2016/06/16 のログ
■レイチェル > 「……まぁ、そういう場合も人によっちゃあるな。
しかし、襲ってもいいよ、じゃねぇよ……ったく。
お前が良くてもオレは良くねーの。今そういう気分じゃねーし、
力《精気》は足りてるしさ……」
むす、と。少し不機嫌そうにそう返すレイチェル。頬はほんのり赤く。
目の前の彼も、かなり魅惑的な容姿をしている。
何とはなしに会話相手から視線を別の所へやりながら、レイチェルはそう口にした。
「隠してるもんは……別に、見たかねぇな。なりたい自分、なら。
そいつは少し見てみてぇな。いつか師匠みたいに、強い狩人に
なりてぇと思ってるんだ、オレは。そう、何があっても折れたり
しない、強い強い狩人にな……」
少しばかり長い沈黙の後、彼女はそう返した。
■六道 凛 >
「――なぁんだ。抱かれてもいいって思うときはそう多くないのに。キミみたいなかっこよくて綺麗な女の子とボク。わりとつり合いとれてそうじゃない? あんま、目、動かさないでね」
なんて、モデルの動きを制限する。
羞恥プレイに、拘束プレイ。いろいろ、辱める寸法が整えられている気もしなくはない。
「そう? じゃあ、本心なら。どうぞ――? 願って、見たいものを。思い浮かべて、ボクもそれを見たいから。それを書きたいから――相互同意。強制発動――」
くすりと、嗤えば。魔術は、なる。
そう、人間は、傑作ゆえに……
筆の速度が上がる。
今の気持ちに正直な、今みたい彼女が、キャンバスに――
■レイチェル > 「何だよその、いかにもチャンス逃した感出して。
あー、目も動かしちゃダメね、分かったぜ、と」
やれやれ、付き合っていると何処までも飲み込まれそうだ、と。
レイチェルは適当に返事をしながら、大人しく言われた通り視線を戻す。
モデルとは不自由なものだと、改めて感じるレイチェルであった。
「嘘言ってもしょうがねーだろうよ……」
思い描く。自分の、将来の姿。
強い意志を持った瞳で、前を見据える自分の姿。
今より少し大人びている、その姿。
道を選ぶのにも迷わず、もし選んだ道が間違っていたとしても
悔いることなく。ただただ、強い心を持った自分の姿を。
強い強い、憧憬だ。憧れの感情だ。いつかたどり着きたいと願う、
その到達点。そこは、彼女の師匠が立っていたであろう場所で――。
■六道 凛 > 筆は踊る踊る。
たとえそれが二次創作だろうと、描いてほしいと願った――描こうと願った。
相互の”見たい”という欲がつながり現実に映し出す魔術。
かつて五代との戦いで演じたようにどんな規模でも再現して見せる。
今回は、キャンバス、だけに投影されるその姿は。
その憧れを、映し出す。映す――写す、ウツス――
現にす――……
「はい、完成」
キャンバスに描かれた絵は。まさしく理想の到達点――
と、言えるであろう。ほほえむ、女性。
大人びて、前を見て。目を細める、ダンピール――……
だけではなかった。
絵を見た瞬間伝わる、弱さ。葛藤、関係、慈しみ、悲しみ。
喜び、怒り――踏破してきた時間を映し出す。
それが、じっとりとないまぜになって襲ってくる。
”魅せにくる、あまりにリアリティある絵”
オカルトともとれる、あまりに生々しく、それを追体験させる絵は――
”彼女”の背景すら――
■レイチェル > 「……早いな」
一度止まった筆は、レイチェルが夢を思い描くと同時にみるみる進み。
あっという間に完成してしまった。
その絵を見て、思わず息を呑む。
成程、目の前に居るのはやはり天才とも言うべき腕を持つ人物だ。
ただ、綺麗だったり、美しかったり。それだけであれば、そこらの
凡人にだって描くことは可能だ。
だが、この絵は違った。決定的に違った。
自身がこれまで経験してきた数多くの葛藤や怒り、悲しみが、
渦を巻くように胸中を染めていくような心地がした。
いや違う、『経験してきた』ではない。それよりずっとずっと多くの。
これから経験することになるだろうそれらが、まるで嵐のように心の
中を過ぎ去っていった。
「……こいつぁ」
まるで魔術だな、いや魔術そのものか、と口にしながら。
その絵をまじまじと見つめるレイチェル。
■六道 凛 > そこに本人がいるほどに。
フェニーチェに求められていた、背景。
現実味、リアリティ。現実よりも、より現実な演劇を。
死を求めた。なぜ? それは死があったほうがより、現実味が増す。
患った、人を求めた。なぜ? それはそのほうが悲壮感にリアリティがある。
役ではなく、本物を役者に配置した。狂劇も、喜劇も、悲劇も。
ならば、美術もまたそうでなくてはいけない。
そうでなければ、そこにいられない。
そう、思い出した。自分は――
六道凛、じゃない。”美術屋”だ。そして――
シュージンだ
「――さて……ご感想は?」
ぞっとするような、問い。
それを聞くために、ここに連れてきたのだと。
こうしてわざわざ、二人の時間に――
笑みは、かつて”凛”という名にうろたえる姿でも。
落ち着き、学園を楽しむ姿でも。
放っておかれて、そのままさまよう少年でも。
不死鳥の一ファンでも、観客でも、ない――
「ねぇ、レイチェル・ラムレイ」
――ボクノビジュツハ、リアルカイ?
