世辞ではなく、夕陽を受けて輝く姿に目を細める――
「そう、呼ぶなとか。今度は言わないんだ? 一年は、大きかった?」
遠回りの、嫌悪。だけど、こっちのことを配慮したようなそれ。
それに少し、眉が動く。ほんの、少し。
「苦悩する姿、恋する姿。喜怒哀楽、たくさんの感情が大切だから。それが、いいと思うよ」
開き直られるよりはずっと、凛好みのキャスト風景だ。
”彼女”はよくわかってると思う。凛のことを考えたわけでは、無いと思うけれど
「――ねぇ、きみは、どんな自分が見たい? どんな者が、みたい?」
■レイチェル > 「そりゃ、どーも」
きれいだね、と言われる。恥ずかしさから本当に少しだけ頬が染まるが、
それ以上表情には出さず。
淡々とではなく、かと言って感情を込め過ぎるようなこともなく。
レイチェルは少しおどけたようにそう口にした。
適度に緊張は保っているが、どうやら少々リラックスしてきたようだ。
「……あんまじろじろ見んなよ、とも言えねぇんだよな。
絵を描いてんだもんな……やれやれ、だぜ」
彼女の身体には吸血鬼の血が流れている。
吸血鬼とは―血族や氏族にもよるが―本来、その美貌で相手を魅了し、
動けなくさせた上で、吸血をする生き物だ。よって、生まれつき整った
顔立ち――少なくとも、他者を魅了するに十分なモノを持って生まれてくる。
少なくとも、レイチェルの世界ではそうであり、彼女もまたダンピールとは
いえ、例外ではない。その美の裏には、冷たい牙を備えているのである。
そういった意味では、危険な美ともいえようか。
ふぅ、と。溜息。呆れと諦め、それから一匙の恥ずかしさ。
彼の視線から逃げることの出来ないその身体に許された数少ない自由――
呼吸の調子を変えること――をレイチェルはしてみせた。
「まぁ、大きかったな。オレが此処にやって来たのは何か意味があったんじゃ
ないかって……そう思わされるくらいには、な」
様々な人物との出会いが彼女を変えた。それは間違いなかった。
殺し殺されの世界に生きてきたレイチェルにとって、この学園での生活は
大きな実りを齎している。笑って、怒って、泣いて、悲しんで。
血なまぐさい過去は消し去れないが、それでも今この時を、彼女は楽しんでいる。
それは、疑いようのない事実だった。
「どんな自分が見たい……って、難しい質問だな、それ。
なりたい自分はどんなだ……ってことか?」
内心首を傾げながら、確認するようにそう投げかける。
■六道 凛 >
美術屋は、そんな些細な変化にも、微笑む。
感情が出ているのはいい。絵にリアリティが出る。
ただの人形を描くのではなく、人を背景として描くとき。
そこには感情が乗らねばならない。
モノでは、現実感が足りない――だから、嬉しそうに”嗤った”
「見たら、不都合? もしかして、襲いたくなっちゃうとか?」
そうなったら別に襲ってもいいよと告げて。
もともと、美術屋は男娼でもあった。フェニーチェのパトロン。
再興のために、潜む蛇。舞台を整える、舞台裏。
その役割に、その役職は必要だった。だから別に構わないと付け足して。
「――あんまり、ボクのほうからは、経験ないからさ?」
くすくすと、ほほえみ。唇を舌で濡らす。
おいしそうな、唇の赤と、首筋の白が。オレンジ色で上塗りされていく。
「それでもいいし、自分の隠してるものを再確認したいでもいいよ。ただ、同意してないと見れないけれど」
ふと、ペンを止めて。どうする? と首を傾げた