少女が絵から、はっと顔を上げればそこには――
■レイチェル > ぞっとするような問い。
問われた者が者であれば、竦んでしまうだろう。
その問いはただの言葉というには、あまりにも重く恐ろしいものを含んでいた。
「あぁ――」
あまりにも、あまりにも現実的。生きているかのように目に映る。
気を抜けば、絵の中に取り込まれてしまうのではないかと感じさせる程に。
美術《マジック》の極み。
狂いも、喜びも、悲しみも。
全部含めた。
美術。美術。純粋な、美術。
純粋な――?
「この絵は――」
顔を上げる。
前を見据える。絵とは違う。完璧ではない。
未だ心許ないが、それでもしっかりと。
「リアルだ。とても、とてもな。飲み込まれそうなくらいだ。
ここまでの絵を、オレは見たことがねぇ。芸術には疎いが、
それでも惹きこまれた、正直言うとな――」
一つ肯定の言葉を、目の前の彼に投げかける。
真剣な眼差しで。
■六道 凛 >
「そう、なら大丈夫」
くすりと嗤った。ダンっと、地面を足で踏む。
美術屋は、結局美術屋だった。そういうこと。
でも――?
それでは、凛は。どこにいったのだろうか?
悩みもがき、苦しんでいて。
二人のデートを楽しみ、少し困ったように。少し戸惑ったように笑っていたあの少年は。
一日の幻だった……?
「ボクは、美術屋だ」
告げる。その言葉――
レイチェルは理解する。きっと。
そのための、今日なのだと。それでも君は――凛がいいと思う? と。
いろいろ教えてくれる。そう告げた女性。
その女性に今を魅せて、見せて――
「……これからも、よろしく、するかい? ”ヒロイン”」
くすりと、嗤った。何度目かの――
そして謡う――
「――Come, woo me, woo me, for now I am in a holiday humour, and like enough to consent.」
いつもの誘い文句。でも目の前の女性にはいつもと違く……
■レイチェル > 「ああ、お前は美術屋だ。
お前の創りだす美術は、すげぇよ。凡人じゃ真似出来ねぇ。
お前は美術に生き、美術に死んでいくのかもしれねぇ。
そんなこと、なかなか出来ることじゃねぇ。
そんなお前を、オレは羨ましくさえ思う。
道を貫いている、という点ではな。オレの前を、
お前は歩いてるのかもしれねぇ」
参った、とばかりにかぶりを振って。
レイチェルは肩を竦めてみせた。
彼が美術屋を名乗るのを聞いて、それを肯定する。
「……けどよ。何かを貫く為に、それ以外の全てを捨てるこたねぇよ」
その言葉は、静かに。
その真剣な眼差しと共に、目の前の『シュージン』に向けて投げ放つ。
「確かに、何かを貫くことは凄ぇことだ。なかなか出来るものじゃねぇ。
でもよ、その何かを貫く為に全部全部捨てちまったら、後に残るのは
――人間じゃねぇよ、そりゃ、バケモンだ」
目の前の彼に対し、レイチェルは容赦なく棘のある言葉を放つ。
お前が今進もうとしてるのは、化け物になる道であると。
「でも、お前は人間だ。紛うことなき人間、なんだよ。
安心しろ。オレはお前のことを、これでもちょっとは知ってるんだぜ」
そう言ってレイチェルは一歩、歩み寄る。
「前に一緒に遊びに行った時があっただろ。思い出せよ、あの時のことを。
お前には、美術しか無い訳じゃねぇ。他にも、色んな良い物を持ってる。
あの時の笑顔は――今お前がオレに向けてるような、そんな冷たい笑顔
じゃなかったよ。温もりがあった。人間の温もりだ。
六道凛という、人間の顔だった。
美術に囚われるんじゃねぇよ、『六道 凛』。
外の世界はもっと広いぜ」
誘い文句を歌う『シュージン』を前に、レイチェルは2歩、3歩と
歩み寄っていく。確かな意志を持った足取りで。
『ヒロイン』という呼びかけに、今度はしっかりとかぶりを振る。
演劇に加わる気はない。今、現実の世界で、レイチェルは彼と向き合っているのだから。
「そんな狭い牢に入ってねぇでさ……」
す、と。手を差し出す――。
■六道 凛 >
今日初めて、表情がゆがむ。
ヒロインなのに、化け物を救おうとしてる?
自分はフェニーチェだ。死にたくないと願ってしまった獣だ。
そう、屋上で出会った人狼のように。
獣なら化け物として、そのまま討伐してくれればいいのに、このヒロインはあまつさえ、救おうとしてくる。
あぁ、そうか。描いたのは失敗だった。なぜそうしようとしてくるか分かってしまう。
なぜなら描いたのは、詰めたのは。現にしたのは自分だ。
「それがキミのヒロイン像?」
憎々しげにつぶやく。けど、なんていらなかった。
人間。特等席に座る人間だと、告げた少女を――睨む。
写る、顔に刺青。いくつもの傷として残った、模様。
黒い黒い、傷跡。残してくれた依存の証。
「六道凛なんて、知らないよ。マヤカシじゃないの……?
あんな、”終幕も見られなかった観客”なんて価値のない」
誘いにも、乗ってこない。
一年、自分は自分を取り戻すのに時間を有したのに。
それを軽々と越えていく。やっぱりあの人たちは天才なんだと、思い知る。
「いいんだよ、狭い牢屋で。もう、これ以上、不滅の炎を穢したくないんだ」
差し出された掌を、しっしと追い払うような手のしぐさ。
「……今日はもう終わり。気分悪くなってきた」
さっきまでは最高潮だったのに――とつぶやいて
■レイチェル > 目の前の彼の表情が歪む。
そんなことは分かりきっていた。
それでも、言葉をかけねば気が済まなかった。
彼を説得するにしたって、もっとゆっくりと。
一歩一歩支えるようにやって行くことだって出来るのに。
それでも、レイチェルは溢れんばかりの気持ちを、抑えられなかったのだ。
「マヤカシ? 価値がない?
ふざけたこと言ってんじゃねぇぞ……!」
表情を歪めた彼に対して、レイチェルは『今日初めて』声を荒げた。
「オレはお前の美術を認めてる。お前の才能も認めてる。
けど、それ以上に、『それ以上に』だ。
お前を、『六道 凛』という人間を、人間だと信じてる……!」
ここまで声を荒げて。
次第に声を鎮めるレイチェル。
「お前の価値は美術だけじゃねぇ筈だ。そいつを、どうか忘れないでくれ。
オレはお前を信じてる。お前も、オレを……いや、お前自身を信じてくれ
……それだけだ」
拒否された手をしまい、レイチェルはそう口にして、目の前の彼の瞳を
じっと見つめた。これ以上ないくらいの、真剣な眼差しで。
■六道 凛 >
失望――
それはキャスティングに失敗した監督のような表情。
あぁ、ほら。彼女のようにうまくいかない。
うまくうまくうまくうまくうまくうまくっ!!!!!
だんっと、地面を。踏んだ。
「リアリティのある劇にならないのならダメなんだよ。ヒロイン」
そんな人間は――
キャスティングしてない
「信じるって、何をさ。今、ぼろぼろにぶち壊してくれたくせに」
恨みがましく告げて。でも、歯車は回る。
また学園生活は始まる。
「――また明日。レイチェル・ラムレイ」
台本は破られた。だから、役はもうおしまい。
初めて、名前を呼んで。『 』は、歩き出した。
ふらふらと――
ご案内:「放課後の空き教室」から六道 凛さんが去りました。
■レイチェル > 「そりゃそうだ。
ぶち壊すのが――オレの役割《キャスティング》さ。最初っからな」
さも当然と言わんばかりに、レイチェルはそう口にする。
彼の顔から読み取れる。
手に取るように分かる失望。
そういった表情を真正面から受け止めながら、レイチェルは語を継いだ。
「ああ。また明日な――六道 凛」
言い過ぎたか、と。
残されたレイチェルは頬を掻く。
どうしたら良いものか。
いや。そんなことは、もう決まっている。
頼まれたのだ。
あいつがこの世界で、ちゃんと生きていけるように。
その手助けをしろと。
自分は全力で、挑んでいくだけだ。
互いに辛いこともあるだろう。しかし、避けて通れぬ道だ。
仕事でやっているつもりだった。
それでも関わっていく中で、仕事だけではない、もっと別の気持ちが
彼女の内に芽生えつつあった。
ただ純粋に、あいつを救い出してやりたい、と。
迷惑に思われても良い。恨まれても良い。
それでも、いつの日かあいつを牢から――。
「やれやれ、こいつぁ大変な役回りだ……な」
クロークを翻し、レイチェルも教室を去っていった。
ご案内:「放課後の空き教室」からレイチェルさんが去りました。